【文献】
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 編集,骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2006年版[online]Minds(マインズ)ガイドラインセンター,[2017年3月9日検索],インターネット,URL: http://minds.jcqhc.or.jp/n/med/4/med0046/G0000129/0001
【文献】
佛淵 孝夫,骨粗鬆症の病態と治療 骨粗鬆症の新しい基準と問題点,臨床と研究,1999年4月,76(4),p.38−42(680−684)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1回当たり200単位のPTH(1−34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1−34)又はその塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、下記(1)〜(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とし、48週を超過して72週以上までの間投与される、骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−73376
【特許文献2】WO00/10596
【特許文献3】特開平5−306235
【特許文献4】特開昭64−16799
【特許文献5】WO02/002136
【特許文献6】特開2003−095974号
【非特許文献】
【0011】
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【非特許文献2】CLINICAL CALCIUM、Vol.17、No.1、48−55、2007
【非特許文献3】FORTEO(登録商標)teriparatide(rDNA origin)injection 750mcg/3mL、2008
【非特許文献4】ADVANCES IN ENZYMOLOGY、32、 221−296、1969
【非特許文献5】Hoppe Seyler’s Z.Physiol.Chem.、355、415、1974
【非特許文献6】J.Biol.Chem.、Vol.259、No.5、3320、1984
【非特許文献7】Pthobiology annual、11、53、1981
【非特許文献8】J.Biol.Chem.、Vol.266、2831−2835、1991
【非特許文献9】Marcus.& Aurbach,G.D、Endocrinology 85、801−810、1969
【非特許文献10】「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版」(ライフサイエンス出版)
【非特許文献11】M.Takai et al.、Peptide Chemistry 1979、187−192、1980
【非特許文献12】折茂 肇ら,原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)(1997)日本骨代謝学会雑誌14;219−233
【非特許文献13】原発性骨粗鬆症の診断基準および骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン(折茂 肇ら,骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版(2006) 34−35)
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【非特許文献15】N.Engl.J.Med.、Vol.344、No.19、1434−1441、2001
【非特許文献16】Clinical Diabetes、Vol.22、No.1、10−20、2004
【非特許文献17】川崎医学会誌、36(1)、23〜33、2010
【非特許文献18】Bone、Vol.32、86−95、2003
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【非特許文献23】N.Engl.J.Med.、Vol.358、No.12、1302−1304、2008
【非特許文献24】N.Engl.J.Med.、Vol.357、No.20、2028−2039、2007
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【非特許文献29】J.Clin.Endocrinol.Metab. 2001 Feb;86(2):511−6
【非特許文献30】J.Bone Miner.Res. 2004 May;19(5):745−51. Epub 2004 Jan 19
【非特許文献31】J.Clin.Endocrinol.Metab. 2009 Oct;94(10):3772−80. Epub2009Jul 7
【非特許文献32】Osteoporos.Int. 2007 ;18:59−68
【非特許文献33】J.Bone Miner.Res.、Vol.25、No.3、472−481(2010)
【非特許文献34】Osteoporos.Int. 1999;9:296−306
【非特許文献35】井上哲郎ら 骨粗鬆症の診断基準 脊椎単純X線像による骨量減少度および椎体変形の評価法. 厚生省厚生科学研究費補助金シルバーサイエンス研究 平成元年度研究報告, 1990.3.
【非特許文献36】J.Bone Miner.Metab. 1998 ;16(1):27−33
【非特許文献37】第26回日本骨代謝学会学術集会プログラム抄録集、O−025、147(Oct.2008)
【非特許文献38】ASBMR 31th Annual Meeting、「Weekly treatment with human parathyroid hormone (1−34) for 18 months increases bone strength via the amelioration of microarchitecture,degree of mineralization,enzymatic and non−enzymatic cross−links formation in ovariectomized cynomolgus monkeys」(SA0044, FR0044)
【非特許文献39】IOF World Congress on Osteoporosis & 10th European Congress on Clinical and Economic Aspects of Osteoporosis and Osteoarthritis、「ONCE−WEEKLY TREATMENT WITH TERIPARATIDE FOR 18 MONTHS INCREASES BONE STRENGTH VIA THE AMELIORATE TRABECULAR ARCHITECTURE, COLLAGEN ENZYMATIC AND NON−ENZYMATIC CROSS−LINK FORMATION IN OVARIECTOMIZED CYNOMOLGUS MONKEYS」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療ないし予防方法を提供することである。さらに、本発明の課題は、安全性の高いPTHによる骨折抑制ないし予防方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究開発を重ねた結果、驚くべきことに、PTHの投与量・投与間隔を限定することにより、効能・効果及び安全性の両面で優れた骨粗鬆治療ないし予防方法となることを見出した。また、PTHの投与量・投与間隔を特定することにより、安全性の高い骨折抑制/予防方法となることを見出した。さらに、それらの方法において、高リスク患者に対して特に効果を奏することも見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下に関するものである。
〔1〕カルシウム剤と併用され、かつ、1回当たり100〜200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔2〕併用されるカルシウム剤が週1回以上投与されることを特徴とする、前記〔1〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔3〕併用されるカルシウム剤が、カルシウムとして1日あたり200〜800mg投与されることを特徴とする、前記〔1〕または〔2〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔4〕前記PTHがヒトPTH(1−34)である、前記〔1〕〜〔3〕のいずれかである骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔5〕24週または48週を超過する期間にわたり投与するための、前記〔1〕〜〔4〕いずれかに記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔6〕下記(1)〜(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者を治療するための、前記〔1〕〜〔5〕のいずれかである骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。
〔7〕ステロイドを起因とする続発性骨粗鬆症、あるいは、糖尿病性骨粗鬆症を治療ないし予防するための、前記〔1〕〜〔6〕のいずれか1に記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔8〕 下記(1)〜(8)の少なくともいずれか1の疾病を合併症として有する骨粗鬆症を治療ないし予防するための、〔1〕〜〔6〕のいずれか1に記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)糖尿病、
(2)高血圧、
(3)高脂血症、
(4)関節痛、
(5)変形性脊椎症、
(6)変形性腰痛症、
(7)変形性股関節症、
(8)変形性顎関節症。
〔9〕 下記(1)〜(6)の少なくともいずれか1つの骨粗鬆症治療薬の投与歴がある骨粗鬆症患者に投与するための、〔1〕〜〔6〕のいずれか1に記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)L−アスパラギン酸カルシウム
(2)アルファカルシドール、
(3)エルカトニン、
(4)塩酸ラロキシフェン、
(5)メナテトレノン、
(6)乳酸カルシウム
〔10〕 軽度腎障害または中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための、〔1〕〜〔6〕のいずれか1に記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔11〕前記PTHがヒトPTH(1−34)である、前記〔6〕〜〔10〕のいずれか1の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔12〕前記PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤が皮下注射剤である、前記〔6〕〜〔11〕のいずれかに記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔13〕 前記〔1〕〜〔12〕のいずれか1に記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤と下記(1)〜(6)の少なくともいずれか1つの薬剤からなる合剤または医療用キット。
(1)メトクロプラミド、
(2)ドンペリドン、
(3)ファモチジン、
(4)クエン酸モサプリド、
(5)ランソプラゾール、
(6)六神丸。
〔14〕1回当たり100〜200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、下記(1)〜(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者を治療するための、骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。
〔15〕1回当たり100〜200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTHを有効成分として含有する、骨折の危険性の高い骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔16〕1回当たり100〜200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、ステロイドを起因とする続発性骨粗鬆症、あるいは、糖尿病性骨粗鬆症を治療ないし予防するための、骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔17〕1回当たり100〜200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、軽度腎障害または中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための、骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔18〕カルシウム剤と併用され、かつ、1回当たり100〜200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTHを有効成分として含有する骨折抑制ないし予防剤。
〔19〕併用されるカルシウム剤が週1回以上投与されることを特徴とする、前記〔18〕の骨折抑制ないし予防剤。
〔20〕併用されるカルシウム剤が、カルシウムとして1日当たり200〜800mg投与されることを特徴とする、前記〔18〕または〔19〕の骨折抑制ないし予防剤。
〔21〕前記PTHがヒトPTH(1−34)である、前記〔18〕〜〔20〕のいずれかである骨折抑制剤。
〔22〕下記(1)〜(3)の全ての条件を満たす対象者に投与するための、前記〔18〕〜〔21〕のいずれかである骨折抑制ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。
〔23〕前記PTHがヒトPTH(1−34)である、前記〔22〕の骨折抑制ないし予防剤。
〔24〕前記PTHを有効成分として含有する骨折抑制ないし予防剤が皮下注射剤である、前記〔22〕または〔23〕の骨折抑制ないし予防剤。
〔25〕骨折抑制ないし予防剤が多発骨折抑制ないし多発骨折予防剤である、前記〔18〕〜〔24〕のいずれか1に記載の骨折抑制ないし予防剤。
〔26〕骨折抑制ないし予防剤が増悪骨折抑制ないし増悪骨折予防剤である、前記〔18〕〜〔25〕のいずれか1に記載の骨折抑制ないし予防剤。
〔27〕前記〔14〕または〔15〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、ステロイドを起因とする続発性骨粗鬆症、あるいは、糖尿病性骨粗鬆症を治療ないし予防するための、骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔28〕前記〔14〕または〔15〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、軽度腎障害または中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための、骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔29〕前記〔27〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、軽度腎障害または中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための、骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔30〕前記〔16〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、軽度腎障害または中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための、骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔31〕上記〔1〕〜〔30〕のいずれかに記載の治療剤、予防剤、薬剤、合剤、またはキットを用いる、予防または治療方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の骨粗鬆症治療剤は、安全性が高くかつ効能・効果の面で優れている。また、本発明の骨折抑制ないし予防剤は、安全性が高く、有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、1回当たり100〜200単位のPTHが週1回(以下、「週1回」を「隔週」と称することもある。)投与されることを特徴とする、PTHによる骨粗鬆症治療ないし予防方法又は骨折抑制ないし予防方法を提供する。また、本発明は、1回当たり100〜200単位のPTHが隔週投与されることを特徴とする、PTHを有効成分とする骨粗鬆症治療ないし予防剤又は骨折抑制ないし予防剤を提供する。さらに、本発明は、前記骨粗鬆症治療ないし予防剤又は前記骨折抑制ないし予防剤の製造のためのPTHの使用を提供する。
【0019】
I 有効成分
本発明の有効成分であるPTH(以下、単に「PTH」ということもある。)は、ヒト副甲状腺ホルモンであるヒトPTH(1−84)、及び、ヒトPTH(1−84)と同等又は類似の活性を有する分子量約4,000〜10,000程度のペプチド類を包含する。
【0020】
PTHは、天然型のPTH、遺伝子工学的手法により製造されたPTH、及び化学合成法により合成されたPTHのいずれをも含む。PTHは、自体公知の遺伝子工学的手法により製造され得る(非特許文献8)。あるいは、PTHは、自体公知のペプチド合成法により合成されることができ(非特許文献11)、例えば、不溶性の高分子担体上でペプチド鎖をC末端から伸長していく固相法(solid phase method)によっても合成され得る(非特許文献4)。なお、本発明のPTHの由来は、ヒトに限られず、ラット、ウシ、ブタ等であってもよい。
【0021】
本願明細書において、ヒトPTH(n−m)というときには、ヒトPTH(1−84)のアミノ酸配列第n番目から第m番目までからなる部分アミノ酸配列で示されるペプチドを意味する。例えば、ヒトPTH(1−34)は、ヒトPTH(1−84)のアミノ酸配列第1番目から第34番目からなる部分アミノ酸配列で示されるペプチドを意味する。
【0022】
本発明の有効成分であるPTHは、1種又は2種以上の揮発性有機酸と形成した塩でもあってもよい。揮発性有機酸として、トリフルオロ酢酸、蟻酸、酢酸などが例示され、好ましくは酢酸を挙げることができる。フリー体のPTHと揮発性有機酸が塩を形成する際の両者の比率は、当該塩を形成する限りにおいて特に限定されない。例えば、ヒトPTH(1−34)は、その分子中に9分子の塩基性アミノ酸残基と4分子の酸性アミノ酸残基を有するため、それらの分子内における塩形成を考慮に入れると、塩基性アミノ酸5残基を酢酸の化学当量とすることができる。例えば、酢酸量に酢酸重量×100(%)/ヒトPTH(1−34)のペプチド重量、で表される酢酸含量を用いれば、一つの理論として、フリー体であるヒトPTH(1−34)に対する酢酸の化学当量は約7.3%(重量%)となる。本願明細書において、フリー体であるヒトPTH(1−34)はテリパラチド、テリパラチドの酢酸塩はテリパラチド酢酸塩と、それぞれ称されることもある。テリパラチド酢酸塩における酢酸含量は、テリパラチドと酢酸が塩を形成する限りにおいて特に限定されず、例えば、前記の理論化学等量である7.3%以上であってもよく、0〜1%でもよい。より具体的には、テリパラチド酢酸塩における酢酸含量として、1〜7%、好ましくは2〜6%を例示され得る。これらの塩は自体公知の方法(特許文献4〜5)に従って製造可能である。
【0023】
PTHとして、ヒトPTH(1−84)、ヒトPTH(1−34)、ヒトPTH(1−38)、hPTH(非特許文献5)、ヒトPTH(1−34)NH
2、〔Nle
8,18〕ヒトPTH(1−34)、〔Nle
8,18,Tyr
34〕ヒトPTH(1−34)、〔Nle
8,18〕ヒトPTH(1−34)NH
2 、〔Nle
8,18,Tyr
34〕ヒトPTH(1−34)NH
2、ラットPTH(1−84)、ラットPTH(1−34)、ウシPTH(1−84)、ウシPTH(1−34)、ウシPTH(1−34)NH
2等が例示される。好ましいPTHとして、ヒトPTH(1−84)、ヒトPTH(1−38)、ヒトPTH(1−34)、ヒトPTH(1−34)NH
2が例示される(特許文献3等)。特に好ましいPTHとして、ヒトPTH(1−34)が挙げられる。さらに好ましいPTHとして、化学合成により得られたヒトPTH(1−34)、最も好ましいPTHとして、テリパラチド酢酸塩(実施例1)が挙げられる。
【0024】
II 他の薬剤との併用
本発明者らは、カルシウム剤併用下でのPTHに関し、骨折発生を主要評価項目とした二重盲検比較臨床試験を実施した結果、その効果は24または26週後という早期から発現され、さらに、有害事象として高カルシウム血症が確認されなかった(実施例1〜2)。従って、本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤は、他の薬剤と併用することを一つの特徴とする。ここで、他の薬剤との併用とは、本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤と本剤とは別のある薬剤(他の薬剤)を併用することを意味する。
【0025】
本発明の他の薬剤としてはカルシウムを好適に例示できる。但し、本発明において他の薬剤との併用というときには、当該他の薬剤以外の別の薬剤のさらなる併用を排除するものでない。従ってカルシウムとの併用として、例えば、
カルシウムのみとの併用、
カルシウムならびにビタミンD(その誘導体を含む)および/またはマグネシウムのみとの併用、
も好ましく例示できる。よって、他の薬剤の具体的様態として、カルシウム剤を例示でき、好ましくは、
(1)カルシウムを薬効成分として含むカルシウム剤、
(2)カルシウム、ビタミンD(その誘導体を含む)およびマグネシウムをそれぞれ薬効成分として含むカルシウム剤を好ましく例示できる。
【0026】
上記の本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤と他の薬剤との併用の形態(投与頻度、投与経路、投与部位、投与量等)は、特に限定されず、患者に応じた医師の処方等により適宜決定することができる。
【0027】
たとえば、上記他の薬剤としてカルシウム剤を併用する場合、当該カルシウム剤は、PTHを有効成分とした本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤と同時に投与されてもよいし(すなわち週1回)、それ以上の頻度で投与されても差し支えはなく、1日1回ないし数回の頻度で投与されてもよい。従って、上記の他の薬剤は、本発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤と組合せてなる合剤としてもよく、本発明に係る骨粗鬆症治療剤/予防又は骨折抑制/予防剤と他の薬剤とが別々の製剤であってもよい。このようなカルシウム剤として、「新カルシチュウ(商標)D
3」(販売元:第一三共ヘルスケア、製造販売元:日東薬品工業株式会社)を例示できる。
【0028】
また、他の薬剤は、発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤と一緒に又は逐次に(すなわち別々の時間に)、同一の又は異なる投与経路で投与され得る。従って、他の薬剤の剤形も特に限定されないが、例えば、錠剤、カプセル剤、細粒剤等を例示できる。他の薬剤がカルシウム剤の場合、単位剤形あたり100〜400(好ましくは150〜350)mgをカルシウムとして含むカルシウム剤であることが好ましい。しかして、単位剤形あたりカルシウムとして100〜400mgを含むカルシウム錠剤を、たとえば本発明の実施例に従って1日あたり2錠投与するとすれば、カルシウムとして200〜800mgが一日あたり投与されることになるが、これに限定されない。
【0029】
上記の他の薬剤の具体的な例としては、カルシウム剤の場合、たとえば沈降炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、アスパラギン酸カルシウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、クエン酸カルシウム等を有効成分とする公知の薬剤が例示できる。沈降炭酸カルシウムを含む薬剤が好ましい。なお、当該他の薬剤には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、制酸剤等が適宜含まれていてもよい。
【0030】
PTH投与患者のある一定の割合に、嘔吐、悪心、嘔気、胃もたれ、胃部不快感、胸焼けなどの消化器症状が一過的に観察されることが知られている(特許文献6)。
【0031】
本発明者らは、被験薬投与に伴う一過性の悪心・嘔吐に対する様々な制嘔剤の投与時期と有効性について試験した結果、プリンペラン(その薬効成分の一般名はメトクロプラミド)、ナウゼリン(その薬効成分の一般名はドンペリドン)、ガスターD(その薬効成分の一般名はファモチジン)、ガスモチン(その薬効成分の一般名はクエン酸モサプリド)、タケプロンOD(その薬効成分の一般名はランソプラゾール)および六神丸がPTH投与に伴う悪心または嘔吐に対して有効であることを確認した(実施例2)。従って、更なる他の薬剤としてこれらの制嘔剤を好ましく、ナウゼリン(その薬効成分の一般名はドンペリドン)、ガスモチン(その薬効成分の一般名はクエン酸モサプリド)および/または六神丸をより好ましく、挙げることができる。これらの制嘔剤の用法用量は患者の症状等に応じて医師等が適宜設定することができる。
【0032】
III 投与期間
本発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤の投与期間は特に限定されず、患者に応じた医師の処方等により適宜決定することができる。本発明者らは、投与期間を156または72週間として、骨折発生を主要評価項目とした二重盲検比較臨床試験を実施した。本試験において、当該投与による有意な骨折抑制効果を確認でき、その効果は24または26週後という早期から発現した(実施例1〜2)。さらに、投与後48週を超えてからの新規椎体骨折は認められなかった(実施例2)。従って、投与期間として、24週以上、26週以上、48週以上、52週以上、72週以上、または78週以上を例示することができ、最も好ましくは78週以上である。また、本試験において、有害事象として高カルシウム血症は確認されなかった(実施例1)。
【0033】
IV 投与量
本発明者らは、1回当たり100または200単位のPTHを用いた二重盲検比較臨床試験を実施した結果、当該投与による有意な骨折抑制効果と24または26週後という早期からの効果の発現を認め、一方で有害事象としての高カルシウム血症は確認されなかった(実施例1〜2)。
【0034】
従って、本発明は、その投与量として、1回当たり100〜200単位であることを特徴の一つとする。ここでPTHの1単位量は、自体公知の活性測定方法により測定可能である(非特許文献9)。投与量として、好ましく1回当たり100又は200単位、最も好ましく1回当たり200単位が例示される。
【0035】
V 投与間隔
本発明者らは、1週間に1回の頻度でPTH投与する二重盲検比較臨床試験を実施した結果、当該投与による有意な骨折抑制効果と24または26週後という早期からの効果の発現を認め、一方で有害事象としての高カルシウム血症は確認されなかった(実施例1〜2)。従って、本発明は、その投与間隔を隔週とすることを特徴の一つとする。
【0036】
VI 投与経路
本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤は、その製剤形態に応じた適当な投与経路により投与され得る。例えば、本発明の骨粗鬆症治療ないし予防剤或いは骨折抑制ないし予防剤が注射剤の場合には、静脈、動脈、皮下、筋肉内などに投与され得る。本発明者らは、PTHを皮下注射した結果、優れた効能・効果及び安全性を示すことを立証した(実施例1〜2)。従って、本発明は、その投与経路として皮下投与経路を好ましく例示可能である。
【0037】
VII 対象疾患
本発明に係る骨粗鬆症は特に限定されず、原発性骨粗鬆症及び続発性骨粗鬆症のいずれをも含む。原発性骨粗鬆症としては、例えば、退行期骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症及び老人性骨粗鬆症)、特発性骨粗鬆症(妊娠後骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症など)が例示される。続発性骨粗鬆症は、特定の疾病や特定の薬剤等の原因により誘発される骨粗鬆症であり、例えば、特定の薬剤、関節リウマチ、糖尿病、甲状腺機能亢進症、性機能異常、不動性、栄養性、その他先天性疾患などが原因として挙げられる。特定の薬剤として、例えば、ステロイドが例示される。本発明に係る骨粗鬆症として骨折の危険性の高い骨粗鬆症を好ましく例示できる。骨折の危険性の高い骨粗鬆症への本発明の適応は下記の高リスク患者への本発明の適応を意味する。
【0038】
本発明者らは、原発性骨粗鬆症の患者を対象とした臨床試験において、本発明の効果・効能や安全性を確認した(実施例1〜2)。従って、本発明に係る骨粗鬆症として好ましく原発性骨粗鬆症を例示でき、最も好ましく退行期骨粗鬆症を例示できる。
【0039】
本発明者らは、続発性骨粗鬆症を誘発するステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者を対象とした臨床試験において、本発明の効果を確認した(実施例2)。従って、本発明に係る原発性骨粗鬆症患者として、続発性骨粗鬆症を誘発するステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者を好ましく例示できる。
【0040】
本発明者らは、合併症(糖尿病、高血圧、または高脂血症)を有する原発性骨粗鬆症患者を対象にした臨床試験において、本発明の効果を確認した(実施例2)。従って、本発明に係る骨粗鬆症患者として、糖尿病、高血圧および高脂血症の少なくともいずれか1の合併症を有する骨粗鬆症患者を好ましく例示でき、糖尿病、高血圧および高脂血症の少なくともいずれか1の合併症を有する原発性骨粗鬆症患者をさらに好ましく例示できる。
【0041】
糖尿病は骨粗鬆症性骨折リスク要因である可能性が高いことが知られている(非特許文献16)。
【0042】
糖尿病性骨粗鬆症とPTHの関係については動物実験において次の報告が認められる。
1) 糖尿病性の骨減少症示すsreptozotocin処理ラットに対してhPTHを投与することによって、cancelous enveropeにおいて『骨量』、『骨梁幅』、『類骨表面』、『石灰化面』、『骨石灰化速度』、『骨形成速度』の増加が見られ、さらに、endocortical envelopeでは『類骨表面』、『石灰化面』、『骨石灰化速度』、『皮質骨厚』の増加が見られたことが報告されている(非特許文献21)。ただし、本ラットは、他の原因による骨減少症ラットと異なり、吸収面の顕著な減少は見られていない。
2) sreptozotocin処理ラットに対して8週間に渡ってPTHを投与した結果、海面骨量とターンオーバーの回復を認めたことが報告されている(非特許文献22)。
3) 培養細胞における実験では高濃度のグルコースに曝露されるとhPTH(1−34)に対する反応が落ちる(PTHの効きが悪くなる)ことが報告されている(非特許文献20)。
【0043】
発明者は、糖尿病性骨粗鬆症ヒト患者へのPTH投与の効果を期待する医師等の多くの見解が存在している(例:http://www.richbone.com/kotsusoshosho/basic_shindan/tonyo.htm)ことを理解している一方で、その効果を実証した論文を見出せなかった。
【0044】
従って、本発明の骨粗鬆症治療剤・骨折抑制/予防剤により、原発性骨粗鬆症と糖尿病の合併症患者に対しての椎体骨折リスクが低減されることを、本願試験で実証したことは重要な知見である。
【0045】
本発明に係る骨折は特に限定されず、椎体骨折及び非椎体骨折のいずれをも含み(実施例1)、骨粗鬆症・骨形成不全・骨腫瘍などを原因とする病的骨折、交通事故・打撲などを原因とする外傷性骨折のいずれをも含む。好ましくは、骨粗鬆症を原因とする骨折、さらに好ましくは骨粗鬆症を原因とする椎体骨折への適用を例示可能である。骨折の部位も特に限定されないが、典型的には、脊椎圧迫骨折、大腿骨頸部骨折、大腿骨転子間部骨折、大腿骨骨幹部骨折、上腕骨頸部骨折、橈骨遠位端骨折を挙げることもでき、特に脊椎圧迫骨折が例示され得る。
【0046】
本発明に係る骨折の回数は特に限定されず、単発骨折及び多発骨折のいずれをも含む。単発骨折とは、骨が1箇所だけ折れるまたは亀裂が入る病状を意味し、多発骨折とは、骨が2箇所以上折れるまたは亀裂が入る病状を意味する。多発骨折における骨折数は特に限定されないが、2個〜4個へ適用される場合が好ましい。
【0047】
本発明に係る椎体骨折は新規骨折および増悪骨折のいずれをも含む。例えば、椎体全体の形態をみてその変形の程度はGrade分類されることができ、Grade0(正常)、Grade1(椎体高約20〜25%減少、かつ、椎体面積10〜20%減少)、Grade2(椎体高約25〜40%減少、かつ、椎体面積20〜40%減少)、Grade3(椎体高約40%以上減少、かつ、椎体面積40%以上減少)とすることが一般的である。新規・増悪の区分はGenantの判定基準に従いGradeの増加パターンに沿って実施可能である。具体的には、Grade0からGrade1、2、または3への変化が認められた場合には新規骨折と診断され、Grade1からGrade2または3、Grade2からGrade3への変化が認められた場合には増悪骨折とみなすことができる。さらにGradeの変化を正確に判断するために、井上ら(非特許文献35)の方法、および林ら(非特許文献36)の方法に従って、椎体高の計測を行った。
【0048】
本発明者らは、既存骨折を有する患者を対象とした臨床試験において、本発明の増悪骨折抑制効果を確認した(実施例2)。従って、本発明においては、骨粗鬆症患者として、好ましく既存骨折を有する患者、さらに好ましく既存骨折およびその増悪骨折の可能性を有する患者への適用を例示できる。
【0049】
PTHの骨強度増強作用のメカニズムについては未だ不明な点が多い。骨強度は骨密度のみならず骨質の状態を反映するが、これは骨密度のみならず骨微細構造や石灰化など骨質要因が骨強度を規定することを意味する(非特許文献17)。本発明者は、骨質は骨強度のみならず骨粗鬆症とは異なる疾病の発症リスクやその合併症の治癒成績に影響を及ぼす可能性があると考える。本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤は、従前の治療剤(特許文献2)と比較してこれらの点で優位である可能性が示唆された。
【0050】
特許文献2は、rhPTH(1−34)を骨粗鬆症患者に投与した結果、骨塩含有量(BMC)や骨塩密度(BMD)のみならず、腰椎や大腿骨等の骨面積を増加させたことを開示する。骨面積の増加は骨が外側に向かって肥厚することを意味する。
【0051】
ところが、本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤を骨粗鬆症患者に投与した結果、皮質骨厚が骨の外側ではなく骨の内側に増加した。すなわち、骨全体の厚さは殆ど変化が認められなかった。本メカニズムは例えば下記に示される重要な臨床的意義を示すと考えられる。
【0052】
(1)長管骨肥厚による関節破壊がない
長管骨(四肢を構成する長形状の骨)の一つである大腿骨は、その骨端が関節軟骨と接触してその他滑膜や半月板とともに膝関節を形成している。その接触面は厚さ数ミリ程度の軟骨に覆われる関節面と称される。膝関節痛の原因となる疾病として例えば変形性膝関節症が例示される。
【0053】
一方、プレドニゾン(prednisone)誘発骨粗鬆症と関節痛の合併症患者に対してフォサマック(Fosamax)と比較してフォルテオ(Forteo;毎日投与のPTH)がより強い骨強化作用を示したことが知られている(非特許文献23〜24)。
【0054】
しかし、このフォルテオ投与は特許文献2に記載のPTH投与と実質的に同等の従来の治療方法であり、先に述べたように本従来方法は骨の外側に肥厚させる治療方法である。大腿骨の外側への肥厚は関節面の面積増大を意味し、軟骨細胞数は骨の肥厚と比して増加しない為、この従前治療法に起因する大腿骨の外側への肥厚は、関節面の増大で惹起または増悪される軟骨細胞の損傷を介して関節の破壊を促進する可能性がある。
【0055】
ところが、本発明のように大腿骨の内側への肥厚は、関節面増大がなく、軟骨をより安定化させ、結果として、軟骨への負担を増やさずに関節破壊を実質的に促進させない可能性があると発明者は考えている。本剤による骨粗鬆症治療が前記従来法による骨粗鬆治療と比較して関節に優しい治療である可能性を示唆するものである。
【0056】
(2)椎体肥厚による変形性脊椎症の増悪または発症がない
加齢等の何らかの原因によって正常な椎体骨量が減少すると椎体が不安定化する。不安定化は終板の変形によって始まる。椎体の不安定化とは、具体的には、終盤の薄化や終盤孔(ハバース管)の拡大である。その不安定化が進むと、椎間板の終盤孔への進入や椎間板狭小化が見られる。さらに症状が進めば、椎骨同士の衝突による骨棘(こつきょく)生成にいたる。このような脊椎の変性が変形性脊椎症といわれる疾病である。変形性脊椎症になると、椎間が安定化して椎間板の進入に起因する痛みや周辺の筋肉膨張による痛みなどが生じることになる。
【0057】
しかし、特許文献2に記載のようにPTHを毎日投与して骨の外側に肥厚させる場合、終盤孔の拡大に対して十分な抑制作用が見られない可能性がある。あるいは、椎体と椎間板の接触面積の増大によって、椎体間の距離が縮小し、椎体の不安定化が進み、結果として、変形性脊椎症の発症や増悪リスクが高くなる可能性もある。
【0058】
一方、本発明の骨粗鬆症治療剤・骨折抑制/予防剤投与により、皮質骨厚が骨の外側ではなく骨の内側に増加していくため、終盤孔の拡大や椎間板の終盤孔への進入に対して十分に抑制できる可能性がある。
【0059】
(3)変形性股関節症・変形性顎関節症を増悪または発症促進させない
変形性股関節症は、関節に対する血流不良や極度の加重や酷使を理由として、股関節を形成している臼蓋と大腿骨頭の接触面の関節軟骨が摩耗、変性、不可逆性の変化を起こした状況である。変形性股関節症患者の大腿骨皮質骨面積は健常者のそれと比較して有意に大きい(非特許文献18)。大腿骨皮質骨面積の増大は、大腿骨の外側への肥大化を意味し、従ってこれが変形性股関節症の発症または増悪に関与している可能性がある。本発明のように大腿骨の内側への肥厚化をさせる場合には、大腿骨の外側への肥大化をさせることはないので、変形性股関節症の発症または増悪リスクを増大させない可能性がある。変形性顎関節症は顎関節の変形を主徴候とするものであるが、皮質骨の肥厚が診断所見の一つとなっている(非特許文献19)。従って、皮質骨のさらなる外側への肥大化が症状を悪化または発症させる可能性がある。本発明のように骨の内側へ肥厚させる場合には、このような変形性顎関節症の発症または増悪リスクを増大させない可能性が推定される。
【0060】
以上、(1)〜(3)を纏めると、関節痛、変形性脊椎症、変形性腰痛症、変形性股関節症、および変形性顎関節症の少なくともいずれか1の疾病を合併症として有する骨粗鬆症患者(好ましくはそのうち原発性骨粗鬆症患者)を本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤の適応患者として好ましく例示できる。
【0061】
本発明者らは、1年以内の他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が本剤有効性に与える影響を評価した。その結果、他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある原発性骨粗鬆症患者は服薬歴のない患者よりも被験薬有効性が高いことが明らかになった(実施例2)。従って、本発明においては、骨粗鬆症患者として、他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある骨粗鬆症患者への適用を好ましく例示でき、他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある原発性骨粗鬆症患者への適用をさらに好ましく例示できる。
【0062】
また、他の骨粗鬆症治療薬として、L−アスパラギン酸カルシウム、アルファカルシドール、塩酸ラロキシフェン、エルカトニン、メナテトレノン、乳酸カルシウム、が例示され、好ましくは、L−アスパラギン酸カルシウム、アルファカルシドール、エルカトニンが例示される。他の骨粗鬆症治療薬は単独または併用して投薬実績があってもよい。
【0063】
他の骨粗鬆症治療薬の投与歴のある骨粗鬆症患者に対して、本発明の骨粗鬆症治療剤・骨折抑制/予防剤を24週〜72週またはそれ以上にわたり投与することが好ましい。特にそのうち腰椎の骨折リスクの高い患者に対しては24週またはそれ以上にわたり投与することが好ましく、大腿骨頚部または大腿骨近位部の骨折リスクの高い患者に対しては72週またはそれ以上投与することが好ましい。
【0064】
骨粗鬆症および腎障害は加齢とともにその有病率が上昇する。女性の骨粗鬆症患者の85%は軽度〜中程度の腎障害を有しているという大規模な疫学研究報告もある(非特許文献32)。従って、腎障害を有する骨粗鬆症患者に対して有効かつ安全な薬剤を提供することは重要である。
【0065】
本発明者らは、腎機能正常の骨粗鬆症患者群、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群、中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤が有効であることを示した(実施例2)。さらに加えて、血清カルシウムに関する安全性において全ての群に対して本発明の骨粗鬆症治療剤・骨折抑制/予防剤は同等であることが明らかとなった。
【0066】
腎機能正常、障害、および障害の程度は、クレアチニンクリアランスに基づき区別可能である。具体的には、クレアチニンクリアランスが80ml/min以上を腎機能正常、50以上80未満ml/minを軽度腎機能障害、30以上50未満ml/minを中等度腎機能障害と判定可能である。
【0067】
一般的には、血清カルシウムの正常上限濃度は10.6mg/mlでありこれを超える11.0mg/mlはやや高値といえる。従前のPTH毎日投与では、中程度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群の11.76%の患者に投与後にやや高値である11.0mg/mlを超える血清カルシウムが認められていた(非特許文献32)。ところが、本発明においては、中程度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群に本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤を投与した結果、11.0mg/mlを超える血清カルシウムが認められる患者は投与開始〜最終時まで全ての検査時において一人も見出すことができなかった(実施例2)。すなわち、有効性のみならず安全性の面でも、本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤が優れていると考えられる。従って、本発明の適用対象患者として、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者および/または中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者を好ましく例示でき、さらに好ましくは軽度腎機能障害を有する原発性骨粗鬆症患者および/または中等度腎機能障害を有する原発性骨粗鬆症患者を例示できる。
【0068】
本発明に係る薬剤投与ないし治療方法が適用されるべき対象者の人種・年齢・性別・身長・体重等は特に限定されないが、当該対象者として、骨粗鬆症患者が例示され、或いは骨粗鬆症における骨折の危険因子を多くもつ骨粗鬆症患者に対して本発明の方法を適用し、或いは本発明の骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制ないし予防剤を投与することが望ましい。骨粗鬆症における骨折の危険因子としては、年齢、性、低骨密度、骨折既往、喫煙、アルコール飲酒、ステロイド使用、骨折家族歴、運動、転倒に関連する因子、骨代謝マーカー、体重、カルシウム摂取などが挙げられている(非特許文献10)。しかして、本発明においては、下記(1)〜(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者(ないし対象者)を「高リスク患者」として定義する。
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。
【0069】
ここで、骨密度とは、典型的には腰椎の骨塩量を指す。但し、腰椎骨塩量の評価が困難な場合では、橈骨、第二中手骨、大腿骨頸部、踵骨の骨塩量値により当該骨密度を示すことができる。また、若年成人平均値とは20〜44歳の骨密度の平均値を意味する。骨密度は、例えば、二重エネルギーX線吸収測定法、photodensitometry法、光子吸収測定法、定量的CT法、定量的超音波法など自体公知の方法により測定可能である。また、本発明において骨萎縮度とはX線上骨量減少度を意味する。骨萎縮度は、骨萎縮なし、骨萎縮度I度、骨萎縮度II度、及び骨萎縮度III度に分類される。当該骨萎縮度における骨萎縮なしとは、正常状態を指し、具体的には、縦・横の骨梁が密であるため骨梁構造を認識することができない状態を意味する。骨萎縮度I度とは、縦の骨梁が目立つ状態を意味し、典型的には、縦の骨梁は細くみえるがいまだ密に配列しており、椎体終板も目立ってくる状態を意味する。当該骨萎縮度における骨萎縮度II度とは、縦の骨梁が粗となり、縦の骨梁は太くみえ、配列が粗となり、椎体終板も淡くなる状態を意味する。当該骨萎縮度における骨萎縮度III度とは、縦の骨梁も不明瞭となり、全体として椎体陰影はぼやけた感じを示し,椎間板陰影との差が減少する状態を意味する(骨粗鬆症治療、5/3、2006年7月号、「単純X線写真による骨粗鬆症の診断」)。骨萎縮度は、例えば、腰椎側面X線像から判定可能である。本発明でいう椎体骨折数は、例えば、Genantらの方法(非特許文献14)により容易に計測可能である。椎体以外の部位の骨折は、例えば、レントゲンフィルムを用いて容易に確認され得る。
【0070】
本発明においては、特に高リスク患者に対して本発明の方法を適用し、或いは本発明の骨粗鬆症治療ないし予防剤又は骨折抑制ないし予防剤を投与することが特に好ましい(実施例1)。
【0071】
一方、一般的に、下記(1)〜(6)の少なくともいずれかに該当する患者(対象者)に対しては本発明の方法を適用すること、及びそれに従う本発明の骨粗鬆症治療ないし予防剤又は骨折抑制ないし予防剤の投与を避けることも好ましい。
(1)気管支喘息、発疹(紅班、膨疹等)などの過敏症を起こしやすい体質の患者
(2)高カルシウム血症患者
(3)妊婦または妊娠している可能性のある婦人
(4)甲状腺機能低下症または副甲状腺機能亢進症の患者
(5)過去に薬物過敏症を呈したことのある患者
(6)心疾患、肝疾患、腎障害など重篤な合併症を有する患者
従って、本発明においては、上記高リスク患者であって、かつ、上記(1)〜(6)全てに該当しない骨粗鬆症患者等を適用対象とすることが好ましい。
【0072】
VIII 製剤
本発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤(以下、単に「本剤」ということもある。)は、種々の製剤形態をとり得る。一般的には、本剤は、PTH単独又は慣用の薬学的に許容される担体とともに注射剤等とされ得る。本剤の剤形として注射剤が好ましい。
【0073】
例えば、本剤が注射剤の場合、PTHを適当な溶剤(滅菌水、緩衝液、生理食塩水等)に溶解した後、フィルター等で濾過および/またはその他適宜の方法にて滅菌して、次いで無菌的な容器に充填することにより調製され得る。その際にPTHとともに必要な添加物(例えば、賦形剤、安定化剤、溶解補助剤、酸化防止剤、無痛化剤、等張化剤、pH調整剤、防腐剤等)を添加しておくことが好ましい。このような添加物として、例えば、糖類、アミノ酸、又は食塩等を挙げることができる。添加剤として糖類を用いる場合には、糖類として、マンニトール、グルコース、ソルビトール、イノシトール、シュークロース、マルトース、ラクトース、トレハロースをPTH1重量に対して1重量以上(好ましくは50〜1000重量)添加することが好ましい。添加剤として糖類及び食塩を用いる場合には、糖類1重量に対して1/1000〜1/5重量(好ましくは1/100〜1/10重量)の食塩を添加することが好ましい。
【0074】
例えば、本剤が注射剤の場合、本剤は凍結乾燥等の手段により固形化されたもの(凍結乾燥製剤等)でもよく、用時に適当な溶剤で溶解すればよい。あるいは、本剤が注射剤の場合、本剤は予め溶解されてなる液剤であってもよい。
【0075】
また、好ましくは、本剤は、骨粗鬆症治療剤及び骨折抑制/予防剤として、1回当たり100〜200単位のヒトPTH(1−34)を隔週で投与すべき旨を記載したパッケージに収容されるか、そのような旨を記載した添付文書とともにパッケージに収容された薬剤とすることができる。
【0076】
なお、本願発明の有用性は、実施例に示される臨床試験の結果を慣用の方法で統計処理等することによっても容易に確認することができる。また、以下、本発明を実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されることはない。
【実施例】
【0077】
(実施例1)
原発性骨粗鬆症と診断された男女の患者(非特許文献12)に対して、Takaiの方法(特許文献4〜5、非特許文献11)により調製した、5あるいは100単位のテリパラチド酢酸塩をそれぞれ週に1回間欠的に皮下投与した(それぞれを5あるいは100単位投与群とする)。なお、テリパラチド酢酸塩の活性測定はMarcusらの論文(非特許文献9)に従った。
【0078】
5または100単位投与群は、1バイアル中にテリパラチド酢酸塩を5または100単位含有する凍結乾燥製剤を生理食塩水1mLに用時溶解してその溶液全量を投与した。さらに、5または100単位投与群共に、カルシウム剤(1錠中に沈降炭酸カルシウムを500mg[カルシウムとして200mg]含有)を1日1回2錠投与した。
【0079】
骨粗鬆症患者は、非特許文献13に示された、骨折の危険因子の保有状況により、表−1に示す条件で区分して比較した。高リスク患者(以下、単に高リスク者と称することもある)は、年齢、既存の椎体骨折、骨密度あるいは骨萎縮度の3因子をすべて有するものと定義し、低リスク者はそれ以外のものとした。
【0080】
【表1】
患者背景は表−2、3に示す通りであり、両群の背景に統計学的な有意差は認められなかった(p<0.05)。
【0081】
【表2】
【表3】
【0082】
投与期間中はカルシトニン製剤、活性型ビタミンD
3製剤、ビタミンK製剤、イプリフラボン製剤、ビスホスホン酸塩製剤、エストロゲン製剤、蛋白同化ホルモン製剤、医師の処方によるカルシウム製剤(ただし、上記の1日1回2錠投与されるカルシウム剤は除く)、その他骨代謝に影響を及ぼすと考えられる薬剤の併用は禁止した。骨評価としては、腰椎骨密度と骨折の発生の確認を実施した。腰椎骨密度は、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)を用いて第2〜第4腰椎骨密度の測定を開始時と以降6ヶ月毎に実施した。骨折発生頻度は、椎体では、第4胸椎から第5腰椎までの正面、側面のX線撮影を開始時と以降6ヶ月毎に実施し、Genantらの方法(非特許文献14)を参考に、開始時と以降の時点のレントゲンフィルムを比較して、新規椎体骨折を評価した。また椎体以外の部位では、レントゲンフィルムでの確認で評価した。また、全症例において投与開始時および投与期間中に採血を行い、カルシウム濃度を含む一般臨床検査値を測定した。(DXA、新規椎体骨折は中央で一括判定し、椎体以外の骨折は担当医師がレントゲンフィルムにより判定)高リスク者における投与期間は、5単位投与群で85.1±20.8週、100単位投与群で83.7±19.8週であり両群間で有意な差は認められなかった(p<0.05)。また低リスク者は、5単位投与群で72.7±19.4週、100単位投与群で88.3±21.3週であり両群間で有意な差は認められなかった(p<0.05)。
【0083】
表−4、5に高リスク者、低リスク者の別での、投与群別の腰椎骨密度の推移を示した。高リスク者においては、100単位投与群の骨密度は投与開始時に比較し有意に高い骨密度の増加が認められ、5単位投与群と比較しても有意に高い値を示した(p<0.05)。一方低リスク者においては、投与開始時との比較および群間での比較において有意差は認められなかった(p>0.05)。
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
表−6、7に高リスク者、低リスク者の別での、投与群別の新規椎体骨折発生の結果を示した。高リスク者においては、100単位投与群は5単位投与群に比べ骨折発生は有意に低かった(p<0.05)。一方低リスク者においては、群間で有意差は認められなかった(p>0.05)。
【0087】
【表6】
【0088】
【表7】
【0089】
表−8、9に高リスク者、低リスク者の別での、投与群別の26週毎の新規椎体骨折発生の結果を示した。高リスク者においては、100単位投与群は5単位投与群に比べ、26週後から骨折発生を抑制した。一方、低リスク者においては群間の差は認められなかった。
【0090】
【表8】
【0091】
【表9】
【0092】
表−10、11に高リスク者、低リスク者の別での、投与群別の椎体以外の部位での骨折発生の結果を示した。高リスク者においては、100単位投与群は5単位投与群に比べ骨折発生は有意に低かった。一方低リスク者においては、群間で有意差は認められなかった。
【0093】
【表10】
【0094】
【表11】
【0095】
図1に高リスク者、低リスク者の別での、投与群別の血清カルシウム濃度推移の結果を示した。実施した採血サンプルを用いた臨床検査値の結果のうち、低リスク者の5単位投与群において薬剤投与開始前より高値であった1症例を除き、全例で高カルシウム血症は認められず、また、血清カルシウムが上昇する傾向も認められなかった。
【0096】
以上の表から分かる通り、原発性骨粗鬆症患者のうち、新規骨折の危険因子を有する患者において、テリパラチド酢酸塩を週1回100単位間欠的に皮下投与することによって、有意な腰椎の骨密度の増加が認められ、さらに新規椎体骨折の抑制が認められた。即ち、本発明の新規骨折の高リスク患者に対する、テリパラチド酢酸塩の週1回100単位投与は、有用な骨粗鬆症治療剤及び骨折抑制ないし予防剤となり得ることが確認された。
【0097】
また、投与期間中、本発明テリパラチド酢酸塩の週1回投与では、いずれの投与量においても高カルシウム血症の発症はなく、既に知られているテリパラチド酢酸塩の連日投与に比較し、有用であるものと考えられた。
【0098】
(実施例2)
原発性骨粗鬆症と診断された男女の高リスク患者に対して、Takaiの方法(特許文献4〜5、非特許文献11)により調製した被験薬(1バイアル;1バイアルにテリパラチド酢酸塩200単位を含む注射用凍結乾燥製剤)または対照薬(1バイアル;1バイアルにテリパラチド酢酸塩を実質的に含まないプラセボ製剤)をそれぞれ生理的食塩水1mLで用時溶解して72週間にわたり週に1回の頻度で間欠的に皮下投与した。
【0099】
上記患者は、併せて、カルシウム剤2錠を1日1回夕食後に服薬した。本カルシウム剤は、2錠中にカルシウム610mg、ビタミンD
3400IU及びマグネシウム30mgを含有するソフチュアブル製剤であり、成分として、沈降炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、コレカルシフェロール(ビタミンD
3)等を含み、「新カルシチュウ(商標)D
3」(販売元:第一三共ヘルスケア、製造販売元:日東薬品工業株式会社)の商品名として市販されているものである。
【0100】
なお、上記患者は全て自立歩行可能な外来患者であり、かつ、以下の(1)〜(19)いずれの基準にも該当しない患者である。
(1)所定の原因により続発性骨粗鬆症と診断された患者。ここで所定の原因とは、内分泌性(甲状腺機能亢進症、性腺機能不全、Cushing症候群)、栄養性(壊血病、その他(タンパク質欠乏、ビタミンAまたはD過剰))、薬物(副腎皮質ホルモン、メトトレキサート(MTX)、へパリン、アロマターゼ阻害剤、GnRHアゴニスト)、不動性(全身性(臥床安静、対麻痺、宇宙飛行)、局所性(骨折後等))、先天性(骨形成不全症、Marfan症候群等)、その他(関節リウマチ、糖尿病、肝疾患、消化器疾患(胃切除)等)を意味する。
(2)骨粗鬆症以外の骨量減少を呈する所定の疾患を有する患者。ここで所定の疾患とは、各種の骨軟化症、原発性、続発性副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍の骨転移、多発性骨髄腫、脊椎血管腫、脊椎カリエス、化膿性脊椎炎、その他を意味する。
(3)椎体の強度に影響を及ぼすと考えられる所定のX線所見を有する患者。ここで所定とは6個以上の連続した椎体が架橋を形成している、椎体周辺の靱帯に著しい骨化が認められる、脊椎に著しい脊柱変形を有する、椎体の手術が施行されている、ことを意味する。
(4)胸腰椎体全体を覆うコルセットを装着している患者。
(5)同意取得前52週(364日)以内にビスホスフォネート製剤の投与を受けた患者。
(6)同意取得日に以下の骨粗鬆症治療薬の投与を受けている患者(ただし、治療開始までに8週(56日)以上の休薬(ウォッシュアウト)が可能ならば、対象として選択可とする)。カルシトニン製剤、活性型ビタミンD
3製剤、ビタミンK製剤、イプリフラボン製剤、エストロゲン製剤、SERM製剤、蛋白同化ホルモン製剤。
(7)気管支喘息、発疹(紅斑、膨疹等)等の過敏症状を起こしやすい体質の患者。
(8)PTH製剤に対して過敏症の既往歴のある患者。
(9)骨バジェット病の患者。
(10)悪性骨腫瘍の既往または過去5年以内に悪性腫瘍の既往のある患者。
(11)多発性外骨腫症の患者。
(12)骨格への放射線外照射療法歴または放射線組織内照射療法歴を有する患者。
(13)血清カルシウム値が11.0mg/dL以上の患者。
(14)アルカリフォスファターゼ値が基準値上限の2倍以上の患者。
(15)重篤な腎疾患、肝疾患または心疾患を有する患者。各疾患の基準は次の通り。
腎疾患:血清クレアチニン値が2mg/dL以上
肝疾患:AST(GOT)またはALT(GPT)値が基準値上限の2.5倍以上または100IU/L以上
心疾患:「医薬品の副作用の重篤度分類基準について(平成4年6月29日薬安発第80号)」に示すグレード2を参考に判断する。
(16)問診の信頼性が低いと判断された患者(少なくとも認知症の患者は必ず除外する)。
(17)他の治験薬を同意取得前26週(182日)以内に投与された患者。
(18)過去に治験でPTH製剤の投与を受けた患者。
(19)その他、治験責任(分担)医師が本治験の実施にあたり不適当と判断した患者。
【0101】
また、上記患者は、治験への同意時から治験終了時までの間、以下の(1)〜(6)いずれの
薬剤の投与が禁止された。
(1) テリパラチド酢酸塩以外の骨粗鬆症治療薬(具体的には、ビスホスフォネート製剤、
カルシトニン製剤、活性型ビタミンD
3製剤、カルシウム製剤(ただし、上記の1日1回
夕食後に服薬するカルシウム製剤は除く)、ビタミンK製剤、イプリフラボン製剤、エストロゲン
製剤、SERM製剤、蛋白同化ホルモン製剤)
(2) 副腎皮質ホルモン製剤(ただし、筋注、静注または経口投与、ブレドニゾロン換算で、
1週間平均として5mg/日を超える場合、1日投与量として10mg/日を超える場合、
または総投与量が450mgを超える場合)
(3) アロマターゼ阻害剤
(4) GnRHアゴニスト
(5) 他の治験薬
【0102】
被験薬および対照薬の投与例数は、それぞれ、290例(実施例において被験薬投与群と称することもある)および288例(実施例において対照薬投与群と称することもある)であり、投与総症例数は578例であった。ただし、試験の種類に応じてそれぞれの投与群の例数が異なることがあり、例えば(n=**)や評価例数等の表現で示すことがある。
【0103】
骨評価としては、骨密度と骨ジオメトリー、骨折の発生の確認を実施した。
【0104】
腰椎骨密度は、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)を用いて第2〜第4腰椎骨密度の測定を開始時と以降24週毎に実施した。
【0105】
大腿骨骨密度は、二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)を用いて大腿骨近位部を20度内旋し、左側のみの測定を開始時と以降24週毎に実施した。
【0106】
DXAジオメトリーは担当医が測定した開始時と以降24週毎の大腿骨骨密度データで評価した。
【0107】
CTジオメトリーはマルチスライスCTを用いて大腿骨近位部の測定を開始時、48週後、72週後に実施した。
【0108】
骨折発生頻度は、椎体では、第4胸椎から第4腰椎までの正面、側面のX線撮影を開始時と以降24週毎に実施し、Genantらの方法(非特許文献14)を参考に、開始時と以降の時点のレントゲンフィルムを比較して、新規および増悪椎体骨折を評価した。また椎体以外の部位では、レントゲンフィルムでの確認で評価した(DXA、骨ジオメトリー、新規および増悪椎体骨折は中央で一括判定し、椎体以外の骨折は担当医がレントゲンフィルムにより判定)。
【0109】
(A)椎体多発骨折に対する被験薬の有効性
ここで椎体多発骨折を新規の2箇所以上の椎体骨折と定義して、投与72週後における被験薬投与群(n=261)と対照薬投与群(n=281)それぞれにおける椎体多発骨折発生比率(例数)を比較したところ、対照薬投与群は2.1%(6例)、被験薬投与群は0.8%(2例)であった。すなわち、被験薬は椎体多発骨折に対して抑制ないし予防効果を有することが示された。
骨折発生個数別の症例数を下記表に示す。
【表12】
【0110】
(B)ステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者に対する被験薬の有効性
ステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者に対する被験薬投与の効果を試験した。その結果、下記の表のとおり、ステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者に対して被験薬が有効であることが示された。
【0111】
【表13】
【表14】
【0112】
ステロイドは続発性骨粗鬆症の原因となる薬剤であることから、上記の結果は、ステロイドの続発性骨粗鬆症を誘発する薬剤に起因する続発性骨粗鬆症に対して被験薬が効果を奏する可能性を示唆するものであると考えられる。
【0113】
(C)大腿骨3部位に対する被験薬の有効性
大腿骨3部位(大腿骨頚部、大腿骨転子間部、大腿骨骨幹部)に対する被験薬の効果を一般的なCT法に準じて試験した。その結果、下記の表のように、大腿骨各部位に対して被験薬は有効であることが示された。
【表15】
【表16】
【表17】
【0114】
(D)被験薬投与に伴う悪心・嘔吐に対する処方検討
被験薬投与に伴う悪心・嘔吐に対する様々な処置薬の投与時期と有効性について試験した。
【表18】
【0115】
上記の通り、プリンペラン、ナウゼリン、ガスターD、ガスモチン、タケプロンOD、六神丸が有効であった。特に、ナウゼリン、又はガスモチン、六神丸が好ましかった。
【0116】
(E)合併症の種類またはその有無が被験薬効果に与える影響評価
上記患者の中には合併症を有している者もいる。そこで、合併症の種類(糖尿病、高血圧、高脂血症)やその有無が被験薬効果に与える影響を評価した。その結果、下記の表の通り、これら合併症の種類や有無に関わらず、さらに投与後24週時点以降において、被験薬は新規椎体骨折発生を抑制することが明らかになった。
【表19】
【0117】
糖尿病を原疾患とする糖尿病性骨粗鬆症は続発性骨粗鬆症の一つであるが、糖尿病を合併症として有する原発性骨粗鬆症患者に被験薬効果が認められたことは、被験薬が糖尿病性骨粗鬆症に対しても治療効果を示す可能性を示唆するものと考えられる。
【0118】
(F)増悪骨折に対する被験薬の有効性
増悪骨折に対する被験薬の有効性を試験した。その結果、下記の表のように、増悪骨折に対して被験薬は有効であることが示された。
【表20】
【0119】
(G)他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が被験薬有効性に与える影響の評価
前述のように、上記患者に対して、治験への同意時から治験終了時までの間、テリパラチド酢酸塩以外の骨粗鬆症治療薬の投与は原則的に禁止された。しかし、治験への同意時以前においては、所定の条件の下、他の骨粗鬆症治療薬の服薬を受けている患者も存在していた。そこで、当該他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が被験薬有効性に与える影響を、新規椎体骨折発生率および骨密度変化率の観点から評価した。
【0120】
新規椎体骨折発生率に関する評価結果を下表に示す。該表中、被験薬投与後72週時において、当該他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある患者について被験薬投与群の骨折率が2.9%であり対照薬投与群の骨折率が16.1%であったが、服薬歴のない患者について被験薬投与群の骨折率が3.2%であり対照薬投与群の骨折率が12.9%であった。すなわち、他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある患者は服薬歴のない患者よりも被験薬有効性が高いことが明らかになった。
【表21】
【0121】
次に骨密度変化率についての評価結果を下表に示した。該表中、腰椎骨密度に関しては、いずれの他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある患者においても、被験薬投与後48週で当該骨密度の増加が顕著になっており、特に、他の骨粗鬆症治療薬がL-アスパラギン酸カルシウム、エルカトニン、アルファカルシドール、メナテトレノン及びカルシトリオールである被験薬投与群においては、投与後24週という早期段階での腰椎骨密度の顕著な増加が見られた。更に注目されるのは、他の骨粗鬆症治療薬がL-アスパラギン酸カルシウム及びエルカトニンの場合、被験薬投与後72週時点の大腿骨頚部及び近位部骨密度の顕著な増加がみられ、特に、他の骨粗鬆症治療薬がエルカトニンの場合では、大腿骨近位部骨密度が被験薬投与後24週時点から既に大幅に増加している点は特筆に値するであろう。
【表22】
【0122】
また、他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が被験薬有効性に与える影響を、個別の当該他の骨粗鬆症治療薬について、新規椎体骨折発生率の観点から詳しく評価した結果を下表に示したが、その表からわかるとおり、カルシトリオール以外の骨粗鬆症治療薬服用歴のある患者において、被験薬投与による新規骨折の顕著な抑制が見られた。
【表23】
【0123】
(H)腎機能障害を有する骨粗鬆症患者への被験薬の有効性及び安全性
腎機能正常の骨粗鬆症患者群、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群、および中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群に対する被験薬の有効性及び安全性を試験した。
【0124】
(H−1)各患者群の背景因子の分布(詳細)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群を「Normal(80≦)」、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群を「Mild impairment(50≦<80)」、中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群を「Moderate impairment(<50)」と表記した。また、被験薬投与群を「PTH200群」、対照薬投与群を「P群」と表記した。また、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群と中度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群を併せて「Abnormal (<80)」と表記することもある。各患者はその患者のクレアチニンクリアランスをもとに上記群に分類した。具体的には、クレアチニンクリアランスが80ml/min以上を腎機能正常、50以上80未満ml/minを軽度腎機能障害、30以上50未満ml/minを中等度腎機能障害とみなした。
【0125】
(H−1)各患者群の背景因子の分布
各患者群の背景因子の分布は次のようになる。
【表24】
【0126】
(H−2)各患者群に対する被験薬の有効性(骨折抑制)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群および腎機能障害(軽度・中程度)を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても被験薬が新規椎体骨折抑制効果を有することが明らかとなった。
【表25】
【0127】
(H−3)各患者群に対する被験薬の有効性(骨密度増加)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群、中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても被験薬が腰椎骨密度増加効果を有することが明らかとなった。
【表26】
【0128】
(H−4)各患者群に対する被験薬の安全性(補正血清カルシウム)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群、中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても被験薬を投与した結果、どの群に対しても被験薬と対照薬間で有意差は認められなかった。すなわち、血清カルシウムに関する安全性において全ての群に対して被験薬は同等であることが明らかとなった。
【表27】
【0129】
(H−5)各患者群に対する被験薬の安全性(有害事象発現率)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群、中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群それぞれに被験薬を投与した後の有害事象発現率を試験した。
【表28】
【表29】
【表30】
【0130】
(H−6)各患者群に対する被験薬の安全性(副作用発現率)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群、軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群、中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても被験薬を投与した結果、どの群に対しても被験薬は対照薬の約2倍の発現率を示した。すなわち、副作用発現率に関する安全性において全ての群に対して被験薬は同等であることが明らかとなった。
【表31】
【表32】
【表33】
【0131】
(I)新規椎体骨折発生率の経時変化に対する被験薬投与の影響
被験薬投与群を「PTH200群」、対照薬投与群を「P群」と表記した。
【表34】
【表35】
【0132】
上記の表が示すように、半年ごとの新規椎体骨折発生率は、P群では、いずれの区間も約5%でほぼ一定であった。それに対して、PTH200群では、投与期間が長くなるにつれて区間毎の発生率が低下しており、48週を超えてからの新規椎体骨折の発生はなかった。また、PTH200群の新規椎体骨折発生率は、24週以内、24週〜48週、48週〜72週のいずれの区間でもP群より低く、プラセボに対する相対リスク減少率(Relative Risk Reduction;RRR)は投与を継続するにつれて増加した。このように、本剤200単位の週1回投与は、新規椎体骨折の発生を早期から抑制し、24週後には既に骨折発生リスクをプラセボに対して53,9%低下させた。また、本剤による骨折抑制効果は、投与とともに増強する傾向が認められた。
【0133】
その他、骨折試験のFASにおいて、Kaplan―Meier推定法による72週後の椎体骨折(新規+増悪)発生率は、PTH200群3.5%、P群が16.3%であり、本剤200単位の発生率はプラセボ群より低かった(logrank検定、p<0,0001)。また、本剤200単位は、72週後には、椎体骨折(新規+増悪)の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させた。半年毎の椎体骨折(新規増悪)発生率を群間で比較すると、24週以内、24週〜48週、48週〜72週のいずれの区間でも、PTH200群の発生率はP群より低かつた。
【0134】
(J)骨粗鬆症患者の尿中カルシウムおよび血清カルシウムに与える被験薬投与の影響
被験薬投与群を「PTH200群」、対照薬投与群を「P群」と表記した。被験薬あるいは対照薬を週1回の頻度で72週間患者に投与した際の尿中カルシウム値および補正血清カルシウム値の変動について試験した結果を示す(
図4〜5)。
尿中カルシウム値変化率の平均値(および中央値)は、開始時に比較72週後でPTH200群3.2%(−14.7%)、P群23.6%(1.6%)で、P群に比べPTH200群で減少傾向が見られた。
補正血清カルシウム値は、両群共に平均9.3〜9.6mg/dLの範囲で推移した。PTH200群の投与後の補正血清カルシウムは最小値で8.5mg/dI(48および72週後)、最大値で11.6mg/dl(4週後)であり、P群では、最小値で8.5mg/dL(4週後)、最大値で12.lmg/dI(12週後)であつた。両群共に、大きな変動は認められなかつた。
本試験で血清カルシウム上昇および低下の有害事象は認められなかった。
本試験でPTH200群はP群と比較して高Ca血症および高Ca尿症のいずれの発現も認められなかった。