(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のプリプレグは、エポキシ樹脂組成物と強化繊維とを含有するプリプレグであって、前記エポキシ樹脂組成物が、エポキシ樹脂成分として、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂を含有し、前記エポキシ樹脂成分全体に占めるノボラック型エポキシ樹脂の含有率が2質量%〜19質量%であり、前記エポキシ樹脂成分中のビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂との質量比(ビスフェノールA型エポキシ樹脂/ビスフェノールF型エポキシ樹脂)が0.3〜3.0であり、前記エポキシ樹脂成分全体のエポキシ当量(g/eq)が200〜400であって、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物は、メチルエチルケトンでの膨潤率が20質量%〜44質量%であることを特徴とする。なお、プリプレグとは、強化繊維にエポキシ樹脂組成物を含浸した成形中間材料であり、前記エポキシ樹脂組成物は未硬化または半硬化の状態である。
【0016】
本発明では、エポキシ樹脂成分として、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂を使用し、かつ、ノボラック型エポキシ樹脂の含有率、および、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂との質量比を制御する。これにより、エポキシ樹脂組成物の粘度を低下させてプリプレグのタック性およびドレープ性を向上することができ、かつ、エポキシ樹脂組成物の硬化物の靱性および強度が向上し、このプリプレグを用いて形成される繊維強化エポキシ樹脂成形体の強度が向上する。さらに、前記メチルエチルケトンでの膨潤率は、エポキシ樹脂組成物の架橋密度を指標するものである。メチルエチルケトンでの膨潤率が前記範囲に入るエポキシ樹脂組成物の硬化物は、適度な伸度を有し、強化繊維に対する接着性に優れる。これらの結果、本発明のプリプレグから得られる繊維強化エポキシ樹脂成形体は、強化繊維とマトリックス樹脂の界面強度が向上し、強化繊維による複合化の効果が大きくなり、得られる繊維強化エポキシ樹脂成形体の機械的強度が一段と向上する。
【0017】
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物について説明する。前記エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂成分として、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂を含有する。
【0018】
前記ノボラック型エポキシ樹脂は、分子内に2個超(好ましくは3個以上)のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂である。ノボラック型エポキシ樹脂を含有することにより、エポキシ樹脂組成物の硬化物の架橋密度を制御することができる。架橋密度を制御して、エポキシ樹脂組成物の硬化物の伸度を適度な範囲とすることにより、強化繊維とエポキシ樹脂との界面強度が向上すると考えられる。前記ノボラック型エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0019】
エポキシ樹脂組成物が含有するエポキシ樹脂成分全体に占めるノボラック型エポキシ樹脂の含有率は、2質量%以上、好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは7質量%以上であり、19質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。ノボラック型エポキシ樹脂の含有率が2質量%以上であれば、架橋密度が高められ樹脂組成物の硬化物の強度が一層向上し、19質量%以下であれば、樹脂組成物の硬化物の伸びが維持され、強化繊維との界面強度が高くなり、繊維強化エポキシ樹脂成形体の強度が一層向上する。
【0020】
前記ノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq)は、50以上が好ましく、75以上がより好ましく、100以上がさらに好ましく、500以下が好ましく、400以下がより好ましく、300以下がさらに好ましい。ノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ当量が前記範囲内であれば、有効に架橋構造を形成することができる。
【0021】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、jER(登録商標)152、jER154(以上、三菱化学社製)、EPICLON(登録商標)N−740、エEPICLON N−770、EPICLON N−775(以上、DIC(株)製)、PY307、EPN1179、EPN1180(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)、YDPN638、YDPN638P(以上、東都化成(株)製)、DEN431、DEN438、DEN439(以上、ダウケミカル社製)、EPR600(Bakelite社製)、EPPN−201(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0022】
前記エポキシ樹脂組成物は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂を含有する。前記エポキシ樹脂組成物中の前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂の質量比(ビスフェノールA型エポキシ樹脂/ビスフェノールF型エポキシ樹脂)は、0.3以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上であり、3.0以下、好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2.0以下である。前記質量比が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂組成物の硬化物の強度、靱性を維持しつつプリプレグのタック性を向上できる。前記質量比が0.3未満では、エポキシ樹脂組成物の硬化物の強度が高くなるが、靱性が低下し、3.0を超えると硬化物の伸び率は向上するが、強度が低下する。
【0023】
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂とビスフェノールF型エポキシ樹脂は、一方に常温(25℃)で液体状のものを使用し、他方に常温で固体状のものを使用することが好ましい。このような態様としては、例えば、常温で液体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂と常温で固体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂とを用いる態様;常温で固体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂と常温で液体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂とを用いる態様;常温で液体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂と常温で固体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂と常温で液体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂とを用いる態様;常温で液体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂と常温で液体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂と常温で固体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂とを用いる態様;が挙げられる。これらの中でも、常温で固体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いる態様が好ましい。
【0024】
前記常温で液体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂の粘度(25℃)は、60P以上が好ましく、より好ましくは75P以上、さらに好ましくは90P以上であり、300P以下が好ましく、より好ましくは250P以下、さらに好ましくは200P以下である。エポキシ樹脂の粘度は、粘弾性測定器(アントンパール社製、「MCR301」、印加トルク6mN・m)により、測定できる。前記常温で液体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq)は、170以上が好ましく、より好ましくは175以上、さらに好ましくは180以上であり、300以下が好ましく、より好ましくは290以下、さらに好ましくは280以下である。
【0025】
前記常温で固体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq)は、300以上が好ましく、より好ましくは350以上、さらに好ましくは400以上であり、20000以下が好ましく、より好ましくは18000以下、さらに好ましくは16000以下である。
【0026】
常温で液体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、jER(登録商標)827、jER828、jER828EL、jER828XA、jER834(以上、三菱化学社製)、エポトート(登録商標)YD−115、エポトートYD−115G、エポトートYD−115CA、エポトートYD−118T、エポトートYD−127、エポトートYD−128、エポトートYD−128G、エポトートYD−128S(以上、東都化成社製)、EPICLON(登録商標)840、EPICLON840−S、EPICLON850、EPICLON850−S(以上、DIC社製)が挙げられる。
【0027】
常温で固体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、jER1001、jER1002、jER1003、jER1003F、jER1004、jER1004FS、jER1004F、jER1004AF、jER1055、jER1005F、jER1006FS、jER1007、jER1007FS、jER1008、jER1009(以上、三菱化学社製)、エポトートYD−011、エポトートYD−012、エポトートYD−013、エポトートYD−014、エポトートYD−017、エポトートYD−019、エポトートYD−020N、エポトートYD−020H(以上、東都化成社製)、EPICLON1050、EPICLON3050、EPICLON4050、EPICLON7050(以上、DIC社製)が挙げられる。
【0028】
前記常温で液体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂の粘度(25℃)は、9P以上が好ましく、より好ましくは12P以上、さらに好ましくは15P以上であり、300P以下が好ましく、より好ましくは250P以下、さらに好ましくは200P以下である。前記常温で液体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq)は、150以上が好ましく、より好ましくは155以上、さらに好ましくは160以上であり、300以下が好ましく、より好ましくは290以下、さらに好ましくは280以下である。
【0029】
前記常温で固体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂のエポキシ当量(g/eq)は、300以上が好ましく、より好ましくは350以上、さらに好ましくは400以上であり、20000以下が好ましく、より好ましくは18000以下、さらに好ましくは16000以下である。
【0030】
常温で液体状のビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、例えば、jER806、jER807(以上、三菱化学社製)、EPICLON830、EPICLON830−S、EPICLON835(以上、DIC社製)が挙げられる。常温で固体状のビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば、jER4005P、jER4007P、jER4010P(以上、三菱化学社製)が挙げられる。
【0031】
前記エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂成分として、前記ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂のみを含有してもよいし、これらの他に、分子内に2個のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、すなわち2官能のエポキシ樹脂をさらに含有してもよい。前記2官能のエポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の水素添加物、ビスフェノールF型エポキシ樹脂の水素添加物、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。前記ビスフェノール型エポキシ樹脂は、単独であるいは2種以上を混合して使用してもよい。これらのビスフェノール型エポキシ樹脂の使用量は、前記エポキシ樹脂成分中97質量%以下が好ましく、より好ましくは96質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下である。
【0032】
前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂成分全体のエポキシ当量(g/eq)は、200以上が好ましく、250以上がより好ましく、400以下が好ましく、350以下がより好ましい。エポキシ樹脂成分全体のエポキシ当量が200未満では、エポキシ樹脂成分が常温で液体になってしまい、プリプレグの作製や成形が困難になる場合がある。一方、エポキシ当量が400を超えると、エポキシ樹脂成分が常温で固体となりプリプレグの成形が困難となる。
【0033】
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物は、硬化剤を含有することが好ましい。前記硬化剤としては、ジシアンジアミド;4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、m−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミンのような活性水素を有する芳香族アミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ポリエチレンイミンのダイマー酸エステルのような活性水素を有する脂肪族アミン;これらの活性水素を有するアミンにエポキシ化合物、アクリロニトリル、フェノールとホルムアルデヒド、チオ尿素などの化合物を反応させて得られる変性アミン;ジメチルアニリン、トリエチレンジアミン、ジメチルベンジルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールのような活性水素を持たない第三アミン;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類;ポリアミド樹脂;ヘキサヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルナジック酸無水物のようなカルボン酸無水物;アジピン酸ヒドラジドやナフタレンジカルボン酸ヒドラジドのようなポリカルボン酸ヒドラジド;ノボラック樹脂などのポリフェノール化合物;チオグリコール酸とポリオールのエステルのようなポリメルカプタン;および、三フッ化ホウ素エチルアミン錯体のようなルイス酸錯体などを用いることができる。これらの中でも、硬化剤としてジシアンジアミドを使用することが好ましい。
【0034】
前記ジシアンジアミドの添加量は、エポキシ樹脂成分のエポキシ基1モルに対して、13g以上が好ましく、15g以上がより好ましく、17g以上がさらに好ましく、40g以下が好ましく、38g以下が好ましく、35g以下がさらに好ましい。ジシアンジアミドの添加量が13g以上であれば、硬化反応がより進行し、強度が一層向上し、40g以下であれば、樹脂組成物の硬化物の伸びが維持され、強化繊維との界面強度が高くなり、繊維強化エポキシ樹脂成形体の強度が一層向上する。
【0035】
前記硬化剤には、硬化活性を高めるために適当な硬化促進剤を組合せることができる。硬化促進剤としては、尿素に結合する水素の少なくとも1つが、炭化水素基で置換された尿素誘導体が好ましい。前記炭化水素基は、例えば、さらに、ハロゲン原子、ニトロ基、アルコキシ基などで置換されていてもよい。前記尿素誘導体としては、例えば、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(パラクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(オルソメチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(パラメチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(メトキシフェニル)−1,1−ジメチル尿素、3−(ニトロフェニル)−1,1−ジメチル尿素等のモノ尿素化合物の誘導体;および、N,N−フェニレン−ビス(N’,N’−ジメチルウレア)、N,N−(4−メチル−1,3−フェニレン)−ビス(N’,N’−ジメチルウレア)などのビス尿素化合物の誘導体を挙げることができる。好ましい組合せの例としては、ジシアンジアミドに、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(DCMU)、3−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、2,4−ビス(3,3−ジメチルウレイド)トルエンのような尿素誘導体を硬化助剤として組合せる例が挙げられる。これらのなかでも、ジシアンジアミドに、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(DCMU)を硬化促進剤として組み合わせることがより好ましい。
【0036】
本発明では特に、硬化剤としてジシアンジアミド(DICY)を、硬化助剤として尿素誘導体を使用することが好ましい。この場合、ジシアンジアミド(DICY)と尿素誘導体の含比率は、質量比(DICY/尿素誘導体)で、1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.5以上がより好ましく、3.0以下が好ましく、2.8以下がより好ましく、2.5以下がさらに好ましい。また、前記質量比(DICY/尿素誘導体)は、2が最も好ましい。DICY/尿素誘導体の質量比が前記範囲内であれば、硬化速度が速く、硬化物が、良好な物性を有する。
【0037】
前記エポキシ樹脂組成物は、さらに、オリゴマー、高分子化合物、有機または無機の粒子などの他成分を含んでもよい。
【0038】
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物に配合できるオリゴマーとしては、ポリエステル骨格およびポリウレタン骨格を有するポリエステルポリウレタン、ポリエステル骨格およびポリウレタン骨格を有し、さらに分子鎖末端に(メタ)アクリレート基を有するウレタン(メタ)アクリレート、インデン系オリゴマーなどが挙げられる。
【0039】
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物に配合できる高分子化合物としては、熱可塑性樹脂が好適に用いられる。熱可塑性樹脂を配合することにより、樹脂の粘度制御やプリプレグシートの取扱い性制御、あるいは接着性改善の効果が増進するので好ましい。
【0040】
前記熱可塑性樹脂の例としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂、アミド結合を有する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、スルホニル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリスルホンなどが挙げられる。ポリアミド、ポリイミド及びポリスルホンは主鎖にエーテル結合、カルボニル基などの官能基を有してもよい。ポリアミドは、アミド基の窒素原子上に置換基を有してもよい。本発明で使用するエポキシ樹脂組成物は、熱可塑性樹脂として、ポリビニルホルマールを含有することが好ましい。ポリビニルホルマールを含有すれば、硬化物の靱性、伸度がより向上する。
【0041】
前記熱可塑性樹脂の含有量としては、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、4質量部以上がさらに好ましく、12質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。熱可塑性樹脂の含有量が2質量部以上であれば、エポキシ樹脂組成物の伸びがよくなり、タックを付与できる。一方、熱可塑性樹脂の含有量が12質量部超になると、エポキシ樹脂組成物が常温で固化してしまうおそれがある。そのため、強化繊維への含浸性が低下し、プリプレグ作製時にボイドを引き起こす場合がある。
【0042】
本発明で使用するエポキシ樹脂組成物に配合し得る有機粒子としては、ゴム粒子及び熱可塑性樹脂粒子が用いられる。これらの粒子は樹脂の靭性向上、繊維強化複合材料の耐衝撃性向上の効果を有する。さらに、ゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、及び架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が好ましく用いられる。
【0043】
市販の架橋ゴム粒子としては、カルボキシル変性のブタジエン−アクリロニトリル共重合体の架橋物からなるXER−91(日本合成ゴム工業社製)、アクリルゴム微粒子からなるCX−MNシリーズ(日本触媒社製)、YR−500シリーズ(東都化成社製)等を使用することができる。市販のコアシェルゴム粒子としては、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合体からなるパラロイドEXL−2655(呉羽化学工業社製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなるスタフィロイドAC−3355、TR−2122(武田薬品工業社製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合体からなるPARALOIDEXL−2611、EXL−3387(登録商標、商品名、Rohm & Haas社製)等を使用することができる。
【0044】
また、熱可塑性樹脂粒子としては、ポリアミドあるいはポリイミドの粒子が好ましく用いられる。市販のポリアミド粒子としては、東レ社製、商品名:SP−500、ATOCHEM社製、オルガソール(登録商標)等を使用することができる。
【0045】
前記エポキシ樹脂組成物に配合し得る無機粒子としては、シリカ、アルミナ、スメクタイト、合成マイカ等を配合することができる。これらの無機粒子は、主としてレオロジー制御、即ち増粘や揺変性付与のために、エポキシ樹脂組成物に配合される。
【0046】
本発明において、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物は、メチルエチルケトンでの膨潤率が、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、44質量%以下が好ましく、38質量%以下がより好ましい。前記メチルエチルケトンでの膨潤率は、エポキシ樹脂組成物の硬化物の架橋度を指標するものである。前記膨潤率が20質量%未満では、架橋密度が高すぎて、エポキシ樹脂組成物の硬化物の伸びが低下し、44質量%を超えると架橋密度が小さすぎ、エポキシ樹脂組成物の硬化物の強度が低下する。
【0047】
前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の引張特性(=最大応力×その時の伸び÷2)は、100MPa・%以上が好ましく、150MPa・%以上がより好ましく、200MPa・%以上がさらに好ましく、6000MPa・%以下が好ましく、5500MPa・%以下がより好ましく、5000MPa・%以下がさらに好ましい。
【0048】
前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の引張強度(最大応力)は、20MPa以上が好ましく、30MPa以上がより好ましく、50MPa以上がさらに好ましく、500MPa以下が好ましく、450MPa以下がより好ましく、400MPa以下がさらに好ましい。また、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物の伸度(破断伸度)は、2%以上が好ましく、3%以上がより好ましく、300%以下が好ましく、200%以下がより好ましい。引張強度および伸度の測定方法は、後述する。
【0049】
本発明のプリプレグの樹脂成分は、前記エポキシ樹脂組成物のみによって構成されることが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲で、市販のエポキシ樹脂組成物を併用してもよい。市販のエポキシ樹脂組成物を併用する場合、樹脂成分中の市販のエポキシ樹脂組成物の含有率は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0050】
本発明のプリプレグの樹脂成分の含有量は、15質量%以上が好ましく、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上であり、65質量%以下が好ましく、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下である。強化繊維の含有率が、前記範囲内であれば、樹脂の高強度が十分に生かせる良好な繊維強化エポキシ樹脂成形体となるからである。
【0051】
本発明において、プリプレグに使用する強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維などを挙げることができる。また、これらの繊維を2種以上混在させることもできる。これらのなかでも炭素繊維を使用することが好ましい。
【0052】
前記炭素繊維としては、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が挙げられるが、中でも、引張強度の高いアクリル系の炭素繊維が好ましい。炭素繊維の形態としては、前駆体繊維に撚りをかけて焼成して得られる炭素繊維、いわゆる有撚糸、その有撚糸の撚りを解いた炭素繊維、いわゆる解撚糸、前駆体繊維に実質的に撚りをかけずに熱処理を行う無撚糸などが使用できる。無撚糸又は解撚糸が、繊維強化複合材料の成形性と強度特性のバランスを考慮すると好ましく、さらに、プリプレグシート同士の接着性などの取扱性の面からは無撚糸が好ましい。また、本発明における炭素繊維は、黒鉛繊維も含むことができる。
【0053】
前記強化繊維の引張弾性率は、10tf/mm
2(98GPa)以上が好ましく、24tf/mm
2(235GPa)以上がより好ましく、70tf/mm
2(686GPa)以下が好ましく、50tf/mm
2(490GPa)以下がより好ましい。前記引張弾性率は、JISR7601:1986「炭素繊維試験方法」に準拠して測定する。強化繊維の引張弾性率が、前記範囲内であれば、曲げ強度の高い管状体が得られる。
【0054】
本発明のプリプレグ中の強化繊維の含有率は、35質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上、特に好ましくは70質量%以上であり、85質量%以下が好ましく、より好ましくは84質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、特に好ましくは75質量%以下である。強化繊維の含有率が、前記範囲内であれば、樹脂の高強度が十分に生かせる良好な繊維強化エポキシ樹脂材料となるからである。
【0055】
プリプレグにおける強化繊維の形態としては、例えば、一方向に引き揃えられた長繊維、二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組み紐などを挙げることができる。ここで、長繊維とは、実質的に10mm以上連続な単繊維または繊維束を意味する。一方向に引き揃えられた長繊維を用いた所謂一方向プリプレグは、繊維の方向が揃っており、繊維の曲がりが少ないため繊維方向の強度利用率が高い。また、一方向プリプレグは、複数のプリプレグを、強化繊維の配列方向が異なるように適切に積層した後成型すると、成形物の各方向の弾性率と強度の設計が容易になる。
【0056】
本発明のプリプレグの形状としては、シート状が好ましい。プリプレグをシート状とする場合、厚さは0.01mm以上が好ましく、より好ましくは0.03mm以上であり、1.0mm以下が好ましく、より好ましくは0.9mm以下である。
【0057】
本発明のプリプレグの密度は、1.45g/cm
3以上が好ましく、より好ましくは1.47g/cm
3以上、さらに好ましくは1.48g/cm
3以上であり、1.75g/cm
3以下が好ましく、より好ましくは1.72g/cm
3以下、さらに好ましくは1.69g/cm
3以下である。密度が前記範囲内であれば炭素繊維の補強効果が十分に生かせる良好な繊維強化エポキシ樹脂材料となるからである。
【0058】
本発明のプリプレグを製造する方法としては、公知の方法が用いられる。例えば、前記エポキシ樹脂組成物を、炭素繊維などの強化繊維に含浸させてプリプレグを作製できる。具体的には、エポキシ樹脂組成物をメチルエチルケトン、メタノールなどの溶媒に溶解させて低粘度化し、強化繊維に含浸させるウエット法と、加熱によりエポキシ樹脂組成物を低粘度化し、強化繊維に含浸させるホットメルト法などの方法により製造することができる。ウエット法は、強化繊維をエポキシ樹脂組成物からなる溶液に浸漬した後に引き上げ、オーブンなどを用いて加熱しながら溶媒を蒸発させてプリプレグを得る方法である。ホットメルト法には、加熱により低粘度化したエポキシ樹脂組成物を直接強化繊維に含浸させる方法、あるいは一旦エポキシ樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングしたフィルムを作製しておき、次いで強化繊維の両側あるいは片側から、かかるフィルムを重ね、加熱することによりエポキシ樹脂組成物を含浸させてプリプレグとする方法がある。ホットメルト法は、溶媒がプリプレグ中に実質的に残留しないことから好ましい。
【0059】
本発明のプリプレグは、含有するエポキシ樹脂組成物を硬化させることにより、繊維強化エポキシ樹脂成形体が得られる。本発明のプリプレグを用いて繊維強化エポキシ樹脂材料製の管状体を製造する方法としては、公知の方法が用いられる。例えば、前記プリプレグを、管状体を構成する各材料の形状に裁断し、積層後、積層体を加熱しながら圧力を付与する方法を挙げることができる。
【0060】
プリプレグの積層体を加熱しながら圧力を付与する方法には、ラッピングテープ法、内圧成型法などがある。ラッピングテープ法は、マンドレルなどの芯金にプリプレグを巻いて、成型体を得る方法である。具体的には、マンドレルにプリプレグを巻き付け、プリプレグの固定及び圧力付与のために、プリプレグの外側に熱可塑性樹脂フィルムからなるラッピングテープを巻き付け、オーブン中で樹脂を加熱し硬化させた後、芯金を抜き去って管状成型体を得る方法である。管状成型体の表面を切削し、塗装などを施してもよい。
【0061】
内圧成型法は、熱可塑性樹脂製のチューブなどの内圧付与体にプリプレグを巻きつけプリフォームとし、次にこれを金型中に設置し、次いで内圧付与体に高圧の気体を導入して圧力をかけると共に金型を加熱して成型する方法である。
【0062】
繊維強化エポキシ樹脂材料製の管状体を構成するプリプレグの積層枚数、強化繊維の含有率、および、1枚のプリプレグの厚みなどは、所望の特性に応じて、適宜変更することが好ましい。特に、管状体の軸線に対して、強化繊維の配列が傾斜して配されるバイアスプリプレグと、管状体の軸線に対して、強化繊維の配列が平行に配されるストレートプリプレグと、管状体の軸線に対して、強化繊維の配列が直角に配されるフーププリプレグとを適宜配置して、管状体に必要な剛性や強度を付与することが好ましい。管状成型体の表面を切削し、塗装などを施してもよい。
【0063】
前記管状体は、複数のプリプレグを巻回して積層し、これらのプリプレグに含有される樹脂組成物を硬化して形成されていることが好ましい。管状体を構成するプリプレグの積層数は、5層以上が好ましく、より好ましくは7層以上、さらに好ましくは9層以上であり、30層以下が好ましく、より好ましくは28層以下、さらに好ましくは26層以下である。
【0064】
前記管状体を複数のプリプレグから構成する場合、最も外側に位置する最外プリプレグとして本発明のプリプレグを使用することが好ましい。管状体の初期破壊は、管状体の最外層から生じる。そのため、機械的強度に優れる本発明のプリプレグを最外層に使用することで、管状体の初期破壊を防ぐことができ、管状体の強度を一層高めることができる。また、管状体が3枚以上のプリプレグから構成されている場合、最外プリプレグおよび最外プリプレグに内接するプリプレグの2枚に本発明のプリプレグを使用することが好ましい。なお、最外プリプレグおよび最外プリプレグに内接するプリプレグは、異なるプリプレグを用いてもよいが、同じプリプレグを用いることが好ましい。
【0065】
最外プリプレグおよび/または最外プリプレグに内接するプリプレグが含有する強化繊維の引張弾性率は、10tf/mm
2(98GPa)以上が好ましく、より好ましくは15tf/mm
2(147GPa)以上、さらに好ましくは20tf/mm
2(196GPa)以上であり、38tf/mm
2(373GPa)以下が好ましく、より好ましくは_30tf/mm
2(294GPa)以下である。これらのプリプレグが含有する強化繊維の引張弾性率が上記範囲内であれば、管状体の初期破壊をより抑制できる。
【0066】
また、前記最外プリプレグの内側に位置する他のプリプレグは、少なくとも1つに前記最外プリプレグよりも密度が小さいプリプレグ(以下、軽量プリプレグと称する場合がある。)を使用することが好ましい。密度の小さいプリプレグを使用することにより、管状体を軽量化できる。また、通常、密度が小さいプリプレグは強化繊維の含有量が少ないため、このようなプリプレグを使用すると管状体の機械的強度が低下する傾向がある。しかし、最外プリプレグに、本発明のプリプレグを使用することにより初期破壊が抑制されるため、管状体の機械的強度を維持したまま、軽量化を図ることができる。
【0067】
前記最外プリプレグと軽量プリプレグとの密度の差(最外プリプレグ−軽量プリプレグ)は、0.08g/cm
3以上が好ましく、より好ましくは0.10g/cm
3以上、さらに好ましくは0.12g/cm
3以上であり、0.28g/cm
3以下が好ましく、より好ましくは0.26g/cm
3以下、さらに好ましくは0.24g/cm
3以下である。密度の差が上記範囲内であれば強度を維持しつつ、軽量化できる。
【0068】
前記軽量プリプレグとしては、特に限定されず、公知のプリプレグが使用できる。なお、前記軽量プリプレグとして、本発明のプリプレグを用いることも好ましい。軽量プリプレグの密度は、1.35g/cm
3以上が好ましく、より好ましくは1.40g/cm
3以上であり、1.55g/cm
3以下が好ましく、より好ましくは1.50g/cm
3以下である。
【0069】
軽量プリプレグを用いる場合、前記最外プリプレグに含有される強化繊維の引張弾性率よりも、前記軽量プリプレグに含有される強化繊維の引張弾性率を大きくすることが好ましい。このような構成とすることで、管状体の機械的強度を維持したまま、軽量化を図ることができる。前記軽量プリプレグが含有する強化繊維の引張弾性率は、30tf/mm
2(294GPa)以上が好ましく、より好ましくは40tf/mm
2(392GPa)以上、さらに好ましくは46tf/mm
2(451GPa)以上であり、70tf/mm
2(686GPa)以下が好ましく、より好ましくは60tf/mm
2(588GPa)以下、さらに好ましくは50tf/mm
2(490GPa)以下である。軽量プリプレグが含有する強化繊維の引張弾性率が上記範囲内であれば、管状体の機械的強度を維持したまま、軽量化を図ることができる。
【0070】
軽量プリプレグは、使用枚数が多い程管状体の質量を低減できる。軽量プリプレグの位置は特に限定されないが、できるだけ内側に配置することが好ましい。よって、最も内側に位置する最内プリプレグを軽量プリプレグとすることが好ましい。また、軽量プリプレグは2枚以上用いてもよい。この場合、プリプレグの順序は、軽量プリプレグが連続するように配置することが好ましい。すなわち、軽量プリプレグは、最内プリプレグから所望の枚数まで連続して配置することがより好ましい。
【0071】
前記管状体としては、複数のプリプレグを巻回積層してなり、最も外側に位置する最外プリプレグに本発明のプリプレグを使用し、前記最外プリプレグの内側に位置するプリプレグが、少なくとも1つは前記最外プリプレグよりも密度が小さい軽量プリプレグである態様が好ましい。具体的には、n枚のプリプレグを巻回積層してなり、最外プリプレグおよびこの最外プリプレグに内接するプリプレグとして本発明のプリプレグを使用し、かつ、最内プリプレグからn−3枚目までのプリプレグとして軽量プリプレグを使用する態様が好ましい(ただし、nは5以上とする)。例えば、管状体が8枚のプリプレグで構成されている場合、最外プリプレグ(8枚目)および最外プリプレグに内接するプリプレグ(7枚目)に本発明のプリプレグを使用し、最内プリプレグ(1枚目)〜5枚目のプリプレグとして軽量プリプレグを用いる態様が好ましい。前記最外プリプレグ、最外プリプレグに内接するプリプレグおよび軽量プリプレグには、本発明のプリプレグであって、密度の異なるものを使用することが好ましい。
【0072】
前記管状体の長さは、40インチ(101.6cm)以上が好ましく、より好ましくは41インチ(104.1cm)以上であり、49インチ(124.5cm)以下が好ましく、より好ましくは48インチ(121.9cm)以下である。管状体の長さが上記範囲内であれば、この管状体からなるゴルフクラブシャフトを用いたゴルフクラブの操作性が良好となる。また、管状体の質量は、30g以上が好ましく、より好ましくは35g以上であり、80g以下が好ましく、より好ましくは75g以下である。質量が30g以上であればシャフトが十分な肉厚となり機械的強度がより向上し、80g以下であればシャフトが重くなりすぎず操作性がより良好となる。
【0073】
前記管状体の肉厚は、0.5mm以上が好ましく、より好ましくは0.6mm以上であり、4mm以下が好ましく、より好ましくは3.5mm以下である。管状体の肉厚が上記範囲内であれば、良好なしなりが得られる。また、管状体の肉厚は、薄肉部の位置を調整することにより、管状体の重心や、しなりの位置を制御できる。
【0074】
前記プリプレグを用いて形成された繊維強化エポキシ樹脂材料製の管状体は、例えば、ゴルフクラブシャフト、釣竿、テニスラケット、バトミントンラケットなどに好適に使用することができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0076】
[評価方法]
(1)試験片の作製
[樹脂引張試験片、及びメチルエチルケトン膨潤試験用試験片の作製]
表1〜4に示したエポキシ樹脂組成物の配合と同様となるように、エポキシ樹脂成分をメチルエチルケトン(MEK)に溶解して、エポキシ樹脂のMEK溶液を作製した(MEK含有率30%)。得られたエポキシ樹脂のMEK溶液を乾燥し、加熱して融解し、硬化剤および硬化助剤を加えて撹拌した。得られたエポキシ樹脂組成物を厚み2mmの注型金型に注ぎ、130℃で2時間処理して硬化させた。硬化した樹脂板より引張試験用試験片をJIS−K7162(1994)試験片1BAに従い成型した。また、2cm×2cmの正方形状の試験片を切り出し、メチルエチルケトン膨潤試験用試験片とした。
【0077】
[繊維強化エポキシ樹脂成形体の引張試験用試験片]
プリプレグを裁断し、繊維方向が一定となるように10枚積層した。0.1mmの離型シートで挟み、1mmのスペーサを用いて、80℃×30分+130℃×2時間の条件でプレスして、エポキシ樹脂を硬化させて、繊維強化エポキシ樹脂成形体シートを得た。得られた繊維強化エポキシ樹脂成形体シートを、長さ:繊維垂直方向に100mm、幅:繊維方向に10mmになるように裁断して、引張試験用の試験片を作製した。
【0078】
(2)メチルエチルケトン膨潤試験
前記で得られたメチルエチルケトン膨潤試験用試験片(2cm角、厚み2mm)をメチルエチルケトン100mLに浸漬させ、40℃で48時保持した。浸漬前後の試験片の質量を測定し、メチルエチルケトン膨潤率は、下記のようにして算出した。
膨潤率=100×[膨潤試験後の試験片の質量−膨潤試験前の試験片の質量]/膨潤試験前の試験片の質量
【0079】
(3)引張試験(最大応力)
図1に示すように、引張試験は、島津オートグラフ(島津製作所社製)を用いて、引張速度1mm/minで行った。
図1(a)は、エポキシ樹脂組成物の硬化物からなる試験片12についての引張試験方法を模式的に説明する説明図である。
図1(b)は、
図1(a)の試験片12を掴むチャック10を側面から見た側面図である。なお、
図1(b)において、チャック10の内側には、滑り止めのための凹凸が設けられているが、図示していない。
図1(c)は、繊維強化エポキシ樹脂成形体についての引張試験方法を模式的に説明する説明図である。
図1(a),(c)において、矢印方向が引張試験の方向である。
図1(c)に示したように、繊維強化エポキシ樹脂成形体からなる試験片15には、長さ4mm×幅1.5mm×厚み0.5mmのアルミタグ14をシアノアクリレート系接着剤で貼り付け、強化繊維16の方向に対して垂直(90度)の方向に引張試験を行った。また、エポキシ樹脂組成物の硬化物については、引張特性を最大応力×その時の伸び÷2(MPa・%)で示した。
【0080】
(4)3点曲げ試験
図2に示すように、支点20、20間距離が300mmになるように、管状体18を下方から2点で支えて、支点間の中点22において、管状体18の上方から荷重Fを加えて、管状体が破断したときの荷重値(ピーク値)を測定した。なお、管状体18に荷重Fをかける中点22は、管状体の中心部に位置させるようにした。測定は以下の条件で行った。
試験装置:島津社製オートグラフ
荷重速度:20mm/min
【0081】
(5)プリプレグタック試験
プリプレグタックは、ゴム・粘着体用粘着性試験機(東洋精機社製、PICMA タックテスター P−2)を用いて測定した。測定条件は、下降速度:1000mm/秒、圧着時間:0秒、引きはがし速度:1000mm/秒(接着時間1秒)とした。
【0082】
(6)ドレープ性試験
プリプレグのドレープ性は、管状体作製時の巻き付けやすさにより評価した。作業性が良好であるものを「○」、作業性が劣るものを「×」とした。
【0083】
[プリプレグの作製]
表1〜表4に示した組成になるように、エポキシ樹脂をメチルエチルケトンに溶解して、エポキシ樹脂のMEK溶液を作製した(MEK含有率:30質量%)。得られたエポキシ樹脂のMEK溶液に、硬化剤および硬化助剤を加えて撹拌し、エポキシ樹脂組成物溶液を調製した。前記エポキシ樹脂組成物溶液を、離型紙に塗布して80℃〜90℃で3分間乾燥させてエポキシ樹脂組成物シートを作製した。繊維目付100g/m
2の炭素繊維シートに得られたエポキシ樹脂組成物シートをホットメルト法により含浸させ、炭素繊維含有率が70質量%のプリプレグを作製した。
【0084】
エポキシ樹脂組成物、プリプレグについての評価結果を表1〜表4に示した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
表1〜表4で使用した原料は、以下の通りである。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量:190g/eq):三菱化学社製、jER828EL(常温で液体状、粘度(25℃):120〜150P)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量:1975g/eq):三菱化学社製、jER1007(常温で固体状)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量:165g/eq):三菱化学社製、jER806(常温で液体状、粘度(25℃):15〜25P)
ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量:1070g/eq):三菱化学社製、jER4005P(常温で固体状)
フェノールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量:180g/eq):三菱化学社製、jER154(一分子あたりのエポキシ基数:3個以上)
ポリビニルホルマール:JNC社製、ビニレック(登録商標)E
ジシアンジアミド:三菱化学社製、DICY7
尿素誘導体:保土ヶ谷化学工業社製、DCMU−99(3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素)
T700SC:東レ社製炭素繊維、トレカT700SC(引張弾性率24tf/mm
2(235GPa))
T800SC:東レ社製炭素繊維、トレカ(登録商標)T800SC(引張弾性率30tf/mm
2(294GPa))
M40JB:東レ社製炭素繊維、トレカM40JB(引張弾性率40tf/mm
2(392GPa))
M50JB:東レ社製炭素繊維、トレカM50JB(引張弾性率50tf/mm
2(490GPa))
XN−15:日本グラファイトファイバー製炭素繊維、GRANOC XN−15(引張弾性率15tf/mm
2(147GPa))
YSH−60A:日本グラファイトファイバー製炭素繊維、GRANOC YSH−60A(引張弾性率63tf/mm
2(618GPa))
YS−80A:日本グラファイトファイバー製炭素繊維、GRANOC YS−80A(引張弾性率80tf/mm
2(785GPa))
【0090】
表1〜表4から、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、および、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を所定量含み、その硬化物のメチルエチルケトン膨潤率が20質量%〜44質量%であるエポキシ樹脂組成物を用いたプリプレグNo.PP1、PP2、PP5〜PP7、PP9〜PP12は、タック性およびドレープ性が良好である。また、これらのプリプレグからなる繊維強化エポキシ樹脂材料は、引張強度が高いことが分かる。
【0091】
プリプレグNo.PP3、PP4は、エポキシ樹脂成分全体のエポキシ当量が高すぎるため、ドレープ性が劣る。プリプレグNo.PP8は、メチルエチルケトン膨潤率が45.6質量%と高すぎるため、繊維強化エポキシ樹脂材料の引張強度が劣る。プリプレグNo.PP13、PP14は、メチルエチルケトン膨潤率が19.6質量%、13.2質量%と低すぎるため、ドレープ性が劣る。プリプレグNo.PP15は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を含有しておらず、また、メチルエチルケトン膨潤率が13.1質量%と低すぎるため、引張試験の試験片作製できなかった。
【0092】
[繊維強化エポキシ樹脂材料製の管状体の作製]
繊維強化エポキシ樹脂材料製の管状体は、シートワインディング法により作製した。すなわち、
図3に示したように、プリプレグ1〜8を順番に芯金(マンドレル)に巻回した。プリプレグ1が、最内層を構成し、プリプレグ8が最外層を構成する。プリプレグ1、4、5,7、8は、強化繊維の配列方向が、管状体の軸線に対して平行に配されるストレートプリプレグである。プリプレグ2,3は、強化繊維の配列方向が、管状体の軸線に対して傾斜して配されるバイアスプリプレグである。プリプレグ6は、強化繊維の配列方向が、管状体の軸線に対して直角に配されるフーププリプレグである。
図4に示したように、プリプレグ2とプリプレグ3、および、プリプレグ5とプリプレグ6とを貼り合わせて、強化繊維の傾斜方向が交差するようにした。なお、プリプレグ1〜8には、表5〜表10に示すものを用いた。得られた巻回体の外周面にテープを巻き付けて、加熱して硬化反応を行った。巻回条件および硬化条件を以下に示した。
図3、4中、寸法は、mm単位で表示されている。
【0093】
巻回条件:
ローリングスピード:34Hz
テープ:信越化学社製PT−30H、テンション6000±100gf
ピッチ:2.0mm
主軸回転数:1870〜1890Hz
硬化条件:
(1)常温から80℃に30分で昇温
(2)80℃±5℃で30分±5分保持
(3)80℃から130℃に30分間で昇温
(4)130℃±5℃で120分±5分間保持。
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】
【0096】
【表7】
【0097】
【表8】
【0098】
【表9】
【0099】
【表10】
【0100】
P−805S−3:東レ社製、トレカプリプレグP805S−3(炭素繊維:M30S(引張弾性率30tf/mm
2(294GPa))、樹脂含有量:40質量%、密度1.47g/cm
3)
【0101】
表5に示すように、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、および、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を所定量含み、その硬化物のメチルエチルケトン膨潤率が20質量%〜44質量%であるエポキシ樹脂組成物を用いた管状体No.1、2、5〜7、9〜12は、3点曲げ強度が高い。