【文献】
自然な状態で小型電子媒体を用いて黙読している時の視線と手の動きの解析,電子情報通信学会2011年基礎・境界ソサイエティ大会講演論文集,日本,社団法人電子情報通信学会,2011年 8月30日,242頁
【文献】
山田 光穂,2次元平面上の視標を注視した時の視線の動きの特徴,NHK技研R&D,日本,日本放送出版協会,1994年 5月15日,第30号,58-73頁
【文献】
長谷川 勉 他,視線変化の観測に基づく監視者の意図推定,第17回日本ロボット学会学術講演会予稿集,社団法人日本ロボット学会,1999年 9月 9日,第1分冊,409-410頁,学術文献DB
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記視点算出部により算出された視点の移動の速度が閾値未満であれば、視点を注視点として前記対象物の画像上に重ねて表示を行う請求項3または4に記載の視線分析装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を、実施形態として説明する。なお、本発明は以下に説明する実施形態に限定されることはなく、種々の変形を行って実施することが可能である。
【0011】
(実施形態1)
図1は、本発明の一実施形態に係る視線分析装置の機能ブロック図を示す。視線分析装置100は、頭部運動検出部101と、頭部運動算出部102と、眼球運動検出部103と、眼球運動算出部104と、対象物運動検出部105と、対象物運動算出部106と、視線方向算出部107と、視点算出部108とを有する。
【0012】
頭部運動検出部101は、頭部の運動を検出する。頭部は、被験者の頭部である。被験者とは、視線分析装置100により視点の位置が測定される対象者である。被験者の頭部は、頭部運動検出部101により頭部の動きが検出される。被験者は、次に説明する眼球運動検出部103により眼球の動きが検出される。また、対象物が、被験者の把持し視認の対象となる携帯端末や書籍などである場合、後に説明する対象物運動検出部105により被験者が把持する対象物の動きも検出される。これにより、間接的に被験者の手の動きが検出される。
【0013】
頭部運動検出部101は、磁気センサや加速度センサを用いて被験者の頭部の運動を検出する。
図2は、磁気センサによる頭部などの運動を検出する一原理を説明するための図である。磁気センサの動作は、磁界内を導体が横切ると起電力が発生する電磁誘導の原理に基づいている。
図2に示すように、ドライブ回路201により交流電圧を、直交する3方向に巻いたコイルにより構成されるソースコイル202に、印加することにより、交流磁界203を発生させる。この磁界203内を、同様に直交する3方向に巻いたセンサコイル205が移動すると、その動きに応じて、センサコイル205の3方向に巻かれたコイルそれぞれの起電力が変化する。この起電力を検出回路206が検出し、コンピュータ204により分析を行うことにより、水平、上下及び前後方向の直線加速度と、ロール角、ピッチ角及びヨー角の角加速度を検出し出力することができる。
【0014】
なお、回転方向と直線方向の加速度を測ることができるセンサであれば、加速度センサは他の原理を用いるセンサを用いても構わない。また、頭部運動検出部101は、被験者の頭部の位置を連続的に測定することが可能であればよい。例えば、光学的な手段により被験者の頭部を複数個所から撮影し、頭部の位置を測定してもよい。また、超音波の反射などを用いて被験者の頭部の位置を測定してもよい。
【0015】
頭部運動算出部102は、頭部運動検出部101による被験者の頭部運動の検出の結果により、被験者の頭部の運動による移動量を算出する。具体的には、磁気センサが用いられる場合には、磁気センサの出力する加速度をαとし偏位量をx、時間をtとすると、α=d
2x/dt
2として加速度αは偏位量の時間方向の2次微分で表されるので、加速度αを時間で2回積分することにより移動量が得られる。また、頭部運動の基準となる位置(例えばt=0におけるセンサなどの位置)にこの移動量を加えると現在の位置を算出することができる。
【0016】
また、頭部運動検出部101が光学的な手段などにより被験者の頭部の位置を連続的に測定することができる場合には、現在の測定結果と直前の測定結果とを比較することにより、被験者の頭部の運動による移動量を算出する。
【0017】
頭部運動算出部102が算出する移動量の一例としては、被験者の頭部の水平回転量Hψ、垂直回転量Hφ、傾き量Hθがある。なお、ここに「左右」、「上下」及び「前後」それぞれは、互いに直交する方向である。これらの方向は適宜定義可能であるが、上下の方向は鉛直方向と一致させ、左右の方向は被験者にとっての左右の方向と一致させ、前後の方向は被験者にとっての前後の方向と一致させるのがよい。この場合、対象物は被験者からみて前方の方向に位置することにできる。
【0018】
また、被験者の上体が自由に動かせることができる場合には、後に説明する実施形態2におけるように、頭部の左右方向移動量Hx、上下方向移動量Hy及び前後方向移動量Hzを算出することもできる。実施形態1においては、被験者がソファーに深く腰掛けている場合や電車座席などで左右に人がいるために上体が自由に動かせない場合を主に説明する。
【0019】
図3は、Hψ、Hφ及びHθの定義の一例を示す。
図3(a)に示すように被験者の頭頂部301に磁気センサなどのセンサが設置されている場合、センサが検出するロール角、ピッチ角、ヨー角から、
図3(a)に示すように、被験者が頭頂部301を中心に水平方向に回転させた角度をHψとし、
図3(b)に示すように、被験者が頭部を前後に傾けた角度をHφとし、被験者が頭部を左右に傾けた角度をHθと定義することができる。なお、Hψの測定の中心は頭頂部301であり、Hφ及びHθの測定の中心は、被験者の首の部分の位置302とすることができる。
【0020】
眼球運動検出部103は、被験者の眼球運動を検出する。この検出には、通常の眼球運動測定装置を使用することができる。例えば、角膜反射方式を用いた眼球運動測定装置を使用することができる。
【0021】
図4は、角膜反射方式を用いた眼球運動の検出原理について説明する図である。なお、眼球運動測定装置については、様々な検出原理に基づいた製品が市販されており、そのいずれも用いることができる。
【0022】
角膜反射方式は、眼球部をカメラで撮影するなどして反射光を測定して眼球の回転角を検出する方式である。まず、
図4(b)に示すように、スポットランプ405により被験者の目の部分に赤外光を照射し、観察者の目の部分を撮影する。
図4(a)は撮影された画像401の一例を示す。
図4(b)を参照すると、被験者の虹彩、角膜404を通り眼球403の中に入った赤外光は、眼球403の角膜404の反対側の網膜で反射し、再び虹彩によって絞られた瞳孔部分から出射し、明るく白い瞳孔像410として撮影される。一方、観察者の目に照射された赤外光は、角膜の表面で反射し、明るい白い虚像402としても撮影される。眼球の回転中心Oと角膜404及び407の回転中心O’とが異なるため、眼球403が回転すると、虚像408に対応する白い円402、すなわち角膜からの反射光点の位置がずれ、それが眼球運動量409として検出される。それに対して、眼球運動ではなく身体や体の動きに対しては、先の瞳孔像410の中心、すなわち瞳孔の中心と、角膜からの反射光点は同時に同じ方向、量だけ動くので、頭部などの運動の影響を受けずに眼球運動量409を測定することができる。
【0023】
眼球運動算出部104は、眼球運動検出部103により検出された眼球運動から、水平方向の視線の移動角と垂直方向の視線の移動角とを算出する。その算出の結果をそれぞれXe、Yeとする。
【0024】
視線方向算出部107は、被験者の視線の方向を算出する。Xe、Yeは、被験者の頭部を基準とした方向を示している。そこで、Xe、Yeに加えてHψ、Hφ、Hθを考慮することにより、例えば被験者の頭部の運動の中心である首の部分302を基準とする座標軸における視線の移動角を算出することができる。
【0025】
具体的には、視線方向算出部107は、次の式により、視線の移動角(Fx,Fy)を算出する。
Fx = Xe'+Hψ
Fy = Ye'+Hφ
ただし、(Xe',Ye')は(Xe',Ye')=(Xe,Ye)rot(Hθ)と定義され、ベクトル(Xe,Ye)をHθだけ回転させたベクトルである。これは、頭部をHθ傾けたときの視線の水平方向と垂直方向の視線の移動角を表わす。
【0026】
すなわち、頭部運動の回転角は、Hψが水平方向の眼球回転角、Hφが垂直方向の眼球回転角に相当するので、直接換算できる。一方、Hθは首の傾きに相当する。眼球回転角としては、いわゆるTorsion(回旋運動)に相当するが、一般に人の目の動きとしてTorsionはほとんど生じない。しかし、首が傾いていると、対象物に向かっての水平方向、垂直方向の眼球回転角の意味が異なってくるため、本発明の一実施形態では、検出された眼球回転角に対してHθだけ、座標軸を回転させ、対象物に対する水平方向成分、垂直方向成分に換算して加算を行う。
【0027】
対象物運動検出部105は、被験者の視認する対象物の運動を検出する。対象物が携帯電話であれば、例えば
図5に示すように被験者が左手501で所持している携帯端末600の背面などにセンサ603を設置し、センサ603に接続された配線502を介して信号を受信することにより、携帯電話600の運動を検出することができる。センサ603としては、上述の原理に基づく磁気センサを用いることができる。
【0028】
対象物運動算出部106は、対象物運動検出部105による対象物の運動の検出の結果から、対象物の移動量を算出する。通常は、
図5に示されるように、被験者は視線とほぼ直交する平面に携帯端末を把持する。そこで、対象物が携帯端末のように平面形状のディスプレイ面を有している場合には、ディプレイ面をXY−平面と定義し、XY−平面における対象物の移動量であるΔx及びΔyを算出し、後に説明するように、被験者から観察される移動角に換算する。また、対象物運動算出部106は、XY−平面と垂直な方向のZ軸方向における対象物の移動量であるΔz及びXYZ座標における位置を算出することができる。以下、手の移動量を、被験者から観察される移動角に換算する方法について、説明する。
【0029】
なお、磁気センサの検出する3軸方向は、ソースの位置、センサの取り付け位置に依存し、必ずしも、携帯端末を把持した際の面のXY−平面と平行にならない。そこでまず携帯端末の表示面のXY−平面を決定する。そのために、被験者が携帯端末を把持した状態で、任意の量だけ、X方向、Y方向に順に移動させ、そのときに取得した座標位置から、磁気センサで検出された座標をXY−平面に換算する式fを算出する。一般に、平面は3点の座標から決定できる。そこで、
(X,Y,Z)=f(Mx,My,Mz)
という関係式により、磁気センサの検出する3軸方向における座標をXY−平面及びそれに垂直なZ軸から構成される3軸方向における座標に変換する。なお、Mx,My,Mzは磁気センサが出力する移動量であり、この移動量は磁気ソースに対する磁気センサの水平、垂直、奥行き移動量となる。これらの移動量を上記の手段によって得た換算式fにより、XYZ座標軸での移動量に変換できる。
【0030】
XY−平面の決定後、携帯端末のX、Y方向の移動量Δx、Δyを被験者から観察される移動角に換算する過程を、Δyを例にとり説明する。
図6は、被験者が、ディスプレイ面601とセンサ603が取り付けられた裏面602とを有する携帯端末600を把持するときの移動量から視線の動き(被験者より観察した場合の移動角)に換算する原理について説明する図である。一般に携帯端末を見ている時、目すなわち視線から下ろした垂線に直角になるように携帯端末を把持する。この様にしてみると画面の隅々まで最も目で見た画面の歪みを小さくすることができる。そこで、Δyは縦書きの場合、改行と文章を読み進む場合に生じ、横書きでは改行の際に生じる動きであると考えられる。Dは目とディスプレイ面との距離である。Dの値は、頭部運動算出部102による頭部の位置の算出結果と対象物運動算出部106による対象物の位置の算出結果とから算出することができる。また、Hnφは水平方向の被験者から観察される移動角のうちY方向の角度である。次式によってΔyは、手の移動量を被験者から観察される移動角(単位はラジアン)に換算した量を示すHnφに、換算される。
Hnφ=tan
−1(Δy/D)
Δxに関しても
Hnψ=tan
−1(Δx/D)
により、水平方向の被験者から観察される移動角Hnψ(単位はラジアン)に換算できる。なお、対象物の奥行き方向の動きΔzは、携帯端末などの対象物を把持するような状況では、腕の可動範囲の関係で、ほとんど変化しないため無視することができる。ただし、より正確に視線の分析を行う場合には、前述のDにΔzとHz(頭部の奥行き移動量、後述)を加え、目と携帯端末までの距離を補正してもよい。
【0031】
また、対象物算出部106は、対象物の移動を被験者から観察した場合の移動角を算出するので、例えば被験者のメガネなどに装着されたカメラから対象物を撮影し、最新の撮影結果と直前の撮影結果とから対象物の移動角を算出することもできる。この場合、対象物運動検出部105は、被験者のメガネなどに装着されたカメラの撮影した画像信号を取得することになる。
【0032】
視点算出部108は、視線方向算出部107により算出された視線の移動量(Fx,Fy)と対象物運動算出部106により算出された対象物の運動の量とから、被験者の視点に関する情報を算出する。
【0033】
本発明の一実施形態においては、携帯端末などの対象物を被験者から観察した場合の移動角を算出している。このため視点算出部108は、上述のようにΔx及びΔyをHnψ及びHnφに換算し、
Gx=Fx+Hnψ
Gy=Fy+Hnφ
により、被験者が対象物に向けている視点の方向である視線の方向を算出する。視点算出部108は、眼球の位置からベクトル(Gx,Gy)に平行に延長される直線と対象物との交点として視点を算出することができる。また、視点算出部108は、ベクトル(Gx,Gy)の時間変化に応じて視点の移動(移動量、移動方向)を算出することができる。
【0034】
図7は、視線分析装置100における処理の流れを説明するフローチャートである。ステップS701において、頭部運動検出部101により被験者の頭部運動を検出し、ステップS702において、眼球運動検出部103により被験者の眼球運動を検出し、ステップS703において、対象物運動検出部105により対象物の運動を検出する。
【0035】
頭部運動検出部101により被験者の頭部運動を検出した後にはステップS704に処理を移し、頭部運動算出部102により、Hψ、Hφ、Hθを算出する。また、実施形態2のように、水平方向及び垂直方向の移動角Ex及びEyを算出してもよい。
【0036】
眼球運動検出部103により被験者の眼球運動を検出した後にはステップS705に処理を移し、眼球運動算出部104により、Xe、Yeを算出する。
【0037】
対象物運動検出部105により対象物の運動を検出した後にはステップS706に処理を移し、対象物運動算出部106により、Hnψ、Hnφを算出する。
【0038】
ステップS704、S705及びS706の処理の後は、ステップS704、S705及びS706の処理を統合してステップS707へ処理を移し、視線方向算出部107により、Fx、Fyを算出し、視点算出部108によりGx、Gyを被験者の視点に関する情報として算出する。
【0039】
その後、ステップS708へ処理を移し、処理全体を終了させなければ最初に戻り、ステップS701〜S707の処理を再度実行する。
【0040】
なお、
図7のフローチャートに示す処理を行う前には、次のようにキャリブレーションを行うのが好ましい。頭部運動検出装置の出力は頭部に装着した磁気センサ等のセンサの装着状況により、3次元直交座標、回転座標の座標軸が必ずしも眼球運動の水平方向、垂直方向と一致しないため、被験者に頭部を水平、垂直方向に振らせ、座標系のキャリブレーションを行う。対象物の運動の検出のためには、XY−平面の決定として説明したように、被験者が対象物などの携帯端末を把持した状態で、任意の量だけ、X方向、Y方向に順に移動させ、そのときに取得された座標位置から、磁気センサで検出された座標を携帯端末上のXY−平面に換算する式fを算出する。次に頭部運動、眼球運動及びXY−平面のそれぞれのキャリブレーション出力から上述のGx及びGyを求める式に従い視線の方向を算出する。そして、被験者に携帯端末画面の指定した点を注視させ、そこに視線が表示されるように、Gx及びGyとして得られた方向を平行移動する。
【0041】
以上のように、本実施形態においては、被験者の頭部及び眼球の運動に加え、対象物の運動を考慮して被験者の視線を分析することができる。
【0042】
(実施形態2)
本発明の実施形態1においては、主に被験者が頭部を含む上体を自由に動かせない場合を想定して説明を行った。本発明の実施形態2においては、被験者が上体を自由に動かせる場合における被験者の視線の分析について説明する。
【0043】
本実施形態においては、頭部運動算出部は、頭部の水平方向移動量Hx、垂直方向移動量Hy、前後方向移動量Hzも算出する。頭部の水平方向、垂直方向及び前後方向それぞれの移動により、頭部を基準とすると、対象物がそれぞれの方向に逆に移動することとなる。したがって、被験者の頭部から対象物(例えば携帯電話のディスプレイ面)までの距離Dを用いて、水平方向及び垂直方向の移動角Ex及びEyを表わすと
Ex=tan
−1(Hx/D)
Ey=tan
−1(Hy/D)
となる。奥行き方向の移動量Hzに関しては、例えば携帯端末を把持して見る等の場合には、腕の可動範囲の制限からほとんど無視できる。ただし、立体映像を観察しているときや、実際に自動車を運転等している作業時においては、奥行き方向の視線移動量として利用することができる。また、より正確に測定する場合には、前述のDに、対象物の前後方向の移動量ΔzとHzと、を加え、目と対象物までの距離を補正するのが好ましい。
【0044】
したがって、視点算出部108における視線の算出は、
Gx=Fx+Hnψ+Ex
Gy=Fy+Hnφ+Ey
として算出される。
【0045】
(実施形態3)
本発明の実施形態3として、視線の速度を基準とする注視点の定義について説明する。
【0046】
眼球運動は固視微動により常に小さく高速に微動していることが知られている。頭部運動も手の動きも空間内で完全に静止しているわけではなく、姿勢の保持や位置の保持のため常に微動している。そのため、これらを加算した視線は常に何らかの運動をしており完全に静止した状態はない。しかし、見たい対象を視力の最も高い網膜の中心窩で捉える場合、視線をある時間、視野内の一点にほぼ静止する必要がある。この状態を注視といい、注視される対象のある限られた範囲を注視点と言っている。しかし、一般的に視線は先に述べた理由により常時細かく変動しており、人が意識して視野のその部分から視覚情報を捉えようとしている点を注視点と考え、絶えず動いている視線の動きから注視点を取り出すには注視点の範囲を定義する必要がある。
【0047】
眼球運動において、一点を凝視しているときにも生じる固視微動は外界から情報を入手するための大切な動きであり、眼球運動が固視微動のみを行っているときは注視成分と考えるべきである。そのほか、眼球運動の成分として跳躍運動と追従運動が知られている。跳躍運動中は視覚特性が低下するが、追従運動中にはあまり低下しないことが知られている。追従運動は運動視標を追従するときに生じ、運動視標の情報をよりよく捉えようとするための眼球運動と考えることができる。しかし運動視標の速度が増加していくと、視標に対する眼球の相対位置が次第に遅れていく。運動視標に対して遅れが少なく忠実に追従できる追従運動の眼球運動速度は毎秒5°程度であることが知られている。そこで、眼球運動から注視点を分離する手法として毎秒5°をしきい速度Vthとして、
図8に示す様に、「実質的な注視点」を定義する。すなわち、ある注視点801からVthの速さで次のサンプル点に到達する距離Dthを次の様に定める。
Dth = Vth×サンプル時間間隔
図8に示す様に、Dth803を半径とする円804内に次のサンプル点802が存在するとき、その点は現在の注視点に含まれるとし実質的な注視点は変化せず、円804の外に存在したとき、実質的に新しい注視点とする。
【0048】
以上は眼球運動に注目して注視点の抽出について説明したものであるが、網膜上の視対象の移動という観点から考えると、眼球運動によっても、頭部運動によっても、あるいは手の動きによっても、網膜上を視対象が移動する現象は変わらない。そこで、本発明の実施形態では、眼球回転角、頭部運動、手で把持されている携帯端末の動きを総合した視線の方向Gx及びGyの変化の速度に対して、前述した注視点の定義を適用して、視線の方向Gx及びGyから注視点を分離する。これまでの眼球運動と頭部運動から視線を計算して注視点を抽出する手法では、手の動きで端末を動かして見ている時や、電車の中等で、携帯端末を把持している手が大きく動いた場合でも、眼球運動と頭部運動から算出した視線が動いていない場合には、注視点が抽出されるという不都合が生じていた。本発明の実施形態を適用することにより、眼球運動と頭部運動に加え手の動きも考慮した視線が視対象を注視したときのみを注視点として抽出できるという大きな特徴がある。
【0049】
(実施形態4)
本発明の実施形態4に係る視線分析装置を用いて、上述のように注視点を抽出するとともに、視線の移動が、被験者の頭部運動、被験者の眼球運動、対象物の運動のいずれによるものであるかを判別することが可能である。例えば、視点算出部108により算出された視点が移動した場合、頭部運動算出部102、眼球運動算出部104及び対象物運動算出部106の算出の結果のうち注視点の移動量に最も寄与した結果を判別する。したがって、視線の移動が頭部運動により発生したのか、眼球運動により発生したのか、あるいは対象物の移動により発生したのかを判別することができる。
【0050】
言い換えると、対象物の表面と視点の方向に延びる直線との交点を求めることにより被験者の視点が対象物の表面のどの位置にあるかを表示することができる。したがって、頭部移動量・対象物の移動量を眼球運動量に換算し、眼球運動量と合成し、統合的な視線の動きを計算する。その計算結果から注視点を抽出し、注視時間を計算する。また、注視点間の移動軌跡から移動速度を計算するとともに、眼球運動による移動量、頭部運動を眼球運動量に換算した移動量、手の動きを眼球運動量に換算した移動量を計算し、眼球運動、頭部運動、手の動きの時系列的な変化の分かるデータとともに、視線分析出力として出力する。
【0051】
図9は、対象物が携帯端末のディスプレイである場合に、そのディスプレイに表示された提示画像に視点の位置を重ねて表示した一例を示す。提示画像は電子ブックの画像、携帯端末の画像など画質や解像度が様々であり、いったん画像変換を行い、眼球運動・頭部運動・手対象物の運動を合成して表示できる画質と解像度に変換したものである。
【0052】
図9においては、注視点の抽出と視点の移動の判別にしたがって、注視点及び視線の移動を携帯端末などの表示画像に投影して視線分析装置の表示部に表示した一例である。
図9において、「○」901、905、907、909、911、914及び917は注視点を表わし、被験者が「○」で示される位置を注視していたことを示す。また、実線902、904、910、913は頭部運動により発生した視線の移動を示し、一点鎖線906、912は眼球運動により発生した視線の移動を示し、破線903は対象物の移動により発生した視線の移動を示す。
【0053】
したがって、注視点間の移動軌跡は注視点間の移動が画像のどこで行われたかについて示す。注視点は、注視時間によって色分けして表示するとともに、注視点間の移動軌跡を移動速度によって色分けして表示することができる。また、上述のように実線により頭部運動を眼球運動の量に変換したもの、一点鎖線により眼球運動量、点線により対象物の運動を眼球運動量に換算したものとして表示することができる。さらに、例えば眼球運動を緑の線、頭部運動を眼球運動に換算したものを赤の線、対象物の運動を眼球運動量に換算したもの青の線として前述の注視点間の移動軌跡に平行して表示することにより、眼球運動、頭部運動、対象物の運動が、注視点間の移動においてどこで行われたかについて、眼球・頭部・対象物の運動の合成をした出力画像から知ることができる。
【0054】
また、注視点の持続時間により「○」の表示態様を変化させて表示させることもできる。例えば、持続時間の長さに応じて、
青<100ms
100ms≦黄<200ms
200ms≦シアン<300ms
300ms≦マゼンタ<400ms
500ms≦青緑<600ms
600ms≦緑<700ms
700ms≦赤<800ms
800ms≦白
として「○」の表示色を変化させることができる。なお、「青<100ms」という不等式は、注視点の持続時間が100ms未満であれば青色で表示を行うことを意味する。他の不等式も同様である。
【0055】
また、注視点間の移動軌跡を下記の様に色分けすることもできる。
青 <100deg/sec
100deg/sec≦黄<200deg/sec
200deg/sec≦シアン<300deg/sec
300deg/sec≦マゼンタ<400deg/sec
500deg/sec≦青緑<600deg/sec
600deg/sec≦緑<700deg/sec
700deg/sec≦赤<800deg/sec
800deg/sec≦白
【0056】
以上のように、視線分析出力として、眼球運動による移動量、頭部運動を眼球運動量に換算した移動量、手の動きを眼球運動量に移動量とそれらの開始時間、動作終了時間、眼球運動による移動量、頭部運動を眼球運動量に換算した移動量、対象物の運動量を眼球運動量に変換した移動量を合成した視線から計算される注視点の位置、注視時間を計算するとともに、注視点間の視線に占める眼球運動による移動量、頭部運動を眼球運動量に換算した移動量、手の動きを眼球運動量に移動量の比率を出力して、ヒューマンインタフェースの研究に役立てることができる。