特許第6198221号(P6198221)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198221
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】表面塗工クレープ紙及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/74 20060101AFI20170911BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20170911BHJP
   D21H 19/40 20060101ALI20170911BHJP
   D21H 19/60 20060101ALI20170911BHJP
   D21H 19/46 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   D21H19/74
   D21H27/00 F
   D21H19/40
   D21H19/60
   D21H19/46
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-149007(P2013-149007)
(22)【出願日】2013年7月18日
(65)【公開番号】特開2015-21194(P2015-21194A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】592002776
【氏名又は名称】河野製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091281
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 雄一
(72)【発明者】
【氏名】谷口 健二
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−154764(JP,A)
【文献】 特開平10−226986(JP,A)
【文献】 特表2010−507435(JP,A)
【文献】 特開2001−011790(JP,A)
【文献】 特開2007−143764(JP,A)
【文献】 特開2000−287865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K7/00
10/16
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
坪量が6〜60[g/m]のクレープ紙の表面に、親水性ワックス状物質を含む塗工成分からなる塗工層が形成されている表面塗工クレープ紙において、
前記塗工成分は、
前記親水性ワックス状物質として平均分子量が2700〜9000のポリエチレングリコールと、このポリエチレングリコール中に分散して含有された平均粒子径が1.0〜10[μm]のタルクの粉体と、を含み、前記ポリエチレングリコールと前記タルクとの配合重量比が1:1以下であることを特徴とする表面塗工クレープ紙。
【請求項2】
請求項1に記載した表面塗工クレープ紙において、
前記ポリエチレングリコールと前記タルクとの配合重量比が1:0.1〜0.5であることを特徴とする表面塗工クレープ紙。
【請求項3】
請求項1または2に記載した表面塗工クレープ紙において、
前記塗工成分の塗工量が、前記クレープ紙の面積当たり0.01〜5.0[g/m]であることを特徴とする表面塗工クレープ紙。
【請求項4】
請求項1〜の何れか1項に記載した表面塗工クレープ紙において、
前記塗工成分がグリセリンを含み、前記ポリエチレングリコールと前記グリセリンとの配合重量比が1:3以下であることを特徴とする表面塗工クレープ紙。
【請求項5】
請求項1〜の何れか1項に記載した表面塗工クレープ紙において、
肌との接触により、前記塗工成分の一部が肌に転移することを特徴とする表面塗工クレープ紙。
【請求項6】
親水性ワックス状物質として平均分子量が2700〜9000であるポリエチレングリコールと平均粒子径が1.0〜10[μm]である粉体としてのタルクとを1:1以下の重量比により配合して水に溶解させ、前記ポリエチレングリコールと前記水との配合重量比が1:5の範囲にある処理液を生成して当該処理液を坪量6〜60[g/m]のクレープ紙の表面に塗工することにより塗工層を形成することを特徴とする表面塗工クレープ紙の製造方法
【請求項7】
親水性ワックス状物質として平均分子量が2700〜9000であるポリエチレングリコールと平均粒子径が1.0〜10[μm]である粉体としてのタルクとを1:1以下の重量比により配合してグリセリンを含有した水に溶解させ、前記ポリエチレングリコール(重量をxとする)と前記グリセリン及び前記水(両者の合計重量をyとする)との配合重量比x:yが1:5以下の範囲にある処理液を生成して当該処理液を坪量6〜60[g/m]のクレープ紙の表面に塗工することにより塗工層を形成することを特徴とする表面塗工クレープ紙の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ティシュペーパー、トイレットペーパー、タオルペーパー等の衛生用途、家庭用途の紙製品に好適であって、クレープ紙の表面に親水性ワックス状物質を含む塗工層を有する表面塗工クレープ紙、及び、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クレープ紙は紙に細かいシワをつけたものであり、柔らかく、吸水性が高い。そのため、衛生用途、家庭用途のトイレットペーパーやティシュペーパー等に加工されて使用されている。
【0003】
衛生用途、家庭用途のクレープ紙の従来技術としては、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この特許文献1には、クレープ紙に保湿成分を含浸させることにより肌触りを良くした保湿性クレープ紙が開示されており、この種の保湿性クレープ紙は、近年、国内で大きな市場が形成されている。
一方、他の従来技術として、例えば特許文献2には、親油性物質を含むローション組成物をクレープ紙に塗工したローションティシュ製品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−156596号公報
【特許文献2】特表2004−513961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来技術には以下のような問題がある。
特許文献1等に記載された保湿性クレープ紙は、パルプ繊維を水分により可塑化することでパルプ繊維を柔軟にし、肌触り性を向上させており、紙全体に保湿成分を含浸させている。この場合、十分な柔らかさを得るためには一定以上の水分が必要であり、その水分を保持するためにグリセリン等の保湿成分を対パルプ当たり10〜20〔重量%〕程度含有させている。従って、含有する水分と保湿成分とによってクレープ紙の強度が低くなり、吸水性も低くなる。
【0006】
また、特許文献2等のローション組成物を塗布したクレープ紙はべたつき感があり、海外の市場には存在するが、我が国では余り好まれず普及していない。特に、このクレープ紙では、紙の表面だけでなく内部まで浸透した親油性物質が、吸水性、水分の拭き取り性を阻害している。
【0007】
そこで、本発明の解決課題は、塗工成分のクレープ紙表面への塗工量を低く抑え、紙の強度や肌触り、拭き取り性及び吸水性に優れた表面塗工クレープ紙及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る表面塗工クレープ紙は、坪量が6〜60[g/m]のクレープ紙の表面に、親水性ワックス状物質を含む塗工成分からなる塗工層が形成されている表面塗工クレープ紙において、前記塗工成分が、親水性ワックス状物質として平均分子量が2700〜9000のポリエチレングリコールと、このポリエチレングリコール中に分散して含有される粉体として平均粒子径が1.0〜10[μm]のタルクと、を含んでおり、ポリエチレングリコールとタルクとの配合重量比が1:1以下、より好ましくは1:0.1〜0.5であることを特徴とする。
上記の塗工成分の塗工量は、クレープ紙の面積当たり0.01〜5.0〔g/m〕とすることが望ましく、塗工成分にはグリセリンを含ませても良い。その場合、ポリエチレングリコールとグリセリンとの配合重量比は1:3以下にすることが望ましい。
加えて、塗工成分は、肌との接触によって一部が肌に転移する性質を有することが望ましい。
【0009】
本発明に係る表面塗工クレープ紙の製造方法は、親水性ワックス状物質として平均分子量が2700〜9000であるポリエチレングリコールと平均粒子径が1.0〜10[μm]である粉体のタルクとを1:1以下の重量比により配合して水に溶解させ、ポリエチレングリコールと水との配合重量比が1:5の範囲にある処理液を生成して当該処理液を坪量6〜60[g/m]のクレープ紙の表面に塗工することにより塗工層を形成する。
あるいは、親水性ワックス状物質として平均分子量が2700〜9000であるポリエチレングリコールと平均粒子径が1.0〜10[μm]である粉体のタルクとを1:1以下の重量比により配合してグリセリンを含有した水に溶解させ、ポリエチレングリコール(重量をxとする)とグリセリン及び水(両者の合計重量をyとする)との配合重量比x:yが1:5以下の範囲にある処理液を生成して当該処理液を坪量6〜60[g/m]のクレープ紙の表面に塗工することにより塗工層を形成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パルプ繊維を可塑化するためにクレープ紙全体への保湿成分の含浸が必要であった従来の保湿ティシュ、保湿トイレットペーパー等の保湿性クレープ紙と異なり、ポリエチレングリコール及びタルクを含む塗工成分をクレープ紙の表面にのみ塗工するため、少ない塗工量によりクレープ紙の強度の低下や吸水性の低下を防ぐことができる。
また、塗工層によりクレープ紙表面が優れた潤滑性を有すると共に、塗工成分が肌に転移する相乗効果により、肌触りを一層向上させることができ、必要に応じて塗工成分にグリセリンを含ませることにより、さらさら感や肌の保湿効果、保護効果を高めることができる。同時に、環境による紙の水分率の変化に伴う、肌触りや強度の変化も生じない。
更に、親油性物質を含むローション組成物を塗布したクレープ紙に比べて、ポリエチレングリコールを含む塗工層はべたつき感がなく、滑らかな好ましい触感を有する。特に、塗工層の親水性により、吸水性を阻害することもない。
加えて、クレープ紙の表面に塗工層が形成されるため、いわゆる紙粉の発生が少なくなり、衛生用紙、家庭用紙として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例における各成分の配合率を示す図である。
図2】本発明の比較例における各成分の配合率を示す図である。
図3】本発明のティシュペーパーに関する実施例の機器測定・官能試験の結果を示す図である。
図4】本発明のティシュペーパーに関する比較例の機器測定・官能試験の結果を示す図である。
図5】本発明のトイレットペーパーに関する実施例の機器測定・官能試験の結果を示す図である。
図6】本発明のトイレットペーパーに関する比較例の機器測定・官能試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
この実施形態の表面塗工クレープ紙は、所定の坪量のクレープ紙の表面に対して、紙内部への塗工成分の浸透を防ぎつつ、親水性ワックス状物質としてのポリエチレングリコールと粉体であるタルクとを含む塗工層を形成する。塗工成分には、必要に応じて保湿成分としてのグリセリンを含ませることができる。
本実施形態の表面塗工クレープ紙は、ポリエチレングリコールの水溶液を室温のクレープ紙の表面に塗工することにより製造される。
ここで、クレープ紙の表面とは、肌に直接接触する面を言い、塗工層はクレープ紙の表面全体に連続的に形成しても良いし、クレープの凸部表面に点在させても良い。このようにクレープ紙の表面に親水性の塗工層を形成することにより、紙内部の水素結合を阻害せずに原紙の強度を維持し、しかも吸水性を阻害することがない。また、塗工層が有する潤滑性、肌への転移性は、肌触りを向上させて肌の保湿、保護に寄与する。
【0013】
以下に、本実施形態に係る表面塗工クレープ紙及びその製造方法について、それぞれの構成要件を詳細に説明する。
(1)クレープ紙
クレープの形成方法は、ドライクレープによる方法が紙の柔らかさの点で好ましい。ドライクレープでは紙粉の発生が多くなる傾向にあるが、この実施形態では、クレープ紙表面の塗工層により紙粉の発生も抑制される。クレープ紙の坪量は6〜60〔g/m〕であることが好ましく、更に好ましくは9〜30〔g/m〕であり、特に好ましくは10〜25〔g/m〕である。坪量が低いと抄紙が困難であり、坪量が高すぎると強度が強くなり過ぎて、衛生用紙や家庭用紙として相応しくない。
【0014】
(2)親水性ワックス状物質
塗工成分は親水性ワックス状物質を含む。親水性ワックス状物質が20〔℃〕で液状であると、塗工時または塗工後に親水性ワックス物質が紙の内部まで浸透しやすく、紙表面のみに塗工層を形成しにくい。従って、親水性ワックス状物質は20〔℃〕で固体であり、好ましくは30〔℃〕、より好ましくは40〔℃〕で固体であるものを用いると良い。
親水性ワックス状物質としては、親水性の高分子化合物であるポリエチレングリコールを用いることとし、その平均分子量は2700〜9000である
【0015】
(3)粉体
塗工成分には、粉体を含ませる。ポリエチレングリコール中に分散した粉体は、ポリエチレングリコールがシート内部に浸透することを抑制すると共に、塗工層にさらさらとした触感を付与する。この粉体には、例えば、タルク、カオリン、ベントナイト、炭酸カルシウム、マイカ、セリサイト、合成樹脂パウダー、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、でんぷん、酸化チタン、酸化亜鉛、金属石鹸を使用可能であるが、タルクが最も好適である。タルクの平均粒子径は、1.0〜10〔μm〕である
ポリエチレングリコールとタルクとの配合重量比は、1:1以下であり、1:0.1〜0.5であることが更に好ましい。
【0016】
(4)保湿成分
塗工成分の肌への転移性を高め、また、転移した肌の柔軟性を高めて肌触りを向上させるために、塗工成分に保湿成分を含ませても良い。保湿成分としてはグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ソルビット等が挙げられるが、このうち、グリセリンが最も好ましい。
塗工成分に含まれるポリエチレングリコールとグリセリンの配合重量比は1:3以下であることが好ましく、1:2以下であることが更に好ましい。ポリエチレングリコールに対するグリセリンの配合重量比が3以上であると、ポリエチレングリコールが紙の内部に浸透しやすく、クレープ紙の表面に塗工層を形成しにくくなる。
【0017】
(5)水
ポリエチレングリコールを溶解させ塗工を容易にするために、塗工成分に水を配合することができる。水の量が多いと塗工時にポリエチレングリコールが紙の内部に浸透しやすくなり、クレープ紙の表面のみに塗工層を形成しにくくなるため、ポリエチレングリコールと水との配合重量比は1:5以下が好ましく、1:3以下であることが更に好ましい。また、水と共にグリセリンを配合する場合は、ポリエチレングリコール(重量をxとする)と、グリセリン及び水(両者の合計重量をyとする)と、の配合重量比x:yが1:5以下であることが好ましく、1:3以下であることが更に好ましい。
【0018】
(6)塗工量
塗工成分の塗工量は、クレープ紙の面積に対して、0.01〜5.0〔g/m〕、好ましくは0.05〜3.0〔g/m〕、より好ましくは0.1〜1.5〔g/m である。塗工量が0.01〔g/m〕より少ないとクレープ紙の表面に存在する塗工層が少な過ぎて肌触りが十分ではなく、5.0〔g/m より多くなると、塗工量が過剰になって硬さが生じるようになる。
クレープ紙を用いたティシュペーパー、トイレットペーパー等の製品が1枚(シングルプライ)の場合は、塗工層を片面または両面に形成し、2枚重ね以上(マルチプライ)の場合は、肌に触れる外側プライの表面に塗工層を形成することが好ましい。
【0019】
(7)塗工方法
塗工成分の塗工方法としては、印刷ロールによる方法やエアースプレー、ローターによる噴霧等が可能であるが、グラビア印刷等による転写方式が好ましい。
【実施例及び比較例】
【0020】
次に、本発明の実施例を比較例と共に説明する。なお、以下の説明において、実施例1〜及び比較例1〜4は本発明をティシュペーパーに適用した例であり、実施例14及び比較例5〜8は本発明をトイレットペーパーに適用した例である。
【0021】
図1は、ティシュペーパー及びトイレットペーパーの各実施例における配合成分の原紙当たりの配合率〔重量%〕を示し、図2は、ティシュペーパー及びトイレットペーパーの各比較例における配合成分の原紙当たりの配合率〔重量%〕を示している。
図1に示すように、ティシュペーパーに関する実施例1〜とトイレットペーパーに関する実施例14とは、各成分の配合率がそれぞれ同一である。また、図2に示すように、ティシュペーパーに関する比較例1〜4とトイレットペーパーに関する比較例5〜8とは、各成分の配合率がそれぞれ同一である。なお、比較例4はティシュペーパー原紙、比較例8はトイレットペーパー原紙である。
図1図2において、配合成分が複数ある場合は、配合成分の溶解液または配合成分を均一化した分散液を作製した。
【0022】
1)ティシュペーパー原紙
LBKP(広葉樹クラフト法漂白パルプ)が70〔重量%〕、NBKP(針葉樹クラフト法漂白パルプ)が30〔重量%〕の配合からなるパルプ原料をカナダ標準濾水度500〜540〔ml〕に叩解し、湿潤紙力剤(WS4030:星光PMC社)を固形分としてパルプ原料当たり0.2〔重量%〕配合し、常法によりティシュペーパー原紙としてのクレープ紙を抄紙した。なお、クレープはドライクレープ法により形成した。
得られたクレープ紙は、坪量が13.0〔g/m〕、クレープ率は20〔%〕である。
2)トイレットペーパー原紙
LBKP(広葉樹クラフト法漂白パルプ)が30〔重量%〕、NBKP(針葉樹クラフト法漂白パルプ)が70〔重量%〕の配合からなるパルプ原料をカナダ標準濾水度540〜580〔ml〕に叩解し、常法によりトイレットペーパー原紙としてのクレープ紙を抄紙した。なお、クレープはドライクレープ法により形成した。
得られたクレープ紙は、坪量が16.0〔g/m〕、クレープ率は25〔%〕である。
【0023】
3)塗工
クレープ紙の巻き取りロール1組(2本)をリワインダーにセットし、グラビアロールを用いて、2枚1組の外側の両表面に図1図2に示す塗工成分を塗工した。なお、図2の比較例2については、塗工成分を融点以上に加熱して溶融状態で塗工し、その他の実施例及び比較例は、塗工成分が液状であるためそのまま塗工した。
原紙の温度は室温(10〜15〔℃〕)に保たれており、塗工成分を溶融状態のまま塗工しても、塗工後に固形化して原紙表面に塗工層が形成される。また、塗工成分が液状であっても、水分は塗工後直ちに乾燥して原紙表面に塗工層が形成される。
【0024】
4)ティシュペーパー加工
リールに巻き取った塗工済みのティシュペーパー原紙をティシュペーパー加工ラインにより加工し、ティシュペーパー製品を得た。
こうして得られたティシュペーパー製品を温度23±2〔℃〕、相対湿度50±2〔%〕の環境で24時間調湿し、実施例1〜及び比較例1〜4について各特性を測定、評価した。
5)トイレットペーパー加工
リールに巻き取った塗工済みのトイレットペーパー原紙をトイレットロール加工ラインにより加工し、トイレットペーパーロール製品を得た。
こうして得られたトイレットペーパーロール製品を温度23±2〔℃〕、相対湿度50±2〔%〕の環境で24時間調湿し、実施例〜1及び比較例5〜8について各特性を測定し、評価した。
【0025】
次に、図3は、ティシュペーパーに関する実施例1〜の機器測定・官能試験の結果であり、図4は、同じく比較例1〜4の機器測定・官能試験の結果である。
また、図5は、トイレットペーパーに関する実施例14の機器測定・官能試験の結果であり、図6は、同じく比較例5〜8の機器測定・官能試験の結果である。
【0026】
ここで、機器測定の各項目における測定方法は以下の通りである。
A.摩擦特性
摩擦感試験機器として、摩擦感テスター「KES−SE4」(カトーテック社製)を用いた。
塗工層が外側になるように重ね合わされた試料(2枚1組)の表面を摩擦子によってなぞり、摩擦特性として、摩擦係数(MIU)及び摩擦係数の変動量(MMD)を求める。試験は、試料を替えて試料の縦方向(抄紙時における紙の流れ方向)と横方向についてそれぞれ5回行い、その平均値を求めた。なお、摩擦子の荷重は50〔g〕、摩擦子の移動速度は1〔mm/sec〕である。
ここで、MIUは数値が小さいほどすべりやすく、MMDは数値が小さいほど滑らかであることを示す。
【0027】
B.引張強さ
JIS−S3104(1992年)に規定されるティシュペーパーの引張強さ試験に準じて、試料の縦方向の乾燥時引張強さ〔N〕を測定した。
試験片は、試料(2枚1組)を幅25.0±0.1〔mm〕に切り取り、つかみ間隔を100±2〔mm〕として測定した。試験は10回行い、その平均値を求めた。
【0028】
C.吸水度
JIS−S3104(1992年)に規定されるティシュペーパーの吸水度試験に準じて測定した。試験は5回行い、その平均値を求めた。
【0029】
D.脱落性
・試験装置:パーティクルモニター「GT−321」(柴田科学株式会社製)
・試験方法:試料を空気採気口の入口で軽く揉みながら、脱落するパルプ繊維または粉体を吸引し、粒子の個数を測定する。
・試験回数:試料を替えて各3回行い、その平均値を求めた。
・試料:
ティシュペーパーについては、200〔mm〕×225〔mm〕の大きさの2枚1組を、縦、横にそれぞれ1回折りたたんだものを使用した。
トイレットペーパーについては、114〔mm〕×500〔mm〕の大きさの2枚1組を、縦方向に対して直角に3回折り重ねたものを使用した。
・測定時間:60秒
・吸引量: 2.83〔L/分〕
・測定粒径:1.0 〔μm〕以上
・結果:各試料について測定した粒子個数Nと塗工前の原紙に対して同様の試験により測定した粒子個数Nとの差(N−N)を粒子個数Nにより除算し、その結果(N−N)/Nを%表示して以下のように評価した。
(N−N)/N×100〔%〕が±20〔%〕以内の場合は「標準」:△、
(N−N)/N×100〔%〕が+20〔%〕より大きい場合は「多い」:×、
(N−N)/N×100〔%〕が−20〔%〕より小さい場合は「少ない」:○
【0030】
また、官能試験については、モニター10名が各試料を手で触り、以下の項目を評価した。
E.滑らかさ
まず、クレープ紙表面の滑らかさを、モニター10名が以下の基準により評価した。
・大変滑らかである:4点
・滑らかである:3点
・やや滑らかである:2点
・滑らかでない:1点
モニター10名の評価点を集計した合計点について、以下のようにランク付けした。
・36〜40点:◎
・26〜35点:○
・16〜25点:△
・10〜15点:×
【0031】
以下の評価項目についても、同様の方法によりモニター10名が評価し、全員の評価点を集計した合計点によりランク付けした。
【0032】
F.さらさら感
さらさらとしたパウダー調の触感を、以下の基準により評価した。
・大変さらさらしている:4点
・さらさらしている:3点
・ややさらさらしている:2点
・さらさらしていない:1点
【0033】
G.塗工成分の転移性
上述した各官能試験前後における指表面の滑らかさを評価した。
・大変滑らかさが向上した:4点
・滑らかさが向上した:3点
・やや滑らかさが向上した:2点
・変化は感じられない:1点
【0034】
上述した測定方法及び評価方法による機器測定・官能試験の結果を評価すると、次のようになる。
(1)ティシュペーパーについて(実施例1〜及び比較例1〜4:図3図4
A.摩擦特性
・摩擦係数(MIU)
すべての実施例1〜は、原紙(比較例4)を含むすべての比較例1〜4と比べてMIUが小さく、滑りやすくなっている。比較例3はグリセリン及び水を含有した保湿タイプのティシュペーパーであるが、パルプが可塑化することで滑りにくくなっている。
・摩擦係数の変動量(MMD)
すべての実施例1〜は、原紙(比較例4)を含むすべての比較例1〜4と比べてMMDが小さく、なめらかになっている
【0035】
B.引張強さ
すべての実施例1〜は、原紙(比較例4)と同程度の強度を維持している。また、比較例3は、グリセリンと水分が多いために強度が低下している。
【0036】
C.吸水度
すべての実施例1〜は、原紙(比較例4)を含むすべての比較例1〜4よりも吸水速度が速い。その理由は、クレープ紙表面に塗工されたポリエチレングリコールの親水性が高いためと思われる。一方、比較例2は親油性ワックスが塗布されているため、吸水性が低下している。
【0037】
D.脱落性
塗工成分に粉体のタルクを含有する実施例7は、原紙(比較例4)に比べて脱落量が少ない。すなわち、クレープ紙表面の塗工層がパルプ繊維の脱落を防止すると同時に、塗工層内のタルクの脱落も抑制されている。なお、比較例3の保湿タイプのティシュペーパーでは、水分によるパルプ繊維間の結合により、脱落量は少なくなっている。
【0038】
E.滑らかさ
すべての実施例1〜が、比較例1,2及び原紙(比較例4)よりも滑らかさを感じている。特に、塗工成分にタルク及びグリセリンを配合した実施例は、滑らかさの評価が高い。その理由は、クレープ紙表面の滑らかさと肌に転移した塗工成分との相乗効果によるものと思われる。
【0039】
F.さらさら感
実施例は、粉体の配合によりさらさら感を感じている。特に、実施例1〜5,7については優れたさらさら感を感じている。
【0040】
G.塗工成分の転移性
すべての実施例1〜が、すべての比較例1〜4に対して指表面の滑らかさか向上しており、塗工成分が指先に確実に転移している。特に、グリセリンを1または3〔重量%〕配合した実施例では転移性を強く感じている。
【0041】
(2)トイレットペーパーについて(実施例14及び比較例5〜8:図5図6
トイレットペーパーについても、ティシュペーパーとほぼ同様な評価であり、原紙(比較例8)と同程度の強度が得られていると共に、すべての比較例5〜8と比べて摩擦特性、吸水性が向上している。また、保湿タイプの比較例7以外の比較例5,6,8に対して、脱落性や滑らかさも向上している。
更に、さらさら感、及び塗工成分の転移性についてはすべての実施例14が、それぞれすべての比較例5〜8よりも高い評価を得ている。
【0042】
(3)総合評価
実施例1〜14は、優れた滑らかさを有し、特に、塗工前の原紙と同等の強度を保ち、吸水性が大幅に向上している。更に、塗工成分が肌へ転移することにより、紙表面の滑らかさと肌に転移した塗工成分との相乗効果によって、滑らかさ一層向上している。
すなわち、本発明によれば、パルプ繊維の配合や坪量、内添薬品等、原紙の違いに関わらず、クレープ紙に対する少ない塗工量で、肌触り、強度、吸水性に優れ、パルプ繊維等の脱落が少ない衛生用途・家庭用途の紙製品を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、ティシュペーパー、トイレットペーパー、タオルペーパー等の衛生用途、家庭用途の紙製品に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6