【実施例】
【0057】
図3は、試料1(AZX311C)、試料2(AZX311C+圧延加工)、試料3(AZX311C+鍛造加工+圧延加工)それぞれの機械的特性を示す図である。
図3は縦軸が引張強度、横軸が伸びを示す。
【0058】
試料1(AZX311C)はASTM記号AZX311合金の鋳造材である。この鋳造材は公知の鋳造法により作製したものである。
【0059】
試料2(AZX311C+圧延加工)は試料1の鋳造材に圧延加工を施したものである。この圧延加工の方法は以下のとおりである。
圧延に供した材料は鋳造材から板厚10mm×幅30mm×長さ40mmを切断し,ロール温度を250℃に設定した。サンプル温度は200℃とし、サンプルが200℃になった後に圧延1 passあたり1 mmの圧下量(10%)を付与し板厚1mmまで9Passの圧延を行っている。ここで、圧延加工中に弾性戻りが生じるため、9 passで板厚1mmを得ることが難しい場合は、1 passを付与し板厚1 mmに仕上げた。
【0060】
試料3(AZX311C+鍛造加工+圧延加工)は試料1の鋳造材に鍛造加工を施し、さらに圧延加工を施したものである。圧延加工の方法は試料2と同様である。鍛造加工の方法は以下のとおりである。
公知の鍛造加工法(野田雅史,広橋光治,船見国男,諏訪原豊,小林勝: アルミニウム合金の結晶粒微細化へ及ぼすひずみ負荷様式の影響,日本金属学会誌,第66巻2号(2002),p101-108)を参考に、鋳造材から50mmの立方体を切り出し、鍛造加工温度200℃にて、初期ひずみ速度8.3×10
-3s
−1として加工した。鍛造加工中にサンプル温度が低下することを避けるため、電気炉を200℃に設定し、炉内に試料と鍛造用パンチを設置しておくことで一定温度下での加工を行った。加工後は直ちに水冷を行った。
【0061】
試料1〜3それぞれに以下の方法で引張試験を行い、その結果を
図3に示す。
平行部長さ24mm、幅4mm、板厚1mmを有する引張試験片をそれぞれの試料から放電加工により切り出し、室温にて初期ひずみ速度8.3×10
-4s
−1にて試験した。圧延材は圧延方向と引張方向が平行となるように引張試験を行った。
【0062】
図3に示すように、圧延加工を行うことで強度が向上することが試料2の結果から確認され、圧延前に鍛造加工を行って組織を微細化することで延性が大幅に改善することが試料3の結果から確認された。
【0063】
図4は、試料4(AZX611C)、試料5(AZX611SS)、試料6(AZX611SS+圧延加工)、試料7(AZX611SS+1cycle多軸鍛造加工+圧延加工)それぞれの機械的特性を示す図である。
図4は縦軸が引張強度、横軸が伸びを示す。
【0064】
試料4(AZX611C)はASTM記号AZX611合金の鋳造材である。この鋳造材は公知の鋳造法により作製したものである。
【0065】
試料5(AZX611SS)は試料4の鋳造材に溶体化処理を施したものである。この溶体化処理の方法は以下のとおりである。
溶体化処理は鋳造材を490℃に熱した大気炉(電気炉)にサンプルを投入後、6時間保持し、取り出した後は直ちに水冷を行った。圧延加工を難しくするAl-Ca金属間化合物のネットワークが十分に解除されることを確認し6時間を選択している。
【0066】
試料6(AZX611SS+圧延加工)は試料5の溶体化処理材に圧延加工を施したものである。この圧延加工の方法は以下のとおりである。
圧延に供した材料は鋳造材から板厚10mm×幅30mm×長さ40mmを切断し、ロール温度を250℃に設定した。サンプル温度は150℃とし、サンプルが150℃になった後に圧延1 passあたり1 mmの圧下量(10%)を付与し板厚1mmまで9Passの圧延を行っている。ここで、圧延加工中に弾性戻りが生じるため、9 passで板厚1mmを得ることが難しい場合は、1 passを付与し板厚1 mmに仕上げた。
【0067】
試料7(AZX611SS+1cycle多軸鍛造加工+圧延加工)は試料5の溶体化処理材に1cycle多軸鍛造加工を施し、さらに圧延加工を施したものである。圧延加工の方法は試料6と同様である。1cycle多軸鍛造加工の方法は以下のとおりである。
公知の鍛造加工法(野田雅史,広橋光治,船見国男,諏訪原豊,小林勝: アルミニウム合金の結晶粒微細化へ及ぼすひずみ負荷様式の影響,日本金属学会誌,第66巻2号(2002),p101-108)を参考に、鋳造材から50mmの立方体を切り出し、鍛造加工温度200℃にて、初期ひずみ速度8.3×10
-3s
−1として加工した。鍛造加工中にサンプル温度が低下することを避けるため、電気炉を200℃に設定し、炉内に試料と鍛造用パンチを設置しておくことで一定温度下での加工を行った。加工後は直ちに水冷を行った。
【0068】
試料4〜7それぞれに以下の方法で引張試験を行い、その結果を
図4に示す。
平行部長さ24mm、幅4mm、板厚1mmを有する引張試験片をそれぞれの試料から放電加工により切り出し、室温にて初期ひずみ速度8.3×10
-4s
−1にて試験した。圧延材は圧延方向と引張方向が平行となるように引張試験を行った。
【0069】
図4に示すように、圧延加工を行うことで強度が向上することが試料6の結果から確認され、圧延前に鍛造加工を行って組織を微細化することで延性が大幅に改善することが試料7の結果から確認された。
【0070】
図5(a)は試料2の組織写真である。図中白色部のように素材内部にせん断変形が導入されていることが分かる。また、未再結晶領域と再結晶領域が層状に重なっていることが分かり、組織全体がせん断変形の影響により湾曲している。黒色に見える箇所は金属間化合物層であり、Mg相とラメラ状の組織を呈しており、AlおよびCaリッチ相は微細化しているが、次に示す組織写真(
図5 (b))における粒状箇所である。図中にはMg相の微細領域の平均粒径3μm、粗大粒領域の平均粒径25μm、Al-Ca化合物の平均粒径0.7μmを示している。
【0071】
図5(b)は試料6の組織写真である。基本的に試料2と試料6は同じ形態の組織である。また、
図5(b)のスケールバーの上にある黒点は巣や欠陥ではなく、焦点が合っていないだけで、金属間化合物(Mg相ではないもの)を示している。
通常の光学顕微鏡撮影のため、エッチング溶液がMg相を優先的に研磨してしまうため、金属間化合物やAl,Caリッチ相があると焦点があわない。図中にはMg相の微細領域の平均粒径3μm、粗大粒領域の平均粒径15μm、Al-Ca化合物の平均粒径0.7μmを示している。
【0072】
図5(a),(b)に示す赤で囲んだ領域は再結晶粒領域であり、青で囲んだ領域は未再結晶粒領域である。未再結晶粒領域の中には伸長した結晶粒が存在し、圧延により巣が圧着されている。
図5(a)に示す組織にはせん断帯、湾曲・屈曲が確認された。
【0073】
図6は、室温の試料8に100℃〜350℃の圧延ロールの温度で圧延加工を施した後に引張試験を行った結果を示す図であり、横軸が圧延ロールの温度、縦軸の左側が引張強度、縦軸の右側が伸びを示す。
図6において、UTSは引張強度を示し、YSは降伏強度を示し、Elは伸び(%)を示している。
【0074】
試料8,9,10は同一組成で、AMX1001合金鋳造材である。このAMX1001合金鋳造材は、公知の半連続鋳造または公知の双ロール鋳造法による、いわゆる急速凝固手法で作製したものである。半連続鋳造材および双ロール鋳造材で機械的特性に大きな差は認められない。敢えて述べるならば、上述のAZX311、AZX611も同様であるが、鋳造材の結晶粒径が100μm〜200μmの範囲または更に微細であるとより圧延加工は行いやすい方向となる。
AS-cast材から上述してきた引張試験片形状を放電加工にて切り出し、室温にて引張試験を行った。
【0075】
圧延加工の方法は以下のとおりである。
室温の試料に100℃〜350℃の圧延ロールの温度で板厚4mmのAZX1001合金鋳造板材を1passあたり4→3.7→3.4→3.1→2.8→2.5→2.2→1.9→1.6→1.3→1.0 mmのスケジュールで圧延を行った。
【0076】
引張試験の方法は以下のとおりである。
平行部長さ24mm、幅4mm、板厚1mmを有する引張試験片をそれぞれの試料から放電加工により切り出し、室温にて初期ひずみ速度8.3×10
-4s
−1にて試験した。圧延材は圧延方向と引張方向が平行となるように引張試験を行った。
【0077】
図7は、100℃〜300℃の試料9に200℃に維持した圧延ロールの温度で圧延加工を施した後に引張試験を行った結果を示す図であり、横軸が圧延ロールの温度、縦軸の左側が引張強度、縦軸の右側が伸びを示す。
図7において、UTSは引張強度を示し、YSは降伏強度を示し、Elは伸び(%)を示している。
【0078】
圧延加工の方法は、試料8の上記の圧延加工と同様である。
【0079】
引張試験の方法は以下のとおりである。
平行部長さ24mm、幅4mm、板厚1mmを有する引張試験片をそれぞれの試料から放電加工により切り出し、室温にて初期ひずみ速度8.3×10
-4s
−1にて試験した。圧延材は圧延方向と引張方向が平行となるように引張試験を行った。
【0080】
図6及び
図7に示すように、圧延ロールの温度に機械的特性は依存するが、AMX1001合金ではその依存性が極めて少なく、AMX1001合金鋳造材の限界圧下率はAZX311合金鋳造材、AZX611合金鋳造材より2倍以上優れている。
【0081】
図8は、試料10(as-cast)、試料11(1pass)、試料12(3passes)それぞれの機械的特性を示す図である。
図8は縦軸が引張強度、横軸が伸びを示す。
【0082】
試料10(as-cast)の作製方法は上述したとおりである。
【0083】
試料11(1pass)の作製方法は以下のとおりである。
ロール温度250℃、サンプル温度200℃に設定し、1回の圧延加工にて、板厚4mmから1mmまでの加工を行い、加工後は水冷した。
【0084】
試料12(3passes)の作製方法は以下のとおりである。
ロール温度250℃、サンプル温度20℃に設定し、板厚4mmから1mmずつ圧下させ3Passで1mm板材を作製し、加工後は水冷した。
【0085】
試料10〜12それぞれに以下の方法で引張試験を行い、その結果を
図8に示す。
平行部長さ24mm、幅4mm、板厚1mmを有する引張試験片をそれぞれの試料から放電加工により切り出し、室温にて初期ひずみ速度8.3×10
-4s
−1にて試験した。圧延材は圧延方向と引張方向が平行となるように引張試験を行った。
【0086】
図8に示すように、試料12(3passes)は400MPaの強度及び10%の伸びを有することが確認された。
【0087】
図9は、試料10(as-cast)及び試料12(as rolled)それぞれのSEM組織である。白色領域はAlやCaリッチな箇所である。as-castの両図面とも、赤矢印箇所(粒界や粒内)にplate状の析出物が認められた。XRDではAl
2Ca、Al
4CaおよびMn系化合物を同定した。
【0088】
白色部は金属間化合物、灰色部分はMg相、その中間色は溶質元素箇所であるが、完全にマトリクスへの溶け込みが成されていない。しかしながら、高強度化できる組織である。
図9のas rolledに示すように、せん断帯の形成と組織の湾曲・屈曲および化合物の残存と化合物相とMg相がラメラ状に配列されている。圧延加工後はせん断変形が導入され、ラメラ組織+溶質仕切らなかった相がネットワーク状組織をMg相と組んでも良い。
【0089】
図10(a)はAMX1001合金鋳造材(板厚4mm)の光学顕微鏡組織で有り、デンドライト状の粗大粒やデンドライトアームに沿ってAl-Ca化合物の形成および粒内にはAlリッチ相が確認できる。
【0090】
図10(b)はロール温度250℃、サンプル温度200℃に設定し、1回の圧延加工にて1mm材を作製したが、1回の加工ではロールからの入熱が十分ではなく、未再結晶領域が残存していることが分かる。図中の白色にみえる部分はAlリッチな部分であり、黒色にみえる部分は金属間化合物相である。Mg相は再結晶組織と未再結晶組織が層状に形成され、それらが湾曲していることが分かる。
【0091】
図10(c)はロール温度250℃、サンプル温度20℃に設定し、板厚4mmから1mmずつ圧下させ3Passで1mm板材を作製した際の結晶方位解析結果である。サンプル温度が20℃であってもパス回数を重ねることでサンプル温度が上昇し、サンプル内部で動的再結晶や回復が生じることで微細組織を形成することが出来ていた。しかしながら、図(c)中央部に粗大組織が残存しているが、せん断変形の残存が認められ、Mg相や金属間化合物相が塑性流動により変形していることが分かった。
【0092】
図10によれば、未再結晶領域と再結晶領域は隣接し、また層状に交互に形成され、その間に金属化合物相が形成されていることが確認された。
【0093】
図11はサンプル温度と圧延ロール温度に勾配を設け圧延した後のAMX1001合金(圧延前初期板厚4mm)、AZX311合金(圧延前初期板厚10 mm)、AZX611合金(圧延前初期板厚10 mm)の光学顕微鏡組織である。具体的にはサンプル温度が室温で、ロール表面温度が250℃である。いずれも、Ca及びAlのリッチ層及び鋳造時に形成されたAl-Ca金属間化合物が塑性加工により微細に粉砕され、Mg相とラメラ状に配列されているが、特にMg相の湾曲や屈曲及び微細粒領域(再結晶領域))と粗大粒領域(未再結晶流領域)から形成されており、圧延加工によるせん断変形の残存が確認できる。
【0094】
図11に示すように、1回の圧下率が低い場合、組織は湾曲・屈曲・キンクを形成し易く、双晶化合物・空隙などを含むことが確認された。