特許第6198479号(P6198479)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧

特許6198479溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法
<>
  • 特許6198479-溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法 図000006
  • 特許6198479-溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法 図000007
  • 特許6198479-溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法 図000008
  • 特許6198479-溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法 図000009
  • 特許6198479-溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法 図000010
  • 特許6198479-溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法 図000011
  • 特許6198479-溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法 図000012
  • 特許6198479-溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198479
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/10 20060101AFI20170911BHJP
   C22F 1/053 20060101ALI20170911BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20170911BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170911BHJP
【FI】
   C22C21/10
   C22F1/053
   B21J5/00 D
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 606
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 684C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】2
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-133155(P2013-133155)
(22)【出願日】2013年6月25日
(65)【公開番号】特開2015-7274(P2015-7274A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2015年9月1日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 雅是
(72)【発明者】
【氏名】中井 学
(72)【発明者】
【氏名】武林 慶樹
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特公平05−014021(JP,B2)
【文献】 特開2008−150653(JP,A)
【文献】 特開2010−261061(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/155609(WO,A1)
【文献】 特開平02−070044(JP,A)
【文献】 特開昭57−158360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00 − 21/18
C22F 1/04 − 1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mg:0.4〜4.0質量%、Zn:3.5〜7.0質量%、Cu:0.1〜0.5質量%、Mn:0.3質量%を超えて0.8質量%以下、Ti:0.001〜0.15質量%を含有し、さらに、Cr:0.1〜0.5質量%、Zr:0.05〜0.25質量%のうち少なくとも1種以上を含有し、Si:0.5質量%以下、Fe:0.5質量%以下に規制し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金から構成され、
ST方向の結晶粒長さをG(ST)μmおよびLT方向の結晶粒長さをG(LT)μmとしたとき、下記式(1)および式(2)を満足することを特徴とする溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材。
50≦G(LT)≦500・・(1)
(0.35×G(LT)+5)<G(ST)≦(0.35×G(LT)+85)・・(2)
【請求項2】
請求項1に記載の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法であって、
前記アルミニウム合金の鋳塊を鋳造する鋳造工程と、
前記鋳塊を均質化熱処理する均質化熱処理工程と、
前記均質化熱処理した鋳塊を加熱する加熱工程と、
前記加熱された鋳塊を、鍛造終了温度180〜450℃であって、
ST方向の圧下率)>(LT方向の圧下率−10であり、鍛錬比が3.5〜18となる条件で鍛造して所定の形状の鍛造材を得る鍛造工程と、
前記鍛造材を溶体化処理する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理した鍛造材を焼入れする焼入れ工程と、
前記焼入れした鍛造材を常温時効処理する自然時効処理工程と、
前記自然時効処理された鍛造材を過時効状態にする人工時効処理工程を含むことを特徴とする溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接構造部材に好適に用いられるアルミニウム合金鍛造材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、二輪車、鉄道車輛、航空機等の輸送車輛の構造部材としては、高強度であって、耐食性にも優れている7000系アルミニウム合金材料が広く使用されている。(以下、「アルミニウム合金」を「Al合金」と記載することがある。)
【0003】
7000系Al合金の代表的な合金である7N01をベースとしたAl合金鍛造材は、350〜500℃の温度で熱間鍛造を行った後、400〜500℃の温度で溶体化処理を行い、その後自然時効処理を行わずに、人工時効処理を行う工程を経て製造される。
【0004】
しかし、7000系Al合金を溶接が可能な鍛造材として使用しようとする場合、鉄や5000系Al合金と比べると、溶接が難しい合金であることが分かっている。すなわち、7000系Al合金は、その成分や製造条件等を適切に選択しないと、溶接割れなどの欠陥が発生し易いものである。
【0005】
このような問題点に対して、いくつかの先行技術が開示されている。
特許文献1は、アルミニウム合金板の溶接後に溶体化処理、焼入れ処理、人工時効処理を施すことによって、溶接部とその周辺母材との強度の均一化を図り、応力腐食割れを防止するものである。特許文献2は、特定の組成を有したアルミニウム合金を用いることによって、溶接割れを改善し、耐応力腐食割れ性に優れ、溶接後の自然時効によって溶接部の引張強さを回復させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−125184号公報
【特許文献2】特開2008−150653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された方法は、溶接後の構造体に溶体化処理、焼入処理、人工時効処理の工程を施して、強度の修正を図ろうとするものであり、実用的に制約の大きいものであった。
また、特許文献2に開示された方法は、アルミニウム合金の組成のみを規定しているが、製造条件によって、鍛造材の性能は大きく変動するものであり、鍛造材の性能の再現性に劣るものであった。
このように、溶接時の割れについてこれまで、組成や結晶構造等の要因との関係においては、十分な検証が行われていなかった。
【0008】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、引張強度を維持しつつ、溶接割れ性と耐応力腐食割れ性に優れた溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、7000系Al合金の溶接時に割れが生じる原因の究明とその対策について、鋭意検討を進めた。
【0010】
7000系Al合金では、自然時効処理を行うことによって引張強度の低下が起こるとされていた。これは、焼入処理後に人工時効処理を行う場合、最も高い引張強度を得ることができる(ピーク時効)ような条件が設定されているため、さらに自然時効処理が行われると、過時効処理となって、引張強度の低下につながるためである。しかし、本発明者らは、過時効処理をあえて行ったところ、引張強度の低下の程度は許容範囲であり、溶接時の割れの改善に対して有効であるという予期し得ない効果を見出した。
【0011】
さらに、引張強度と溶接性との両立を図るためにはアルミニウム合金の組成の最適化を図ることが必要であること、溶接を行う前のアルミニウム合金鍛造材の結晶粒や析出物が溶接時の割れに大きく関わっていること、製造条件を適切な範囲に管理して結晶粒や析出物の形態を制御することによって、溶接時の割れを抑制することが可能となること、等の知見を得るに至り、本発明に到達したものである。
ちなみに、鍛造後に放冷したF材(調質されていないもの)や溶体化処理し、焼入れ後に人工時効を行わないT4材(溶体化処理後、自然時効させたもの)は、溶接時に割れが発生しないことも本発明者らは見出している。但し、これらF材、T4材で溶接構造材として高引張強度を得るためには、溶接後にT6処理が必要であり、大型の炉が必要となるため、実用的に制約が大きいものである。
【0012】
すなわち、本発明の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材は、Mg:0.4〜4.0質量%、Zn:3.5〜7.0質量%、Cu:0.1〜0.5質量%、Mn:0.3質量%を超えて0.8質量%以下、Ti:0.001〜0.15質量%を含有し、さらに、Cr:0.1〜0.5質量%、Zr:0.05〜0.25質量%のうち少なくとも1種以上を含有し、Si:0.5質量%以下、Fe:0.5質量%以下に規制し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、ST方向の結晶粒長さをG(ST)μmおよびLT方向の結晶粒長さをG(LT)μmとしたとき、下記式(1)および式(2)を満足することを特徴としている。
50≦G(LT)≦500・・(1)
(0.35×G(LT)+5)<G(ST)≦(0.35×G(LT)+85)・・(2)
【0013】
係る構成を有するアルミニウム合金鍛造材とすることによって、引張強度を維持しつつ、溶接割れが生じにくく、耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金鍛造材とすることが可能となる。
【0014】
また、本発明の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法は、上記の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法であって、前記アルミニウム合金の鋳塊を鋳造する鋳造工程と、前記鋳塊を均質化熱処理する均質化熱処理工程と、前記均質化熱処理した鋳塊を加熱する加熱工程と、前記加熱された鋳塊を、鍛造終了温度180〜450℃であって、(ST方向の圧下率)>(LT方向の圧下率−10)であり、鍛錬比が3.5〜18となる条件で鍛造して所定の形状の鍛造材を得る鍛造工程と、前記鍛造材を溶体化処理する溶体化処理工程と、前記溶体化処理した鍛造材を焼入れする焼入れ工程と、前記焼入れした鍛造材を常温時効処理する自然時効処理工程と、前記自然時効処理された鍛造材を過時効状態にする人工時効処理工程を含むことを特徴としている。
【0015】
係る工程を含む製造方法とすることによって、引張強度を維持しつつ、溶接割れが生じにくく、耐応力腐食割れ性に優れたアルミニウム合金鍛造材を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材は、引張強度を維持しつつ、溶接割れ性と耐応力腐食割れ性に優れている。また、本発明の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法を用いることにより、上記の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図2】アルミニウム合金鍛造材の溶接後の模式図である。
図3】(a)アルミニウム合金鍛造材の方向を説明するための見取図である。(b)アルミニウム合金鍛造材の内部の結晶粒の様子を拡大して模式的に描いた図である。
図4図3(b)のL方向から見た場合のアルミニウム合金鍛造材のST−LT面における拡大断面模式図である。
図5図4の結晶粒界部分をさらに拡大して、析出物の状況を示した拡大断面模式図である。図5(a)は、アルミニウム合金鍛造材でピーク時効を行った時のTEM観察による模式図である。図5(b)は、図5(a)と同じアルミニウム合金鍛造材で過時効処理を行った時のTEM観察による模式図である。
図6】本発明の式(1)および式(2)の範囲を示した図である。
図7】アルミニウム合金鍛造材の溶接試験の方法を説明する見取図である。
図8】結晶粒のG(ST)とG(LT)の測定方法を説明するLT−ST面の拡大断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法の実施形態について詳細に説明する。まず、本発明に係る溶接構造部材を構成するアルミニウム合金について説明する。
【0019】
〔アルミニウム合金〕
本発明に係る溶接構造部材用アルミニウム合金は、Mg:0.4〜4.0質量%、Zn:3.5〜7.0質量%、Cu:0.1〜0.5質量%、Mn:0.3質量%を超えて0.8質量%以下、Ti:0.001〜0.15質量%を含有し、さらに、Cr:0.1〜0.5質量%、Zr:0.05〜0.25質量%のうち少なくとも1種以上を含有し、Si:0.5質量%以下、Fe:0.5質量%以下に規制し、かつ残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金からなる。
本発明のアルミニウム合金を構成する各元素の含有量について、以下に説明する。
【0020】
(Mg:0.4〜4.0質量%)
Mgは、アルミニウム合金の引張強度を向上させる効果がある。Mgの含有量が0.4質量%未満であると、この効果は小さい。一方、Mgの含有量が4.0質量%を超えると、耐応力腐食割れ性(耐SCC性)が低下する。よって、Mgの含有量は0.4〜4.0質量%とする。Mgの含有量は、好ましくは、1.0〜2.5質量%である。
【0021】
(Zn:3.5〜7.0質量%)
Znは、アルミニウム合金の引張強度を向上させる効果がある。Znの含有量が3.5質量%未満であると、この効果は小さい。一方、Znの含有量が7.0質量%を超えると、耐応力腐食割れ性(耐SCC性)が低下する。よって、Znの含有量は3.5〜7.0質量%とする。Znの含有量は、好ましくは、4.0〜5.5質量%である。
【0022】
(Cu:0.1〜0.5質量%)
Cuは、アルミニウム合金の耐食性を低下させるが、耐応力腐食割れ性(耐SCC性)と引張強度を向上させる効果がある。Cuの含有量が0.1質量%未満であると、この効果を十分得ることができない。一方、Cuの含有量が0.5質量%を超えると、溶接割れを発生させる危険性が生じる。よって、Cuの含有量は0.1〜0.5質量%とする。Cuの含有量は、好ましくは、0.15〜0.3質量%である。
【0023】
(Mn:0.3質量%を超えて0.8質量%以下)
Mnは、結晶組織を微細化させる効果がある。Mnの含有量が0.3質量%以下であると、この効果を十分得ることができない。一方、Mnの含有量が0.8質量%を超えると、粗大な金属間化合物が生じるため靱性が低下し、溶接時に割れが進展し易くなる。よって、Mnの含有量は0.3質量%を超えて0.8質量%以下とする。Mnの含有量は、好ましくは、0.4〜0.6質量%である。
【0024】
(Ti:0.001〜0.15質量%以下)
Tiは、鋳造後の結晶粒を微細化させる効果がある。Tiの含有量が0.10質量%を超えると、その効果は飽和し、0.15質量%を超えると粗大な金属間化合物を形成し易くなるため、靱性が低下し、溶接時に割れが進展し易くなる。一方、Ti含有量が0.001質量%未満になると上記の微細化効果が得られない。よって、Tiの含有量は0.001〜0.15質量%とする。Tiの含有量は、好ましくは、0.005〜0.05質量%である。
【0025】
(Cr:0.1〜0.5質量%)
Crは、鋳造工程および熱処理工程において、微細な化合物として析出し、結晶粒成長を抑制する効果がある。Crの含有量が0.1質量%未満であると、この効果を十分得ることができない。一方、Crの含有量が0.5質量%を超えると、初晶として粗大なAl−Cr系金属間化合物が生じるため靱性が低下し、溶接時に割れが進展し易くなる。よって、Crの含有量は0.1〜0.5質量%以下とする。Crの含有量は、好ましくは、0.15〜0.3質量%である。
【0026】
(Zr:0.05〜0.25質量%)
Zrは、Al合金の結晶粒を微細化させるとともに、安定化させる効果がある。Zrの含有量が0.05質量%未満であると、この効果を十分得ることができない。一方、Zrの含有量が0.25質量%を超えると、粗大な晶出物が生じるため靱性が低下し、溶接時に割れが進展し易くなる。よって、Zrの含有量は0.05〜0.25質量%以下とする。Zrの含有量は、好ましくは、0.1〜0.2質量%である。
【0027】
本発明の溶接構造部材用アルミニウム合金は、これらのCrおよびZrについては、不可避的不純物のレベルで含有していてもよいが、結晶組織を微細化させるため、CrおよびZrのうちの少なくとも1種以上を、添加する際には、上記の所定の範囲内で含有することが必要である。
【0028】
(Si:0.5質量%以下)
Siは、通常、地金不純物としてアルミニウム合金中に混入するものであり、鋳造工程等において、鋳塊中にAl−Fe−Si系金属間化合物を生じさせる。Siの含有量が0.5質量%を超えると、粗大なAl−Fe−Si系金属間化合物が鋳塊中に生じ易くなり、靱性が低下し、溶接時に割れが進展し易くなる。よって、Siの含有量は0.5質量%以下とする。Siの含有量は、好ましくは、0.3質量%以下である。
【0029】
(Fe:0.5質量%以下)
Feも、通常、地金不純物としてアルミニウム合金中に混入するものであり、鋳造工程等において、鋳塊中にAl−Fe系金属間化合物を生じさせる。Feの含有量が0.5質量%を超えると、粗大なAl−Fe系金属間化合物が鋳塊中に生じ易くなり、靱性が低下し、溶接時に割れが進展し易くなる。よって、Feの含有量は0.5質量%以下とする。Feの含有量は、好ましくは、0.3質量%以下である。
【0030】
(不可避的不純物)
不可避的不純物としては、B、C、Hf、Na等の元素が想定し得るが、いずれの元素であったとしても、本発明の特徴を阻害しないレベルで含有することは許容される。具体的には、これら不可避的不純物の元素は、個々の元素毎の含有量がそれぞれ0.05質量%以下であり、合計の含有量が0.15質量%以下であることが必要である。
【0031】
〔結晶構造〕
次に、本発明の実施形態の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材の結晶構造について説明する。
本発明は、溶接前のアルミニウム合金鍛造材の結晶構造を特定の構造のものとすることを特徴としている。溶接前のアルミニウム合金鍛造材の結晶構造を図2図5に基づいて説明する。
【0032】
図2に示すように、7000系Al合金のアルミニウム合金鍛造材1は、L方向に対して直角方向に直線的にアーク溶接を行った際の溶接後の状態を観察すると、溶接部2の両側の表面には、溶接割れ3が生じている。このため、本発明者らは、溶接割れが生じる原因を明らかにする為、溶接割れ部近傍の結晶粒の形態を観察した。
【0033】
ここで、図3(a)に示すように、鍛造等の塑性加工を行ったとき、金属が流動して連続的に成形されていくメタルフローに平行な方向がL方向、厚さ方向がST方向、L方向及びST方向に垂直な方向がLT方向である。
【0034】
観察の結果、図3(b)に示すように、鍛造したアルミニウム合金鍛造材1中の結晶粒4は、アルミニウム合金が流動する方向であるL方向に沿って長く伸びた形状をしており、L方向に長く伸びた結晶粒4を横切るように、LT方向またはST方向に溶接を施したときに溶接割れが発生することが分かった。
【0035】
また、図4に示すように、結晶粒4は断面が扁平な形状である。さらに、溶接時の割れ5は、この結晶粒界に発生し、表面6から結晶粒界に沿って伸びていることが分かった。
【0036】
図5は、図4の結晶粒界部分をさらに拡大したTEM観察による模式図である。結晶粒内には、結晶粒内の析出物以外の部分7と無数の小さな結晶粒内の粒内析出物8が存在している。また、結晶粒界9に沿って粒界析出物10が存在している。一般に、粒内析出物8よりも粒界析出物10の方が粒径が大きくなっている。ここで析出物とは、具体的には、ZnMg等のZn−Mg系析出物などのことをいう。
【0037】
図5(a)は、アルミニウム合金鍛造材でピーク時効を行った時のTEM観察による模式図であり、結晶粒界と結晶粒内の析出物の状態を示したものである。
図5(b)は、図5(a)と同じアルミニウム合金鍛造材で過時効処理を行った時のTEM観察による模式図であり、結晶粒界と結晶粒内の析出物の状態を示したものである。
【0038】
図5(a)の従来品と図5(b)の本発明品とを比較すると、図5(b)では、図5(a)と比較して、粒内析出物8の大きさが大きく、数が少ない。同様に、粒界析出物10の大きさが大きく、数が少ない。
【0039】
これらの現象については、以下のように考えている。
時効処理を行うことによって、低融点であるZn−Mg系析出物が結晶粒内及び結晶粒界に析出する。このとき、結晶粒界に存在する粒界析出物10は粒内の析出物8よりも大きく成長する。このようなミクロ構造を有するアルミニウム合金鍛造材を溶接したとき、粒内析出物8は小さいので再固溶し、結晶粒内に溶け込んでしまう。一方、粒界析出物10は大きいために、結晶粒界9で溶融して、結晶粒間に隙間ができる。
ここに、溶接による熱応力や素材の歪等によって引張応力がかかると、この結晶粒界9の溶融部分は容易に結合が外れて、割れが発生してしまう(図4参照)。
【0040】
しかし、人工時効処理をピーク時効時間より長くする(または、ピーク時効温度より高くする)過時効処理をすることによって、図5(b)に相当する構造とした場合には、割れが発生しにくくなることが分かった。このことについては、図5(b)では、粒界析出物10のサイズ自体は大きくなり溶接時には溶融しやすくなってしまうが、粒界析出物10の間隔が広がるため、引張応力がかかっても割れの発生、伝播が抑えられるため、割れにくくなるものと考えられる。このことは、鍛造後に放冷した粒界析出物の間隔が広いF材(調質されていないもの)は、割れが発生しないことからも裏付けられる。
【0041】
次に、本発明者らは、結晶粒の大きさと溶接割れとの関係に注目し、検討を加えた。各種製造条件で製造したアルミニウム合金鍛造材中に存在する結晶粒について、ST方向の結晶粒長さをG(ST)μm、LT方向の結晶粒長さをG(LT)μmとして、横軸にG(LT)、縦軸にG(ST)を取って、プロットしたところ、下記式(1)および式(2)を満足する範囲の実験例は、溶接割れが生じないことを見出した。
50≦G(LT)≦500・・(1)
(0.35×G(LT)+5)<G(ST)≦(0.35×G(LT)+85)・・(2)
【0042】
G(LT)が500μmを超えるときは、結晶粒が大きいため、耐SCC性が悪くなる。一方、G(LT)が50μm未満のときは、鍛造による加工度が著しく高くなり、再結晶による結晶粒粗大化が一部の部位で生じる可能性があり、その部位における引張強度の低下及び溶接割れの抑制ができなくなる可能性が高くなる。
【0043】
また、G(ST)が、(0.35×G(LT)+5)未満のときは、T6条件においても溶接割れ性、耐SCC性に対して問題はない範囲である。さらに、G(ST)が、(0.35×G(LT)+85)を超えるときは、溶接割れの抑制効果はない。
【0044】
図6では、後記する実施例は●で示され、比較例は■で示され、参考例は▲で示されている。式(2)の両辺の式の傾きと切片は、これらの実施例、比較例、参考例のプロットを基に導き出されたものである。
【0045】
ここで、参考例とは、上記式(1)および式(2)を満足していないが、本発明の実施例と同様に、引張強度、溶接割れ性、耐応力腐食割れ性の性能に優れているものである。参考例は、人工時効処理工程において、前記のような過時効処理を施さなくとも性能に優れているものであり、本発明の技術的思想とは異なる位置付けのものである。
【0046】
アルミニウム合金鍛造材中の結晶粒のG(ST)とG(LT)を式(1)および式(2)を満足する範囲にするためには、前記の特定の組成を有するアルミニウム合金であって、後記の特定の製造条件を用いて製造することが必要である。また、後記するように、鍛造工程において、(ST方向の圧下率)>(LT方向の圧下率−10)となるように調整すること、および鍛錬比を所定の範囲に調整することによって、結晶粒の形態を所定の形状に制御することができる。
【0047】
G(LT)がG(ST)より大きいときは、結晶粒の形状は扁平であり、深さ方向に亀裂が進展しにくくなることから、結果として割れが発生しなくなると考えられる。
【0048】
(耐応力腐食割れ性(耐SCC性))
本発明のアルミニウム合金鍛造材は、構造部材として使用されるものであり、高引張強度が求められるとともに、耐応力腐食割れ性(耐SCC性)にも優れていることが必要とされる。耐応力腐食割れ性試験は、Cリングを用いて、JIS H8711にある塩水交互浸漬法にて行う。
【0049】
(電気伝導率)
電気伝導率は、添加元素の固溶量と相関の高い測定値である。析出量が増加することによって、母相のAl純度が向上するほど、電気伝導率は高くなる(導電性に優れる)ため、電気伝導率は、溶接割れの指標ともなる。すなわち、人工時効処理を長時間(高温)で行って過時効処理とし、サイズの大きい析出物が形成されていると、電気伝導率が高く、かつ溶接割れも発生しにくいものとなっている。過時効処理をすることによって、電気伝導率が、通常のピーク時効処理を行ったときのアルミニウム合金鍛造材の電気伝導率よりも、0.5%以上高くなっているとき、過時効状態となっていて粒界析出物間隔が広がっていることから、割れが進展しにくくなるため、結果として溶接時に割れが発生しにくくなる。
【0050】
〔製造方法〕
次に、本発明の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法の実施形態について説明する。
図1は、本発明の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【0051】
図1に示すように、本発明の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法Sは、前記したアルミニウム合金の鋳塊を鋳造する鋳造工程S1と、前記鋳塊を均質化熱処理する均質化熱処理工程S2と、前記均質化熱処理した鋳塊を加熱する加熱工程S3と、前記加熱された鋳塊を鍛造して所定の形状の鍛造材を得る鍛造工程S4と、前記鍛造材を溶体化処理する溶体化処理工程S5と、前記溶体化処理した鍛造材を焼入れする焼入れ工程S6と、前記焼入れした鍛造材を自然時効処理する自然時効処理工程S7と、前記自然時効処理された鍛造材を人工時効処理する人工時効処理工程S8を含む。
【0052】
本発明の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材を得るためには、前記のアルミニウム合金の組成だけでなく、製造方法についても各工程において所定の条件を採用することが必要である。特に、人工時効処理をピーク時効より長い時間もしくは高い温度で行って、過時効処理とすることによって、溶接割れが生じにくい結晶構造とすることが可能となる。
【0053】
本発明の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法では、以下に特に記載した以外の工程(S1〜S3、S6)については、常法により製造することが可能である。以下に、特に留意するべき工程についてのみ、その製造条件について説明する。
【0054】
(鍛造工程S4)
鍛造工程S4は、鋳塊から目的とする所定の形状の鍛造材を得る工程である。
鍛造終了温度は、加工に必要な力量の低減、素材の割れ防止、溶体化処理時の再結晶による結晶粒粗大化を防止するため、180〜450℃の間に管理することが必要である。鍛造終了温度が180℃未満であると、加工力量が高くなり、加工機械の負担が大きくなるばかりか、素材自体も割れが発生し易くなる。また、加工歪みが高くなるため、溶体化処理時に結晶粒が粗大化し易くなる。一方、鍛造終了温度が450℃を超えると、低融点化合物である金属間化合物(ZnMgなど)が溶融する問題が生じる。
鍛造処理中に材料温度が低下した場合は、適宜加熱工程S3に戻って、再度加熱をしても良い。
【0055】
(圧下率)
鍛造工程において、圧下率とは、鍛造前の鋳塊のST方向(LT方向)の長さに対する鍛造後の鍛造材のST方向(LT方向)の減少した長さの比、すなわち、
100×(鍛造前の寸法−鍛造後の寸法)/鍛造前の寸法(%)である。圧下率の数値が大きいほど、鍛造加工による寸法の変化率が大きいことを示している。
【0056】
本発明において、LT方向の圧下率とST方向の圧下率との関係が特定の条件を満足するように加工条件を調整することによって、鍛造材中の結晶粒の形態を制御することができる。すなわち、(ST方向の圧下率)>(LT方向の圧下率−10)となるように調整することによって、結晶粒の形態を変えることができ、上記の式(1)および式(2)をいずれも満足させることができる。
【0057】
(鍛錬比)
鍛造工程において、鍛錬比とは、鍛造前の鋳塊のST−LT平面における断面積と鍛造終了後のST−LT平面における断面積の比(鍛造前の断面積/鍛造後の断面積)である。
本発明において、上記の式(1)および式(2)をいずれも満足するためには、鍛錬比は、3.5〜18の範囲となるように加工することが必要である。4.0〜15の範囲であることがより好ましい。鍛錬比が3.5未満では、鍛造組織になっていない部位が残りやすく、鍛錬比が18を超えると、加工度が高過ぎて再結晶による組織粗大化のおそれがある。
【0058】
また、鍛錬比と圧下率との間には以下のような関係がある。
(鍛錬比)=10000/{(100−LT方向の圧下率)×(100−ST方向の圧下率)}
【0059】
(溶体化処理工程S5)
溶体化処理工程S5は、加工による歪の低減と溶質元素の固溶を目的とする工程である。
溶体化処理温度は、例えば、400〜480℃の間に管理することが望ましい。溶体化処理温度が400℃未満であると、十分な溶体化が進まないため、高い引張強度を発現することができない。また、晶出物の微細化も進みにくいため、靱性も低下し易くなる。一方、溶体化処理温度が480℃を超えると、低融点化合物である金属間化合物(ZnMgなど)が溶融する問題が生じる。
【0060】
(自然時効処理工程S7)
自然時効処理工程S7は、過飽和固溶体から析出を起こさせることで引張強度を上げる工程である。
自然時効処理は、常温で96時間以上することが好ましい。自然時効処理では微細で高密度な析出物を析出させることが目的であり、高密度に析出させるほど高い引張強度が得られる。但し、低温であるため、析出速度は遅くなっている。常温で96時間未満の処理ではこれらの効果を十分に得ることができない可能性がある。
【0061】
(人工時効処理工程S8)
人工時効処理工程S8は、自然時効処理された鍛造材の析出物を成長させて、引張強度をさらに増大させる工程である。
人工時効処理は、90〜180℃で、24〜72時間行うことが好ましい。人工時効処理温度が90℃未満では、自然時効処理の析出物が十分成長できず、引張強度向上に寄与することができない。一方、人工時効処理温度が180℃を超えると、自然時効処理の析出物の一部が再固溶して、高い引張強度ではなくなってしまう。また、人工時効処理時間が24時間未満では、引張強度に寄与できるサイズに析出物が成長できない。一方、人工時効処理時間が72時間を超えると、析出物が粗大になり過ぎて、引張強度向上に寄与できなくなる可能性がある。
過時効処理とは、人工時効処理において、ある温度(時間)で最も高い引張強度を有する時間(温度)より長い時間(高い温度)で処理を行うことである。過時効処理をすることによって、アルミニウム合金鍛造材を過時効状態にすることができる。
【0062】
本発明の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材は、人工時効処理工程S8を行った後は、アーク溶接、プラズマ溶接、レーザ溶接等の種々の溶接加工を行うことができる。また、折り曲げ、切削、表面処理等の種々の二次加工を行って、形態を変えて、実際の製品とすることができる。
【実施例】
【0063】
次に、本発明を実施例に基づいて説明する。尚、本発明は、以下に示した実施例に限定されるものではない。
【0064】
[試験材1〜34]
表1に示す各種合金組成を有したAl合金を用いて、DC鋳造法により、加熱温度720℃で、断面が200×370mmのスラブに鋳造した。その後この鋳塊を、450℃で12hr保持して均質化熱処理を行った。
【0065】
その後、均質化熱処理を行った鋳塊を、420℃の空気炉で加熱後、鍛造開始温度400℃、鍛造終了温度380℃で、上下金型を用いて、メカニカル鍛造により熱間鍛造を行った。このとき、ST方向の圧下率60%、LT方向の圧下率55%、鍛練比5.6とした。その結果、断面が80×167mmの角柱の棒に鍛造され、Al合金鍛造材を製造した。
【0066】
さらに、Al合金鍛造材を空気炉を用いて、460℃で4hr保持して溶体化処理した後、75℃の水で焼入れを行った。引き続いて、焼入れを行ったAl合金鍛造材に、常温で120時間の自然時効処理を行った。その後、空気炉を用いて、120℃×24hrの条件のときにピーク時効となることから、140℃で24hrの条件で人工時効処理を行った。
【0067】
こうして得られたAl合金鍛造材から引張試験用試験片および耐応力腐食割れ性(耐SCC性)評価用試験片(Cリング)を採取した。これらの試験片を用いて、引張強度、耐SCC性についての評価を行った。また、得られたAl合金鍛造材を用いて溶接試験を行い、溶接割れ性について評価を行った。評価結果を表2に示した。表1中、本発明の規定を満足しない組成は、数値に下線を引いて示した。
実施例および比較例において評価した特性は以下のとおりである。
【0068】
[結晶粒の大きさ]
図8は、結晶粒のG(ST)とG(LT)の測定方法を説明するLT−ST面の拡大断面模式図である。供試用試料は、ST−LT面の中心部から採取した。供試用試料は、鏡面となるまで研磨した後、バーカー氏液を用いて陽極酸化させ、偏光をかけた光学顕微鏡を使用して観察した。
【0069】
結晶粒サイズは、ST方向の結晶粒長さG(ST)μmおよびLT方向の結晶粒長さG(LT)μmのそれぞれを、切片法にて計測した。それぞれ、n数=5の平均値として求めた。具体的には以下のとおりである。
図8において、LT方向に直線A−A’を引き、このA−A’直線によって横切られる粒界の数を計測し(この図では3)、図8のLT方向の長さ(μm)を粒界の数で割り返すことによって、G(LT)(μm)を求めた。この方法で得られた5つのG(LT)の平均値をG(LT)とした。
同様に、ST方向に直線B−B’を引き、このB−B’直線によって横切られる粒界の数を計測し(この図では11)、図8のST方向の長さ(μm)を粒界の数で割り返すことによって、G(ST)(μm)を求めた。この方法で得られた5つのG(ST)の平均値をG(ST)とした。
【0070】
[溶接割れ性]
図7は、アルミニウム合金鍛造材の溶接試験の方法を説明する見取図である。
溶接材11は、供試用試料で作られ、ST方向のサイズが10mm、LT方向のサイズが200mm、L方向のサイズが100mmである。
溶接材12には、溶接可能なアルミニウム合金として7N01合金を使用し、サイズは、厚さ50mm×幅250mm×長さ100mmのものを用いた。
溶接条件としては、T字隅肉溶接とした。供試用試料の溶接材11のST−LT平面が溶接材12上に溶接されるように溶接を行った。
手動TIG溶接の条件は、ダイヘン社製インバータエレコン500Pを使用して、溶接電流300A、アーク電圧24V、溶接速度10〜15cm/minで行い、シールドガスとして、Arガスを15リットル/minで流した。
溶接割れの判定は、カラーチェックにより目視で行い、溶接材11で溶接部近傍に割れが認められなければ合格と判定した。(溶接材12および溶接部13における割れは判定しない。)
【0071】
[引張試験]
引張試験は、引張方向がLT方向となるように、JIS Z2201にある4号試験片を用いて、JIS Z2241の規定に準じて、引張強度の測定を行った。それぞれの測定値は、30個の試験片の測定値の平均値として求めた。引張強度は370MPa以上のときに合格(○)と判定した。
【0072】
[耐応力腐食割れ性(耐SCC性)]
応力腐食割れ試験は、300MPaの応力を付加した試験片を用いて、30日間、JIS H8711の塩水交互浸漬法にて行った。この際、試験片12個について試験を行い、全ての試験片で応力腐食割れを起こしていないとき、合格(○)と判定した。なお、応力腐食割れの判定は、Cリングの1/2以上に渡る亀裂の有無により行い、亀裂がCリングの1/2未満のもの、全く無いものを合格とした。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
表1、表2に示すように、本発明の組成の規定を満足するAl合金からなる鍛造材(試験材1〜19)は、G(LT)とG(ST)の関係式である式(1)および式(2)を満足するものであり、溶接割れ性、引張強度、耐SCC性に優れていた。一方、本発明の組成の規定を満足しないAl合金からなる鍛造材(試験材20〜34)は、溶接割れ性、引張強度、耐SCC性のうちのいずれか1つ以上が劣っていた。
【0076】
[試験材35〜57]
試験材1に記載の組成、即ち、Mg:1.99質量%、Zn:5.0質量%、Cu:0.20質量%、Mn:0.50質量%、Ti:0.05質量%、Cr:0.25質量%、Zr:0.15質量%、Si:0.25質量%、Fe:0.25質量%で、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用いて、表3に記載した製造条件を用いて、Al合金鍛造材を製造した。尚、鋳造条件、均質化熱処理条件、加熱条件、焼入れ条件は、試験材1〜34と同様に行った。表3中、本発明の規定を満足しない条件は、数値に下線を引いて示した。人工時効処理におけるピーク時効条件は、120℃では24hr、130℃では16hr、180℃では5hrであった。
【0077】
こうして得られたAl合金鍛造材から試験材1と同様に、引張試験用試験片および耐応力腐食割れ性(耐SCC性)評価用試験片(Cリング)を採取した。これらの試験片を用いて、実施例1と同様に、溶接割れ性、引張強度、耐SCC性についての評価を行った。評価結果を表4に示した。
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
表3、表4に示すように、本発明の製造方法の規定を満足するAl合金からなる鍛造材(試験材35〜40)は、G(LT)とG(ST)の関係式である式(1)および式(2)を満足するものであり、溶接割れ性、引張強度、耐SCC性に優れていた。
一方、鍛造終了温度、圧下率、鍛錬比のいずれかの条件を満足していない条件で製造されたAl合金鍛造材(試験材41〜47、49〜51)は、いずれも式(2)を満足せず、溶接割れ性、引張強度、耐SCC性のいずれか1つ以上の性能が劣っていた。試験材48は、鍛造終了温度が上限を超えていたため、バーニングが発生して、評価用試料を採取することができなかった。
試験材52〜57は、過時効ではないピーク時効条件で製造されたAl合金鍛造材であり、参考例となるものである。
【符号の説明】
【0081】
S 本発明の溶接構造部材用アルミニウム合金鍛造材の製造方法
S1 鋳造工程
S2 均質化熱処理工程
S3 加熱工程
S4 鍛造工程
S5 溶体化処理工程
S6 焼入れ工程
S7 自然時効処理工程
S8 人工時効処理工程
1 アルミニウム合金鍛造材
2 溶接部
3、5 溶接割れ
4 結晶粒
6 アルミニウム合金鍛造材表面
7 結晶粒内の析出物以外の部分
8 結晶粒内の粒内析出物
9 結晶粒界
10 粒界析出物
11 溶接材(供試用試料)
12 溶接材(7N01合金)
13 手動TIG溶接による溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8