【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)酒井重工業株式会社が平成26年1月30日に「SAKAI SV513 Series / 土工用振動ローラパンフレットA4(白黒版)」を株式会社東リースに配布 (2)酒井重工業株式会社が平成26年4月2日に「SAKAI SV513 Series / 土工用振動ローラパンフレットA3(カラー版)」を株式会社東リースに配布 (3)酒井重工業株式会社が平成26年4月9日に「土工用振動ローラSV513」をウェブサイトに掲載(https://www.sakainet.co.jp/images/news/news96.pdf)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
土工用振動ローラ等の締固め車両の走行駆動系は、エンジンで油圧ポンプを駆動し、油圧ポンプから油圧モータに圧油を供給することで車輪を走行駆動させる構造のものが多い。土工用振動ローラにおけるエンジンフード内のレイアウトとしては、車両前後方向一端側からラジエータ、冷却ファン、エンジンがその順で配設されたものが挙げられる。車両が走行して冷却ファンが回転すると、車両前後方向一端側に形成された吸気口からエンジンフード内に空気が取り込まれる。取り込まれた空気はエンジンフード内においてラジエータおよびエンジン周りを風として流れてこれらを冷却し、エンジンよりも車両前後方向他端側に形成された排気口から排気される。
【0003】
締固め車両の走行に関する騒音源としては、主に、(1)エンジン自体が発する音、(2)冷却ファンの回転により生じる音、(3)油圧モータ系が発する音、の3つが挙げられる。これらの中では特に(1)と(2)の音が大きい。これらの音は、エンジンフードを透過して漏れ出たり、エンジンフード内を流れる空気に乗って前記した排気口から外部に漏れ出る。騒音対策として従来よりエンジンフードの内側に吸音材を貼着することが行われているが、吸音材による効果だけでは所定の低騒音レベルに達しない場合もある。
【0004】
エンジンフードの内部に防音壁を設ける等の方法が考えられるが、そうするとエンジンフード内での空気の流れが変わるためにエンジンの冷却機能が損なわれるという問題がある。そのため、エンジンフード内においてエンジン周りを通過する空気の流れ道を従来通り確保しつつ、エンジンフードから排気に乗って出る音の低減を図ることが求められる。エンジンフード内の音を低減する技術としてはエンジンフードの外側にダクトを設ける構造が挙げられ、その一従来例が特許文献1に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ダクトをエンジンフードに簡単に組み付け可能とし、エンジンの冷却機能を損なうことなくダクト構造による低騒音化を図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、上板部および左右一対の側板部を有するエンジンフードを備え、該エンジンフード内には車両前後方向一端側からラジエータ、冷却ファン、エンジンがその順で配設され、前記冷却ファンにより吸気口から吸気された空気が前記エンジン周りを通過し、前記エンジンよりも車両前後方向他端側の排気口から排気される締固め車両において、前記側板部に形成したダクト連通孔を通して前記エンジンフード内の空気の一部を外部に排気する排気ダクトを、前記側板部の外側に着脱自在に備え、
前記ダクト連通孔が前記エンジンよりも車両前後方向他端側に位置していることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、排気ダクトをエンジンフードに簡単に組み付け可能としてダクト構造による締固め車両の低騒音化を図ることができる。既存の締固め車両にも、大きな改造を要することなく排気ダクトを簡単に取り付けることができる。
本発明によれば、ダクト連通孔がエンジンよりも空気の流れの下流側に位置することとなるので、空気は全てエンジン周りを通過したうえでその一部が排気ダクトに入り込む。したがって、従来のエンジンの冷却機能が損なわれることがない。
【0009】
また、本発明は、前記排気ダクトの内面に吸音材が貼着されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、吸音材による吸音機能も作用するためより一層の低騒音化を図れる。
【0013】
また、本発明は、前記排気ダクトは、車両前後方向において、前記冷却ファンの配設位置の近傍に位置する一端側から前記ダクト連通孔が位置する他端側までにわたり延設され、前記排気ダクトの一端側において前記冷却ファンを音源とする音の透過損失が大きくなるように、前記排気ダクトの一端側の車幅方向ダクト幅が前記排気ダクトの他端側の車幅方向ダクト幅と異なる値に設定されていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、ダクトの通風機能と低騒音機能の両立を簡単に図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、排気ダクトをエンジンフードに簡単に組み付け可能としてダクト構造による締固め車両の低騒音化を図ることができる。既存の締固め車両にも、大きな改造を要することなく排気ダクトを簡単に取り付けることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、締固め車両を土工用振動ローラとした実施形態を説明する。
図1ないし
図3において、土工用振動ローラRは、前部車体1と後部車体2とが連結部3を介して連結したアーティキュレート式のローラである。前部車体1は平面視四角枠状を呈したフレームからなり、この前部車体1に鉄輪からなるロール4が軸支されている。ロール4の内部には、走行用油圧モータと、ロール4を振動させるための振動用油圧モータ(共に図示せず)が設けられている。後部車体2の前方寄りには、四方に透明窓を有したキャビン5に囲まれた運転席が設けられ、後方寄りにはエンジンルームを覆う開閉式のエンジンフード7が取り付けられている。エンジンルールの両側には後輪としてタイヤ8が軸支されている。各タイヤ8は図示しない走行用油圧モータにより回転する。また、後部車体2には、タイヤ8の上方に位置するように足場9が取り付けられている。作業者は足場9に乗ってラジエータ13(
図5)やエンジン15(
図5)等の点検などを行う。
【0018】
エンジンフード7は、
図6にも示すように上板部7Aと、この上板部7Aの両縁から下方に延びる左右一対の側板部7Bとを有した形状からなり、
図4に示すように前方寄りに位置した支軸10を中心に回動開閉可能となっている。なお、図示されていない、いわゆるボンネットダンパーが、エンジンフード7と後部車体2との間に掛け渡されており、オペレータによるエンジンフード7の開閉作業が楽になるように補助している。運転席からの後方下部の視界を良好に確保するため、エンジンフード7が閉じた状態において、上板部7Aは後方に向かうにしたがい下方に傾斜するように形成されている。上板部7Aには、エンジン15(
図5)の吸気系に外気を供給するための空気取り込み口11と、エンジン15の排気系に接続した消音器(図示せず)に連結される排気管12と、が取り付けられている。これらはエンジン15の燃焼空気に関する吸排気口であり、エンジン15を冷却するために形成される後記の吸気口17A〜17C、排気口18A,18Bとは機能が異なる。
【0019】
図5に示すように、エンジンフード7内には前方寄り(車両前後方向一端側)から順にラジエータ13、冷却ファン14、エンジン15が配設されている。エンジン15は上方にピストンを内蔵するシリンダブロックが、下方にクランクシャフトを内蔵するクランクケースが位置するように載置される。エンジン15の後方には、エンジン15の出力軸に連結した走行用油圧ポンプ16が配設されている。この走行用油圧ポンプ16から各走行用油圧モータに圧油が供給されることによりロール4および左右のタイヤ8が走行回転する。
【0020】
後部車体2には、ラジエータ13の左右に位置する吸気口17Aと上方に位置する吸気口17Bとが形成されている。また、エンジンフード7の上板部7Aにも、ラジエータ13の上方に位置するように吸気口17Cが形成されている。一方、後部車体2の後端には排気口18Aが形成されており、エンジンフード7の上板部7Aの後方寄りにも排気口18Bが形成されている。異物混入防止用として吸気口17A〜17Cと排気口18Aとは網目状のパンチングメタルとして構成されている。また、排気口18Bはルーバー構造となっている。
【0021】
以上により、冷却ファン14が回転すると、吸気口17A〜17Cから吸気された空気は、ラジエータ13を冷却するとともに、
図5に符号P1にて示すようにエンジン15の横や上方を流れることでエンジン15を冷却し、符号P2,P3にて示すように排気口18A,18Bから排気される。このとき、排気口18A,18Bから排気される空気に乗って、冷却ファン14やエンジン15等を主な騒音源とする大きな音が外部に漏れ出る。
【0022】
「排気ダクト21」
排気ダクト21は、冷却ファン14やエンジン15等の騒音源に対する低騒音化のために設けられる。エンジンフード7の側板部7Bにはダクト連通孔22が開口形成されており、排気ダクト21は、このダクト連通孔22を通してエンジンフード7内の空気の一部を外部に排気する。
【0023】
ダクト連通孔22は、
図6にも示すように、たとえば側板部7Bの後方寄りに穿設された複数(本実施形態では10個)の長孔から構成される。このダクト連通孔22は、
図5に示すように、エンジン15よりも後方寄り(車両前後方向他端側)に位置している。
【0024】
排気ダクト21は、エンジンフード7の側板部7Bの外側にボルト23(
図7)の締結により着脱自在に取り付けられる箱形状部材からなる。
図4、
図6において、排気ダクト21は、概ね、上方に向くダクト上板部21Aと、前方に向くダクト前板部21Bと、後方に向くダクト後板部21Cと、下方に向くダクト底板部21Dと、側板部7Bと距離を空けて平行に対向するダクト側板部21Eと、を有して、エンジンフード7の傾斜に沿ってつまり後方に向かうにしたがい下方に傾斜するように形成された略車両前後方向に長手の箱形状を呈している。そして、排気ダクト21は、車両前後方向において、冷却ファン14の配設位置の近傍に位置する前端(一端)側からダクト連通孔22が位置する後端(他端)側までにわたり延設されている。
図6から判るように、排気ダクト21における側板部7Bに取り付けられる面側は開口形成されている。
【0025】
図6に示すように、ダクト上板部21A、ダクト前板部21B、ダクト後板部21Cおよびダクト底板部21Dの各縁部はダクト内側寄りに折り曲げ加工されたフランジ部24として形成されている。フランジ部24には適宜間隔を空けてボルト通し孔25が複数穿設されているとともに、フランジ部24のダクト内に臨む面側には
図7に示すようにボルト通し孔25に対応してナット26が溶接されている。エンジンフード7の側板部7Bにもボルト通し孔27が穿設されている。以上により、エンジンフード7の内側からボルト23をボルト通し孔27,25に通してナット26に螺合させることで、排気ダクト21がエンジンフード7の側板部7に着脱自在に取り付けられる。本実施形態のようにボルト23をエンジンフード7の内側から通すようにし、かつナット26をダクト内部にレイアウトさせたことで、ボルト23やナット26が外部に露出することがなくなる。したがって、エンジンフード7と排気ダクト21との一体感が強調され、排気ダクト21周りの美観が向上する。
【0026】
図4において、ダクト上板部21Aとダクト前板部21Bとダクト後板部21Cとは、側板部7Bを角錐台底面、ダクト側板部21Eを角錐台上面とみなしたときの錐面を構成するように傾斜状に形成されている。つまり、排気ダクト21は、側板部7Bから車幅方向外側に向かうに断面形状が縮小するように形成されている。ただしダクト底板部21Dは傾斜することなく車幅方向に沿って延設されている。ダクト底板部21Dは、ダクト後板部21Cの下端から前方に水平状に延設される第1底板部21Daと、第1底板部21Daの前端から前方かつ上方に傾斜状に延設される第2底板部21Dbと、第2底板部21Dbの前端からエンジンフード7の上板部7Aと略平行に延設される第3底板部21Dcと、から構成されている。したがって、ダクト上板部21Aとダクト底板部21Dとの間隔は、後方寄りの方が前方寄りよりも大きい。第1底板部21Daの略全面と、第2底板部21Dbの略全面と、第3底板部21Dcの後方寄りの面とには、ダクト排気口28が開口形成されている。タイヤ8が跳ね上げた異物の混入防止用等としてダクト排気口28は
図6に示すように網目状のパンチングメタルとして構成されている。このダクト排気口28の通風面積はダクト連通孔22の通風面積と略同じである。
【0027】
また、本実施形態のダクト側板部21Eは、後端寄りの第1ダクト側板部21Eaと前端寄りの第2ダクト側板部21Ebとを備えて構成される。第1ダクト側板部21Eaと第2ダクト側板部21Ebとは、エンジンフード7の側板部7Bからの距離が互いに異なる。つまり、
図4に示すように、排気ダクト21の前端(一端)側の車幅方向ダクト幅(第2ダクト側板部21Ebと側板部7Bとの距離)W2は、排気ダクト21の後端(他端)側の車幅方向ダクト幅(第1ダクト側板部21Eaと側板部7Bとの距離)W1と異なる値に設定されている。本実施形態では、後端側の車幅方向ダクト幅W1が約200mmに設定され、前端側の車幅方向ダクト幅W2が約100mmに設定されている。第1ダクト側板部21Eaと第2ダクト側板部21Ebとの間には傾斜板部21Ecが形成されている。車幅方向ダクト幅W2を車幅方向ダクト幅W1と異ならせた理由は後に詳述する。
【0028】
排気ダクト21の内面には
図7に示すように吸音材(たとえば、ウレタンフォーム)29が貼着されている。この吸音材29は、ダクト連通孔22およびダクト排気口28の形成範囲を除く排気ダクト21の内面の略全面に貼着されている。すなわち、ダクト連通孔22の形成範囲を除くエンジンフード7の側板部7Bの外側と、ダクト上板部21A、ダクト前板部21B、ダクト後板部21C、ダクト側板部21Eの各全面と、第3底板部21Dcの前方寄りの面とに貼着されている。なお、エンジンフード7の内側においても、側板部7Bにおいてはダクト連通孔22の形成範囲を除く略全面に吸音材が貼着され、上板部7Aにおいてはエンジン15からの熱の影響を大きく受ける範囲を除き吸音材が貼着されている。また、
図6に示すように、排気ダクト21の外側には、エンジンフード7を開閉するときに把持する取っ手30が取り付けられている。
【0029】
「作用」
冷却ファン14が回転すると、吸気口17A〜17Cから吸気された空気は、ラジエータ13を冷却するとともに、
図5に符号P1にて示すようにエンジン15の横や上方を流れることでエンジン15を冷却し、符号P2,P3にて示すように排気口18A,18Bから排気される。その際、エンジンフード7内の一部の空気は
図5(a)に符号P4にて示すようにダクト連通孔22から排気ダクト21に流れ込む。ダクト連通孔22はエンジン15よりも空気の流れの下流側に位置しているので、符号P1で示す空気は全てエンジン15周りを通過したうえでその一部が排気ダクト21に入り込むことになる。したがって、従来のエンジン15の冷却機能が損なわれることはない。
【0030】
空気の一部が排気ダクト21に入り込むことにより、その空気に乗る音の音量が略密閉構造のダクト内において低減されたうえでダクト排気口28から出る。排気ダクト21には吸音材29が貼着されているので、その吸音機能も相乗的に作用して音が効果的に低減される。ダクト上板部21A,ダクト前板部21B,ダクト後板部21Cは傾斜状に形成されているので、ダクト内における空気の流れの乱れはさほど生じない。そして、このようにエンジンフード7内の空気の一部が排気ダクト21に入り込むことにより、つまり空気に乗る音の一部が排気ダクト21に入り込むことにより、その分、本来の排気口18A,18Bからの排気に乗る音も低減されている。これにより、土工用振動ローラRの走行系に関する騒音の低減化を図れる。
【0031】
ここで、
図5(b)において、ダクト連通孔22から紙面手前方向に向けて排気ダクト21に入り込んだ空気は、第1ダクト側板部21Eaと、傾斜状に形成されたダクト上板部21A,ダクト後板部21Cとに当たる。もし仮に、ダクト上板部21Aとダクト後板部21Cとが傾斜状に形成されておらず車幅方向に沿って形成した場合、ダクト連通孔22から紙面手前方向に向けて排気ダクト21内に入り込んだ空気は全て第1ダクト側板部21Eaに当たることとなる。この場合、風が第1ダクト側板部21Eaの後方周りの吸音材に集中し、第1ダクト側板部21Eaに対して垂直入射することにより透過損失率も最大となり、その分、ダクト全体に貼着した吸音材による吸音効果が得られにくくなる。これに対し、本実施形態の排気ダクト21では、ダクト連通孔22から入ってきた風の一部が傾斜状に形成されたダクト上板部21A,ダクト後板部21Cに入射角が浅くなるように当たったうえでダクト内全体に行き渡る。これにより、ダクト連通孔22からダクト内に入り込んだ直後の風に乗る音の透過損失率は下げられ、ダクト内全体に貼着した吸音材で効果的に低騒音化を図ることができる。
【0032】
また、本発明によれば、排気ダクト21は、エンジンフード7の側板部7Bに溶接により固定されるのではなく、側板部7Bに対して着脱自在に備えられているので、排気ダクト21の取り付けの際に、溶接の熱の影響により、貼着されている吸音材(ウレタンフォーム)29を変質させることがない。
そして、ウレタンフォームが経年の変化で劣化したり剥がれたりして防音効果が衰えたとき、もし排気ダクト21がエンジンフード7の側板部7Bに溶接により固定されていると、固定された排気ダクト21の内部に手を差し入れてウレタンフォームのメンテナンスや交換等を行うことが困難となる。これに対し、本発明の場合、排気ダクト21をエンジンフード7から取り外してウレタンフォームのメンテナンスや交換等を容易に行うことができる。
【0033】
次いで、車幅方向ダクト幅W2を車幅方向ダクト幅W1と異ならせたことの作用効果を説明する。
本発明者は、排気ダクト21を備えない土工用振動ローラについて、土工用振動ローラから所定距離だけ離れた定点において騒音の周波数分析(車両センター地表位置を原点として右方向10.4m、前方4.32m、地表から高さ11.36mの位置のマイクロフォンにより測定した各周波数における音圧レベル(A特性)特性)を行った。その結果、
図8に示すように主周波数が300〜1000Hzの音が特に大きく、大きな騒音源が冷却ファン14であることを次のように分析した。冷却ファン14はプーリを介してエンジン直結でタイミングベルトで駆動されており、計測した土工用振動ローラの場合、エンジン定格回転数は2200rpmで、冷却ファン14は8枚羽で、プーリ比はほぼ1である。よって、冷却ファン14から発生する風切り音の騒音周波数は2200×8/60≒300Hzであり、周波数解析を行うと、300Hz、600Hzが大きく、これは冷却ファン14の1倍音、2倍音に当たり、冷却ファン14の風切り音が騒音源の騒音として大きく寄与していると捉えた。そこで、冷却ファン14からエンジンフード7の側板部7Bを通して外部に漏れ出る音に対し、本発明者は既述したように排気ダクト21の前端を冷却ファン14の横位置近傍まで延長させることにより、ダクトの中空二重壁構造を利用して音の透過損失率の増加を試みた。
【0034】
剛性材料に、ある周波数の音波が入射すると、その材料の屈曲振動と入射音波の振動とが一致し、一種の共振状態を起こす。この現象をコインシデンス効果という。その共振による共振点に当たる周波数においては、コインシデンス効果により遮音性能が著しく低下する。ここで問題となるのは、ダクト内の中空空間を満たしている空気がばねとして作用することによる共振現象である。共振点では透過損失率が0となるため、その共振点の周波数の音については低減できなくなる。このコインシデンス効果、すなわち透過損失率の解析が、中空二重壁構造の透過損失率として、たとえば「空気調和・衛生工学 第80巻 第11号」(社団法人 空気調和・衛生工学会)に掲載の論文「Excelによる音響解析入門 −音響構造特性の解析−(3)Excelによる遮音構造の解析」(著者:笹尾博行)の82頁に記載の式(35)で与えられる。当該式(35)は下記に式(1)として示される。
【0036】
式(1)において、T
L0は透過損失率、mは壁体の面密度、dは中空層の厚さ、k=ω/c
0は波長定数、ρ
0は空気の密度、c
0は空気中の音速である。この式(1)は壁に対し垂直に入射した場合の式であるが、斜めに入射した場合であっても、前記文献の82頁に記載の式(34)の座標変換行列の値が変化するものの、傾向は変わらないため無視するものとした。
【0037】
本発明者は排気ダクト21に関し、式(1)を当てはめて解析を行った。排気ダクト21の後方寄りにおける中空層の厚さ、すなわち車幅方向ダクト幅W1の値はダクト連通孔22およびダクト排気口28の通風面積の確保の点から概ね求められる値であり、既述したように車幅方向ダクト幅W1は約200mmに設定した。そして、この200mmのダクト幅のまま冷却ファン14の横位置まで延設した場合の透過損失率について、式(1)を離散化しシミュレーションを行った結果が
図9の点線のグラフである。ただし、ダクト板厚を2.3mm、面密度mを18.9kg/m
2、中空層の厚さdを200mm、空気の密度ρ
0を1.3kg/m
3、音速c
0を331.3m/sとして計算した。
【0038】
このグラフから判るように、200mmのダクト幅のまま冷却ファン14の横位置まで延設すると、主周波数であるおよそ500〜1000Hzの範囲で共振周波数となり、透過損失率が落ちることが判った。そして、中空層の厚さdを変えてシミュレーションし、100mmとしたとき、
図9に実線のグラフで示すように300〜1000Hzの範囲において共振現象が生じることなく高い透過損失率が得られることが判った。
【0039】
このように、排気ダクト21の一端を冷却ファン14の配設位置の近傍まで延長させてダクトの中空二重壁構造を利用して音の透過損失の増加を図るにあたり、排気ダクト21の一端側において冷却ファン14を音源とする音の透過損失が大きくなるように、一端側の車幅方向ダクト幅W2を他端側の車幅方向ダクト幅W1と異なる値に設定すれば、次のような効果を得る。ダクト連通孔22が位置する排気ダクト21の他端側の車幅方向ダクト幅W1の値は、前記したようにダクト連通孔22およびダクト排気口28の通風面積の確保の点から優先して決定される。したがって、排気ダクト21の他端側においては所定の車幅方向ダクト幅W1に設定しつつ、一端側においては冷却ファン14を音源とする音の透過損失が大きくなるように車幅方向ダクト幅W2を設定することで、ダクトの通風機能と低騒音機能の両立を簡単に図ることができる。概ね、車幅方向ダクト幅W2は傾向として車幅方向ダクト幅W1よりも小さな値に設定すれば、冷却ファン14を音源とする音の透過損失を大きくでき、低騒音化の効果が高くなる。
【0040】
以上、本発明の好適な実施形態を説明した。本発明の対象は土工用振動ローラに限定されることなく、他の締固め車両にも適用可能である。