(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198274
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】圧電材の回収方法とその再利用方法
(51)【国際特許分類】
H01L 41/37 20130101AFI20170911BHJP
H01L 41/18 20060101ALI20170911BHJP
H01L 41/257 20130101ALI20170911BHJP
H01L 41/22 20130101ALI20170911BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20170911BHJP
C08K 3/24 20060101ALI20170911BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20170911BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20170911BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
H01L41/37ZAB
H01L41/18
H01L41/257
H01L41/22
C08J3/20 BCEQ
C08K3/24
C08L21/00
B09B3/00 Z
B09B3/00 302B
B09B3/00 304N
B09B5/00 D
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-135675(P2014-135675)
(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公開番号】特開2016-15364(P2016-15364A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2016年7月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000106955
【氏名又は名称】シバタ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】間々田 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】岡田 至規
(72)【発明者】
【氏名】矢口 直幸
(72)【発明者】
【氏名】西本 安志
【審査官】
安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−001550(JP,A)
【文献】
特開2000−101161(JP,A)
【文献】
国際公開第98/052703(WO,A1)
【文献】
特開2003−279013(JP,A)
【文献】
特開平03−245777(JP,A)
【文献】
特開2006−023098(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/136513(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/37−41/47
B09B 1/00− 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電ゴムから圧電材を回収する圧電材の回収方法であって、
前記圧電ゴムから電極部を有機溶剤によって除去する除去工程と、
前記除去工程後の前記圧電ゴムを裁断する裁断工程と、
前記裁断工程後の前記圧電ゴムを熱分解する熱分解工程と、
前記熱分解工程後の分解残さから前記圧電材を分離する分離工程と、
を含む圧電材の回収方法。
【請求項2】
請求項1に記載の圧電材の回収方法において、
前記熱分解工程は、空気中で前記圧電ゴムを加熱して有機化合物を熱分解する工程を含むこと、
を特徴とする圧電材の回収方法。
【請求項3】
圧電ゴムから圧電材を回収する圧電材の回収方法であって、
前記圧電ゴムを裁断する裁断工程と、
前記裁断工程後の前記圧電ゴムを熱分解する熱分解工程と、
前記熱分解工程後の分解残さから前記圧電材を分離する分離工程とを含み、
前記分離工程は、前記分解残さのうち粒子径が所定値を超える分解残さを前記圧電材として回収する工程を含むこと、
を特徴とする圧電材の回収方法。
【請求項4】
圧電ゴムから回収した圧電材を再利用する圧電材の再利用方法であって、
前記回収した圧電材を生ゴム材と混練する混練工程と、
前記混練工程後の混練物を加硫して前記圧電ゴムに成形する成形加硫工程とを含み、
前記混練工程は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の圧電材の回収方法によって回収した圧電材を生ゴム材と混練する工程を含むこと、
を特徴とする圧電材の再利用方法。
【請求項5】
請求項4に記載の圧電材の再利用方法において、
前記成形加硫工程後の前記圧電ゴムに電極部を形成する電極形成工程を含むこと、
を特徴とする圧電材の再利用方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の圧電材の再利用方法において、
前記圧電ゴムを分極処理する分極処理工程を含むこと、
を特徴とする圧電材の再利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧電ゴムから圧電材を回収する圧電材の回収方法、及び圧電ゴムから回収した圧電材を再利用する圧電材の再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料は、センサやアクチュエータなどの多岐にわたる用途で使用されている。しかし、鉛を含有していることから廃棄処理が困難であるという課題がある。従来の圧電材の回収方法(従来技術1)は、硫酸を用いて湿式ボールミルによりPZT焼結体から鉛を回収している(例えば、非特許文献2参照)。この従来技術1では、ポリプロピレン(PP)ポットの中にPZT焼結体の粗粉体及び硫酸を粉砕用アルミナボールとともに封入し、室温で湿式ボールミル処理を実施し、硫酸鉛単相の白色粉体を回収している。
【0003】
従来の圧電材の回収方法(従来技術2)は、硫酸水溶液を用いて湿式ボールミルにより鉛ジルコン酸鉛(PZT)セラミックスから鉛を回収している(例えば、非特許文献1参照)。この従来技術2では、湿式ボールミルを用いて空気中室温で96時間300rpmの固定回転速度で硫酸水溶液によってPZTセラミックスから鉛を回収している。
【0004】
従来の圧電材の回収方法(従来技術3)は、鉛を含有する圧電材料を用いた電子デバイスを有機溶剤に投入し、乾燥後高温雰囲気に暴露して、酸に投入し鉛を含む圧電材料を回収している(例えば、特許文献1参照)。この従来技術3では、第2種有機溶剤によって電子デバイスの外装樹脂を溶解し、半田などの無機化合物を300〜800℃の高温雰囲気化で暴露し、最後に硝酸などの酸に投入して主として銀の電極を溶解し、最後に残る鉛を含む材料を分離回収している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】笹井 亮他,「セラミックス廃材からの有価および有害金属の資源回収」,廃棄物学会誌,一般社団法人廃棄物資源循環学会,2004年,Vol.15,No.4, p.168-174
【0006】
【非特許文献2】神谷 壮宏他,「酸性溶媒を用いたボールミルによるPZTセラミックスからの鉛の回収」,日本セラミックス協会学術論文誌,社団法人日本セラミックス学会,2003年11月1日,111(1299),p.806-810
【0007】
【特許文献1】特開2000-101161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術1では、重液を用いた分離回収方法であり、比重の差異を利用してPZT焼結体の粗粉体から鉛を分離している。しかし、従来技術1では、高比重の重液に毒性があり、廃棄処理が困難であるためPZTの回収に適さず、PZTを回収できる高比重の重液が存在しない。
【0009】
従来技術2では、酸及びアルカリによる無機材料の溶解分離回収方法であり、溶解性を利用してPZTセラミックスから鉛を分離している。しかし、従来技術2では、ジルコン、チタンが酸に難溶解でありアルカリに不溶である。また、従来技術2では、亜鉛及び鉛が酸及びアルカリに容易に溶解することから、PZTの回収には適さないと考えられ、圧電セラミックスとして取り出すことが不可能である。
【0010】
従来技術3では、電子デバイスの外装樹脂を第2種有機溶剤によって溶解するとともに、酸素雰囲気中で半田などの無機化合物を加熱している。しかし、従来技術3では、電子デバイスの外装が架橋ゴムである場合には、第2種有機溶剤には架橋ゴムが溶解しない問題点がある。また、従来技術3では、酸素濃度が低いと圧電材料中の酸素がゴムの燃焼に消費されて圧電材料が脆くなり、圧電材料の粒子が潰れて小さくなってしまう問題点がある。
【0011】
この発明の課題は、圧電ゴムから圧電材を簡単に分離回収して再利用することができる圧電材の回収方法とその再利用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
なお、この発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、この実施形態に限定するものではない。
請求項1の発明は、
図2〜
図4に示すように、圧電ゴム(1)から圧電材(1b)を回収する圧電材の回収方法であって、
前記圧電ゴムから電極部(2A,2B)を有機溶剤(S)によって除去する除去工程(#110)と、前記除去工程後の前記圧電ゴムを裁断する裁断工程(#110)と、前記裁断工程後の前記圧電ゴムを熱分解する熱分解工程(#130)と、前記熱分解工程後の分解残さ(5)から前記圧電材を分離する分離工程(#140)とを含む圧電材の回収方法(#100)である。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1に記載の圧電材の回収方法において、前記熱分解工程は、空気中で前記圧電ゴムを加熱して有機化合物を熱分解する工程を含むことを特徴とする圧電材の回収方法である。
【0014】
請求項3の発明は、
図2〜
図4に示すように、圧電ゴム(1)から圧電材(1b)を回収する圧電材の回収方法であって、前記圧電ゴムを裁断する裁断工程(#110)と、前記裁断工程後の前記圧電ゴムを熱分解する熱分解工程(#130)と、前記熱分解工程後の分解残さ(5)から前記圧電材を分離する分離工程(#140)と
を含み、
前記分離工程は、前記分解残さのうち粒子径が所定値を超える分解残さを前記圧電材として回収する工程を含むことを
特徴とする圧電材の回収方法(#100)である。
【0015】
請求項4の発明は、
図2、
図5及び
図6に示すように、圧電ゴム(1)から回収した圧電材(1b)を再利用する圧電材の再利用方法であって、前記回収した圧電材を生ゴム材(1c)と混練する混練工程(#210)と、前記混練工程後の混練物(b)を加硫して前記圧電ゴムに成形する成形加硫工程(#220)とを含み、前記混練工程は、請求項1から請求項
3までのいずれか1項に記載の圧電材の回収方法によって回収した圧電材を生ゴム材と混練する工程を含むことを特徴とする圧電材の再利用方法(#200)である。
【0016】
請求項5の発明は、請求項
4に記載の圧電材の再利用方法において、前記成形加硫工程後の前記圧電ゴムに電極部(2A,2B)を形成する電極形成工程(#230)を含むことを特徴とする圧電材の再利用方法である。
【0017】
請求項6の発明は、請求項
4又は請求項
5に記載の圧電材の再利用方法において、前記圧電ゴムを分極処理する分極処理工程(#240)を含むことを特徴とする圧電材の再利用方法である。
【発明の効果】
【0019】
この発明によると、圧電ゴムから圧電材を簡単に回収して再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の実施形態に係る圧電材の回収方法とその再利用方法によって回収及び再生される圧電ゴムを模式的に示す断面図である。
【
図2】この発明の実施形態に係る圧電材の回収方法とその再利用方法の概念図である。
【
図3】この発明の実施形態に係る圧電材の回収方法の工程図である。
【
図4】この発明の実施形態に係る圧電材の回収方法を説明するための模式図であり、(A)は除去工程前の圧電材を示す模式図であり、(B)は除去工程を示す模式図であり、(C)は裁断工程を示す模式図であり、(D)は熱分解工程を示す模式図であり、(E)は分離工程示す模式図である。
【
図5】この発明の実施形態に係る圧電材の再利用方法の工程図である。
【
図6】この発明の実施形態に係る圧電材の再利用方法を説明するための模式図であり、(A)は混練工程を示す模式図であり、(B)は成形加硫工程を示す模式図であり、(C)は電極形成工程を示す模式図であり、(D)は分極処理工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について詳しく説明する。
図1に示す圧電ゴム1は、ゴム中に圧電材料を分散させた部材である。圧電ゴム1は、この圧電ゴム1に作用する荷重に応じて電気信号を出力する。圧電ゴム1は、弾性を有する圧電素子であり、振動を圧電効果によって電気信号に変換するとともに、振動の大きさ(荷重の大きさ)に応じた電力を発生する。圧電ゴム1は、ゴム材1aと圧電材1bなどを備えている。圧電ゴム1は、例えば、
図4に示すように、所定の形状に形成された板状の部材である。
【0022】
ゴム材1aは、圧電材1bを保持する母材である。ゴム材1aは、例えば、天然ゴム、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ポリノルボルネンゴム又はアクリルゴムなどの加硫ゴム、スチレン系、オレフィン系、塩化ビニル系又はクロロスルホン化ポリエチレンなどの熱可塑性エラストマー(TPE)、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル又はエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)などの熱可塑性樹脂、シリコンなどのゲル、酢酸ビニル系、EVA系又はアクリル樹脂系などのエマルジョン、ゴムラテックスなどである。
【0023】
圧電材1bは、圧電効果を示す部材である。圧電材1bは、機械的応力が加わると応力に応じた電気分極を発生して電界を発生(正効果)し、電界を加えて電気分極を発生させると電界の大きさに応じた歪みを発生(逆効果)する圧電効果を示す。圧電材1bは、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛、メタニオブ酸鉛又はチタン酸バリウムなどの圧電セラミックス粒子である。
【0024】
電極部2A,2Bは、圧電ゴム1に電気的に接続された接点部分である。電極部2A,2Bは、圧電ゴム1の両面にそれぞれ積層されており、圧電ゴム1の両面全域を被覆するように形成されている。電極部2A,2Bは、例えば、銀粉などの導電性フィラーをエポキシ樹脂などの有機バインダーに分散させた銀ペーストのような導電性接着剤を圧電ゴム1の両面に塗布して形成される。電極部2A,2Bは、圧電ゴム1が発生する電流が流れる電線のような導電部にそれぞれ接続される。
【0025】
次に、この発明の実施形態に係る圧電材の回収方法について説明する。
図2及び
図3に示す回収方法#100は、圧電ゴム1から圧電材1bを回収する方法である。回収方法#100は、圧電ゴム1を構成する各組成物の分解温度の差異と分解残さ5の粒子径の差異とを利用することによって、圧電ゴム1から圧電材1bを分離回収する。回収方法#100は、除去工程#110と、裁断工程#120と、熱分解工程#130と、分離工程#140などを含む。
【0026】
除去工程#110は、圧電ゴム1から電極部2A,2Bを有機溶剤Sによって除去する工程である。除去工程#110では、例えば、
図4(B)に示すような除去装置3によって電極部2A,2Bを溶解し、
図4(A)に示す圧電ゴム1から電極部2A,2Bが除去される。
図4(B)に示す除去装置3は、圧電ゴム1から電極部2A,2Bを除去する装置である。除去装置3は、電極部2A,2Bが形成された状態の圧電ゴム1と有機溶剤Sとを収容する収容槽3aなどを備えている。有機溶剤Sは、例えば、電極部2A,2Bを形成する銀ペーストを溶解可能なアセトン、イソプロピルアルコール、エチルエーテル、キシレン又はトルエンなどの第2種有機溶剤である。
【0027】
裁断工程#120は、圧電ゴム1を裁断する工程である。裁断工程#120では、例えば、
図4(C)に示すように、除去工程後#110後の圧電ゴム1を裁断する。裁断工程#120では、圧電ゴム1を細かく裁断することによって裁断後の圧電ゴム1の表面積を増やし、圧電ゴム1中の圧電材1b中の酸素が燃焼に消費されるのを防ぐとともに、圧電材1bが脆くなり圧電材1bの粒子が潰れて小さくなるのを防ぐ。
【0028】
図2及び
図3に示す熱分解工程#130は、裁断工程#120後の圧電ゴム1を熱分解する工程である。熱分解工程#130では、例えば、
図4(D)に示すような熱分解装置4によって、裁断工程#110後の圧電ゴム1を空気中で熱分解して、圧電ゴム1中の有機物を炭化させる。
図4(D)に示す熱分解装置4は、圧電ゴム1を空気中で熱分解する装置である。熱分解装置4は、例えば、電気を熱源として圧電ゴム1を加熱する電気炉などである。熱分解装置4は、空気中で圧電ゴム1を収容する収容部4aと、収容部4a内を加熱する抵抗体4bと、抵抗体4bに電力を供給する電源部4cと、収容部4a内の温度を検出する温度検出部4dと、温度検出部4dの検出結果に基づいて抵抗体4bに流れる電流が変化するように電源部4cを制御する制御部4eなどを備えている。熱分解工程#130では、EPDMの分解温度400℃付近の昇温温度100℃/2h程度で比較的遅く空気中で圧電ゴム1を加熱して有機化合物を熱分解する。熱分解工程#130では、熱分解温度が300℃を下回るとゴム材1aの熱分解が不完全になって有機物が残存するおそれがあるため、熱分解温度を300〜500℃に設定することが好ましい。
【0029】
図2及び
図3に示す分離工程#140は、熱分解工程#130後の分解残さ5から圧電材1bを分離する工程である。分離工程#140では、例えば、
図4(E)に示すような分離装置6によって、分解残さ4のうち粒子径が所定値を超える圧電材1b単体を分離回収する。ここで、
図4(E)に示す分解残さ5は、炭化物、無機化合物及び圧電材1bの混合物である。
図4(E)に示す分離装置6は、分解残さ5から圧電材1bを分離する装置である。分離装置6は、例えば、粒子径が所定値を超える圧電材1bと、粒子径が所定値以下の圧電材1b、炭化物及び無機化合物である分解残さ4とに選別する網ふるいなどの分級器具であり、所定の大きさのふるい目開き(粒度メッシュ)の分級器具が使用される。
【0030】
次に、この発明の実施形態に係る圧電材の再利用方法について説明する。
図2及び
図6に示す再利用方法#200は、圧電ゴム1から回収した圧電材1bを再利用する方法である。再利用方法#200は、圧電材1bの回収方法#100によって回収された圧電材1bを再使用して圧電ゴム1を製造する。再利用方法#200は、混練工程#210と、成形加硫工程#220と、電極形成工程#230と、分極工程#240などを含む。
【0031】
混練工程#210は、回収した圧電材1bを生ゴム材1cと混練する工程である。混練工程#210では、例えば、
図6(A)に示すような混練装置7によって、圧電材1bの回収方法#100によって回収した圧電材1bを生ゴム材1cと混練する。
図6(A)に示す混練装置7は、回収した圧電材1b、生ゴム材1c及び配合剤Cを混練する装置である。混練装置7は、回転軸を中心として回転して回収した圧電材1b、生ゴム材1c及び配合剤Cを混練する一対の混練ローラ7a,7bと、この一対の混練ローラ7a,7bを回転自在に収容する収容室7cと、回収した圧電材1b、生ゴム材1c及び配合剤Cを収容室7c内に投入する投入口7dと、混練後の混練物8を取り出す取出口7eなどを備えている。ここで、生ゴム材1cは、加硫前の状態の天然ゴム又は合成ゴムなどの原料ゴムである。配合剤Cは、例えば、圧電ゴム1に硬さ、引張強さ及び耐摩耗性などを付与する増強剤と、圧電ゴム1の性質及び加工性を改善する充てん剤(補強材・増量剤)と、圧電ゴム1に可塑性を付与する軟化剤又は可塑剤と、硫黄又は有機過酸化物によってゴム分子を繋ぎ粘性を弾性に変える加硫剤と、加硫時間を短縮化させる加硫促進剤と、加硫剤の働きを促進させる加硫促進助剤又は活性剤と、酸化劣化やオゾン劣化を防止する酸化防止剤又はオゾン劣化防止剤と、加工性を向上させる加工助剤(粘着付与剤・滑剤・分散剤)などを含む。混練物8は、回収した圧電材1b、生ゴム材1c及び配合剤Cを混合して混練りされた混合物である。混練工程#210では、圧電材1b及び配合剤Cが生ゴム材1cに均一に分散されるように、回収した圧電材1b、生ゴム材1c及び配合剤Cを混合して混練りした後に、所定の大きさに切断して混練物8が生成される。
【0032】
図2及び
図6に示す成形加硫工程#220は、混練工程#210後の混練物8を加硫して圧電ゴム1に成形する工程である。成形加硫工程#220では、例えば、
図6(B)に示すような成形加硫装置9によって、混練工程#210後の混練物8を加熱及び加圧して、適切な架橋時間保持して所定の形状の圧電ゴム1に成形する。
図6(B)に示す成形加硫装置9は、所定の温度に加熱された一対の金型9a,9bなどを備えている。成形加硫装置9は、凸状の金型(上部金型)9aと凹状の金型(下部金型)9bとの間で混練物8を加圧し、所定時間加熱して圧電ゴム1を所定の形状に成形する。
【0033】
図2及び
図6に示す電極形成工程#230は、成形加硫工程#220後の圧電ゴム1に電極部2A,2Bを形成する工程である。電極形成工程#230では、例えば、
図6(C)に示すような電極形成装置10によって、銀ペーストのような導電性接着剤を圧電ゴム1の両面に塗布して電極部2A,2Bを形成し、圧電ゴム1の両面に電極部2A,2Bが取り付けられる。
図6(C)に示す電極形成装置10は、圧電ゴム1の一方の表面に導電性接着剤を塗布するとともに、この圧電ゴム1の他方の表面に導電性接着剤を塗布するノズル10aなどを備えている。
【0034】
図2及び
図6に示す分極処理工程#240は、圧電材1bを分極処理する工程である。
図6(D)に示す分極処理装置11は、圧電材1bを分極処理する装置である。分極処理装置11は、電極部2Aと電極部2Bとの間に電圧を印加する直流電源11aなどを備えている。分極処理工程#240では、
図6(D)に示すような分極処理装置11によって、電極部2Aと電極部2Bとの間に電界Eを加え、圧電ゴム1内に分散している各圧電材1bを電気分極させて、各圧電材1bの双極子モーメントの方向を同一方向にする。
【0035】
図2に示すように、回収方法#100によって圧電ゴム1から圧電材1bが回収されると、再利用方法#200によって圧電材1bがリサイクルされて圧電ゴム1が製造される。リサイクル後の圧電ゴム1から圧電材1bを回収する場合には、回収方法#100によって圧電ゴム1から圧電材1bが再度回収されて、再利用方法#200によって利用可能な圧電材1bがリサイクルされ圧電ゴム1の再利用が繰り返される。
【0036】
この発明の実施形態に係る圧電材の回収方法とその再利用方法には、以下に記載するような効果がある。
(1) この実施形態では、裁断工程#120において圧電ゴム1を裁断し、熱分解工程#130において裁断工程#120後の圧電ゴム1を熱分解し、分離工程#140において熱分解工程#130後の分解残さ5から圧電材1bを分離する。このため、例えば、電気炉やふるいを用いた簡易な分離回収方法によって、センサやアクチュエータなどに用いられる圧電ゴム1中から圧電材1bを圧電セラミックスとして取り出して、この圧電材1bを再利用することができる。また、圧電ゴム1を細かく裁断することによって裁断後の圧電ゴム1の表面積を増やし熱分解時に酸素不足になるのを防いでいる。このため、従来技術3のように酸素濃度が低くなって圧電ゴム1中の圧電材1b中の酸素が燃焼に消費されるのを防ぐことができるとともに、圧電材1bが脆くなり圧電材1bの粒子が潰れて小さくなるのを防ぐことができる。また、従来技術1のような重液を用いた分離方法や、従来技術2のような酸又はアルカリを用いた分離方法に比べて、空気中で圧電ゴム1を熱分解するため環境負荷を低減することができる。さらに、鉛を含有するために廃棄処理が困難な圧電材1bを圧電ゴム1から安全に分離回収することができ、鉛含有物質の廃棄処理に有用な手法を提供することができる。
【0037】
(2) この実施形態では、除去工程#110において圧電ゴム1から電極部2A,2Bを有機溶剤Sによって除去し、裁断工程#120において除去工程#110後の圧電ゴム1を裁断する。このため、例えば、銀ペーストのような導電性接着剤によって電極部2A,2Bが形成されている場合には、従来技術3のような硝酸によって電極を除去する場合に比べて、取り扱いが容易な有機溶剤Sによって電極部2A,2Bを簡単に拭き取り除去することができる。
【0038】
(3) この実施形態では、熱分解工程#130において空気中で圧電ゴム1を加熱して有機化合物を熱分解する。例えば、従来技術3のような有機溶剤を使用しても圧電ゴム1のゴム材1aのような架橋ゴムを溶解することができない。この実施形態では、架橋されたゴム材1a中から圧電材1bを回収する場合に、有機溶剤を使用せずに加熱処理によってゴム材1aを分解させることができる。また、空気中で圧電ゴム1を熱分解することによってカーボンを完全に燃焼させて、圧電材1bにカーボンが付着するのを防止することができる。
【0039】
(4) この実施形態では、分離工程#140において分解残さ4のうち粒子径が所定値を超える分解残さ5を圧電材1bとして回収する。このため、圧電材1bの粒子径を利用して圧電材1bを簡易にふるい分けすることができ、分解残さ4から圧電材1bのみを回収することができる。また、粒子径が所定値以下で再利用に適さない圧電材1bを取り除くことができるとともに、圧電ゴム1中に加硫促進助剤として配合されている酸化亜鉛や、除去工程#110において完全に除去できなかった銀ペーストのような導電性接着剤も取り除くことができる。
【0040】
(5) この実施形態では、回収した圧電材1bを生ゴム材1cと混練工程#210において混練し、成形加硫工程#220において混練工程#210後の混練物8を加硫して圧電ゴム1に成形する。このため、回収した圧電材1bを再利用して圧電ゴム1を製造することができる。また、高価な圧電材1bを再利用して新たな生ゴム材1c及び配合剤Cと混練するだけで圧電ゴム1を成形することができるため、安価に圧電ゴム1を製造することができる。
【0041】
(6) この実施形態では、電極形成工程#230において成形加硫工程#220後の圧電ゴム1に電極部2A,2Bを形成する。このため、成形加硫後の圧電ゴム1が変形したときに発生する電力を電極部2A,2Bから取り出すことができるとともに、電極部2A,2Bに外部から電力を供給することによって圧電ゴム1を変形させることができる。
【0042】
(7) この実施形態では、分極処理工程#240において圧電ゴム1を分極処理する。このため、熱分解工程#130において圧電ゴム1を熱分解したときに圧電性能を失った圧電材1bに電界Eを加えて、圧電材1bを電気分極させて圧電ゴム1に圧電性能を付与することができる。
【0043】
(8) この実施形態では、圧電材1bの回収方法#100によって回収した圧電材1bを生ゴム材1cと混練工程#210において混練する。このため、圧電ゴム1中の圧電材料を分離回収して再利用することができ、圧電ゴム1の製造からマテリアルリサイクルまでの一貫したプロセスを構築することができる。
【0044】
この発明は、以上説明した実施形態に限定するものではなく、以下に記載するように種々の変形又は変更が可能であり、これらもこの発明の範囲内である。
(1) この実施形態では、銀ペーストのような導電性接着剤によって電極部2A,2Bを形成する場合を例に挙げて説明したが、金粉、銅粉、ニッケル粉、アルミニウム粉、メッキ粉、カーボン粉又はグラファイト粉などの導電性フィラーをエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂又はポリイミド樹脂などの有機バインダーに分散させた導電性接着剤などによって電極部2A,2Bを形成することもできる。また、この実施形態では、除去工程#110において有機溶剤S中に圧電ゴム1を浸漬する場合を例に挙げて説明したが、圧電ゴム1の表面を有機溶剤Sによって拭き取って電極部2A,2Bを除去することもできる。
【0045】
(2) この実施形態では、成形加硫工程#220において直圧成形(コンプレッション)により圧電ゴム1を成形する場合を例に挙げて説明したが、金型内にゴム材1aを強制注入する直圧注入成形(トランスファ)、又は金型内にゴム材1aを射出する射出成形(インジェクション)により圧電ゴム1を成形することもできる。また、この実施形態では、電極形成工程#230において圧電ゴム1の両面に導電性接着剤をノズル10aによって塗布して電極部2A,2Bを形成する場合を例に挙げて説明したが、導電性接着剤を印刷などの方法によって圧電ゴム1の両面に形成して、電極部2A,2Bを形成することもできる。
【符号の説明】
【0046】
1 圧電ゴム
1a ゴム材
1b 圧電材
1c 生ゴム材
2A,2B 電極部
3 除去装置
4 熱分解装置
5 分解残さ
6 分離装置
7 混練装置
8 混練物
9 成形加硫装置
10 電極形成装置
S 有機溶剤
C 配合剤