特許第6198217号(P6198217)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6198217
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】楽器用ピックアップ装置
(51)【国際特許分類】
   G10H 3/18 20060101AFI20170911BHJP
   G10D 1/02 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   G10H3/18 C
   G10D1/02
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-514924(P2017-514924)
(86)(22)【出願日】2016年12月7日
(86)【国際出願番号】JP2016086381
【審査請求日】2017年4月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-242993(P2015-242993)
(32)【優先日】2015年12月14日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508223354
【氏名又は名称】阿部 善武
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100123319
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100175190
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 裕明
(72)【発明者】
【氏名】阿部 善武
【審査官】 大野 弘
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭53−079004(JP,U)
【文献】 実開昭53−147667(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 3/18
G10D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽器に固定される楽器用ピックアップ装置であって、
円板状の圧電素子と、
前記圧電素子を間に挟む一対の円形部材と、
前記一対の円形部材のうち何れか一方の円形部材の表面に配置される脚部と、を備え、
前記各円形部材は、他方の円形部材へ向かって突出形成される突起を、前記他方の円形部材と向かい合う対向面の縁沿いの2箇所に各々有し、
前記圧電素子は、前記突起によって前記一対の円形部材の間に形成される空隙内において、前記各円形部材が各々有する前記突起に挟まれた状態で支持される、
楽器用ピックアップ装置。
【請求項2】
前記圧電素子は、円形の下部電極層と、前記下部電極層よりも小径な圧電材料層と、前記圧電材料層の上に成膜される上部電極層と、を有しており、前記下部電極層が前記突起に接する状態で前記一対の円形部材の間に挟まれる、
請求項1に記載の楽器用ピックアップ装置。
【請求項3】
前記脚部は、前記何れか一方の円形部材の表面の縁沿いの3箇所に均等に配置される革材によって形成される、
請求項1または2に記載の楽器用ピックアップ装置。
【請求項4】
前記各突起は、前記各円形部材の中心点を挟んで対称に配置されている、
請求項1から3の何れか一項に記載の楽器用ピックアップ装置。
【請求項5】
前記楽器は、fホールを有する弦楽器であり、
前記楽器用ピックアップ装置は、前記fホールの縁にクランプで固定される、
請求項1から4の何れか一項に記載の楽器用ピックアップ装置。
【請求項6】
前記クランプは、前記円形部材に接触するネジ以外の部材が木材で形成されている、
請求項5に記載の楽器用ピックアップ装置。
【請求項7】
前記円形部材は、木材で形成されている、
請求項1から6の何れか一項に記載の楽器用ピックアップ装置。
【請求項8】
前記木材は、何れもスプルスである、
請求項6または7に記載の楽器用ピックアップ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コントラバスを中心とするアコースティック系の弦楽器や、ピアノその他各種の楽器の音を電気信号へ変換する楽器用ピックアップ(以下、単に「ピックアップ」という)のうち、圧電素子(「ピエゾ素子」と呼ばれる場合もある)を用いるものに関する。
【背景技術】
【0002】
楽器の音を電気信号へ変換する装置としては、各種のものが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−075564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、コントラバスのような低音の弦楽器を演奏する際、こもりがちな「低音」を聴者に対して明瞭且つ十分に提供することは容易でない。特に、コントラバスと他の楽器、中でも電気的に音を拾うことを特徴とするエレキギターやその他各種の電気楽器との合奏時には、両者の音量のバランスを整え、コントラバスの音を十分に響かせることが容易でない。
【0005】
この問題を解決するには、コントラバスのような低音の弦楽器の音についても、これを電気信号に変換して増幅させてやればよい。コントラバスの音を電気信号に変換する手法としては、例えば、コントラバスの胴体(ボディ)のfホール(f字穴:サウンドホール)近くにマイクを立てて集音する方法もある。しかし、コントラバスの胴体のfホール近くにマイクを立てて集音する場合、演奏者がコントラバスを自在に動かすことができない。そこで、演奏者からは、自在性の観点により、コントラバスの胴体にマイクを直接取り付ける手法が好まれる傾向にある。
【0006】
ところで、音を電気信号へ変換する装置としては、例えば、ダイナミック型のコンタクトマイクがあるが、一般的に大型で価格も高いといった問題があり、近年は圧電素子が多用されている。そして、圧電素子を用いた弦楽器のピックアップ装置としては、当該ピックアップ装置の取付位置に関して下記のように各種の方式のものが提案されている。
(1)弦楽器の駒にある「駒又」(駒脚と駒脚との間の逆U字型の空間)に渡した保持部材にピックアップ装置を設け、当該ピックアップ装置で取り出した電気信号を増幅させるもの。
(2)駒に圧電素子を直接貼付けるもの。
(3)駒の「ブリッジウイング」の隙間に圧電素子を嵌合させるもの。
(4)駒に乗っている弦の直ぐ近くに、クリップなどを用いて圧電素子を駒に挟み置くもの。
(5)駒の装飾部に圧電素子を挟んで保持するもの。
(6)駒に開けた孔に圧電素子を埋め込むもの(4弦楽器の場合、孔の数は1、2又は4のように任意である)。
(7)駒の高さを調整する「駒アジャスター」に圧電素子を組み込んでしまうもの。
【0007】
しかし、弦楽器の駒に圧電素子を当てて設置するものは、それぞれに利点があるものの、主として「弦」の音だけを拾うことになりやすく、十分な音圧を得ることができない。演奏者の好みにもよるが、心地よい音質にならない場合も多い。そこで別の手段として、例えば、弦楽器の胴体の表板に圧電素子を当てて設置する下記のようなものが提案されている。
(A)駒と表板との間(駒脚と表板の間)に圧電素子を挟み込むもの。
(B)粘性の低い粘着材を用いて、表板に圧電素子を直接貼るもの。
【0008】
ところが、前記(A)の場合、理由は明らかでないが、音に芯の無い不十分な電気信号しか得られない。また、前記(B)の方法によるときでも、金属片によって形成される圧電素子を表板に直接貼り付けるので楽器本体に傷がつくこともあるし、楽器に貼り付けられた圧電素子が露出しているから見栄えが良くない。また、圧電素子を表板に「貼った」だけのものは、ギターやチェロのようにコントラバスより高音の楽器ではさほど支障が無いものの、コントラバスのような低音の楽器に用いると音に芯がないことが経験的に判っている。
【0009】
そこで、マグネットの磁力で弦楽器の表板に圧電素子を取り付ける手法も提案されているが、マグネットの重量が表板の振動を抑制し、特にコントラバスのような低音で振幅の大きい音の場合には生音と異なる形で電気信号へ変換される場合があった。
【0010】
そこで、本願は、圧電素子によって得られる楽器の音を可及的に向上させる楽器用ピックアップ装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明では、楽器にピックアップ装置を固定するようにし、当該ピックアップ装置については、一対の円形部材に各々設けた突起で圧電素子を挟むように形成し、更に、何れか一方の円形部材については表面に脚部を設けることにした。
【0012】
詳細には、本発明は、楽器に固定される楽器用ピックアップ装置であって、円板状の圧電素子と、圧電素子を間に挟む一対の円形部材と、一対の円形部材のうち何れか一方の円形部材の表面に配置される脚部と、を備え、各円形部材は、他方の円形部材へ向かって突出形成される突起を、他方の円形部材と向かい合う対向面の縁沿いの2箇所に各々有し、圧電素子は、突起によって一対の円形部材の間に形成される空隙内において、各円形部材が各々有する突起に挟まれた状態で支持される。
【0013】
上記の楽器用ピックアップ装置であれば、一対の円形部材の間に挟まれた状態の圧電素子が楽器に固定される。楽器に固定された圧電素子は、楽器の演奏時に円形部材と共に振動する。そして、上記の楽器用ピックアップ装置においては、一対の円形部材のうち互いに向かい合う対向面の縁沿いの2箇所に設けられた突起に圧電素子が挟まれており、圧電素子が2点で支持された状態になっているため、圧電素子全体が振動する。圧電素子全体が振動することにより、圧電素子にある2つの電極間の圧電材料層が全体的に力を受ける。これにより、圧電素子が局部的に振動を受ける場合よりも良好に音を電気信号へ変換することができる。
【0014】
なお、圧電素子は、円形の下部電極層と、下部電極層よりも小径な圧電材料層と、圧電材料層の上に成膜される上部電極層と、を有しており、下部電極層が突起に接する状態で一対の円形部材の間に挟まれるものであってもよい。このように構成される圧電素子を用いれば、圧電材料層と上部電極層が形成されている領域が突起に触れないので、圧電材料層が全体的に力を受けることができる。
【0015】
また、脚部は、何れか一方の円形部材の表面の縁沿いの3箇所に略均等に配置される革材によって形成されていてもよい。圧電素子を間に挟んだ円形部材がこのような脚部で楽器に支持されれば、楽器用ピックアップ装置を安定的に楽器へ固定することができ、楽器に傷をつける虞も無い。
【0016】
また、各突起は、各円形部材の中心点を挟んで対称に配置されていてもよい。各突起が各円形部材の中心点を挟んで対称に配置されていれば、圧電素子が全体的に撓むように両端部から揺さぶられる。この結果、圧電素子が局部的に振動を受けることなく良好に音を電気信号へ変換することができる。
【0017】
また、楽器は、fホールを有する弦楽器であり、上記の楽器用ピックアップ装置は、fホールの縁にクランプで固定されるものであってもよい。fホールは弦楽器の表板に形成されているため、楽器用ピックアップ装置がfホールの縁に固定されれれば、弦楽器の演奏時に圧電素子が円形部材と共に振動し、弦楽器の音を電気信号へ変換することができる。
【0018】
また、クランプは、円形部材に接触するネジ以外の部材が木材で形成されていてもよい。クランプのほとんどが木材で形成されていれば、クランプの質量によって弦楽器の表板の振動が抑制されにくく、また、クランプを通じて圧電素子へ伝わる音がクランプの質量で抑制されにくいので、弦楽器の表板の振動を圧電素子へ良好に伝達させることができる。
【0019】
また、円形部材は、木材で形成されていてもよい。円形部材が木材で形成されていれば、円形部材の質量によって楽器の振動が抑制されにくく、また、圧電素子へ伝わる音が円形部材の質量で抑制されにくいので、楽器の振動を圧電素子へ良好に伝達させることができる。
【0020】
また、木材は、何れもスプルスであってもよい。スプルスは振動の伝達に適度な硬度を有しており且つ質量も軽いため、楽器用ピックアップ装置の各部を構成する木材がスプルスであれば、楽器の振動を圧電素子へ適正に伝達させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、圧電素子によって得られる楽器の音が可及的に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、弦楽器用ピックアップ装置の一例を示した図である。
図2図2は、ピックアップ装置の取付状態の一例を示した図である。
図3図3は、ピックアップ装置本体の外観図である。
図4図4は、ピックアップ装置本体の分解図である。
図5図5は、クランプの拡大図である。
図6図6は、コントラバスの胴体の表板に固定された状態のピックアップ装置を示した図である。
図7図7は、コントラバスの胴体の表板に固定された状態のピックアップ装置の構造を示した図である。
図8図8は、実施形態のピックアップ装置と比較例のピックアップ装置との比較結果を示した図である。
図9図9は、上記実施形態のピックアップ装置1の第1変形例を示した図である。
図10図10は、弦楽器の胴体の内部に固定された第1変形例のピックアップ装置を示した図である。
図11図11は、上記実施形態のピックアップ装置1の第2変形例を示した図である。
図12図12は、ピアノに固定された第2変形例のピックアップ装置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する実施の形態は例示であり、本発明を以下に説明する具体的構成に限定するものではない。実施にあたっては、実施の形態に応じた具体的構成を適宜採用することができる。
【0024】
図1は、楽器用ピックアップ装置(以下、単に「ピックアップ装置」という)の一例を示した図である。ピックアップ装置1は、図1に示されるように、ピックアップ装置本体10を備える。ピックアップ装置本体10は、弦楽器のfホールの縁にクランプ20で固定可能な装置であり、弦楽器の音を電気信号へ変換することができる。ピックアップ装置本体10には、同軸ケーブル11が設けられており、同軸ケーブル11に接続されるアンプ等へ電気信号を出力する。
【0025】
図2は、ピックアップ装置1の取付状態の一例を示した図である。ピックアップ装置1は、例えば、図2に示されるように、弦楽器の一種であるコントラバス101のfホール102の縁にピックアップ装置本体10をクランプ20で固定することにより、コントラバス101の音を電気信号へ変換することができる。
【0026】
図3は、ピックアップ装置本体10の外観図である。また、図4は、ピックアップ装置本体10の分解図である。ピックアップ装置本体10は、図3図4に示すように、円板状の圧電素子12と、圧電素子12を間に挟む一対の円形木材(本願でいう「円形部材」の一例である)13U,13Bと、一対の円形木材13U,13Bのうち何れか一方の円形木材である円形木材13Bの表面(下面)に配置される3つの革材14k,14k,14kによって形成される脚部14と、を備える。3つの革材14k,14k,14kは、円形木材13Bの表面の縁沿いの3箇所に略均等に配置されている。なお、本実施形態のピックアップ装置1は、円形木材13U,13Bを木材以外の素材で形成してもよいし、脚部14を革材以外の素材(例えば、木材)で形成してもよい。
【0027】
円形木材13U,13Bは、円形の圧電素子12と略同一の外径を有する円形の木材である。円形木材13Uは、他方の円形木材である円形木材13Bへ向かって突出形成される突起13tUを、円形木材13Bと向かい合う対向面13mUの縁沿いの2箇所に有している。円形木材13Bも円形木材13Uと同様、他方の円形木材である円形木材13Uへ向かって突出形成される突起13tBを、円形木材13Uと向かい合う対向面13mBの縁沿いの2箇所に有している。2つの突起13tU,13tUは、円形木材13Uの中心点を挟んで対称に配置されている。突起13tB,13tBも突起13tU,13tUと同様、円形木材13Bの中心点を挟んで対称に配置されている。
【0028】
圧電素子12は、円形の下部電極層12kと、下部電極層12kよりも小径な圧電材料層12mと、圧電材料層12mの上に成膜される上部電極層12jと、を有している。圧電素子12は、下部電極層12kが円形木材13Uの突起13tUおよび円形木材13Bの突起13tBに接する状態で一対の円形木材13U,13Bの間に挟まれる。下部電極層12kおよび上部電極層12jは、何れも導電性の材料によって形成される電極である。圧電材料層12mは、圧電体である圧電材料層12mに加わった音の圧力で、下部電極層12kと上部電極層12jとの間の電圧を変化させる圧電体であり、例えば、セラミック等によって形成される層である。圧電素子12は、突起13tU,13tBによって一対の円形木材13U,13Bの間に形成される空隙15内において、円形木材13Uが有する2つの突起13tU,13tUと、円形木材13Bが有する2つの突起13tB,13tBとによって挟まれた状態で支持される。圧電素子12は、下部電極層12kの外縁部分で突起13tU,13tU,13tB,13tBに接している。圧電素子12は、突起13tU,13tU,13tB,13tBが接する部分で下部電極層12kに接着されている。圧電素子12は、下部電極層12kが同軸ケーブル11の外側導体11sにはんだ付けされており、上部電極層12jが同軸ケーブル11の内側導体11uにはんだ付けされている。
【0029】
図5は、クランプ20の拡大図である。クランプ20は、図5に示すように、円形木材13Uに接触するネジ22、及びクランプ本体21を備える。クランプ本体21は、ネジ22の長手方向に沿って延在する腕部21uと、腕部21uの一端から側方へ延在してネジ22が螺合される被螺合部21rと、腕部21uの他端から側方へ延在して弦楽器に当接される被当接部21tとを有しており、コの字状の形態を呈している。被当接部21tには、弦楽器に点接触するための膨らみ21fが設けられている。また、ネジ22の先端も、円形木材13Uに点接触するために丸み22mが設けられている。膨らみ21fは、被当接部21tを形成する木材で一体形成されていてもよいし、或いは、被当接部21tを形成する木材に貼り付けた革材で形成することにより、弦楽器の表板の裏側を傷つけにくいようにしてもよい。
【0030】
なお、円形木材13U,13Bとクランプ本体21は、何れもマツ科の常緑高木の一種であるスプルス(「スプルース」と呼ばれる場合もある)で形成されている。一方、ネジ22は、螺旋状の形態を金型で容易に形成できる樹脂等の素材で形成されている。ピックアップ装置1は、このようにほぼ全体が木製の素材で形成されており、また、ピックアップ装置本体10を弦楽器の表面で3点支持する脚部14については木製の素材と同等に軽量で且つ柔らかい革が用いられることで、全体的に低質量となっている。
【0031】
図6は、コントラバス101の胴体の表板103に固定された状態のピックアップ装置1を示した図である。ピックアップ装置1は、ピックアップ装置本体10をクランプ20で弦楽器の胴体の表板に固定する取付構造を採用している。すなわち、ピックアップ装置1は、弦楽器の胴体の表板以外の部材には取り付いていない。よって、例えば、ピックアップ装置1をコントラバス101の胴体の表板103に固定したコントラバス101で演奏を行うと、ピックアップ装置1は、コントラバス101の胴体の表板103と共に振動することになる。そして、ピックアップ装置1は、ほぼ全体が木製の素材で形成されていて全体的に低質量となっているため、コントラバス101の胴体の表板103の振動をほとんど抑制しない。このため、ピックアップ装置1では、次のような挙動が実現される。
【0032】
図7は、コントラバス101の胴体の表板103に固定された状態のピックアップ装置1の構造を示した図である。ピックアップ装置本体10は、クランプ20で表板103に固定されている。この場合、コントラバス101の胴体の表板103が演奏によって振動すると、表板103の振動は、クランプ20の被当接部21tにある膨らみ21fからクランプ本体21とネジ22を経由して円形木材13Uへ伝達される第1の伝達経路と、脚部14を経由して円形木材13Bへ伝達される第2の伝達経路の2つの経路を並行に伝ってピックアップ装置本体10に伝達される。そして、ピックアップ装置本体10の円形木材13U,13Bが振動する。ピックアップ装置1が全体的に軽量で低質量なため、ピックアップ装置本体10の円形木材13U,13Bは、概ねコントラバス101の胴体の表板103と同じように振動すると推察される。ピックアップ装置本体10の円形木材13U,13Bが振動すると、円形木材13U,13Bに挟まれている圧電素子12が円形木材13U,13Bの動きに追従して振動する。しかし、圧電素子12は、突起13tU,13tU,13tB,13tBに接しており、下部電極層12kの外縁部分の2箇所で支持された状態となっているため、円形木材13U,13Bが振動すると、圧電素子12全体が撓むようにして両端部から揺さぶられる。すなわち、圧電素子12に加わる振動が圧電材料層12mへ局部的に伝わるのではなく、圧電材料層12m全体へ伝わる。また、圧電素子12は、外縁部分の2箇所で支持されているだけなので、圧電素子12自体がある程度自由に振動できる。このため、円形木材13U,13Bからの振動を受けて撓む圧電素子12では、下部電極層12kと上部電極層12jとの間にある圧電素子12全体が圧力を受け、特に低音で振幅の大きい音を良好に電気信号へ変換することができる。
【0033】
なお、本願発明の発明者がピックアップ装置1を幾つか試作して行った実験によれば、ピックアップ装置本体10は、上述した2つの伝達経路のうち、脚部14を経由する第2の伝達経路からの振動の方が、クランプ20を経由する第1の伝達経路からの振動よりも支配的であることが確認されている。
【0034】
また、本願発明の発明者が上記ピックアップ装置1以外のバリエーションについて試作した試作機を使って行った実験によれば、圧電素子12が突起13tU,13tU,13tB,13tB以外の突起により3点以上で支持される場合、圧電素子12の自由な振動が妨げられて低音域が不足し、且つ、アコースティックな響きが無くなることが確認されている。これは、コントラバスのような低音の弦楽器のみならず、他の弦楽器についても同様なことが確認されている。
【0035】
図8は、上記実施形態のピックアップ装置1(以下、「実施例」という)と比較例のピックアップ装置との比較結果を示した図である。図8に示す4つのグラフは、何れも、コントラバスに取り付けたピックアップ装置で得た音声信号を周波数領域で表わした線と、コントラバスの付近に置いたマイクロホン(AKG社のコンデンサマイクロホン「AKG414」)で得た音声信号を周波数領域で表わした線の2つの線を描画したものである。コントラバスの付近に置いたマイクロホンは、コントラバスから発せられる音を、空気を介して拾うものであるため、当該マイクロホンで得られる音声信号は生音に近いと推察される。そこで、本比較においては、マイクロホンで得られる音声信号の波形を基準に、実施例や比較例のピックアップ装置の性能を評価している。図8(A)は、実施例の波形とマイクロホンの波形を示している。また、図8(B)は、駒の最も弦に近い上部に圧電素子を配置するタイプのピックアップ装置(以下、「比較例1」という)の波形とマイクロホンの波形を示している。また、図8(C)は、駒足と表板の間に圧電素子を挟むタイプのピックアップ装置(以下、「比較例2」という)の波形とマイクロホンの波形を示している。また、図8(D)は、駒の隙間にコンタクトコンデンサマイクを配置するタイプのピックアップ装置(以下、「比較例3」という)の波形とマイクロホンの波形を示している。なお、図8では、各波形が4つのグラフ(図8(A)〜(D))に分けて図示されているが、各波形は何れも同時に録音されたものである。よって、図8(A)〜(D)に各々描画されている「AKG414」の各波形は、何れも同じ形になっている。
【0036】
図8(A)に示されるように、実施例は生音とほぼ同様の音声信号を得られることが分かる。一方、比較例1−3は、何れも生音からやや離れた音声信号を得られることが分かる。例えば、比較例1は、低音の領域では生音に近いものの、中高音域では生音よりも大きい音が得られる傾向にあり、実際に耳で聞いても高音のシャリシャリ、ギャンギャンしたような音でアコースティック感が無い。また、例えば、比較例2は、低音の領域では生音に近いものの、中高音域では生音よりも小さい音が得られる傾向にあり、また、実際に耳で聞くと、中高音域に特有の鼻にかかったような圧電素子特有の不快な音が感じられる傾向にある。また、例えば、比較例3は、中高音域では生音に近いものの、低音域では生音よりも大きい音が得られる傾向にあり、また、実際に耳で聞くと、低音域の音が目立って音の立ち上がりがはっきりしない傾向にある。
【0037】
以上の比較結果から判るように、上記実施形態のピックアップ装置1は、上記比較例1−3の何れよりも生音に近い音声信号を得られることが判る。
【0038】
なお、上記実施形態のピックアップ装置1は、以下のように変形してもよい。
【0039】
上記実施形態のピックアップ装置1には、3つの革材14k,14k,14kによって形成される脚部14が備わっていたが、ピックアップ装置1は、例えば、2つの革材あるいは4つ以上の革材あるいはその他の素材によって形成される脚部を備えるものであってもよい。
【0040】
また、上記実施形態のピックアップ装置1では、下部電極層12kよりも小径な上部電極層12jが脚部14の方へ向いた状態で圧電素子12が円形木材13U,13Bの間に挟まれていたが、圧電素子12は、反対向きの状態で円形木材13U,13Bの間に挟まれていてもよい。
【0041】
また、上記実施形態のピックアップ装置1は、クランプ20を使わないで楽器に固定することもできる。
【0042】
図9は、上記実施形態のピックアップ装置1の第1変形例を示した図である。第1変形例のピックアップ装置1Aは、ピックアップ装置本体10の円形木材13Uにストッパ30Aが備わっている。ストッパ30Aは、円形木材13Uの表面から突出形成される雄ネジ30A1と、雄ネジ30A1に螺合される柱状の木片30A2とを有する。ストッパ30Aは、木片30A2をピックアップ装置本体10に対して相対的に回転させると伸縮する。よって、第1変形例のピックアップ装置1Aは、例えば、弦楽器の胴体の内部に固定することができる。
【0043】
図10は、弦楽器の胴体の内部に固定された第1変形例のピックアップ装置1Aを示した図である。第1変形例のピックアップ装置1Aは、例えば、ギターやコントラバス等の各種弦楽器の胴体104の内部に固定可能である。ユーザは、例えば、弦楽器の胴体104に設けられている孔104Aを通じて、胴体104を構成する表板105と裏板106との間にピックアップ装置1Aを配置し、その状態で木片30A2をピックアップ装置本体10に対して相対的に回転させてストッパ30Aを延伸させることにより、ピックアップ装置1Aを表板105と裏板106との間で突っ張らせて固定することができる。
【0044】
図11は、上記実施形態のピックアップ装置1の第2変形例を示した図である。第2変形例のピックアップ装置1Bは、ピックアップ装置本体10の円形木材13Uにストッパ30Bが備わっている。ストッパ30Bは、円形木材13Uの表面から突出形成される雄ネジ30B1と、雄ネジ30B1に螺合される略正六面体の木片30B2とを有する。ストッパ30Bは、木片30B2をピックアップ装置本体10に対して相対的に回転させると伸縮する。
【0045】
図12は、ピアノに固定された第2変形例のピックアップ装置1Bを示した図である。ピアノ107には、ピアノ107の内部で略水平に配設される響板108が設けられている。また、ピアノ107には、響板108の下側で響板108と平行に配設される直支柱109が設けられている。直支柱109は、ピアノ107の構造材の一種であり、鍵盤や脚、フレーム、その他の部品類を支持する構造材として機能する。第2変形例のピックアップ装置1Bは、第1変形例のピックアップ装置1Aの木片30A2よりも小さい略正六面体の木片30B2を有しているため、例えば、ピアノ107の響板108と直支柱109との間のような狭い箇所に固定可能である。すなわち、ユーザは、例えば、ピアノ107の響板108と直支柱109との間にピックアップ装置1Bを配置し、その状態で木片30B2をピックアップ装置本体10に対して相対的に回転させてストッパ30Bを延伸させることにより、ピックアップ装置1Bを響板108と直支柱109との間で突っ張ら
せて固定することができる。
【0046】
上記実施形態のピックアップ装置1は、例えば、第1変形例のピックアップ装置1Aや第2変形例のピックアップ装置1Bのように変形されても、楽器の音を良好に電気信号へ変換することができる。
【符号の説明】
【0047】
1,1A,1B・・ピックアップ装置:10・・ピックアップ装置本体:11・・同軸ケーブル:11s・・外側導体:11u・・内側導体:12・・圧電素子:12k・・下部電極層:12m・・圧電材料層:12j・・上部電極層:13U,13B・・円形木材:13tU,13tB・・突起:13mU,13mB・・対向面:14・・脚部:14k・・革材:15・・空隙:20・・クランプ:21・・クランプ本体:21u・・腕部:21r・・被螺合部:21t・・被当接部:21f・・膨らみ:22・・ネジ:22m・・丸み:30A,30B・・ストッパ:30A1,30B1・・雄ネジ:30A2,30B2・・木片:101・・コントラバス101:102・・fホール102:103・・表板103:104・・胴体:104A・・孔:105・・表板:106・・裏板:107・・ピアノ:108・・響板:109・・直支柱
【要約】
本願は、圧電素子によって得られる楽器の音を可及的に向上させる楽器用ピックアップ装置を開示する。楽器に固定される楽器用ピックアップ装置であって、円板状の圧電素子と、圧電素子を間に挟む一対の円形部材と、一対の円形部材のうち何れか一方の円形部材の表面に配置される脚部と、を備え、各円形部材は、他方の円形部材へ向かって突出形成される突起を、他方の円形部材と向かい合う対向面の縁沿いの2箇所に各々有し、圧電素子は、突起によって一対の円形部材の間に形成される空隙内において、各円形部材が各々有する突起に挟まれた状態で支持される。
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図12