特許第6198417号(P6198417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6198417-全固体型太陽電池 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198417
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】全固体型太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20170911BHJP
【FI】
   H01L31/04 112B
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-46147(P2013-46147)
(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公開番号】特開2014-175439(P2014-175439A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年1月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 仁
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 享平
(72)【発明者】
【氏名】白井 肇
(72)【発明者】
【氏名】上野 啓司
【審査官】 濱田 聖司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−191186(JP,A)
【文献】 特開2013−26432(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/096479(WO,A1)
【文献】 小野正浩,「結晶Si/PEDOT:PSS:GOヘテロ接合太陽電池」,第59回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,2012春,16p-F7-7, 12-438
【文献】 Liu,「MoO3添加PEDOT:PSSの微細構造と結晶Si系太陽電池」,第60回応用物理学関係連合講演会講演予稿集,28a-G18-10, 12-395
【文献】 L.Chen,"Efficient bulk heterojunction polymer solar cells using PEDOT/PSS doped with solution-processed MoO3 as anode buffer layer",Solar Energy Materials & Solar Cells,Vol.102 (2012),pp.66-70
【文献】 N.S.Sariciftci,"Photoninduced Electron Transfer from a Conducting Polymer to Buckminsterfullerene",Science,Vol.258 (1992),pp.1474-1476
【文献】 J.Y.Kim,"Efficient Tandem Polymer Solar Cells Fabricated by All-Solution Processing",Science,Vol.317 (2007),pp.222-225
【文献】 T.Ino,"Electrospray Deposition of Poly(3-hexylthiophene) Films for Crystalline Silicon/Organic Hybrid Junction Solar Cells",Japanese Journal of Applied Physics,Vol.51 (2012),061602
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/42−51/48
H01L 31/04−31/078
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型高分子半導体及び酸化モリブデンを含むp型半導体層を備える、全固体型太陽電池の製造方法であって、p型高分子半導体、酸化モリブデン及びフッ素系ノニオン系界面活性剤を含む溶液を用いた湿式法によりp型半導体層を作製する工程を備える、製造方法。
【請求項2】
前記酸化モリブデンの含有量が、前記p型高分子半導体100重量部に対して0.1〜8重量部である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記p型半導体層の上にn型半導体層を形成する工程を備える、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記n型半導体層が無機材料からなる、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記n型半導体層がn型結晶シリコンからなる、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記n型半導体層を構成するn型結晶シリコンの結晶面が、(100)又は(111)である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記n型半導体層の上に、さらに、下部電極を形成する工程を備える、請求項3〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記下部電極がAl、AlCs2O3又はInGaからなる、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記p型半導体層の上に、さらに、上部電極を形成する工程を備える、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記上部電極が銀からなる、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記溶液を構成する溶媒が極性溶媒である、請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記極性溶媒が、アルコール類とグリコール類との混合溶媒である、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安全で環境に対しよりクリーンであり、より安価なエネルギーが求められている。その一つとしてクリーンな発電技術である太陽光発電が注目を浴びており、新エネルギーとなりうる太陽電池の開発は急務である。
【0003】
太陽光エネルギーは無尽蔵で、化石燃料のような枯渇の心配がなく、また、COを増やす事もない。しかしながら、太陽電池はシリコン系を中心に開発されてきたが、その多くはドライプロセスを要するため、設備コストに多大なコストを要することが指摘されてきた。
【0004】
一方、近年、A. J. Heegerらが、ポリチオフェン系導電性高分子(ポリ(3−ヘキシルチオフェン);P3HT)と、フラーレン誘導体(PCBM)の混合溶液をキャストすることでバルクヘテロジャンクションによる有機系の太陽電池の開発を報告した(非特許文献1)ことから、有機太陽電池が注目されている。
【0005】
このように、近年は、ドライプロセスを要しない塗布型の太陽電池が提案され、有機系材料を中心に、色素増感太陽電池や有機太陽電池の開発が進められている。色素増感太陽電池と比較すると、有機太陽電池は電解液を用いない太陽電池であるため、さらに行程が簡略化でき、次世代の太陽電池として期待されている。
【0006】
この有機太陽電池としては、p型半導体層にP3HT(ポリ(3−ヘキシルチオフェン))、ホール輸送層にPEDOT:PSS(ポリ(3,4−エチレン−ジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホネート)を用いた有機太陽電池も知られている(非特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N. S. Sariciftci, L. Smilowitz, A. J. Heeger, and F. Wudl, Science, 258, 1474 (1992).
【非特許文献2】J. Y. Kim, K. Lee, N. E. Coates, D. Moses, T.-Q. Nguyen, M. Dante, A. J. Heeger, Science, 317, 222 (2007).
【非特許文献3】T. Ino, M. Ono, N. Miyauchi, Q. Liu, Z. Tang, R. Ishikawa, K. Ueno, and H. Shirai, "Electrospray Deposition of Poly(3-hexylthiophene) Films for Crystalline Silicon/Organic Hybrid Junction Solar Cells" Jpn. J. Appl. Phys. 51 (2012) 061602
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしかしながら、現在開発が進められている有機太陽電池はいずれも変換効率が十分ではなく、一層の向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み、鋭意検討した結果、本発明者らは、p型半導体層に、p型高分子半導体とともに酸化モリブデンを含ませることで、ホール輸送効果の向上のみならず、光吸収効果も改善し、変換効率を向上できることを見出した。このような知見に基づき、本発明者らは、さらに研究を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の構成を包含する。
項1.p型高分子半導体及び酸化モリブデンを含むp型半導体層を備える、全固体型太陽電池。
項2.前記酸化モリブデンの含有量が、前記p型高分子半導体100重量部に対して0.1〜8重量部である、項1に記載の全固体型太陽電池。
項3.前記p型半導体層の上にn型半導体層を備える、項1又は2に記載の全固体型太陽電池。
項4.前記n型半導体層が無機材料からなる、項3に記載の全固体型太陽電池。
項5.前記n型半導体層がn型結晶シリコンからなる、項3又は4に記載の全固体型太陽電池。
項6.前記n型半導体層を構成するn型結晶シリコンの結晶面が、(100)又は(111)である、項5に記載の全固体型太陽電池。
項7.前記n型半導体層の上に、さらに、下部電極を備える、項3〜6のいずれかに記載の全固体型太陽電池。
項8.前記下部電極がAl、AlCs又はInGaからなる、項7に記載の全固体型太陽電池。
項9.前記p型半導体層の上に、さらに、上部電極を備える、項1〜8のいずれかに記載の全固体型太陽電池。
項10.前記上部電極が銀からなる、項9に記載の全固体型太陽電池。
項11.前記p型半導体層が、p型高分子半導体、酸化モリブデン及び界面活性剤を含む溶液を用いた湿式法により作製される、項1〜10のいずれかに記載の全固体型太陽電池。
項12.前記溶液を構成する溶媒が極性溶媒である、項11に記載の全固体型太陽電池。
項13.前記極性溶媒が、アルコール類とグリコール類との混合溶媒である、項12に記載の全固体型太陽電池。
【発明の効果】
【0010】
p型半導体層に、p型高分子半導体とともに酸化モリブデンを含ませることで、ホール輸送効果の向上のみならず、光吸収効果も改善し、変換効率を向上できる。この変換効率向上の効果は、n型半導体層として、n型結晶シリコンを使用することでより顕著に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で作製した全固体型太陽電池セルの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.p型半導体層
本発明の全固体型太陽電池は、p型高分子半導体及び酸化モリブデンを含むp型半導体層を備える。このp型半導体層は、ホール輸送層として働くのみならず、光吸収層としても機能する。
【0013】
本発明では、上記のとおり、p型半導体層は、p型高分子半導体及び酸化モリブデンを含む。p型半導体層は、単層でも複層でもよい。複層の場合は、各層全てがp型高分子半導体及び酸化モリブデンを含む層であってもよいし、少なくとも1層がp型高分子半導体及び酸化モリブデンを含む層であってもよい。
【0014】
p型半導体層に用いるp型有機半導体としては、特に制限されるわけではないが、例えば、ポリ(3,4−エチレン−ジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)、ポリ(3−オクチルチオフェン(P3OT)等のポリチオフェン誘導体;2,2’,7,7’−テトラキス−(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)−9,9’−スピロビフルオレン(spiro-MeO-TAD)等のフルオレン誘導体;ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体;トリフェニルアミン誘導体;ジフェニルアミン誘導体;ポリシラン誘導体;ポリアニリン誘導体等が挙げられる。
【0015】
p型有機半導体のなかでも、変換効率の観点から、ポリ(3,4−エチレン−ジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)が特に好ましい。
【0016】
なお、ポリ(3,4−エチレン−ジオキシチオフェン):ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)は、導電性高分子であるポリ(3,4−エチレン−ジオキシチオフェン)(PEDOT)と水溶性高分子であるポリスチレンスルホネート(PSS)とを混合した化合物であり、例えば、以下の構造:
【0017】
【化1】
【0018】
[式中、nは1以上の整数である]
を有する化合物である。PEDOT:PSSは、市販のものを用いても、公知の方法により別途製造したものを用いてもよい。
【0019】
酸化モリブデンとしては、MoO(IV)、Mo(III)、MoO(VI)等が挙げられ、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、変換効率の観点から、MoO(VI)が好ましい。なお、酸化モリブデンの構造は、X線回折(XRD)、X線光電子分光(XPS)等により確認することができる。
【0020】
酸化モリブデンの平均粒子径は、特に制限されないが、通常1nm〜10μm程度が好ましく、5nm〜1μm程度がより好ましい。酸化モリブデンの平均粒子径をこの範囲とすることにより、均質な分散が可能になり、また、平滑な成膜体が得られる。
【0021】
このような酸化モリブデンは、公知又は市販品を用いることができる。
【0022】
p型半導体層において、p型高分子半導体と、酸化モリブデンの含有量については、酸化モリブデンを、p型高分子半導体100重量部に対して0.1〜8重量部が好ましく、0.5〜5重量部がより好ましく、0.7〜2重量部がさらに好ましい。酸化モリブデンの含有量を上記範囲内とすることにより、製膜性を悪化させずに開放電圧及びフィルファクターを維持しつつ短絡電流密度を向上させて、変換効率を向上させることができる。
【0023】
本発明において、p型半導体層には、上記有機高分子半導体及び酸化モリブデン以外にも、セレン、ヨウ化銅(CuI)等の沃化物、層状コバルト酸化物等のコバルト錯体、CuSCN、MoO、NiO、PEDOT等を含ませてもよい。
【0024】
沃化物としては、例えば、ヨウ化銅(CuI)等が挙げられる。層状コバルト酸化物としては、例えば、ACoO(A=Li、Na、K、Ca、Sr,Ba;0≦X≦1)等が挙げられる。
【0025】
このように、p型半導体層中に、p型高分子半導体と酸化モリブデンを含ませた場合、複合体として変換効率を向上させることができる。複合体としての効果は種々考えられるが、例えば、酸化モリブデンの層間にp型高分子半導体がインターカレーションして配列をそろえ、変換効率を向上させることができるというメカニズムが考えられる。
【0026】
p型半導体層の厚みは、特に制限されないが、0.01〜100μm程度が好ましく、0.05〜10μm程度がより好ましい。複層の場合、p型半導体層の厚みは、総厚みを上記した範囲内とすることが好ましい。p型半導体層の厚みを上記範囲内とすることにより、より均質な膜が得られるとともに、キャリアの失活がより制限され、より高い変換効率が得られる。
【0027】
次に、p型半導体層の形成方法について、説明する。
【0028】
p型半導体層の形成方法は特に制限されないが、例えば、p型高分子半導体、酸化モリブデン及び界面活性剤を含む溶液を用いた湿式法により形成することができる。
【0029】
p型高分子半導体及び酸化モリブデンは上述したものである。
【0030】
界面活性剤としては、特に制限されず、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン界面活性剤のいずれも使用することができるが、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0031】
特に、フッ素系ノニオン系界面活性剤が好ましく、なかでも好ましい界面活性剤は、デュポン社製のZonyl(登録商標)FSN、Zonyl(登録商標)FSN−100、FS−300等が挙げられる。
【0032】
界面活性剤の含有量は、特に制限されないが、より均質な混合物を得つつ、電気特性及び変換効率を維持できる観点から、p型高分子半導体100重量部に対して0.01〜10重量部が好ましく、0.05〜1重量部がより好ましい。
【0033】
使用する溶媒は、抵抗を低減し、短絡電流密度を向上させて変換効率を向上させることができる観点から、極性溶媒が好ましく、アルコール類がより好ましい。なお、極性溶媒のなかでも、アルコール類はグリコール類よりも向上効果が優れているが、アルコール類とグリコール類との混合溶媒を使用すると、開放電圧及びフィルファクターも向上させ、アルコール類単独と比較してさらに変換効率を向上させることができる。特に、メタノールとエチレングリコールとの混合溶媒が最も好ましい。
【0034】
なお、アルコール類としては、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール、ノルマルブチルアルコール、イソブチルアルコール、ターシャリーブチルアルコール等が挙げられ、グルコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0035】
溶媒としてアルコール類とグリコール類との混合溶媒を使用する場合、その混合比率はアルコール類100重量部に対して、グリコール類は3〜30重量部が好ましく、5〜20重量部がより好ましい。この範囲とすることにより、より優れた変換効率が得られる。
【0036】
また、湿式法を行う際の溶液には、最終的に得ようとするp型半導体層に応じて、セレン、ヨウ化銅(CuI)等の沃化物、層状コバルト酸化物等のコバルト錯体、CuSCN、MoO、NiO、有機ホール輸送材等を含ませてもよい。
【0037】
湿式法を行う際の相手材としての基材は、特に制限されないが、後述のn型半導体層を採用することが好ましい。つまり、無機材料、特にn型結晶シリコンが好ましい。
【0038】
湿式法としては、塗布・印刷法であれば特に制限されず、スピンコート、インクジェット、噴霧、ディップ、スクリーン印刷等を採用できる。
【0039】
また、塗布後乾燥することが好ましい。乾燥条件は特に制限されないが、温度は0〜200℃、特に25〜150℃が好ましく、時間は10〜2000分、特に20〜600分が好ましい。
【0040】
ここでは、p型半導体層の製造方法について一例を示したが、これに限定されることはなく、様々な組成及び条件で作製することができる。
【0041】
2.n型半導体層
本発明では、p型半導体層の上に、n型半導体層を備えることが好ましい。
【0042】
n型半導体層は、無機材料からなる層としてもよいし、有機材料からなる層としてもよい。n型半導体層を構成する材料は、n型結晶シリコン、酸化チタン、酸化ジルコニア、又はこれらの混合体等の無機材料;フラーレン又はその誘導体等の有機材料等が挙げられる。従来はp型半導体層にPEDOT:PSS等の有機材料を用いる場合にはn型半導体層も有機材料を用いることが好ましいとされていたが、本発明においては、無機材料、特にn型結晶シリコンが、変換効率向上の観点から好ましい。
【0043】
n型半導体層を構成する材料として、n型結晶シリコンを採用する場合、その結晶面は、(100)、(110)、(111)等が存在するが、成膜する分子の配向性の点から、(100)又は(111)が好ましい。
【0044】
n型半導体層の厚みは、特に制限されないが、1nm〜5mm程度が好ましく、0.1〜500μm程度がより好ましい。n型半導体層の厚みを上記範囲内とすることにより、より変換効率を向上させることができる。
【0045】
3.下部電極
本発明では、n型半導体層の上(p型半導体層と反対側)に、さらに、下部電極を備えることが好ましい。
【0046】
この下部電極を構成する材料は、特に制限されないが、キャリアの再結合をより低減し、電極としての導電性をより確保するという観点から、Al、AlCs、InGa等が好ましい。
【0047】
下部電極の厚みは、特に制限されないが、1nm〜10μm程度が好ましく、0.02〜1μm程度がより好ましい。下部電極の厚みを上記範囲内とすることにより、シート抵抗をより低減し、結果として太陽電池の抵抗をより低減でき、また、パッシベーション膜としてキャリアの再結合をより抑制するため、フィルファクター特性をより維持できる。
【0048】
なお、n型半導体層の上に下部電極を形成する方法は特に制限されず、例えば、スパッタ、蒸着等を採用できる。
【0049】
4.上部電極
本発明では、p型半導体層の上(n型半導体層と反対側)に、上部電極を備えることが好ましい。
【0050】
上部電極を構成する材料としては、特に制限されないが、例えば、カーボン、金、銀、タングステン、モリブデン、チタン等が挙げられる。また、金、銀、タングステン、モリブデン、チタン等の金属の合金等も好ましく用いられる。なかでもより高い導電性を有し、加工がよりしやすい等の観点から、銀が好ましい。
【0051】
上部電極の厚みは、特に制限されないが、0.01〜100μm程度が好ましく、0.1〜10μm程度がより好ましい。
【0052】
なお、p型半導体層の上に上部電極を形成する方法は特に制限されず、例えば、塗布、印刷、スパッタ、蒸着等を採用できる。
【実施例】
【0053】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
【0054】
実施例1
n型半導体層であるn型結晶シリコン(結晶面は(100);厚み300μm)の裏面に、CsCO溶液でリンスしたSi上にAl蒸着を室温で行うことで、Csが表面に拡散し、下部電極であるAlCsCO(厚み0.1μm)を形成した基板に対して、p型半導体層であるPEDOT:PSS混合膜を、スピンコートにて堆積させ(厚み0.1μm)、その上に上部電極である銀電極(厚み0.1〜10μm)をスクリーン印刷により形成することで(図1)、実効面積5×5mmの全固体型太陽電池セルを作製した。
【0055】
なお、PEDOT:PSS混合膜は、p型高分子半導体としてPEDOT:PSS100重量部に対して、酸化モリブデンとしてMoOを1重量部、界面活性剤としてデュポン社製のZonyl FS-300(DuPont社製)を0.1重量部添加したメタノール及びエチレングリコール混合溶媒の溶液を用いて、n型結晶シリコン上に1000rpm、60秒間スピンコートした後140℃で30分間乾燥して堆積した。
【0056】
比較例1
酸化モリブデン(MoO)を使用しないこと以外は実施例1と同様に、比較例1の全固体型太陽電池セルを作製した。
【0057】
[実験例1:PEDOT:PSS混合膜の評価]
実施例1で作製したPEDOT:PSS混合膜について、X線光電子分光(XPS)で分析したところ、PEDOT:PSS混合膜中に存在するモリブデンイオンは6価で存在していた。
【0058】
また、電子顕微鏡(SEM)観察及びエネルギー分散型X線分析(EDX)観察を行ったところ、MoOにPSSが配位していることが示唆された。
【0059】
さらに、X線回折(XRD)パターンから決定した格子定数は、酸化モリブデンを添加しない比較例1と比較して添加した実施例1では増大した。
【0060】
つまり、MoOの層間にPSSがインターカレーションしていることが示唆された。
【0061】
[実験例2:全固体型太陽電池セルの評価]
得られた全固体型太陽電池セルについて、AM1.5測定条件で太陽電池としての特性を評価したところ、
実施例1では、
短絡電流密度Jsc:29.4mA/cm
開放電圧Voc:0.552V
フィルファクターFF:0.683
変換効率η:11.01%
シート抵抗Rs:1.26Ωcm
であった。
また、比較例1では、
短絡電流密度Jsc:27.2mA/cm
開放電圧Voc:0.538V
フィルファクターFF:0.656
変換効率η:9.89%
シート抵抗Rs:1.09Ωcm
であった。
【0062】
結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
なお、実施例1と同様に、酸化モリブデン(MoO)の含有量を3重量%、10重量%、30重量%と変化させたところ、1重量%の実施例1ほどではないものの、十分な効率であった。また、実施例1において、n型半導体層であるn型結晶シリコンの厚みを100μm、200μmに変えたところ、実施例1と同等以上の性能が得られた。
図1