【実施例】
【0246】
以下は本発明の方法および組成物の例である。上記提供される一般的な説明を前提として、他の様々な実施態様が実施され得ることが理解される。
【0247】
実施例1:立体構造的に安定化されたユビキチンタンパク質を操作する
この例は、立体構造的に安定化されたタンパク質の同定及び操作のためのコンフォメーションディスプレイの新規技術を示す。新しいエンタルピー的接触を見出すために表面の位置を典型的に変異させる従来のファージディスプレイとは対照的に、コンフォメーションディスプレイは埋没したアミノ酸残基をスクリーニングし、結合するのに最適な立体構造を生じる新しい充填配置を同定する。強固に結合する少数のコンフォメーションを持つ柔軟な分子は、その結果、高親和性のコンフォーメーションを主に採る安定化した分子へ変換される(
図1A)。
【0248】
細胞シグナル伝達カスケードは、しばしば、多数の結合パートナーによって認識される「ハブ」タンパク質上の集中する。
23ユビキチンは、ユビキチンのカルボキシ末端とのイソペプチド結合を介して、翻訳後に基質タンパク質のリジンに結合される、高度に保存された真核生物のシグナル伝達のハブである。ユビキチン結合型の各々は、異なるシグナルを運び、そしてユビキチン鎖の厳密に制御されたプロセシングは、細胞の様々な情報を伝えるために使用されている。
24従って、ユビキチンプロセシングの誤調節は、発癌及び神経変性を含む、複数の疾患状態に関与している
25−26。
【0249】
ユビキチンは、3部分E1−E2−E3酵素カスケードを通じて基質に規則的に結合される。ユビキチンの除去は脱ユビキチン化酵素(DUB)として知られているイソペプチダーゼの幾つかのファミリーによって触媒される。およそ100のヒトDUBがあり、各々は異なる基質特異性と酵素特性を持ち、シグナル伝達制御の大部分が未開拓の富を暗示している。2つの著名なDUBファミリーは、ユビキチンC末端加水分解酵素(UCH)及びユビキチン特異的プロテアーゼ(USP)酵素である。UCHは、ユビキチンを、細胞内求核剤などの小さな部分及びそのカルボキシ末端からの短いペプチドを除去することにより、リサイクルすることに主に関与する。USPは、典型的には、ユビキチンに大きな部分(例えば、全タンパク質)を連結するイソペプチド結合を切断することによりユビキチン鎖の長さを調節する、シグナル伝達調節因子として働く。
【0250】
アポユビキチンの最近のNMRと計算の研究は、残余双極子カップリング(RDC)の大規模な一組の徹底的な分析に大きく依存し、ユビキチンの立体構造の可塑性は、特定のパートナーによるその認識に必須であり得ることを示唆している
28。ユビキチンの相互作用は、単にコンフォメーション選択結合メカニズムに起因しえないとする幾つか競合する報告がなされているものの、この研究はβ1−β2ループ領域は、高速マイクロ秒の時間スケールで可動的であり、結合パートナーは、この既存の平衡状態から異なるコンフォーメーションを選択できることを示した
29−30。これらの研究は、ユビキチンの認識におけるコンフォーメーションダイナミックスの重要性を強調してきたが、これらのコンフォーメーション変化が、ユビキチン−パートナー相互作用の生物学的機能に影響を与えるパターンは同定されておらず、若しくはそのような動きを乱すことの影響は対処されていない。
【0251】
ユビキチンの場合には、親の主鎖コンフォメーションは、多種多様な折れ畳みを持つ
幾つかの結合パートナー(例えば−脱ユビキチン化酵素、リガーゼなど)に対する妥協を恐らくは表しているので、単一のパートナーを受け入れる配列の選択は、自然界では見られない高親和性コンフォーメーションを同定することもできる。従って、この研究は、一部には、異なるDUBが、そのコンフォメーションアンサンブルのユニークなサブ状態を認識することによって、ユビキチンダイナミクスを利用するかどうかを判断することを求める。このような区別は、概念的には、単一の実体からユビキチンハブを、関連するが立体構造的にユニークな結合パートナーの一組に分離するだろう。
【0252】
材料と方法
脱ユビキチン化酵素の発現及び精製
脱ユビキチン化酵素コードしするをDNAはTEV切断可能なN末端6×Hisタグ及びC末端Aviタグを有するPET派生ベクターにクローニングされ、BirAを含有する発現プラスミドとの共発現により、ビオチン化タンパク質として大腸菌で発現された。ビオチン化は質量分析法によって確認した。ビオチン化触媒ドメインの構築物は、USP7の残基208−554、SP14の残基91−494、及びUCHL5の残基1−228であった。UCHL1とUCHL3は、全長タンパク質として精製した。触媒部位の変異は、USP7 C223A、C114A USP14、UCHL1 C90A、C95A UCHL3、及びUCHL5 C88Aであった。発現後、タンパク質は、Ni−NTAカラムを通過させ、TEVプロテアーゼによりHisタグを切断し、ッケルカラム上を再通過させ、及びS−200又はS−75ゲル濾過カラム上で精製することにより、均質になるまで精製された(GE Life Sciences)。酵素アッセイのために、脱ビオチン化USP2触媒ドメイン、USP5、USP10、USP47、及びUSP7は、Boston Biochemから得た。
【0253】
ユビキチン変異体の発現及び精製
ユビキチン変異体をコードするDNAは、以前に記述されたように、N末端の6×Hisタグを含むpET誘導体ベクターにクローニングされ、大腸菌で発現された。
45タンパク質は、Ni−NTAアフィニティークロマトグラフィーにより、続いてS75サイズ排除クロマトグラフィーにより精製した。
【0254】
M13ファージ上でのユビキチンの提示
ユビキチンは、前述したファージミドpS2202bを修飾することにより、M13バクテリオファージの表面に提示された。標準的な分子生物学技術が、Erbin PDZドメインをコードするpS2202bの断片を、ユビキチンをコードするDNA断片と置換するために使用された。得られたファージミドp8Ubは、マルトース結合タンパク質分泌シグナル、gDタグ及びユビキチン、そして最後に主要コートタンパク質P8をコードするオープンリーディングフレームを含んでいた。p8Ubを保有する大腸菌M13−KO7ヘルパーファージに同時感染させ、標準的なプロトコールに従って増幅した。
2伝播されたファージを標準的なプロトコールに従って精製し、1mlのPBTバッファー(PBS、0.5%BSA及び0.1%Tween20)中に再懸濁し、p8Ub DNAを封入し、ユビキチンを提示するファージ粒子の産生をもたらした。提示レベルは、次のようにファージELISAを用いて分析した。2μg/mlの抗gD抗体をマキシソープイムノプレート上に固定化し、ブロックし、gD−ユビキチンを提示するファージの1:3段階希釈をウェルにアプライした。プレートを洗浄し、結合したファージを、抗M13−HRP、続くTMB基質で検出した。
【0255】
ライブラリーの構築と選別
ユビキチンライブラリーは、キュンケル突然変異誘発法を用いて構築した。残基T7、L8、I13、E34、I36、L69及びL71は、NNKコドンで無作為化した停止鋳型(stop template)(T7−I13、E34−I36及びL69−L71の領域で3つの停止コドンを含有するp8Ubの一本鎖DNA)は、〜5×10
10のユニークなメンバーが含まれるライブラリーを構築するために使用された。ライブラリーは、USP7のC223A変異を有するC末端モノユビキチン化触媒ドメイン(残基208−554)(USP7catC223Aとして指定される)に対して、溶液中で複数ラウンドの結合選択を繰り返した。第一ラウンドでは、20μgのビオチン化USP7catC223Aの20gを1mlのファージライブラリー(〜1×10
13pfu/ml)とともに2時間4℃でインキュベートし、以前にブロッキング緩衝液(PBS、1%BSA)でブロックされているDynabeads(登録商標)MyOneストレプトアビジンの200μlにより室温で15分間捕捉した。上清を廃棄し、ビーズはPBS、0.1%のTween20で3回洗浄した。結合したファージは、400μlの0.1MのHClで7分間溶出し、直ちに1Mのトリス、pH13の60μlで中和した。溶出されたファージはTonikianら(2007)によって記載されるように増幅した。
2第2ラウンドでは、プロトコールは、10μgのビオチン化USP7catC223Aと100μlのDynabeadsを用いた以外は第1ラウンドと同じであった。第3ラウンドと第5ラウンドにおいて、2μgのビオチン化USP7catC223Aは、前のラウンドからの増幅されたファージとともにインキュベートされ、ファージUSP7catC223A複合体は、以前にブロッキング緩衝液で処置されたニュートラアビジンコーティングプレートにより捕獲された。ラウンド4は、ビオチン−USP7catC223A−ファージ複合体を捕獲するためにストレプトアビジンでコーティングしたプレートを用いた以外は、ラウンド3と同一であった。ファージは、標準プロトコールに従い、30℃でM13−KO7ヘルパーファージにより大腸菌XL1−blueで増殖した。
【0256】
結果
全てのDUBはユビキチンのβ1/β2領域に結合するが、幾つかの構造的ファミリーに分離可能であるので、一部のタイプのDUBは、ユビキチンの別個の構造状態を認識し得ると仮定された。この問題に対処するために、入手可能な56個の複合体中のユビキチンの高分解能結晶構造全てのペアワイズアラインメントを、少なくとも一方のパートナーを用いて行い、結果は、β1/β2の
平均二乗偏差(RMSD)に基づいて結果をクラスター化された。クラスター解析は、β1−β2ループコンフォーメーションの明らかな「標本(smear)」を(
図2A)、ファミリー内に僅かな違いを有する、コンフォーメーションファミリーに分類する(
図2B)。これらの原子の「スナップ写真」は、ユビキチンのβ1−β2ループは、サブ状態間の速い遷移に従って、各サブ状態間に適度なエネルギー障壁を有する、一連のサブ状態にアクセスすることを意味している
28。最大のクラスター(クラスター1)は、β1−β2領域の「アップ」コンフォメーションを表し、UCH型のDUBとの複合体中の全てのユビキチン構造を含み、UCHは「アップ」コンフォメーションを結合することを示している(
図2C−D)。これとは対照的に、クラスター2は「ダウン」β1−β2コンフォメーションを表し、これまでに結晶化した全てのUSP型DUB−ユビキチンの複合体を含んでいる。注目すべきことに、UCH型のDUBは、典型的にはナノモル親和性でユビキチンを結合し、またUCH−結合状態はアポユビキチンとクラスター形成し、「アップ」状態が溶液中に優勢であることを示唆している。逆に、USP型のDUBは、一般的に、ユビキチンに対するマイクロモルの高親和性を有し、USP−結合状態は、アポユビキチンの結晶構造中で観測されず、ナノ秒からマイクロ秒の時間スケールにわたる運動に感受性であるNMR測定によってのみ検出可能である。従って、「ダウン」状態は、溶液中で弱くにしか存在し得ない。「アップ」コンフォーメーション及び「ダウン」コンフォーメーションの比較は、DUBへの結合に影響を与え得る方法でβ1−β2からC末端に伝えられる長距離効果により、各状態の著しく異なるパッキングを明らかにしている。例えば、「ダウン」コンフォメーションは、Leu71の方にLeu8を突きだし、USP型のDUBの活性部位と相互作用するように配置するコンフォーメーションに向かって、レバーアームとしてC末端を押している(
図2E)。計算ドッキングはまた、「アップ」又は「ダウン」のユビキチン立体構造異性体の何れかに対するDUBの結合はが相互に排他的であることを示しており:UCH−ファミリーの酵素は、「アップ」状態に結合するように配置され、一方USPファミリーの脱ユビキチン化酵素は「ダウン」状態に結合する(
図30)。
【0257】
所望のコンフォーメーションにユビキチンを安定させるために、全長ヒトユビキチンが、そのN末端に融合したgDタグを有する。M13ファージのメジャー(P8)またはマイナー(P3)コートタンパク質上に提示された。ファージ表面上のgDタグの検出によって示されるように、両方のコートタンパク質上の提示レベルは類似している(データ非表示)。タンパク質のコア(core)は広範囲かつ協同的であるため、効果的なコンフォメーションディスプレイは、目的の領域内の運動にどの位置が寄与するの知識を前提としています。従って、USP−結合状態を採るために最適でないように見え、かつ異なるUSP間の可変表面に接触する、ユビキチン内の埋没アミノ酸位置を同定するために、計算によるタンパク質設計が、使用された。得られた7つの位置(Thr7、Leu8、Ile13、Glu34、Ile36、Leu69、及びLeu71)はp8又はp3−提示型ユビキチンライブラリーにおいて無作為化され、USP7の触媒ドメインの触媒的に不活性な変異体に対して選択された。
【0258】
総数69のユニークな配列がP8−提示型ユビキチンライブラリーから同定された。これらのクローンの約90%は位置7と69の両方でシステインを含み、その一部はCys8をCys7と置換している(
図1B)。位置7/8と69は、ユビキチンの三次構造において並置されているので、このことは直ちにUSP7結合コンフォーメーションを安定化するジスルフィドの存在を示唆した。7つのユニークなクローンのみが、ジシステインモチーフを欠いており、以後は「非ジスルフィド」バインダーと表される(
図1B)。ジスルフィド及び非ジスルフィドバインダーの両方とも、野生型ユビキチンと比較して、幾つかの有意な配列変化を示している。塩基性残基(大部分はArgで少数がLys)は、全てのクローンにおいて位置71で高度に保存されており;位置34は、野生型において、排他的にGluから疎水性残基(Ile、Leu又Val)に改変され;位置36は、ジスルフィド結合したクローン中で主に芳香族(Tyr及びPhe)であった。ジスルフィド含有バインダーにおいて、位置13は極性残基(Arg、His、Ser、Lys、及びAsn)を好み、一方、非ジスルフィドクローンはチロシンを好んだ。
【0259】
USP7選択型コンフォーメーションバインダーの特異性を試験するため、「U7UbXX」(ここでXXはクローン番号)、24のファージディスプレイされたクローンがファージスポットELISAでDUBのパネルに対して試験された。
図1Cに示されるように、これらのクローンの全ては、USP7に特異的に結合し、USP14、UCHL1、UCHL3及びUCHL5に対する検出可能な結合性シグナルを示さない。
【0260】
【0261】
精製されたタンパク質としてU7Ub変異体の結合を定量するために、8個のクローンを、N末端Hisタグ付きpET発現ベクターに移した。発現し均質になるまで精製した後、 バイオレイヤー干渉法を介した相対的親和性は、ユビキチン変異体の単一濃度での定常状態の応答を測定することにより決定した(
図4A)。フォローアップバイオレイヤー干渉滴定は、最も強個な2つのバインダー、U7Ub7(ジスルフィド)とU7Ub25(非ジスルフィド)は、200nM未満のUSP7の触媒コアに対する親和性を有することを明らかにした(表8及び9;
図4B)。等温滴定熱量測定は、U7Ub25は1:1の複合体中のUSP7の触媒コアに強固に結合し(
図1C)、約190nMでの親和性を有することを確認した。注目すべきことに、USP7と野生型ユビキチンの結合は、上限200μMまでの濃度ではほぼ検出不可能であり(データ非表示
10)、はじめに選択されたこれらのユビキチン変異体は親和性が1000倍以上改善されていることを明らかにしている。
【0262】
【0263】
この実施例は、コンフォメーションディスプレイの新規な技術を検証し、本来であれば天然には見出されない立体構造的に異種構造のユビキチンタンパク質立体構造的に安定化されたの変異体を同定する。更に、この新規な安定化されたユビキチン蛋白質は、野生型ユビキチンに対して1000倍高い親和性で脱ユビキチン化酵素USP7に結合する。
【0264】
実施例2:立体構造的に安定化されたユビキチンタンパク質の表面の成熟
立体構造を設計されたライブラリーは、野生型ユビキチンの表面の残基には焦点をあてないので、そうすることは、さらにUSP7に対する親和性を改善し得ると考えられた。従って、この例では、表面成熟は、立体構造的に安定化されたタンパク質の基質への結合を更に増強するのに用いることができることを実証している。
【0265】
材料と方法
U7Ub25の親和性成熟
親和性成熟ライブラリーは、キュンケル突然変異誘発法を用いて構築した。表面残基のQ2、F4、T14、Q40、R42、A46、G47、Q49、Q62、E64、S65、T66、H68、V70及びR72は、各塩基位置は、アミノ酸レベルで約50%の突然変異率をもたらすであろう、70%の野生型塩基と10%の他の3つの塩基の混合物であるドーピングコドンを使用して「ソフトランダム化(soft randomize)」された。停止鋳型(stop template)(7−13、34−36及び69−71の領域で3つの停止コドンを含有するp8U7Ub25の一本鎖DNA)は、〜4×10
10のユニークなメンバーが含まれるライブラリーを構築するために使用された。上記のように、ライブラリーはUSP7catC223Aに対して5ラウンド繰り返され、第3〜5ラウンドを除いて、低下させたUSP7catC223Aの濃度(それぞれ10、5及び2nM)が使用された。
【0266】
スポットファージELISA
5ラウンドの結合選択の後、個別のファージクローンを採取し、50μg/mlのカルベニシリン及びM13−KO7ヘルパーファージを96ウェルブロック中に含む450μlの2YT培地に播種し、これを37℃で一晩増殖させた。以下のように上清をスポットファージELISAで分析した:ビオチン化USP7catC223A、USP14触媒ドメイン(C114A)、UCHL1、UCHL3、又はUCHL5触媒ドメインは、ニュートラビジンをコーティングした384ウェルのMaxisorpイムノプレートに捕獲され、PBT緩衝液で希釈した(1:3)ファージ上清(1:3)をウェルに添加した。プレートを洗浄し、結合したファージを、抗M13−HRP、続くTMB基質で検出した。これらのアッセイにおいて、バックグラウンド結合の評価と平行して、ニュートラアビジンのみに対するファージ結合が試験された。USP7catC223Aに対する結合シグナルが、ニュートラアビジン(バックグランド)に対するよりも5倍以上高いクローンは陽性とみなした。陽性クローンをDNA配列分析に供した。
【0267】
等温滴定熱量測定
U7Ub25及びUSP7catC223Aは、50mMのHEPES pH7.5及び150mMのNaCl中に一晩透析され、MicroCal ITC200上で滴定された。細胞内のU7Ub25の濃度は200μMであり、シリンジ内のUSP7catC223Aの濃度は20μMであった。実験は、0.2μLの最初の注入、データ解析中に廃棄され、続いて250秒間隔で20回の2μLの注入により行われた。細胞は25℃で1000rpmで攪拌した。結合は、Microcal Originの1部位結合モデルに対してフィットさせた。
【0268】
ELISAによる結合アッセイ
ビオチン化USP7catC223Aは、以前にブロッキング緩衝液によってブロックされたニュートラアビジンをコーティングしたMaxisorp(登録商標)プレート上で捕獲され、PBT緩衝液中で4℃で1時間、0〜20μMの濃度範囲で、Hisタグ付きユビキチン変異体の1:3連続希釈とともにインキュベートした。次いで、プレートをPT緩衝液で洗浄し、結合したHisタグ付きタンパク質は、抗ペンタHis−HRPコンジュゲート(Qiagen, Cat. No. 34460, Germantown, MD)、続いてTMB基質によって検出された。
【0269】
バイオレイヤー干渉法による親和性測定
USP7catC223Aへのユビキチン変異体の結合親和性はOctetRed384上でバイオレイヤー干渉法により測定した(Fortebio, Menlo Park, CA)。ストレプトアビジンバイオセンサー(Fortebio、カタログ番号18−5020)は、0.05%のTween20及び0.1%のBSAを含有するPBS緩衝液中でビオチン化USP7catC223Aとロードされ、同じ緩衝液中で洗浄され、同じ緩衝液中で0〜2μMの範囲の濃度で、ユビキチン変異体を含むウェルに移された。解離定数は、オクテット(Octet)ソフトウェアを使用して、定常状態のアルゴリズムに対する応答の非線形フィッティングにより得た。類似の親和性は、速度論的フィッティングにより得られた。
【0270】
結果
β1−β2の周辺のコアパッキングを通して高い親和性と特異性を達成し得る、最も高い親和性非ジスルフィド変異体であるU7Ub25を、表面成熟のために選択した。USP7との複合体中の野生型ユビキチンの結晶構造(PDBコード1NBF15)に基づいて、ユビキチンとUSP7の相互作用に関与することが予測されるU7Ub25の表面残基をランダム化することにより親和性成熟ライブラリーを設計した(
図5A)。
【0271】
改善されたバインダーを単離するために、ライブラリーはUSP7の濃度を減少させることに対して選択された。4回パニングを行った後、USP7に強く結合した6つのユニークなクローンを同定した(
図5A)。ユニークな全ての親和性成熟クローンが発現され、Hisタグ付きタンパク質として精製され、それらの相対的親和性はELISAによって測定され、EC
50によってランク付けされた。
図5Bに示すように、U7Ub25.2540は最も強固なUSP7−バインダーであり、U7Ub25に対して3つの変異:Gln42Trp、Gln49Arg、及びHis68Argを含んでいる(
図5A)。USP7の触媒コアについてのU7Ub25.2540の親和性は、バイオレイヤー干渉法によって測定される場合、約30nMであり、親のU7Ub25対して数倍の改善を表している(
図5C;表8及び9)。
【0272】
この実施例は、更なる基質結合親和性は、基質タンパク質の表面上の残基と直接相互作用するアミノ酸残基の表面成熟を介して、立体構造に安定化されたタンパク質変異体において達成することができることを示している。
【0273】
実施例3:立体構造的に安定化されたユビキチンタンパク質の結晶構造
この実施例では、USP7結合変異体のジスルフィドクラス及び非ジスルフィドクラス内の変異が、これらの分子の構造にどのように影響するかを理解するために、U7Ub7(ジスルフィド)及びU7Ub25.2540(非ジスルフィド、親和性成熟型)の両方の結晶構造が解かれた。
【0274】
材料と方法
結晶化及びデータ収集
細胞ペーストを、25mMのトリスpH8.0、150mMのNaCl中に再懸濁し;還元剤(0.5mMのTCEP)はU7Ub25.2540の精製全体にわたって添加された。細胞は、Ni−キレートアフィニティーカラム上で精製され、タグは、一晩、6×Hisタグ付きTEVプロテアーゼ用いて除去した。切断された混合物は第二のNi−キレートアフィニティーカラム上で更に精製し、最後に、25mMのトリスpH8.0、150mMのNaCl中でSuperdex
TM75(GE Healthcare)サイズ排除カラム上で精製した。
【0275】
U7Ub7及びU7Ub25.2540の回折品質結晶は、精製緩衝液中の10mg/mlのタンパク質1μlと、2.4MのAmSO
4及び0.1Mのクエン酸pH4.0を含む結晶化溶液1μlを混合し、シッティング及びハンギングドロップ蒸気拡散法を用いて、18℃で成長させた。結晶は3日後に成長し、2.4MのAmSO
4及び0.1Mのクエン酸pH4.0を含む抗凍結剤溶液中に移した。結晶は、1.4Åまで回折し、空間群P3
12に属し、非対称単位中に4つ分子を含む。単一ユビキチン鎖(PDB−ID1UBQ)を、分子置換のためのサーチモデルとして用いた。
【0276】
NMR分光法
サンプルはNMR分光法用に、細胞を遠心沈殿し、U−
2H,
13C−D−グルコース及び2/3
2H
2Oを含有するM9培地に移される修正を伴ったCaiら
47の方法に従って行われた標識化により調製された。約50%の重水素化がμs R
ex実験の実施のために必要とされる
48。NMRサンプルは、10%の
2H
2O及び0.1mMのトリメチルシリルプロピオン酸を含んでいた。重水素取り込みは、質量分析により、およそ50%であると決定した。
【0277】
野生型ユビキチン、U7Ub7及びU7Ub25の共鳴アサインメントは、PINEを使用して
1H−
15N HSQC、HNCA、HNCACB及びHNcoCAスペクトルのピーク位置の半自動化分析から得られた
49。化学シフトはトリメチルシリルプロピオン酸を基準とした。野生型ユビキチン及びU7Ubに対して、ほとんど完全な主鎖のアサインメントが得られた。E24及びG53のアミド共鳴は全てのタンパク質において観測されない。全てのNMRデータセットは、ブルカーDRX分光計により18.8Tで、又はブルカーアバンスIII分光計により14.1Tで収集した。特に断りのない限り、NMR実験は、24℃で行い、重水素化メタノールに対して較正した
50。
【0278】
野生型ユビキチンと7.7についての{
1H}−
15N異種核NOE値は、Grzesiek及びBaxの方法に従って測定した
51。全ての実験における待ち時間(recycle delay)及び
1H照射時間は、それぞれ5秒と1に設定した。マイクロ秒R
ex値は、H
z’N
z、H
zN
z’、H
z’N
z’、及びH
zN
z R
1ρ測定から抽出し、ここでプライムは緩和遅延の間のスピン・ロックフィールドの存在を表す
48,52。用いられるスピンロック・フィールドは、
1H及び
15Nの周波数において、それぞれ10kHz及び2kHzであった。スピンロッック照射による全ての実験において遅延時間は2msと32msの間であり、照射の無い場合に記録されるH
zN
zにおいて4及び128msであった。これらの実験の各々は、各面において64のコンプレックス(complex)
15Nポイント(points)による疑似3Dとして記録され、9つの緩和遅延時間が、示差試料加熱による潜在的なアーチファクトを軽減するために、インタリーブ方式で記録された。エボリューションカーブ(Evolution curve)は、nmrPipe
53を用いてフィットさせ、データ解析はHansenら
52に従って行った。より完全に分散曲線をサンプリングするため、R
2分散データセットは、2点フィッティングから決定されたR
2obsを用いてTollingerら
54の方法に従って収集した
55。データセットは、各面及び約15のCPMG周波数において64のコンプレックス(complex)
15Nポイント(points)により、インターリーブされた擬似3Dとして収集された。サンプリングされたCPMG周波数は50と950Hzの間であり、2つの周波数がエラー解析のために反復された。R
2分散曲線は14.1T及び6℃で7.25について収集された。
【0279】
結果
位置7位と69位でのシステインに対する強い優先性から疑われたように、U7Ub7の1.8Åの構造は、これらの残基がβ1−β2ループのベースでジスルフィド結合を形成することを明らかにしている(
図6〜7;表10)。このジスルフィドの配向は、USP7に結合された野生型ユビキチンについて観測されるのと似た様式で、アポ野生型の立体構造に対して下向きにβ1−β2をねじる(
図8A)。Ile36Tyrも、Arg71の主鎖への水素結合及びLeu73とのスタッキング相互作用を形成することによりにより、このねじれに寄与している(
図8B)。Tyr36−Leu73のスタックは、野生型ユビキチンのそれに直交して配向し、β1−β2ループに主鎖水素結合を形成するようにU7Ub7のC末端を押し出す(
図8A)。しかし、速いタイムスケールのダイナミクスを探索する異種核NOE NMR測定は、U7Ub7のC末端は野生型ユビキチンより僅かに可動性が低いが、完全に拘束されてはいないことを示している(
図9)。従って、U7Ub7のC末端の異常な位置がUSP7に対するその高い親和性で決定的な役割を果たしていない場合がある。
【0280】
【0281】
U7Ub7と対照的に、U7Ub25.2540の1.3Å分解能の構造は、その主鎖がアポ体の野生型ユビキチンにほぼ同一であることを示している(
図8C及び
図10)。コアの変異した残基(Thr7Phe、Leu8Arg、Ile13Tyr、Glu34Leu、Leu69Gly、及びLeu71Arg)は密にパッキングされているが、野生型とは様式が異なる(
図7A、C)。親和性成熟によって導入された突然変異(Arg42Trp、Gln49Arg、及びHis68Arg)は全て変異体のUSP7と接触するシート上にクラスター化し、途切れない相互作用面を形成している。U7Ub25.2540の主鎖構造は、野生型ユビキチンのそれに非常に類似しているため、緩和分散の測定値がアポ状態のダイナミクスが乱されていたかどうかを決定するために使用されたが、野生型ユビキチンと比較して有意な差は認められなかった(
図11)。
【0282】
この実施例は、立体構造的には安定化されたU7Ub25及びU7Ub25.2540ユビキチンタンパク質は、USP7に対して有意に増加した親和性、及びβ1−β2因子周辺の顕著に異なるパッキングを有するが、それらの主鎖は野生型ユビキチンと比較して、影響は最小限であることを示している。
【0283】
実施例4:U7Ub25におけるコアの変異及び表面の変異は、USP7に対する親和性に対して協同する。
この実施例は、非ジスルフィドの立体構造的に安定化されたユビキチンクローンについて観察されたβ1−β2周辺の別のパッキングが親和性を決定するかどうかを評価する。
【0284】
結果
U7Ub25及び野生型ユビキチンに関連した復帰及び付加変異体の結合が最初に測定された(
図10)。U7Ub変異体は、三次構造の局所領域内に一致した埋もれた変化を含むため、単一の復帰は、クラッシュを生成し、不完全に折り畳まれたタンパク質を生じることが予期される。例外は、ほとんどすべてのU7Ub2(
図1B)の間で共有され、溶媒に露出し、β1−β2周辺の新規パッキングに比較的無関係であるLeu71Arg変異である(
図7B−C)。従って、埋もれた非天然型のコアが、一変異単位として追加又は差し引かれ、同様に位置71が選択されたArg又は野生型Leuへ改変された。U7Ub25.2540に見出される親和性成熟表面残基の重要性も調べた。以下の説明において、クローン名は、コア変異のアイデンティティー、ドットの後に何かが示されていた場合には表面変化を示し、71位の残基のアイデンティティーはアンダースコアが前についている。例えば、Ubwt.2540_L71は、野生型ユビキチンコアを含む変異体、U7Ub25.2540に見いだされた親和性成熟表面変異、及び位置71でのロイシン(野生型アイデンティティー)を示している。
【0285】
新たにパッキングされたコアの関連では、Arg71がUSP7への結合に重要である(
図10、U7Ub25_L71対U7Ub25_R71)。しかし、ユビキチンの野生型コアと対合したArg71変異は、強固な結合のためには不十分である(Ubwt_R71対Ubwt_L71)。従って、β1−β2周辺の埋もれた変異によって生まれたパッキングは、Arg71の適切な配置のために重要であると思われる。同様に、親和性成熟表面全体の複数の変異は、野生型コアとの関連で幾つかの親和性を付与するが(
図10、Ubwt.2540_L71対Ubwt_L71)、これらの変化は、付随する再パッキングされたコア及びArg71の両方の存在下で最も効果的である(
図10、U7Ub25.2540_R71対Ubwt.2540_L71)。注目すべきことに、再パッキングされたコアを除いてあらゆる変異を保有する変異体はそのUSP7への結合において強く妥協される(
図10、U7Ub25.2540_R71対Ubwt.2540_R71)。
【0286】
要するに、この例では、U7Ub25及びU7Ub25.2540で見出された、埋もれた表面の変異は、USP7に対する親和性の強力な増加を得るために密接に協働することを示している。
【0287】
実施例5:U7Ubの立体構造的に安定化されたユビキチン変異体は、USP7触媒活性を阻害する
この例では、USP7に対するU7Ub25とU7Ub25.2540の結合がUSP7のタンパク質分解性脱ユビキチン化酵素の酵素活性に関して阻害性であるかどうかを決定する。
【0288】
材料と方法
0〜20μMの濃度範囲でのユビキチン変異体を、250nMのユビキチン−AMCと混合した(Boston Biochem, Boston, MA、カタログ番号U−550)。0.05%のTween20、0.1%のBSA及び1mMのDTTを含むPBS緩衝液中で、USP7、USP47、USP2及びUSP5に対してDUBがそれぞれ2nM、5nM、3nM及び5nMのパネルは、30分間、ユビキチン−AMC/ユビキチン変異体混合物に添加され、初期速度を、340nmで励起した蛍光及び465nmでの発光をSpectraMax(登録商標)M5e(Molecular Device, Sunnyvale, CA)を使用してモニタリングすることにより、直ちに測定した。初期速度を、増加する蛍光シグナルの勾配に基づいて算出した。また酵素活性は、濃度を増加させたユビキチン変異体を、20nMのUSP10又は1.7nMのUSP7、及び2μMのユビキチン−AMCと1時間インキュベートし、その後、蛍光強度を測定することにより、USP10及び全長USP7のエンドポイント蛍光強度として測定した。両方の場合において、速度は最大速度のパーセンテージに対して正規化され(阻害剤の濃度がゼロである場合)、データは、カレイダグラフを用いて以下の式に当てはめることにより処理した。
【0289】
ここでvは最大速度のパーセンテージであり;Iは阻害剤(ユビキチン変異体)の濃度であり;v0及びvmaxはそれぞれ最小と最大のパーセンテージである。
【0290】
結果
速度論的アッセイにおいて野生型ユビキチンについて競争するU7Ub25とU7Ub25.2540変異体の能力を評価した。
図12Aに示すように、7Ub25とU7Ub25.2540は、同様のIC
50(それぞれ250nM及び160nM)により完全長USP7活性を阻害し、これは、USP7を阻害する野生型ユビキチンの能力に対して1,000倍以上の改善を示している(表11)。これは、バイオレイヤー干渉法及びITCによって測定されるKd値と一致している(
図1D、5C、及び表9)。
【0291】
【0292】
U7Ub25及びU7Ub25.2540がUSP型酵素を阻害する特異性を試験するために、USP2触媒ドメイン、USP5、USP10及びUSP47に対するこれら二つのユビキチンの変異体のIC
50を測定した(
図12B−E及び表11)。USP2は、一般的な高活性脱ユビキチン化酵素として選択され、一方、USP5は、異なる機能を持つ複数のユビキチン結合部位を含むために選択された
16。USP47は、USP7に最も密接に関連した脱ユビキチン化酵素であり、特異性の厳密な試験である。USP10は、p53を脱ユビキチン化及び安定化させることが知られており、従って、USP7の作用に直接対向している。p53を安定化するUSP7を標的とする分子は、従って、USP10との交差反応性を避けなければならない。
【0293】
U7Ub25及びU7Ub25.2540の両方とも、最高20μMの濃度までUSP2及びUSP10の活性に影響を与えず(
図12B、C)、USP47の阻害において野生型ユビキチンに類似している(
図5D)。驚くべきことに、U7Ub25及びU7Ub25.2540の両方とも、野生型ユビキチン(IC
50=8.27μM)と比較して、USP5の比較的強力な阻害剤である(それぞれIC
50=373nM及び251nM)(
図12E、上)。しかし、阻害のメカニズムは、野生型と比較して、これらの二つの変異体において異なる。抑制濃度以下のユビキチンは、ジンクフィンガー(ZnF4)ドメインへの結合を介してUSP5を強く活性化し、これは線状ユビキチン鎖に対してUSP5の細胞機能を調節すると提唱される活性である。特記すべきは、U7Ub25及びU7Ub25.2540のどちらもアロステリックにUSP5を活性化せず(
図12E、下)、これらは調節性ZnF4ドメインに結合せず、触媒性USPドメインにのみ結合することを示唆している。USP5のZnF4ドメインは主にユビキチンのC末端に結合するので、USP5の阻害を抑制する試みにおいて、U7Ub25の最後の2つのグリシンを削除した。得られた変異体、U7Ub25ΔGGは、全長USP7に対してその効力を保持するが、もはやUSP5を阻害しない(
図12A、E)。
【0294】
要約すれば、この例では、U7Ub25及びU7Ub25.2540の立体構造的に安定化されたユビキチン変異体は両方とも、USP7及びUSP5の酵素活性を阻害するが、USP2又はUSP10には影響を与えないことを示している。
【0295】
実施例6:U7Ub25.2540の立体構造的に安定化されたユビキチン変異体は、ヒト細胞での強力かつ選択的なUSP7阻害剤である
U7Ub変異体はユビキチンススキャフォールドに基づいているので、この実施例では、安定化されたユビキチン変異体は、細胞ユビキチン連結機構と相互作用し及び/又は妨害するかどうか、並びにその変異体がポリユビキチン鎖に組み込まれることが可能であるかどうかを調べる。
【0296】
材料と方法
哺乳動物発現コンストラクト及び細胞培養
3XHA−野生型ユビキチンコンストラクトを、3XHAユビキチン(MCLAB)を合成し、pcDNA3.1(Invitrogen)にサブクローニングすることによって作製した。3XHA−U7Ub25.2540コンストラクトを、ファージ溶液からU7Ub25.2540をPCR増幅し、その生成物を、N末端に3X HAタグを含む修飾されたpcDNA3.1(+)ベクター(Invitrogen)にサブクローニングすることにより作成した。3XHA pcDNA3.1ベクターは、次のような制限部位であるNheI及びHindIIIを使用して、コザック配列を含む3XHA配列で連結することにより生成された:gctagcGCCGCCACCatggagTACCCATACGACGTACCAGATTACGCTTACCCATACGACGTACCAGATTACGCTTACCCATACGACGTACCAGATTACGCTaagctt
【0297】
U7Ub25.2540はその後、BamHI及びEcoRI制限部位を用いて、3XHApcDNA3.1(+)ベクターにクローニングした。ΔGGバージョン(UbΔGG及びU7Ub25.2540ΔGG)は、Gly75及び76(GGTGGT)を停止コドン(TGATGA)に変異させることによって生成した。ヒト細胞株であるHEK293T、U2OS、及びSiHa細胞はATCCから入手し、HCT116親細胞株及びUSP7−/−細胞株は、Horizon Discoveryから得た。細胞は、標準的なプロトコールに従って維持され、DNAトランスフェクションは、リポフェクタミン2000トランスフェクション試薬(Invitrogen)を使用して達成された。
【0298】
イムノブロッティング分析及び免疫沈降
以下のタンパク質に対する抗体を指定業者から購入し、前述のように、標準的なプロトコールを用いて免疫ブロッティングに使用した
56。HA−HRP(Sigma HA-7)、ユビキチン−HRP(Santa Cruz Biotech P4D1)、USP7(Bethyl A300-034A)、USP47 (AbCam ab72143)、USP14(Bethyl A300-919A)、USP10(AbCam ab70895)、USP5(AbCam ab84695)、UCHL1ウサギポリクローナル(Invitrogen)、チューブリンマウスモノクローナル(MP biomedical)、MDM2(Calbiochem Ab-1)、p53(Neomarkers Ab-8)、p21(AbCam ab7960)、及びGAPdH(Assay Designs, 1D4)。標準的な免疫沈降を、示された抗体又は抗体結合アガロース:抗HAアガロース(Roche 3F10)又は抗myc(Covance 9E10)を用いて、前述のように行った(Wertz et al Nature 2004)。ユビキチンの結合選択的抗体の作製及びこれらの抗体を用いた免疫沈降のために最適化された固有のプロトコールは、以前に記載されている
57−59。
【0299】
プロテオミクスと質量分析
抗HA免疫沈降物は、上記のように精製した。タンパク質複合体は、SDSサンプル緩衝液中に溶出し、SDS−PAGEによって分離し、次いで、トリプシンで消化した。ペプチドを、逆相クロマトグラフィーによって分離し、続いてLTQ−Orbitrap Velos(Thermo Fisher)でタンデム質量分析を行った。MS/MSデータは、Mascot
60(Matrix Science, London, UK)を用いて、50ppmの前駆イオンの許容値及び完全なトリプシン特異性を使用して、Uniprotデータベースから抽出されたヒトタンパク質及び一般的な汚染物質を含む、連結された標的−おとり(target-decoy)データベースに対して探索された。ペプチドスペクトルの一致は、線形判別分析を用いて1%FDRに対してフィルターをかけた。
【0300】
結果
E1 UBE1及びE2 Cdc34(K48ポリユビキチン化を促進する)又はUev1a/UbcH13(K63ポリユビキチン化を促進する)を利用する生化学ライゲーションアッセイにおいて、U7Ub3又はU7Ub7の何れもK48又はK63結合鎖に効率的には取り込まれず;単量体ユビキチンプールの枯渇は、変異体は、評価されるE1及び/又はE2酵素に部分的に結合することを裏付けている(
図13)。対照的に、生化学的アッセイにおいてE3タンパク質を含めるとU7Ub変異体の重合を高め得ることは依然として可能であるが、検出可能な重合はU7Ub25で達成されていない。
【0301】
次に細胞性ユビキチン化酵素とU7Ub変異体の相互作用を調べた。この目的を達成するために、野生型ユビキチンのHAエピトープタグ化バージョン、ユビキチンΔGG、U7Ub25.2540、及びU7Ub25.2540ΔGGをヒト細胞で発現させた(
図14A)。生化学的アッセイと同様に、U7Ub25.2540は、細胞環境で発現したユビキチンリガーゼの存在にも関わらず、ポリユビキチン鎖にはほとんど取り込まれなかった(
図14A及び15)。細胞性ユビキチン化パターンの変化は、ウエスタンブロット分析によって検出されず、U7Ub変異体の発現は、内因性ユビキチン連結反応機構への影響を最小限に抑えることを示している(
図14A)。
【0302】
次に、細胞環境におけるU7UbsのDUB結合選択性及びDUB阻害効果を調べた。内因性USP7は、HA−野生型ユビキチンと結合できないが、用量依存的にHA−U7Ub25.2540の免疫沈降が検出された(
図16)。USP5は、HA−U7Ub25.2540免疫沈降で検出された唯一の他のDUBであった(
図16)。U7Ub25からC末端のジグリシンを削除すると酵素阻害アッセイでUSP7に対する更なる特異性を提供したので、親和性成熟型変異体のC末端を除去した(U7Ub25.2540ΔGG)。ヒト細胞株にトランスフェクトされた場合、このクローンは、見かけ上USP5に結合することなく内因性USP7を特異的に免疫沈降する(
図14B)。これらのデータは、質量スペクトル分析により確認される:USP7は、実質的に、2つの細胞株からのHA−U7Ub25.2540ΔGG免疫沈降物中で(最大15倍まで)濃縮されるが、他のほとんどのDUBは、ジグリシン欠失型野生型ユビキチンと比較して、同等又はより少ない程度に、HA−U7Ub25.2540ΔGGによって、プルダウンされる。(
図17)。内因性USP7の結合と一致して、HA−U7Ub25.2540ΔGGの発現は、増強されたMDM2のユビキチン化(
図14C)及び代謝回転(
図14D)によって示されるように、USP7の触媒活性を阻害する。USP7の活性を阻害しMDM2タンパク質レベルを減少させることの最終帰結はp53腫瘍抑制因子の安定化である(
図14E)。
【0303】
従って、この例では、集団生物物理学的データ、生化学的データ及び細胞データは、コンフォメーションディスプレイは、選択的に結合し、それにより発癌性DUB USP7の細胞作用を阻害するユビキチン変異体を操作するために使用されうる強力なツールであることを実証することを示している。
【0304】
実施例7:立体構造的に安定化しUSP14結合ユビキチン変異体を同定するためのコンフォメーションディスプレイの使用
細胞内シグナル伝達の調節におけるその重要な役割のため、DUBは有望な新規治療標的として現れた
31。例えば、プロテアソーム結合性USP14DUBの小分子阻害は、アミロイド形成神経変性に関与しているタンパク質の分解を増強し、腫瘍の進行を防止することが最近示されている。USP型DUB機構と調節の研究は、それらの比較的弱い活性によって複雑化される:USP型DUBの触媒ドメインは、典型的には、10
3から10
5M
−1s
−1の酵素効率と高マイクロモル基質親和性を有し、構造研究における共有結合性の自殺「弾頭」の使用を必要としている
34。対照的に、UCH型DUBは、最大10
8M
−1s
−1の酵素効率及び低ナノモル範囲でのユビキチンに対する親和性を有し、しばしば高度に活性である
35-
36。この例では、コンフォメーションディスプレイは、USP14に強固に結合する安定化されたユビキチン変異体を生成するために使用することができるかどうかを検討する。
【0305】
材料と方法
「アップ」及び「ダウン」β1−β2コンフォーメーションの同定
2.5Å以上の分解能で決定されたパートナータンパク質に結合したユビキチンの全結晶構造はPDBから入手し、単一のユビキチンパートナー対をそれぞれ含む個別のモデルに分割する。β1−β2の優勢なアポコンフォメーションを決定するために二つのアポユビキチン構造(1ubi及び1ubq)も含まれた。各構造の手動探索の後、モデルは、β1−β2ループが明らかに結晶のパッキングに関与する場合には、除かれた。残りの56の構造(表12)は、球状コアsans β1−β2(残基1〜5と11〜70)のCα上でペアワイズアラインメントし、β1−β2ループ(残基6〜10)CαのRMSDが計算された。これらのペアワイズRMSDはマトリックスに整理しMATLABを用いてクラスター化した(clustergram, Bioinformatics toolbox)。2つの主要なクラスターの各々の構造を目視探索により、それらがβ1−β2の「アップ」及び「ダウン」コンフォーメーションを表していることを明らかにした。各複合体についてのPDBコードと各パートナーの鎖識別子を含む、完全ラベル付きclustergramは
図21で利用可能である。
【0306】
【0307】
β1−β2コンフォーメーションに重要な残基を決定する計算による設計
β1−β2のコンフォーメーションに影響を与える位置は計算による設計戦略を用いて同定した。簡潔には、ユビキチンのβ1−β2領域及び疎水性コア内の残基は、計算で、アップ又はダウンのどちらかの状態に変異させ、野生型ユビキチンと比較して別の好適なアイデンティティを採る位置及び逆の状態は、ファージディスプレイ実験における変異が考慮される。
【0308】
次の鋳型の結晶構造が計算による設計のために選択された:アポ野生型ユビキチン(1ubi)、結合型「アップ」状態(1cmx、1xd3、3ifw)、及びUSP結合型「ダウン」状態(2ayo、2hd5、2ibi)。単一状態と多状態の設計戦略の両方を用い、位置3、5、7、8、13、15、23、26、30、34、36、43、50、56、61、67、69、及び71を変異させた。単一状態のプロトコールでは、各鋳型はロゼッタデザイン(RosettaDesign) (Kuhlman, et al., Science 302, 1364-1368 (2003))を用いて独立して10000回設計され、系の全エネルギーによる上位1000の配列が他の鋳型と比較された(
図22A)。多状態プロトコールでは、遺伝的アルゴリズムを用いて設計された各鋳型は、150世代の2000のメンバーの集団全体にわたって3つの「ダウン」正状態(2ayo、2hd5、2ibi)を好み、3つの「アップ」負状態(1cmx、1xd3、3ifw)を嫌う適合度関数を最適化するために使用された (Havranek & Harbury, Nat. Struct. Biol. 10, 45-52 (2003))。このプロトコールは、各正状態の主鎖の鋳型について3回独立に繰り返し、位置特異的スコア行列は、配列適合度のボルツマンの重み付けを用いて構築された(
図22B)(Smith & Kortemme, PLoS ONE 6, e20451 (2011))。単一状態及び多状態の方法は両方とも、位置7、8、13、34、36、61、及び71における野生型残基は、「ダウン」USP結合状態にとって準最適であることを示した(
図22)。これらの位置は、隣接する位置69とともに、その後のファージディスプレイ実験においてNNKコドンへ無作為化された。
【0309】
計算によるクロスドッキング
USP−又はUCH型脱ユビキチン化酵素に結合したユビキチンの構造(PDBコード3IFW、2AYO、2HD5、1CMX、1XD3、及び2IBI)は、ユビキチン(B鎖)、および脱ユビキチン化酵素(A鎖)成分に分離された。柔軟なC末端尾部の配置に起因する結晶バイアスを回避するため、ユビキチンの球状構造部分(残基1−70)のみがドッキングされた。結合型複合体の記憶はアポ状態における全側鎖を事前にパッキングすることによって除いた。各ユビキチンの構造は、同種のユビキチン上にアラインすることによって全ての脱ユビキチン化酵素の結合部位に配置され、次いで、3Åと8Åの小さなランダムな摂動後に、ロゼッタドック(RosettaDock)(Gray, et al., J. Mol. Biol. 331, 281-299 (2003))を用いて脱ユビキチン化酵素にドッキングした。ユビキチン−脱ユビキチン化酵素複合体あたり18000の軌跡が実行され、各組み合わせの系の全エネルギーは、ゼロのスコアに設定された最も低いスコアリングモデルに対して正規化した。残基1〜70についてのCαのRMSDは、問題の脱ユビキチン化酵素に結合したユビキチンの同種構造に対して計算された。
【0310】
M13ファージ上でのユビキチンの提示
ユビキチンは、前述したファージミドpS2202dを改変することによってM13バクテリオファージの表面に提示された(Skelton, N. J. et al., J. Biol. Chem. 278, 7645-7654 (2003))。標準的な分子生物学の技術が、Erbin PDZドメインをコードするpS2202dの断片を、ユビキチンをコードするDNA断片と置換するために使用された。得られたファージミドp3Ubは、マルトース結合タンパク質分泌シグナル、gDタグ及びユビキチン、そして最後に主要コートタンパク質p3のC末端ドメインをコードするオープンリーディングフレームを含んでいた。p3Ubを保有する大腸菌は、M13−KO7ヘルパーファージと共感染させ、標準的なプロトコールに従って、増幅した(Tonikian et al., Nat Protoc., 2(6):1368-86 (2007))。伝播されたファージを標準的なプロトコールに従って精製し(Tonikian et al., Nat Protoc., 2(6):1368-86 (2007))、1mLのPBTバッファー(PBS、0.5%BSA及び0.1%Tween20)中に再懸濁し、p3Ub DNAを封入し、ユビキチンを表示するファージ粒子の産生をもたらした。提示レベルは、ファージELISAを用いて分析した。
【0311】
ライブラリーの構築と選別
ユビキチンライブラリーは、キュンケル突然変異誘発法を用いて構築した(Kunkel, et al., Meth. Enzymol. 154, 367-382 (1987))。野生型ユビキチン残基T7、L8、I13、E34、I36、L69及びL71は、NNKコドンで無作為化した停止鋳型(stop template)(7−13、34−36及び69−71の領域で3つの停止コドンを含有するp3Ubの一本鎖DNA)は、〜2×10
10のユニークなメンバーが含まれるライブラリーを構築するために使用された。ライブラリーは、USP14のC114A変異を有するC末端モノユビキチン化触媒ドメイン(残基D91−Q494)(USP14catC114Aとして指定される)に対して、溶液中で複数ラウンドの結合選択を繰り返した。第一ラウンドでは、20μgのビオチン化USP14catC114Aの20gを1mlのファージライブラリー(〜1×10
13pfu/mL)とともに2時間4℃でインキュベートし、以前にブロッキング緩衝液(PBS、1%BSA)でブロックされているDynabeads(登録商標)MyOneストレプトアビジンの200μlにより室温で15分間捕捉した。上清を廃棄し、ビーズはPBS、0.1%のTween20で3回洗浄した。結合したファージは、400μLの0.1MのHClで7分間溶出し、直ちに1Mのトリス、pH13の60μLで中和した。溶出したファージはTonikian et al., Nat Protoc., 2(6):1368-86 (2007)により記載されるように増幅した。ラウンド2では、プロトコールは10μgのビオチン化USP14catC114Aと100μLのダイナビーズを用いた以外はラウンド1と同じであった。第3ラウンドと第5ラウンドにおいて、2μgのビオチン化USP14catC114Aは、前のラウンドからの増幅されたファージとともにインキュベートされ、ファージUSP14catC114A複合体は、以前にブロッキング緩衝液で処置されたニュートラアビジンコーティングプレートにより捕獲された。ラウンド4は、ビオチン−USP14catC114A−ファージ複合体を捕獲するためにストレプトアビジンでコーティングしたプレートを用いた以外は、ラウンド3と同一であった。ファージは、30℃でM13−KO7ヘルパーファージによって大腸菌XL1−blueにより標準的なプロトコールに従って伝播された(Tonikian et al., Nat Protoc., 2(6):1368-86 (2007))。
【0312】
スポットファージELISA
5ラウンドの結合選択の後、個別のファージクローンを採取し、50μg/mlのカルベニシリン及びM13−KO7ヘルパーファージを96ウェルブロック中に含む450μlの2YT培地に播種し、これを37℃で一晩増殖させた。以下のように上清をスポットファージELISAで分析した:ビオチン化USP14catC114Aは、ニュートラビジンをコーティングした384ウェルのMaxisorpイムノプレートに捕獲され、PBT緩衝液で希釈した(1:3)ファージ上清(1:3)をウェルに添加した。プレートを洗浄し、結合したファージを、抗M13−HRP、続くTMB基質で検出した。これらのアッセイにおいて、バックグラウンド結合の評価と平行して、ニュートラアビジンのみに対するファージ結合が試験された。USP14catC114Aに対する結合シグナルが、ニュートラアビジン(バックグランド)に対するよりも5倍以上高いクローンは陽性とみなした。陽性クローンをDNA配列分析に供した。
【0313】
ユビキチン変異体の発現及び精製
ユビキチン変異体をコードするDNAを、N末端の6×Hisタグを有するpET誘導体ベクター(EitNTHベクター)にクローニングし、前述のようにし大腸菌で発現させた(Dueber, et al., Science 334, 376-380 (2011))。簡潔には、BL21(DE3)ゴールド大腸菌細胞をプラスミドを含有するU14Ubで形質転換し、50mg/Lのカルベニシリンを含有するLB培地中でOD
600が〜0.7まで増殖させ、0.2−0.5mMのイソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシドで16℃で16時間誘導し、次いで遠心分離により回収した。細胞をPBS+ロシュ完全プロテアーゼ阻害剤(EDTA無し)及び10mMのイミダゾールに再懸濁し、超音波処理により溶解した。可溶性画分をNi−NTA樹脂(Qiagen)にロードし、PBS+20mMのイミダゾールの約10カラム容量で洗浄し、次いでPBS+300mMのイミダゾールで溶出した。その後、6xHisタグは、結晶学及びNMR分光法のために、TEVプロテアーゼの添加によりタンパク質から切断され、4℃で一晩PBSに対して透析した。次いで、この溶液をNi−NTA樹脂上に流して、切断されたタグとTEVを除去した。次いで、サンプルは、3kDaのMWCO−ウルトラフリー15遠心フィルター装置(Amersham)を用いて濃縮し、ゲル濾過カラムに流した(S75スーパーデックス16/60、GE Healthcare)。画分をプールし、SDS−PAGEにより分析し、1−20mg/mLまで濃縮した。
【0314】
サンプルはNMR分光法用に、細胞を遠心沈殿し、U−
2H,
13C−D−グルコース及び2/3
2H
2Oを含有するM9培地に移される修正を伴ったCai et al. (J Biomol NMR 11, 97-102 (1998))の方法に従って行われた標識化により調製された。約50%の重水素化がμsのR
exの実験の実施のために必要とされる(Hansen, et al., J. Am. Chem. Soc. 129, 11468-11479 (2007))。NMRサンプルは、10%の
2H
2O及び0.1mMトリメチルシリルプロピオン酸を含んでいた。重水素取り込みは、き質量分析により、およそ50%であると決定した。
【0315】
ELISAによる結合アッセイ
ビオチン化USP14catC114A、UCHL3、又はUCHL1は、以前にブロッキング緩衝液によってブロックされたニュートラアビジンをコーティングしたMaxisorp(登録商標)プレート上で捕獲され、PBT緩衝液中で4℃で1時間、0〜20μMの濃度範囲で、Hisタグ付きユビキチン変異体の1:3連続希釈とともにインキュベートした。次いで、プレートをPT緩衝液で洗浄し、結合したHisタグ付きタンパク質は、抗ペンタHis−HRPコンジュゲート(Qiagen、カタログ番号34460, Germantown, MD)、続いてTMB基質によって検出された。
【0316】
バイオレイヤー干渉法による親和性測定
USP14catC114Aへのユビキチン変異体の結合親和性はOctetRed384上でバイオレイヤー干渉法により測定した(Fortebio, Menlo Park, CA)。ストレプトアビジンバイオセンサー(Fortebio、カタログ番号18−5020)は、0.05%のTween20及び0.5%のBSAを含有するPBS緩衝液中でビオチン化USP14catC114Aとロードされ、同じ緩衝液中で洗浄され、同じ緩衝液中で0〜50μMの範囲の濃度で、ユビキチン変異体を含むウェルに移された。緩衝液のみを含む基準細胞に対するシグナを全ての結合データから差し引いた。リガンドの各濃度について、2つのバイオセンサーが、ロードされたビオチン化USP14catC114Aの有無にかかわらず、並行して結合を検出するために使用された。むき出しのバイオセンサによって検出されたシグナルは、USP14catC114Aをロードされたバイオセンサーからの結合シグナルから差し引いた。解離定数K
Dは、オクテット(Octet)ソフトウェアを使用して、定常状態のアルゴリズムに対する応答の非線形フィッティングにより得た。
反応速度について、結合データは、二相性会合モデルの以下の式に対してカレイダグラフソフトウェアを使用してフィッティングされた。
R
maxは最大応答である。
f
fastは、総Rmaxに対する急速相からの寄与の画分である。
k
fastは、急速相結合についての会合定数である。
k
fastは、緩徐相結合についての会合定数である。
rは任意の時点での応答でtは時間である。
解離定数k
offは、オクテットソフトウェアを使用して、解離データを1:1モデルにフィッティングすることによって得た。
【0317】
急速相においては、k
on=(k
fast−k
off)/[L](式2)であり、ここで[L]はリガンドの濃度である。緩徐相において、k
slow=k
f+k
r/(1+[L]/K
D)(式3)は「コンフォーメーション選択」用であり、k
slow=k
r+k
f/(1+K
D/[L])(式4)は、「誘導適合」モデル用である(Hammes, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 106, 13737-13741 (2009); James et al., Science 299, 1362-1367 (2003))。
【0318】
速度論的フィッティングに由来するK
Dは、k
off/k
onとして算出され、ここでk
onは式2から計算した。
【0319】
様々なリガンド濃度で式1から得たk
slowの依存性の形から、誘導適合モデル(式4)は、実験データを説明することは明らかであった。フィッティングの過程において、K
Dは自由なパラメーターであり、k
slowのフィッティングから得た値は、定常状態及び速度論的フィッティングの両方から得たK
Dの値に対して比較された(表13)。
【0320】
【0321】
示差静的光散乱を用いた熱安定性の測定
Vedadi et al
(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 103, 15835-15840 (2006)により概説されるように、U14Ubの熱安定性は、市販の示差静的光散乱装置(Stargazer, Harbinger Biotech)を用いて野生型ユビキチンに対して比較された。各タンパク質の濃度は0.2mg/mLであった。
【0322】
結果
ユビキチンのβ1−β2ループのダイナミクスを改変するため、突然変異によってUSP−結合「ダウン」状態を安定化することが予測されるコアの位置が、単一状態と多状態ロゼッタデザイン(RosettaDesign)の両方を使用して、計算上で探索された
37−39。両方のタイプ設計実験が、変異はUSP−結合状態を好むことが予測される、一致した一組の位置を同定した。この情報は、ユビキチン変異体のファージディスプレイされたライブラリに組み込まれ、これはUSP14のUSPドメインの触媒的に不活性な変異体に対してパンニングした(
図22)。
【0323】
USP14結合ユビキチン変異体(U14Ub)を選択すると、位置7のグリシンのほぼ不変な導入など、幾つかの強い配列優先性が得られた(
図18A)。40を超えるU14Ub(U14UbXXと指定;XXはクローン番号を示す)がクローニング、発現、精製され、そしてELISA及び/又はバイオレイヤー干渉法により、USP14、UCHL1、及びUCHL3に結合するそれらの能力をスクリーニングした。解析は、USP14:U14Ub1、2、14、22、及び24に対する最高の見かけの親和性を有する5つのクローンに焦点を合わせた。熱安定性測定は、U14Ubは、野生型に関して有意には不安定化されていないことを示している(
図27)。これらのユビキチン変異体のELISA及びバイオレイヤー干渉滴定は、各々が野生型ユビキチンと比較して100〜500倍改善された親和性でUSP14と結合することを明らかにした(
図18B)。反対に、各変異体は、野生型よりも40〜2000倍弱い親和性でUCHL1とUCHL3と結合する(
図18B、表14)。U14UbによるUSP14の滴定の厳密な調査は最初に、会合速度論の単一パラメータフィッティングはデータを説明するには不十分であることを明らかにした。実際、二相性会合が観察され、U14Ubの濃度に対する遅い速度の依存性は結合の誘導適合機構を示している(
図18C及び28−29)
40。
【0324】
【0325】
U14Ubがコンフォーメーション選択機構によりUSP14を結合する場合、USP14結合に適したU14Ubの集団状態は野生型と比較して濃縮されるであろうことが予想され;その最も極端では、これはU14Ubの基底状態の構造の変化をもたらす可能性がある。しかしながら、U14Ubが、誘導適合機構を介してUSP14を結合する場合、U14Ub−USP14の遭遇複合体と完全に結合した状態との間の遷移はより有利に働くことが予想される。コンフォメーション選択及び誘導適合結合モデルは、単一の反応サイクルの両極端を表しており
40、従って、経路の一方のアームを不利にする任意の摂動は、他に有利に働くであろう。両方の結合機構は、野生型ユビキチン結合相互作用において役割を果たしているように見えるので
29−
30、誘導適合によって支配される結合機構と一致した結合反応速度の観察は、アポU14Ubの立体構造のアンサンブルでのサブ状態間の遷移における摂動に連結され得る。
【0326】
バイオレイヤー干渉法により検出された、U14UbによるUSP14の滴定の更なる探索は、1000秒の測定を通じて単一相会合モデルに適合しなかった(
図35)。しかし、測定時間が1,800秒まで延長されると、バイオレイヤー干渉法により検出される、U14UbによるUSP14の滴定は、単一相解離モデルに合理的に良好にフィットすることがわかった(
図36)。早い時点でU14Ubの高濃度で、理想化された挙動からの小さな偏差があり、理論に束縛されることなく、U14Ub−USP14結合事象の誘導適合性質に連結される可能性がある。しかしながら、これらのデータは、早期の相を十分にサンプリングするために利用可能な限られたデータに起因して、二相性の解離モデルに適合しなかった。
【0327】
この例では、コンフォメーションディスプレイの技術は、野生型ユビキチンと比較して100〜500倍に改善された親和性でUSP14に結合する、立体構造的に安定化されたユビキチン変異体を首尾良く識別できることを実証している。このユビキチン変異体は、USP14に関して誘導適合機構と一致した結合反応速度を示している。
【0328】
実施例8:U14Ub2の結晶構造
この実施例では、誘導適合結合機構を目的とする変化とアポU14Ubの構造及びダイナミクスとの間の関連を調査する。
【0329】
材料と方法
X線結晶学及び構造決定
結晶学のためのU14Ub2は、100mMのNaClを含む25mMのHEPES pH7.2中で行われた最終的なゲル濾過工程を通って上記のように精製された。最終プールは、15ミリグラム/mLに濃縮し、−80℃で凍結した。U14Ub2は、母液に対するタンパク質(15mg/mL)の比率が1:1からなるハンギングドロップ中で、母液(0.1MのMES pH6.1、1%の2−メチル−2,4−ペンタンジオール、及び3.5Mの硫酸アンモニウム)上につり下げられ、19℃で結晶化した。結晶は2日後に現れ、1週間で最大の大きさに成長した。データ収集のために結晶は、新鮮な母液に移した後、液体窒素中で急速冷凍した。結晶は、2.54Åまで回折し、空間群P2
1に属し、非対称単位中に8つ分子を含む。単一ユビキチン鎖(PDBコード:1UBQ)を、分子置換のためのサーチモデルとして用いた。結晶学的統計は表15に示される。
【0330】
【0331】
結果
U14Ub2の結晶構造が解かれ、全5つのU14Ubの主鎖NMR共鳴がアサインされた。結晶構造及びNMR由来のCS−ロゼッタモデル
41の両方とも、変異体のそれぞれの基底状態の折り畳みは、野生型と区別できないことを示している(
図24及び31)。しかし、U14Ubの全ての
1H/
15N HSQCスペクトルにおいて、主鎖アミド共鳴の多くは、野生型に対して広幅化している(
図19A)。広幅化した残基は、β1−βループ周辺と近接するβ3及びβ5ストランドにおいて空間的にクラスター化しており、これらの領域における高次構造ダイナミクスの調節を示している。反対に、{
1H}−
15N異種核NOEは、大部分が変化ないままであり、速い、サブナノ秒の運動は摂動を受けないことを示している
42。
【0332】
野生型ユビキチンのβ1−β2の領域は、サブ50μsの時間スケールで可動的であるとする観察とともにまとめると
28、この実施例において観察された線の広幅化は、小規模の高速運動は変化することなく、アポU14Ubのこの領域における大規模なコンフォーメーションダイナミクスの減速を示している。
【0333】
実施例9:立体構造的に安定化されたユビキチン変異体におけるβ1−β2領域のコンフォーメーションダイナミクス
この実施例では、立体構造的に安定化されたタンパク質のβ1−β2構造モチーフは、野生型ユビキチンのこの領域で観測可能な運動と比較して、ダイナミクスの減速を示すかどうかを調べるために、R
2分散実験を利用する。
【0334】
材料と方法
NMR分光法
野生型ユビキチン及びU14Ubについての共鳴アサインメントは、PINE(Bahrami et al., PLoS Comput. Biol. 5, e1000307 (2009))を使用して
1H−
15N HSQC、HNCA、HNCACB及びHNcoCAスペクトルのピーク位置の半自動化分析から得られた。化学シフトは、トリメチルシリルプロピオン酸を基準とした。野生型ユビキチン及びU14Ubに対して、ほとんど完全な主鎖のアサインメントが得られた。E24及びG53のアミド共鳴は全てのタンパク質において観測されない。以下に説明され、
図19および
図23に示されているように、U14Ubの全ては、化学交換に起因するNMRの共鳴の広幅化を示している。これは、残基間の連結性を確立するためにより高い温度で行われる三重共鳴実験を必要としたU14Ub14で最も顕著である。要約すると、全てのタンパク質において残基24と53に加えて、U14Ub1においては残基9と12は観測されず;U14Ub2においては残基9と73は観測されず;U14Ub14においては残基8−12、41及び72は観測されず;U14Ub24においては残基9と10は観測されない。アミノ酸配列と共に、
1H、
15N、
13Cα及び
13Cβの化学シフトが、CS−ロゼッタモデルの発生のための入力として用いられた(Shen, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 105, 4685-4690 (2008))。各U14Ubについて、最下限エネルギーのCS−ロゼッタモデルは、野生型と区別できない単一のフォールドにに収束した(
図24)。全てのNMRデータセットは、ブルカーDRX分光計により18.8Tで、又はブルカーアバンスIII分光計により14.1Tで収集した。NMR実験は24℃で行い、重水素化メタノールに対して較正された(Findeisen, et al., Magn Reson Chem 45, 175-178 (2007))。
【0335】
{
1H}−
15Nの異種核NOE値は、Grzesiek及びBaxの方法に従って決定した(Grzesiek & Bax, J. Am. Chem. Soc. 115, 12593-12594 (1993))。全ての実験における待ち時間(recycle delay)及び
1H照射時間は、それぞれ5秒と1に設定した。マイクロ秒R
ex値は、H
z’N
z、H
zN
z’、H
z’N
z’、及びH
zN
z R
1ρ測定から抽出し、ここでプライムは緩和遅延の間のスピン・ロックフィールドの存在を表している(Hansen, et al., J. Am. Chem. Soc. 129, 11468-11479 (2007); Hansen et al., J. Am. Chem. Soc. 131, 16257-16265 (2009))。用いられるスピンロック・フィールドは、
1H及び
15Nの周波数において、それぞれ10kHz及び2kHzであった。スピンロッック照射による全ての実験において遅延時間は2msと32msの間であり、照射の無い場合に記録されるH
zN
zにおいて4及び128msであった。これらの実験の各々は、各面において64のコンプレックス(complex)
15Nポイント(points)による疑似3Dとして記録され、9つの緩和遅延時間は、示差試料加熱による潜在的なアーチファクトを軽減するために、インタリーブ方式で記録された。エボリューションカーブ(Evolution curve)は、nmrPipe53を用いてフィットさせ(Delaglio, et al., J Biomol NMR 6, 277-293 (1995))、データ解析はHansen et al. (J. Am. Chem. Soc. 131, 16257-16265 (2009))に従って行った。
【0336】
より完全に分散曲線をサンプリングするため(Mulder, et al., J. Am. Chem. Soc. 123, 967-975 (2001))、R
2分散データセットは、2点フィッティングから決定されたR
2obsを用いて、Tollinger et al. (J. Am. Chem. Soc. 123, 11341-11352 (2001))の方法論に従って収集した。データセットは、各面及び約15のCPMG周波数において64のコンプレックス(complex)
15Nポイント(points)により、インターリーブされた擬似3Dとして収集された。サンプリングされたCPMG周波数は50と950Hzの間であり、2つの周波数がエラー解析のために反復された。結果及び
図25に記載される、msのR
ex対配列のプロットは、50及び950HzのCPMG周波数で決定されたR
2obsの違いから導かれた推定値である。R
2分散曲線は、全てのU14Ubに対して18.8T及び14.1Tで収集された。U14Ub1、2及び14は、GUARDDプログラム(Kleckner & Foster, J Biomol NMR 52, 11-22 (2012))を介してMATLABの中に実装されたカーバー・リチャーズ(Carver-Richards)の式(Richards & Carver, Journal of Magnetic Resonance (1972))に対して適合されるべき十分な分散を持っていた。分散データは、物理的にクラスタ化し、同様の交換挙動を示す残基のグループに対して適合させた(
図26)。U14Ub2を除く全てのU14Ubは、交換速度が速く(fast exchange regime);従って状態間の集団と化学シフトの違いは区別することができない。U14Ub1、U14Ub2、及びU14Ub14について決定された交換速度は、それぞれ4700±1200s
−1、1250±260s
−1、及び1870±190s
−1である。U14Ub2の基底状態の集団は99.6±0.05%である。R
2分散は、より低い温度で調べられたが、データセットは、目的の領域における広幅化の増大に起因して一般には分析に適していなかった。
【0337】
結果
安定化されたユビキチン変異体が、β1−β2領域では、大規模なコンフォーメーションダイナミクスの減速を示すことを確認するために、そして、これらの運動の性質に対するより深い洞察を提供するために、ミリ秒の時間スケールでの動きに敏感である、R
2分散実験(ms R
ex)
42、並びにマイクロ秒の時間スケール(μs R
ex)における主鎖アミドのダイナミクスを探索するH
zN
z R
1ρ R
ex測定が行われた
43。これらの測定では、R
exの値が高くなると、実験によって探索される時間スケール上での可動的セグメントのコンフォメーション交換が遅くなることを意味する。野生型ユビキチンに存在する運動は大部分が非常に速くms R
exによって観察することができないが
44、U14Ubの幾つかは室温で有意なR
2分散(ms R
ex)を示し、最も劇的にはU14Ub14において示した(
図19B)。R
2分散データは、二部位交換モデル(two-site exchange model)によく適合するが
42、しかし、U14Ubの大半は速い交換限界にあり、励起状態の集団は、化学シフト変化と分離できないことを意味する。例外は、U14Ub2であり、これは、まばらにしか存在しない励起状態と適合することができる(0.4±0.05%)。三次構造中のβ1−β2ループを囲む領域におけるμs R
exの値は、U14Ubにおいては野生型の対応する位置よりも最大40倍大きく、最も特記すべきはU14Ub2においてである(
図19B)。
【0338】
この実施例は、野生型ユビキチンの運動は、観察するために複雑なRDCベースの分析を必要とするほど高速であるが
28、U14Ubのダイナミクスはかなり遅いμs−msの時間スケールに支配されていることを実証する。アポU14Ubの運動が野生型に比べて減速するので、サブ状態の間のエネルギー障壁が増加していることになる。理論に縛られることなく、誘導適合によって支配される結合機構をもたらす経路のコンフォーメーション選択アームを通じた流れ(flux)が低下していると仮定することができる。
【0339】
実施例10:ポリユビキチン鎖へのU14Ubの組み込み
まとめると、前の例のデータは、基底状態の構造よりもアポ状態のコンフォーメーションダイナミクスを調節することによってU14Ubは親和性の変化を達成することを示している。USP−結合「ダウン」コンフォメーションを安定化するために設計された変異は、コンフォーメーションのサブ状態の間のエネルギー障壁の増加をもたらし、それによって反応サイクルの誘導適合アームを通してU14Ub−USP14相互作用を駆動した(
図20A−B)。この実施例の実験は、U14Ubにおけるコンフォーメーションダイナミクスの減速が、ユビキチンプロセシングの他の態様に影響を与えたかどうかを決定することを目的とする。従って、鎖へと構築されるそれらの能力が検証された。
【0340】
材料と方法
酵母におけるU14Ubの形質転換及び増殖
ガラクトース制御プロモーター上で野生型ユビキチンを発現する、pUB146 URA3標識プラスミドを含む、SUB328(MATa lys2−801 leu2−3、2−112 ura3−52 his3−Δ200 trp1−1 ubil−Δ1::TRP1 ubi2−Δ2::URA3 ubi3Δub−2 ubi4−Δ2::LEU2)コンピテント酵母細胞(Spence, et al., Mol. Cell. Biol. 15, 1265-1273 (1995))は、30℃でYPDRafGal中で増殖させ、ザイモリサーチ凍結−EZ酵母形質転換キットIIを用いて調製された。各U14Ubと野生型ユビキチンは、BglII/Kpn1制限部位を使用して、銅誘導性プロモーター上でYep96 TRP1標識プラスミドにクローニングした(Hanna & Finley, Mol. Cell. Biol. 23, 9251-9261 (2003))。各プラスミドの400ngが、コンピテント細胞とインキュベートし、キットのプロトコルごとに形質転換した。細胞をペレット化し、連続希釈される前にYPDRafGal培地に再懸濁し、Yep96を発現するプラスミドの選択用にドロップがYEPD+5’FOAプレート上に蒔かれた。プレートを、3日間30℃でインキュベートし、画像化した。
【0341】
Ub14鎖の重合
ユビキチン鎖の重合は以前に記載したように(Dong, et al., Structure 19, 1053-1063 (2011)、100mMのトリス(pH8)、20mMのATP、20mMのMgCl
2、及び1.2mMのDTT中で行った。各反応は30μMのユビキチン又は変異体、125nMのUBE1、及び1.25μMのCdc34を含んでいた。反応は20時間37℃で進行させ、次いで還元性SDSローディング緩衝液中で消光させ、18%のトリス−グリシンSDS−PAGEを介して視覚化した。
【0342】
結果
U14UBは、野生型ユビキチンと類似の程度にUBE1及びCdc34によってLys48結合型鎖に構築され(
図32)、β1−β2周りの変異は、ユビキチンシグナル伝達を全体的に中断することなく、DUBの相互作用に影響を及ぼし得ることを示唆している。興味深いことに、U14Ubは、増殖に必要な唯一の鎖結合であるLys48−結合型鎖へとプロセスされるにもかかわらず、酵母においてインビボでの増殖を支持することができない(
図20C)。
【0343】
この実施例では、コンフォーメーションのエネルギーランドスケープの摂動は、どのようにして生体内での劇的な結果をもたらすことができるのかを初めて明らかにする。従って、多様なグループの結合パートナーと相互作用する能力を維持するのに必要な、見事に調整されたユビキチンのコンフォーメーションの可塑性は、真核生物におけるその広範囲の保存に密接に連結される。
【0344】
結論
要約すると、ファージディスプレイは、ランダム又は標的化突然変異誘発と併用して、足場と目的の標的との親和性を向上させる表面の変異を選択するための有効な手法であるが、これらのアプローチは、コンフォメーション特異的効果を選択するために、ダイナミックスを偶然に利用することができるけれども、通常、タンパク質−タンパク質相互作用の際のダイナミクスとコンフォメーション変化の影響を無視している
18。柔軟な標的を所与の状態に「固定する」小分子を使用する方法が最近記述されており、特定のコンフォメーションに結合する抗体を操作することを可能としている。しかし、これは、タンパク質のコンフォメーションの平衡状態に影響を与える化学的ツールの存在を前提としている
1−
2。これらの研究は、配列多様性の方法が、所望のコンフォーメーションを好む配列を意図的に発見するために使用されている最初の例を表すと考えられている。
【0345】
タンパク質のコアに変異を導入し高い親和性相互作用を選択することにより、コンフォメーションディスプレイは標的のアポ状態のエントロピーの減少を暗に促進する。巨大分子の結合は、しばしば特定のコンフォーメーションを締め出すので、アポ状態のエントロピーの減少は、複合体形成の際に小さなエントロピーペナルティへとつながる。これは最初のパニングで見いだされた分子内ジスルフィド結合型U7Ubクローンの優勢から明らかである(
図1B)。特記すべきは、ジスルフィドによる安定化は、柔軟なねじれを持つ小分子は、嵩高い基の添加、不飽和化、又は環化によりより剛性にされる、医薬品化学で一般的に使用される戦略を連想させる
19。タンパク質は一般的に小分子よりもより多くの自由度を有し、その主鎖の柔軟性の決定要因はあまり良く確定されていないので、コンフォメーションディスプレイは、高親和性相互作用を促進するための柔軟性を低下させる埋没アミノ酸の組み合わせを見いだすために多くの配列を効率的にスクリーニングする。
【0346】
更に、治療に関連したUSP−及びUCH型脱ユビキチン化酵素との相互作用に影響を与えるユビキチンの機能的なコンフォメーションが同定されており、USP14に対する親和性を高め、他のDUBとの親和性を減少させるために、これらの状態を連結するエネルギーランドスケープが調節されている。これは、これらは、タンパク質界面におけるコンホメーションの運動に影響を与える第一の機能獲得型変異を表すと考えられている。
【0347】
実施例11:U7Ub25について第二世代の親和性成熟
U7Ub7のアポ構造は、C末端領域は、表面相互作用によってUSP7への結合に関与している可能性があることを示唆している。従って、表面残基の更なる成熟がこの領域で実行された。
【0348】
材料と方法
親和性成熟及びスポットファージELISAは上記のように行った。第二世代の親和性成熟ライブラリーは、ドーピングコドンを用いた表面残基Q40、R42、A46、G47、Q49、Q62、E64、S65、T66、H68、V70及びR72のソフトランダム化(各アミノ酸において約50%の突然変異率)及びNNKコドンを使用したR72−G76のC末端残基のハードランダム化を組み合わせることによって設計された。停止鋳型(stop template)(34−36及び69−76の領域で2つの停止コドンを含有するp8U7Ub25の一本鎖DNA)は、〜2×10
10のユニークなメンバーが含まれるライブラリーを構築するために使用された。ライブラリーはUSP7catC223Aに対して4ラウンド繰り返され、61個のユニークなバインダーが同定された。
【0349】
結果
10個のクローンは、スポットファージ競合ELISA(データ非表示)によって20nMの範囲のIC
50を示し、更なる特徴付けのために選択された(
図33)。10個のクローンのうち5つが発現され、タンパク質として精製し、親和性は、hisタグ付けしたU7Ubの段階希をUSP7catC223Aを固定化したプレートにアプライされるELISAを使用してランク付けし、結合したU7Ubは抗His−HRPを用いて検出した。
図34に示すように、親和性成熟型U7Ub25の第一世代であるU7Ub25.2540と比較すると、第二世代のU7Ub25変異体の全ては結合親和性の改善を示した。最強のバインダー、U7Ub25.216は、U7Ub25.2540に比較すると、約100倍の親和性の改善を有するように見えた。
【0350】
前述の発明は、理解を明確にするために説明と実施例によって少し詳細に説明してきたが記述及び実施例は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。本明細書に引用される全ての特許及び科学文献の開示は、参照することによりその全体が援用される。
【0351】
参考文献
REFERENCES
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【0352】
配列
配列番号1−−野生型ユビキチン
MQIFVKTLTGKTITLEVEPSDTIENVKAKIQDKEGIPPDQQRLIFAGKQLEDGRTLSDYNIQKESTLHLVLRLRGG