特許第6199030号(P6199030)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6199030筒状経編物からなる下半身用衣料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6199030
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】筒状経編物からなる下半身用衣料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A41D 1/06 20060101AFI20170911BHJP
   D04B 21/20 20060101ALI20170911BHJP
   A41H 3/08 20060101ALI20170911BHJP
   A41H 43/00 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   A41D1/06 503B
   A41D1/06 502C
   D04B21/20 Z
   A41H3/08
   A41H43/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-281478(P2012-281478)
(22)【出願日】2012年12月25日
(65)【公開番号】特開2014-125687(P2014-125687A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(72)【発明者】
【氏名】堀 正徳
(72)【発明者】
【氏名】白崎 文雄
【審査官】 一ノ瀬 薫
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第3344621(US,A)
【文献】 特公昭55−29182(JP,B1)
【文献】 特開2007−77544(JP,A)
【文献】 米国特許第3599241(US,A)
【文献】 実開昭56−69618(JP,U)
【文献】 特開2000−96329(JP,A)
【文献】 特開2001−181908(JP,A)
【文献】 特開2005−133264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 1/06
A41H 3/08
A41H 43/00
D04B 21/20
A41B 11/00 − 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前身頃部と後身頃部が外側端部で接結し中央線部で非接結状態にして編成された股上部と、該股上部に股間部を介して連続し筒状に編成された筒状の脚部を有する左側身頃部及び右側身頃部の二つの筒状経編地を、前記股上部の中央線部で縫着し結合してなる下半身用衣料であって、左側身頃部及び右側身頃部の股間部に相当する部位にそれぞれ外方への拡張編地部が設けられてなり、後身頃部の股上高さを前身頃部の股上高さよりも高くされ
股上部における前身頃部及び後身頃部の上部の裏面、並びに股上部の正面及び背面中央線部側の側端部の裏面に、それぞれのサイズに応じた複数の切り出し用の指標部が前記各部と一体に編成されて形成されたことを特徴とする下半身用衣料。
【請求項2】
拡張編地部が三角形状をなし、その先端の広がり角度α1が45〜140度である請求項に記載の下半身用衣料。
【請求項3】
股上部における後身頃部上端のパターンラインが、水平をなすウエストラインに対して外側端部からみて3〜20度上方に傾斜している請求項1又は2に記載の下半身用衣料。
【請求項4】
股上部における前身頃部上端のパターンラインが、水平をなすウエストラインに対して外側端部からみて0〜20度下方に傾斜している請求項1乃至のいずれかに記載の下半身用衣料。
【請求項5】
経編地が伸縮性経編地である請求項1乃至のいずれかに記載の下半身用衣料。
【請求項6】
2列の針床を有する経編機により、それぞれ前身頃部と後身頃部が外側端部で接結され中央線部で非接結状態にして編成された股上部と、該股上部に股間部を介して連続し筒状に編成された脚部とを有する左側身頃部及び右側身頃部となる二つの筒状経編地であって、左側身頃部及び右側身頃部の股間部に相当する部位にそれぞれ外方への拡張編地部を形成し、後身頃部の股上高さを前身頃部の股上高さより高くした二つの筒状経編地を、その周囲の切り出し用のはし渡し部とともに編成し、編成後に、該はし渡し部を切断して各筒状経編地を切り出し、切り出した二つの筒状経編地からなる左側身頃部と右側身頃部を、股上部の正面及び背面中央線部で縫着し結合し、
前記はし渡し部を切断することにより左側身頃部と右側身頃部を切り出して分離し、分離された左側身頃部と右側身頃部において、股上部における前身頃部及び後身頃部の上部の裏面、並びに股上部の正面及び背面中央線部側の側端部の裏面に、それぞれのサイズに応じた複数の指標部を前記各部と一体に編成することにより形成し、着用者の体格や嗜好に基づいて前記複数の指標部から選択された一つの指標部の案内に従って、任意のラインで衣料の要調節部を切断することを特徴とする下半身用衣料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2列の針床を有する経編機により、一部が筒状に編成される筒状経編物からなる下半身用衣料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、2列の針床を有し、2列のジャカードガイドバーを備えるダブルラッセル機等の経編機により編成された筒状経編物からなる衣料として、身体に対するフィット性のよいパンツ、ショーツ、ガードル、シャツ、アウター等の多くのアイテムが開発されている。最近は、衣料の編糸に弾性糸を使用してその伸縮効果を利用して、体形補整や筋肉サポート機能の向上(緊締力の向上)などを図った機能商品も多く開発されている。
【0003】
この様な商品は、2列のジャカードガイドバーで導糸する編糸に、ポリウレタン糸(弾性糸)をポリエステル糸又はナイロン糸等でカバーリングした所謂カバーリング糸を使用し、地組織にはポリエステル糸や各種の加工糸を使用することで多様な機能要求に対応している。
【0004】
例えば、股間部を有するパンツの場合、ヒップ部の膨らみについては、筒状に編成する場合の開口部の大きさに合わせ統計的なデータにより各部分の長さや形状を調整したり、弾性糸等の伸縮性素材を用いることにより調整ができるように編成している。
【0005】
しかし、この様なパンツの場合、着用者個々の体形の違い、即ち、筋肉や脂肪等の付き方や大きさ、長さ、形状等の違いによって、前身頃の腹部上端から股間部まで長さや、後身頃のヒップ部上端から股間部にかけての長さに違いがあり、個々の体形にフィットする商品の作成は困難であった。
【0006】
このような問題に対し、例えば、特許文献1では、ダブルニードル列経編機により一体編成するショーツにおいて、前後一方のニードル列で胴部左側部と左側脚部からなる左側半部を、他方のニードル列で胴部右側部と右側脚部からなる右側半部をそれぞれ編成し、胴部左側部と胴部右側部とを胴部の前後で接結して筒編し、左側脚部と右側脚部をそれぞれ別に編成し、前後の接結編部分の端部から連続して裁断するとともに、この前後の裁断縁の少なくとも一方を、これに連続する接結編部分より編地内方へ湾入させてこの裁断縁を脚部内側で縫製することにより、股部の前後部にゆとりを持たせる方法が開示されている。
【0007】
しかし、この方法では、前身頃及び後身頃の前後股上部の形状や長さは同じとなり、着用時、身体の前後左右の曲げ運動、屈伸運動等の動きにより、後身頃側のヒップ部で下部方向に引っ張られてズリ下がることがあり、満足する着用感が得られないものとなる。
【0008】
このような状況に鑑み、身体の動き(運動)に対し、身体の全体又は一部分に窮屈(圧迫)感や、つっぱり感等を与えにくくてフィット性のよい筒状経編物からなる衣料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−196185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、2列の針床を有する経編機により一部が筒編されて構成される筒状経編物からなる下半身用衣料であって、着用者の体形、特に腰回りの体形に合わせたパターン形状を容易に製造でき、着用者に窮屈感や、つっぱり感を与えることがなく、また後身頃のズリ下がりによる下着の露出等を抑制でき、身体に対するフィット性のよい下半身用衣料を提供するものであり、さらにはその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、(1)、前身頃部と後身頃部が外側端部で接結され中央線部で非接結状態にして編成された股上部と、該股上部に股間部を介して連続し筒状に編成された筒状の脚部を有する左側身頃部及び右側身頃部の二つの筒状経編地を、前記股上部の中央線部で縫着し結合してなる下半身用衣料であって、左側身頃部及び右側身頃部の股間部に相当する部位にそれぞれ外方への拡張編地部が設けられてなり、後身頃部の股上高さが前身頃部の股上高さよりも高くされていることを特徴とし、股上部における前身頃部及び後身頃部の上部の裏面、並びに股上部の正面及び背面中央線部側の側端部の裏面に、それぞれのサイズに応じた複数の指標部が前記各部と一体に編成されて形成された下半身用衣料である。
【0013】
また、(2)、拡張編地部が三角形状をなし、その先端の広がり角度α1が45〜140度である(1)に記載の下半身用衣料である。
【0014】
また、(3)、股上部における後身頃部上端のパターンラインが、外側端部からみて水平をなすウエストラインに対して3〜20度上方に傾斜している(1)又は(2)のいずれかに記載の下半身用衣料である。
【0015】
また、(4)、股上部における前身頃部上端のパターンラインが、外側端部からみて水平をなすウエストラインに対して0〜20度下方に傾斜している(1)乃至(3)のいずれかに記載の下半身用衣料である。
【0016】
また、(5)、経編地が伸縮性経編地である(1)乃至(4)のいずれかに記載の下半身用衣料である。
【0017】
また、(6)、2列の針床を有する経編機により、それぞれ前身頃部と後身頃部が外側端部で接結され中央線部で非接結状態にして編成された股上部と、該股上部に股間部を介して連続し筒状に編成された脚部とを有する左側身頃部及び右側身頃部となる二つの筒状経編地であって、左側身頃部及び右側身頃部の股間部に相当する部位にそれぞれ外方への拡張編地部を形成し、後身頃部の股上高さを前身頃部の股上高さより高くした二つの筒状経編地を、その周囲の切り出し用のはし渡し部とともに編成し、編成後に、該はし渡し部を切断して各筒状経編地を切り出し、切り出した二つの筒状経編地からなる左側身頃部と右側身頃部を、股上部の正面及び背面中央線部で縫着し結合し、
前記はし渡し部を切断することにより左側身頃部と右側身頃部を切り出して分離し、分離された左側身頃部と右側身頃部において、股上部における前身頃部及び後身頃部の上部の裏面、並びに股上部の正面及び背面中央線部側の側端部の裏面に、それぞれのサイズに応じた複数の指標部を前記各部と一体に編成することにより形成し、着用者の体格や嗜好に基づいて前記複数の指標部から選択された一つの指標部の案内に従って、任意のラインで衣料の要調節部を切断することを特徴とする下半身用衣料の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、例えば、ズボン、レギンス、パンツ、ショーツ、ガードル等の股間部を有する下半身用衣料を、編成された左側身頃部と右側身頃部の二つの筒状経編物を縫着することにより構成されるので、製造が容易である上、体形に合わせて、股上部の前後の高さや腰回りの大きさを任意に調節し縫製することができるため、編地による過度な締め付け感が軽減され、着用感を損なうことなく体形にフィットし、姿勢変化によるいわゆる「くい込み」や「つっぱり感」が抑えられ、また立ったり座ったりを繰り返したときや、しゃがんだ姿勢から立ち上がったときに、はき口の背中側がズリ下がってきて、下着が露出したり、またパンツはき口にたくし込んだシャツが外に飛び出したりすることが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の下半身用衣料の編成に用いる経編機要部の概略説明図である。
図2】本発明の実施例の下半身用衣料の編成上のパターンを示す略示平面図である。
図3】同上の下半身用衣料の縫製後の略示正面図である。
図4】本発明に用いる編地の編成組織例である。
図5】本発明において筒状部を編成するための編組織例である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の筒状経編物からなる下半身用衣料とその製造方法について、図面に示す実施例を参照して具体的に説明する。
【0022】
本発明の筒状経編物からなる下半身用衣料としては、ズボン、レギンス、パンツ、ショーツ、ガードル等の股間部を有する下半身用衣料が挙げられ、後述するように、図1に示す2列の針床を有する経編機、好ましくはジャカード機構により制御される2列のジャカードガイドバーを備える経編機により、表裏編地の編成を基本にして、例えば図2のパターンで編成される。
【0023】
図2は、股間部を有する図3に示すズボン等の下半身用衣料1の編成上の一組の製品パターンを示している。このパターンは、筒状経編地からなる左側身頃部10と右側身頃部20をそれぞれ正面から見立てたパターンであり、それぞれ表裏編地A,Bからなる前身頃部11,21と後身頃部12,22とが、一部非接結状態、特には衣料の左右両側に相当する外側端部が接結編され、衣料の正面及び背面中央線部に相当する内側端部が非接結状態で編成された股上部13,23と、該股上部13,23に股間部14,24を介して連続して筒状に編成された脚部15,25とを有するパターンをなしている。さらに、前記前身頃部11,21と後身頃部12,22の股間部14,24に相当する部位に、それぞれ外方へ突出する拡張編地部16a,16b;26a,26bを形成するとともに、後身頃部12,22側の股上高さを前身頃部11,21の股上高さより高くしたパターンをなしている。
【0024】
前記パターンの左側身頃部10と右側身頃部20は、その周囲を囲む切り出し用のはし渡し部(図示省略)とともに編成される。前記筒状の脚部15,25は、それぞれ両側端で表裏編地A,Bが接結編されることにより筒状をなしている。外側端の接結編は股上部13,23の外側端部の接結編に連続し、内側端の接結編は前記拡張編地部16a,16b;26a,26bの頂部にまで連続している。内側端の接結編を前記拡張編地部16a,16b;26a,26bの基部付近まで連続させておき、拡張編地部16a,16b;26a,26bの端縁部を非接結状態にしておく場合もある。
【0025】
通常、前記のパターで編成された後、前記はし渡し部を切断して切り出した二つの左側身頃部11と右側身頃部21を、表裏編地A,Bが非接結状態の股上部13,23の正面及び背面中央線部に相当する内側端部で縫着し結合することにより、図3のような下半身用衣料1を構成する。
【0026】
なお、はし渡し部は、例えば、本出願人の特許第4879068号に記載された組織、すなわち製品になる編地部分の端部のウェルと、これに隣接する他の編地部分の端部のウェルとの間を、アンダーラップによるシンカーループのみを渡して連結する組織、さらには前記両ウェル間を渡るシンカーループの本数を少なくした組織を用いることができる。
【0027】
また、本発明によれば、後身頃部12,22の上部及び前身頃部11,21の上部、並びに股上部13,23の正面及び背面中央線部側の側端部に、サイズに応じた複数の切り出し用の指標部17,27をそれぞれ端縁部に沿って形成し、着用者の体形や嗜好に基づいて前記複数の指標部17,27から選択された一つの指標部17,27に従って、任意のラインで下半身用衣料10の後身頃部12,22の上部、前身頃部11,21の上部および股上部13,23の前後の中央線部側の端部を切断することができるようになっている。
【0028】
前記指標部17,27は、例えば、シンカーループの編糸の動きを、他が2針振りで柄を編成しているときに、指標部17,27のラインの編糸を1針振りにしたり、鎖編みにし、コース方向に1乃至2コース間隔をおいて編成したり、シンカーループの方向を逆方向にして編成することで、裏面側に現れるように一体に編成することができる。これにより指標部17,27の形成を編物の編成と同じに一挙に効率的に行うことができる。
【0029】
切断はこれらの指標部17,27に厳密に合わせて行われなくてもよく、指標部を目安に任意のラインで切断を行うことができる。これにより、従来の下半身用衣料がサイズが数種類に固定されたものから選択せざるを得なかったことと比較して、本発明では着用者の体形、特に腰回り(股上部)の形状やサイズおよび嗜好に合わせた無段階的な調整が可能であり、優れた着用感を得ることができる。
【0030】
また、本発明に用いる経編地は、切断により股上部13,23の形状やサイズを任意に調整することができるが、任意の点で切断しても、経編構造であるために、切断部をそのままとしても、切断部での糸のほつれは起こりにくいが、切断部分に熱溶融糸を用いて溶融接着させたり、ほつれにくい編組織で編成されることがさらに好ましい。
【0031】
本発明の下半身用衣料1の場合は、前記パターンにおける表裏編地A,Bに編成された、左側身頃部10と右側身頃部20の股上部13,23を構成する前身頃部11,21及び後身頃部12,22の股間部14,24に相当する部位、すなわち脚部15,25の付け根の前後身頃部11,12;21,22に相当する部位に、それぞれ外方に突出拡張された拡張編地部16a,16b;26a,26bが設けられており、縫製後の製品である下半身用衣料1において、股間部14,24にゆとりをもたせて窮屈感を緩和するようにしている。
【0032】
拡張編地部16a,16b;26a,26bの形状や大きさは、特に限定されるものではなく、皺の発生や縫製上の作業効率等を考慮して設定すればよいが、図示のように三角形状にした場合、縫合作業が容易になり、かつ皺を生じにくいため好ましい。なお、拡張編地部の三角形状としては、頂部先端に丸みを付したり、斜辺がカーブしたりしている全体として略三角形状をなしているものを含むものする。
【0033】
また、拡張編地部16a,16b;26a,26bの形状を図のような三角形状した場合、該拡張編地部16a,16b;26a,26bの先端部の拡がり角度α1は、45〜140度の範囲が好ましい。前記先端部の拡がり角度α1が45度より小さいと、先端部の面積が小さくなり、股下部にゆとりが十分でなくなり、若干窮屈感を生ずることになる。逆に、前記拡がり角度α1が140度を越えると、股間部14,24にたるみを生じることになる。従って前記範囲で用途や体形に合わせて適宜に選択するのが望ましい。
【0034】
また、前記パターンにおいて、後身頃部12,22の股上高さを前身頃部11,21の股上高さよりも高く編成することが好ましい。本発明において、股上高さとは、後身頃部12,22及び前身頃部11,21による股上部13,23の股間部14,24に形成された拡張編地部16a,16b;26a,26bの頂部を通る水平をなす脚部付け根ラインLa上からそれぞれの股上部13,23の上端までの長さをいう。従来、股上部13,23の前後身頃部11,12;21,22の上端は水平をなすウエストラインLbに対し平行に編成されており、前後の屈伸運動等の際、後身頃側がヒップの下部方向に引っ張られて下がり、腰部周辺が露出してしまう虞があるが、前記のように編成することによりその虞を軽減できる。
【0035】
更に好ましくは、股上部13,23における後身頃部12,22の上端のパターンラインが、水平をなすウエストラインLbに対して接結編の外側端部からみて3〜20度上方に傾斜するように編成されることが好ましく、また、股上部13,23における前身頃部11,21の上端のパターンラインが、水平をなすウエストラインLbに対して接結編の外側端部からみて0〜20度下方に傾斜するように編成されることが好ましい。
【0036】
また、後身頃部12,22の上端のパターンラインと前身頃部11,21の上端のパターンラインとの角度α2は、3〜40度であるのが好ましく、さらに好ましくは10〜30度である。前記角度α2が3度未満であると、後身頃部12,22の股上高さと前身頃部11,21の股上高さに差が出にくく、立ったり座ったりを繰り返したときや、しゃがんだ姿勢から立ち上がったときに、後身頃部12,22の側が下部方向に引っ張られて下がり、腰部周辺が露出してしまう虞がある。また、前記角度が40度を越えると後身頃の余裕はできるが、ヒップ周辺で皺、ゆがみ、たるみを生ずる虞がある。
【0037】
また、前記パターンにおいて、股上部13,23の上部で水平をなすウエストラインLbの長さL2に対する、拡張編地部16a,16b;26a,26bの頂部を通り水平をなす脚部付け根ラインLaの長さL1は、衣類のサイズや着用者の体形に合わせて適宜に設定すればよいが、その長さの比率(L2:L1)は、1:1.05〜1.5であるのが好ましく、更には1:1.05〜1.2が好ましい。
【0038】
このように設定することにより、編成後の股間部14,24の前後部の縫製の際に、股間部14,24の長さの調整が容易となり、股間部14,24の前部から後部のヒップ下部にかけて余裕ができ、着用時に股間部14,24や股下の窮屈(圧迫)感が軽減される。
【0039】
前記ウエストラインLbの長さL2と脚部付け根ラインLaとの長さL1の比率が、1:1.05未満であると、股間部14,24の前後の拡張編地部16a,16b;26a,26bによる余裕が殆どなくなり、着用時に股間部14,24や股下で窮屈(圧迫)感があり違和感を感ずる。また、前記ウエストラインLbの長さL2と脚部付け根ラインLaの長さL1の比率が1:1.5より大きいと、前記拡張編地部16a,16b;26a,26bにより股間部14,24や股下にだぶつき、たるみを生じる虞がある。
【0040】
上記のパターンの筒状経編物からなる下半身用衣料1は、例えば図1に示す2列の針床を有し、かつ2列のジャカードガイドバーを備えるダブルラッシェル機などの経編機により、筒編を主体として編成される。この際、編機ゲージは14〜32ゲージの範囲で用途、体形に合わせて適宜に選択することができる。
【0041】
本発明において使用する編糸は、22〜440dtexの範囲で用途、体形に応じ適宜に選択すればよい。また、編糸の素材は、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリウレタン等の合成繊維、レーヨン等の再生繊維、綿やウールなどの天然繊維等が挙げられ、形状も長繊維糸、短繊維糸、それらの複合糸等が挙げられ、特に限定されるものではなく、それらを単独、混繊や交編など用途に合わせ適宜に組み合わせることができる。
【0042】
図1の経編機は、2列の針床を有し、2列のジャカードガイドバーを備えるダブルラッセル機(カールマイヤー社製のRDPJ6/2N)の略図である。
【0043】
図1において、N1,N2はそれぞれ編機幅方向に並列する前後の編針、T1,T2は前後の針釜(トリックプレート)を示し 、Y1〜Y6は各ガイドバーL−1〜L−6のガイド部G1〜G6に通糸される編糸を示している。B1〜B6は各編糸のビームを示す。編機のビームB1,B2から供給される編糸Y1,Y2がガイドバーL−1,L−2のガイドG1,G2に通糸されて、前側編針N1で編成され前側編地の地組織(表編地A)となる。また、ビームB5,B6から供給される編糸Y5,Y6がガイドバーL−5,L−6のガイドG5,G6に通糸されて、後側編針N2で編成され後側編地の地組織(裏編地B)となる。ビームB3,B4から供給される編糸Y3,Y4はジャカード機構を有するジャカードガイドバーL−3,L−4のガイドG3,G4に通糸されて、前側編地(表編地)と後側編地(裏編地)に対して、ジャカート編組織の編成を行い、所望の意匠柄を付与しながら、例えば図2のパターンの左側身頃部10と右側身頃部20の編成を行うとともに、製造対象の下半身用衣料1のパターンの外形線に沿って、股上部13,23における前身頃部11,21と後身頃部12,22を、それぞれ衣料の左右両側に相当する外側端部では接結編し、衣料の正面及び背面中央線部に相当する内側端部では非接結状態にして、前後両編地(表裏編地A、B)を部分的に接結構成するように編成し、さらに脚部15,25を筒状に接結編、つまり前後両編地(表裏編地A、B)を両側端部で接結編するようにして筒編編成し、左側身頃部10と右側身頃部20の二つの筒状経編地を編成する。製造対象の下半身用衣料1の編地組織、すなわち前後両編地(表裏編地A、B)の組織によっては、前記ガイドバーL−1及びL−6を使用せずに編成する場合もある。
【0044】
図3は、上記図2のように編成されたパターンを、そのパターン周囲のはし渡し部に沿って切断し、外方の表裏編地A、Bの不要部分を切除し、筒状経編地ごとに切り離された左側身頃部10と右側身頃部20を、正面中央線部に相当する前身頃部11,21の内側端部、及び背面中央線部に相当する後身頃部12,22の内側端部において、それぞれ拡張編地部16a,16b;26a,26bの頂部先端から上部を結合するように縫製したものである。
【0045】
本発明の場合は、上記したように、製造対象の下半身用衣料1を、正面から見立てた図のパターンにおいて、股上部13,23と、該股上部13,23に股間部14a,24を介して連続する筒状の脚部16a,16b;26a,26bを有する左側身頃部10と右側身頃部20の二つの筒状経編地を、股上部13,23の正面及び背面中央線部となる内側端縁部で縫着し結合するとともに、股間部14,24に相当する部位に、それぞれ外方への拡張編地部16a,16b;26a,26bを形成するように編成し、さらに、後身頃部12,22の股上高さよりも前身頃部11,21の股上高さを低くして編成する。
【0046】
図4は、前後両編地(表裏編地A,Bとなる)を接結しない編地部分の編組織を示しており、ガイドバーL−2及びL−5の鎖編に対し、ジャカードガイドバーL−3,L−4により地組織の一部をなすようにデンビ編を基準にしたジャカード組織を組み合わせて、前後両編地の地組織を編成する。また、図5は、本発明における脚部16,26に用いる、前後両編地(表裏編地A,B)を接結する編組織の例を示しており、前記のジャカードガイドバーL−3,L−4により、図4と同様に、デンビ編を基準にしたジャカード組織を編成しながら、所要のコースの位置で前後一方の編針の側から他方の編針の側に掛け渡して前後両編地(表裏編地A,B)を接結するように編成する。図4及び図5において、Fは前側の編針で編成するコースを、Bは後側の編針で編成するコースを示している。
【0047】
本発明における編地の編密度は、14〜100コース/2.54cm、14〜80ウエル/2.54cmの範囲で、用途に応じて適宜に設定することができる。
【0048】
なお、上記の説明では、便宜的に図2に基づいて単一の衣料の一組の左右身頃部10,20のパターンについて説明しているが、実際の製造においては、前記の一組のパターンが編成されるほか、前記と同一のパターンが、編幅方向に複数組を並べて編方向に所定間隔毎に連続して編成される。また、パターンの外方の編地部分において、パターンの外形線に沿う編地部分を、上述したはし渡し部のような編成後の切断が容易な編組織にしておくのが好ましい。
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
参考例1〕
2列のジャカードガイドバーを備えるダブルラッセル機(カールマイヤー社製 RDPJ6/2N−24E)を用いて、ガイドバーL−2,L−5に56dtex/24fの加工糸を使用し、ジャカードガイドバーL−3,L−4には、44dtex/4fのポリウレタン糸を芯糸にして、44dtex/34fのナイロン糸を600回/mでカバーリングした弾性カバーリング糸を使用し、表裏編地は図6のガイドバーL−2,L−5の鎖編と、ジャカードガイドバーL−3,L−4によるデンビ編との組み合わせによる地組織にして、適宜必要に応じてジャカード組織に変化を与えて、図2に示すパターンにて編成した。このとき編地の仕上り密度を60コース/40ウエルとした。
【0051】
編成したパターンにおいて、股上部13,23における後身頃部12,22上端のパターンラインが、水平をなすウエストラインLbに対して外側端部の接結編の部分からみて10度上方に傾斜し、股上部13,23における前身頃部11,21上端のパターンラインが、水平をなすウエストラインに対して外側端部の接結編の部分からみて3度下方に傾斜して編成され、後身頃部12,22の股上高さが前身頃部11,21の股上高さより高くなるようにした。また、水平をなすウエストライン方向の後身頃股上部の長さが前身頃股上部の長さの1.2倍であった。
【0052】
また、股間部14,24を形成する拡張編地部16a,16b;26a,26bは三角形状をなしており、その先端部の拡がり角度α1は95度であった。
【0053】
編成後、表裏編地A、Bを左側身頃部1a及び右側身頃部1bのパターンの外形線に沿って切断して切り出すことにより、パターン外方の不要部分を切除し、左側身頃部1aおよび右側身頃部1bとなる二つの筒状経編地を得た。その後、前後身頃部11,12;21,22が非接結状態で編成されている股上部13,23の正面及び背面中央線部に相当する内側端部において、左側身頃部10と右側身頃部20の両者を縫着して結合し、図3の下半身用衣料1を得た。
【0054】
得られた衣料製品について、実際に着用して評価を行ったところ、着用者に圧迫感、窮屈感、つっぱり感を与えず、またズリ下がりを抑制でき、身体に対するフィット性のよい下半身用衣料であった。
【0055】
参考例2〕
参考例1の脚部付け根ラインLaの前後部に当たる股間部14,24の拡張編地部16a,16b;26a,26bの三角形状の先端部の拡がり角度α1を30度とした以外は、参考例1と同様にして編成し、編成後、同様にパターンの外形線に沿って切除し縫製して下半身用衣料を得た。
【0056】
得られた製品について上記と同様の評価を行ったところ、着用者に圧迫感、窮屈感、つっぱり感を与えず、ズリ下がりを抑制でき、身体に対するフィット性のよいフィット感がある下半身用衣料であった。
【0057】
〔実施例
参考例1の経編地に、股上部における後身頃部に指標部を編み込み、編成後、表裏編地をパターンの外形線に沿って切断し、パターン外方の不要部分を切除した後、前記股上部における後身頃部の前記指標部に沿って切断し、股上部形成部の正面及び背面中央線部で左右の身頃部を縫着し結合して下半身用衣料を得た。
【0058】
得られた製品についても上記と同様の評価を行ったところ、着用者に圧迫感、窮屈感、つっぱり感を与えず、ズリ下がりを抑制でき、身体に対するフィット性のよい下半身用衣料であった。
【0059】
〔比較例1〕
参考例1と同様の組織、糸使いにて編成するとともに、製品パターンについては、股上部における後身頃部上端のパターンライン及び、股上部における前身頃部上端のパターンラインが、それぞれ水平をなすウエストラインに対して平行に編成され、後身頃部の股上高さと前身頃部の股上高さを同じになるようにした。また、水平をなすウエストライン方向の後身頃股上部の長さが前身頃股上部の長さの1.2倍であった。
【0060】
また、股間部を形成する拡張編地部の三角山状の先端側の拡がり角度α1は95度であった。
【0061】
編成後、表裏編地をパターンの外形線に沿って切断し、パターン外方の不要部分を切除した後、股上部の正面及び背面中央線部で左右身頃部を縫着し下半身用衣料を得た。
【0062】
得られ製品は、若干の窮屈感、又は緩さ(だぶつき)感があり、しゃがんだ際に下着が後身頃上端部から露出することがあり、フィット性に劣る下半身衣料であった。
【符号の説明】
【0063】
A,B…表裏編地、1…下半身用衣料、10…左側身頃部、20…左右側身頃部、11,21…前身頃部、12,22…後身頃部、13,23…股上部、14,24…股間部、16a,16b;26a,26b…拡張編地部、17,27…指標部、α1…拡がり角度、α2…後身頃部上端のパターンラインと前身頃部の上端のパターンラインとの角度、La…脚部付け根ライン、Lb…ウエストライン。
図1
図2
図3
図4
図5