特許第6198519号(P6198519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6198519-マーキングペン 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198519
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】マーキングペン
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20170911BHJP
   C09D 11/17 20140101ALI20170911BHJP
   B43K 8/02 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   C09D11/16
   C09D11/17
   B43K8/02
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-171617(P2013-171617)
(22)【出願日】2013年8月21日
(65)【公開番号】特開2015-40251(P2015-40251A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2016年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】深井 拓
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−157575(JP,A)
【文献】 特開2001−293872(JP,A)
【文献】 特開2011−251503(JP,A)
【文献】 特開2005−008725(JP,A)
【文献】 特開2000−034436(JP,A)
【文献】 特開2007−023212(JP,A)
【文献】 特開2007−169319(JP,A)
【文献】 特開2002−129085(JP,A)
【文献】 特開2012−149203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−11/54
B43K 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維芯又はプラスチック芯からなるペン先と、インキ収容部とを備え、
水消去性水性インキ組成物が前記インキ収容部に収容されている、マーキングペンであって、
前記水消去性水性インキ組成物は自己分散型カーボンブラック、水溶性樹脂及び水を含有し、
前記自己分散型カーボンブラックの含有量が、前記水消去性水性インキ組成物の全量を基準として、10.0〜20.9質量%であり、
前記水溶性樹脂の含有量が、前記水消去性水性インキ組成物の全量を基準として、1〜4質量%である、マーキングペン。
【請求項2】
前記水溶性樹脂はポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のマーキングペン
【請求項3】
前記水消去性水性インキ組成物は自己分散型カーボンブラック、水溶性樹脂、水及び添加剤からなり、
前記添加剤は、前記水以外の溶媒、防錆剤、pH調整剤、増粘剤、防腐剤、潤滑剤、顔料分散剤及び固着樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のマーキングペン。
【請求項4】
非浸透面上に乾燥時堅牢性を有する筆記線を形成することが可能な、請求項1〜3のいずれか一項に記載のマーキングペン。
【請求項5】
非浸透面上に、乾燥した紙又は布で擦り、消去するまでの擦った回数が5回以上である筆記線を形成することが可能な、請求項1〜4のいずれか一項に記載のマーキングペン。
【請求項6】
非浸透面上に、水で湿らせた紙又は布で擦り、消去するまでの擦った回数が1回である筆記線を形成することが可能な、請求項1〜5のいずれか一項に記載のマーキングペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水消去性水性インキ組成物及びマーキングペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水で濡れた紙(ティッシュペーパー等)又は布等で擦ることにより、非浸透面上の筆記線を消去できる(水消去性を有する)マーキングペンが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。また、このような非浸透面上の筆記線には、上記水消去性とともに、乾燥した紙又は布等で擦られても消去しにくい特性(乾燥時堅牢性)が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−169319号公報
【特許文献2】特開2002−129085号公報
【特許文献3】特開2012−149203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載されている水消去性インキ組成物は、色材の耐光性が弱く、筆記線が太陽光照射により容易に変色してしまうことがあった。
【0005】
一方、色材に顔料を用いることにより、筆記線の耐光性を向上させることができるが、顔料がインキ中で沈降するため、ペン先を下に向けてマーキングペンを保管した場合、時間の経過とともに、筆記線の水消去性が低下することがあった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、水消去性及び乾燥時堅牢性を有し、且つ、耐光性が向上した筆記線を得ることができ、さらに、時間の経過による上記水消去性の低下を抑えた、水消去性水性インキ組成物、及びそれを用いたマーキングペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、自己分散型カーボンブラック及び水溶性樹脂を含有する水消去性水性インキ組成物を提供する。本発明によれば、水消去性及び乾燥時堅牢性を有し、且つ、耐光性が向上した筆記線を得ることができ、さらに、時間の経過による上記水消去性の低下を抑えることが可能となる。
【0008】
上記水溶性樹脂はポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。水消去性水性インキ組成物が上記特定の水溶性樹脂を含有することにより、水消去性が向上し、また、筆記線の非浸透面への接着性が向上することから乾燥時堅牢性が向上する傾向がある。
【0009】
上記水溶性樹脂の含有量は、水消去性水性インキ組成物の全量を基準として、1〜10質量%であることが好ましい。水消去性水性インキ組成物が水溶性樹脂を上記範囲で含有することにより、インキの排出性、筆記線の接着性、及び筆記線の水消去性が向上する傾向がある。
【0010】
上記自己分散型カーボンブラックの含有量は、水消去性水性インキ組成物の全量を基準として、1質量%以上であることが好ましい。水消去性水性インキ組成物が自己分散型カーボンブラックを1質量%以上含むことにより、筆記線の発色が良好になる傾向がある。
【0011】
本発明はまた、繊維芯又はプラスチック芯からなるペン先と、インキ収容部とを備え、上記水消去性水性インキ組成物が上記インキ収容部に収容されている、マーキングペンを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水消去性及び乾燥時堅牢性を有し、且つ、耐光性が向上した筆記線を得ることができ、さらに、時間の経過による上記水消去性の低下を抑えた、水消去性水性インキ組成物、及びそれを用いたマーキングペンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明に係るマーキングペンの一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
(水消去性水性インキ組成物)
本実施形態の水消去性水性インキ組成物は、自己分散型カーボンブラック及び水溶性樹脂を含有する。
【0016】
自己分散型カーボンブラックは、水中で単独で分散することのできるカーボンブラックである。自己分散型カーボンブラックとしては、例えば、表面にカルボキシル基及び水酸基等の極性基を有するカーボンブラック、並びに、表面を硝酸、オゾン及び過酸化水素等の酸化剤で処理して得られる、表面が酸化されたカーボンブラック等が挙げられる。水消去性水性インキ組成物が自己分散型カーボンブラックを含有することにより、耐光性に優れた筆記線を得ることが可能となる。また、自己分散型カーボンブラックは互いに反発しあう性質を有し、水性インキ中での沈降が抑制される。このため、マーキングペンを長時間保管した後であっても、筆記線の色調の変化が少ない。さらに、自己分散型カーボンブラックは、樹脂分散型カーボンブラックや界面活性剤分散型カーボンブラック等と比較すると、接着力が弱い。よって、たとえ、マーキングペンのペン先を下向きにした状態で長期保管して顔料が沈降したとしても、筆記線の接着力が過剰に大きくならず、水で濡れた紙又は布等による筆記線の消去が容易である。そのため、自己分散型カーボンブラックと水溶性樹脂を併用することで、筆記線の優れた接着性と水消去性を両立することができる。
【0017】
自己分散型カーボンブラックは粒子状であることが好ましく、粒子状の自己分散型カーボンブラックの平均一次粒子径は13〜30nmであることが好ましく、16〜30nmであることがより好ましい。上記平均一次粒子径は、100個のカーボンブラックの一次粒子を電子顕微鏡で観察して求めた算術平均粒子径である。自己分散型カーボンブラックの平均一次粒子径が上記範囲内にあることにより、高い黒色度と分散性を両立する傾向がある。なお、自己分散型カーボンブラックの製造に用いられるカーボンブラックが粒子状であれば、得られる自己分散型カーボンブラックも同様に粒子状であると考えられる。また、自己分散型カーボンブラックの製造に用いられるカーボンブラックは、自己分散型カーボンブラックと同程度の粒子径を有するものと考えられる。
【0018】
本実施形態に係る水消去性水性インキ組成物において、上記自己分散型カーボンブラックは自己分散型カーボンブラック分散体(以下、単に分散体と言うこともある。)として含まれてもよい。上記自己分散型カーボンブラック分散体は自己分散型カーボンブラック及び分散媒を含む。分散媒としては、水;並びに、メタノール、エタノール及びプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類が挙げられる。分散媒は水又はアルコール類であることが好ましく、水であることがより好ましい。また、上記自己分散型カーボンブラック分散体は、本実施形態で得られる効果を損なわない範囲で、分散剤を含んでいてもよい。分散剤としては、アクリル樹脂及び界面活性剤等が挙げられる。
【0019】
分散体中の自己分散型カーボンブラックの含有量は、分散体の全量を基準として、好ましくは10〜25質量%であり、より好ましくは14〜23質量%である。また、分散体中の分散剤の含有量は、自己分散型カーボンブラック100質量部に対し、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは5質量部以下である。
【0020】
本実施形態に係る水消去性水性インキ組成物中の自己分散型カーボンブラックの含有量は、水消去性水性インキ組成物の全量を基準として、1質量%以上であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましく、10〜17質量%であることがさらに好ましい。自己分散型カーボンブラックの含有量が上記下限値以上あることにより、筆記線の発色が良好になる傾向がある。自己分散型カーボンブラックの含有量が上記上限値以下にあることにより、インキの経時粘度安定性が高くなる傾向がある。
【0021】
水溶性樹脂としては、水に溶解可能な樹脂であれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、糖類、糖アルコール類、セルロース系樹脂及びマレイン酸系樹脂等が挙げられる。本実施形態の水消去性水性インキ組成物が、自己分散型カーボンブラック及び水溶性樹脂の両方を含有することにより、乾燥した紙又は布等で擦っても消去しないが、水で濡れた紙又は布等で擦ると消去可能な筆記線を得ることができる。
【0022】
水溶性樹脂はポリビニルピロリドン及びポリビニルアルコールからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。水溶性樹脂として、ポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールを用いることにより、水消去性と乾燥した紙又は布等で擦った時の筆記線の耐久性をより高度に両立する傾向がある。
【0023】
ポリビニルピロリドンはN−ビニル−2−ピロリドンを重合して得られる高分子化合物であり、K値と呼ばれる分子量と相関する粘度特性値によって分類される。上記K値は17〜85であることが好ましく、17〜30であることがより好ましい。K値が上記範囲内にあることにより、マーキングペンからのインキの排出性が良好になる傾向にある。また、ポリビニルピロリドンは、アルコール類に可溶であるため、インキ中にアルコールを添加し、速乾性を上げることが可能である。
【0024】
ポリビニルアルコールはポリ酢酸ビニルの酢酸基をアルコール基へけん化して得られる水溶性高分子であり、重合度と酢酸基のけん化度によって分類される。重合度は200〜1000であることが好ましく、200〜500であることがより好ましい。重合度が上記範囲内にあることにより、マーキングペンからのインキの排出性が良好になる傾向にある。
【0025】
ポリビニルアルコールの酢酸基のけん化度は、78.5〜99.0mol%であることが好ましく、78.5〜89.0mol%であることがより好ましい。けん化度が上記範囲内にあることにより、水消去性水性インキ組成物への溶解性、及び筆記線の水消去性が一層良好になる傾向にある。
【0026】
本実施形態の水消去性水性インキ組成物中の水溶性樹脂の含有量は、水消去性水性インキ組成物の全量を基準として、1〜10質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましく、1〜4質量%であることがさらに好ましい。水溶性樹脂の含有量が上記下限値以上であることにより、マーキングペンからのインキの排出性が良好になり、非浸透面への接着性と水消去性に優れた筆記線を得ることができる傾向にある。また、水溶性樹脂の含有量が上記上限値以下であることにより、インキの排出性が向上する傾向がある。なお、本実施形態の水消去性水性インキ組成物は自己分散型カーボンブラックを含有するため、少量の水溶性樹脂であっても十分な水消去性を得ることができる。
【0027】
本実施形態の水消去性水性インキ組成物は、上述の成分の水溶液又は水分散液として、或いは上述の成分とは別に、水を含有することができる。水の含有量は、水消去性水性インキ組成物の全量を基準として、好ましくは70〜95質量%であり、より好ましくは75〜90質量%である。
【0028】
本実施形態の水消去性水性インキ組成物は、本実施形態で得られる効果を損なわない範囲で、上述の成分に加えて、水以外の溶媒、防錆剤、pH調整剤、増粘剤、防腐剤(防黴剤)、潤滑剤、顔料分散剤、及び固着樹脂等の添加剤を含有していてもよい。
【0029】
本実施形態の水消去性水性インキ組成物は、水溶性樹脂、自己分散型カーボンブラック及び水、必要に応じて添加剤を、たとえば、ディゾルバー、ヘンシェルミキサー及びホモミキサー等の攪拌機を用いて混合することにより得られる。攪拌機の攪拌条件は特に制限されないが、たとえば、ディゾルバー攪拌機を用いて、回転数100〜1000rpmで30〜180分間攪拌することにより、各成分が均一に分散した水消去性水性インキ組成物を得ることができる。以上のようにして得られた水消去性水性インキ組成物の粘度は、2〜20mPa・sであることが好ましく、2.5〜12mPa・sであることがより好ましい。
【0030】
(マーキングペン)
本実施形態のマーキングペンは、繊維芯又はプラスチック芯からなるペン先と、インキ収容部とを備え、上記水消去性水性インキ組成物が上記インキ収容部に収容されている。
【0031】
図1は本発明の一実施形態に係るマーキングペンの断面図である。図1のマーキングペン10は中綿式であるが、本実施形態のマーキングペンは直液式であってもよい。また、図1のマーキングペン10は、その一端にペン先を備えるが、両端にペン先を備えていてもよい。図1のマーキングペン10は、インキ収容部1、ペン先2、軸体3、中綿4及びキャップ5を備える。マーキングペン10においては、軸体3内部の空隙がインキ収容部1となっており、このインキ収容部1に本実施形態の水消去性水性インキ組成物を含む中綿4が収容される。なお、軸体3とは別に、軸体3内部に円筒状の中軸を設け、その中軸内部の空隙をインキ収容部1としてもよい。
【0032】
ペン先2は、一般的なマーキングペンのペン先であり、水消去性水性インキ組成物を供給できるような繊維芯又はプラスチック芯で形成されている。マーキングペン10において、ペン先2の先端形状は、砲弾形状となっている。なお、マーキングペン10において、ペン先2の先端形状は砲弾形状に限定されず、チゼル形状、筆ペン形状等であってもよい。
【0033】
また、キャップ5は、ペン先2を覆うように配置される。
【0034】
本実施形態のマーキングペンはガラス板、樹脂板及び金属板等の非浸透面上への筆記のために好適に使用される。本実施形態のマーキングペンによる筆記線は、耐光性に優れ、乾燥した紙又は布等で擦っても容易に消去できないにもかかわらず、水で濡らした紙又は布等で容易に消去することが可能であり、且つ、上記水消去性の経時安定性に優れる。
【0035】
本発明に係る水消去性水性インキ組成物は、筆記用具、マーキング用具、及びインキジェット等の印字用具に適用され、特にマーキングペンに好適に適用される。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0037】
[インキ組成物の調製]
(実施例1〜6及び比較例1〜6)
下記表1に記載される各材料を混合し、実施例1〜6及び比較例1〜6のインキ組成物を得た。表中の数値の単位は、特に断りのない場合は、質量部である。
【0038】
表1に記載される材料の名称の詳細は以下のとおりである。
FUJI JET BLACK B−22(自己分散型カーボンブラック分散体、冨士色素株式会社製、カーボンブラック22質量%、水78質量%、カーボンブラック表面上の極性基:カルボキシル基、カーボンブラックの平均一次粒子径24nm)
BON JET BLACK CW−1(自己分散型カーボンブラック分散体、オリヱント化学工業株式会社製、カーボンブラック20質量%、水80質量%、カーボンブラック表面上の極性基:カルボキシル基及び水酸基)
FUJI SP BLACK 8038(樹脂分散型カーボンブラック分散体、冨士色素株式会社製、カーボンブラック16質量%、アクリル樹脂5質量%、水79質量%、カーボンブラックの平均一次粒子径16nm)
FUJI SP BLACK 8065(活性剤分散型カーボンブラック分散体、冨士色素株式会社製、カーボンブラック25質量%、界面活性剤8質量%、ジエチレングリコール8質量%、水59質量%、カーボンブラックの平均一次粒子径17nm)
ダイワブラックMR(ダイレクトブラック154、ダイワ化成株式会社製)
PVP K−17(ポリビニルピロリドン、BASFジャパン株式会社製)
ポバールPVA405(ポリビニルアルコール、重合度500、けん化度80.0〜83.0mol%、株式会社クラレ製)
オリゴトース(オリゴ糖、天然水溶性樹脂、三和澱粉工業株式会社製)
サーフロンS−211(フッ素系界面活性剤、AGCセイミケミカル株式会社製)
【0039】
[インキ組成物の評価]
図1に示した構造を有する中綿式マーキングペンのインキ収容部に、実施例1〜6及び比較例1〜6のインキ組成物を充填し、ペン先にインキ組成物を染み込ませた。ペン先には砲弾形状のポリエステル繊維芯を用いた。得られたインキ組成物及びマーキングペンを用いて、後述の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0040】
(試験1:耐光性)
実施例1〜6及び比較例1〜6のインキ組成物を充填したマーキングペンを用いて、コピー用紙へ筆記し、温度25±5℃、湿度60±20%RHの室内の、筆記後のコピー用紙を南向きの窓に貼り付け、3週間放置した後、筆記線の変色を目視にて確認した。
【0041】
(試験2:はじきの有無)
実施例1〜6及び比較例1〜6のインキ組成物を充填したマーキングペンを用いて、ポリプロピレン製のフィルムへ筆記し、筆記線のはじきの有無を目視にて確認した。
【0042】
(試験3:乾燥時堅牢性)
実施例1〜6及び比較例1〜6のインキ組成物を充填したマーキングペンを用いて、ガラス板へ筆記し、温度25±5℃、湿度60±20%RHで1週間放置した後、筆記線を乾燥したティッシュペーパーで擦り、筆記線が完全に消去するまでの擦った回数を数えた。筆記線が完全に消去するまでの擦った回数が2回以上であるとき、筆記線が乾燥時堅牢性を有するものとみなした。
【0043】
(試験4:水消去性A)
実施例1〜6及び比較例1〜6のインキ組成物を充填したマーキングペンを用いて、ガラス板へ筆記し、温度25±5℃、湿度60±20%RHで1週間放置した後、筆記線を水で湿らせたティッシュペーパーで擦り、筆記線が完全に消去するまでの擦った回数を数えた。筆記線が完全に消去するまでの擦った回数が1回であるとき、筆記線が水消去性を有するものとみなした。
【0044】
(試験5:水消去性B)
実施例1〜6及び比較例1〜6のインキ組成物を充填したマーキングペンを、ペン先を下向きにした状態で、温度40℃、湿度0%RHの乾燥機内で3カ月放置した後、ガラス板へ筆記した。次にガラス板を温度25±5℃、湿度60±20%RHで1週間放置した後、筆記線を水で濡らせたティッシュペーパーで擦り、筆記線が完全に消去するまでの擦った回数を数えた。筆記線が完全に消去するまでの擦った回数が1回であるとき、筆記線が水消去性を有するものとみなした。
【0045】
(試験6:速記性A)
実施例1〜6及び比較例1〜6のインキ組成物を充填したマーキングペンを用いて、ガラス板へ、約30cm/秒の速度で、30cmの直線を10本連続して筆記し、筆記線のかすれの有無を目視にて確認した。
【0046】
(試験7:速記性B)
実施例1〜6及び比較例1〜6のインキ組成物を充填したマーキングペンを、ペン先を下向きにした状態で、温度40℃、湿度0%RHの乾燥機内で3カ月放置した。放置後のマーキングペンを用いて、ガラス板へ、約30cm/秒の速度で、30cmの直線を10本連続して筆記し、筆記線のかすれの有無を目視にて確認した。
【0047】
【表1】
【0048】
色材に染料を用いている比較例1のインキ組成物には耐光性試験(試験1)にて筆記線の変色が確認された。
【0049】
色材に染料を用いている比較例1、並びに、水溶性樹脂を含まない比較例2及び比較例3のインキ組成物では、筆記線を乾燥したティッシュペーパーで擦った際に容易に筆記線が消去した(試験3)。
【0050】
色材に樹脂分散型カーボンブラックを用いている比較例4のインキ組成物では、筆記線を水で濡らせたティッシュペーパーで擦っても筆記線を容易に消去できなかった(試験4)。
【0051】
色材に樹脂分散型カーボンブラックを用いている比較例4及び5、並びに、色材に活性剤分散型カーボンブラックを用いている比較例6では、マーキングペンをペン先下向きで長期保存した後に、筆記線を水で濡らせたティッシュペーパーで擦っても筆記線を容易に消去できなかった(試験5)。
【0052】
比較例4に対してポリビニルアルコールの含有量を増やした比較例5のインキ組成物では、比較例4と比べて水消去性Aが改善したものの、水消去性Bが改善するには至らなかった(試験4及び試験5)。また、インキ組成物調製直後及びマーキングペンをペン先下向きで長期保存した後において、速記時にかすれが発生した(試験6及び試験7)。
【0053】
一方、色材として自己分散型カーボンブラックを含み、水溶性樹脂としてポリビニルピロリドン又はポリビニルアルコールもしくは、多糖類を含有する実施例1〜6のインキ組成物の筆記線は、耐光性が強く、乾燥したティッシュペーパーによる消去が困難でありながら、水に濡らしたティッシュペーパーにより容易に消去できることが確認された。さらに、実施例1〜6のインキ組成物を充填したマーキングペンのペン先を下向きにした状態で長期保存しても、保存後のマーキングペンによる筆記線が、水に濡らしたティッシュペーパーにより容易に消去できることが確認された。
【符号の説明】
【0054】
1・・・インキ収容部、2・・・ペン先、3・・・軸体、4・・・中綿(インキ組成物)、5・・・キャップ、10・・・マーキングペン。
図1