特許第6198462号(P6198462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198462
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】印刷装置及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
   D06B 11/00 20060101AFI20170911BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20170911BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20170911BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20170911BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20170911BHJP
   B05C 9/04 20060101ALI20170911BHJP
   D06P 5/00 20060101ALI20170911BHJP
   D06P 7/00 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   D06B11/00 A
   B41J2/175
   B05D1/26 Z
   B05D7/00 G
   B05C5/00 101
   B05C9/04
   D06P5/00 111A
   D06P7/00
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-110250(P2013-110250)
(22)【出願日】2013年5月24日
(65)【公開番号】特開2014-227638(P2014-227638A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100166545
【弁理士】
【氏名又は名称】折坂 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142653
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100103676
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 康夫
(72)【発明者】
【氏名】大西 勝
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−053497(JP,A)
【文献】 特開2009−073963(JP,A)
【文献】 特開2001−336073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06B 11/00
B05C 5/00
B05C 9/04
B05D 1/26
B05D 7/00
B41J 2/175
D06P 5/00
D06P 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された目的色で表現される図柄をインクジェット方式で布地の媒体へ印刷する印刷装置であって、
前記媒体上で前記目的色となる色に調整されたインクである目的色用インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドを備え
前記図柄は複数の模様により構成され、
前記複数の模様のそれぞれについて、前記インクジェットヘッドで用いる1色のみの前記目的色用インクで描画すると共に、前記インクジェットヘッドとして、複数の前記目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドが設けられ、
前記インクジェットヘッドは、前記複数の模様のそれぞれにおいて前記目的色用インクの濃度が予め設定された一定の濃度となるようにインク滴を吐出するものであることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記印刷装置は、互いに色が異なる複数の前記目的色で表現される図柄を前記媒体へ印刷し、
前記複数の目的色に対応する複数の前記インクジェットヘッドを備え、
それぞれの前記インクジェットヘッドは、前記媒体上で対応する前記目的色となる色に調整された前記目的色用インクのインク滴を吐出することを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記媒体に対し、一の前記インクジェットヘッドにより一の前記目的色用インクのインク滴を前記媒体へ吐出し、かつ、その後に他の前記インクジェットヘッドにより他の前記目的色用インクのインク滴を前記媒体へ吐出する場合、
前記他のインクジェットヘッドは、前記媒体へ着弾した前記一の目的色用インクが乾燥した後に、前記他の目的色用インクのインク滴を前記媒体へ吐出することを特徴とする請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記目的色用インクを貯留し、かつ、前記インクジェットヘッドへ前記目的色用インクを供給するインクボトルを更に備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項5】
前記インクジェットヘッドは、前記目的色用インクのインク滴について、前記媒体の裏面側まで到達させるインクの量で吐出することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項6】
前記インクジェットヘッドは、前記媒体上において前記目的色用インクで印刷をすべき印刷領域に対し、前記媒体の一方の面へインク滴を吐出した後、更に、前記媒体の他方の面へインク滴を吐出することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の印刷装置。
【請求項7】
前記媒体を張り渡した状態で保持する媒体保持部材を用い、
前記インクジェットヘッドは、前記一方の面を前記インクジェットヘッドと対向させて前記保持部材に保持された前記媒体へインク滴を吐出することにより、前記媒体の一方の面へインク滴を吐出し、
かつ、前記保持部材に保持された状態のまま表裏を反転させた前記媒体へインク滴を吐出することにより、前記媒体の他方の面へインク滴を吐出することを特徴とする請求項6に記載の印刷装置。
【請求項8】
予め設定された目的色で表現される図柄をインクジェット方式で布地の媒体へ印刷する印刷方法であって、
前記媒体上で前記目的色となる色に調整されたインクである目的色用インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドを用いて印刷を行い、
前記図柄は複数の模様により構成され、
前記複数の模様のそれぞれについて、前記インクジェットヘッドで用いる1色のみの前記目的色用インクで描画すると共に、前記インクジェットヘッドとして、複数の前記目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドを用い、
前記インクジェットヘッドに、前記複数の模様のそれぞれにおいて前記目的色用インクの濃度が予め設定された一定の濃度となるようにインク滴を吐出させることを特徴とする印刷方法。
【請求項9】
予め設定された目的色で表現される図柄をインクジェット方式で媒体へ印刷する印刷装置であって、
前記媒体上で前記目的色となる色に調整されたインクである目的色用インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドを備え、
前記媒体を張り渡した状態で保持する媒体保持部材を用いて前記媒体を保持し、
前記インクジェットヘッドは、一方の面を前記インクジェットヘッドと対向させて前記保持部材に保持された前記媒体へインク滴を吐出することにより、前記媒体上において印刷をすべき印刷領域に対し、前記媒体の一方の面へインク滴を吐出して前記図柄を印刷し、
かつ、前記保持部材に保持された状態のまま表裏を反転させた前記媒体へインク滴を吐出することにより、前記印刷領域に対し、前記媒体の他方の面へインク滴を吐出するもので、
前記図柄は複数の模様により構成され、
前記複数の模様のそれぞれについて、前記インクジェットヘッドで用いる1色のみの前記目的色用インクで描画すると共に、前記インクジェットヘッドとして、複数の前記目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドが設けられ、
前記一方の面へのインク滴の吐出及び前記他方の面へのインク滴の吐出について、同じ色の前記目的色用インクで、かつ両面の図柄が重なるように印刷するものであることを特徴とする印刷装置。
【請求項10】
予め設定された目的色で表現される図柄をインクジェット方式で媒体へ印刷する印刷方法であって、
前記媒体上で前記目的色となる色に調整されたインクである目的色用インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドを用い、
前記媒体を張り渡した状態で保持する媒体保持部材を用いて前記媒体を保持し、
前記インクジェットヘッドにより、一方の面を前記インクジェットヘッドと対向させて前記保持部材に保持された前記媒体へインク滴を吐出することにより、前記媒体上において印刷をすべき印刷領域に対し、前記媒体の一方の面へインク滴を吐出して前記図柄を印刷し、
かつ、前記保持部材に保持された状態のまま表裏を反転させた前記媒体へインク滴を吐出することにより、前記印刷領域に対し、前記媒体の他方の面へインク滴を吐出し、
前記図柄は複数の模様により構成され、
前記複数の模様のそれぞれについて、前記インクジェットヘッドで用いる1色のみの前記目的色用インクで描画すると共に、前記インクジェットヘッドとして、複数の前記目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドを用い、
前記一方の面へのインク滴の吐出及び前記他方の面へのインク滴の吐出について、同じ色の前記目的色用インクで、かつ両面の図柄が重なるように印刷することを特徴とする印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布地への捺染を行う方法として、シルクスクリーン法等が広く用いられている。シルクスクリーン法等による捺染では、布地において染色しようとする領域に合わせて染料が通過する穴部を形成した版を予め作成し、その版を用いて染色を行う。
【0003】
また、従来、インクジェット方式で印刷を行うインクジェットプリンタが広く用いられている(例えば、非特許文献1参照。)。更に、近年、インクジェットプリンタを様々な用途に用いることが検討されている。例えば、捺染用のインクを用いて布地の媒体へ印刷を行うことにより、布地への捺染を行うこと等も検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】インターネットURL http://www.mimaki.co.jp
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インクジェットプリンタにより布地への捺染を行う場合、予め版を作成する必要がなくなるため、様々なデザインの染色を効率的に行うことができると考えられる。しかし、本願の発明者は、鋭意研究により、単に従来の構成のインクジェットプリンタを用いるのみでは、シルクスクリーン法等による従来の方法での染色を行う場合と同等の品質を実現することが困難である場合があることを見出した。また、本願の発明者は、更なる鋭意研究により、このような問題の原因が、インクジェットプリンタにおいてカラー印刷を行う原理と関連していることを見出した。
【0006】
より具体的に、例えば、インクジェットプリンタにおいては、通常、YMCKインクの各色のインクを用いることにより、カラー印刷を行う。そのため、インクジェットプリンタでカラー印刷を行う場合、表現する色やその濃淡等に応じて、媒体の各位置へ付着させるインクの量が様々に異なることとなる。そして、その結果、インクジェット方式で布地の媒体への印刷を行う場合、印刷される色や濃淡等に応じて、一部の領域では布地の被印刷面から浅い位置までのみインクが浸透し、他の領域では被印刷面の裏面側までインクが浸透することになる。そして、この場合、媒体の裏面側において、被印刷面の色が薄い領域等に対応する部分は布地の地の色(白色等)のままとなり、被印刷面の色が濃い領域等に対応する部分は被印刷面の色が裏面側にも抜けることになる。
【0007】
その結果、例えば印刷後の媒体を裏面側から見た場合に、まだらに印刷がされている印象を与えることになる。また、このようにインク量が、印刷する色や濃淡等で変わるため、布地の一方の面(被印刷面)にしか十分に染色できないことになる。
【0008】
また、YMCKインクによりカラー印刷を行う場合、各色用のインクジェットヘッドの吐出量にばらつきや誤差が生じると、色にブレが生じることになる。また、インクジェットヘッドの個体差によるばらつき等について補正等を行ったとしても、稼働時の不調や誤差等により生じる色のブレを避けることは困難である。
【0009】
また、布地の媒体は、印刷がされた後に洗濯がされる場合がある。そして、洗濯がされた場合、布地においては、一部の繊維(糸)の移動が生じる場合がある。また、その結果、付着しているインクの量が少ない領域では、インクが付着していない繊維が移動し、布地の地の色(白色等)が表側に現れる場合もある。そのため、インクジェット方式で布地の媒体への印刷を行う場合、単に従来の構成のインクジェットプリンタを用いるのみでは、洗濯堅牢性が不十分になる場合もある。
【0010】
ここで、布地の裏面側にまで十分にインクを浸透させるためには、例えば、媒体へ吐出するインクの量を全体的に多くして、色が薄い領域へも十分な量のインクを付着させればよいようにも思われる。しかし、YMCKインクを用いてカラー印刷を行うためには、通常、近接又は重なる位置へ、異なる色のインクのインク滴を吐出することが必要である。そして、この場合において、吐出するインクの量を多くすると、媒体上でインクが乾燥しにくくなり、異なる色のインク間での滲みが発生しやすくなる。また、その結果、適切に印刷を行うことが困難になる。そのため、YMCKインクを用いて布地の媒体への印刷を行う場合、インクの量を増やすことも容易ではない。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる印刷装置及び印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
(構成1)予め設定された目的色で表現される図柄をインクジェット方式で布地の媒体へ印刷する印刷装置であって、媒体上で目的色となる色に調整されたインクである目的色用インクのインク滴を吐出するインクジェットヘッドを備え、図柄は複数の模様により構成され、複数の模様のそれぞれについて、インクジェットヘッドで用いる1色のみの目的色用インクで描画すると共に、インクジェットヘッドとして、複数の目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドが設けられ、インクジェットヘッドは、複数の模様のそれぞれにおいて目的色用インクの濃度が予め設定された一定の濃度となるようにインク滴を吐出するものである
【0012】
このように構成した場合、例えば、一のインクジェットヘッドから吐出するインクにより、目的色を直接かつ適切に表現できる。そのため、媒体へ着弾後のインクについて、色間滲みが生じること等を適切に防ぐことができる。また、その結果、例えば必要に応じて、媒体へ吐出するインクの量を増やすことも可能となる。
【0013】
そのため、このように構成すれば、例えば、媒体の各位置に対し、十分な量のインクを付着させることができる。また、これにより、布地の媒体に対し、インクジェット方式での捺染を適切に行うことができる。また、YMCKインクによりカラー印刷を行う場合等と異なり、所望の目的色に対応する目的色用インクをはじめから用いているため、インクジェットヘッドの吐出量にばらつきや誤差が生じても、色のブレが生じることはない。
【0014】
また、このように構成した場合、例えば、表現する色や濃淡等によって媒体に付着させるインクの量を変更する必要がないため、印刷後の媒体を裏面側から見ても、まだらに印刷がされている印象を与えることを適切に防ぐことができる。また、必要に応じて、インクが被印刷面の裏面側にまで到達させることもできる。そのため、このように構成すれば、例えば、被印刷面の裏面側についても十分に染色することが可能になる。更には、媒体の各位置に十分な量のインクを付着させることができるため、洗濯堅牢性を適切に高めることもできる。
【0015】
尚、目的色とは、例えば、捺染を完了させるために印刷後に行う処理(発色処理等)を行った後の色であってよい。目的色用インクは、このような処理の後に所望の目的色を発色させるインクであってよい。また、目的色で表現される図柄とは、例えば、目的色用インクにより印刷がされる部分を含む絵又は文字等のデザインである。
【0016】
(構成2)印刷装置は、互いに色が異なる複数の目的色で表現される図柄を媒体へ印刷し、複数の目的色に対応する複数のインクジェットヘッドを備え、それぞれのインクジェットヘッドは、媒体上で対応する目的色となる色に調整された目的色用インクのインク滴を吐出する。このように構成すれば、例えば、複数の目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッドを設けることにより、例えば、複数の目的色で表現する図柄を効率的かつ適切に印刷できる。また、これにより、例えば、インクジェット方式での多色の捺染をより適切に行うことができる。
【0017】
(構成3)媒体に対し、一のインクジェットヘッドにより一の目的色用インクのインク滴を媒体へ吐出し、かつ、その後に他のインクジェットヘッドにより他の目的色用インクのインク滴を媒体へ吐出する場合、他のインクジェットヘッドは、媒体へ着弾した一の目的色用インクが乾燥した後に、他の目的色用インクのインク滴を媒体へ吐出する。一の目的色用インクは、例えば、媒体上で一の目的色となる色に調整されたインクである。また、他の目的色用インクは、例えば、媒体上で一の目的色と異なる他の目的色となる色に調整されたインクである。
【0018】
このように構成した場合、例えば、一の目的色用インクの層(レイヤ)が十分に乾燥した後に、他の目的色用インクの層を形成することとなる。そのため、このように構成すれば、例えば、複数種類の目的色用インクを用いる場合においても、インクの色間滲みが発生することを適切に防ぐことができる。また、これにより、インクジェット方式での多色の捺染をより適切に行うことができる。
【0019】
尚、媒体へ着弾した一の目的色用インクが乾燥した後とは、例えば、インクの色間滲みが発生することを適切に防ぐという目的に応じた程度において、一の目的色用インクが十分に乾燥した後であればよい。また、媒体に対する上記の印刷の動作は、例えば媒体の一部の領域に対する印刷の動作であってもよい。この場合、印刷装置は、例えば、当該一部の領域に対して一及び他の目的色用インクの層を順次形成した後、媒体における他の領域に対して更に、一及び他の目的色用インクの層を順次形成する。
【0020】
(構成4)目的色用インクを貯留し、かつ、インクジェットヘッドへ目的色用インクを供給するインクボトルを更に備える。このように構成すれば、例えば、目的色インクを適切に貯留し、インクジェットヘッドへ供給できる。また、目的色インクの色の調整や変更を行った場合等にも、インクを容易かつ適切に詰め替えることができる。
【0021】
(構成5)媒体上において目的色用インクで印刷をすべき印刷領域に対し、インクジェットヘッドは、予め設定された一定の濃度でインク滴を吐出する。このように構成すれば、例えば、媒体の各位置に対し、インクの浸透量を適切に均一化できる。また、これにより、裏面の観察時にまだらに印刷がされている印象を与えることをより適切に防ぐことができる。
【0022】
尚、インクジェットヘッドが予め設定された一定の濃度でインク滴を吐出するとは、例えば、一定の印字濃度(印字率)で印刷を行うことである。この一定の印字濃度は、例えば、インクジェットプリンタにおいて予め設定されている100%印字濃度等とすることが考えられる。また、例えば媒体に付着させるべきインクに量に応じて、100%以外の一定の印字濃度を用いてもよい。例えば、この一定の印字濃度は、200%印字濃度等のより高い濃度であってもよい。
【0023】
(構成6)インクジェットヘッドは、媒体上において目的色用インクで印刷をすべき印刷領域に対し、媒体の一方の面へインク滴を吐出した後、更に、媒体の他方の面へインク滴を吐出する。このように構成すれば、例えば、媒体の表裏の両方からインクを付着させることにより、媒体の両面に対し、確実に捺染を行うことができる。また、これにより、媒体の表裏の両面に対し、デザインを高精度で適切に付与できる。
【0024】
(構成7)媒体を張り渡した状態で保持する媒体保持部材を用い、インクジェットヘッドは、一方の面をインクジェットヘッドと対向させて保持部材に保持された媒体へインク滴を吐出することにより、媒体の一方の面へインク滴を吐出し、かつ、保持部材に保持された状態のまま表裏を反転させた媒体へインク滴を吐出することにより、媒体の他方の面へインク滴を吐出する。媒体保持部材は、印刷装置において、例えばインクジェットヘッドに対する相対位置が既知の位置へ設置される。
【0025】
このように構成した場合、媒体保持部材を用いることにより、例えば、インクジェットヘッドに対する媒体の位置合わせを行いやすくなる。また、これにより、媒体の表裏を反転させた後にも、高い精度で適切な位置へ印刷を行うことが可能となる。そのため、このように構成すれば、媒体の表裏のそれぞれに対し、より適切に印刷を行うことができる。また、これにより、媒体の両面に対し、より確実に捺染を行うことができる。
【0026】
(構成8)予め設定された目的色で表現される図柄をインクジェット方式で布地の媒体へ印刷する印刷方法装置であって、媒体上で目的色となる色に調整されたインクである目的色用インクのインク滴を吐出する。このように構成すれば、例えば、構成1と同様の効果を得ることができる。
【0027】
(構成9)媒体への印刷をインクジェット方式で印刷する印刷装置であって、インク滴を吐出するインクジェットヘッドを備え、媒体を張り渡した状態で保持する媒体保持部材を用いて前記媒体を保持し、インクジェットヘッドは、一方の面をインクジェットヘッドと対向させて保持部材に保持された媒体へインク滴を吐出することにより、媒体上において印刷をすべき印刷領域に対し、媒体の一方の面へインク滴を吐出し、かつ、保持部材に保持された状態のまま表裏を反転させた媒体へインク滴を吐出することにより、印刷領域に対し、媒体の他方の面へインク滴を吐出する。
【0028】
このように構成した場合、媒体保持部材を用いることにより、例えば、インクジェットヘッドに対する媒体の位置合わせを行いやすくなる。また、これにより、媒体の表裏を反転させた後にも、高い精度で適切な位置へ印刷を行うことが可能となる。そのため、このように構成すれば、媒体の表裏のそれぞれに対し、より適切に印刷を行うことができる。
【0029】
また、このように構成した場合、媒体の表裏のそれぞれに対してインクジェットヘッドの位置を高い精度で合わせることができるため、例えば、媒体の表裏の絵柄を高い精度で重ねて印刷すること等が容易になる。また、その結果、布地等の媒体を用いる場合において、例えば上記のような目的色用インクを用いずに、従来のインクジェットプリンタで用いられているのと同一又は同様のYMCKインクを用いたとしても、上記の媒体保持部材を用いて媒体の表裏の絵柄を重ねて印刷することにより、洗濯堅牢度を適切に高めることができる。また、裏面が白くなるといった問題も生じにくくできる。そのため、このように構成すれば、例えば、従来の方式で布地等の媒体への印刷を行う場合に生じる問題を解決することができる。また、これにより、例えば、布地等の媒体への印刷を適切に行うことができる。
【0030】
また、布地等の媒体への印刷を行う場合以外にも、例えば、表裏の画像の位置や図柄を高い精度で合わせることが必要な場合や、表裏の画像の相対的な位置を高い精度で決められた位置に合わせて印刷することが必要な場合において、上記の媒体保持部材を用いることにより、高い精度で適切に印刷を行うことができる。より具体的に、上記の媒体保持部材は、例えば、透明な媒体(プラスチック板やフィルム等)の両面に印刷を行う場合等に、好適に用いることができる。
【0031】
(構成10)媒体への印刷をインクジェット方式で印刷する印刷方法であって、インク滴を吐出するインクジェットヘッドを用い、媒体を張り渡した状態で保持する媒体保持部材を用いて前記媒体を保持し、インクジェットヘッドにより、一方の面をインクジェットヘッドと対向させて保持部材に保持された媒体へインク滴を吐出することにより、媒体上において印刷をすべき印刷領域に対し、媒体の一方の面へインク滴を吐出し、かつ、保持部材に保持された状態のまま表裏を反転させた媒体へインク滴を吐出することにより、印刷領域に対し、媒体の他方の面へインク滴を吐出する。このように構成すれば、例えば、構成9と同様の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、例えば、布地の媒体に対し、インクジェット方式での捺染を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施形態に係る印刷装置10の一例を示す図である。図1(a)は、印刷装置10の要部の構成の一例を示す。図1(b)は、印刷装置10により媒体50に描画される図柄の一例を示す。
図2】媒体50へのインク滴の吐出について更に詳しく説明をする図である。図2(a)は、インクジェットヘッド12a〜eによるインク滴の吐出時において媒体50を保持する様子の一例を示す。図2(b)は、両面への印刷後の媒体50の状態の一例を示す。
図3】本例の印刷装置10を用いて行う捺染の処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る印刷装置10の一例を示す。本例において、印刷装置10は、捺染用インクを用いるインクジェットプリンタであり、互いに色が異なる複数の目的色で表現される図柄をインクジェット方式で布地の媒体50へ印刷する。
【0035】
尚、以下の説明において、印刷とは、媒体50へインク滴を吐出することにより予め設定された図柄を描画することである。布地の媒体50への捺染を行うためには、例えば、印刷後に、更に、捺染を完了させるために処理(発色処理等)を行う。また、複数の目的色は、捺染により表現しようとする色として予め設定される色であり、例えば、所望の色彩及び明度(濃淡)に応じて決定される。本例においては、例えば、色彩が同一でも、表現されるべき明度が異なる場合には、異なる目的色となる。また、目的色により表現される色彩及び明度とは、例えば、予め設定された印字濃度(印字率)で印刷がされた場合の色彩及び明度である。印字濃度とは、例えば、単位面積あたりに吐出するインクの量である。
【0036】
また、布地とは、例えば、多数の繊維を薄く広い板状に加工したものである。この布地は、例えば、織物(テキスタイル)であってよい。また、編み物(メリヤス生地)、レース、フェルト、又は不織布等であってもよい。また、本例の印刷装置10において、媒体50は、印刷装置10に対するアタッチメント部材である媒体保持部材16を用いて保持される。媒体保持部材16は、布地の媒体50を、張り渡した状態で保持する。
【0037】
図1(a)は、印刷装置10の要部の構成の一例を示す。本例において、印刷装置10は、複数のインクジェットヘッド12a〜e、テーブル14、複数のインクボトル18a〜e、及びインク経路20を備える。複数のインクジェットヘッド12a〜eは、捺染用インクのインク滴をインクジェット方式で吐出する印刷ヘッドである。また、本例において、複数のインクジェットヘッド12a〜eのそれぞれは、互いに色が異なる目的色に対応する目的色用インクのインク滴をそれぞれ吐出する。
【0038】
ここで、本例において、目的色用インクとは、媒体50上において予め設定された目的色となる色に調整されたインクである。また、色が異なる目的色に対応する目的色用インクとは、例えば、媒体50上で異なる目的色となる色に調整された目的色用インクのことである。目的色は、例えば、捺染を完了させるために印刷後に行う処理(発色処理等)を行った後の色であってよい。目的色用インクは、このような処理の後に所望の目的色を発色させるインクであってよい。また、上記のとおり、本例において、目的色インクは、捺染用インクである。捺染用インクとは、例えば、捺染用の染料インクである。本例において、捺染インクとしては、例えば、色以外は公知の捺染用インクと同一又は同様のインクを用いることができる。
【0039】
テーブル14は、インクジェットヘッド12a〜eと対向させて媒体50を保持する台である。本例において、テーブル14は、媒体保持部材16を上面に載置することにより、媒体保持部材16に保持された媒体50をインクジェットヘッド12a〜eと対向させる。
【0040】
複数のインクボトル18a〜eは、詰め替え可能なインク貯留容器である。複数のインクボトル18a〜eのそれぞれは、複数のインクジェットヘッド12a〜eのそれぞれに対応して設けられ、対応するインクジェットヘッドに対応する目的色用インクをそれぞれ貯留する。また、複数のインクボトル18a〜eのそれぞれは、インク経路20を介して、対応するインクジェットヘッドへ目的色用インクをそれぞれ供給する。インク経路20は、複数のインクボトル18a〜eと、複数のインクジェットヘッド12a〜eとを結ぶインク経路である。
【0041】
また、詳しい説明は省略するが、印刷装置10は、上記の構成以外に、印刷の動作に必要な各種構成として、捺染用インクを用いる公知のインクジェットプリンタと同一又は同様の構成を更に備えてよい。例えば、印刷装置10は、インクジェットヘッド12a〜eに主走査動作及び副走査動作を行わせるための駆動部や制御部等を更に有する。主走査動作とは、例えば、インクジェットヘッド12a〜eが予め設定された主走査方向(Y方向)へ移動しつつインク滴を吐出する動作である。また、副走査動作とは、例えば、主走査方向と直交する副走査方向(X方向)へ、媒体50に対して相対的にインクジェットヘッド12a〜eを移動させる動作である。この副走査動作は、例えば、媒体50の位置を固定して、インクジェットヘッド12a〜eの側を移動させることにより行う。また、副走査動作においては、例えば、テーブル14を移動させること等により、インクジェットヘッド12a〜eの位置を固定して、媒体50の側を移動させてもよい。
【0042】
本例によれば、複数のインクジェットヘッド12a〜eにより、それぞれ異なる色の複数の目的色インクを用いて、媒体50の各位置に対して、適切にインク滴を吐出できる。また、これにより、複数の目的色で表現される図柄を、媒体50に対して適切に描画できる。
【0043】
また、本例においては、上記のように、インクジェットヘッド12a〜eへのインクの供給を、インクボトル18a〜eを用いて行う。そのため、本例によれば、目的色インクの色の調整や変更を行った場合等にも、インクを容易かつ適切に詰め替えることが可能になる。また、これにより、例えば、目的色インクの色の調整や変更をより容易かつ適切に行うこともできる。
【0044】
続いて、印刷装置10により描画される図柄について、更に詳しく説明をする。図1(b)は、印刷装置10により媒体50に描画される図柄の一例を示す。本例において、印刷装置10は、布地の媒体50に対し、例えば、複数の模様102a〜eにより構成される図柄を描画する。本例において、複数の模様102a〜eのそれぞれは、媒体50の図柄の一部をそれぞれ構成する絵又は文字等である。
【0045】
また、模様102a〜eのそれぞれは、複数のインクジェットヘッド12a〜eのいずれかにより、そのインクジェットヘッドで用いる1色の目的色用インクで描画される。例えば、模様102aは、インクジェットヘッド12aにより、インクジェットヘッド12aに対応する目的色用インクで描画される。また、同様に、模様102b〜eのそれぞれは、インクジェットヘッド12b〜eのそれぞれにより、そのインクジェットヘッドに対応する目的色用インクで描画される。
【0046】
このように構成した場合、例えば、模様102a〜eのそれぞれについて、一のインクジェットヘッドから吐出するインクにより、目的色を直接かつ適切に表現できる。そのため、媒体50へ着弾後のインクについて、色間滲みが生じること等を適切に防ぐことができる。また、その結果、例えば必要に応じて、媒体50へ吐出するインクの量を増やすことも可能となる。そのため、本例によれば、例えば、媒体50の各位置に対し、十分な量のインクを付着させることができる。また、これにより、布地の媒体50に対し、インクジェット方式での捺染を適切に行うことができる。
【0047】
また、このように構成した場合、所望の目的色に対応する目的色用インクをはじめから用いているため、インクジェットヘッド12a〜eの吐出量にばらつきや誤差が生じても、色のブレが生じることはない。また、媒体50の各位置に十分な量のインクを付着させることができるため、糸の裏返りが生じても色変化が少なくなる。また、これにより、例えば、捺線が完了した後の媒体50について、洗濯堅牢性を適切に高めることもできる。
【0048】
更には、媒体50の各位置に十分な量のインクを付着させることができるため、本例の印刷装置10により印刷を行った場合、例えば、印刷後の媒体50を裏面側から見ても、まだらに印刷がされている印象を与えることを適切に防ぐことができる。また、必要に応じて、インクを被印刷面の裏面側にまで到達させることもできる。そのため、本例によれば、例えば、媒体50の一方の面に対してのみ印刷を行った場合においても、被印刷面の裏面側まで十分に染色できる。
【0049】
また、インクジェットプリンタにより布地の媒体50への印刷を行う場合、インクの滲みを防ぐための前処理等を行う場合がある。そして、このような場合には、媒体50にインクが浸透しにくくなり、インクの量が少ないと、インクを媒体50に適切に定着させることがより困難になる。これに対し、本例によれば、上記のように、媒体50へ吐出するインクの量を適切に増やすことが可能である。そのため、本例によれば、例えば、インクの滲みを防ぐための前処理等を媒体50に行った場合にも、インクを媒体50に適切に定着させることができる。
【0050】
また、本例においては、例えば、複数の目的色のそれぞれについて専用のインクジェットヘッド12a〜eを設けることにより、例えば、複数種類の目的色で表現する図柄を効率的かつ適切に印刷できる。また、これにより、インクジェット方式での多色の捺染を適切に行うことができる。
【0051】
ここで、本例において、それぞれの目的色インクは、例えば、YMCKインクの各色のインクとは異なる色のインクであり、例えば、YMCKインクの各色のインクであるイエロー色(Y)、マゼンタ色(M)、シアン色(C)、及び黒色(K)のインクを予め混合することで製造される。より具体的に、例えば、所定のA色の目的色用インクは、イエロー色(Y)の混合比率をα、マゼンタ色(M)の混合比率をβ、シアン色(C)の混合比率をγ、黒色(K)の混合比率をδとして、A=α・Y+β・M+γ・C+δ・Kとなるように、混合比率α〜γを調整することで製造される。
【0052】
また、所望の表現色によっては、例えば、YMCKインクの各色のインクを、そのまま表現色用インクとして用いることも考えられる。この場合も、印刷装置10において、YMCKの各色以外の表現色を用いる場合には、YMCKインクの各色のインクとは異なる色のインクを用いる。
【0053】
また、図1に示した構成の場合、印刷装置10は、5個のインクジェットヘッド12a〜eを備えている。しかし、5以上の目的色を使用する場合、印刷装置10は、更に多くのインクジェットヘッドを備えてもよい。また、例えば印刷の工程の途中でインクボトル18a〜eに貯留するインクを入れ替えることにより、インクジェットヘッドの個数よりも多くの目的色を用いることも考えられる。また、複数台の印刷装置10を用いることにより、一の印刷装置10におけるインクジェットヘッドの個数よりも多くの目的色を用いることも考えられる。これらの場合も、媒体50に対し、多色の捺染を適切に行うことができる。
【0054】
続いて、媒体50への印刷の動作について、更に詳しく説明をする。図2は、媒体50へのインク滴の吐出について更に詳しく説明をする図である。図2(a)は、インクジェットヘッド12a〜eによるインク滴の吐出時において媒体50を保持する様子の一例を示す。
【0055】
図1に関連して説明をしたように、本例においては、テーブル14上に載置される媒体保持部材16により、例えばシルクスクリーン法においてスクリーンを張って保持するのと同様の方式で、布地等の媒体50を、たるまないように保持する。媒体保持部材16は、媒体50を張り渡した状態で、媒体50の一方の面をインクジェットヘッド12a〜eと対向させて、媒体50を保持する。また、本例において、テーブル14上には、媒体保持部材16の位置決め用のピン30が設けられている。これにより、媒体保持部材16は、テーブル14上において予め設定された既知の位置へ載置される。このように構成すれば、媒体50の位置を、インクジェットヘッド12a〜eに対して高い精度で合わせることができる。また、これにより、媒体50に対し、高い精度で印刷を行うことができる。
【0056】
また、媒体保持部材16は、図2(a)に示すように、テーブル14の上面と媒体50との間に隙間を空けた状態で、媒体50を保持する。このように構成すれば、例えば、インクジェットヘッド12a〜eから媒体50へ向けて吐出したインクのうち、媒体50により吸収されなかったインクを、媒体50の裏面側へ抜くことができる。また、これにより、例えば多量のインクを媒体50へ吐出した場合にも、印刷をすべき領域の外にまでインクが拡がることを適切に防ぐことができる。そのため、本例によれば、例えば、媒体50に対し、十分な量のインクを適切に吐出することができる。
【0057】
また、本例において、媒体保持部材16は、媒体50の表面側と裏面側とを反転可能な構成となっており、反転させた状態でテーブル14上に載置された場合に、媒体50の他方の面をインクジェットヘッド12a〜eと対向させる。また、この場合も、ピン30等による位置合わせを行うことにより、媒体50の位置を、インクジェットヘッド12a〜eに対して高い精度で合わせることができる。
【0058】
そのため、本例によれば、例えば、媒体50の両面に対し、確実かつ適切に捺染を行うことができる。また、これにより、例えば、スカーフ、ハンカチ、高級デザイン生地のような、表裏の両面に対して高品質な捺染を行うことが求められる製品の製造等においても、インクジェット方式によりデジタル化した印刷を適切に行うことが可能となる。
【0059】
図2(b)は、両面への印刷後の媒体50の状態の一例を示す。媒体50の両面に対して印刷を行う場合、本例の印刷装置10は、インクジェットヘッド12a〜eにより媒体50の一方の面へインク滴を吐出することにより、先ず、媒体50の一方の面への印刷を行う。そして、その後、媒体保持部材16に保持された状態のまま、媒体保持部材16の上下を反転させることにより媒体50の表裏を反転させる。そして、インクジェットヘッド12a〜eにより媒体50の他方の面へインク滴を吐出することにより、媒体50の他方の面への印刷を行う。
【0060】
また、媒体50への両面への印刷を行う場合において、本例の印刷装置10は、媒体50の一方及び他方の面に対し、例えば、両面の図柄が重なるように印刷を行う。両面の図柄が重なるように印刷を行うとは、例えば、一方の面に印刷した図柄の画像とぴったり重なる裏返った鏡像画像を他方の面に印刷することにより、裏表のない画像を印刷することである。この場合、より具体的に、インクジェットヘッド12a〜eのそれぞれは、媒体50上において目的色用インクで印刷をすべき印刷領域に対し、媒体50の一方の面へインク滴を吐出した後、更に、媒体50の他方の面へインク滴を吐出する。
【0061】
このようにした場合、両面への印刷後の媒体50において、印刷領域には、媒体50の一方及び他方の面のそれぞれの側からインクが浸透し、図中に示すように、媒体50の一方及び他方の面のそれぞれの側にインク浸透部202が形成される。また、この場合、表裏のそれぞれから、同じ色の目的色用インクで印刷を行うため、例えば媒体50の裏面側へ抜けるまでの量のインクを媒体50に載せたとしても、色間滲みは生じない。
【0062】
また、本例において、インクジェットヘッド12a〜eは、印刷領域に対し、予め設定された一定の濃度でインク滴を吐出する。一定の濃度でインク滴を吐出するとは、例えば、一定の印字濃度(印字率)で印刷を行うことである。この一定の印字濃度は、例えば、印刷装置10において予め設定されている100%印字濃度等とすることが考えられる。また、媒体に付着させるべきインクに量に応じて、この一定の印字濃度は、例えば200%印字濃度等のより高い濃度としてもよい。
【0063】
このように構成すれば、例えば、媒体50の裏面側へインクが抜ける裏抜けの状態について、インクの濃度等に関係なく一定にすることができる。また、例えば媒体50の両面への印刷を行う場合においても、図中に示したインク浸透部202のように、媒体50の各位置に対し、インクの浸透量を適切に均一化できる。これにより、媒体50の表裏の全体について、均一な印刷を行うことができる。また、例えば、媒体50の裏面の観察時にまだらに印刷がされている印象を与えること等も適切に防ぐことができる。
【0064】
そのため、本例によれば、例えば、媒体50の両面に対し、確実かつ適切に捺染を行うことができる。また、これにより、媒体50の表裏の両面に対し、デザインを高精度で適切に付与できる。
【0065】
図3は、本例の印刷装置10を用いて行う捺染の処理の一例を示すフローチャートであり、印刷装置10を用いて行う印刷の工程と、その前後の工程の一例を示す。尚、捺染の処理においては、例えば、以下において説明する工程以外にも、例えば公知の各種処理等を行ってもよい。
【0066】
本例の捺染の処理においては、先ず、布地の媒体50に対して捺染により表現する図柄を決定する(工程S102)。また、決定した図柄に応じて、捺染により表現する目的色と、図柄を示す画像データを決定する。
【0067】
尚、捺染により表現する目的色とは、例えば、捺染の処理が完了した時点で再現されるべき色である。目的色の決定は、例えば、予め作成したカラーチャートや、実物の計測データに基づいて行うことが好ましい。また、多色の捺染を行う場合には、必要な色数に応じて、使用する複数の目的色を決定する。また、図柄を示す画像データとして、目的色毎の画像データを用意する。この目的色毎の画像データは、例えば、所望の図柄を色分解したデータであり、捺染により表現する図柄のうち、それぞれの目的色の部分を示す。
【0068】
次に、決定した目的色に合わせて、目的色を再現するために必要なインクである目的色用インクの調整及び作成を行う(工程S104)。また、多色の捺染を行う場合、この工程において、使用する複数の目的色のそれぞれについて、目的色用インクの調整及び作成を行う。
【0069】
目的色用インクの調整は、例えば、YMCKインクの各色のインクの混合比率を調整することにより行う。また、この調整においては、例えば、YMCKインクの各色のインクを配合し、そのインクによる再現色の計測データ値とカラーチャートとを比較し、比較結果に応じて各色のインクの混合比率を調整する。また、これにより、YMCKインクの各色のインクについて、目的色を得るために必要な混合比率(必要配合比率)を決定する。また、調整の完了後、必要配合率でYMCKインクの各色のインクを混合することにより、目的色用インクを作成する。
【0070】
そして、目的色用インクの作成後、捺染により表現する図柄を、印刷装置10により、媒体50へ印刷する(工程S106)。この工程においては、例えば多色の捺染を行う場合、作成した各色の目的色用インクを、色毎に、インクボトル18a〜eのそれぞれに貯留する。そして、インクボトル18a〜eのそれぞれから目的色用インクを供給することにより、インクジェットヘッド12a〜eのそれぞれに、対応する目的色用インクを充填する。そして、インクジェットヘッド12a〜eのそれぞれにより、充填された目的色用インクのインク滴を、図柄を示す画像データに基づき、媒体50へ吐出する。これにより、インクジェットヘッド12a〜eにより、目的色毎の画像データに応じた画像を印刷する。
【0071】
ここで、本例において、多色の捺染を行う場合、複数の目的色用インクによる印刷は、例えば、一の目的色用インクの層(レイヤ)が十分に乾燥した後に、他の目的色用インクの層を形成する方法(レイヤ方式)により行う。より具体的には、例えば、複数の目的色C1〜Cnを用いた多色捺染を行うとして、複数のインクジェットヘッド12a〜eのうち、目的色C1〜Cnに対応するものをヘッドH1〜Hnとし、複数の目的色C1〜Cn毎の画像データをC1〜Cn画像データとした場合、先ず、目的色C1に対応する目的色用インクを充填したヘッドH1により、予め設定された一定の印字濃度(印字率)で、C1画像データに対応する画像を印刷する。
【0072】
そして、C1画像データに対応する画像の印刷が終わり、インクが十分に乾燥した後に、目的色C2に対応する目的色用インクを充填したヘッドH2により、一定の印字濃度で、C2画像データに対応する画像を印刷する。また、以下同様にして、順次、Cn−1画像データに対応する画像の印刷が終わり、インクが十分に乾燥した後に、目的色Cnに対応する目的色用インクを充填したヘッドHnにより、一定の印字濃度で、Cn画像データに対応する画像を印刷する。
【0073】
このようにして印刷を行った場合、例えば、一の目的色用インクの層(レイヤ)が十分に乾燥した後に、他の目的色用インクの層を形成することとなる。そのため、互いに色が異なる複数の目的色用インクを用いる場合においても、インクの色間滲みが発生することを適切に防ぐことができる。また、これにより、例えば、インクジェット方式での多色の捺染をより適切に行うことができる。
【0074】
尚、この工程において、インクが乾燥した後とは、例えば、インクの色間滲みが発生することを適切に防ぐという目的に応じた程度において、インクが乾燥した後であればよい。また、上記のようなレイヤ方式については、例えば媒体50の全体を対象として行うのではなく、媒体50を複数の領域に分け、領域毎に行うことも考えられる。この場合、印刷装置10は、例えば、媒体50のおける一部の領域に対してC1〜Cn画像データに対応する画像を順次印刷した後に、次の一部の領域に対して、C1〜Cn画像データに対応する画像を順次印刷する。
【0075】
また、印刷の工程に続き、捺染を完了させるために印刷後に行う発色処理を行う(工程S108)。この工程で行う処理は、例えば捺染の処理において行われる公知の発色処理と同一又は同様の処理であってよい。例えば、この工程では、例えば印刷後の媒体50に対して加熱又は温蒸し等を行うことにより、目的色用インクに目的色を発色させる。また、目的色を発色させた後に、例えば媒体50を洗浄し、乾燥させる。これにより、媒体50への捺染の処理が完了する。
【0076】
以上のように、本例によれば、例えば、目的色に対応する目的色用インクを用いることにより、色のブレを抑え、目的色による捺染を適切に行うことができる。また、一定の印字濃度での印刷を行うことにより、インクの裏抜けの状態について、インクの濃度等に関係なく一定にすることができる。また、レイヤ方式での印刷を行うことにより、例えば媒体50に多くのインクを吐出した場合でも、インクの色間滲みを適切に抑えることができる。また、例えば、十分に裏抜けする量のインクを載せることが可能になる。また、例えば、表裏の両面から印刷を行うこともできる。更には、これらにより、例えば、スカーフ、ハンカチ、高級デザイン生地のような、両面での発色が必要な製品の製造等においても、インクジェット方式によりデジタル化した印刷を行うことが可能となる。このように、本例によれば、例えば、布地の媒体に対し、インクジェット方式での捺染を適切に行うことができる。
【0077】
ここで、図2等を用いて説明をした媒体保持部材16は、例えば目的色用インクを用いる場合以外にも、好適に用いることができる。より具体的には、例えば、図2を用いても説明したように、媒体保持部材16を用いた場合、インクジェットヘッドに対する媒体50の位置合わせを行いやすくなる。また、これにより、媒体50の表裏を反転させた後にも、高い精度で適切な位置へ印刷を行うことが可能となる。そのため、媒体保持部材16を用いることにより、媒体50の表裏のそれぞれに対し、高い精度で適切に印刷を行うことができる。また、その結果、例えば、媒体50の表裏の絵柄を高い精度で重ねて印刷すること等が容易になる。
【0078】
そのため、例えば布地等の媒体50を用いる場合において、目的色用インクを用いずに、従来のインクジェットプリンタで用いられているのと同一又は同様のYMCKインクを用いたとしても、媒体保持部材16を用いて媒体50の表裏の絵柄を重ねて印刷することにより、洗濯堅牢度を適切に高めることができる。また、裏面が白くなるといった問題も生じにくくできる。そのため、このように構成した場合も、例えば、従来の方式で布地等の媒体50への印刷を行う場合に生じる問題を解決することができる。また、これにより、例えば、布地等の媒体50への印刷を適切に行うことができる。
【0079】
また、布地等の媒体50への印刷を行う場合以外にも、例えば、表裏の画像の位置や図柄を高い精度で合わせることが必要な場合や、表裏の画像の相対的な位置を高い精度で決められた位置に合わせて印刷することが必要な場合において、媒体保持部材16を用いることにより、高い精度で適切に印刷を行うことができる。より具体的に、媒体保持部材16は、例えば、透明な媒体(プラスチック板やフィルム等)の両面に印刷を行う場合等に、好適に用いることができる。
【0080】
以上、本発明を実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、例えば印刷装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0082】
10・・・印刷装置、12a、12b、12c、12d、12e・・・インクジェットヘッド、14・・・テーブル、16・・・媒体保持部材、18a、18b、18c、18d、18e・・・インクボトル、20・・・インク経路、30・・・ピン、50・・・媒体、102・・・模様、202・・・インク浸透部
図1
図2
図3