【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)高分子学会予稿集,63巻1号,第2853〜2854頁,平成26年5月9日発行 (2)第63回高分子学会年次大会,平成26年5月30日開催
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ベンゾオキサジン化合物(A)100重量部に対するパーヒドロポリシラザン(B)の含有割合が0.5〜50重量部であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
ベンゾオキサジン化合物(A)、パーヒドロポリシラザン(B)、およびパーヒドロポリシラザンを溶解する溶媒(C)を不活性雰囲気下で混合して樹脂組成物を調製する工程と、該樹脂組成物を加熱処理することにより、ベンゾオキサジン化合物を重合し、かつパーヒドロポリシラザンをシリカに転化させる工程とを含むことを特徴とするポリベンゾオキサジン−シリカ複合体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ポリベンゾオキサジン樹脂の耐熱性をより一層高め、さらには透明性に優れたポリベンゾオキサジン−シリカ複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ベンゾオキサジン化合物(A)、パーヒドロポリシラザン(B)、およびパーヒドロポリシラザンを溶解する溶媒(C)を含む樹脂組成物を加熱処理して硬化させることにより、耐熱性に優れたポリベンゾオキサジン−シリカ複合体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、ベンゾオキサジン化合物(A)、パーヒドロポリシラザン(B)、およびパーヒドロポリシラザン(B)を溶解する溶媒(C)を含む樹脂組成物に関する。
【0007】
また、本発明は、ベンゾオキサジン化合物(A)100重量部に対するパーヒドロポリシラザン(B)の含有割合が0.5〜50重量部であることを特徴とする前記の樹脂組成物に関する。
【0008】
また、本発明は、前記の樹脂組成物を加熱処理して得られるポリベンゾオキサジン−シリカ複合体に関する。
【0009】
さらに、本発明は、ベンゾオキサジン化合物(A)、パーヒドロポリシラザン(B)、およびパーヒドロポリシラザンを溶解する溶媒(C)を不活性雰囲気下で混合して樹脂組成物を調製する工程と、該樹脂組成物を加熱処理することにより、ベンゾオキサジン化合物を重合し、かつパーヒドロポリシラザンをシリカに転化させる工程とを含むことを特徴とするポリベンゾオキサジン−シリカ複合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリベンゾオキサジン−シリカ複合体は、ポリベンゾオキサジン樹脂単体に比べ耐熱性が一段と優れ、さらには透明性に優れる。
すなわち、ポリベンゾオキサジン樹脂単体を加熱すると、約400℃を超えたところから急激に質量が減少することがTG−DTAより分かる(
図5参照)。これに対し、ポリベンゾオキサジン樹脂とシリカとのナノ複合体である本発明のポリベンゾオキサジン−シリカ複合体は、重量減少を抑制できるため、高耐熱性樹脂としての性能に優れる。
また、TEMでの観察によれば、シリカがナノスケールで分散されているため、複合体自体の強度低下などの樹脂物性への影響も少ない。さらには、ポリベンゾオキサジンとシリカは、化学結合しているため、衝撃破壊進展抑制材としても機能する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の樹脂組成物は、ベンゾオキサジン化合物(A)、パーヒドロポリシラザン(B)、およびパーヒドロポリシラザン(B)を溶解する溶媒(C)を含む。
【0014】
本発明において用いられるベンゾオキサジン化合物としては、下記一般式(1)で示される化合物あるいは下記一般式(2)で示されるオキサジンオリゴマーが好ましい。
【0017】
式(1)および式(2)中、Xは下記一般式(3)に示される(a)〜(f)から選ばれる2価の基であり、特に式(c)が好ましい。Rは互いに独立に炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基であり、フェニル基が好ましい。また式(2)中、mは1〜10、好ましくは2〜8であり、nは2〜30である。
【0019】
上記一般式(2)のオキサジンオリゴマーは、一般式(1)のベンゾオキサジン化合物に比べ、製膜性に優れた膜を作成することができる。
【0020】
本発明において用いられるパーヒドロポリシラザンとは、−SiH
2−NH−を基本ユニットとする有機溶剤に可溶な無機ポリマーである。なお、以降の明細書においては、パーヒドロポリシラザンをポリシラザンまたはPHPSと記載する。
本発明において用いられるポリシラザンは、分子量が400〜2000のものが好ましく、600〜1000のものがより好ましい。なお、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0021】
ベンゾオキサジン化合物(A)とポリシラザン(B)の配合割合は、ベンゾオキサジン化合物(A)100重量部に対してポリシラザン(B)が0.5重量部以上であることが好ましく、1重量部以上がより好ましく、3重量部以上がさらに好ましい。また、50重量部以下であることが好ましく、40重量部以下がより好ましく、30重量部以下がさらに好ましく、20重量部以下が最も好ましい。0.5重量部より少ないと耐熱性向上効果が少なく、50重量部より多くなると複合体としての透明性が失われるため好ましくない。
【0022】
本発明の樹脂組成物は、ポリシラザン(B)を溶解する溶媒(C)を含む。
かかる溶媒(C)としては、水酸基を持たない溶媒であれば特に制限はないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、メトキシベンゼンなどの芳香族類、テトラヒドフラン(THF)、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、グリコールエーテル類、グリコールエステル類、エステル類、ケトン類、ハロゲン類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などを挙げることができ、これらの中でもTHFが特に好ましい。
溶媒(C)はベンゾオキサジン化合物(A)をも溶解する溶媒であることが好ましい。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、ベンゾオキサジン化合物(A)、ポリシラザン(B)、および溶媒(C)を、不活性雰囲気下で混合して調製する。
混合方法については特に限定されるものではないが、不活性雰囲気下に、ポリシラザン(B)を溶媒(C)で溶解した溶液を調製し、この溶液とベンゾオキサジン化合物(A)を不活性雰囲気下に混合する方法が挙げられる。
樹脂組成物の好ましい調製法としては、ベンゾオキサジン化合物(A)とポリシラザン(B)の両方を溶解する溶媒を用いて、ベンゾオキサジン化合物溶液とポリシラザン溶液をそれぞれ調製し、それらの溶液を混合する方法が挙げられる。このとき、ベンゾオキサジン化合物(A)に用いる溶媒と、ポリシラザン(B)に用いる溶媒は同一でも異なっていても良いが、同じ溶媒であるのが好ましい。異なる溶媒を用いるときは、それらの溶媒同士が良好に混合するものであることが好ましい。
溶液の濃度については特に限定はないが、あまり希薄すぎても、濃厚すぎても好ましくなく、通常、樹脂組成物における溶媒の量が2倍から1000倍となる範囲で調整する。
また、溶液の混合方法としては、一方の溶液を他方の溶液中に撹拌しながら滴下する方法が挙げられ、例えば、ベンゾオキサジン化合物溶液にポリシラザン溶液を滴下する方法、またはポリシラザン溶液にベンゾオキサジン化合物溶液を滴下する方法でも良い。滴下速度については特に制限はないが、0.1〜10mL/分が好ましい。
【0024】
本発明は、前記の樹脂組成物を加熱処理して硬化させることによりポリベンゾオキサジン−シリカ複合体を形成する。
すなわち、該樹脂組成物を所定条件下に加熱処理することにより、ベンゾオキサジン化合物を開環重合させるとともに、ポリシラザンをシリカに転化させて、ポリベンゾオキサジンとシリカが化学結合したポリベンゾオキサジン−シリカ複合体を得ることができる。
【0025】
加熱処理は、最終的に180℃〜350℃、好ましくは240℃〜300℃の温度にて加熱処理を行う。加熱処理操作は、室温乃至70℃程度から目的の温度まで連続的に、あるいは段階的に昇温して加熱処理する方法が挙げられる。熱処理時間については特に限定されるものではなく、目的とするポリベンゾオキサジン−シリカ複合体が得られるに足る時間であれば良い。通常0.5〜100時間、好ましくは1〜24時間である。
連続的に昇温する場合の昇温速度は、通常0.01〜10℃/分であり、好ましくは0.1〜3℃/分である。
段階的に昇温する場合は、例えば室温〜70℃で数時間(例えば、0.5〜10時間、好ましく1〜5時間。以下同じ。)、その後、例えば100℃〜300℃の範囲内で、数段階の適当な温度で、それぞれ数時間保持して加熱処理する態様が挙げられる。
なお、50μm以下の薄膜ではいきなり180℃〜200℃のような高い温度から反応を開始させると、急激に反応して、アンモニアなどの脱離による発泡が起こるため好ましくない。
加熱処理は、空気雰囲気下でも不活性雰囲気下でも特に制限はないが、空気中の水分の影響を回避する観点から、不活性雰囲気下で行うのが好ましい。
【0026】
加熱処理によりポリベンゾオキサジン−シリカ複合体を形成する態様としては、例えば、ベンゾオキサジン化合物(A)およびポリシラザン(B)を含む樹脂組成物の溶液を、グローブボックスの中で、表面疎水化処理したガラス板上にキャストし、アンモニアガスによる泡の発生を防ぐため放置・乾燥した後、ホットプレートを用いてガラス板を加熱処理する方法が挙げられる。
【0027】
加熱処理によりベンゾオキサジン化合物は下記のように開環重合する。なお、下記式中のRは式(2)中の−(CH
2)
m−のことである。
【化4】
【化5】
【0028】
そして、開環重合により形成されたOH基とポリシラザンが反応し、C−O−Si結合により化学的に結合する。また、ポリシラザンは加熱により、下記のようにシリカに転化して本発明のポリベンゾオキサジン−シリカ複合体が形成される。
【化6】
【実施例】
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下において、PBzはポリベンゾオキサジンを、PBz−PHPSはポリベンゾオキサジン−シリカ複合体を表す。
【0030】
(実施例1〜5、比較例1)
N,N−120(AZ electronic materials社製、PHPS20wt%ジブチルエーテル溶液)の所定量を減圧下、室温で乾燥した。ベンゾオキサジンモノマー(Baモノマーと略す。)のTHF溶液(溶液A)、および、乾燥したPHPSをTHFに溶解した溶液Bを調製した。溶液Bの調製は窒素雰囲気下で行った。
窒素雰囲気下で、溶液Aを撹拌しながらこれに溶液Bを滴下し(滴下速度0.05mL/3秒)、その後1時間撹拌し、コート溶液とした。グローブボックスの中で表面疎水化処理したガラス板上にコート液をキャストし、グローブボックスの中に1時間放置し、乾燥した(アンモニアガスによる泡の発生を防ぐため)。次にコートしたガラス板を空気雰囲気下、ホットプレートを用いて70℃で5時間、100℃で5時間、150℃で2時間、200℃で2時間、そして240℃で2時間の加熱を行った。仕込み量を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
なお、解析は以下によった。
(1)FT−IR(JascoFT−IR4100ST)
各反応時間でサンプリングを行い、ATR法(ZnSeプリズム)で測定しATR補正をした。分解能:2.0cm
−1、積算80回。
(2)TGA
熱重量測定装置(Shimazu,TGA−50)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/分で25〜900℃で測定した。
(3)DSC
示差走査熱量計(Shimazu,DSC−60)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度5℃/分で350℃まで測定した。
【0033】
(4)反応の進行
FT−IRにより反応の進行を測定した。PBz−PHPS3、PBz−PHPS4およびPBz−PHPS5の測定結果をそれぞれ
図1、
図2および
図3に示す。
図中のピークの帰属は以下のとおりである。
・Si−H:2100cm
−1、Si−O:1080cm
−1、Si−N:840cm
−1
・930cm
−1と1505cm
−1ピークの減少:ベンゾオキサジン環の開環
・1080cm
−1ピークの増加:Si−O−Si結合の確認
・1480cm
−1ピークの増加:開環重合の確認
・1635cm
−1ピークの増加:水素結合されたフェノールのOH基の確認
・3400cm
−1ピークの増加:OH基生成の確認
【0034】
図1〜3より、ポリマーの開環、PHPSの転化、およびポリマーとPHPSの反応が競争的に起こることが分かる。Si−H、Si−Oのピークが見当たらないことから加熱初期にPHPSはシリカに転化したと考えられる。PBz−PHPS4ではシリカのピークが150℃から明確になり、反応温度の増加に伴い、増大している。一方、モノマーは150℃で開環が起こりOH基が発生し、240℃で完全に開環し、SiO
2と反応しなかったOH基が一部残ると考えられる。
【0035】
次に、240℃における複合体(PBz−PHPS1〜5)とPBzポリマーのFT−IRを
図4に示す。
図4中、a〜fは、それぞれPBz、PBz−PHPS5、PBz−PHPS4、PBz−PHPS3、PBz−PHPS2及びPBz−PHPS1である。
図4により、3400cm
−1のOH基のピークがポリマーと比べて大きくないことからフェニル基のOHとシラザンが化学結合してC−O−Si結合していると考えられる。PBz−PHPS1の複合体の場合、シリカの量が多く、凝集しやすいためポリマーより大きいOH基ピークを示すと考えられる。
【0036】
TGAによる測定結果を
図5に示す。
図5の結果から、PBzは400℃を超えると急激に重量減少をするが、本発明の複合体はPBzに比べ重量減少が少なく、特にPBz−PHPS1は重量減少の程度はより小さいことが分かる。
【0037】
PBz−PHPS5について、反応開始温度を200℃として、240℃まで反応させたところ、ホットプレートに置いた直後に急激に発泡した。得られた複合体をPBz−PHPS5aとする。
PBz−PHPS5とPBz−PHPS5aのTGAによる測定結果を
図6に示す。
図6より、PBz−PHPS5aの方がPBz−PHPS5より耐熱性が低くなっていることが分かる。したがって、耐熱性の観点から、本系での合成は段階的加熱が好ましい。
【0038】
(実施例6)
高分子量ベンゾオキサジン(B−hda)を以下により合成した。
クロロホルム50mLに、ヘキサメチレンジアミン(0.01mol,1.16g)、ビスフェノールA(0.01mol,2.28g)、およびパラホルムアルデヒド(0.04mol,1.20g)を加え、還流を5時間行った。無色透明の反応溶液をクロロホルム450mLに溶解させ、1000mLの分液漏斗を用いて0.5規定NaHCO
3水溶液で2回および蒸留水で3回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで1日脱水した。溶液をエバポレータで濃縮し、減圧乾燥を1日行って薄黄色の高分子量ベンゾオキサジン(B−hda)を3.43g(収率:88%)得た。
【0039】
【化7】
【0040】
得られたB−hdaのNMRスペクトルを
図7に示す。
NMRより求めた構造は以下のとおりである。
すなわち、B−hadは両末端がNH
2基のポリマーと、両末端にOH基とNH
2基が一個ずつ結合しているポリマーとの混合物であり、x=11.15、y=11.15、x+y=22.3、Mw=8029であった。
【0041】
【化8】
【0042】
上記で得られたB−hdaを用いて複合体を合成した。
B−hadとPHPSの仕込み量を表2に示した。樹脂組成物の溶媒量はTHF10mlである。
加熱処理は、空気雰囲気下、50℃で5時間、100℃で1時間、120℃で1時間、160℃で1時間、200℃で1時間、そして240℃で1時間の加熱を行った。
オリゴマーを用いることで製膜性が向上した。
複合体の外観(加熱温度の影響)を
図8に、透明性(UV−Vis測定)を
図9に示す。なお、
図8および
図9におけるaは50℃で5時間保持したときの複合体、bはその後さらに100℃で1時間保持したときの複合体、cはその後さらに120℃で1時間保持したときの複合体、dはその後さらに160℃で1時間保持したときの複合体、eはその後さらに200℃で1時間保持したときの複合体、fはその後さらに240℃で1時間保持したときの複合体である。
【0043】
【表2】