【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、前記の欠点を改善するものである。
【0014】
現在行われている船形を滑らかにする改良などでは、現在の主流となっている水面の上に浮かぶ単胴船が、船首の水を両舷の外に追い出すことによって生じた波の損失エネルギーを回収することは現実的に不可能であり、発生する波を少なくする程度の進歩で足踏みしている。
【0015】
現在行われている、プロペラの形状改良、2重反転プロペラ、可変ピッチプロペラ、ポッド推進、などの改良では、推進効率を多少向上する程度であり、高速化で新たに発生するプロペラが本質的に持つ色々な障害の解決には程遠く、高速で急増する水の抵抗を上回る高速航行を実現する推進力は得られない。
【0016】
このため、船速を増すと、1.船首の前の水を両舷の外に追い出しながら船が進むために必要な加速度、すなわち水の抵抗は、船速の2乗で急増し、2.プロペラ後方の旋回流の水を回すのに必要な加速度、すなわち水の抵抗も、船速の2乗で急増し、1と2の相乗効果により、水の抵抗が速度の3乗で増加するため、主機として強力なエンジンが必要になる。
【0017】
現行の船の船形での経済的な限界速度は、時速60キロメートル前後と言われている。単胴船で、この速度を超える船は、巡視船や軍船など、経済性を無視できる、商船以外の船となる。
【0018】
現在の航行速度への関心は、限界に達した航行速度のさらなる向上よりもむしろ、経済的な航行速度にある。景気悪化や船腹過剰や燃料費高騰などで海運市況が悪化すると、速度減よりも燃料消費量減が大きいために、陸揚げして船形を変更した後に、低速航行で燃料費を節約する経済航行を始める船が出るほどである。
【0019】
単胴船以外では、水中翼船やホーバークラフトやウェーブ・ピアーサーなどが実用化されているが、荒天に運航できなかったり、大型船に不向きだったり、積載貨物量が少なかったり、建造費や保守費が高価過ぎたり、燃費が悪かったり、等で世界的に大きなシェアを獲得するに至っていない。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の発明者は、上記の課題を解決する手段として、船内に船首の水を流す水路を設ける。この設けた水路を通して船首の前の水を船尾の後に流し、さらに推進装置として水車の複列配置によって、経済性を保持しながら航行速度の高速化を実現する。
【0021】
手段の説明その1/2:水路について
【0022】
はじめに、「水路」について記述する。船が進む時には、船の前にある水をどこかに移動し、通り過ぎた後に移動した水を戻しておく必要がある。
【0023】
現行の船では、水に急速な移動エネルギーを加えて、両舷の外に追い出して、引き波を起こしながら、船は進む。高速航行すると、加える移動エネルギー、すなわち造波抵抗、が急増する。追い出すから、エネルギーは回収できなくなる。
【0024】
本発明の船では、水に低速な移動エネルギーを、現行の船よりゆっくり、移動幅も小さく、加えて、水路の中を水は進む。移動速度と移動幅が共に小さいので、水の移動に必要なエネルギーは微小となる。また、両舷の外に水を追い出さないから、エネルギーのロスとなる引き波を起こさない。水を追い出さなかったから、船尾の後ろで発生する渦による粘性圧力抵抗の打ち消しに利用できる。
【0025】
現行の船では、船が通り過ぎた船尾の後の低圧部に、渦を起こしながら周囲の水を引き寄せる。水を引き寄せるエネルギーのロス、すなわち、粘性圧力抵抗が発生することになり、船足を遅くする作用が働く。船首の前の水を両舷の外に追い出してしまったために、船尾ではロス発生を前提として周囲の水を引き寄せることになる。
【0026】
本発明の船では、水路の中を進んで来た水を船尾で水面に戻す。両舷の外に水を追い出さなかったから、船首で水路の中に取り込んだ水を、船尾の後で水面に戻すことができる訳である。船が通り過ぎた後に周囲の水を引き寄せる必要がなく、粘性圧力抵抗が発生しないようにする事ができる。
【0027】
まとめると、現行の船は、両舷の外に水を追い出しながら、引き波を起こしながら航行しているが、本発明の船は、その位置で水が上下し、上下する水の下を船の下部が通り過ぎて行く。これは波が伝搬して行く時に、水そのものは移動して行かないで、その場で上下運動する現象に似ている。
【0028】
念のため書いておくが、水中翼船と本発明の船は、ともに水中を潜行する部分があるが、全く別の物である。前者は水路(の壁)を持たず、後者は水路(の壁)を持つ。前者は翼の揚力を航行時の主な浮力とし、後者は船の水面下の容積を主な浮力とする。航行時に、前者は揚力で船体を持ち上げ、後者は水路を流れる水が船全体を押し下げる。前者は翼の容積が非常に小さく、後者は船の上部構造を水面上に保持するほど容積が大きい。
【0029】
手段の説明その2/2:推進装置について
【0030】
次に、「推進装置」について記述する。推進装置の課題を解決する手段として、本発明は、船底および、または水路に配置し、船の横方向を回転軸に前後方向へ回転する水車を用いる。以下、詳細を説明する。
【0031】
現行の船の推進装置の多くはプロペラ(スクリュープロペラ)である。プロペラは飛行機の翼と同様に、翼の両面を通過する流体の密度差によって生じる揚力を利用する。現行の低速な航行速度、現行のプロペラ回転速度、では経済的に最適な、他に代替がない、推進装置である。
【0032】
現行の船のプロペラは、進行方向に対して横方向に(プロペラの先端が船速より数倍速く)回転することにより、プロペラ後方の旋回流がエネルギーの(プロペラが1基の場合、駆動軸のエネルギーの約1/3が)損失となる。対して、本発明の水車は、進行方向(の逆方向)に回転することにより、旋回流などの横方向のエネルギーの損失は生じず、推進効率が良い。
【0033】
現行の船のプロペラは、横方向に回転し揚力を発生する構造により、回転数を高めたり、ピッチを強めたりすれば、ブレード面が作る負圧が水圧より大きくなって、細かな気泡が生じるキャビテーションという現象が起きて、推進効率が急速に悪化する。対して、本発明の水車は、揚力を使わない構造で、進行方向(の逆方向)に回転し水を押し出すことにより、推進力の障害となるキャビテーションが発生しない。
【0034】
現行の船のプロペラは、横回転するプロペラの回転域内で水を後方に押し出して船を推進するが、水面下の前面投影面積に比べて、プロペラ回転範囲の面積が小さく、船速に比べてより高速に水を後方に押し出さないと、必要な推進力が得られない。(ウォータージェット方式ほど押し出す面積は小さくないが)エネルギー効率が悪い。対して、本発明の水車は、船の横幅いっぱいに水車を配置でき、プロペラ方式よりもゆっくり後方に押し出して、同じ推進力が得られる。エネルギー効率が良い。
【0035】
現行の船のプロペラは、船尾下部に取り付けてある。空荷の貨物船は喫水線が下がり、船の安定性が下がると共に、プロペラが水面に出て障害となるため、バラスト水を注入して喫水線を上げて航行する。載貨重量トン数に対するバラストタンク容量は概ね、コンテナ船で30%、原油タンカーは40%、LNGタンカーでは80%に達する。経済価値のないバラスト水を積むことは、船の燃費を考える上ではマイナス要素であり、生態系への影響もあり、ノンバラスト船の研究等が進められている。
【0036】
対して、本発明の水車は、船底に配置し、かつ、航行時は水路上を通過する水が船体を押し下げる一種のバラスト効果もあり、この障害が発生しない。
【0037】
本発明の水車は、進行方向(の逆方向)に回転し水を後方に押し出して反発力で船を進める仕組みは外輪船と同じであるが、外輪船は、1.水車の過半が水上にある(荒天時に波の力で水車の羽根が壊れ易い)、2.水車が船外の横または船尾にある、3.遠心力による損失対策を考慮していない、などが異なる。
【0038】
本発明の水車は、水を後方に押し出す羽根部分は水流の中に置き、推進に役立たず、むしろ水の流れを阻害する、回転ドラム部分や折り返し回転中の羽根の部分は、流路とならない推進室に配置して、(推進速度を落とすことになる)エネルギー損失の発生を防ぐ。
【0039】
本発明の水車は、水車を逆回転することにより、船の速度を落としたり、後進ができる。また、複列に配置することにより、単一の横長水車の回転軸より偏心率を緩くでき、かつ、各水車の回転を個々に制御して(舵が無くても)船の進行方向を変えることができる。
【0040】
本発明の水車は、各水車毎に取り付けた電動モーターで駆動する。現行の船の多くは急速な速度変動が苦手なディーゼル機関で駆動しているが、本発明では、急激で細やかな速度制御が得意なインバータ制御の電動モーターを使う事によって、速度制御や進路制御が自由にできる。
【0041】
本発明の推進装置の範囲に入らないが、ロープ、流木、などのゴミの流入を防ぐスリットを、水車に水を取り入れる前方に取り付けて、水車部を大きなゴミから防護する仕組みを設けることになる。
【0042】
本発明の水車の羽根が船底の下に出っ張る構造になっている。岩礁や浅瀬に乗り上げると推進装置を破壊し、船が推進力を失う。電子海図と連動したオートパイロットや、設定した水深より浅くなった場合は自動的に警報を出す水深ソナー、などを装備して海難事故を防いで航行することが望まれる。
【0043】
以上の説明のように、現行の船の推進装置は、船首船尾の前後方向に対して横方向に回転するという、高速航行に不向きな構造的特性を持ちながら、低速航行では顕在化せず、シンプルな構造で低コストな、スクリュープロペラ方式で発生する損失の課題を、本発明の水車は、船首船尾の前後方向に回転する水車方式の手段で、減少や解消して、高速航行に必要な推進力を実現する。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、船と水面の間に生じる造波抵抗と粘性圧力抵抗の損失がほとんどなくなり、水車を使った損失の少ない推進装置と合わせて、経済性を確保しつつ、船の高速性を向上することが実現できる。
【0045】
船の高速性の向上を実現すると、航行時間が短縮できる。高速性を確保しつつ、船の抵抗損失の低減を実現すると、推進に使う各種装置が小型化でき、加えて燃料消費量を低減できる。
【0046】
高速航行による航行時間の短縮は、ドア・ツー・ドアのトータル運搬時間の短縮、同一航路の運行頻度の増加、船の建造資金の早期回収、1航行当たりの船員費の低下、トラック輸送との競争資格取得、等のメリットをもたらす。
【0047】
推進抵抗の低減効果は、主機エンジンの小型化、馬力アップ用の過給機の撤去、燃料タンクの小型化、推進プロペラ(あるいは水車)の小型化、などがある。船の建造費や保守費を低減できる。
【0048】
燃料消費量の低減効果は、燃料費の低減による運航費の低減、CO2排出量の低減、競合するトラック輸送との燃費競争の加点、などがある。
【0049】
さらに本発明によって、高速航行しても、大波との激突、船首部分の激しい上昇下降、などによる船体激動、船体破損、転覆、沈没、の危険もない。このことによって、貨物の荷崩れや破損も少なくなり、かつ、悪天候下の航行の安全性が向上する。
【0050】
さらに、現行の船で発生している船の揺れの、船首(Yawing)横(Rolling)縦(Pitching)左右(Swaying)前後(Surging)上下(Heaving)、のすべてが無くなる。このことによって、乗組員の船内居住環境が改善する。船酔いで旅行客に嫌われている客船の復権が計れる。