特許第6198218号(P6198218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198218
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】鉄道運行に伴う津波の避難対策方法
(51)【国際特許分類】
   G08B 27/00 20060101AFI20170911BHJP
   B60L 15/40 20060101ALI20170911BHJP
   B61L 23/00 20060101ALI20170911BHJP
   B61L 25/02 20060101ALI20170911BHJP
   G06Q 50/30 20120101ALI20170911BHJP
   G08B 21/10 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   G08B27/00 A
   B60L15/40 B
   B61L23/00 E
   B61L25/02 Z
   G06Q50/30
   G08B21/10
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-211077(P2012-211077)
(22)【出願日】2012年9月25日
(65)【公開番号】特開2014-67159(P2014-67159A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年1月30日
【審判番号】不服2016-9581(P2016-9581/J1)
【審判請求日】2016年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100089635
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 守
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直泰
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊六
(72)【発明者】
【氏名】宮腰 寛之
【合議体】
【審判長】 冨岡 和人
【審判官】 滝谷 亮一
【審判官】 内田 博之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−255821(JP,A)
【文献】 特開2006−72416(JP,A)
【文献】 特許第4902899(JP,B2)
【文献】 特開平7−294325(JP,A)
【文献】 特開2006−245652(JP,A)
【文献】 特開平8−292273(JP,A)
【文献】 特開2003−278122(JP,A)
【文献】 特開2005−273188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-3/12
B60L 7/00-13/00
B60L15/00-15/42
B61L 1/00-99/00
G08B 1/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底水位計と、海岸地震計と、沿岸の鉄道線路を走行する列車と、該列車に搭載される地震情報収集・処理システムとを備え、前記地震情報収集・処理システムは、受信装置と、受信情報処理装置と、列車の位置情報表示装置と、避難場所と避難経路と必要とする避難時間に関するデータを記憶するデータ記憶装置と、避難場所のための列車の運行表示装置と、列車からの避難場所への案内表示装置とを具備し、前記海底水位計による警報出力である第2の警報Bによる津波に対する避難余裕時間を前記地震情報収集・処理システムにより算出し、津波の避難対策を実行することを特徴とする鉄道運行に伴う津波の避難対策方法
【請求項2】
請求項1記載の鉄道運行に伴う津波の避難対策方法において、地震発生時に前記避難場所と避難余裕時間を考慮して前記列車を移動すべきか否かを決定することを特徴とする鉄道運行に伴う津波の避難対策方法
【請求項3】
請求項1記載の鉄道運行に伴う津波の避難対策方法において、事前に前記避難場所と避難経路を必要とする避難時間に関するデータを前記データ記憶装置に記憶することを特徴とする鉄道運行に伴う津波の避難対策方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道運行に伴う津波の避難対策方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海岸付近を走行する列車が、津波に襲われる危険のある場合、事前対策を検討する必要がある。また、地震発生時には、避難場所や避難経路を即時的に求め、避難の安全性を向上させる必要がある。
【0003】
事前対策や地震発生時の避難の安全性を評価するための1つのパラメータとして、津波に対する避難余裕時間を計算することが考えられる。この結果に基づいて、事前対策の優先順位付けを行ったり、安全に避難できる方法を選定したりすることが望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】地震の辞典,第2版,発行所 (株)朝倉書店,pp.333−341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、海岸付近を走行する列車の津波に対する避難対策方法は確立されていなかった。例えば、列車における避難余裕時間の算定、およびそれに伴う具体的避難対策である避難場所への移動経路選択の定量的評価方法は確立されていなかった。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、海岸付近を走行する列車に対する津波の避難対策を行うことができる、鉄道運行に伴う津波の避難対策方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕鉄道運行に伴う津波の避難対策方法において、海底水位計と、海岸地震計と、沿岸の鉄道線路を走行する列車と、この列車に搭載される地震情報収集・処理システムとを備え、前記地震情報収集・処理システムは、受信装置と、受信情報処理装置と、列車の位置情報表示装置と、避難場所と避難経路と必要とする避難時間に関するデータを記録するデータ記憶装置と、避難場所のための列車の運行表示装置と、列車からの避難場所への案内表示装置とを具備し、前記海底水位計による警報出力である第2の警報Bによる津波に対する避難余裕時間を前記地震情報収集・処理システムにより算出し、津波の避難対策を実行することを特徴とする。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載の鉄道運行に伴う津波の避難対策方法において、地震発生時に前記避難場所と避難余裕時間を考慮して前記列車を移動すべきか否かを決定することを特徴とする。
【0009】
〔3〕上記〔1〕記載の鉄道運行に伴う津波の避難対策方法において、事前に前記避難場所と避難経路と必要とする避難時間に関するデータを前記データ記憶装置に記憶することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
【0011】
海岸付近を走行する列車が、津波に襲われる危険のある場合、安全な避難を行うための乗客・乗員の人命の確保に資することができる。
【0012】
また、鉄道沿線に対する津波対策のための避難場所の位置及びそこまでの避難通路のデータの整備も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例を示す鉄道運行に伴う津波の避難対策方法の模式図である。
図2】本発明の実施例の津波に対する避難余裕時間を示す概略特性図である。
図3】本発明の実施例を示す列車の位置と避難余裕時間との関係を示す図である。
図4】本発明の実施例を示す列車に搭載される地震情報収集・処理システムのブロック図である。
図5】本発明の津波に対する避難例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の鉄道運行に伴う津波の避難対策方法において、海底水位計と、海岸地震計と、沿岸の鉄道線路を走行する列車と、この列車に搭載される地震情報収集・処理システムとを備え、前記地震情報収集・処理システムは、受信装置と、受信情報処理装置と、列車の位置情報表示装置と、避難場所と避難経路と必要とする避難時間に関するデータを記憶するデータ記憶装置と、避難場所のための列車の運行表示装置と、列車からの避難場所への案内表示装置とを具備し、前記海底水位計による警報出力である第2の警報Bによる津波に対する避難余裕時間を前記地震情報収集・処理システムにより算出し、津波の避難対策を実行する。
【実施例】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の実施例を示す鉄道運行に伴う津波の避難対策方法の模式図である。
【0017】
この図において、1は海岸線、2は海底水位計、3は海岸地震計、4は沿岸の鉄道線路、5は鉄道線路4を走行する列車、6は第1の避難場所、7は第2の避難場所、8は第3の避難場所、9は地震の震源位置である。
【0018】
本発明の鉄道運行に伴う津波の避難対策方法は、海底水位計2と、海岸地震計3と、沿岸を走行する列車5と、後述するが、この列車5に搭載される地震情報収集・処理システム10とを備えている。
【0019】
図2は津波に対する避難余裕時間を示す概略特性図であり、縦軸は距離、横軸は時間を示している。
【0020】
この図において、aはP波、bはS波、cは津波を示す。なお、津波の伝播速度は概ね(gD)0.5 〔gは重力加速度で9.8m/s2 ,Dは水深(m)〕で表される(上記非特許文献1参照)。
【0021】
そして、第1の警報Aは海岸地震計3によるP波警報出力、第2の警報Bは海底水位計2による警報出力である。
【0022】
第1の警報Aと第2の警報Bによる津波に対する避難余裕時間は以下のように決定される。
【0023】
第1の警報Aによる津波に対する避難余裕時間(図2の丸付数字1):
Tl1 =(Rtrain /Vtsunami )−〔(Rkaigan/Vp)+Tt+Tc〕−Thinan
第2の警報Bによる津波に対する避難余裕時間(図2の丸つき数字2):
Tl2 =(Rtrain /Vtsunami )−〔(Rkaitei/Vtsunami )+Tt+Tc〕−Thinan
ここで、Tl1 は第1の警報Aに対する避難余裕時間(s)、Tl2 は第2の警報Bに対する避難余裕時間(s)である。また、Rtrain は列車位置までの震源距離(km)、Rkaiganは海岸地震計までの震源距離(km)、Rkaiteiは海底水位計までの震源距離(km)を表す。さらに、Vtsunami は津波の伝播速度(km/s)、VpはP波の伝播速度(km/s)、VsはS波の伝播速度(km/s)であり、Ttは情報電送時間(s)、Tcは警報出力に対する処理時間(早期地震諸元演算時間)(s)を表す。最後に、Thinan は、鉄道線路上の任意の地点(路線のキロ程で表現される)における最短避難時間(s)である。
【0024】
なお、ここで示すThinan は、鉄道線路上の任意の地点(路線のキロ程で表現される)に対して、事前にデータベース化しておく必要がある。
【0025】
仮想的な地震について津波に対する避難余裕時間を算定すると、避難余裕時間がない場合が想定される。その場合、津波対策として避難経路の整理、避難場所の増設、避難塔の建設などを行うことが挙げられる。
【0026】
図3は本発明の実施例を示す列車の位置と避難余裕時間との関係を示す図であり、図3(a)は列車の位置と避難余裕時間との関係を示す図、図3(b)は避難余裕時間がない箇所を有する図、図3(c)は避難場所Dを増設して避難余裕時間がない箇所を解消した例を示す図である。
【0027】
図4は本発明の実施例を示す列車に搭載される地震情報収集・処理システムのブロック図である。
【0028】
この図において、10は地震情報収集・処理システム、11は受信装置、12は受信情報処理装置(CPU)、13は列車の位置情報表示装置、14は避難場所と避難経路と必要とする避難時間に関するデータ記憶装置、15は避難場所のための列車の運行表示装置、16は列車から避難場所への案内表示装置、17はプリンターである。
【0029】
なお、事前に鉄道のキロ程に対して避難場所と避難経路と必要とする避難時間に関するデータをデータ記憶装置14にデータベース化しておく。
【0030】
地震発生時には、後述する避難に対する余裕時間の算定を行う。この余裕時間に基づいて、その場で列車を降りて避難場所へ移動した方がよいか、または列車で移動した後に列車を降りて避難場所へ移動した方がよいか算出する。つまり、安全に確実に避難する方法を地震情報収集・処理システム10により抽出することで避難場所・避難経路の選定を行う。
【0031】
図5は本発明の津波に対する避難例のフローチャートである。
【0032】
まず、列車は地震情報収集・処理システム10を搭載しており、受信装置11を介して、地震・津波に関する情報を受信する(ステップS1)。次に、受信情報処理装置(CPU)12の演算・制御により、地震・津波に関する情報を位置情報表示装置13に表示する(ステップS2)。そこで、避難場所と避難経路、避難時間に関するデータをデータ記憶装置14から抽出する(ステップS3)。その際に、津波に対する避難余裕時間を算出する。避難余裕時間に対応して、列車は現在の停車位置で乗客・乗員を降ろして避難場所Aへと避難させた方が良いか、あるいは列車の現在の停車位置からは避難場所Aへのアクセスが困難(例えば、徒歩での避難に時間がかかる)な場合には避難余裕時間に対応して列車を現在の停車位置から避難場所B又はAへのアクセスが容易な箇所まで運行する方が良いかをチェックする。つまり、列車を移動させるか否か(ステップS4)をチェックする。その結果、列車を移動させる方が良い場合には、避難のための列車の運行表示装置に表示して移動させる(ステップS5)。次いで、列車から避難場所への案内表示を案内表示装置16に表示する(ステップS6)。最後に、列車から避難場所への案内表示をプリントアウトして乗客へ配付する(ステップS7)。ステップS4にて列車を移動させない場合は、そのままステップS7へ進む。実際の避難場所への避難にあたっては、幼児や高齢者などの乗客も存在するので、リーダーを決めてグループ編成を行って、リーダーによりプリントアウトされた案内表示媒体を点検しながら避難を実施することも考えられる。
【0033】
このように、避難余裕時間に対応して、列車の乗客・乗員を安全に避難場所へと導くようにすることができる。
【0034】
本発明によれば、列車内の乗客・乗員は、列車の地震情報収集・処理システムにより、確実に津波に対する避難を行い、乗客・乗員の人命の確保に資することができる。
【0035】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の鉄道運行に伴う津波の避難対策方法は、確実に津波に対する避難を行い、乗客・乗員の人命の確保に資することができる津波の避難対策方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 海岸線
2 海底水位計
3 海岸地震計
4 沿岸の鉄道線路
5 鉄道線路を走行する列車
6 第1の避難場所
7 第2の避難場所
8 第3の避難場所
9 地震の震源位置
10 地震情報収集・処理システム
11 受信装置
12 受信情報処理装置(CPU)
13 列車の位置情報表示装置
14 避難場所と避難経路と必要とする避難時間に関するデータ記憶装置
15 避難場所のための列車の運行表示装置
16 列車から避難場所への案内表示装置
17 プリンター
図1
図2
図3
図4
図5