(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
踏面にサイプを形成した空気入りタイヤにおいて、前記サイプは、踏面よりもサイプ幅を大きくした幅広領域を前記踏面から距離を置いた位置に有し、前記幅広領域は、前記サイプの深さ方向に延びる凹溝を前記サイプの長手方向に沿ってサイプ壁面の両側に交互に設けて構成されており、
各々の前記凹溝は、サイプ壁面を単独で見た場合に長手方向に間隔を置いて設けられており、
各々の前記凹溝は、当該凹溝の溝底から相手側のサイプ壁面に向けて突出する突起を有し、当該突起は、前記サイプの深さ方向に複数配列されており、前記突起は、踏面におけるサイプ幅の中心線を超えない突出量に設定されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
前記複数の突起は、サイプ深さ方向に沿って浅い側から深い側に進むにつれてサイプ長手方向の位置が交互に異なるように、ジグザグ(千鳥状)に配置されている、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
前記サイプの深さ方向において深い側にある前記突起は、浅い側にある前記突起よりも突出量が少なくなるように形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【背景技術】
【0002】
従来、スタッドレスタイヤでは、ブロックやリブなどの陸部にサイプと呼ばれる切り込
みを形成しており、このサイプによるエッジ効果や除水効果によって、摩擦係数が低いア
イス路面での走行性能(以下、アイス性能と呼ぶ。)を高めている。ところが、ゴムは非
圧縮性であるため、タイヤに荷重が作用した場合には、路面に接するトレッド面の動きが
大きくなり、特にアイス路面ではトレッド面が滑ってサイプの開口部が狭小化し易く、サ
イプが本来発揮すべきエッジ効果や除水効果、路面への密着性が低下することがあった。
【0003】
この問題を解決すべく、特許文献1に記載のタイヤでは、
図10に示すような幅広領域10Aを有するサイプ10をブロック1に形成している。幅広領域10Aは、サイプ10の深さ方向に延びる凹溝4をサイプ長手方向に沿って複数配列することで構成される。ブロック1が荷重を受けた場合には、幅広領域10Aによって陸部の径方向内側へ倒れ込みを或る程度許容するので、踏面におけるサイプ開口が閉じようとする動きを抑制し、サイプ開口の閉塞を防止し、除水効果や路面への密着性を適度に確保することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載のタイヤでは、幅広部によって陸部の径方向内側への倒れ込みが許容されるので、幅広部のサイズによっては倒れ込みが過度となる場合があり、路面の密着性に優れるものの、逆に倒れ込みによるエッジ効果が損なわれてしまう場合がある。路面への密着性、エッジ効果及び除水効果がバランスよく得られることでアイス性能が向上するので、陸部の過度な倒れ込みを抑制する必要がある。
【0006】
また、摩耗により踏面に現れるサイプ幅が摩耗進行に伴って大きく変化する場合には、耐ヒールアンドトゥ摩耗性能に関する問題が生ずるものと考えられる。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、耐ヒールアンドトゥ摩耗性能を向上させると共に、路面への接地性、エッジ効果及び除水効果をバランスよく得て、アイス性能を向上させた空気入りタイヤを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0009】
すなわち、本発明の空気入りタイヤは、踏面にサイプを形成した空気入りタイヤにおいて、前記サイプは、踏面よりもサイプ幅を大きくした幅広領域を前記踏面から距離を置いた位置に有し、前記幅広領域は、前記サイプの深さ方向に延びる凹溝を前記サイプの長手方向に沿ってサイプ壁面の両側に交互に設けて構成されており、各々の前記凹溝は、当該凹溝の溝底から相手側のサイプ壁面に向けて突出する突起を有し、当該突起は、前記サイプの深さ方向に複数配列されており、前記突起は、踏面におけるサイプ幅の中心線を超えない突出量に設定されていることを特徴とする。
【0010】
このように、ブロックの倒れ込みを招来する凹溝に突起が形成されるので、ブロック剛性を高めて過度な倒れ込みを抑制して、エッジ効果を高め、アイス性能を向上させることが可能となる。さらに、突起の突出量は、踏面におけるサイプ幅の中心を超えない突出量であるので、吸水性(除水性能)の低下を抑制でき、アイス性能を向上できる。それでいて、凹溝に突起を形成することで、路面に現れるサイプ幅の変動が、突起がない場合に比べて抑えることができるので、耐ヒールアンドトゥ摩耗性能を向上させることが可能となる。したがって、耐ヒールアンドトゥ摩耗性能を向上させると共に、路面への接地性、エッジ効果及び除水効果をバランスよく得て、アイス性能を向上させることが可能となる。
【0011】
除水能力の低減を抑制するためには、サイプ長手方向に沿った前記突起の長さは前記凹溝よりも短く、サイプ厚み方向に沿って見た場合に、一方のサイプ壁面にある前記突起と他方のサイプ壁面にある前記突起とが重ならないように、両突起のサイプ長手方向の位置が異ならせてあることが好ましい。
【0012】
アイス性能及び耐ヒールアンドトゥ摩耗性能を向上させるためには、前記複数の突起は、サイプ深さ方向に沿って浅い側から深い側に進むにつれてサイプ長手方向の位置が交互に異なるように、ジグザグ(千鳥状)に配置されていることが好ましい。
【0013】
除水能力の低減を抑制するためには、サイプ長手方向に沿った前記突起の長さは前記凹溝と同じであり、前記突起は、前記凹溝から相手側のサイプ壁面側に突出しないように、前記凹溝の深さよりも小さい突出量に設定されていることが好ましい。
【0014】
突起によるブロック剛性の向上と吸水性の両立とを実現するためには、前記サイプの深さ方向において深い側にある前記突起は、浅い側にある前記突起よりも突出量が少なくなるように形成されていることが好ましい。
【0015】
アイス性能及び耐ヒールアンドトゥ摩耗性能を向上させるためには、前記凹溝が、前記サイプの長手方向に傾斜しつつ前記サイプの深さ方向に延びることが好ましい。
【0016】
アイス性能を向上させるためには、前記凹溝が、前記サイプの長手方向に向かって屈曲したV字状に形成されていることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態の空気入りタイヤについて、図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る空気入りタイヤの踏面の一例を示す展開図である。この空気入りタイヤは、複数のブロック1(陸部の一例)を有するトレッドパターンを備える。ブロック1は、タイヤ周方向に延びた主溝3aとそれに交差して延びた横溝3bとにより区分され、タイヤ周方向に延びたリブ2を挟んで4列のブロック1が配列されている。
【0019】
各ブロック1には、直線状の開口部を有する複数本のサイプ10が、所定間隔で平行に設けられている。本実施形態では、サイプ10がタイヤ幅方向に平行して延在する例を示すが、本発明はこれに限られない。サイプ10は、ブロック1の側壁にて開口したオープンサイプであるが、その両端がブロック1の内部で終端していても構わない。但し、本発明によればブロック1の過度の倒れ込みを抑制し得ることから、サイプがオープンサイプであってブロック1が比較的倒れ込み易い場合には、本発明が特に有用となる。本実施形態では、踏面におけるサイプ10の形状が直線状であるが、曲線状であってもよい。
【0020】
図2は、サイプ10を長手方向に沿って分割したときの縦断面斜視図である。
図3Aは、サイプ10のサイプ壁面を示す図である。
図3Bは、
図3AにおけるA1−A1部位の横断面図である。
図3Cは、
図3AにおけるA2−A2部位の縦断面図である。
図2及び3A〜Cに示すように、サイプ10は、踏面よりもサイプ幅を大きくした幅広領域10Aを踏面から距離d1を置いた位置に有する。幅広領域10Aは、サイプ10の深さ方向Mに延びる凹溝4を、サイプ10の長手方向Nに沿ってサイプ壁面10a,10bの両側に交互に設けて構成されている。幅広領域10Aにおけるサイプ幅は、踏面でのサイプ幅Wに凹溝4の深さtを加えたものになる。
【0021】
幅広領域10Aは、
図3Aにて破線で囲ったような矩形をなしており、サイプ10の長手方向Nの両端から距離d2を置いて設けられている。サイプ壁面10a,10bの各々では、複数の凹溝4が長手方向Nに間隔を置いて設けられ、サイプ幅が大となる部分が長手方向Nに沿って断続的に配置される。このため、サイプ10による除水効果を確保しながら、ブロック1の過度の倒れ込みを抑制し、エッジ効果や粘着摩擦効果を確保してアイス性能を高めることができる。
【0022】
本実施形態では、
図3Bに示すように、サイプ壁面10aの凹溝4とサイプ壁面10bの凹溝4とが、長手方向Nの位置を一部重複させて互いに逆向きに凹んでいる。これにより、長手方向Nに沿った凹溝4の連続性が確保され、幅広領域10Aの全体においてサイプ幅が大となる部分が連続して形成されるため、サイプ10による除水効果を効率的に高められる。なお、本発明では、各サイプ壁面10a,10bに設けられた凹溝4同士が、長手方向Nに重複していなくても構わない。
【0023】
図2及び
図3A〜Cに示すように、各々の凹溝4は、凹溝4の溝底4aから相手側のサイプ壁面に向けて突出する突起8を有する。突起8は、サイプ10の深さ方向Mに間隔をあけて複数配列されている。本実施形態では、1つの凹溝4に3つの突起8が設けられているが、2つ以上であれば、これに限定されない。例えば2つでもよく、4つでもよい。突起8は、踏面におけるサイプ幅Wの中心線Ceを超えない突出量p1に設定されている。突起8が前記中心線Ceを超えてしまうと、著しく吸水性が損なわれ、その結果、アイス性能が悪化してしまうからである。本実施形態では、
図3Cに示すように、一つの凹溝4内において、全ての突起8の突出量は同じ値に設定してある。
【0024】
本実施形態では、
図3Bに示すように、サイプ長手方向Nに沿った突起8の長さe2は、凹溝4の長さe1よりも短い。
図3Aに示すように、突起8は、同じ凹溝4に設けられる他の突起8とサイプ長手方向Nの位置が一致するように配置されている。
図3Bに示すように、一方のサイプ壁面10aにある突起8と他方のサイプ壁面10bにある突起8とが、サイプ厚み方向Lに沿って見た場合に重ならないように、両突起8のサイプ長手方向Nの位置が異ならせてある。すなわち、両突起8のサイプ長手方向Nの位置が交互に異なるジグザグ(千鳥状)に配置されている。このように突起を配置すれば、サイプ10が閉じる変形をしたとしても、突起8同士が接触することを防止することができる。
【0025】
なお、実施形態では、
図3Aに示すように、サイプ厚み方向Lに沿って見た場合に、突起8が矩形状に形成されているが、形状はこれに限定されない。例えば、三角形などの多角形、円形、楕円形でもよい。
【0026】
図4に示すサイプ10の変形例では、複数の突起8は、サイプ深さ方向Mに沿って浅い側から深い側に進むにつれてサイプ長手方向Nの位置が交互に異なるように、ジグザグ(千鳥状)に配置されている。このように配置すれば、
図3Aに示すように複数の突起8をサイプ長手方向Nの位置が同じとなるように配置した場合に比べて、ブロック剛性が向上する部位をサイプ長手方向Nに分散させることができる。
【0027】
図5に示すサイプ10の変形例では、サイプ10の深さ方向Mにおいて深い側にある突起8は、浅い側にある突起8よりも突出量が小さくなるように形成されている。突起8の配列については、
図3Aに示すように各突起8が深さ方向Mに直列に並ぶ配置でもよいし、
図4に示すように各突起8が深さ方向Mに沿ってジグザグ(千鳥状)になるように配置してもよい。
【0028】
図6Aは、サイプ10の変形例であり、サイプ10のサイプ壁面を示す図である。
図6Bは、
図6AにおけるA3−A3部位の横断面図である。
図6Cは、
図6AにおけるA4−A4部位の縦断面図である。
図6A〜Cに示すサイプ10の変形例では、サイプ長手方向Nに沿った突起9の長さe2は、凹溝4の長さe1と同じである。突起9は、凹溝4の溝底4aから突出し且つサイプ長手方向Nに延びるリブ状に形成されている。突起9は、凹溝4から相手側のサイプ壁面側へ突出しないように、凹溝4の深さtよりも小さい突出量p2に設定されている。勿論、突起9は、凹溝4から突出しないのであれば、サイプ深さ方向Mにおいて深い側にある突起が、浅い側にある突起よりも突出量が小さくなるように形成してもよい。
【0029】
なお、上記
図3C、
図5及び
図6Cに示すように、一方のサイプ壁面10aの突起8,9と他方のサイプ壁面10bの突起8,9とは、サイプ深さ方向Mの位置が一致しているが、
図7に示すように、両突起8,9のサイプ深さ方向Mの位置を異ならせてもよい。
【0030】
また、摩耗が進行して踏面に幅広領域10Aが現れる段階では、凹溝4の溝壁からなるエッジ成分が付加されるため、アイス性能を更に向上することができる。しかも、幅広領域10Aでは、凹溝4が長手方向Nに沿ってサイプ壁面10a,10bの両側に交互に設けられていることから、摩耗が進行する過程で、踏面に現れるサイプ幅が唐突に変化することがなく、耐トゥアンドヒール摩耗性能を良好に確保することができる。さらに、凹溝4には、突起8,9が形成されているので、凹溝4だけの場合に比べて、踏面に現れるサイプ幅の唐突な変化を更に抑制できる。
【0031】
摩耗初期には、幅広領域10Aが踏面に現れないため、サイプ10の開口部が狭小化したときにおいても幅広領域10Aは閉じ難くなっている。距離d1は、例えば踏面から1〜3.5mmに設定され、サイプ深さDは、サイプ10による十分なエッジ効果を発現するべく、主溝3aの深さの30〜80%に設定される。幅広領域10Aの高さhは、上述したアイス性能の改善効果を確保する上で、サイプ深さDの50〜95%を占めることが好ましい。
【0032】
幅広領域10Aは、踏面からサイプ深さDの50%、更には60%を超えて延在することが好ましい。幅広領域10Aはサイプ10の底部に到達するものでも構わないが、本実施形態のようにサイプ10の底部に到達しない場合には、サイプ底部に凹溝4が設定されないことから、応力の集中し易い部分がサイプ底部に形成されず、クラックの発生を抑制することができる。
【0033】
このサイプ10では、幅広領域10Aがサイプ10の長手方向Nの両端から離れているため、サイプ10の両端部での剛性を確保してブロック1の過度の倒れ込みをより確実に抑制できる。このため、サイプ10のエッジ効果やブロック表面の粘着摩擦効果を向上して、優れたアイス性能を発揮することができる。距離d2は、例えばブロック縁より1.5〜6mmに設定される。
【0034】
本実施形態では、サイプ壁面10aの凹溝4とサイプ壁面10bの凹溝4とが、長手方向Nの位置を一部重複させて互いに逆向きに凹んでいる。これにより、長手方向Nに沿った凹溝4の連続性が確保され、幅広領域10Aの全体においてサイプ幅が大となる部分が連続して形成されるため、サイプ10による除水効果を効率的に高められる。なお、本発明では、各サイプ壁面10a,10bに設けられた凹溝4同士が、長手方向Nに重複していなくても構わない。
【0035】
凹溝4の厚みtは、サイプ幅Wの75〜150%であることが好ましい。これが75%以上であることで、サイプ10による除水効果を高めつつ、凹溝4の溝壁からなるエッジ成分を確保して、アイス性能を良好に向上できる。また、150%以下であることで、ブロック1の剛性が過度に低下することを防止できる。サイプ幅Wは、サイプ10による十分なエッジ効果を発現するうえで、0.2〜0.6mmが好ましい。
【0036】
図8に示したサイプ10の変形例では、凹溝5が長手方向Nに傾斜しつつサイプ10の深さ方向に延びている。かかる構成によれば、ブロック1が倒れ込んだときに、互いに対向するサイプ壁面10a,10bの間で、凹溝5間に介在する凸条6同士が深さ方向に当接し得ることから、ブロック1の過度の倒れ込みを強固に抑制して、アイス性能を良好に高めることができる。また、摩耗が進行するに伴って踏面に現れる凹溝5の位置が変化するため、サイプ10の開口部にて力の作用する箇所が偏らず、トゥアンドヒール摩耗の発生を好適に抑えられる。
【0037】
図9に示したサイプ10の変形例では、凹溝7が長手方向Nに向かって屈曲したV字状に形成されている。かかる構成では、凹溝が一方向にのみ傾斜する場合に比べてサイプ10の深さ方向の剛性が向上し、ブロック1の動きが一方向に偏らない。そのため、ブロック1の過度の倒れ込みをより強固に抑制して、アイス性能を高めることができる。また、このようなV字を深さ方向に連接して、凹溝7をジグザグ状に形成しても構わない。
【0038】
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤは、踏面にサイプ10を形成した空気入りタイヤにおいて、サイプ10は、踏面よりもサイプ幅Wを大きくした幅広領域10Aを踏面から距離d1を置いた位置に有し、幅広領域10Aは、サイプ10の深さ方向Mに延びる凹溝(4,5,7)をサイプ10の長手方向Nに沿ってサイプ壁面(10a,10b)の両側に交互に設けて構成されており、各々の凹溝(4,5,7)は、凹溝の溝底4aから相手側のサイプ壁面に向けて突出する突起(8,9)を有し、突起(8,9)は、サイプ10の深さ方向Mに複数配列されており、突起(8,9)は、踏面におけるサイプ幅Wの中心線Ceを超えない突出量(p1,p2)に設定されている。
【0039】
このように、ブロックの倒れ込みを招来する凹溝(4,5,7)に突起(8,9)が形成されるので、ブロック剛性を高めて過度な倒れ込みを抑制して、エッジ効果を高め、アイス性能を向上させることが可能となる。さらに、突起(8,9)の突出量は、踏面におけるサイプ幅の中心を超えない突出量(p1,p2)であるので、吸水性(除水性能)の低下を抑制でき、アイス性能を向上できる。それでいて、凹溝(4,5,7)に突起(8,9)を形成することで、路面に現れるサイプ幅の変動が、突起(8,9)がない場合に比べて抑えることができるので、耐ヒールアンドトゥ摩耗性能を向上させることが可能となる。したがって、耐ヒールアンドトゥ摩耗性能を向上させると共に、路面への接地性、エッジ効果及び除水効果をバランスよく得て、アイス性能を向上させることが可能となる。
【0040】
本実施形態では、サイプ長手方向Nに沿った突起8の長さe2は凹溝4よりも短く、サイプ厚み方向Lに沿って見た場合に、一方のサイプ壁面10aにある突起8と他方のサイプ壁面10bにある突起8とが重ならないように、両突起8のサイプ長手方向Nの位置が異ならせてある。
【0041】
このように、凹溝4と突起8との間に空間が形成されるので、吸水性を向上させることが可能となる。また、サイプ厚み方向Lに沿って見た場合に重ならないように、突起8のサイプ長手方向Nの位置が異ならせてあるので、サイプ10が閉じる変形をしたとしても、突起8同士が接触することを防止することができ、除水能力の低減を抑制することが可能となる。
【0042】
本実施形態では、複数の突起8は、サイプ深さ方向Mに沿って浅い側から深い側に進むにつれてサイプ長手方向Nの位置が交互に異なるように、ジグザグ(千鳥状)に配置されている。
【0043】
この構成によれば、複数の突起8をサイプ長手方向Nの位置が同じように配置した場合に比べて、ブロック剛性が向上する部位がサイプ長手方向Nに分散するので、アイス性能及び耐ヒールアンドトゥ摩耗性能を向上させることが可能となる。
【0044】
本実施形態では、サイプ長手方向Nに沿った突起9の長さe2は凹溝4と同じであり、突起9は、凹溝4から相手側のサイプ壁面側に突出しないように、凹溝4の深さtよりも小さい突出量p2に設定されている。
【0045】
このように、サイプ長手方向Nに沿った突起9の長さe2が凹溝4と同じであるので、突起9がリブとしてブロック剛性を高め、アイス性能を向上させることが可能となる。しかも、突起9は凹溝4の深さtよりも小さい突出量p2であり、凹溝4から相手側のサイプ壁面側に突出しないので、サイプ10が閉じる変形をしたとしても、突起9同士が接触することを防止することができ、除水能力の低減を抑制することが可能となる。
【0046】
本実施形態では、サイプ10の深さ方向Mにおいて深い側にある突起(8,9)は、浅い側にある突起(8,9)よりも突出量が少なくなるように形成されている。
【0047】
サイプの浅い領域は深い領域に比べて動きやすく、突起が大きくても吸水性の低下しろが小さい。一方、サイプの深い領域は浅い領域に比べて動きにくいので、突起が大きければ吸水性の低下しろが大きい。そこで、上記構成のようにサイプの深さ位置に応じて突起(8,9)の突出量を変えれば、サイプ10の動きに合致する形で、突起(8,9)によるブロック剛性の向上と吸水性の両立とを実現するうえで好ましい。
【0048】
本実施形態では、凹溝5が、サイプ10の長手方向Nに傾斜しつつサイプ10の深さ方向Mに延びる。この構成によれば、陸部が倒れ込んだときに、互いに対向するサイプ壁面の間で、凹溝間に介在する凸条同士が深さ方向に当接し得ることから、陸部の過度の倒れ込みを強固に抑制して、アイス性能を良好に高めることができる。また、摩耗が進行するに伴って踏面に現れる凹溝の位置が変化するため、サイプの開口部にて力の作用する箇所が偏らず、トゥアンドヒール摩耗の発生を好適に抑えられる。
【0049】
本実施形態では、凹溝7が、サイプ10の長手方向Nに向かって屈曲したV字状に形成されている。この構成によれば、凹溝が一方向にのみ傾斜する場合に比べてサイプの深さ方向の剛性が向上し、陸部の動きが一方向に偏らないため、陸部の過度の倒れ込みをより強固に抑制して、アイス性能を更に高めることができる。
【実施例】
【0050】
本発明の構成と効果を具体的に示すために、下記実施例について下記の評価を行った。
【0051】
(1)アイス旋回性能(アイス性能の一例)
タイヤを実車(1500ccクラスの4WDセダン)に装着し、新品時と摩耗時(幅広領域が踏面に出現する状態)の各々において、アイス路面上で速度20km/hから旋回走行(Jターン走行)を行ったときの横力値を調べた。比較例1を100として指数評価し、数値が大きいほど横力値が大きく、アイス旋回性能に優れていることを示す。
【0052】
(2)耐トゥアンドヒール摩耗性能
タイヤを実車(1500ccクラスの4WDセダン)に装着し、一般路を12000km走行した後のトゥアンドヒール摩耗量(サイプに関してタイヤ回転方向の前方側と後方側とでの摩耗量の差)を調べた。数値が小さいほどトゥアンドヒール摩耗量が小さく、耐トゥアンドヒール摩耗性能に優れていることを示す。
【0053】
比較例1,2
図10に示した幅広領域10A(凹溝4)を有するが、凹溝4に突起が形成されていないタイヤを比較例1とした。
図2及び
図3A〜Cに示した凹溝4に突起8が形成され、その突起8が、踏面におけるサイプ幅Wの中心線Ceを超えるタイヤを比較例2とした。タイヤサイズは195/65R15とし、主溝の深さを8.7mm、サイプの深さを6.3mm、踏面でのサイプの厚みを0.3mm、幅広部でのサイプの厚みを0.9mm(幅広部1つ当たりの厚みは0.3mm)とした。
【0054】
実施例1
図2及び
図3A〜Cに示すサイプ形状にした。突起8は、踏面におけるサイプ幅Wの中心線Ceを超えない突出量p1にしている。突起8は、サイプ深さ方向Mに沿って一列に並んでいる。
【0055】
実施例2
図5に示すサイプ形状にした。浅い側から深い側に向かうにつれて突起8の突出量が減少するようにした。それ以外は、実施例1と同じである。
【0056】
実施例3
図4に示すサイプ形状にした。突起8のサイプ長手方向Nの位置を交互にズラした千鳥状にした。それ以外は、実施例2と同じとした。
【0057】
実施例4
図6A〜Cに示すサイプ形状にした。サイプ長手方向Nにおいて、突起9と凹溝4の長さe2を一致させた。それ以外は、実施例1と同じとした。
【0058】
【表1】
【0059】
表1を参照すれば、比較例1よりも実施例1〜4が、氷上旋回性能及び摩耗性能が向上していることが分かる。したがって、凹溝(4,7,5)に突起8,9を形成することが有用であることが分かる。一方、氷上性能について、比較例2が比較例1よりも悪化している。これは、突起8,9がサイプの中心線Ceを超えると、吸水性が著しく悪化し、それに伴い氷上性能が悪化したと考えられる。実施例1よりも実施例2の方が氷上性能が向上しているのは、突起8の突出量をサイプ深さに応じて変化させたことが影響していると考えられる。実施例2よりも実施例3が、氷上性能及び摩耗性能が向上していることから、突起の配置位置を千鳥状にすることが効果的であると分かる。実施例4については、比較例1よりも両性能が向上していることから、有用であることが分かる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0061】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。