【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、肘掛けや背もたれを備え付けたポータブルトイレに取り付けられる便座の形状や配置について鋭意検討を重ねた結果、便座の外形の基本形状を略方形とし、そして便座の前縁の両側を便座の開口部の先端部よりも後方へ向けて凸となるよう湾曲させて後退させることにより、使用者の太腿の裏側の皮膚の挟み込みを防止し、そして使用者が便座の後方に深く腰を掛けることを可能にし、本発明を完成するに至った。
【0013】
具体的には、本発明によれば、ポータブルトイレの上に載置されて使用される便座であって、周囲が閉じた開口部と、便座の外側で、開口部の先端部より後方に位置する第1の端部から便座の後部まで略直線状に延びた第1の側縁と、第1の側縁の反対側で且つ便座の外側で、開口部の先端部より後方に位置する第2の端部から便座の後部まで略直線状に延びた第2の側縁と、そして開口部の先端部より前方に位置する突出部を経由して第1の端部から第2の端部まで延びており、そして第1の端部と突出部の間に第1の変曲点を有し、且つ第2の端部から突出部までの間に第2の変曲点を有している曲線部を含んでいる前縁とを備えている便座が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、ポータブルトイレの上に載置されて使用される便座であって、周囲が閉じた卵型の開口部と、便座の外側で、開口部の先端部より後方に位置する第1の端部から便座の後部まで延びた第1の側縁であって、第1の側縁の接線と直交する断面における便座断面の幅が便座の後部から前部へ向かうにつれて連続的に縮小し、そしてその後連続的に拡大するように配置された第1の側縁と、第1の側縁の反対側で且つ便座の外側で、開口部の先端部より後方に位置する第2の端部から便座の後部まで延びた第2の側縁であって、第2の側縁の接線と直交する断面における便座断面の幅が便座の後部から前部へ向かうにつれて連続的に縮小し、そしてその後連続的に拡大するように配置された第2の側縁と、そして開口部の先端部より前方に位置する突出部を経由して第1の端部から第2の端部まで延びており、そして第1の端部と突出部の間に第1の変曲点を有し、且つ第2の端部から突出部までの間に第2の変曲点を有している曲線部を含んでいる前縁とを備えている便座が提供される。
【0015】
ここで、本発明においてポータブルトイレとは、高齢者及び身体障害者が居室等で排泄するために使用される、特許文献1〜3に記載されているような移動式簡易便器を意味する。また、ポータブルトイレの概念には、主として樹脂材料から製作されているポータブルトイレの他、例えばポータブルトイレの便器以外の外枠や脚部、肘掛け、背もたれなどが木材などの材料から製作されている、いわゆる家具調のポータブルトイレも含まれている。
【0016】
本発明において「前部」とは、大人の使用者が便座に着座した時、使用者の腹側に配置される便座及びポータブルトイレの前方付近の領域を意味し、そして「後部」とは、大人の使用者が便座に着座した時、使用者の背中側に配置される便座及びポータブルトイレの後方付近の領域を意味する。また、便座の側縁の「端部」とは、便座の長手方向に延びた側縁が、便座の幅方向に延びた前縁へ実質的に方向変換するコーナー部分を意味し、該コーナー部分は角部のみならず、Rの付いた隅部であってもよい。
【0017】
本発明の便座は、一般の据付式の洋式便器ではなく、特にポータブルトイレの上に載置して使用するのに適している。
【0018】
なぜなら、本発明は、ポータブルトイレにおいて、略方形の便座の前縁の両端をトイレ本体部の後方へ後退させた場合、それに伴ってトイレ本体部の前端部の両端もトイレ本体部の後方へ後退してしまうため、ポータブルトイレの平面部において肘掛けの支柱を取り付けるスペースが無くなってしまうという課題を解決することを目的の1つとしているからである。また、本発明は、便座の外側に肘掛けと肘掛けを支える支柱が配置されたポータブルトイレにおいて、便座の回動時、該便座が肘掛けや肘掛けを支える支柱と干渉することがない形状とすることも、重要な解決すべき課題の1つとしているからである。
【0019】
本発明の便座は周囲が閉じた開口部を有している、いわゆるO型の便座である。また、本発明の便座は、便座の外側で、開口部の先端部より後方に位置する端部から便座の後部まで略直線状に延びた第1及び第2の側縁を有しており、全体として略方形の形状を有している。なお、本発明において「縁」とは、平面図において表れる便座の輪郭及び該輪郭を形成する端面を意味する。また「略直線状」とは、離間した2点を略最短距離で結ぶ線分のことを意味し、距離的に直線と略同じであれば、厳密な意味の直線のみならず、多少“くの字状”に曲がった折れ線や大きな弧を描くように多少曲がった曲線も含まれる。
【0020】
このように、本発明の便座は、便座の外側で、開口部の先端部より便座の後部まで略直線状に延びており且つ実質的に平行に並んだ第1及び第2の側縁を備えた略方形の外形を有しており、そして便座の内側にはO型又は卵型などの開口部を区画する内縁を有している。このため、第1の側縁の接線と直交する断面における便座断面の幅、及び第2の側縁の接線と直交する断面における便座断面の幅は、いずれも便座の後部から前部へ向かうにつれて連続的に縮小し、そしてその後連続的に拡大している。
【0021】
本発明の便座の外形は、上述したように略方形としているため、便座の座面を必要且つ十分な大きさとすることができ、さらに肘掛けや肘掛けを支える支柱を便座の第1及び第2の側縁の外側に隣接して配置しても、便座の回動時、便座が肘掛けや肘掛けを支える支柱と干渉することがない。
【0022】
もし、便座の第1の側縁と第2の側縁を例えば「ハの字状」に配置して、便座の座面を必要且つ十分な大きさとすると、便座の幅が最大となる部分は肘掛けや肘掛けを支える支柱と干渉することとなる。逆に、便座の幅が最大となる部分を肘掛けや肘掛けを支える支柱と干渉しない大きさとすると、許容される左右肘掛け間の最大距離は決まっているので便座の外形幅は相対的に小さくなり、その結果、便座の座面を必要且つ十分な大きさとすることができなくなる。
【0023】
さらに、本発明では、便座の外形を略方形としているため、便座とトイレ本体部の平面部分との間にできた隙間や段差を着座した使用者の太腿部の外側に形成させることができる。このため本発明では、便座とトイレ本体部の平面部分との間にできた隙間や段差が着座した使用者の太腿部の裏側を斜め方向に横断するのを無くすることができるので、使用者の太腿部の裏側の皮膚が、便座とトイレ本体部の平面部との間にできた隙間や段差に挟み込まれるという問題を解消することができる。
【0024】
本発明の便座は、側縁の端部とは逆に、開口部の先端部より前方に位置する突出部を有している。そして本発明の便座は、第1の端部から該突出部を経由して第2の端部まで延びた前縁を有しており、さらに該前縁は第1の端部と突出部の間に第1の変曲点を有しており、且つ第2の端部から突出部までの間に第2の変曲点を有している曲線部を含んでいる。なお、本発明において「変曲点」は、前縁が便座の後方に向けて凸な状態から便座の前方に向けて凸な状態へ変化する部分であれば足り、前記変化する部分は点である場合のみならず、直線によって構成されている場合も含まれる。
【0025】
このように、本発明の便座は、矩形の便座に比べて前縁の両端区域が便座の後方へ向けて凸となるよう湾曲し後退しているので、使用者が便座の後方に腰を掛けようとしても、従来の前縁の両端区域が後退していない便座と比べて、便座の前縁が使用者の膝の裏側に当たって障害となることがない。このため、使用者は容易に本発明の便座の後方へ深く腰を掛けることができるようになる。
【0026】
また、本発明の便座は、前縁の中央部分が前縁の両端区域よりも相対的に前方へ突出しているので、使用者が便座の後方に深く腰を掛けると、前縁の突出部が使用者の両膝の内側に当接し、使用者の両脚を開脚させるように誘導する。このため、使用者は自然と排泄が容易な姿勢を取ることができるようになり、特に男性使用者の場合、性器を下方へ容易に向けることができるので、使用者の排尿が前縁の突出部を越えて飛散するのを防止することができる。
【0027】
また、使用者が両脚を開脚した姿勢は、排泄後、使用者が中腰姿勢を取ることなく、自力で前方から排便を拭き取ることを可能にする。また、使用者が付添い人や介護者に拭き取ってもらわなければならない高齢者や要介護者である場合であっても、付添い人等は使用者を抱き抱えることなく使用者の排便を拭き取ることができるので、付添い人等の負担を大幅に軽減することができるようになる。
【0028】
さらに、本発明において前縁の曲線部は、第1の端部と第1の変曲点の間で便座の後方へ向けて凸に湾曲した第1の湾曲部と、第2の端部と第2の変曲点の間で便座の後方へ向けて凸に湾曲した第2の湾曲部と、そして第1の変曲点と第2の変曲点の間で便座の前方へ向けて凸に湾曲した第3の湾曲部とを含んでいることが好ましい。
【0029】
上述したように、前縁の両端区域の曲線部が便座の後方へ向けて凸に湾曲しており、且つ前縁の中央部分の曲線部が便座の前方へ向けて凸に湾曲していると、使用者が便座の後方に深く腰を掛けた時、前縁の両端区域の形状は使用者の膝の裏側にフィットするので、使用者の両脚を優しく且つスムーズに開脚させるように誘導する。さらに、上述の前縁の形状は、使用者が便座に腰を掛ける際の自己の脚を置く位置の目印となり便利である。
【0030】
特に便座の前縁に沿って形成された座面に、前縁の突出部近傍において上方へ向けて隆起した頂部を設けると、前縁の突出部及び突出部近傍の座面の頂部は、相乗的に使用者の開脚誘導効果を高めるので、使用者の両脚をより一層スムーズ且つ確実に開脚させることができるようになる。このため使用者は、前縁に突出部のみが形成されている場合に比べて、より一層自然と排泄が容易な姿勢を取ることができるようになり、使用者の排尿が前縁の突出部を越えて飛散するのも、より一層確実に防止される。
【0031】
また、本発明の便座の座面には、前縁の第1の湾曲部近傍において下方へ向けて窪んだ第1の凹部を配置し、そして前縁の第2の湾曲部近傍において下方へ向けて窪んだ第2の凹部を配置することが好ましい。すなわち、便座の前縁に沿って形成された座面の頂部の両側で、下方へ向けて窪んだ第1及び第2の凹部は、前縁の突出部及び突出部近傍に設けられた座面の頂部によって、開脚が誘導された使用者の両脚のフィット感をより一層向上させると共に、使用者の両脚の過剰な開脚を防止するので、使用者が排尿や排便をするのにより一層容易な理想形に近い姿勢を取らせることができるようになる。
【0032】
また、便座が取り付けられるポータブルトイレが肘掛け及び該肘掛けを下方から支持する支柱を備えている場合、便座の第1の端部と第2の端部は肘掛けの支柱より前方に配置することが好ましい。
【0033】
便座の第1の端部と第2の端部を肘掛けの支柱より前方に配置すると、肘掛けの支柱を取り付けるスペースをトイレ本体部に確保した上で、トイレ本体部の前端部の形状を便座の前縁と略同一形状とすることができる。このため、便座に着座した使用者は、自己の両脚を、特に外側へ向けて自由に移動することができるようになる。
【0034】
本発明の便座は、第1の側縁の接線と直交する断面において略直線状に表れる第1の座面であって、水平面に対し開口部へ向けて下方へ傾斜する第1の座面の傾斜角度が便座の後部から前部へ向かうにつれて連続的に増加し、そしてその後連続的に減少して略水平となるように形成された前記第1の座面と、そして第2の側縁の接線と直交する断面において略直線状に表れる第2の座面であって、水平面に対し開口部へ向けて下方へ傾斜する第2の座面の傾斜角度が便座の後部から前部へ向かうにつれて連続的に増加し、そしてその後連続的に減少して略水平となるように形成された前記第2の座面とを備えていることが好ましい。
【0035】
すなわち、本発明の便座は開口部を挟んで第1の座面と第2の座面を有しており、そして第1及び第2の座面の傾斜は、いずれも便座の後部から前部へ向かうにつれて開口部へ向けて連続的にきつくなり、その後連続的に緩やかとなり、そして便座の前縁付近において略水平となる。なお、ここで座面の「傾斜角度」とは、側縁の接線と直交する断面において略直線状に表れる座面の代表的な勾配を示す線分の水平面に対する角度を意味している。
【0036】
そのため、第1及び第2の座面は、使用者が便座に着座した時、該使用者の臀部を便座の開口部の中へ落とし込むように誘導する。その結果、第1及び第2の座面は使用者の臀部の皮膚を座面に対し相対的に持ち上げ、使用者の肛門を開かせるので、使用者の排泄を容易にするという効果を奏する。なお、便座の断面において略直線状に表れる座面は、必ずしも便座の断面が直線で表れる平面のみで構成されている必要はなく、座面の傾斜によって上述の落し込み効果が得られるものであれば、多少下方へ窪んだ曲面や上方へ膨らんだ曲面が含まれていてもよい。
【0037】
また、第1の座面の傾斜角度は、第1の側縁の接線と直交し且つ開口部の幅が最大となる寸法線を通過する便座断面において最大となり、そして第2の座面の傾斜角度は、第2の側縁の接線と直交し且つ開口部の幅が最大となる寸法線を通過する便座断面において最大となることが好ましい。
【0038】
第1の座面の傾斜角度と第2の座面の傾斜角度が、便座の開口部の幅が最大となる位置において最大となるようにすると、使用者が本発明の便座に着座した時、使用者の肛門は、第1及び第2の座面によって便座の開口部の幅が最大となる寸法線の中点付近に誘導されるので、使用者の排便は便座の下方に設置されたバケツの中の所定の位置に落下させることが可能となる。そのため、上述の第1及び第2の座面の傾斜は、使用者の排便がバケツの周囲へ飛散したり又は付着するのを防止すると共に、使用者の排便を、所定の深さでバケツの中に貯蔵されている水中に確実に埋没させるので、便の露出による異臭の発生を防止することができる。
【0039】
なお、通常、第1の座面の傾斜角度と第2の座面の傾斜角度は、便座の開口部の幅が最大となる位置の付近において最大であれば、使用者の肛門を、便座の開口部の幅が最大となる寸法線の中点付近に誘導することができるので、第1の座面の傾斜角度と第2の座面の傾斜角度は、厳密な意味において便座の開口部の幅が最大となる位置において最大とならなければならないものではない。
【0040】
次に、本発明によれば、上述した本発明の便座が取り付けられた本発明によるポータブルトイレが提供される。この場合、本発明のポータブルトイレは、上述した本発明の便座によってもたらされる利益の全てを享受することができる。
【0041】
さらに、本発明のポータブルトイレはトイレ本体部を備えており、該トイレ本体部は、上部が開口した箱部であって、開口の開口縁から箱部の下方へ且つ後方へ向けて傾斜している前面部を有している箱部と、そして箱部の開口縁へ接続される枠部とに分割されていることが好ましい。
【0042】
変形に対するトイレ本体部の強度を向上させる手段としては、トイレ本体部の開口縁や側面に折り返しリブや補強リブなどを設ける方法や、若しくはトイレ本体部の各面にパネルを配置して、トイレ本体部をいわゆるボックス構造とする方法などが知られている。
【0043】
しかしながら、特に開口縁の折り返しリブは、構造上、トイレ本体部から外部へ突出した突起物となるので、トイレ本体部に折り返しリブを設けると、使用者がポータブルトイレで又はポータブルトイレ近傍で脚を動かす際に脚を引っ掛ける障害物となる。そのため、本発明では、折り返しリブなどの突起物を無くするのに有利なボックス構造を採用することによって、特にトイレ本体部の前面部から、使用者が脚などを引っ掛ける可能性のある突起物や段差を無くすることを達成し、トイレ本体部の前面部を滑らかな形状としている。
【0044】
また、一般にトイレ本体部をボックス構造とすると、トイレ本体部の成形性やメンテナンス性が低下するので、本発明ではいわゆる2ピース構造を採用し、トイレ本体部を、上部が開口した箱部と、該開口の開口縁へビスなどによって連結される枠部との2つの部品から構成することによって上記の問題を解消している。そのため、本発明では、箱部と枠部はいずれも樹脂製の一体成形品として成形することが可能であり、その結果、低コストで且つ頑丈なポータブルトイレを提供することができる。
【0045】
また、本発明のポータブルトイレは、箱部の前面部を、開口の開口縁から箱部の下方へ且つ後方へ向けて傾斜させているので、使用者は自己の足下を便座の前縁の真下又はその後方まで引き寄せることが可能となる。このため、本発明のポータブルトイレでは、使用者がポータブルトイレから立ち上がる時及び/又はポータブルトイレへ着座する時の体重移動は主として上下方向の移動のみとなるので、使用者のポータブルトイレからの立ち上がり及びポータブルトイレへの着座が容易となる。
【0046】
さらに、本発明のポータブルトイレは、箱部の外面を枠部の外面と面一に接続することが好ましい。
【0047】
本発明のポータブルトイレは、上述したように便座に着座した使用者の両脚の移動を自由にするために、トイレ本体部の前端部の形状を便座の前縁と略同一形状としている。このため、箱部の外面を枠部の外面と面一に接続すると、トイレ本体部の前端部からトイレ本体部の下方へ向けて、便座の前縁の形状と略同一の表面形状を有する前面部を形成することができるようになる。
【0048】
その結果、箱部の外面を枠部の外面と面一にすると、トイレ本体部の前面部から突起物や段差を排除して、トイレ本体部の前面部をより一層滑らかな形状とすることができると共に、便座の前縁の中央部分の突出部を、便座の前縁からトイレ本体部の前面部に掛けて連続的に形成することができるので、使用者が便座の後方に深く腰を掛けた時の使用者の両脚の開脚誘導をよりスムーズに促進させることができるようになる。