特許第6198635号(P6198635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6198635焼却灰のセメント原料化方法及び原料化装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6198635
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】焼却灰のセメント原料化方法及び原料化装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/38 20060101AFI20170911BHJP
   C04B 7/60 20060101ALI20170911BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   C04B7/38ZAB
   C04B7/60
   B09B3/00 304G
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-36639(P2014-36639)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-160773(P2015-160773A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】新島 瞬
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 慶展
(72)【発明者】
【氏名】佐野 雄哉
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−279370(JP,A)
【文献】 特開2009−061365(JP,A)
【文献】 特開2004−082100(JP,A)
【文献】 特開2004−267908(JP,A)
【文献】 特開2013−166135(JP,A)
【文献】 特開2013−176740(JP,A)
【文献】 特開平11−319769(JP,A)
【文献】 特開2014−193456(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第02453583(GB,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02703370(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 − 32/02
B03B 5/00
B03B 9/06
B09B 3/00
B09B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却灰に酸性ガスを通気し、
該酸性ガスを通気した焼却灰に水を添加してスラリー化し、
該スラリーに酸性ガス又は酸を添加し、
該酸性ガス又は酸を添加した後のスラリーを固液分離し、
該固液分離によって得られたケーキをセメント原料として利用することを特徴とする焼却灰のセメント原料化方法。
【請求項2】
前記焼却灰に通気する酸性ガス又は/及び前記スラリーに添加する酸性ガスとして、セメントキルンの排ガス又は/及び塩素バイパス設備の排ガスを利用することを特徴とする請求項1に記載の焼却灰のセメント原料化方法。
【請求項3】
前記酸性ガスを通気した焼却灰1重量部に対して0.5重量部以上10.0重量部以下の量の水を用いてスラリー化することを特徴とする請求項1又は2に記載の焼却灰のセメント原料化方法。
【請求項4】
前記酸性ガス又は酸を添加したスラリーのpHを4以上12以下に調整することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の焼却灰のセメント原料化方法。
【請求項5】
前記酸性ガス又は酸を添加した後のスラリーを分級し、
該分級によって得られた粗粒子を含むスラリー及び微粒子を含むスラリーを各々固液分離し、
該固液分離によって得られた各々のケーキをセメント原料として利用することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の焼却灰のセメント原料化方法。
【請求項6】
焼却灰に酸性ガスを通気する乾式反応槽と、
該乾式反応槽で酸性ガスを通気した焼却灰に水を添加してスラリー化し、該スラリーに酸性ガス又は酸を添加する湿式反応槽と、
該湿式反応槽から排出されたスラリーを固液分離する固液分離装置とを備えることを特徴とする焼却灰のセメント原料化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、都市ごみ等を焼却した際に発生する焼却灰をセメント原料として資源化する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみ等を焼却した際に発生する焼却灰(主灰、飛灰、混合灰等、以下「焼却灰」という。)は、従来、そのほとんどが最終処分場で埋め立て処理されていたが、最終処分場の枯渇の虞に鑑み、近年、セメント原料として有効利用されている。
【0003】
しかし、焼却灰には塩素が含まれ、この塩素がセメント品質の低下や、セメント製造装置の安定運転を妨げるため、セメント原料として利用するには予め塩素を除去する必要がある。尚、塩素濃度や塩素の存在形態は焼却灰によって異なる。
【0004】
そこで、焼却灰に水を加えて焼却灰を破砕しながら撹拌して焼却灰スラリーとする解砕工程と、その焼却灰スラリーを選別用篩いに通して過大固形物を除去する脱水・すすぎ工程を有する洗浄方法(特許文献1参照)や、受け入れた焼却灰全量を粉砕し、酸を用いてフリーデル氏塩を分解・洗浄する方法(特許文献2参照)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−166170号公報
【特許文献2】特開1999−319769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のようなセメント原料化方法では、焼却灰中にフリーデル氏塩のような難溶性塩が多量に含まれている場合には、洗浄による脱塩効果が低下するという問題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載のように、焼却灰の全量を粉砕した後、酸で処理するには、粉砕設備等の規模が大型化すると共に、エネルギーコストが高騰するという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記従来の技術における問題点に鑑みてなされたものであって、設備コスト及び運転コストを低く抑えながら効率よく焼却灰をセメント原料化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、焼却灰のセメント原料化方法であって、焼却灰に酸性ガスを通気し、該酸性ガスを通気した焼却灰に水を添加してスラリー化し、該スラリーに酸性ガス又は酸を添加し、該酸性ガス又は酸を添加した後のスラリーを固液分離し、該固液分離によって得られたケーキをセメント原料として利用することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るセメント原料化方法によれば、焼却灰を水洗する前に、焼却灰に酸性ガスを通気することで焼却灰に含まれる難溶性塩を分解(可溶化)するため、焼却灰中に難溶性塩が多量に含まれている場合でも効率よく脱塩することができる。また、受け入れた焼却灰の全量を粉砕したり、解砕や表面研削を行わないため、微粒子が増加せず、水洗水量を少なく抑えることができ、水洗比や重金属類の処理のための薬剤の量も低減することができ、設備コストや運転コストを低く抑えながら効率よく焼却灰をセメント原料化することができる。
【0011】
上記セメント原料化方法において、前記焼却灰に通気する酸性ガス又は/及び前記スラリーに添加する酸性ガスとして、セメントキルンの排ガス又は/及び塩素バイパス設備の排ガスを利用することができ、セメント焼成工程からの排ガスを有効利用することができる。これに加え、セメントキルンの排ガスからCOを、塩素バイパス排ガスからSOを除去することができる。
【0012】
また、前記酸性ガスを通気した焼却灰1重量部に対して0.5重量部以上10.0重量部以下の量の水を用いてスラリー化することができる。
【0013】
また、前記酸性ガス又は酸を添加したスラリーのpHを4以上12以下に調整することで、後段の排水工程を簡略化することができる。
【0014】
さらに、前記酸性ガス又は酸を添加した後のスラリーを分級し、該分級によって得られた粗粒子を含むスラリー及び微粒子を含むスラリーを各々固液分離し、該固液分離によって得られた各々のケーキをセメント原料として利用することができる。これによって、酸性ガス又は酸を添加した後のスラリーを固液分離するにあたり、装置等を小型化することができる。
【0015】
さらにまた、本発明は、焼却灰のセメント原料化装置であって、焼却灰に酸性ガスを通気する乾式反応槽と、該乾式反応槽で酸性ガスを通気した焼却灰に水を添加してスラリー化し、該スラリーに酸性ガス又は酸を添加する湿式反応槽と、該湿式反応槽から排出されたスラリーを固液分離する固液分離装置とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、上記発明と同様に、焼却灰中に難溶性塩が多量に含まれている場合でも効率よく脱塩することができ、水洗水量を少なく抑えることで、設備コストや運転コストを低く抑えながら効率よく焼却灰をセメント原料化することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、設備コスト及び運転コストを低く抑えながら焼却灰をセメント原料化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明にかかるセメント原料化装置の一実施の形態を示す全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係るセメント原料化装置の一実施の形態について、図1を参照しながら説明する。尚、図1において、実線の矢線は固体(スラリーを含む)の流れを、一点鎖線の矢線は液体の流れを、破線の矢線は気体の流れを各々示している。尚、以下の説明では、主灰を処理する場合を例にとって説明する。
【0020】
図1に示すように、このセメント原料化装置1は、受け入れた主灰A1に酸性ガスG1を通気するための乾式反応槽2と、乾式反応槽2から排出された主灰A2をスラリー化して酸性ガスG2と反応させる湿式反応槽3と、湿式反応槽3から排出されたスラリーS1を粗粒子を含むスラリー(以下「粗粒子スラリー」という。)S2と、微粒子を含むスラリー(以下「微粒子スラリー」という。)S3とに分級する湿式分級装置4と、湿式分級装置4で分級された粗粒子スラリーS2を脱水する第1固液分離装置5と、微粒子スラリーS3を脱水する第2固液分離装置6等で構成され、第1固液分離装置5及び第2固液分離装置6からのケーキC1、C2をセメントキルン7でセメント原料として利用する。
【0021】
乾式反応槽2は、カラム又はサイロ等であって、主灰A1を受け入れて酸性ガスG1を通気するために設けられる。酸性ガスG1としては、COを多く含むセメントキルンの排ガスや、SOを多く含む塩素バイパス設備の排ガスを利用することができる。
【0022】
湿式反応槽3は、バッチ式や連続式の曝気槽等であって、主灰A2に第1固液分離装置5及び第2固液分離装置6からのろ液F1及び/又はF2及び/又は洗浄後の洗浄水W3、W4等を添加してスラリー化した後、酸性ガスG2と反応させるために設けられる。尚、この湿式反応槽3にCOを多く含むセメントキルンの排ガスやSOを多く含む塩素バイパス設備の排ガスを導入し、湿式反応槽3から排出された酸性ガスを乾式反応槽2に供給したり、乾式反応槽2及び湿式反応槽3の各々にセメントキルン等の排ガスを供給してもよい。さらに、乾式反応槽2や湿式反応槽3に供給したセメントキルン排ガス等を乾式反応槽2や湿式反応槽3において循環させることで、酸性ガスと主灰A1や湿式反応槽3内のスラリーとの反応効率が上昇するため好ましい。
【0023】
湿式分級装置4は、振動篩又はトロンメル等であって、湿式反応槽3からのスラリーS1を粗粒子スラリーS2と、微粒子スラリーS3とに分級するために設けられる。
【0024】
第1固液分離装置5及び第2固液分離装置6は、フィルタープレス、ベルトフィルター、通風乾燥機等であって、湿式分級装置4から排出された粗粒子スラリーS2、微粒子スラリーS3の各々にケーキ洗浄水(新規水)W1、W2を添加し、洗浄しながら固液分離するために備えられ、粗粒子スラリーS2をケーキC1とろ液F1とに分離し、微粒子スラリーS3をケーキC2とろ液F2とに分離する。
【0025】
次に、上記構成を有するセメント原料化装置1の動作について、図面を参照しながら説明する。
【0026】
金属、ガラ等を除去した後の主灰A1を乾式反応槽2に供給し、主灰A1に酸性ガスG1を通気し、主灰A1に含まれる難溶性のフリーデル氏塩を分解(可溶化)する。乾式反応槽2から排出された排ガスの一部G2は湿式反応槽3に送られ、その他の排ガスG3は排気処理される。
【0027】
尚、フリーデル氏塩とは、化学式で表すと、3CaO・Al・CaCl・10HOであり、下記のように、アルミン酸三石灰(3CaO・Al)が水和反応の際に塩化物イオンを取り込んで生成される塩である。
3CaO・Al+CaCl+10HO→3CaO・Al・CaCl・10H
【0028】
主灰A1に酸性ガスG1としてセメントキルンの排ガスを吹き込むと、下式に示すように、フリーデル氏塩を分解することができる。
3CaO・Al・CaCl・10HO+3CO→3CaCO+2Al(OH)+CaCl+7H
【0029】
また、主灰A1に酸性ガスG1として塩素バイパス設備の排ガスを吹き込むと、下式に示すように、フリーデル氏塩を分解することができる。
3CaO・Al・CaCl・10HO+XSO2−→3CaO・Al・3CaSO・32HO+YCl
【0030】
次に、湿式反応槽3において、乾式反応槽2からの主灰(A2)1重量部に対して0.5重量部〜10.0重量部の量の水(第1固液分離装置5からのろ液F1、第2固液分離装置6からのろ液F2、洗浄後の洗浄水W3、W4等)を添加してスラリー化した後、スラリーを酸性ガスG2と反応させ、スラリーに残留するフリーデル氏塩を分解する。ここで、スラリーのpHを4〜12、好ましくはpHを5〜10、より好ましくはpHを6〜8に調整する。スラリーのpHを中性域に調整することで後段の排水工程を簡略化することができる。湿式反応槽3の排ガスG4は排気処理される。フリーデル氏塩の分解は、上述の主灰A1に酸性ガスG1を通気した場合と同様に行われる。
【0031】
次に、湿式反応槽3から排出されたスラリーS1を湿式分級装置4に供給し、粗粒子スラリーS2と、微粒子スラリーS3とに分ける。粗粒子スラリーS2は、第1固液分離装置5へ導入され、ケーキ洗浄水(新規水)W1によって洗浄された後、又は洗浄されながら脱水される。固液分離後のケーキC1は、セメント原料としてセメントキルン7に投入する。ろ液F1は排水処理後放流する。この際、ろ液F1は一部を湿式反応槽3に戻して再使用することができる。この際、ろ液F1の循環量はろ液F1の電気伝導度を測定してろ液F1の循環量を管理しながらろ液F1の循環量を決定することが望ましい。洗浄後の洗浄水W3は、湿式反応槽3で利用される。
【0032】
一方、微粒子スラリーS3は、第2固液分離装置6へ導入され、ケーキ洗浄水(新規水)W2によって洗浄された後、又は洗浄されながら脱水される。固液分離後のケーキC2は、セメント原料としてセメントキルン7に投入する。ろ液F2は排水処理後放流する。この際、ろ液F2は一部を湿式反応槽3に戻して再使用することができる。この際、ろ液F2の循環量はろ液F2の電気伝導度を測定してろ液F2の循環量を管理しながらろ液F2の循環量を決定することが望ましい。洗浄後の洗浄水W4は、湿式反応槽3で利用される。
【0033】
尚、上記実施の形態においては、湿式分級装置4を設けて湿式反応槽3からのスラリーS1を粗粒子スラリーS2と微粒子スラリーS3とに分級することで、後段の固液分離装置5、6を小型化することができて好ましいが、必ずしも湿式分級装置4を設ける必要はなく、湿式反応槽3からのスラリーS1をそのまま1台の固液分離装置で処理することもできる。
【0034】
また、湿式反応槽3に酸性ガスG2を導入せずに、硫酸、硝酸、酢酸、ギ酸等の酸を添加してもよい。
【0035】
さらに、湿式反応槽3に酸性ガスG2や酸だけでなく、O等の酸化性ガスを導入し、CODを低下させて後段の排水処理の負荷を軽減することもできる。湿式反応槽3の槽を多段化し、酸性ガスGや酸化性ガスを別々に導入することもできる。
【0036】
また、ケーキC1、C2をセメント原料としてセメントキルン7へ投入したが、仮焼炉に投入したり、調合原料として利用することもできる。
【実施例】
【0037】
以下において本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例により制限させるものではない。
【0038】
金属、ガラ等を除去した後の主灰100gに対し、COガスを所定量通気させた後、所定量の水と混合してスラリー化した。該スラリーを所定pHになるようにCOガスを通気させた後、固液分離を行い得られたケーキを水により洗浄した。該主灰及び洗浄後の該ケーキの全塩素量をJIS A 1154に準じて測定し、脱塩素率(%)=洗浄後の該ケーキ全塩素量/該主灰全塩素量×100を算出した。これらの結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示すように、該主灰にCOガスを通気させた後、該主灰と水を混合しスラリー化させ、所定のpHで調製することにより(実施例1及び2)、該主灰にCOガスを通気せずに、所定のpHで調製した場合と比較し(比較例1及び2)、脱塩素率が向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0041】
1 セメント原料化装置
2 乾式反応槽
3 湿式反応槽
4 湿式分級装置
5 第1固液分離装置
6 第2固液分離装置
7 セメントキルン
図1