(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198344
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】ブロックトメルカプトシランカップリング剤
(51)【国際特許分類】
C07F 7/08 20060101AFI20170911BHJP
C08K 5/548 20060101ALI20170911BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20170911BHJP
B60C 1/00 20060101ALN20170911BHJP
【FI】
C07F7/08 QCSP
C08K5/548
C08L21/00
!B60C1/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-546486(P2014-546486)
(86)(22)【出願日】2012年12月12日
(65)【公表番号】特表2015-504039(P2015-504039A)
(43)【公表日】2015年2月5日
(86)【国際出願番号】EP2012075239
(87)【国際公開番号】WO2013087698
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2015年12月11日
(31)【優先権主張番号】1161781
(32)【優先日】2011年12月16日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514326694
【氏名又は名称】コンパニー ゼネラール デ エタブリッスマン ミシュラン
(73)【特許権者】
【識別番号】508032479
【氏名又は名称】ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】ロンシャンボン カリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】アラウホ ダ シルヴァ ホセ カルロス
(72)【発明者】
【氏名】セボート ニコラス
【審査官】
土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0294915(US,A1)
【文献】
国際公開第2010/072682(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/18
C08K 5/548
C08L 21/00
B60C 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)に対応するブロックトメルカプトシラン:
(HO) R12 Si − Z − S − C (= O) − A (I)
・同一または異なっている記号R1は、各々1〜18個の炭素原子を持つ直鎖または分岐アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選択される一価の炭化水素基を表し、
・記号Aは水素原子または1〜18個の炭素原子を持つ直鎖または分岐アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基および2〜8個の炭素原子を持つ直鎖または分岐アルコキシアルキル基から選択される一価の炭化水素基を表し、
・記号ZがC1-C18アルキレン基およびC6-C12アリーレン基から選択される。
【請求項2】
・前記記号R1が、メチル、エチル、n-プロピルおよびイソプロピル基から選択され、
・前記記号Aが1〜18個の炭素原子を持つアルキル基およびフェニル基から選択される、
請求項1に記載のメルカプトシラン。
【請求項3】
前記ZがC1-C10アルキレン基から選択される、請求項2記載のメルカプトシラン。
【請求項4】
前記ZがC1-C4アルキレン基から選択される、請求項3記載のメルカプトシラン。
【請求項5】
前記記号R1がメチル基である、請求項2〜4の何れか1項に記載のメルカプトシラン。
【請求項6】
前記Aが、1〜7個の炭素原子を持つアルキル基およびフェニル基から選択される、請求項2〜5の何れか1項に記載のメルカプトシラン。
【請求項7】
前記記号R1がメチル基であり、前記Zがプロピレン基であり、かつ前記Aがヘプチル基である、請求項2〜6の何れか1項に記載のメルカプトシラン。
【請求項8】
以下の段階を含むことを特徴とする、請求項1〜7の何れか1項に記載のメルカプトシランの製造方法:
・出発物質が以下の式(B)のブロックトメルカプトシラン(以下、製品Bと呼ぶ)であり:
(R2O) R12 Si − Z − S − C (= O) − A (B)
ここで、R1、AおよびZは、上記一般式(I)におけるものと同一の意味を持ち、
同一または異なっているR2は、1〜6個の炭素原子を持つアルキル基から選択される一価の炭化水素基を表し、
・上記式(I)で表される、目標とするブロックトメルカプトシランの製造を可能とする、加水分解を酸性媒体中で行う。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか1項に記載のメルカプトシランの、カップリング剤としての使用。
【請求項10】
ゴム組成物における、請求項1〜7の何れか1項に記載のメルカプトシランの、カップリング剤としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばタイヤの製造を意図したゴム組成物において、特に強化無機フィラーとジエンエスラトマーとをカップリングするために使用することのできる、メルカプトシランカップリング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、フィラーによって与えられる最適の強化特性を得るためには、該フィラーが上記エラストマーマトリックス中に、出来る限り微細に粉砕され、かつできる限り均一に分散された最終的な形状で存在することが有利であることは公知である。実際のところ、このような状態は、該フィラーが、一方において該エラストマーとの混合中に、該マトリックス中に極めて良好に配合されて、解凝集し得る能力、および他方においてこのマトリックス内に均一に分散され得る能力を示す限りにおいてのみ達成し得る。
全く公知の通り、カーボンブラックは、無機フィラーについて一般的とは言えない、このような能力を示す。事実、逆のアフィニティーという理由から、該無機フィラー粒子は、該エラストマーマトリックス内で一緒に凝集を引起すという不適切な傾向を持つ。これら相互作用は、該フィラーの分散性および結果としてその強化特性を、上記配合操作中に生成し得る結合の全て(無機フィラー/エラストマー)が、実際に得られた場合に、このものが理論的に達成し得るであろうレベルよりも実質的に低いレベルに制限してしまうという、有害な結果を持つ。更に、これらの相互作用は、該ゴム組成物の未加工状態におけるコンシステンシーを増大し、かつ結果的にカーボンブラックの存在下での加工よりも、その加工をより一層困難にする傾向を持つ。
【0003】
しかし、燃料の節約及び環境保全に対する要求が、優先されるようになってきたことから、タイヤの耐摩耗性に悪影響を及ぼすことなしに、低い転がり抵抗を持つタイヤを製造する必要があることが立証されている。これは、特に、強化の観点から、従来のタイヤグレードのカーボンブラックに対抗し得る、「強化」剤として記載される特定の無機フィラーにより強化された新規なゴム組成物の発見により可能となり、一方でこれら組成物には低いヒステリシスが付与され、この低いヒステリシスは、該フィラーを含有するタイヤに関する低い転がり抵抗と同義である。
ケイ質またはアルミナ質型の強化無機フィラーを含む、このようなゴム組成物は、例えば以下の特許または特許出願に記載されている:EP-A-0 501 227(またはUS-A-5 227 425)、EP-A-0 735 088(またはUS-A-5 852 099)、EP-A-0 810 258(またはUS-A-5 900 449)、EP-A-0 881 252、WO99/02590、WO99/02601、WO99/02602、WO99/28376、WO00/05300またはWO00/05301。
【0004】
特に、以下の文書:EP-A-0 501 227、EP-A-0 735 088またはEP-A-0 881 252を挙げることができ、これら文書は、高度に分散性の沈降シリカで強化されたジエンゴム組成物を開示しており、このような組成物は、顕著に改善された転がり抵抗を有し、しかもその他の特性、特にグリップ性能、耐久性および耐摩耗性に悪影響を及ぼすことのないタイヤトレッドの製造を可能とする。相容れない特性におけるこのような折衷を示すかかる組成物は、また特許出願EP-A-0 810 258およびWO 99/28376において記載されており、そこでは強化無機フィラーとして特定の高-分散性アルミナ質フィラー(アルミナまたは(酸化)水酸化アルミニウム)を使用しており、あるいはまた特許出願WO 00/73372およびWO 00/73373においても記載されており、後者では強化型の特定の酸化チタンが記載されている。
支配的なまたは非支配的な強化フィラーとしての、これら特定の高度に分散性の無機フィラーの使用は、これらを含有するゴム組成物を加工する際の困難を確実に減じたが、それにも拘らずこの加工は、フィラーとしてカーボンブラックを含有する従来のゴム組成物よりも、一層困難なままである。
特に、結合剤としても知られるカップリング剤を使用する必要があり、これは上記無機フィラー粒子表面と上記エラストマーとの間に結合を与えるという役割を持ち、一方で該エラストマーマトリックス内へのこの無機フィラーの分散を容易にする。
【0005】
ここで、以下のことを思い起こすべきである。即ち、公知のとおり、上記用語「カップリング剤」(無機フィラー/エラストマー)とは、該無機フィラーと該ジエンエスラトマーとの間に、化学的および/または物理的性質を持つ満足な結合を設けることのできる薬剤を意味するものと理解されるべきであり、このような少なくとも二官能性のカップリング剤は、例えば単純化された一般式「Y-W-X」を持つ。ここで各記号は以下のとおりである:
・Yは該無機フィラーに対して物理的および/または化学的に結合し得る官能基(「Y」官能基)を表し、このような結合は、例えば該カップリング剤のケイ素原子と該無機フィラーの表面ヒドロキシル(OH)基(例えば、シリカが関連する場合の表面シラノール基)との間に設けることが可能である;
・Xは、例えば硫黄原子を介して該ジエンエスラトマーに対して物理的および/または化学的に結合し得る官能基(「X」官能基)を表し;
・Wは、YとXとを連結することのできる二価の基を表す。
上記カップリング剤は、特に無機フィラーに対する単なる被覆剤と混同されるべきではなく、該単なる被覆剤は、公知の通り該無機フィラーに対して活性な上記Y官能基を含み得るが、上記ジエンエスラトマーに対して活性な上記X官能基を含むことはない。
【0006】
多くの既存のカップリング剤の中では、メルカプトシランが、特に有利であることが立証されているが、これには極めて高い反応性が付与されていることから、ブロックトメルカプトシランが一般的に使用されている。
ここで、当業者には周知の如く、ブロックト(blocked)メルカプトシランは、ゴム組成物を製造する際にメルカプトシランを生成し得るシランプリカーサである(例えば、US 2002/0115767 A1または国際特許出願WO 02/48256を参照のこと)。以下においてブロックトメルカプトシランと呼ぶ、これらのシランプリカーサ分子は、対応するメルカプトシランの水素原子の代わりにブロッキング基を持つ。該ブロックトメルカプトシランは、その配合および硬化中に水素原子によって該ブロッキング基を置換することにより脱ブロッキング化して、より反応性の高いメルカプトシランを生成することを可能とし、ここで該反応性の高いメルカプトシランは、炭素原子に結合した少なくとも一つのチオール(-SH)(メルカプト-)基および少なくとも一つのケイ素原子を含む分子構造を持つシランとして定義される。即ち、これらブロックトメルカプトシランカップリング剤は、一般的にブロックトメルカプトシラン活性化剤の存在下で使用され、該活性化剤の役割は、とりわけ米国特許第7,122,590号において明確に述べられているように、該ブロックトメルカプトシランの活動を開始させ、これを促進し、かつ増幅することである。
タイヤ用ゴム組成物に対するこのような活性化剤または「脱ブロッキング剤」は、一般にグアニジン、特にN,N'-ジフェニルグアニジン、DPGで構成されている。
【0007】
驚いたことに、本出願人の会社は、予想外にもこれら諸欠点の全てを解消し、また結果として特にカップリング剤として使用することを可能とする新規かつ特定のブロックトメルカプトシラン、同時にグアニジン誘導体を含まずあるいはこれを実質的に含まず、かつ酸化亜鉛を含まず、または実質上これを含まないブロックトメルカプトシランが、グアニジン誘導体および酸化亜鉛の存在下で同一のメルカプトシランについて得られるものと同様な、諸特性における折衷性の達成を可能とすることを見出した。
硫黄によるジエンエスラトマーの加硫が、ゴム工業、特にタイヤ工業界において広く利用されていることに注目すべきである。ジエンエスラトマーを加硫するためには、硫黄に加えて、様々な加硫促進剤および更に1種またはそれ以上の加硫活性化剤、極めて特定的には亜鉛誘導体、例えば酸化亜鉛(ZnO)または脂肪酸の亜鉛塩、例えばステアリン酸亜鉛を含む、比較的複雑な加硫系が使用される。
タイヤ製造業者等の中期的な目的の一つは、亜鉛またはその誘導体といった化合物の、特に水および水生生物(1996年12月9日の、ヨーロピアンディレクティブ(European Directive) 67/548/ECに従う分類R50)に係る、公知の比較的高い毒性のために、該亜鉛またはその誘導体をこれらのゴム処方物から排除することにある。
しかしながら、特にシリカ等の無機フィラーによって強化されたゴム組成物からの、酸化亜鉛の排除は、未加工状態にあるゴム組成物の加工特性(「加工性」)に対して極めて大きな損害を及ぼし、工業的な観点から全く受け入れることのできない、スコーチ時間における減少をもたらすことが分かっている。該「スコーチ」現象が、迅速に、ミキサ内でのゴム組成物の製造中に、早すぎる加硫(「スコーチ」)、未加工状態における極めて高い粘度、最終的にゴム組成物を加工しかつ工業的に処理することを実質上不可能としてしまうことを思い起こすべきである。
【発明の概要】
【0008】
かくして、シリカおよびカップリング剤として特定のブロックトメルカプトシランを含有する組成物における、これらの無視し得る量の、実際には存在することもない、グアニジン誘導体および酸化亜鉛の組合せは、驚くべきことに、脱ブロッキング剤の存在を必要とすることなしに、またこの組成物の諸特性における低下を伴うことなしに、該カップリング剤が反応することを可能とする。
結果として、本発明の第一の主題は、以下の一般式(I)に対応するブロックトメルカプトシランにある:
(HO) R
12 Si ─ Z ─ S ─ C (= O) ─ A (I)
ここで、
・同一または異なっている記号R
1は、各々1〜18個の炭素原子を持つ直鎖または分岐アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選択される一価の炭化水素基を表し、
・記号Aは水素原子または1〜18個の炭素原子を持つ直鎖または分岐アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基および2〜8個の炭素原子を持つ直鎖または分岐アルコキシアルキル基から選択される一価の炭化水素基を表し、
・記号Zは1〜18個の炭素原子を含む二価の結合基を表す。
更に、本発明の主題は、以下の段階を含む、上記一般式(I)で表されるメルカプトシランの製造方法にある:
・出発物質が以下の式(B)のブロックトメルカプトシラン(以下、製品Bと呼ぶ)であり:
-(R
2O) R
12 Si ─ Z ─ S ─ C (= O) ─ A (B)
ここで、R
1、AおよびZは、上記一般式(I)におけるものと同じ意味を持ち、
同一または異なっているR
2は、1〜6個、好ましくは1〜3個を持つアルキル基から選択される一価の炭化水素基を表し、
・上記式(I)で表される、目標とするブロックトメルカプトシランを得ることを可能とする、加水分解を酸性媒体中で行う。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記カップリング剤がテストされる、上記ゴム組成物は、以下において示されるように硬化前後において特徴付けされる。
I. 計測及び使用される試験
I-1. 引張テスト
これらの引張テストは、弾性応力および破断点における諸特性の測定を可能とする。特に指摘されない限り、該引張テストは、1988年9月のフレンチスタンダード(French Standard) NF T 46-002に従って行われる。公称割線モジュラス(またはMPa単位で示される見掛けの応力)は、100%伸び(M100で示す)および300%伸び(M300)における第二の伸び(即ち、該測定自体に対して予想された伸長率における調節サイクル後)によって測定される。
I-2. 動的性質
動的性質ΔG
*およびtan(δ)
maxは、標準規格ASTM D 5992-96に従って、粘度解析装置(メトラビブ(Metravib) VA4000)で測定される。10Hzなる周波数にて、単純な交流正弦波剪断応力に掛けられた、加硫処理された組成物からなるサンプル(厚み4mmおよび400mm
2なる断面を持つ円筒状のテスト用検体)の23℃または40℃における応答が記録される。歪振幅掃引は、0.1%から50%まで(外向きのサイクル)また引続き50%から1%まで(戻りサイクル)で行われる。使用される結果は、複素動的剪断弾性率(G
*)および動的損失率tan(δ)である。該戻りサイクルに対して、観測されたtan(δ)の最大値(tan(δ)
max)および0.1%および50%歪における値同士の、複素弾性率における差(ΔG
*)(ペイン(Payne)効果)が示される。
【0010】
II. 本発明を実施するための条件
II-1. 本発明のブロックトメルカプトシラン
本発明の第一の主題は、以下の一般式(I)で表されるブロックトメルカプトシランにある:
(HO)
2 R
1 Si ─ Z ─ S ─ C (= O) ─ A (I)
・記号R
1は、1〜18個の炭素原子を持つ直鎖または分岐アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選択される一価の炭化水素基を表し、
・記号Aは水素原子または1〜18個の炭素原子を持つ直鎖または分岐アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基から選択される一価の炭化水素基を表し、
・記号Zは1〜18個の炭素原子を含む二価の結合基を表す。
上記ZはO、SおよびNから選択される1またはそれ以上のヘテロ原子を含む。
有利には、上記式(I)において
・上記記号R
1はメチル、エチル、n-プロピルおよびイソプロピル基、好ましくはメチルおよびエチル基から選択され、
・上記記号Aは1〜18個の炭素原子を持つアルキル基およびフェニル基から選択され、
・上記記号ZはC
1-C
18アルキレン基およびC
6-C
12アリーレン基から選択される。
一態様によれば、上記ZはC
1-C
10アルキレン基から選択され、またより好ましくは該ZはC
1-C
4アルキレン基から選択される。
もう一つの態様によれば、上記記号R
1はメチル基である。
好ましくは、上記Aは1〜7個の炭素原子を持つアルキル基およびフェニル基から選択される。
特に、S-オクタノイルメルカプトプロピルジヒドロキシメチルシランを挙げることができ、即ち、上記式(I)においてR
1はメチル基であり、Zはプロピレン基であり、かつAはヘプチル基であるようなメルカプトシランである。
【0011】
II-2. 合成法
本発明による、上記式(I)のブロックトメルカプトシランの製造方法は、以下の段階を含む:
出発物質は以下の式(B)のブロックトメルカプトシラン(以下、製品Bと呼ぶ)である:
(R
2O) R
12 Si ─ Z ─ S ─ C (= O) ─ A (B)
ここで、
・R
1、AおよびZは、上記一般式(I)におけるものと同一であり、
・同一または異なっているR
2は、1〜6個、好ましくは1〜3個を持つアルキル基から選択される一価の炭化水素基を表す。
上記製品Bは、特に、「非ブロックト」メルカプトシランから、これをチオエステル化に掛けることにより得ることができることに注意すべきである。
加水分解を酸性媒体中で行う。これは、上記式(I)で表される、目標とするブロックトメルカプトシランを得ることを可能とする。
II-3. カップリング剤としての使用
上記の如く、本発明の化合物は、その2倍の官能性のために、例えば、反応性ポリマーマトリックス(特に、ゴムマトリックス)とヒドロキシル化された表面を持つ任意の物質、特に無機物質(例えば、ガラス繊維)あるいは金属性物質(例えば、炭素鋼またはステンレススチール製のワイヤ)との間に、結合または接着をもたらすための、カップリング剤としての有利な工業的用途を持つ。
【0012】
これは制限されるものではないが、特に、例えばタイヤの製造を意図するゴム組成物における、強化無機またはホワイトフィラーおよびジエンエスラトマーのカップリングのために使用することができる。該用語「強化無機フィラー」とは、公知の通り、その色およびその起源(天然または合成)の如何に拘らず、またカーボンブラックとの対比で、「ホワイトフィラー(white filler)」あるいはしばしば「クリアフィラー(clear filler)」としても知られている、無機またはミネラルフィラーを意味するものと理解され、この無機フィラーは、それ自体単独で、中間的なカップリング剤以外の如何なる手段をも用いずに、タイヤの製造を意図するゴム組成物を強化でき、換言すればその強化的な役割において、従来のタイヤグレードのカーボンブラックフィラーを置換えることができる。
従って、このような用途に対して、上記ジエンエスラトマーはポリブタジエン(BRs)、合成ポリイソプレン(IRs)、天然ゴム(NR)、ブタジエン/スチレンコポリマー(SBRs)、ブタジエン/イソプレンコポリマー(BIRs)、ブタジエン/アクリロニトリルコポリマー(NBRs)、イソプレン/スチレンコポリマー(SIRs)、ブタジエン/スチレン/イソプレンコポリマー(SBIRs)およびこれらエラストマーの混合物からなる高度に不飽和のジエンエスラトマーからなる群から選択されることが好ましい。
本発明のモノヒドロキシシランが、例えば旅客車両用タイヤトレッドの全てまたはその一部を製造するためのゴム組成物における、カップリング(無機フィラー/ジエンエスラトマー)のためのものである場合、結果として該ジエンエスラトマーは、好ましくはSBRまたはSBRと他のジエンエスラトマー、例えばBR、NRまたはIRとのブレンド(混合物)である。該SBRエラストマーの場合、特に20%と30質量%との間のスチレン含有率、15%と65%との間の該ブタジエン部分のビニル結合の含有率、15%と75%との間のtrans-1,4-結合の含有率および-20℃と-55℃との間のガラス転移温度(Tg、これは標準規格ASTM D3418-82に従って測定された)を持つSBRが使用され、このSBRコポリマーは、好ましくは溶液で製造され(SSBR)、場合により好ましくは90%を超えるcis-1,4-結合を持つポリブタジエン(BR)との混合物として使用される。
【0013】
上記トレッドがユーティリティータイヤ、例えばヘビーデューティービークルのタイヤを意図している場合、上記ジエンエスラトマーは、結果として好ましくは、イソプレンエスラトマー、即ち、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(IRs)、様々なイソプレンコポリマーおよびこれらエラストマーの混合物からなる群から選択されるジエンエスラトマーであり、従って、該ジエンエスラトマーは、より好ましくは、天然ゴムまたは90%を超える、より一層好ましくは98%を超えるcis-1,4-結合の含有率(モル%)を持つ、cis-1,4-型の合成ポリイソプレンである。
本発明のブロックトメルカプトシランは、ジエンエスラトマーとシリカ等の強化無機フィラーとのカップリングのために、それ自体単独で十分に効果的であることが立証されており、1phr(phr:エラストマー100部当たりの質量部)を超える、より好ましくは2phrと20phrとの間の好ましい含有率にて使用されている。これらは、有利には無機フィラーにより強化された、またタイヤを製造するためのゴム組成物中に存在する唯一のカップリング剤を構成し得る。
強化無機フィラーとして、ケイ質型のミネラルフィラー、特にシリカ(SiO
2)または上記アルミナ型のフィラー、特にアルミナ(Al
2O
3)、または(酸化)水酸化アルミニウム、あるいはまた上記特許または特許出願に記載されているような強化酸化チタンを挙げることができる。
【実施例】
【0014】
III. 本発明を実施した例
III-1 使用するブロックトメルカプトシラン
III-1.1 本発明によらないシランNXT (メルカプトシラン「M1」)
シランNXT(Silane NXT)は、以下の展開式(Et=エチル基)を持つS-オクタノイルメルカプトプロピルトリエトキシシランであることを思い起こすべきである:
【0015】
【化1】
【0016】
実施例においては、GEシリコーンズ(GE Silicones)により、シランNXT(Silane NXT
TM)なる名称の下に市販されている、上記S-オクタノイルメルカプトプロピルトリエトキシシランを使用する。
III-1.2 本発明によるS-オクタノイルメルカプトプロピルヒドロキシジメチルシラン(メルカプトシラン「M2」)
以下の実験において使用したブロックトメルカプトシランの一つは、以下の式で表されるS-オクタノイルメルカプトプロピルヒドロキシジメチルシランである:
【0017】
【化2】
【0018】
【化3】
【0019】
CAS番号[1024594-66-8]を持つS-オクタノイルメルカプトプロピルエトキシジメチルシランAの製造については、ミシュラン(Michelin)の特許出願FR 2 940 301/WO 2010072682に記載されている。
上記製品Bは、触媒的酸性媒体中での加水分解により調製される。
S-オクタノイルメルカプトプロピルエトキシジメチルシランA(59.0g、0.194モル(M))を、1%酢酸、脱イオン水(60mL)およびアセトン(300mL)の混合物に添加する。この溶液を周囲温度にて1.5-2時間攪拌する。20-23℃にて減圧下に該溶媒を蒸発させた後、得られた混合物をシリカカラム(1:1なる比の石油エーテルおよび酢酸エチルからなる溶離液混合物)上でクロマトグラフィー処理する。
20-24℃にて減圧下に該溶媒を蒸発させた後、オイル(41g、0.148M、収率:76%)が得られる。
このもののNMR分析は、97%を超えるモル純度にて得られるS-オクタノイルメルカプトプロピルヒドロキシジメチルシランの構造を確認する。
上記NMR分析は、d
6-アセトン中で行う。
キャリブレーション:該アセトンの残留
1Hシグナルに対して1.98ppmおよび
13Cのシグナルに対して29.8ppm。
【0020】
【化4】
【0021】
化学シフト
29Si:16.3ppm(TMSに対するキャリブレーション)
【0022】
III-2 ゴム組成物の製造:
以下の実験を以下に記載するように実施する:70%まで満たされ、かつ反応槽の初期温度が約90℃である、密閉式ミキサに、上記ジエンエスラトマー(SBRおよびBRブレンド)、少量のカーボンブラックを補充した上記シリカ、カップリング剤を導入し、次いで1〜2分間の混練後に、上記加硫系を除くその他の様々な成分を導入する。次いで、熱機械的作業を、約165℃という最大「降下」温度に達するまで、一段階(全混練期間は約5分間に等しい)で行う(非生産的段階)。このようにして得た混合物を回収し、冷却し、また次に上記被覆剤(これが存在する場合には)および該加硫系(硫黄およびスルフェナミド促進剤)を、70℃にて外部ミキサ(ホモフィニッシャー)に添加し、全成分を約5〜6分間混合する(生産的段階)。
このようにして得られた組成物を、引続きカレンダー掛けし、該組成物の物理的または機械的特性を測定するための、ゴムのプレート(2〜3mmの厚み)または薄いシートとし、あるいは裁断しおよび/または所定の寸法で組立てた後に、例えばタイヤ用の半完成製品、特にタイヤトレッドとして、直接使用することのできる付形要素とする。
【0023】
III-3 ゴム組成物の特徴付け
このテストの目的は、強化フィラーとしてシリカを含み、グアニジン誘導体を含まず、より具体的にはDPGを含まず、かつ亜鉛をも含まず、上記式(I)のブロックトメルカプトシラン(M2)を含む本発明によるタイヤトレッド用のゴム組成物の改善された諸特性を、従来と同様に市販のブロックトメルカプトシランM1、DPGおよび亜鉛を含有するコントロール組成物と比較して、明らかにすることにある。
このために、ジエンエスラトマー(SBR/BRブレンド)を主成分とする2種の組成物を、調製する。これらは、高度に分散性のシリカ(HDS)によって強化されている。
これら2種の組成物は、以下に列挙する技術的な特徴において本質的に異なっている:
・組成物C1は、DPG(1.5phr)と亜鉛(1.5phrのZnO)とを含むコントロール組成物である;
・組成物C2は、DPGおよび亜鉛を含まず、かつメルカプトシランM2を含む、本発明による組成物である。
【0024】
これら組成物C1およびC2の諸特性を比較可能なものとするために、組成物C2のブロックトメルカプトシランカップリング剤が、コントロール組成物C1と比較して、等モルのケイ素含有率にて使用されることに注意すべきである。
以下の表1および2は、様々な組成物の処方(表1:phr単位、即ちエスラトマー100部当たりの質量部で表した、様々な製品の含有率)および該組成物の硬化(150℃にて約40分間)後における諸特性を与えるものである。上記加硫系は、硫黄およびスルフェナミドからなっている。
表2は、上記式(I)のブロックトメルカプトシランを含み、かつDPGおよび亜鉛を含まない、本発明による組成物C2が、ブロックトメルカプトシランM1を含み、かつDPGおよび亜鉛をも含む従来のコントロール組成物C1に匹敵する強化(M300/M100)を持つことを可能とするという事実を強調している。
さらに、本発明によるブロックトメルカプトシランの使用が、環境上の観点から特に有利であることに気付くことができる。これは、同時に、亜鉛の排除により、上記諸問題点の解決を可能とする。
【0025】
【表1】
(1) 41%のスチレン単位、41%の1,2-ポリブタジエン単位および37%のtrans-1,4-ポリブタジエン単位を含むSSBR(Tg = -12℃);
(2) 0.7%の1,2-;1.7%のtrans-1,4-;98%のcis-1,4-を含むBR(Nd)(Tg = -105℃);
(3) ロディア(Rhodia)社からのマイクロビーズ形状にあるシリカ、ゼオシル(Zeosil) 1165 MP (BETおよびCTAB:約150-160m
2/g);
(4) N234(デグッサ(Degussa)社);
(5) オレイン系ヒマワリ油[カーギル(Cargill)社からのアグリピュア(Agripure) 80];
(6) ポリリモネン樹脂[クレイバレー(Cray Valley)社からのレジンゼア(Resine THER) 8644];
(7) ジフェニルグアニジン[フレクシス(Flexsys)社からのパーカシット(Perkacit) DPG];
(8) 巨大および微結晶性のオゾン亀裂防止ワックス混合物;
(9) 酸化亜鉛(工業グレード - ウミコア(Umicore));
(10) N-(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン(フレクシス(Flexsys)社からのサントフレックス(Santoflex) 6-PPD);
(11) ステアリン(Stearin)(プリステレン(Pristerene) 4931 - ユニケマ(Uniqema));
(12) N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェナミド(フレクシス(Flexsys)社からのサントキュア(Santocure) CBS)。
【0026】
【表2】