(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6199034
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】透明導電基材の製造方法および透明導電基材
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20170911BHJP
B32B 15/02 20060101ALI20170911BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
H01B13/00 503B
H01B13/00 503C
B32B15/02
H01B5/14 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-550246(P2012-550246)
(86)(22)【出願日】2012年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2012053654
(87)【国際公開番号】WO2013121556
(87)【国際公開日】20130822
【審査請求日】2015年1月23日
【審判番号】不服2016-17719(P2016-17719/J1)
【審判請求日】2016年11月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206473
【氏名又は名称】大倉工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517023910
【氏名又は名称】CAM ホールディング コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】CAM Holding Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(72)【発明者】
【氏名】三島 崇司
(72)【発明者】
【氏名】後藤 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】ピシェニツカ フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ウェストウォター ジョナサン
【合議体】
【審判長】
和田 志郎
【審判官】
新川 圭二
【審判官】
土谷 慎吾
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−119142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01B 5/00
B32B 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール状に巻かれた基材フィルムを繰り出す繰り出し工程と、長手方向に搬送されている前記基材フィルム上に溶媒に金属ナノワイヤを分散させた塗布液を塗布し、ウエット膜を形成する塗布工程と、前記基材フィルムを前記長手方向に搬送する搬送工程と、前記ウエット膜に含まれている溶媒を乾燥除去する乾燥工程を有する透明導電基材の製造方法であって、
前記乾燥工程は、前記ウエット膜に向かって、前記基材フィルムの長手方向と異なる方向であって前記基材フィルムの一側端から他端へ送風を行い、その表面から突出したナノワイヤに送風の風が当たるようにして各金属ナノワイヤの向きを変更させ、各金属ナノワイヤの配向状態がばらばらになっている状態にする工程を有することを特徴とする透明導電基材の製造方法。
【請求項2】
得られた透明導電基材を巻き取る巻取工程をさらに備え、
前記塗布工程において、前記塗布液はスロットダイから押し出されることを特徴とする請求項1に記載の透明導電基材の製造方法。
【請求項3】
金属ナノワイヤの平均長さが1μm以上100μm以下、直径が200nm以下であって、ウエット膜の膜厚が13μm以下に減少した後に該ウエット膜表面の直ぐ上を前記基材フィルムと平行な方向に該ウエット膜に向かって送風を行なうことを特徴とする請求項1または2に記載の透明導電基材の製造方法。
【請求項4】
基材フィルムの長手方向と略垂直方向から送風を行なうことを特徴とする請求項3に記載の透明導電基材の製造方法。
【請求項5】
4〜20m/sの風速にて送風を行なうことを特徴とする請求項3に記載の透明導電基材の製造方法。
【請求項6】
30〜60℃に調整された送風にて送風を行なうことを特徴とする請求項3に記載の透明導電基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材フィルム上に金属ナノワイヤをその配向状態がばらばらになっている状態で含む導電層を有する表面抵抗に異方性がほとんどない透明導電基材の製造方法に関する。詳しくは、金属ナノワイヤを含む塗布液を塗布後乾燥する工程において、金属ナノワイヤの向きを変更させて、各金属ナノワイヤの配向状態がばらばらになっている状態にする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電基材はフラット型ディスプレイやタッチパネル、エレクトロルミネッセンスデバイス用等に用いられる。一般的な透明導電性材料は基材フィルム/スズドープ酸化インジウム(ITO)等の金属酸化物という構成で、一般的な製造方法は、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の気相製膜法である。しかしながらITOはレアメタルが含まれているため安定して入手することが困難なこと、気相製膜法は生産スピードが遅いなどの理由から、代替品の開発が盛んである。
【0003】
代替品の一つに金属ナノワイヤ(金属から成る直径が数十〜数百nmで長さが1〜百数十μmのワイヤ状のもの)がある(特許文献1,2)。金属ナノワイヤは繊維径が十分に小さいため透明性は低下せず、繊維長が十分に長いため添加量が少なくても基材上に導電ネットワークを構築することができる。水系溶媒に金属ナノワイヤを分散した塗布液を基材に塗布し、乾燥し、透明導電基材を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−90879号公報
【特許文献2】特開2011−119142号公報
【特許文献3】特開2006−233252号公報
【特許文献4】特開2002−266007号公報
【特許文献5】特開2004−149871号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Adv.Mater.,2002,14,833〜837
【非特許文献2】Chem.Mater.,2002,14,4736〜4745
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金属ナノワイヤを用いた透明導電基材の課題として、金属ナノワイヤの長軸がフィルムの搬送方向(搬送方向=長手方向=MD)に揃うことがある。金属ナノワイヤの長軸がフィルムのMDに揃うと、MDの表面抵抗値と、MDと垂直の方向(幅方向=短手方向=TD)の表面抵抗値に差(異方性)ができる。すなわち、MDの抵抗値よりもTDの抵抗値が大きくなる。これはMDの導電パスは密に、TDの導電パスは疎になるためであろう。金属ナノワイヤの長軸がフィルムのMDに揃う原因は定かではないが、
i)塗布液を基材フィルム上に塗布する際、液を押し出す力によってナノワイヤが液の流れ(MD)に配向する(液の流れから最も抵抗を受けない方向にナノワイヤが揃う)。
ii)塗布液を基材フィルム上に塗布した後、基材フィルム/塗布液(ウエット膜)を搬送する際に、基材フィルムがMDに動くことでウエット膜中のナノワイヤがフィルムMDに並ぶ。
ということが考えられる(
図5参照)。
特許文献1ではこのような課題を解決するために、せん断速度(フィルム搬送速度/スロットダイヘッド先端とフィルムとの間隔)を特定した。しかしながら、フィルムの搬送速度は製造設備(特に乾燥設備)の能力によって制限され、スロットダイヘッド先端とフィルムとの間隔はダイの形状や塗布液の性質により制限されるため、液の性質にあったスロットダイと十分な乾燥能力を有する製造設備でなければ、せん断速度を変更し得る幅は小さく、ナノワイヤの配向状態をバラバラにするためにせん断速度を調整することはできない。
【0007】
そこで、本発明は、金属ナノワイヤを用いた透明導電基材の異方性を改善する技術を提供することを課題とする。すなわち、TDの表面抵抗値(R
TD)とMDの表面抵抗値(R
MD)に差が出ないように各金属ナノワイヤの向きを変更させて、金属ナノワイヤの配向状態がばらばらになっている状態にする技術を提供することを課題とする。
本発明の目的は、基材フィルム上に金属ナノワイヤをその配向状態がばらばらになっている状態で含む導電層を有する表面抵抗に異方性がほとんどない透明導電基材の製造方法およびその製造方法で得られた表面抵抗に異方性がほとんどない透明導電基材を提供することである。
より具体的には、本発明は、R
TD/R
MD=0.8〜1.2、好ましくは0.9〜1.1の透明導電基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、金属ナノワイヤの向きを変更させるために、塗布液(ナノワイヤ+水系溶媒)を塗布直後、基材フィルムのTDから送風を行った(
図6参照)。
図6の本発明の予備試験の結果を表1および2に示す。TDからの送風によりR
TD/R
MDが改善したことが分かる。
【表1】
【表2】
しかしながら、異方性の改善は十分なものではなかった(R
TD/R
MD=1.31)。これは、基材上の塗布液(ウエット膜)が15μm程度と厚かったため、ウエット膜から突出している(ウエット膜表面から顔を出している)ナノワイヤの量が少なく、TDから送風を行っても、風を受けて向きを変えるナノワイヤの量が少なかったためと考えられる(
図1参照)。また塗布直後の塗布液は溶媒量が多くナノワイヤの自由度が高いため、TDからの送風により一旦配向が乱されたナノワイヤも、搬送工程において再びMDに並ぶことも影響していると考える。そこで、本発明者らは送風をウエット厚が減少する乾燥工程において行った(
図2参照)。すると表面抵抗値の異方性が著しく改善され、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)に記載の透明導電基材の製造方法を要旨とする。
(1)ロール状に巻かれた基材フィルムを繰り出す繰り出し工程と、長手方向に搬送されている前記基材フィルム上に溶媒に金属ナノワイヤを分散させた塗布液を塗布し、ウエット膜を形成する塗布工程と、前記基材フィルムを前記長手方向に搬送する搬送工程と、前記ウエット膜に含まれている溶媒を乾燥除去する乾燥工程を有する透明導電基材の製造方法であって、
前記乾燥工程は、
前記ウエット膜
に向かって、前記基材フィルムの長手方向と異なる方向
であって前記基材フィルムの一側端から他端へ送風を行い、その表面から突出したナノワイヤに送風の風が当たるようにして各金属ナノワイヤの向きを変更させ、各金属ナノワイヤの配向状態がばらばらになっている状態にする工程を有することを特徴とする透明導電基材の製造方法。
(2)得られた透明導電基材を巻き取る巻取工程をさらに備え、
前記塗布工程において、前記塗布液はスロットダイから押し出されることを特徴とする上記(1)に記載の透明導電基材の製造方法。
(3)金属ナノワイヤの平均長さが1μm以上100μm以下、直径が200nm以下であって、ウエット膜の膜厚が13μm以下に減少した後に該ウエット膜表面の直ぐ上を前記基材フィルムと平行な方向に該ウエット膜に向かって送風を行なうことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の透明導電基材の製造方法。
(4)基材フィルムの長手方向と略垂直方向から送風を行なうことを特徴とする上記(3)に記載の透明導電基材の製造方法。
(5)4〜20m/sの風速にて送風を行なうことを特徴とする上記(3)に記載の透明導電基材の製造方法。
(6)30〜60℃に調整された送風にて送風を行なうことを特徴とする上記(3)に記載の透明導電基材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、基材フィルム上に金属ナノワイヤを含む導電層を有する透明導電基材の金属ナノワイヤの配向状態の異方性が改善された。表面抵抗に異方性がほとんどない透明導電基材の製造方法およびその製造方法で得られた表面抵抗に異方性がほとんどない透明導電基材を提供することができる。そのため本発明による透明導電基材は、表面抵抗値の等方性が好まれるタッチパネルの電極等に好適に用いることができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図6の予備試験における金属ナノワイヤと送風との関係を説明する図面である。
【
図2】本発明の実施例における金属ナノワイヤと送風との関係を説明する図面である。
【
図3】本発明の実施例における乾燥炉内の送風とフィルムとの関係を説明する図面である。
【
図4】本発明の実施例における金属ナノワイヤの向きを変更させる工程の送風とフィルムとの関係を説明する図面である。(a)はTDへ送風されることを、(b)はその風がウエット膜表面の直ぐ上(風の中心がウエット膜表面から1〜数cm上)を基材と平行な方向に吹くことを説明する図面である。
【
図5】表面抵抗の異方性の発現の原因を説明するフロー図である。
【
図6】金属ナノワイヤの向きを変更させるために、塗布液(ナノワイヤ+水系溶媒)を塗布後、基材フィルムのTDから送風を行った本発明の予備試験を説明する図面である。
【
図7】金属ナノワイヤの向きを変更させる工程において使用する乾燥炉について、分割した4つのゾーンとの位置関係を説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔金属ナノワイヤ〕
本発明において、透明導電材料としては、金属ナノワイヤが主要な導電体として機能する。金属ナノワイヤは、金属元素として、バルク状態での導電率が1×10
6S/m以上の元素を用いることができる。具体例としては、Ag、Cu、Au、Al、Rh、Ir、Co、Zn、Ni、In、Fe、Pd、Pt、Sn、Ti等を挙げることができる。2種類以上の金属ナノワイヤを組み合わせて用いることもできるが、導電性の観点から、少なくともAg、Cu、Au、Al、Coより選択される元素を用いることが好ましい。
【0014】
金属ナノワイヤの製造手段には特に制限はなく、例えば、液相法や気相法等の公知の手段を用いることができる。例えば、Agナノワイヤの製造方法としては、非特許文献1、2等、Auナノワイヤの製造方法としては特許文献3等、Cuナノワイヤの製造方法としては特許文献4等、Coナノワイヤの製造方法としては特許文献5等を参考にすることができる。特に、上述した非特許文献1及び2で報告されたAgナノワイヤの製造方法は、水系で簡便にかつ大量にAgナノワイヤを製造することができ、またAgの導電率は金属中で最大であることから、本発明に関わる金属ナノワイヤの製造方法として好ましく適用することができる。
【0015】
本発明においては、金属ナノワイヤが互いに接触し合うことにより3次元的な導電ネットワークを形成し、高い導電性を発現するとともに、金属ナノワイヤが存在しない導電ネットワークの窓部を光が透過することが可能となり、高い導電性と高い透過率を両立できる。
【0016】
本発明において金属ナノワイヤの直径は、透明性の観点から200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。金属ナノワイヤの平均長さは、導電性の観点から1μm以上、凝集による透明性への影響から100μm以下であることが好ましい。より好ましくは1〜50μm、最も好ましくは3〜50μmである。
【0017】
[溶媒、好ましくは水系溶媒]
本発明において、「水系溶媒」とは、50質量%以上が水である溶媒をいう。もちろん、他の溶媒を含有しない純水であっても良く、乾燥時の金属ナノワイヤの分散安定性を考えた場合は、他の溶媒の含有量は少ない方が好ましい。水系溶媒の水以外の成分は、水に相溶する溶剤であれば特に制限はないが、アルコール系の溶媒を好ましく用いることができ、中でも、沸点が比較的水に近いイソプロピルアルコールであることが好ましい。
【0018】
[基材]
透明樹脂フィルムであれば、特に制限なく用いることができる。好ましくは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができるが、可視域の波長(380〜780nm)における透過率が80%以上である樹脂フィルムであれば、本発明に係る透明樹脂フィルムに好ましく適用することができる。中でも透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度及びコストの点から、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルムであることが好ましい。
【0019】
[塗布液の調整]
金属ナノワイヤが溶媒、好ましくは水系溶媒に分散された塗布液は、粘度、腐食、接着力、及びナノワイヤ分散を調節するために、添加剤及び結合剤を含有してもよい。適切な添加剤及び結合剤の例としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、2−ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース(MC)、ポリビニルアルコール(PVA)、トリプロピレングリコール(TPG)、及びキサンタンガム(XG)、及びエトキシレート、アルコキシレート、エチレンオキシド及びプロピレンオキシド及びこれらのコポリマーのような界面活性剤、スルホン酸塩、硫酸塩、ジスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、リン酸エステル、及びフルオロ界面活性剤(例えば、Zonyl(登録商標)、デュポン社)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
[塗布方法]
たとえばダイコート法、グラビアコート法などを用いることができるが、グラビアコート法は基材に版目が残る、ダイコート法は基材にダメージを与えないという理由から、ダイコート法が最適である。
【0021】
[透明導電基材の製法]
塗布工程:調整した塗布液を例えばダイコータを用いて基材上に塗布する。塗布液の厚さは特に限定されないが10〜30μm程度が望ましい。
搬送工程:塗布工程にてウエット膜が形成された基材フィルムを乾燥工程へ搬送する。搬送手段は特に限定されないが、ロール搬送が一般的である。搬送工程が長い場合、該行程にてウエット膜厚が適度に減少することがある。そのような場合は後述する乾燥工程にてすぐにナノワイヤの向きを変更させる送風を行ってもよい。また搬送工程が短い場合は、ある程度乾燥を行い、ウエット膜厚を減少させた後、ナノワイヤの向きを変更させる送風を行うことが望ましい。
乾燥工程:乾燥方法は特に限定されず、IRヒータ等を用い加熱する方法、乾燥風により加温する方法などを例示することができるが、乾燥炉内の空気が滞留すると溶媒蒸気濃度が上昇し乾燥に時間がかかるので乾燥風を用いることが望ましい。乾燥風は塗布面が荒れることを防止するために、フィルムの進行方向と逆方向に送風することが好ましい。また、乾燥風はフィルム表面から十数〜数十cmのところを流れるようにすることが好ましい(
図3参照)。なお、乾燥工程における乾燥風は必須ではなく、乾燥工程中に設ける金属ナノワイヤの向きを変更させる工程における風のみで乾燥することが可能である。その場合、乾燥には乾燥風よりもナノワイヤの向きを変更させる風の方の影響が大きい。
【0022】
[金属ナノワイヤの向きを変更させる工程]
乾燥工程中に設ける。
具体的な手段としては、MDと異なる方向から、基材上のウエット膜に向かって送風する。この風の向きはTDが、最も効率よく異方性を改善することができる。基材フィルムを上方から見た場合、風は一側端から他端へ(TDへ)吹くことが最も望ましい〔
図4(a)参照〕。この風の中心はウエット膜表面の直ぐ上(1〜数cm)を基材と平行な方向に吹くことが望ましい〔
図4(b)参照〕。ウエット膜に吹き付けるように吹くと、基材表面の平滑性が乱れる恐れがある。この風の高さは、基材表面(ウエット膜の表面)の平滑性を乱さす、基材表面から突出したナノワイヤに風が当たるように適宜調節する。
この風の風速は4〜20m/sが好ましく、特に8〜12m/sが好ましい。風速が4m/s未満ではナノワイヤの配向状態を変える効果が乏しく、20m/sを超えると基材表面の平滑性が乱れる恐れがある。
この風の温度は30〜60℃が望ましい。風の温度が高いと塗膜が白化する等、外観が悪くなる恐れがある。また風の温度が高いと乾燥時間が短くなり、ナノワイヤの向きを変更させ得るポイントが狭くなる。逆にこの風の温度が低いと、ウエット膜の乾燥に影響しにくくなるため、ナノワイヤの向きを変更させ得るポイントは長くなるが、乾燥時間が長くなるので、雰囲気温度以上、特に30℃以上であることが望ましい。尚、乾燥工程において乾燥風を用いる場合、この風(ナノワイヤの向きを変える風)の温度と乾燥風の温度が同じ温度であれば、温調設備が一つでよい。
送風時間を短縮する、或いはライン速度を増速するためには、特に予め乾燥風等によってウエット膜の厚みが13μm以下に減少してからナノワイヤの向きを変える風を送風することが望ましく、特にウエット膜の厚みが10μm以下に減少してから送風することが望ましい。また送風はウエット膜が完全に乾燥するまで行ってもよいが、多少水系の溶媒が残っていても、ナノワイヤの自由度が奪われる程度までウエット厚が減少していれば送風を停止してもよい。具体的にはウエット膜の厚みが5μm以下の領域においては送風を停止してもよい。その後必要ならば乾燥風などによる乾燥を行ってもよい。
【0023】
[透明導電基材の表面抵抗値]
本発明の透明導電基材は、基材フィルムのMDにおける表面抵抗値をR
MD、TDにおける表面抵抗値をR
TDとした場合、下記数式1で表される。
[数2]
R
TD/R
MD=0.8〜1.2(特に0.9〜1.1が好ましい。) (1)
【0024】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。また、実施例中の%は、特に記載のない限り、すべて質量%である。
【実施例】
【0025】
[実施例1−6]
〈塗布液〉
塗布液:金属ナノワイヤ(繊維長:1〜100μm)を0.10重量%、溶媒(超純水)99.90重量%を混合したもの。
〈製造方法〉
塗布工程:ダイコート法による。ロール搬送されている基材フィルム上にスロットダイから塗布液を押し出す。塗布直後のウエット膜の厚さは15.0μm。
搬送工程:塗布液が押し出された基材フィルムを乾燥炉へロール搬送する。
乾燥工程:乾燥炉にて乾燥風を用いて行う。具体的には乾燥風(40℃、1m/s)を、ウエット膜表面から30cm上方に、フィルムの進行方向と逆方向に送風し、乾燥を行う。尚、乾燥風はTDから送風していないゾーンにおいて送風した。即ち、本実施例においてTDから送風したゾーンには乾燥風を吹かせていない。
金属ナノワイヤの向きを変更させる工程:乾燥工程(乾燥炉)を以下に図示するように4つのゾーンに分割し、表1に示すようにTD方向から風(40℃、10m/s)を送風する。(実施例1〜6)
[比較例1]
基材フィルム上にスロットダイから塗布液を塗布直後、基材フィルムが乾燥工程に搬送される前に実施例と同じTDからの風を送風し、これを比較例1とする。
なお、実施例1〜6、比較例1のフィルムの搬送速度は15m/sであった。
【0026】
〈表面抵抗値の測定〉
長さ30mm、幅7mmの金属電極を二つ用意し、電極間距離が24mmになる様に固定し、電極表面とテスター(エーアンドディ製 デジタルマルチメーター AD-5536)のクリップを導線でつないだものを用い,得られた透明導電基材について抵抗値を測定した。結果は表3に示した。
【0027】
【表3】
【0028】
ウエット膜厚が13μm以下のところでTDからの風を吹かせるとR
TD/R
MD改善効果はあるが、特に10μm以下において改善効果が見られた。尚、実施例5,6では乾燥工程においてすぐにTDからの送風を行い、R
TD/R
MD改善効果を確認できたが、これは乾燥工程に搬送された基材フィルム上のウエット膜が既に13.1μmに減少していたためと考えられる。
【0029】
[実施例7−9]
次に、TDからの風の速度を変化させて実験を行った。なお、金属ナノワイヤーを0.18%、溶媒(超純水)99.82%、フィルムの搬送速度は10m/s、TDからの風は第一から第二ゾーンにおいて吹かせた。結果は表4に示した。
【0030】
【表4】
【0031】
TDから風の風速を大きくすることで、R
TD/R
MDの改善は見られた。条件によっては、R
MDがR
TDを上回る(R
TD/R
MDが1以下になること)もあった。
【0032】
実施例8と同じ条件で、フィルムの搬送速度のみ15m/sに戻して、透明導電基材を製造した。R
TD/R
MDは1.1であった。ウエット膜厚の減少量が同じ範囲にナノワイヤの向きを変更させる風をあてる場合、フィルムの搬送速度が遅いほど、R
TD/R
MD改善効果が見られる。