(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
プリント配線板は、基材上に導体回路パターンを形成したものであり、導体回路のランド部には電子部品がはんだ付けによって搭載され、ランド以外の回路部分にはソルダーレジスト膜が導体保護のために被覆された基本構造を有する。
【0003】
近年、プリント配線板の導体回路パターンの細線化と実装面積の縮小化が進んでいる。即ち、プリント配線板を備える機器の小型化・高機能化に対応するため、プリント配線板のさらなる軽薄短小化が望まれている。このため、プリント配線基板に設けたスルーホールに樹脂充填剤を充填し、硬化して平滑面とした後、その配線基板上に層間樹脂絶縁層と導体回路層を交互に積層してなる多層プリント配線板、あるいはスルーホール等に樹脂充填剤を充填した基板に直接ソルダーレジスト膜を形成する多層プリント配線板が開発されている。このような状況下において、スルーホールやビアホール等の穴部に充填するための充填性、研磨性、作業性(低粘度)、硬化物特性等に優れた永久穴埋め用絶縁性組成物の開発が望まれている。
【0004】
プリント配線板の永久穴埋め用絶縁性組成物としては、一般に、その硬化物が機械的、電気的、化学的性質に優れ、接着性も良好であることから、熱硬化型のエポキシ樹脂組成物が広く用いられている。この場合のプリント配線板の永久穴埋め加工は、エポキシ樹脂組成物をプリント配線板の穴部に充填する工程、充填された組成物を加熱して研磨可能な状態に予備硬化する工程、予備硬化した組成物の穴部表面からはみ出している部分を研磨、除去する工程、及び予備硬化した組成物をさらに加熱して本硬化する工程より行われる。
【0005】
しかしながら、上記のような穴埋め用組成物を用いた場合、ソルダーレジスト用組成物と異なるため、硬化処理やはんだレベリングなどの高温条件下において、穴部絶縁層にクラック(内部クラック)が発生したり、穴部絶縁層の周辺部で外層絶縁層(ソルダーレジスト層や絶縁樹脂層)との間に剥離(デラミ)が発生するという問題があった。
【0006】
このような問題を解決するため、例えば、特許文献1には、配線基板の表面に生じる凹部あるいは該基板に設けたスルーホールに充填される無溶剤の樹脂充填剤であって、樹脂成分としてビスフェノール型エポキシ樹脂、硬化剤としてイミダゾール硬化剤、添加成分として平均粒子径が0.1〜5.0μmである無機粒子を用いることを特徴とする樹脂充填剤が開示されている。
【0007】
引用文献2には、エポキシ樹脂と硬化剤とを有するエポキシ樹脂組成物とフィラーとを含有し、エポキシ樹脂は、アミン型エポキシ樹脂及びポリフェノール型エポキシ樹脂を含むスルーホール充填用ペーストが開示されている。また、硬化剤として、イミダゾール系化合物(2E4MZ−C)が使用されている。
【0008】
また、特許文献3には、破砕物状粒子、球状粒子、立方体状粒子又は紡錘状粒子の炭酸カルシウム粉末と熱硬化性樹脂(例、エポキシ樹脂)とを含有する充填材が開示されている。また、特許文献3の実施例には、2官能エポキシ樹脂としてのビスフェノールF型エポキシ樹脂と、3官能エポキシ樹脂としてのアミノフェノール型エポキシ樹脂とを含有する組成物が開示されている。
【0009】
さらに、特許文献4には、(A)エポキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂硬化剤、及び(C)無機フィラーを含有し、プリント配線板の穴部に充填される熱硬化性樹脂組成物であって、上記エポキシ樹脂(A)が2官能のエポキシ樹脂(A−1)と3官能以上のエポキシ樹脂(A−2)を含み、上記無機フィラー(C)が周期律表のIIa族の元素の塩からなることを特徴とする穴埋め用熱硬化性樹脂組成物が開示されてい
る。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、熱硬化性樹脂組成物を構成する各成分、同組成物を硬化させることによって得られる絶縁性硬化物を有するプリント配線板について説明する。
【0024】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)2種類以上の多官能エポキシ樹脂、(B)硬化剤、及び(C)無機フィラーを主成分として含み、且つ(B)硬化剤としてトリアジン構造を含むイミダゾール化合物を用いている。
【0025】
エポキシ樹脂(A)としては、2種類以上の多官能エポキシ樹脂を用いる。多官能エポキシ樹脂とは、1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂である。本発明では2種類の多官能エポキシ樹脂を用いることが好ましいが、これら以外に、他の1、2官能又は多官能エポキシ樹脂を用いてももちろん良い。
【0026】
多官能エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂(特に、トリグリシジルアミノフェノール型エポキシ樹脂)、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、トリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、ジグリシジルフタレート樹脂、フェノール類(ビフェノール、ビスフェノール、クレーゾールなどを含む。)とフェノール性水酸基を有する芳香族アルデヒドとの縮合物のエポキシ化物及びそれらの臭素原子含有エポキシ樹脂及びリン原子含有エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂、液状アルコールエーテル型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂等の3官能以上のエポキシ樹脂を挙げることができる。併用しても良い2官能エポキシ樹脂としては、例えば、ビフェノール型エポキシ樹脂又はビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げることができ、具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビキシレノール型エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0027】
なお、ビスフェノールノボラック型エポキシ樹脂には、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂などのビスフェノール構造を有するノボラック型エポキシ樹脂が含まれる。
【0028】
2種類以上の多官能エポキシ樹脂の一方のエポキシ樹脂としては、1分子中に3個以上のエポキシ基を有し、20℃で液状の多官能エポキシ樹脂が好ましい。
【0029】
1分子中に3個以上のエポキシ基を有し且つ20℃で液状ものとしては、液状フェノールノボラック型エポキシ樹脂、液状アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、液状アミノフェノール型エポキシ樹脂(特に、トリグリシジルアミノフェノール型エポキシ樹脂)、液状ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、液状ナフタレン型エポキシ樹脂、液状ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、液状グリシジルアミン型エポキシ樹脂、液状トリヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、液状テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、液状ジグリシジルフタレート樹脂、液状脂環式エポキシ樹脂、液状アルコールエーテル型エポキシ樹脂を挙げることができる。これらの中で、液状アミノフェノール型エポキシ樹脂(特に、トリグリシジルアミノフェノール型エポキシ樹脂)が好ましい。
【0030】
2種類以上の多官能エポキシ樹脂の他方のエポキシ樹脂としては、前記の1分子中に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂から選択して使用される。他方のエポキシ樹脂としては、3官能のエポキシ樹脂で、液状であっても、固体であっても良い。
【0031】
2種類の多官能エポキシ樹脂の組合せとしては、20℃で液状の多官能エポキシ樹脂を2種類の組合せ、20℃で液状の多官能エポキシ樹脂と20℃で固体の多官能エポキシ樹脂の組合せ、20℃で固体の多官能エポキシ樹脂を2種類の組合せが可能である。本発明では20℃で液状の多官能エポキシ樹脂を2種類の組合せ、或いは20℃で液状の多官能エポキシ樹脂と20℃で固体の多官能エポキシ樹脂の組合せが好ましく、特に20℃で液状の多官能エポキシ樹脂を2種類の組合せが好ましい。
【0032】
ここで、本明細書でいう「液状」の判定方法について説明する。
【0033】
液状の判定は、危険物の試験及び性状に関する省令(平成元年自治省令第1号)の別紙第2の「液状の確認方法」に準じて行う。
【0034】
(1)装置
恒温水槽:攪拌機、ヒーター、温度計、自動温度調節器(±0.1℃で温度制御が可能なもの)を備えたもので深さ150mm以上のものを用いる。
【0035】
尚、後述する実施例で用いたエポキシ樹脂の判定では、いずれもヤマト科学(株)製の低温恒温水槽(型式BU300)と投入式恒温装置サーモメイト(型式BF500)の組み合わせを用い、水道水約22リットルを低温恒温水槽(型式BU300)に入れ、これに組み付けられたサーモメイト(型式BF500)の電源を入れて設定温度(20℃又は40℃)に設定し、水温を設定温度±0.1℃にサーモメイト(型式BF500)で微調整したが、同様の調整が可能な装置であればいずれも使用できる。
【0036】
試験管:
試験管としては、
図1に示すように、内径30mm、高さ120mmの平底円筒型透明ガラス製のもので、管底から55mm及び85mmの高さのところにそれぞれ標線11,12が付され、試験管の口をゴム栓13aで密閉した液状判定用試験管10aと、同じサイズで同様に標線が付され、中央に温度計を挿入・支持するための孔があけられたゴム栓13bで試験管の口を密閉し、ゴム栓13bに温度計14を挿入した温度測定用試験管10bを用いる。以下、管底から55mmの高さの標線を「A線」、管底から85mmの高さの標線を「B線」という。
【0037】
温度計14としては、JIS B7410(1982)「石油類試験用ガラス製温度計」に規定する凝固点測定用のもの(SOP−58目盛範囲20〜50℃)を用いるが、0〜50℃の温度範囲が測定できるものであればよい。
【0038】
(2)試験の実施手順
温度20±5℃の大気圧下で24時間以上放置した試料を、
図1(a)に示す液状判定用試験管10aと
図1(b)に示す温度測定用試験管10bにそれぞれA線まで入れる。2本の試験管10a,10bを低温恒温水槽にB線が水面下になるように直立させて静置する。温度計は、その下端がA線よりも30mm下となるようにする。
【0039】
試料温度が設定温度±0.1℃に達してから10分間そのままの状態を保持する。10分後、液状判断用試験管10aを低温恒温水槽から取り出し、直ちに水平な試験台の上に水平に倒し、試験管内の液面の先端がA線からB線まで移動した時間をストップウォッチで測定し、記録する。試料は、設定温度において、測定された時間が90秒以内のものを液状、90秒を超えるものを固体状と判定する。
【0040】
2種類の多官能エポキシ樹脂における樹脂の種類の組合せとしては、アミノフェノール型エポキシ樹脂(特に、トリグリシジルアミノフェノール型エポキシ樹脂)と、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、アルコールエーテル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂又はびフルオレン型エポキシ樹脂との組合せを挙げることができる。特に、アミノフェノール型エポキシ樹脂(特に、トリグリシジルアミノフェノール型エポキシ樹脂)と、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂又は脂環式エポキシ樹脂との組合せ、中でもアミノフェノール型エポキシ樹脂(特に、トリグリシジルアミノフェノール型エポキシ樹脂)と、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、アルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂又はジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂との組合せの組合せが好ましい。
【0041】
トリグリシジルアミノフェノール型エポキシ樹脂の市販品としては、三菱化学(株)社製のjER−630、住友化学(株)社製のELM−100、同ELM-100H、ハンツマン・アドバンテスト・マテリアルズ社製MY0510、DIC株式会社のエピクロン430−L、同エピクロン430等を挙げることができる。
【0042】
前記のトリグリシジルアミノフェノール型エポキシ樹脂は一般に下記式(I)の構造を有する:
【0044】
また、前記のフェノールノボラック型エポキシ樹脂は一般に下記式(II)の構造を有する:
【0045】
【化2】
式IIにおいて、nが0.1〜3.0、好ましくは0.2〜1.8であり、ベンゼン環はメチル基等の低級アルキル基を置換基として有していてもよい。
【0046】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂は一般に下記式(III)の構造を有する:
【0047】
【化3】
式IIIにおいて、nが0.1〜3.0、好ましくは0.2〜1.8であり、ベンゼン環はメチル基等の低級アルキル基を置換基として有していてもよい。
【0048】
2種類の多官能エポキシ樹脂の組合せにおいて、2種類の多官能エポキシ樹脂の一方がアミノフェノール型エポキシ樹脂の場合の、アミノフェノール型エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂との質量比(アミノフェノール型:他)は、30:70〜90:10、特に40:60〜80:20の範囲が好ましい。上記質量比(アミノフェノール型:他)を下限以上にすることにより、硬化物の吸水率を低く抑えて、デラミを抑制でき、また上限以下にすることにより良好な吸水性、耐熱性を得ることができる。
【0049】
また、前述のように、エポキシ樹脂は前記2種類以外に使用しても良く、また反応性希釈剤としての単官能エポキシ樹脂を含有していてもよい。
【0050】
2種類以上の多官能エポキシ樹脂を使用することにより、例えば、低分子量の液状の多官能エポキシ樹脂が、組成物の粘度低下及び得られる硬化皮膜の可撓性及び密着性向上に寄与し、高分子量の多官能エポキシ樹脂が、ガラス転移点を上昇させるのに寄与するので、これらの比率を上記のように調整することにより特性のバランスがとれた硬化物を得ることができる。
【0051】
本発明では、エポキシ樹脂硬化剤(B)として、トリアジン構造を含むイミダゾール化合物が使用される。トリアジン構造を含むイミダゾール化合物は、一般に、置換基を有していても良いイミダゾリル基又はイミダゾリルアルキル基(アルキルは炭素原子数1〜4のアルキル、特にエチルが好ましい)が1〜3個(好ましくは1個)置換されたトリアジンである。トリアジン構造を含むイミダゾール化合物を使用することにより、保存安定性の向上と共に、クラック、ボイドの発生等がない等の優れた物性を得ることができ、特に、前述の2種類の多官能エポキシ樹脂と併用することにより、上記優れた保存安定性と共に、耐熱信頼性の高い硬化物が得られる。
【0052】
トリアジン構造を含むイミダゾール化合物の例としては、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−S−トリアジン、2,4−ジアミノ - 6 - [2' - メチル イミダゾリル - (1')] - エチル - s - トリアジン、2,4 - ジアミノ - 6 - [2' - ウンデシルイミダゾリル - (1')] - エチル - s - トリアジン、2,4−ジアミノ - 6 - [2' - エチル - 4' - メチルイミダゾリル - (1')] -エチル - s - トリアジン等を挙げることができる。これらは、2MZ−A、2MZ−AP、2MZA−PW、C11Z−A、2E4MZ−A等の商品名(四国化成工業(株)製)で市販されている。2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−S−トリアジン、2,4−ジアミノ - 6 - [2' - エチル - 4' - メチルイミダゾリル - (1’)] -エチル - s - トリアジンが好ましい。これにより熱硬化性樹脂組成物の保存安定性優れ、短時間硬化でクラックの発生のない硬化物が得られる。
【0053】
本発明では、エポキシ樹脂硬化剤(B)として、トリアジン構造を含むイミダゾール化合物以外の化合物を副次的に使用することができる。
【0054】
イミダゾール誘導体、例えば2−メチルイミダゾール、4−メチル−2−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4−メチル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール等を挙げることができる。
【0055】
イミダゾール以外にも、ジシアンジアミドとその誘導体、メラミンとその誘導体、ジアミノマレオニトリルとその誘導体、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラメチレンペンタミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエタノーアミン、ジアミノジフェニルメタン、有機酸ヒドラジッド等のアミン類、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(商品名DBU、サンアプロ(株)製)、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(商品名ATU、味の素(株)製)、又は、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン等の有機ホスフィン化合物等を、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0056】
また、ジシアンジアミド、メラミンや、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、3,9−ビス[2−(3,5−ジアミノ−2,4,6−トリアザフェニル)エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等のグアナミン及びその誘導体、及びこれらの有機酸塩やエポキシアダクトなどは、銅との密着性や防錆性を有することが知られており、エポキシ樹脂の硬化触媒として働くばかりでなく、プリント配線板の銅の変色防止に寄与することができる。
【0057】
硬化剤(B)の配合量は、エポキシ樹脂(A)100質量部当り3〜20質量部、さらに5〜15質量部が好ましい。エポキシ樹脂硬化剤(B)の配合量を3質量部以上にすることにより、一般に樹脂組成物の予備硬化速度が適度に早くなり、穴部深部の組成物の硬化が良好となる結果、クラックの発生を生じ難くなるので好ましい。また、エポキシ樹脂硬化剤(B)を配合量が20質量部以下にすることにより、保存安定性が保持される他、一般に樹脂組成物の予備硬化速度が早くなり過ぎず、硬化物にボイドが残留し難いので好ましい。
【0058】
無機フィラー(C)としては、例えば、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、酸化ケイ素粉、微粉状酸化ケイ素、無定形シリカ、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、雲母粉、ノイブルグ珪土等の公知慣用の無機フィラーが使用できる。無機フィラーは全組成物中の40〜90質量%で含まれるのが好ましい。40質量%以上にすることにより、硬化物の熱膨張率を低くすることができ、デラミの発生を抑制できる。一方、90質量%以下にすることにより、液状ペースト化が可能で、印刷性、穴埋め充填性なども良好に保持できる。
【0059】
無機フィラー(C)の平均粒径は、0.1〜25μm、さらに0.5〜10μm、特に1〜10μmであることが好ましい。また、無機フィラー(C)の形状は、球状、針状、板状、鱗片状、中空状、不定形、六角状、キュービック状、薄片状等が挙げられるが、高充填性の点からは球状が好ましい。
【0060】
本発明の液状熱硬化性樹脂組成物では、低粘度とすることができるので、必ずしも希釈溶剤を用いる必要はないが、組成物の粘度を調整するために、ボイドが発生しない程度に希釈溶剤を添加してもよい。
【0061】
希釈溶剤としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、及び上記グリコールエーテル類の酢酸エステル化物等のエステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤等を挙げることができる。
【0062】
さらに本発明の熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー、クリスタルバイオレット、酸化チタン、カーボンブラック、ナフタレンブラックなどの公知慣用の着色剤、保管時の保存安定性を付与するためにハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、tert−ブチルカテコール、ピロガロール、フェノチアジンなどの公知慣用の熱重合禁止剤、クレー、カオリン、有機ベントナイト、モンモリロナイトなどの公知慣用の増粘剤もしくはチキソトロピー剤、シリコーン系、フッ素系、高分子系などの消泡剤及び/又はレベリング剤、イミダゾール系、チアゾール系、トリアゾール系、シランカップリング剤などの密着性付与剤のような公知慣用の添加剤類を配合することができる。特に、有機ベントナイトを用いた場合、穴部表面からはみ出る予備硬化物部分が研磨・除去し易い突出した状態に形成され易く、研磨性に優れたものとなるので好ましい。
【0063】
以上のようにして得られる本発明の熱硬化性樹脂組成物は、従来より使用されている方法、例えばスクリーン印刷法、ロールコーティング法、ダイコーティング法等を利用してプリント配線板のビアホールやスルーホール等の穴部に容易に充填することができる。
【0064】
このため、本発明の熱硬化性樹脂組成物の粘度は、25±1℃で100〜1000dPa・sの範囲、さらに200〜900dPa・s、特に300〜800dPa・sにあることが好ましい。このような範囲にすることにより、孔部の充填が容易に、且つ、ボイド等の発生なく良好に凹部および貫通孔に充填することができる。
【0065】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、150℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましい。Tgが150℃以上の場合、デラミの発生を抑えることができる。
【0066】
以下、添付図面を参照しながら、プリント配線板の穴部絶縁層及び外層絶縁層(ソルダーレジスト層や絶縁樹脂層)の形成について具体的に説明する。なお、添付図面は、コア基板として両面基板を用いた例を示しているが、多層プリント配線板についても同様に適用できる。
【0067】
(1)穴埋め
まず、
図2(a)に示すようなコア基板1のめっきスルーホール3(コア基板として多層プリント配線板を用いる場合には、めっきスルーホールの他にさらにビアホール等の穴部)に、
図2(b)に示すように本発明の熱硬化性樹脂組成物を充填する。例えば、スルーホール部分に開口を設けたマスクを基板上に載置し、印刷法或いはドット印刷法等により、スルーホール内に充填する。コア基板1としては、銅箔をラミネートしたガラスエポキシ基板、或いはポリイミド基板、ビスマレイミド−トリアジン樹脂基板、フッ素樹脂基板等の樹脂基板、セラミック基板、金属基板等の基板2にドリルで貫通孔を明け、貫通孔の壁面及び銅箔表面に無電解めっきあるいはさらに電解めっきを施して、めっきスルーホール3及び導体回路層4を形成したものを好適に用いることができる。めっきとしては銅めっきが一般に用いられる。
【0068】
(2)研磨
次に、充填物を予備硬化する。例えば、予備硬化は、約90〜130℃で約30〜90分程度加熱して行う。約90〜110℃で一次予備硬化させた後、約110〜130℃で二次予備硬化させることが好ましい。このようにして予備硬化された硬化物の硬度は比較的に低いため、基板表面からはみ出している不必要部分を物理研磨により容易に除去でき、平坦面とすることができる。なお、ここでいう「予備硬化」又は「予備硬化物」とは、一般に、エポキシの反応率が80%〜97%の状態のものをいう。また、上記予備硬化物の硬度は、予備硬化の加熱時間、加熱温度を変えることによってコントロールすることができる。その後、
図2(c)に示すように、スルーホールからはみ出した予備硬化物5の不要部分を研磨により除去して平坦化する。研磨は、ベルトサンダー、バフ研磨等により行なうことができる。
【0069】
(3)外層絶縁層の形成
その後、基板表面を必要に応じてバフ研磨や粗化処理により前処理を施した後、
図2(d)に示すように外層絶縁層6を形成する。この前処理によりアンカー効果に優れた粗化面が形成されるので、その後施される外層絶縁層6との密着性に優れたものとなる。外層絶縁層6は、その後に行われる処理に応じてソルダーレジスト層や絶縁樹脂層、あるいは保護マスク等であり、従来公知の硬化性樹脂組成物により形成することができる。外層絶縁層に微細なパターンを形成する場合には、光硬化性・熱硬化性樹脂組成物やそのドライフィルムを用いることが好ましい。その後、約130〜180℃で約30〜90分程度加熱して本硬化(仕上げ硬化)し(外層絶縁層の形成に光硬化性・熱硬化性樹脂組成物を用いた場合には周知の方法に従って乾燥(仮硬化)し露光した後、本硬化して外層絶縁層6を形成する。
【0070】
コア基板1として
図2(a)に示すような両面基板を用いた場合には、さらに周知の方法に従って無電解めっき及び電解めっきによる導体回路層の形成と、層間樹脂絶縁層の形成を交互に繰り返し、必要に応じてビアホールの形成(層間樹脂絶縁層が感光性樹脂を含有する場合には露光、現像処理にて行ない、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を含有する場合にはレーザ光にて行う)を行うことによって、多層プリント配線板を形成することもできる。
【0071】
なお、層間樹脂絶縁層の材料としては、樹脂付き銅箔、ドライフィルム、プリプレグ等を用いることができる。
【実施例】
【0072】
以下に実施例、
参考例及び比較例により本発明について具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものでないことはもとよりである。なお、以下において「部」とあるのは、特に断りのない限り全て質量部を意味する。
【0073】
[実施例
1、2、3、4、5、参考例6、7及び比較例1〜4]
下記の表1に列挙した各成分を表1に示す割合で配合し、予備混合した後、3本ロールミルで混練分散させて熱硬化性樹脂組成物のペーストを得た。
【0074】
【表1】
【0075】
なお、表1の成分は次の通りである。
【0076】
2官能液状エポキシ樹脂(1): ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名JER-828;三菱化学(株)製)
2官能液状エポキシ樹脂(2): ビスフェノールF型エポキシ樹脂(商品名JER-807;三菱化学(株)製)
多官能液状エポキシ樹脂(3): トリグリシジルパラアミノフェノール型エポキシ樹脂(式I、商品名ELM-100;住友化学工業(株)製)
多官能液状エポキシ樹脂(4): フェノールノボラック型エポキシ樹脂(式IIのn=0.2、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、商品名DEN-431;DOW社製)
多官能固形エポキシ樹脂(5): ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(式IIIのn=0.1〜3.0、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、商品名HP-7200L;大日本インキ化学工業(株)製)
多官能固形エポキシ樹脂(6):フェノールノボラック型エポキシ樹脂(式IIのn=1.6(商品名DEN-438;DOW社製)
硬化剤(7) 2MZ-A( 2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−S−トリアジン;四国化成工業(株)製)
硬化剤(8) 2E4MZ-A (2,4−ジアミノ - 6 - [2' - エチル - 4' - メチルイミダゾリル - (1’)] -エチル - s - トリアジン;四国化成工業(株)製)
硬化剤(9) 2E4MZ-CN(1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール;四国化成工業(株)製)
球状シリカ(10) (D50=5.6μm;商品名FB-7SDX、電気化学工業(株)製)
重質炭酸カルシウム(11) (D50=1.2μm;商品名マイクロパウダー3N、備北粉化工業(株)製)
消泡剤(12) (商品名KS-66、信越化学工業(株)製)
有機ベントナイト(13)(商品名オルベン、白石工業(株)製)
【0077】
[評価方法]
1.粘度
実施例
1、2、3、4、5、参考例6、7及び比較例1〜4の熱硬化性樹脂組成物について、25℃での粘度を測定した。即ち、試料を0.2ml採取し、コーンプレート型粘度計(東機産業(株)製TV−33)を用いて、25℃、回転数5rpmの30秒値を粘度とした。
【0078】
2.印刷性
実施例
、参考例及び比較例の各熱硬化性樹脂組成物において、印刷性(充填性)を評価した。評価基板として、パネルめっきによりスルーホールを形成したガラスエポキシ基板を用いた。その仕様は板厚:0.8mm、スルーホール経:0.1mm、スルーホールピッチ:1.0mmの小径スルーホール(TH)を有する基板とした。このような評価基板に、半自動印刷機にてドットパターン印刷を行ない、印刷性(充填性)を下記のように評価した。
【0079】
<印刷条件>
スキージ:スキージ厚20mm、硬度70°、斜め研磨:25°、
版:PET100メッシュバイアス版、
印圧:50kgf/cm
2、スキージ角度:75°
1ストロークで印刷を行ない、押し出し面側に熱硬化性樹脂組成物が吐出可能な最大の印刷スピードを比較した。
○:20mm/secより速い
△:5〜20mm/sec
×:5mm/secより遅い
【0080】
3.吸水率
予め重量を測定したセラミック板に、実施例
、参考例及び比較例の熱硬化性樹脂組成物のペーストをスクリーン印刷法で塗布し、熱風循環式乾燥炉にて150℃で30分硬化させ、評価サンプルを得た。これを室温まで冷却した後、評価サンプルの重量を測定した。
評価サンプルを、121℃、100%R.H.、24時間の条件でPCT(プレッシャークッカー)処理を行い、処理後の硬化物の重量を測定し、下記算式により硬化物の吸水率を求めた。
【0081】
吸水率(%)=(W2−Wg)/(W1−Wg)×100
ここで、W2はPCT処理後の評価サンプル重量(g)、W1は初期の評価サンプル重量(g)、Wgはセラミック板重量(g)である。
【0082】
4.TMA
実施例
、参考例及び比較例の各熱硬化性樹脂組成物を、GTS−MP箔(古河サーキットフォイル社製)の光沢面側(銅箔)上にアプリケーターにより塗布し、熱風循環式乾燥炉にて150℃で60分間、硬化させた。その後、硬化物を銅箔より剥離した後、測定サイズにサンプルを切り出し、TMA測定に供した。
【0083】
TMA測定は、熱機械分析機(TMA−120)を用いてガラス転移点Tgを測定した。
【0084】
測定条件は1st runと2nd runを共に、10℃/分の昇温速度で室温より300℃まで昇温して実施し、2nd runの線膨張曲線の屈曲点をTgとした。
【0085】
5.保存安定性
実施例
、参考例及び比較例の各熱硬化性樹脂組成物の初期と25℃7日保管後の粘度を比較した。
【0086】
増粘率を下記の式より算出した。
増粘率=(25℃7日保管後の粘度/初期の粘度)×100
増粘率の値により、以下のように保存安定性を評価した。
○: 10%未満
△: 10〜30%
×: 30%より大きい
【0087】
6.クラック及びボイドの発生
パネルめっきによりスルーホールを形成したガラスエポキシ基板(板厚1.6mm、スルーホール径0.25mm)に、実施例
、参考例及び比較例の各熱硬化性樹脂組成物をスクリーン印刷法でスルーホール内に充填した。
【0088】
これを熱風循環式乾燥炉に入れ、150℃で30分間保持して評価サンプルを作製した。
【0089】
各評価サンプルをスルーホール部で切断し、断面を光学顕微鏡にて観察して、100個のスルーホールにおけるクラック及びボイドの発生数を数えた。下記のように評価した。
○: 0個
△: 1〜10個
×: 11個以上
【0090】
7.吸湿リフロー耐熱性試験
パネルめっきによりスルーホールを形成したガラスエポキシ基板(板厚1.6mm、スルーホール径0.25mm)に、各熱硬化性樹脂組成物をスクリーン印刷法でスルーホール内に充填した。
【0091】
これを熱風循環式乾燥炉に入れ、150℃で30分間硬化させた。その後、ハイカットバフ#320(住友3M(株)製)を用いたバフ研磨機((株)石井表記製)により、硬化物の基板表面からはみ出している部分を研磨した。
【0092】
121℃100%の環境下で48時間加湿処理を行った。
【0093】
次いで、前処理としてMEC社製のCZ−8101(1μmエッチング)+CL−8300処理を行った後、基板両面に厚さ0.1mmのプリプレグ(松下電工(株)製R−1661 FR−4相当)及び銅箔(古河サーキットフォイル社製GTS−MP−18)をプレス機(北川精機(株)製KVHC−PRESS)によりプレス成形して評価基板を得た。
【0094】
評価基板をリフロー(ピーク温度270℃×5cycle)処理した後、スルーホール部で切断し、断面を光学顕微鏡にて観察して、穴埋め上部とプリプレグ間のデラミの発生の有無を確認し、下記のように評価した。
○: 0個
△: 1〜10個
×: 11個以上
以上の結果を表2に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
表2に示す結果から明らかなように、本発明の特徴的要件を有する熱硬化性組成物、即ち3官能以上のエポキシ樹脂2種類と硬化剤としてトリアジン構造を含むイミダゾール化合物とを含み、無機フェイラーを含む熱硬化性組成物のみが全ての物性においてほぼ満足する結果を示した。即ち、多官能液状エポキシの組み合わせた実施例2、4及び5が全ての特性において優れていることが示された。また、半固形または固形エポキシを組み合わせた実施例6及び7では、粘度が上がるためボイドの発生が少し見られた。フィラーの少ない実施例1では吸湿リフロー耐熱性がやや劣り、重質炭酸カルシウムを用いた実施例3ではボイドが見られた。全ての実施例において、トリアジン構造を含む硬化剤を使用しているので保存安定性が良好で硬化時のボイドとクラックが少ない傾向を示した。
【0097】
一方、比較例1の2官能液状エポキシ樹脂のみを2種類用いた場合、ボイドが発生した。これは組成物(インキ)の粘度が十分に下がらなかったためと考えられる。またガラス転移点が実施例のものより低く、このため吸湿リフロー耐熱性試験においてデラミが多く発生したと考えられる。
【0098】
比較例2はアミン型エポキシ樹脂のみ用いたため、吸水率が高く、吸湿リフロー耐熱性試験においてデラミが多く発生したと考えられる。
【0099】
比較例3は本発明と同様の3官能以上のエポキシ樹脂を2種類用いたが、硬化剤としてトリアジン構造を含むイミダゾールを使用していないため、保存安定性が悪く硬化時にボイド・クラックが多く発生したと考えられる。
【0100】
比較例4の2官能エポキシ樹脂と多官能エポキシ樹脂を組み合わせた組成物の場合、比較例1と同様に、デラミが多く発生した。