特許第6198328号(P6198328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198328
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】ワイヤレス給電通信方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/20 20160101AFI20170911BHJP
   H02J 50/40 20160101ALI20170911BHJP
   H02J 50/90 20160101ALI20170911BHJP
   H01P 1/04 20060101ALI20170911BHJP
   H04B 3/52 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   H02J50/20
   H02J50/40
   H02J50/90
   H01P1/04
   H04B3/52
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-38819(P2014-38819)
(22)【出願日】2014年2月28日
(65)【公開番号】特開2015-163030(P2015-163030A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110711
【弁理士】
【氏名又は名称】市東 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100078798
【弁理士】
【氏名又は名称】市東 禮次郎
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 直幹
(72)【発明者】
【氏名】高木 賢二
(72)【発明者】
【氏名】浜本 研一
(72)【発明者】
【氏名】宇治川 智
【審査官】 早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−093838(JP,A)
【文献】 米国特許第07518952(US,B1)
【文献】 特開2006−166662(JP,A)
【文献】 特開2008−028549(JP,A)
【文献】 特開2013−120632(JP,A)
【文献】 特開2004−265954(JP,A)
【文献】 特開2012−95155(JP,A)
【文献】 特開2013−162626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J50/00−50/90
H04B3/52
H01P1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数の電力波を基本モードで伝送する導波管により所定周波数より高い周波数の通信信号搬送波を併せて伝送し,前記基本モードの腹位置に挿入したアンテナにより電力を取り出し,前記基本モードの節位置に設けたアンテナにより通信信号を取り出してなるワイヤレス給電通信方法。
【請求項2】
請求項1の方法において,前記通信信号搬送波の周波数を,前記電力波の所定周波数の2以上の整数倍の周波数としてなるワイヤレス給電通信方法。
【請求項3】
請求項1又は2の方法において,前記電力取り出し用アンテナを電界と平行に挿入した同軸プローブとし,前記通信信号取り出し用アンテナを管壁電流と平行に設けたスロットアンテナとしてなるワイヤレス給電通信方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかの方法において,前記導波管を建物の床,天井又は壁上に載置した給電導波管とし,前記建物の床,天井又は壁の内部に電力波基本モードの腹位置の間隔で給電導波管と交差する向きに延びる複数の並列導波管を形成し,前記各並列導波管の径を給電導波管の電力波基本モードの腹位置と節位置とに跨る大きさとし,前記給電導波管の腹位置及び節位置に設けた電力取り出し用アンテナ及び通信信号取り出し用アンテナを選択的に各並列導波管と接続することにより電力波及び通信信号搬送波を給電導波管から並列導波管に分配してなるワイヤレス給電通信方法。
【請求項5】
請求項4の方法において,前記並列導波管の電力波基本モードの腹位置に電力取り出し用の受電アダプタを設け,前記並列導波管の電力波基本モードの節位置に通信信号取り出し用の通信アンテナ又は通信アダプタを設けてなるワイヤレス給電通信方法。
【請求項6】
請求項4又は5の方法において,前記並列導波管に,前記給電導波管から分配した電力を用いて給電導波管から分配した通信信号を増幅する増幅器を設けてなるワイヤレス給電通信方法。
【請求項7】
所定周波数の電力波を基本モードで伝送し且つ所定周波数より高い周波数の通信信号搬送波を併せて伝送する導波管,前記基本モードの腹位置に挿入した電力取り出し用アンテナ,及び前記基本モードの節位置に設けた通信信号取り出し用アンテナを備えてなるワイヤレス給電通信システム。
【請求項8】
請求項7のシステムにおいて,前記通信信号搬送波の周波数を,前記電力波の所定周波数の2以上の整数倍の周波数としてなるワイヤレス給電通信システム。
【請求項9】
請求項7又は8のシステムにおいて,前記電力取り出し用アンテナを電界と平行に挿入した同軸プローブとし,前記通信信号取り出し用アンテナを管壁電流と平行に設けたスロットアンテナとしてなるワイヤレス給電通信システム。
【請求項10】
請求項7から9の何れかのシステムにおいて,前記導波管を建物の床,天井又は壁上に載置した給電導波管とし,前記建物の床,天井又は壁の内部に電力波基本モードの腹位置の間隔で給電導波管と交差する向きに延びる複数の並列導波管を形成し,前記各並列導波管の径を給電導波管の電力波基本モードの腹位置と節位置とに跨る大きさとし,前記給電導波管の腹位置及び節位置に設けた電力取り出し用アンテナ及び通信信号取り出し用アンテナを選択的に各並列導波管と接続することにより電力波及び通信信号搬送波を給電導波管から並列導波管に分配してなるワイヤレス給電通信システム。
【請求項11】
請求項10のシステムにおいて,前記並列導波管の電力波基本モードの腹位置に電力取り出し用の受電アダプタを設け,前記並列導波管の電力波基本モードの節位置に通信信号取り出し用の通信アンテナ又は通信アダプタを設けてなるワイヤレス給電通信システム。
【請求項12】
請求項10又は11のシステムにおいて,前記並列導波管に,前記給電導波管から分配した電力を用いて給電導波管から分配した通信信号を増幅する増幅器を設けてなるワイヤレス給電通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤレス給電通信方法及びシステムに関し,とくに建物内においてワイヤレスで電力を供給すると共にデータ通信等を行う方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近のビル等の建物では,内部の商用電力配線(電力線)を利用してデータ通信等を併せて行う電力線通信(PLC)技術が実用化されている。電力は例えば50/60Hzの低周波数で電力線に供給されるが,データ通信信号(以下,単に通信信号という)を例えば2MHz〜30MHzの高周波数で電力線上に重畳することにより有線を共有し,通信ケーブルを新たな敷設することなく構内通信網を手軽に構築することができる。例えば,建物内の電気コンセントに通信用アダプタ(PLCモデム)を設置してコンピュータ等と接続することにより,建物内のどの部屋でも電気コンセントがあれば簡単に高速のデータ通信が可能となる。ただし,電力線は一般に通信信号のような高周波が重畳されることを想定しておらず,高周波数を重畳すると電力線から漏洩するおそれがあり,漏洩電磁波が他の周辺機器(アマチュア無線機器)に悪影響を与える問題等が指摘されている。
【0003】
これに対し,電力線等の有線ではなく,建物内の電力を無線で供給する技術(ワイヤレス給電技術)が提案されている(特許文献1〜4参照)。ワイヤレス給電は,電力線のコストを削減できる経済性を有しており,レクテナ(電磁波(RC)を受信して直流電力(DC)に整流変換するアンテナ)さえあれば電力線の配線が困難な場所にも電力を供給することができ,建物内の任意の場所で電気機器をバッテリーなしで駆動可能とし又はコードレスで充電可能とする等の利点を有している。図6(A)は,多層建物1の各階の床2又は天井3(以下,床スラブ2ということがある)の内部閉空間に形成した複数の並列な導波管(以下,並列導波管ということがある)10を用いた建物内のワイヤレス給電システムの一例を示す。
【0004】
図6に示す建物1の床スラブ2は,荷重負担用の複数の山・谷が長手方向に並列に形成されたデッキプレート11を鉄骨梁6上に支持して敷き詰め,そのデッキプレート11上にコンクリート5を打設して構築したものである。同図(B)は,デッキプレート11の長手方向と直交方向の床スラブ2の断面図を示す。デッキプレート11は一般に鋼板等の導体製であるから,デッキプレート11の底面側を導体製の遮蔽板12で塞ぐことにより,床スラブ2の内部にデッキプレート11の山部と遮蔽板12とで囲まれた方形断面の複数の並列導波管10を形成することができる。
【0005】
図6(A)の床スラブ2には,並列導波管10と共に,その長手方向と交差する方向に電磁波(電力波)を送る導波管(以下,給電導波管ということがある)13が載置されている。給電導波管13には,適当な電力源に接続されたマグネトロン等の電磁波発生装置15から中継導波管14を介して,所定周波数で所要電力密度の電磁波を供給する。給電導波管13から並列導波管10に送られた電磁波の電力は,同図(B)に示すように,並列導波管10の任意位置にレクテナ21付き受電アダプタ20を挿入することにより,直流電力に変換して床スラブ2の床側又は天井側に取り出すことができる。受電アダプタ20には,照明その他の電気機器23を直接接続し,或いはコンセントボックス22を組み合わせて複数の電気機器23を接続することができる。図6のワイヤレス給電システムは,建築部材であるデッキプレート11をそのまま利用して建物1内に縦横無尽に並列導波管10を張り巡らせることができ,システム導入コストを低く抑えることができると共に,電力の取り出し位置を簡易に変更できることから給電の自由度の高いユビキタス電源としての役割を果たす。なお,建物1内の並列導波管10はデッキプレート11を利用したものに限定されず,例えば中空ボイドスラブの円形空洞部を利用することも可能であり,建物1の壁等の内部閉空間に形成することもできる。
【0006】
図7は,図6のワイヤレス給電システムにおいて,給電導波管13から各並列導波管10へ分配する電力量を調節するための無線電力分配器50の一例を示す。図6のようなシステムは,建物1内の電力使用状況に応じて各並列導波管10の電力使用状況が変化するので,並列導波管10毎に供給する電力波の密度(電力量)を適宜調節して電力の効率的利用を図ることが望ましい。図7の電力分配器50は,複数の窓54a,54b,54c……が穿たれた主導波管52と,その窓54a,54b,54c……に連なる分岐導波管53a,53b,53c……とを備えている。主導波管52を並列導波管10a,10b,10c……と交差する向きに重ねて配置し,各分岐導波管53a,53b,53c……によって主導波管52の各窓54a,54b,54c……を適当な方法,例えば同図(B)のように同軸プローブ58を用いて各並列導波管10a,10b,10c……に電磁的に結合する。
【0007】
図7(A)の電力分配器50の各電力分岐部には,主導波管52の窓54a,54b,54c…と対向する内壁に管内側(窓側)へ突出させて設けた誘導性壁部材56a,56b,56c……と,窓54の周縁に窓中央側へ突出させて設けた誘導性窓周縁部材(一対の窓周縁部材からなる)57a,57b,57c……とが設けられている。同図(C)に示すように,主導波管52の各分岐部の入力電力のうち分岐導波管53へ取り出せる電力の割合(以下,分配割合又は取り出し割合ということがある)は,その分岐部の壁部材56の突出量xと窓周縁部材57の突出量mとに応じて調節できる。例えば,各壁部材56の可動機構と各窓周縁部材57の可動機構とを電力分配器50に含め,各並列導波管10の電力使用状況に応じて各分岐部の壁部材56及び窓周縁部材57を移動させて突出量x及び突出量mを調整することにより,給電導波管13から供給される電力量を並列導波管10毎に適宜調節することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−261187号公報
【特許文献2】特開2006−166662号公報
【特許文献3】特開2007−244015号公報
【特許文献4】特開2009−094745号公報
【特許文献5】特開2003−174457号公報
【特許文献6】特開2008−028549号公報
【特許文献7】特表2001−523810号公報
【特許文献8】特開2004−228691号公報
【特許文献9】特開2009−038924号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】中島将光「マイクロ波工学 基礎と原理」森北出版株式会社,1975年4月第1版発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図6及び図7に示すワイヤレス給電システムによって電力波だけでなく通信信号搬送波を併せて伝送すれば,上述した有線の電力線通信(PLC)技術と同様の目的を無線で達成することができる。無線を用いた通信信号搬送技術は無線LAN等として広く普及しており,例えば情報セキュリティ確保等の観点から導波管を用いた建物内のワイヤレス通信技術が提案されており(特許文献5,6参照),オフィスビル等の換気ダクトや金属配管を導波管として利用したワイヤレス通信(ダクト通信)も提案されている(特許文献7,8参照)。このようなワイヤレス通信の技術をワイヤレス給電システムと組み合わせ,図6の給電導波管13及び並列導波管10を用いて電力波と通信信号搬送波とを併せて伝送すれば,電磁波の漏洩等のない高度な情報セキュリティを確保することができると共に,漏洩電磁波による周辺機器や人体への悪影響も抑えることが期待できる。
【0011】
しかし,電力波と通信信号搬送波とを併せて伝送する場合は,その一方を取り出す際に他方の不所望な漏出が発生し,他方の効率的な伝送が阻害されるおそれがある。例えば,上述した図7のワイヤレス給電システムでは,電力使用状況に応じて並列導波管10毎に供給する電力波の密度(電力量)を調節することで電力の効率的利用を図っているが,並列導波管10において通信信号を取り出す際に電力波が不所望に漏出すると,その下流側において電力波密度が低下し,電力の効率的・安定的な利用が阻害されるおそれがある。また,電力を取り出す際に通信信号が不所望に漏出する可能性もある。電力波と通信信号搬送波とを同じ導波管で伝送する場合には,一方を取り出す際に他方の漏出を最小限に抑え,両者を効率的に伝送できる技術が求められる。
【0012】
そこで本発明の目的は,電力及び通信信号を効率的に伝送しつつ漏洩電磁波を小さく抑えることができるワイヤレス給電通信方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
図1及び図4の実施例を参照するに,本発明によるワイヤレス給電通信方法は,所定周波数f1の電力波を基本モードで伝送する導波管13により所定周波数f1より高い周波数f2(>f1)の通信信号搬送波を併せて伝送し,基本モードの腹位置に挿入したアンテナ31により電力を取り出し,基本モードの節位置に設けたアンテナ41により通信信号を取り出してなるものである。
【0014】
また,図1及び図4の実施例を参照するに,本発明によるワイヤレス給電通信システムは,所定周波数f1の電力波を基本モードで伝送し且つ所定周波数f1より高い周波数f2(>f1)の通信信号搬送波を併せて伝送する導波管13,基本モードの腹位置に挿入した電力取り出し用アンテナ31,及び基本モードの節位置に設けた通信信号取り出し用アンテナ41を備えてなるものである。
【0015】
好ましくは,通信信号搬送波の周波数f2を,電力波の所定周波数f1(例えばf1=2.45GHz)の2以上の整数倍の周波数(例えばf2=2.45×2=4.9GHz)とする。望ましくは,電力取り出し用アンテナ13を電界と平行に挿入した同軸プローブとし,通信信号取り出し用アンテナ41を管壁電流と平行に設けたスロットアンテナとする。
【0016】
更に好ましくは,導波管13を建物1の床2,天井3又は壁上に載置した給電導波管とし,建物1の床2,天井3又は壁の内部に電力波基本モードの腹位置の間隔(=λ1/2)で給電導波管13と交差する向きに延びる複数の並列導波管10を形成し,各並列導波管10の径を給電導波管13の電力波基本モードの腹位置と節位置とに跨る大きさとし,給電導波管13の腹位置及び節位置に設けた電力取り出し用アンテナ31及び通信信号取り出し用アンテナ41を選択的に各並列導波管10と接続することにより電力波及び通信信号搬送波を給電導波管13から並列導波管10に分配する。
【0017】
更に望ましくは,図1(B)及び(C)に示すように,各並列導波管10の電力波基本モードの腹位置に電力取り出し用の受電アダプタ20を設け,各並列導波管10の電力波基本モードの節位置に通信信号取り出し用の通信アンテナ26又は通信アダプタ27を設ける。各並列導波管10には,給電導波管13から分配した電力を用いて給電導波管13から分配した通信信号を増幅する増幅器45を設けることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるワイヤレス給電通信方法及びシステムは,導波管13によって所定周波数の電力波f1を基本モードで伝送すると共に所定周波数f1より高い周波数f2(>f1)の通信信号搬送波を併せて伝送し,その基本モードの腹位置に挿入したアンテナ31により導波管13から電力を取り出し,その基本モードの節位置に設けたアンテナ41により導波管13から通信信号を取り出すので,次の効果を奏する。
【0019】
(イ)電力波の基本モードの節位置のアンテナ41で通信信号搬送波を取り出すことにより,通信信号を取り出す際の電力の漏出を最小限に抑え,下流側における電力波密度の低下を防ぐことができる。
(ロ)また,例えば通信信号搬送波の周波数f2を電力波の所定周波数f1の整数倍とすることにより,基本モードの腹位置の同軸プローブ31で電力波を取り出す際の情報信号搬送波の漏出も小さく抑え,情報セキュリティ機能に優れ且つ周辺機器や人体に対する悪影響を抑えたシステムとすることができる。
(ハ)このシステムを建物1の床2,天井3又は壁の内部に形成した並列導波管10に適用することにより,建物1内の任意場所に電力及び通信信号を効率よく供給することが可能となり,情報セキュリティを確保すると共に,コンセント等の位置に拘束されない自由なユビキタス電源及びユビキタス通信が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
以下,添付図面を参照して本発明を実施するための形態及び実施例を説明する。
図1】本発明によるワイヤレス給電通信システムの一実施例の説明図である。
図2】方形導波管内の電力波及び情報通信搬送波の電界分布を示す説明図である。
図3図1のワイヤレス給電通信システムの可変分配装置の説明図である。
図4】本発明によるワイヤレス給電通信システムの他の実施例の説明図である。
図5】円形導波管を用いた本発明のワイヤレス給電通信システムの説明図である。
図6】従来のワイヤレス給電システムを設けた建物の床スラブの説明図である。
図7】従来のワイヤレス給電システムの可変分配装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は,図6と同様に建物1の床スラブ2のデッキプレート11の底面側を遮蔽板12で塞ぐことにより複数の並列導波管10を形成し,その並列導波管10に本発明のワイヤレス給電通信システムを適用した実施例を示す。また,図示例の並列導波管10の下方には,各並列導波管10の長手方向と交差する方向に給電導波管13が設置されており,その給電導波管13にも本発明のワイヤレス給電通信システムが適用されている。給電導波管13には,例えばマグネトロン等の電磁波発生装置15(図6参照)から所定周波数f1(例えば2.45GHz)の電力波が供給されると共に(図中に黒三角矢印で表す),例えば無線LAN装置等の通信信号発生装置16(図6参照)から所定周波数f1より高い周波数f2(例えば4.9〜5.8GHz)の通信信号搬送波が供給される(図中に白三角矢印で表す)。
【0022】
給電導波管13及び並列導波管10の断面形状は,それぞれ所定周波数f1の電力波が基本モードで伝送されるように設計する。或いは,給電導波管13及び各並列導波管10の断面形状が所定である場合は,電力波が基本モードで伝送されるように所定周波数f1を選択する。例えば電力波の所定周波数f1を2.45GHz(波長λ1=122mm)とした場合,給電導波管13及び各並列導波管10を縦50mm程度,横120mm程度の方形断面とすることにより,給電導波管13及び各並列導波管10にそれぞれ基本モードによる電力波の定在波を発生させることができる(図2参照)。導波管内の閉空間では,その断面形状の大きさにより通過できる電磁波の周波数の下限(カットオフ周波数)が決定され,カットオフ周波数以上において基本モードで伝搬する最小の所定周波数f1を用いることにより,電力波の伝搬特性を効率的に制御することができる(非特許文献1参照)。ただし,本発明を適用できる導波管13,10は方形断面に限るものではなく,例えば図5に示すように導波管10を円形断面とすることも可能である。
【0023】
給電導波管13に設けた本発明のワイヤレス給電通信システムは,導波管13の基本モードの腹位置に挿入する電力取り出し用アンテナ31と,基本モードの節位置に設けた通信信号取り出し用アンテナ41とを有する。電力取り出し用アンテナ13の一例は,導波管13の基本モードの腹位置に電界と平行に挿入した同軸プローブであり,通信信号取り出し用アンテナ41の一例は導波管13の管壁電流と平行に穿ったスロットアンテナである。例えば,方形断面の給電導波管13に所定周波数f1=2.45GHzの電力波を基本モードで伝送した場合,例えば図2の電界分布(電力)に示すように,61mm(=波長λ1/2)毎に腹位置が交互に表れるので,図1(A)に示すように導波管13のH面の腹位置に電界と平行に同軸プローブ31を挿入する。また,各腹位置から30.5mm(=波長λ1/4)だけ隔てて節位置が表れるので,その節位置に管壁電流と平行にスロットアンテナ41を形成する。スロットアンテナ41の長さは,通信信号搬送波の波長λ2の半分(=λ2/2)程度とすることが望ましい。
【0024】
また,給電導波管13と交差させる並列導波管10は,給電導波管13の基本モードの腹位置の間隔(=λ1/2)で並ぶように形成し,且つ,各々の径を給電導波管13の電力波基本モードの腹位置と節位置とに跨る大きさとする。このような並列導波管10を形成することにより,図1(A)及び(B)に示すように,給電導波管13の腹位置及び節位置に設けた電力取り出し用アンテナ31及び通信信号取り出し用アンテナ41を選択的に各並列導波管10へと接続し,給電導波管13の電力波及び通信信号搬送波を各並列導波管10へ選択的に分配することが可能となる。すなわち,給電導波管13の各並列導波管10と交差する部位に設けた本発明のワイヤレス給電通信システム(アンテナ31,41)を,電力波及び通信信号搬送波の分配装置30として機能させることができる。
【0025】
複数の並列導波管10のうち,給電導波管13から電力波及び通信信号搬送波を分配する宛先は適宜選択可能であり,給電導波管13の各並列導波管10と交差する部位全てに分配装置30を配置する必要はない。図1(A)及び(B)に示すように,給電が必要な並列導波管10の交差部位の分配装置30には電力取り出し用アンテナ31を含め,通信が必要な並列導波管10の交差部位の分配装置30には通信信号取り出し用アンテナ41を含め,給電及び通信の両方が必要な並列導波管10の交差部位の分配装置30には両アンテナ31,41を含めればよい。給電及び通信の何れも必要としない並列導波管10の交差部位には,分配装置30の配置を省略することができる。
【0026】
図3は,給電導波管13から並列導波管10への分配装置30の拡大図(図1(C)の一点鎖線の楕円部分の拡大図)を示す。図3に示す分配装置30の同軸プローブ31は,中心導体32aの突出端に拡径部32bを設けてドアノブ型としたものであり,導波管13の断面形状に対して拡径部32bの径及び高さを適当に設計することで導波管13と同軸プローブ31とを整合させることができる。同軸プローブ31の一端を給電導波管13内に電界と平行に挿入すると挿入方向の電流が流れ,その電流が中心導体32aを伝搬することで,同軸プローブ31の他端を挿入した並列導波管10へ電力を取り出すことができる。
【0027】
他方,図3に示す分配装置30のスロットアンテナ41は,給電導波管13の基本モードの節位置に管壁電流と平行に設け,通信が必要な並列導波管10の対応する位置に設けたスロットと連通させる。図2は,周波数f1=2.45GHzの電界分布(電力)と共に,その周波数f1の2以上の整数倍(図示例では2倍)の周波数f2の通信信号搬送波の電界分布(情報信号)を併せて示している。同図から分かるように,周波数f2=4.9GHzの通信信号搬送波は,導波管13の断面形状に対して周波数f2が十分に小さいため幾つかのモードを生じるが,例えば図2の電界分布(通信信号)に示すように,約30.5mm(=波長λ1/2)毎に腹位置及び節位置が交互に表れるモードで伝送される。同図の通信信号搬送波の腹位置は電力波の節位置と対応しており,通信信号搬送波のつくる管壁電流の分布が大きくなる位置において電力波のつくる管壁電流の分布を小さくすることができる。このため,図3に示すように給電導波管13のH面(上面)の電力波の基本モードの節位置に管壁電流と平行にスロットアンテナ41を形成することにより,電力の漏出を小さく抑えながら通信信号を並列導波管10に効率的に取り出すことが可能となる。
【0028】
ただし,本発明において通信信号搬送波の周波数f2は,電力波の所定周波数f1の整数倍に限定されるものではなく,通信信号搬送波のつくる管壁電流の分布が大きくなる位置が電力波の基本モードの節位置となるような周波数を選択できる。例えば,通信信号搬送波が周波数f2=5.8GHz(波長λ=36mm)であるとすると,図2のように通信信号搬送波のモードの腹位置を電力波の基本モードの節位置と一致させることはできないが,波長が十分に大きいため幾つかのモードを生じるので,強度は比較的小さくなるがいろいろな場所で通信信号を取り出すことができる。従って,通信信号搬送波の周波数f2が電力波の所定周波数f1より十分に高ければ,電力波の基本モードの節位置にスロットアンテナ41を形成することにより,電力の漏出を小さく抑えながら通信信号を各並列導波管10に取り出すことができる。必要に応じて,後述するように並列導波管10に増幅器45を設け,取り出した通信信号の強度を増幅することも可能である。
【0029】
図3に示すワイヤレス給電通信システムの分配装置30は,同軸プローブ31及びスロットアンテナ41と共に,給電導波管13から各並列導波管10へ分配する電力量を調節するための回転導体板33,回転絞り板34,35,及び導体棒36を有している。回転導体板33は,プローブ31の近傍のE面上に設けたプローブ31と平行な回転軸33aを有しており,プローブ31を固定したまま,その回転角度φに応じてプローブ31の近傍の電界強度を変化させるができる。また,回転絞り板34,35は,プローブ31及び導体板32より下流側のE面(又はH面)上に設けた回転軸34a,35aを有しており,その回転角度θに応じて給電導波管13の断面積を変化させることによりプローブ31及び導体板33の上流側と下流側とを整合させ,給電導波管13内の電力波の反射を小さく抑えることができる。更に導体棒36は,給電導波管13のプローブ31近傍のH面に電界と平行に挿入された管内への突出長dが可変のものであり,その突出長dを調整することで,給電導波管13内の電力波の反射を更に小さく抑えるものである。
【0030】
図7を参照して上述したように,各並列導波管10に供給する電力波の密度(並列導波管10毎の電力分配量)は各々の電力使用状況の変化に応じて適宜調節することが望ましく,図示例のワイヤレス給電通信システムの分配装置30は,回転導体板33の回転角度φ,回転絞り板34,35の回転角度θ,及び導体棒36の突出長dにより,同軸プローブ31を介して給電導波管13から各並列導波管10に取り出す電力波の密度,すなわち並列導波管10毎の電力分配量を調整することができる。回転導体板33,回転絞り板34,35,及び導体棒36の作用については,特許文献4に詳述されている。これに対し,スロットアンテナ41を介して給電導波管13から各並列導波管10に取り出す通信信号搬送波の密度を調整することはできないが,取り出した通信信号の強度は増幅器45によって適宜増幅することができる。
【0031】
なお,図3の分配装置30は電力取り出し用の同軸プローブ31と通信信号取り出し用のスロットアンテナ41とが独立しているので,並列導波管10毎に回転導体板33,回転絞り板34,35,導体棒36によって給電導波管13から取り出す電力波の密度を調整した場合でも,その並列導波管10に給電導波管13から取り出す通信信号搬送波に対する影響を避けることができる。すなわち,回転導体板33,回転絞り板34,35,導体棒36によって各並列導波管10に供給する電力波の密度を調整可能としつつ,通信が必要な並列導波管10には通信信号搬送波を確実に分配することにより,情報通信の遮断を確実に防止することができる。
【0032】
図1及び図3に示す増幅器45は,各並列導波管10において,給電導波管13から分配した電力を用いて給電導波管13から分配した通信信号を増幅するためのものである。給電導波管13から各並列導波管10に取り出された通信信号搬送波は,更に各並列導波管10の下流側まで伝送するため,伝送距離に応じて必要不可欠な強度を確保する必要がある。通信信号の取り出し時の強度や伝送距離は並列導波管10毎に相違しているため,取り出した通信信号の強度は並列導波管10毎に調整することが望ましい。図示例の増幅器45は,例えば電力波を基本モードで伝送する各並列導波管10の腹位置に設けることができ,並列導波管10における電力波の効率的な伝送を妨げることなく,その電力波の一部を利用して通信信号搬送波を必要な強度に増幅することができる。
【0033】
例えば図3では,各並列導波管10の端縁の短絡板(端部板)が電力波の基本モードの節位置となることから,その短絡版から所定波長λ1の1/4(=λ1/4)の位置に増幅器45を設けている。ただし,増幅器45はそれほど大きな電力を必要としないので,必ずしも並列導波管10の基本モードの腹位置に設ける必要はなく,例えば基本モードの節位置に設けることも可能である。また,通信信号搬送波は各並列導波管10においても複数のモードが混在しており,どの位置においても通信信号の強さは大きく異ならないので,増幅器45がどの位置にあっても入力可能である。
【0034】
図1(B)及び(C)に示すように,給電導波管13から電力波及び通信信号搬送波が分配された各並列導波管10には,電力波の基本モードの腹位置に電力取り出し用のレクテナ21付き受電アダプタ20を設け,電力波の基本モードの節位置に通信信号取り出し用の通信アンテナ26又は通信アダプタ27を設けることができる。並列導波管10における電力波は,図2の電界分布(電力)と同様に波長λ1/2毎に腹位置及び節位置が交互に表れる基本モードで伝搬されるので,その腹位置に受電アダプタ20のレクテナ21を挿入することで,通信信号の漏出を小さく抑えつつ電力を効率的に取り出すことができる。そのような受電アダプタ20の一例は,特許文献9が開示するレクテナ整流回路及び二次電池を有する無線電力アダプタである。また,基本モードの節位置に通信アンテナ26(例えば管壁電流と平行に設けたスロットアンテナ)又は通信アダプタ27を設けることにより,電力波の漏出も小さく抑えつつ通信信号を効率的に取り出すことができる。
【0035】
こうして本発明の目的である「電力及び通信信号を効率的に伝送しつつ漏洩電磁波を小さく抑えることができるワイヤレス給電通信方法及びシステム」の提供を達成できる。
【0036】
なお,上述したように本発明のワイヤレス給電通信システムでは,電力波と共に例えば無線LAN装置等からの通信信号搬送波を建物1の任意位置に供給することができるが,一般的な通信信号だけでなく,例えばシステムを効率的に稼働させてエネルギー効率の向上を図るための制御信号等を通信信号搬送波として伝送することができる。すなわち,上述したワイヤレス給電通信システムの分配装置30は,回転導体板33の回転角度φ,回転絞り板34,35の回転角度θ,及び導体棒36の突出長dにより給電導波管13から各並列導波管10に取り出す電力波の密度を各並列導波管10の電力使用状況に応じて制御しているが,そのような建物1内の各所の電力使用状況を制御部へ通信信号搬送波として伝送し,その情報に基づいて電磁波発生装置15の出力量,及び各分配装置30の分配量を制御する信号を通信信号搬送波として伝送することにより,建物1の各所における電力使用状況に応じたきめ細かな電力伝送を実現することもできる。その場合は,例えば各並列導波管10に設けた通信アダプタ27から通信信号搬送波を出力して制御装置(図示せず)へ送ることができる。
【実施例1】
【0037】
図4及び図5は,図1のようなデッキプレート11を用いた方形断面の並列導波管10に代えて,中空ボイドスラブ17に形成された円形断面の並列導波管10に本発明のワイヤレス給電通信システムを適用した実施例を示す。図示例の中空ボイドスラブ17には,それぞれ電力波が基本モードで伝送される円形断面の並列導波管10が形成されており,図5(A)に示すように,基本モードによる電力波の定在波を発生させることができる。図5(B)及び(C)に示すように,そのような電力波の基本モードの腹位置に電力取り出し用アンテナ(レクテナ)21を挿入して電力波を取り出し,基本モードの節位置に通信信号取り出し用アンテナ(スリットアンテナ)26を設けて通信信号を取り出すことができる。
【0038】
図4は,図1と同様の方形断面の給電導波管13と中空ボイドスラブ17に形成された並列導波管10とを組み合わせ,その給電導波管13と各並列導波管10との交差部位に図1と同様のワイヤレス給電通信システムの分配装置30を設けた実施例を示す。図4においても,図1の場合と同様に分配装置30の同軸プローブ31を介して給電導波管13から円形断面の並列導波管10へ電力波を分配し,分配装置30のスリットアンテナ41を介して給電導波管13から円形断面の並列導波管10へ通信信号搬送波を分配することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…建物 2…床
3…天井 5…コンクリート
6…鉄骨梁 8…天井材
10…並列導波管
11…デッキプレート 12…遮蔽板
13…給電導波管 14…中継導波管
15…電磁波発生装置 16…通信信号発生装置
17…中空ボイドスラブ
19…短絡板
20…受電アダプタ 21…レクテナ
22…コンセントボックス 23…電気機器
26…通信アンテナ 27…通信アダプタ
30…(可変)分配装置
31…同軸プローブ 32a…中心導体
32b…拡径部 33…導体板
33a…導体板回転軸 34…絞り板
34a…絞り板回転軸 35…絞り板
35a…絞り板回転軸 36…導体棒
41…スロットアンテナ 45…増幅器
50…無線電力分配器 52…主導波管
53…分岐導波管 54…窓
56…誘導性壁部材 57…誘導性窓周縁部材
58…同軸プローブ 58b…拡径部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7