(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記他方の面の近傍に前記光散乱部を形成する工程は、前記基板の厚み方向における前記一方の面と前記他方の面との中間位置より前記他方の面側に前記光散乱部を形成する工程を含む、請求項14に記載の半導体発光素子の製造方法。
前記除去する工程は、前記光散乱部が前記基板の前記他方の面の近傍に設けられるように、前記基板の他方の面を除去する工程を含む、請求項19に記載の半導体発光素子の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、一般に、発光素子をステム等にマウントする際には、ダイボンドペーストとして屈折率1.5程度の透明シリコーン樹脂等を用いるため、そうした場合、屈折率差が小さくなり、凹凸構造による光散乱効果が抑制される。そのため、半導体発光素子の実装をも考慮した場合、特許文献1の構成では、外部光取出し効率を向上させることが困難となる。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の1つの目的は、実装状態においても、外部光取出し効率を向上させることが可能な半導体発光素子、半導体発光素子の製造方法、そのような半導体発光素子を搭載した半導体発光装置及び基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の第1の局面に係る半導体発光素子は、半導体発光素子の発する光に対して透光性を有する透明基板と、透明基板上に形成され、半導体多層膜を含む多層構造体とを含む。透明基板は、当該透明基板中に形成され、基板中に入射した光を散乱するための光散乱手段を含む。
【0012】
透明基板を用いた半導体発光素子において、透明基板の内部に光散乱手段を形成する。透明基板上には、半導体多層膜を含む多層構造体が形成されており、多層構造体が発する光が透明基板に入射される。光散乱手段は、透明基板中に入射した多層構造体からの光を散乱させ、透明基板の側面から光を取出しやすくする。これにより、外部光取出し効率が向上する。
【0013】
半導体発光素子が、例えば屈折率1.4〜1.5程度の透明樹脂で封止されている場合でも、光散乱手段によって、透明基板に入射された光を当該透明基板の側面から効率よく取出すことができる。さらに、上記光散乱手段は透明基板中に形成されるため、例えば、屈折率1.5程度の透明シリコーン樹脂等からなるダイボンドペーストを用いて、発光素子をステム等にマウントした場合でも、光散乱効果の低下が抑制される。したがって、上記のように構成することによって、半導体発光素子が実装状態にある場合でも、外部光取出し効率を向上させることができる。
【0014】
好ましくは、光散乱手段は、透明基板の側面に対する光の入射角度を小さくするように光を反射させる。光散乱手段をこのように構成することにより、外部光取出し効率をより向上させることができる。
【0015】
より好ましくは、光散乱手段は、透明基板中に形成された、複数の光散乱部を含む。これにより、容易に、外部光取出し効率を向上させることができる。
【0016】
さらに好ましくは、複数の光散乱部は、透明基板中に面状に分散されており、面状に分散された複数の光散乱部によって散乱構造面が形成されている。複数の光散乱部による散乱構造面を透明基板中に形成することにより、多層構造体から透明基板中に入射された光をこの散乱構造面で効率よく散乱できる。そのため、強い光散乱効果が得られるので、効果的に、外部光取出し効率を向上させることができる。
【0017】
この場合において、好ましくは、透明基板中には、複数の散乱構造面が形成されており、複数の散乱構造面は、互いに対向するように多段で配置されている。散乱構造面を多段に配置することにより、多層構造体から透明基板中に入射された光をこれら散乱構造面でより効率よく散乱できる。
【0018】
さらに好ましくは、透明基板中には、散乱構造面が多段で形成されており、各散乱構造面を構成する光散乱部は、平面的に見た場合に、他の段の散乱構造面の光散乱部に対して重なり合わないように配置されている。平面的に見た場合に、散乱構造面の光散乱部の位置が、他の段の散乱構造面の光散乱部の位置と重なっていると、透明基板において、その重なっている領域の強度が低下する。そのため、透明基板が割れやすくなる。上記のように、平面的に見た場合に、散乱構造面の光散乱部の位置を、他の段の散乱構造面の光散乱部の位置と重なり合わないようにすることによって、透明基板の強度低下を抑制できる。
【0019】
複数の光散乱部の各々は、例えば、透明基板の厚み方向に延びる略長楕円体形状とすることができる。
【0020】
さらに好ましくは、半導体発光素子は、多層構造体上に形成された透光性電極層をさらに含み、複数の光散乱部は、透光性電極層の直下の領域に形成されている。透光性電極層を介して半導体多層膜に電流が注入され、電流が注入された領域が発光する。透光性電極層の直下の領域に複数の光散乱部を形成することにより、より効果的に、多層構造体から発せられた光を光散乱部で散乱できる。そのため、さらに容易に、透明基板の側面から光を取出すことができる。
【0021】
半導体発光素子が、透光性電極層と重なるように形成された金属電極層をさらに含む場合、複数の光散乱部は、金属電極層の直下の領域を除く、透光性電極層の直下の領域に形成してもよい。金属電極層の直下の領域には、透明基板の側面から光を取出すことが困難な角度で透明基板中に入射される光が比較的少ない。そのため、金属電極層の直下の領域に光散乱部を形成しない場合でも、外部光取出し効率を向上できる。
【0022】
さらに好ましくは、透明基板は、10μmより大きい厚みを有しており、複数の光散乱部の各々は、透明基板における多層構造体が形成される面に対して厚み方向に10μm以上の距離を隔てた位置に形成されている。このような位置に複数の光散乱部を形成することにより、光散乱部によって得られる光散乱効果を容易に向上できる。
【0023】
複数の光散乱部の少なくとも一部は、ライン状に配列されていてもよい。
【0024】
この場合において、ライン状に配列された光散乱部の延び方向は、透明基板の劈開面に対して交差する方向であるとより好ましい。劈開面に対して平行となるように、複数の光散乱部をライン状に配列すると、その部分で透明基板が割れやすくなる。例えば、半導体ウェハーから個々の半導体発光素子に分割(チップ分割)する際に、分割予定位置とは異なる位置で分割される可能性が高くなる。透明基板の劈開面に対して交差する方向に、光散乱部を配列することにより、分割予定位置とは異なる位置で分割される問題を防止できる。これにより、チップ分割の際の分割歩留まりを高めることができる。
【0025】
さらに好ましくは、光散乱部は熱変性領域からなる。熱変性領域は、例えばレーザ光の照射等によって形成できる。熱変性領域によって光散乱部を構成することにより、熱変性領域が周囲の基板と異なる屈折率になることで、容易に、透明基板中に光散乱部を形成できる。さらに、熱変性領域が空洞になった場合、空洞内は真空(屈折率1)になるため、透明基板との屈折率差が大きくなる。そのため、光散乱部において、より強い光散乱効果が得られる。
【0026】
さらに好ましくは、透明基板の側面部分には、レーザ光の照射によって加工され、透明基板を分割する際の起点とされた、加工部が形成されており、透明基板において、厚み方向における散乱構造面の位置は、厚み方向における加工部の位置とは異なる。チップ分割の際に分割の起点とする加工部を、レーザ光の照射によって加工する。透明基板の厚み方向において、散乱構造面を、加工部とは異なる位置に形成することにより、意図しない方向に分割されるのを抑制できる。これにより、より一層、チップ分割の際の分割歩留まりを高めることができる。
【0027】
さらに、上記透明基板は、サファイア基板、窒化物半導体基板、SiC基板及び石英基板のいずれかであるのが好ましい。
【0028】
本発明の第2の局面に係る半導体発光素子の製造方法は、基板の一方の面上に半導体多層膜を含む多層構造体を形成する工程と、基板における多層構造体が形成されていない他方の面を当該基板の厚みが所定の厚みになるまで除去する工程と、他方の面側からレーザ光を基板内部に照射することにより、基板内部に、基板中に入射した光を散乱する光散乱部を形成する工程と、基板を個々の半導体発光素子に分割する工程とを含む。
【0029】
基板の一方の面上に多層構造体を形成した後に、基板における多層構造体が形成されていない他方の面を除去することによって基板の厚みを所定の厚みまで小さくする。所定の厚みにされた基板の他方の面側からレーザ光を基板内部に照射する。レーザ光の照射によって基板内部に熱変性領域が形成され、この熱変性領域によって光散乱部が構成される。すなわち、レーザ光を基板内部に照射することによって基板内部に光散乱部が形成される。光散乱部が形成された基板を分割することによって半導体発光素子が得られる。得られた半導体発光素子の基板には光散乱部が形成されている。この光散乱部は基板中に入射した光を散乱する。基板の一方の面上には、半導体多層膜を含む多層構造体が形成されており、多層構造体が発する光が基板中に入射される。光散乱部は、基板中に入射した多層構造体からの光を散乱させ、基板の側面から光を取出しやすくする。これにより、外部光取出し効率が向上する。
【0030】
半導体発光素子が、例えば屈折率1.4〜1.5程度の透明樹脂で封止されているか否かに係らず、光散
乱部によって基板中に入射された光を当該基板の側面から効率よく取出すことができる。さらに、上記光散乱部は基板中に形成されるため、例えば、屈折率1.5程度の透明シリコーン樹脂等からなるダイボンドペーストを用いて、発光素子をステム等にマウントした場合でも、光散乱効果の低下が抑制される。したがって、本製造方法によって半導体発光素子を製造することにより、得られた半導体発光素子は実装状態にある場合でも、外部光取出し効率を向上させることができる。
【0031】
ここで、多層構造体が形成されている一方の面側からレーザ光を基板内部に照射した場合は、半導体多層膜を含む多層構造体をレーザ光が透過することになるため、素子の諸特性に影響を及ぼす可能性がある。さらに、多層構造体上に例えば電極が形成されている場合は、レーザ光が電極によって遮られるため、電極形成部分の下部に光散乱部を形成することが困難となる。
【0032】
本製造方法では、多層構造体が形成されていない他方の面側からレーザ光を基板内部に照射することにより光散乱部を形成する。そのため、光散乱部の形成時にレーザ光が多層構造体を透過しないので、レーザ光が多層構造体を透過することに起因する素子特性の低下を抑制できる。多層構造体上に例えば電極が形成されている場合でも、電極が形成されている側とは反対側からレーザ光を照射するため、容易に、基板内部に光散乱部を形成できる。
【0033】
好ましくは、光散乱部を形成する工程は、基板の他方の面の近傍に光散乱部を形成する工程を含む。
【0034】
基板の他方の面の近傍に光散乱部を形成することにより、光散乱部は半導体多層膜から離れた位置に形成される。レーザ光の焦点位置近傍は高温となるため、光散乱部を半導体多層膜から離れた位置に形成することにより、半導体多層膜が受ける熱の影響を低減できる。これにより、レーザ光照射時の熱に起因する半導体多層膜の熱劣化及び変質等を抑制できる。さらに、基板の他方の面の近傍に光散乱部を形成することにより、半導体発光素子において、多層構造体から基板に向けて出射された光のうち、基板の側面から取出される光はそのまま利用することが可能となる。
【0035】
より好ましくは、他方の面の近傍に光散乱部を形成する工程は、基板の厚み方向における一方の面と他方の面との中間位置より他方の面側に光散乱部を形成する工程を含む。
【0036】
これにより、容易に、半導体多層膜が受ける熱の影響を低減できる。さらに、多層構造体から基板に向けて出射された光のうち、基板の側面から取出される光をそのまま利用することが可能な半導体発光素子を容易に製造できる。
【0037】
本発明の第3の局面に係る半導体発光素子の製造方法は、基板の一表面側からレーザ光を照射することにより、基板内部に、基板中に入射した光を散乱する光散乱部を形成する工程と、基板上に半導体多層膜を含む多層構造体を形成する工程と、基板における多層構造体が形成されていない面を当該基板の厚みが所定の厚みになるまで除去する工程と、基板を個々の半導体発光素子に分割する工程とを含む。
【0038】
基板の一表面側からレーザ光を照射することにより、基板内部に光散乱部を形成する。光散乱部が形成された基板を用いて、その基板上に半導体多層膜を含む多層構造体を形成する。多層構造体を形成した後に、基板における多層構造体が形成されていない面を当該基板の厚みが所定の厚みになるまで除去する。この基板を分割することによって半導体発光素子が得られる。
【0039】
得られた半導体発光素子の基板には光散乱部が形成されている。この光散乱部は基板中に入射した光を散乱する。基板の一方の面上には、半導体多層膜を含む多層構造体が形成されており、多層構造体が発する光が基板中に入射される。光散乱部は、基板中に入射した多層構造体からの光を散乱させ、基板の側面から光を取出しやすくする。これにより、外部光取出し効率が向上する。本製造方法によって半導体発光素子を製造することにより、得られた半導体発光素子は実装状態にある場合でも、外部光取出し効率を向上させることができる。
【0040】
さらに本製造方法では、多層構造体を形成する前に基板内部に光散乱部を形成するため、レーザ光の照射による熱の影響が半導体多層膜に及ばない。そのため、半導体発光素子の用途等に応じて、光散乱部の形成位置を自由に決定できる。
【0041】
好ましくは、光散乱部を形成する工程は、基板における多層構造体が形成される面の近傍に光散乱部を形成する工程を含む。
【0042】
基板における多層構造体が形成される面の近傍に光散乱部を形成した後に、その面上に多層構造体を形成することにより、多層構造体の近傍に光散乱部を形成できる。本製造方法では、光散乱部を形成した後に多層構造体を形成するため、多層構造体の近傍に光散乱部を形成する場合でも、レーザ光の照射による熱の影響が半導体多層膜に及ばない。したがって、熱に起因する素子特性の低下を抑制しながら、多層構造体の近傍に光散乱部を形成できる。多層構造体の近傍に光散乱部を形成することにより、軸上光度の高い(横方向に進む光が低減された)半導体発光素子を容易に製造できる。
【0043】
より好ましくは、基板における多層構造体が形成される面を一方の面とし、基板における多層構造体が形成される面とは反対側の面を他方の面とした場合に、光散乱部を形成する工程は、基板の厚み方向における一方の面と他方の面との中間位置より他方の面側に光散乱部を形成する工程を含む。
【0044】
これにより、半導体多層膜が受ける熱の影響を効果的に低減しながら、多層構造体から基板に向けて出射された光のうち、基板の側面から取出される光をそのまま利用することが可能な半導体発光素子を容易に製造できる。
【0045】
さらに好ましくは、除去する工程は、光散乱部が基板の他方の面の近傍に設けられるように、基板の他方の面を除去する工程を含む。
【0046】
これにより、容易に、光散乱部を基板の他方の面の近傍に形成できる。光散乱部を基板の他方の面の近傍に形成することにより、多層構造体から基板に向けて出射された光のうち、基板の側面から取出される光をそのまま利用することが容易に可能となる。
【0047】
さらに好ましくは、光散乱部を形成する工程は、基板における多層構造体が形成される面側からレーザ光を照射する工程を含む。
【0048】
これにより、より容易に、多層構造体の近傍に光散乱部を形成できる。
【0049】
本発明の第4の局面に係る半導体発光装置は、半導体発光素子と、半導体発光素子が搭載される搭載部とを含む。半導体発光素子は、基板と、この基板上に形成され、半導体多層膜を含む多層構造体とを含む。基板の内部には、基板中に入射した光を散乱する光散乱部が形成されている。
【0050】
光散乱部は、基板中に入射した多層構造体からの光を散乱させて半導体発光素子の光取出し効率を向上させる。このような半導体発光素子を搭載することにより、外部光取出し効率の高い半導体発光装置が得られる。
【0051】
本半導体発光装置では、半導体発光素子の基板内部に光散乱部が形成されているため、半導体発光素子が搭載される搭載部に反射・散乱特性の高い材料を用いることなく、外部光取出し効率を向上できる。そのため、半導体発光装置の設計自由度を向上できる。例えば、搭載部に反射・散乱特性の高い材料を用いないようにすることもできる。この場合、製造コストを低減できる。
【0052】
より好ましくは、搭載部は、半導体発光素子からの熱を放出する放熱体により形成されている。これにより、半導体発光装置の放熱特性を改善できるので、駆動による半導体発光素子の発熱によって輝度が低下するのを抑制できる。
【0053】
さらに好ましくは、放熱体は、Al、Ag、Au、Cu、Mo、W、Sn、C、SiC、AlN及びSiからなる群から選択される少なくとも一つを含む材料により形成されている。
【0054】
このような材料を用いて放熱体を形成することにより、放熱性の高い高放熱体を形成できる。このような高放熱体により搭載部を形成することにより、半導体発光装置の放熱特性をより一層改善できる。
【0055】
さらに好ましくは、半導体発光装置は、半導体発光素子を搭載部に結合するための、低融点金属材料からなる結合層をさらに含む。
【0056】
低融点金属材料からなる結合層を介して、半導体発光素子を搭載部上に結合することにより、半導体発光素子で生じた熱を効果的に搭載部に伝達できる。そのため、半導体発光素子で生じた熱を効果的に搭載部から放熱できるので、半導体発光装置の放熱特性をさらに一層改善できる。なお、半導体発光素子の基板内部に光散乱部が形成されているため、半導体発光素子を搭載部上に結合するための結合層に、低融点金属材料からなる結合層を用いた場合でも、外部光取出し効率を向上できる。
【0057】
さらに好ましくは、半導体発光装置は、半導体発光素子からの光を波長変換する波長変換部と、波長変換部の外側に設けられ、半導体発光素子から出射された光を反射する光反射部とをさらに含む。
【0058】
波長変換部の外側に設けられた光反射部により、半導体発光素子から出射された光、及び、波長変換部で波長変換された光の配光を制御して、容易に光取出し効率を向上できる。
【0059】
波長変換部には一種類以上の蛍光体が含有されているのが好ましい。
【0060】
本発明の第5の局面に係る基板は、光を透過する基板である。この基板は、基板の内部に形成され、当該基板中に入射した光を散乱する複数の光散乱部を含む。複数の光散乱部は、当該基板内部において面状に分散されている。
【0061】
このような基板を含むように半導体発光素子を構成すれば、容易に、外部光取出し効率が改善された半導体発光素子が得られる。
【発明の効果】
【0062】
以上より、本発明によれば、実装状態においても、外部光取出し効率を向上させることが可能な半導体発光素子を容易に得ることができる。さらに本発明によれば、実装状態においても、外部光取出し効率を向上させることが可能な半導体発光素子の製造方法、そのような半導体発光素子を搭載した半導体発光装置及び半導体発光素子に用いる基板を容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0064】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明及び図面においては、同一の部品又は構成要素には同一の参照符号及び名称を付してある。それらの機能も同様である。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0065】
(第1の実施の形態)
[全体構成]
図1を参照して、本実施の形態に係る半導体発光素子100は、窒化物半導体を用いて形成された発光ダイオード素子(LED:Light Emitting Diode)からなる。この半導体発光素子100は、自身が発する光に対して透光性を有する透明基板110を備えている。透明基板110は、主面110a及び側面110bを有する。透明基板110の主面110a上には、半導体多層膜を含む多層構造体150が形成されている。この多層構造体150は、透明基板110側から順に形成された、n型層120、MQW(Multiple Quantum Well)構造を有するMQW発光層130、及び、p型層140を含む。
【0066】
本実施の形態では、透明基板110にサファイア基板を用いている。この透明基板110の厚みは例えば約120μmである。透明基板110の内部には、MQW発光層130から発せられる光を散乱させる光散乱構造200が設けられている。光散乱構造200は、基板材料(本実施の形態ではサファイア)の屈折率(1.78)とは異なる屈折率を有する領域からなり、透明基板110との屈折率差によって基板内部に入射した光を散乱させる。光散乱構造200の詳細については後述する。
【0067】
n型層120は、透明基板110の主面110a上に、バッファ層、下地層、n型窒化物半導体層、低温n型GaN/InGaN多層構造、及び、中間層である超格子層(以上、いずれも図示せず。)が主面110a側からこの順に形成されることによって構成されている。本実施の形態において、超格子層とは、非常に薄い結晶層を交互に積層することにより、その周期構造が基本単位格子よりも長い結晶格子からなる層を意味する。p型層140は、MQW発光層130上に、p型AlGaN層、p型GaN層及び高濃度p型GaN層(以上、いずれも図示せず。)がMQW発光層130側からこの順に形成されることによって構成されている。
【0068】
バッファ層は、例えばAl
s0Ga
t0N(0≦S0≦1、0≦t0≦1、s0+t0≠0)からなる。バッファ層は、AlN層又はGaN層から構成されているとより好ましい。N(窒素)の極一部(例えば0.5%〜2%程度)をO(酸素)に置き換えてもよい。そうすることにより、透明基板110の主面110aの法線方向に伸張するようにバッファ層が形成されるので、結晶粒の揃った柱状結晶の集合体からなるバッファ層が得られる。バッファ層の厚みは、特に限定されないが、3nm以上100nm以下であるのが好ましく、5nm以上50nm以下であればより好ましい。
【0069】
下地層は、例えばAl
s1Ga
t1In
u1N(0≦s1≦1、0≦t1≦1、0≦u1≦1、s1+t1+u1≠0)からなる。下地層は、Al
s1Ga
t1N(0≦s1≦1、0≦t1≦1、s1+t1≠1)から構成されているとより好ましく、GaN層から構成されているとさらに好ましい。下地層の厚みは、1μm以上8μm以下であるのが好ましい。
【0070】
n型窒化物半導体層は、例えばAl
s2Ga
t2In
u2N(0≦s2≦1、0≦t2≦1、0≦u2≦1、s
2+t
2+u
2≒1)にn型不純物がドーピングされた層からなる。n型窒化物半導体層は、Al
s2Ga
(1−s2)N(0≦s2≦1、好ましくは0≦s2≦0.5、より好ましくは0≦s2≦0.1)にn型不純物がドーピングされた層から構成されているとより好ましい。n型不純物にはSiが用いられている。n型ドーピング濃度(キャリア濃度とは異なる)は、特に限定されないが、1×10
19cm
−3以下であるのが好ましい。
【0071】
低温n型GaN/InGaN多層構造は、MQW発光層130に対する透明基板110及び下地層からの応力を緩和する機能を有する。この低温n型GaN/InGaN多層構造は、約7nmの厚みを有するn型InGaN層、約30nmの厚みを有するn型GaN層、約7nmの厚みを有するn型InGaN層、及び、約20nmの厚みを有するn型GaN層を交互に積層した多層構造からなる。
【0072】
超格子層は、ワイドバンドギャップ層とナローバンドギャップ層とが交互に積層された超格子構造を有している。その周期構造は、ワイドバンドギャップ層を構成する半導体材料の基本単位格子及びナローバンドギャップ層を構成する半導体材料の基本単位格子よりも長い。超格子層の一周期の長さ(ワイドバンドギャップ層の厚みとナローバンドギャップ層の厚みとの合計厚み)は、MQW発光層130の一周期の長さよりも短い。超格子層の具体的な厚みは、例えば1nm以上10nm以下である。各ワイドバンドギャップ層は、例えばAl
aGa
bIn
(1−a−b)N(0≦a<1、0<b≦1)からなる。各ワイドバンドギャップ層は、GaN層から構成されていると好ましい。各ナローバンドギャップ層は、ワイドバンドギャップ層よりバンドギャップが小さく、かつ、MQW発光層130の各井戸層(図示せず)よりもバンドギャップが大きい半導体材料から構成されているのが好ましい。各ナローバンドギャップ層は、例えばAl
aGa
bIn
(1−a−b)N(0≦a<1、0<b≦1)からなる。各ナローバンドギャップ層は、Ga
bIn
(1−b)N(0<b≦1)から構成されていると好ましい。なお、ワイドバンドギャップ層及びナローバンドギャップ層の両方がアンドープであると駆動電圧が上昇するため、ワイドバンドギャップ層及びナローバンドギャップ層の少なくとも一方は、n型不純物がドーピングされているのが好ましい。
【0073】
MQW発光層130は、バリア層及び井戸層(いずれも図示せず。)が交互に積層された多重量子井戸構造を有している。MQW発光層130の一周期(バリア層の厚みと井戸層の厚みとの合計厚み)の長さは、例えば5nm以上100nm以下である。各井戸層の組成は、半導体発光素子に求められる発光波長に合わせて調整される。例えば、各井戸層の組成は、Al
cGa
dIn
(1−c−d)N(0≦c<1、0<d≦1)とすることができる。各井戸層の組成は、Alを含まない、In
eGa
(1−e)N(0<e≦1)であればより好ましい。各井戸層の組成は同じであるのが好ましい。そうすることにより、各井戸層において、電子とホールとの再結合により発光する波長を同じにできる。そのため、半導体発光素子の発光スペクトル幅を狭くできるため好ましい。各井戸層の厚みは、1nm以上7nm以下であるのが好ましい。
【0074】
バリア層は、井戸層よりもバンドギャップエネルギーが大きい方が好ましい。各バリア層の組成は、Al
fGa
gIn
(1−f−g)N(0≦f<1、0<g≦1)とすることができる。各バリア層の組成は、Alを含まないIn
hGa
(1−h)N(0<h≦1)、又は、井戸層との格子定数をほぼ一致させたAl
fGa
gIn
(1−f−g)N(0≦f<1、0<g≦1)であればより好ましい。各バリア層の厚みは、小さいほど駆動電圧が低下する一方、極端に小さくすると発光効率が低下する傾向にある。そのため、各バリア層の厚みは、1nm以上10nm以下であるのが好ましく、3nm以上7nm以下であればより好ましい。
【0075】
井戸層及びバリア層には、n型不純物がドーピングされている。ただし、井戸層及びバリア層には、n型不純物がドーピングされていなくてもよい。
【0076】
p型層140は、例えばAl
s4Ga
t4In
u4N(0≦s4≦1、0≦t4≦1、0≦u4≦1、s4+t4+u4≠0)にp型不純物がドーピングされた層からなる。p型層140は、Al
s4Ga
(1−s4)N(0<s4≦0.4、好ましくは0.1≦s4≦0.3)にp型不純物がドーピングされた層から構成されていればより好ましい。p型層140におけるキャリア濃度は、1×10
17cm
−3以上であるのが好ましい。ここで、p型不純物の活性率は0.01程度であることから、p型層140におけるp型ドーピング濃度(キャリア濃度とは異なる)は1×10
19cm
−3以上であるのが好ましい。ただし、MQW発光層130に近い層(例えばp型AlGaN層)では、p型ドーピング濃度はこれより低くてもよい。p型層140の厚み(3層の合計厚み)は、特に限定されないが、例えば50nm以上1000nm以下とすることができる。p型層140の厚みを小さくすれば、その成長時における加熱時間を短縮できるため、p型不純物のMQW発光層130への拡散を抑制できる。
【0077】
上記多層構造体150はさらに、n型層120の一部が露出された領域である露出部と、露出部の外側の領域であるメサ部とを含む。
【0078】
図1及び
図2を参照して、露出部の上面上(n型層120上)には、n側電極160が形成されている。このn側電極160は、ワイヤボンド領域であるパッド部160aと、このパッド部160aと一体に形成された電流拡散を目的とする細長い突出部160b(枝電極)とを含む。メサ部の上面上(p型層140上)には、透明電極(「透光性電極」ともいう。)170を介してp側電極180が形成されている。透明電極170は、メサ部上において、比較的広い範囲にわたって広面積に形成されている。p側電極180は、透明電極170上の一部の領域に形成されている。このp側電極180は、ワイヤボンド領域であるパッド部180aと、このパッド部180aと一体に形成された電流拡散を目的とする細長い突出部180b(枝電極)とを含む。
【0079】
図1を参照して、n側電極160は、n型層120上に、例えばチタン層、アルミニウム層及び金層がこの順に積層された多層構造を有する。n側電極160の厚みは例えば約1μmである。ワイヤボンドを行なう場合の強度を想定すると、n側電極160は1μm程度の厚みを有していればよい。
【0080】
透明電極170は、例えばITO(Indium Tin Oxide)から構成されている。その厚みは、例えば20nm以上200nm以下である。
【0081】
p側電極180は、透明電極170上に、例えばニッケル層、アルミニウム層、チタン層及び金層がこの順に積層された多層構造を有する。p側電極180の厚みは例えば約1μmである。p側電極180においても、ワイヤボンドを行なう場合の強度を想定すると、その厚みは1μm程度であればよい。
【0082】
半導体発光素子100の上面には、SiO
2からなる絶縁性の透明保護膜190が設けられている。この透明保護膜190は、半導体発光素子100の上面のほぼ全体を覆うように形成されている。ただし、透明保護膜190は、p側電極180のパッド部180a及びn側電極160のパッド部160aを露出させるようにパターニングされている。
【0083】
透明基板110の側面110bには、ウェハーを個々のチップ(半導体発光素子)に分割する際に形成された、後述する加工部が残存している。
【0084】
[光散乱構造の構成]
図3を参照して、光散乱構造200は透明基板110中に形成された複数の光散乱部210により構成される。光散乱部210は、透明基板110中に入射した光を散乱させる微小な領域である。これら光散乱部210は、レーザ光の照射によって透明基板110の局所領域を加熱することで形成された熱変性領域からなる。レーザ光が透明基板110に照射されると、照射された領域に存在する原子の多光子吸収により、当該領域が局所的に加熱され、周囲の領域に対して結晶構造及び結晶性等が変化して周囲と屈折率が異なる領域が形成される。
【0085】
複数の光散乱部210は、透明基板110内において面状に分散されている。
図3(B)及び
図4を参照して、複数の光散乱部210は、透明基板110の主面110aと主面110aとは反対側の面である裏面との中間位置より裏面側の領域に形成されている。複数の光散乱部210は、透明基板110の厚み方向にほぼ2等分して得られる2つの領域のうち、多層構造体150とは反対側の領域に形成されている。なお、
図3(B)及び
図4において、上記中間位置が破線Gで示されている。中間位置では、破線Gから主面110aまでの厚み方向の距離d1と破線Gから裏面までの厚み方向の距離d2とがほぼ等しい(d1≒d2)。この場合、複数の光散乱部210が透明基板110の裏面近傍に形成されているとより好ましい。
【0086】
再び
図1を参照して、本実施の形態では、複数の光散乱部210は透明基板110の主面110aからの距離(厚み方向の距離)がほぼ同じである複数の群に分けられている。換言すると、透明基板110の主面110a(上面)からの距離がほぼ同じ位置に複数の光散乱部210が面状に分散されている。これら複数の光散乱部210が面状に分散されることによって、透明基板110の内部に仮想的な面である散乱構造面Eが形成されている。
【0087】
複数の光散乱部210が、透明基板110の主面110aからの距離(厚み方向の距離)に応じて複数(本実施の形態では2つ)の群に分けられているため、上記散乱構造面Eが所定の距離を隔てて多段(本実施の形態では2段)で形成されている。多段で形成された複数の散乱構造面E1及びE2は、互いに対向するように透明基板110中に配置されている。これら散乱構造面E1及びE2は、透明基板110の主面110aに対しても対向するように配置されている。
【0088】
図5及び
図6を参照して、各段の散乱構造面Eを構成する光散乱部210は、平面的に見た場合(半導体発光素子100を上側から見た場合)に、他の段の散乱構造面Eの光散乱部に対して重なり合わないように配置されている。すなわち、各段の光散乱部210は、他の段の光散乱部に対して、平面内における位置がずれている。このように、散乱構造面Eを多段に配置するとともに、各段の光散乱部の位置を他の段の光散乱部に対してずらして配置することにより、平面的に見た場合に、光散乱部210が存在する領域の面積を広くできる。これにより、光散乱構造200による光散乱効果を高めることができ、高い光取出し効果が得られる。
【0089】
複数の光散乱部210の各々は、透明基板110の主面110a(上面)から厚み方向に10μm以上の距離を隔てた位置に形成されている。多段に形成された散乱構造面Eを、透明基板110の裏面側から順に1段目の散乱構造面E1及び2段目の散乱構造面E2とする。1段目の散乱構造面E1を構成する各光散乱部210aは、透明基板110の主面110a(上面)から厚み方向にT1(約100μm)隔てた位置に形成されている。2段目の散乱構造面E2を構成する各光散乱部210bは、透明基板110の主面110a(上面)から厚み方向にT2(約90μm)隔てた位置に形成されている。なお、距離T1及び距離T2は、それぞれ、透明基板110の上面から、その厚み方向における光散乱部210の中心までの距離である。また、
図5及び
図6において、2段目の散乱構造面E2を構成する光散乱部210bはハッチングを付して示されている。
【0090】
複数の光散乱部210は、それぞれ、透明基板110の厚み方向に延びる略長楕円体形状に形成されている。光散乱部210の幅dは、例えば約2μmであり、光散乱部210の高さt(透明基板110の厚み方向の高さt)は、例えば約7μmである。各段の光散乱部210は、例えば格子状に配列されており、一方方向のピッチp1は、例えば約6μmであり、一方方向と直交する他方方向のピッチp2は、例えば約8μmである。
【0091】
上記のように構成された光散乱構造200は、透明基板110の上面から基板内部に入射された、MQW発光層130からの光を反射させて、透明基板110の側面110bから外部に光を取出しやすくする。すなわち、光散乱構造200は、透明基板110の側面110bに対する光の入射角度を小さくするように光を反射させる。
【0092】
透明基板110の側面110bには上記した加工部220が形成されている。この加工部220は、光散乱部210と同様、透明基板110にレーザ光を照射することによって加工された部分であり、ウェハーを個々のチップ(半導体発光素子)に分割する際の起点とされる。そのため、加工部220は、透明基板110の側面110bに沿って直線状に形成されている。この加工部220は、透明基板110の主面110a(上面)から厚み方向にT3(約80μm)隔てた位置に形成されている。なお、距離T3は、透明基板110の上面からその厚み方向における加工部220の中心までの距離である。
【0093】
上記加工部220は、光散乱部210の形成位置に対して、透明基板110の厚み方向にずれた位置に形成されている。この場合、加工部220は、光散乱部210bに対して透明基板110の厚み方向に4μm以上ずれた位置に形成されているのが好ましい。
【0094】
[透明基板に入射された光の進路]
図8を参照して、サファイア基板310中に光散乱構造が形成されていない場合、活性層(発光層130)から下方に出射された光は、サファイア基板310に入射し、基板裏面にて反射されてサファイア基板310の上方(上面側)へと戻っていく。また、サファイア基板310に入射した光の一部は、サファイア基板310の側面へと出射される。半導体発光素子は、通常、屈折率が1.4〜1.5程度の透明樹脂で封止される。例えば、屈折率1.5の透明樹脂により半導体発光素子を封止した場合、サファイア基板310(屈折率=1.78)の側面と透明樹脂との界面において、その全反射角度は、θ
side≧57.43°となる。すなわち、サファイア基板310の裏面で鏡面反射すると仮定すると、0°≦θ
top≦32.57°の角度でサファイア基板310の上面から入射した光は、サファイア基板310の側面から取出されることはなく、サファイア基板310上に形成された多層構造体150に戻ることになる。
【0095】
一方、θ
top>32.57°の入射角度を持った光は、サファイア基板310に入射する位置によって、サファイア基板310の側面に出射される光(一点鎖線矢印参照)と、多層構造体150に戻る光とに分かれる。この場合、サファイア基板310の側面に出射された光は、サファイア基板310の側面から外部に取出される。
【0096】
上記したように、サファイア基板310の裏面が鏡面である場合には、0°≦θ
top≦32.57°の入射角度を持った光は、全てサファイア基板310から取出されることはなく、多層構造体150に戻る。多層構造体150に戻った光は、一部はチップ外(発光素子外)に取出され、一部は透明電極170、p側電極180、活性層(発光層130による再吸収)等の様々な光吸収体により吸収される。そのため、多層構造体150からサファイア基板310側に出射された光は、多層構造体150に戻すよりもサファイア基板310の側面から半導体発光素子の外に取出した方が光取出し効率が向上する。
【0097】
図7を参照して、透明基板110中に光散乱構造200が形成されている本実施の形態では、透明基板110に入射した光(破線矢印参照)を光散乱構造200で散乱させて、透明基板110の側面110bに対する入射角度を小さくする。0°≦θ
top≦32.57°の入射角度を持った光であっても、光散乱構造200で散乱されて透明基板110の側面110bに対する入射角度が変更される。これにより、透明基板110の側面110bと透明樹脂との界面において、その入射角度が全反射角度よりも小さくなるため、透明基板110の側面110bから効率よく光が取出される。
【0098】
なお、p側電極180の直下の領域には、0°≦θ
top≦32.57°の入射角度を持った光が比較的少ない。そのため、p側電極180の直下の領域には、光散乱部210を形成しなくても、外部光取出し効率が低下することはほとんどない。
【0099】
透明基板110の側面110bから効率よく光を取出すためには、0°≦θ
top≦32.57°の入射角度を持った光を光散乱構造200で散乱させるのが好ましい。上述したように、散乱構造面Eを多段に配置するとともに、各段の光散乱部の位置を他の段の光散乱部に対してずらして配置することにより、平面的に見た場合に、光散乱部210が存在する領域の面積を広くできる。そのため、0°≦θ
top≦32.57°のような入射角度の小さい光を光散乱構造200で効率よく散乱できる。
【0100】
[製造方法]
図5、
図6及び
図10〜
図16を参照して、本実施の形態に係る半導体発光素子100の製造方法について説明する。
【0101】
図9を参照して、まず、約400μm〜約1300μmの厚みを有するサファイアからなる透明基板110Sを準備する。この透明基板110Sの主面110a(窒化物半導体層が形成される側の面)を鏡面研磨することにより、その面を鏡面状態(表面粗さRaで1nm以下程度)とする。
【0102】
次に、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法及びMBE(Molecular Beam Epitaxy)法等の気相成長法を用いて、透明基板110Sの主面110a上に窒化物半導体からなる多層膜を形成する。具体的には、
図10に示すように、透明基板110Sの主面110a上に、バッファ層、下地層、n型窒化物半導体層、低温n型GaN/InGaN多層構造及び超格子層からなるn型層120、MQW発光層130、p型層140をこの順に形成する。これにより、多層膜を含む多層構造体150が透明基板110Sの主面110a上に形成される。
【0103】
本実施の形態では、後の工程でMQW発光層130の下の領域に光散乱構造200である熱変性領域を形成するため、熱変性領域を形成する際の熱による影響をMQW発光層130に与えないためには、下地層は厚い方がよい。この観点から、下地層は少なくとも1μm以上の厚みで形成するのが好ましい。n型窒化物半導体層についても下地層と同様、熱変性領域を形成する際の熱による影響をMQW発光層130に与えないためには、n型窒化物半導体層は厚い方がよい。この観点から、n型窒化物半導体層は、下地層とn型窒化物半導体層との合計厚みが少なくとも2μm以上となるように形成するのが好ましい。
【0104】
次に、
図11を参照して、n型層120の一部が露出するように、p型層140、MQW発光層130及びn型層120の一部をエッチングする。
図12を参照して、このエッチングにより露出したn型層120の上面上にn側電極160を形成する。また、p型層140の上面上に、透明電極170及びp側電極180をこの順に形成する。その後、透明電極170及びエッチングによって露出した各層の側面を覆うように、透明保護膜190を形成する。
【0105】
続いて、電極を形成した状態の基板に対して熱処理を行なうことで、電極を合金化する。これにより、電極と半導体層との良好なオーミック接触が得られるとともに、電極と半導体層との接触抵抗を低下させることができる。熱処理温度は、200℃〜1200℃の範囲が好ましく、300℃〜900℃の範囲であればより好ましく、450℃〜650℃の範囲であればさらに好ましい。上記以外の熱処理の条件としては、雰囲気ガスを酸素及び窒素の少なくとも一方を含有する雰囲気とする。また、例えばAr等の不活性ガスを含有する雰囲気、及び、大気条件での熱処理も可能である。
【0106】
次に、
図13に示すように、上記工程により作製したウェハーを研削、研磨し、透明基板110Sの厚みを小さくする。具体的には、ウェハーを研削機にセットし、基板110Sの厚みが約160μmになるまで、透明基板110Sの裏面(半導体層が形成されていない面)を研削して除去する。次に、このウェハーを研磨機にセットし、研磨剤の番手を段階的に小さいものに変えながら、透明基板110Sの裏面の表面が鏡面(光学的鏡面)になるまで研磨して、基板の厚みを約120μmにする。このように、基板に鏡面処理を施すのは、基板の表面に凹凸があると、スクライブ時(分割時)の応力が分散しやすくなるため、不正劈開及びチッピングの原因となるからである。鏡面研磨を施した後の基板の裏面の表面は、例えば、二乗平均平方根粗さRq(旧RMS)で10nm以下であるのが好ましい。透明基板110Sの裏面を所定の厚みになるまで除去することによって透明基板110が得られる。
【0107】
図14を参照して、基板の厚みを所定の厚みにまで小さくした後、パルスレーザを用いて透明基板110中に複数の光散乱部210(光散乱構造200)を形成する。なお、以下では、便宜上、レーザ光の集光スポット径を、光散乱部210の幅dと同じであると仮定して説明する。
【0108】
光散乱構造200の形成には、透明基板110に照射するレーザ光として、パルスレーザを発生するレーザ、多光子吸収を起こさせることが可能な連続波レーザ等、種々のものを用いることができる。中でも、フェムト秒レーザ、ピコ秒レーザ、ナノ秒レーザ等のパルスレーザを発生させるものが好ましい。その波長は特に限定されないが、例えば、Nd:YAGレーザ、Nd:YVO
4レーザ、Nd:YLFレーザ、及び、チタンサファイアレーザ等による種々のものを用いることができる。レーザ波長は、レーザ照射の対象となる基板の材質に起因する光透過性/光吸収性、基板内に形成される光散乱構造200のサイズ・パターン精度、実用上利用可能なレーザ装置等を考慮して適宜選択される。
【0109】
レーザ波長が200nm〜350nmの場合、パルス幅はナノ秒オーダー(1ns〜1000ns)が好ましく、10ns〜15nmであればより好ましい。レーザ波長が350nm〜2000nmの場合、パルス幅はフェムト秒オーダー〜ピコ秒オーダー(1fs〜1000ps)が好ましく、200fs〜800fsであればより好ましい。
【0110】
透明基板110がサファイア基板の場合、上記照射条件を利用できるため、本実施の形態でも、上記照射条件を利用できる。この場合、レーザ波長及びパルス幅以外の条件は、例えば、実用性及び量産性等の観点から、以下に示す範囲内で選択することが可能である。好ましい条件として、繰返し周波数:50kHz〜500kHz、レーザパワー:0.05W〜0.8W、レーザのスポットサイズ:0.5μm〜4.0μm(より好ましくは2μm前後)、試料ステージの走査速度:100mm/s〜1000mm/sである。パルスエネルギーは、0.6μJ〜12μJ、パルスエネルギー密度は、40J/cm
2〜6kJ/cm
2、集光点におけるピークパワー密度は、4×10
13W/cm
2〜5×10
15W/cm
2の各範囲で形成可能である。
【0111】
光散乱構造200(光散乱部210)は、レーザ光の照射条件を変更することで、幅d、高さt、基板中での位置を制御できる。
図6及び
図14に示すように、透明基板110の裏面側からレーザ光を基板内部に照射することにより光散乱構造200を形成する。
【0112】
図5及び
図6を参照して、レーザ光線照射機から繰返し周波数Xのパルスレーザ光を集光し、集光スポット径dで透明基板110に照射する。試料ステージの走査速度(加工送り速度)をVとすると、V/Xの値が1d以下であれば、パルスレーザ光のスポットのピッチp1は集光スポット径d以下となり、集光スポットが相互に接し、又は、重なり合って連続して照射されることになり、直線状に光散乱部が形成される。また、直線を重ねることで面状に形成することも可能である。
【0113】
これに対し、V/Xの値が2dより大きい場合、形成された光散乱部のピッチは、集光スポット径dより大きくなり、隣接する光散乱部210間に隙間が生じる。そして、隙間が生じる状態で直線的に、さらに間欠的に複数の光散乱部210が形成される。V/X=2dの場合には、隣接する光散乱部210の間隔sが集光スポット径dと同じになり、V/X=5dの場合には、隣接する光散乱部210の間隔sが集光スポット径dの4倍となる。
【0114】
また、平面状に、上記ラインをp2のピッチで形成する場合には、試料ステージをp2だけずらして同じレーザ照射条件で光散乱部210を形成し、これを繰返す。これにより、複数の光散乱部210を平面状に形成(配置)できる。光散乱部210はレーザ光の焦点部分に形成されるため、立体的に形成(配置)する場合、レーザ光の焦点位置を変えることで、透明基板110における厚み方向の光散乱部210の位置(形成位置)を変えることができる。これにより、散乱構造面Eを多段(例えば2段、3段等)に形成できる。
【0115】
このように、試料ステージの走査速度、及び、パルスレーザの繰返し周波数を変えることで、光散乱部210のピッチを変えることができる。加えて、試料ステージの高さを変えることで、レーザ光の焦点位置を変えることができるので、基板中の任意の位置(基板の厚み方向の任意の位置)に光散乱部210(熱変性領域)を形成できる。
【0116】
透明基板110中に上記光散乱構造200を形成した後、チップ分割に用いる破断線(加工部220)を透明基板110中に形成する。破断線は、光散乱構造200とは形成目的が異なり、チップ(半導体発光素子)を所定のサイズに分割するために、透明基板110中に直線状に形成する。破断線(加工部220)の形成は、光散乱構造200(光散乱部210)と同様の方法を用いることが可能である。破断線は、特に、サファイアに対して透過するレーザ光を照射することによって形成するのが好ましい。ここで透過するとは、レーザ光を透明基板110(サファイア基板)に照射した直後、つまり、サファイアが変質していない状態において透過率が70%以上であることを意味する。ただし、上記透過率が80%以上であればより好ましく、90%以上であればさらに好ましい。
【0117】
破断線(加工部220)を形成する際のレーザ光の照射は、窒化物半導体が形成されている側(多層構造体150が形成されている側)から行なってもよいが、窒化物半導体での吸収を考慮して、透明基板110の裏面(多層構造体150が形成されていない側)から行なうのが好ましい。
【0118】
本実施の形態では、破断線(加工部220)は1段加工で行なっている。破断線はまた、透明基板110の主面110a(多層構造体150が形成されている側の面)から厚み方向にT3(約80μm)隔てた位置に直線状に形成する。これにより、
図15に示すウェハー80が得られる。
【0119】
図15を参照して、ウェハー80は、複数の半導体発光素子100が集合した素子集合体であり、隣接する半導体発光素子100間に上記加工部220(破断線)が形成されている。
【0120】
最後に、
図15及び
図16に示すように、形成した破断線を起点としてウェハー80を個々の半導体発光素子100にチップ分割する。これにより、本実施の形態に係る半導体発光素子100が得られる。
【0121】
[本実施の形態の効果]
以上の説明から明らかなように、本実施の形態に係る半導体発光素子100は、以下に述べる効果を奏する。
【0122】
透明基板110を用いた半導体発光素子100において、透明基板110の内部に光散乱構造200を形成する。透明基板110上には、半導体多層膜を含む多層構造体150が形成されており、多層構造体150が発する光が透明基板110に入射される。光散乱構造200は、透明基板110中に入射した多層構造体150(MQW発光層130)からの光を散乱させ、透明基板110の側面110bから光を取出しやすくする。これにより、外部光取出し効率が向上する。
【0123】
半導体発光素子100が、例えば屈折率1.4〜1.5程度の透明樹脂で封止されているか否かに係らず、光散乱構造200によって、透明基板110に入射された光を当該透明基板110の側面110bから効率よく取出すことができる。さらに、上記光散乱構造200は透明基板110中に形成されるため、例えば、屈折率1.5程度の透明シリコーン樹脂等からなるダイボンドペーストを用いて、発光素子をステム等にマウントした場合でも、光散乱効果の低下が抑制される。したがって、上記のように構成することによって、半導体発光素子100が実装状態にある場合でも、外部光取出し効率を向上させることができる。
【0124】
上記光散乱構造200は、透明基板110の側面110bに対する光の入射角度を小さくするように光を反射させるので、外部光取出し効率をより向上させることができる。
【0125】
光散乱構造200を構成する複数の光散乱部210は、透明基板110中に面状に分散されており、面状に分散された複数の光散乱部210によって散乱構造面Eを形成している。複数の光散乱部210による散乱構造面Eを透明基板110中に形成することにより、多層構造体150から透明基板110中に入射された光をこの散乱構造面Eで効率よく散乱できる。そのため、強い光散乱効果が得られるので、効果的に、外部光取出し効率を向上させることができる。
【0126】
透明基板110中に、複数の散乱構造面Eを互いに対向するように多段で配置することにより、多層構造体150から透明基板110中に入射された光をこれら散乱構造面Eでより効率よく散乱できる。
【0127】
さらに、各散乱構造面Eを構成する光散乱部210は、平面的に見た場合に、他の段の散乱構造面Eの光散乱部に対して重なり合わないように配置されている。平面的に見た場合に、散乱構造面Eの光散乱部210の位置が、他の段の散乱構造面Eの光散乱部210の位置と重なっていると、透明基板110において、その重なっている領域の機械的強度が低下する。そのため、透明基板110が割れやすくなる。上記のように、平面的に見た場合に、散乱構造面Eの光散乱部210の位置を、他の段の散乱構造面Eの光散乱部210の位置と重なり合わないようにすることによって、透明基板110の強度低下を抑制できる。さらに、各散乱構造面Eを構成する光散乱部210を、平面的に見た場合に、他の段の散乱構造面Eの光散乱部に対して重なり合わないように配置することにより、光散乱部210の存在する領域の面積を広くできるため、光散乱効果を高めることができ、光取出し効果を容易に高めることができる。
【0128】
複数の光散乱部の各々を、透明基板110の厚み方向に延びる略長楕円体形状とすることにより、これによっても、光散乱効果を高めることができる。
【0129】
さらに、複数の光散乱部210(光散乱構造200)を、透明電極170の直下の領域に形成する。透明電極170を介して半導体多層膜に電流が注入され、電流が注入された領域が発光するので、透明電極170の直下の領域に複数の光散乱部を形成することにより、より効果的に、多層構造体150から発せられた光を光散乱部210で散乱できる。そのため、さらに容易に、透明基板110の側面110bから光を取出すことができる。
【0130】
なお、p側電極180の直下の領域には、透明基板110の側面110bから光を取出すことが困難な角度で透明基板110中に入射される光が比較的少ない。そのため、p側電極180の直下の領域に光散乱部210を形成しない場合でも、外部光取出し効率を向上できる。
【0131】
さらに、光散乱部210を熱変性領域から構成することによって、熱変性領域はレーザ光の照射により形成できるため、容易に、透明基板110中に光散乱部210を形成できる。さらに、熱変性領域が空洞になった場合、空洞内は真空(屈折率1)になるため、透明基板110との屈折率差が大きくなる。そのため、光散乱部210において、より強い光散乱効果が得られる。
【0132】
透明基板110の側面部分には、レーザ光の照射によって加工される、透明基板110を分割する際の起点とされた、加工部220(破断線)が形成されている。この加工部220の位置が、透明基板110の厚み方向における散乱構造面Eの位置と一致していると、チップ分割の際に、意図しない方向に分割される可能性があり、分割歩留まりを低下させる。上記加工部220(破断線)を、透明基板110の厚み方向における散乱構造面Eの位置とは異なり基板上面から距離T3だけ隔てた位置に形成することによって、意図しない方向に分割されるのを抑制できる。これにより、より一層、チップ分割の際の分割歩留まりを高めることができる。
【0133】
レーザ光の照射によって光散乱部210を形成する場合、パルスレーザの出力が高いと熱変性領域ができ、さらに応力等が加わると熱変性領域からクラックが発生することがある。このクラックがMQW発光層130に到達すると光出力の低下を起こすことがある。そのため、熱変性領域からなる光散乱部210は、透明基板110における多層構造体150が形成される面(主面110a)に対して厚み方向に10μm以上の距離を隔てた位置に形成されているのが好ましい。このような位置に複数の光散乱部210を形成することにより、クラックがMQW発光層130に到達することに起因する光出力の低下を抑制できる。加えて、光散乱部210によって得られる光散乱効果を容易に向上できる。
【0134】
本実施の形態に係る半導体発光素子100の製造方法は、以下に述べる効果を奏する。
【0135】
透明基板110Sの主面110a上に多層構造体150を形成した後に、透明基板110Sにおける多層構造体150が形成されていない裏面を除去することによって基板の厚みを所定の厚みまで小さくする。所定の厚みにされた透明基板110(110S)の裏面側からレーザ光を透明基板110の内部に照射する。レーザ光の照射によって透明基板110の内部に熱変性領域が形成され、この熱変性領域によって光散乱部210が構成される。すなわち、レーザ光を透明基板110の内部に照射することによって当該透明基板110の内部に光散乱部210が形成される。光散乱部210が形成された基板(ウェハー80)を分割することによって半導体発光素子100が得られる。得られた半導体発光素子100の透明基板110には光散乱部210が形成されている。上述したように、この光散乱部210は透明基板110中に入射した光を散乱する。透明基板110の主面110a上には、半導体多層膜を含む多層構造体150が形成されており、多層構造体150が発する光が透明基板110中に入射される。光散乱部210は、透明基板110中に入射した多層構造体150からの光を散乱させ、透明基板110の側面110bから光を取出しやすくする。このように、本製造方法によれば、外部光取出し効率の高い半導体発光素子100を容易に製造できる。
【0136】
ここで、多層構造体150が形成されている主面110a側からレーザ光を透明基板110の内部に照射した場合、半導体多層膜を含む多層構造体150をレーザ光が透過することになるため、素子の諸特性に影響を及ぼす可能性がある。さらに、多層構造体150上に電極が形成されている場合は、レーザ光が電極によって遮られるため、電極形成部分の下部に光散乱部210を形成することが困難となる。
【0137】
本実施の形態に係る半導体発光素子100の製造方法では、多層構造体150が形成されていない裏面側からレーザ光を透明基板110の内部に照射することによって光散乱部210を形成する。そのため、光散乱部210の形成時にレーザ光が多層構造体150を透過しないので、レーザ光が多層構造体150を透過することに起因する素子特性の低下を抑制できる。多層構造体150上に電極が形成されている場合でも、電極が形成されている側とは反対側からレーザ光を照射するため、容易に、透明基板110の内部に光散乱部210を形成できる。
【0138】
さらに、透明基板110の裏面の近傍に光散乱部210を形成することにより、光散乱部210は多層構造体150から離れた位置に形成される。レーザ光の焦点位置近傍は高温となるため、光散乱部210を半導体多層膜から離れた位置に形成することにより、半導体多層膜が受ける熱の影響を低減できる。これにより、レーザ光照射時の熱に起因する半導体多層膜の熱劣化及び変質等を抑制できる。光散乱部210の形成時に、当該光散乱部210を、透明基板110の厚み方向における主面110aと裏面との中間位置(破線G)より裏面側の領域に形成することにより、容易に、半導体多層膜が受ける熱の影響を低減できる。さらに、多層構造体150から透明基板110に向けて出射された光のうち、透明基板110の側面110bから取出される光をそのまま利用することが可能な半導体発光素子100を容易に製造できる。
【0139】
さらに、透明基板110の裏面の近傍に光散乱部210を形成することにより、半導体多層膜が受ける熱の影響をより一層低減できる。加えて、半導体発光素子100において、多層構造体150から透明基板110に向けて出射された光のうち、透明基板110の側面110bから取出される光はそのまま利用することが容易に可能となる。
【0140】
《実施例1》
上記実施の形態で示した半導体発光素子100と同様の構成を有する半導体発光素子を作製し、この発光素子を実施例1とした。透明基板中の光散乱構造は、散乱構造面を2段とした。散乱構造面を構成する各光散乱部は、高さt=7μm、幅d=2μm、ピッチp1=6μm、ピッチp2=8μmであった。各散乱構造面の位置(透明基板の厚み方向の位置)は、上記実施の形態と同様、T1=100μm、T2=90μmとした。
【0141】
透明基板中に光散乱構造を形成していない点以外は実施例1と同様の半導体発光素子を作製し、これを比較例1(リファレンス素子)とした。
【0142】
実施例1の発光素子と比較例1の発光素子とを同じ駆動条件で駆動させ、光出力(全光束)を測定したところ、その光出力は、比較例1が85.0
mWであったのに対し、実施例1では87.6mWであった。これより、実施例1による発光素子は、比較例1による発光素子に対して、光出力が3%程度向上することが確認された。
【0143】
実施例1による発光素子に青色の光を当てることによって、光散乱構造による光散乱の確認を行なった。その結果を
図17に示す。
図17において、明るく光っている部分が光散乱構造である。この
図17より、光散乱構造で光が散乱されていることが確認された。
【0144】
(第2の実施の形態)
[構成]
図18を参照して、本実施の形態に係る半導体発光装置1000は、光源として、第1の実施の形態で示した半導体発光素子100を含む。半導体発光装置1000はさらに、半導体発光素子100が搭載される基体1010と、基体1010上に搭載された半導体発光素子100を封止する蛍光体層1020と、蛍光体層1020を覆う透明樹脂層1030とを含む。
【0145】
基体1010は、平面状に延在する主表面1012を有する実装基板である。基体1010は、半導体発光素子100が搭載される搭載部として機能する。この基体1010は、半導体発光素子100と電気的に接続される電極端子1014及び1016を含む。半導体発光素子100は、ダイボンドペーストからなる結合層1040を介して基体1010の主表面1012上に結合されている。ダイボンドペーストは、例えば、シリコーン系樹脂又はエポキシ系樹脂等の透明樹脂材料からなる。ダイボンドペーストには、半田等の低融点金属材料を用いることもできる。
【0146】
基体1010上に実装された半導体発光素子100は、例えば金線からなるワイヤー1050及び1060を介して、基体1010の電極端子1014及び1016に電気的に接続されている。具体的には、半導体発光素子100のn側電極160がワイヤー1050を介して電極端子1014と電気的に接続されており、半導体発光素子100のp側電極180がワイヤー1060を介して電極端子1016と電気的に接続されている。
【0147】
蛍光体層1020は、半導体発光素子100から発せられた光を透過する透光性の樹脂から形成されている。蛍光体層1020は例えば透明なエポキシ系樹脂又はシリコーン系樹脂等から形成されている。この蛍光体層1020は、半導体発光素子100から発せられた光を波長変換する蛍光体を含有し、波長変換部として機能する。具体的には、蛍光体層1020には複数の蛍光粒子1022が分散して設けられている。半導体発光素子100から発せられた光は、蛍光粒子1022によって波長変換されるため、蛍光体層1020からは、半導体発光素子100から発せられた光とは異なる波長の光が発せられる。蛍光粒子1022には、例えばBOSE(Ba、O、Sr、Si、Eu)等を好適に用いることができる。BOSE以外に、例えばSOSE(Sr、Ba、Si、O、Eu)、YAG(Ce賦活イットリウム・アルミニウム・ガーネット)、αサイアロン((Ca)、Si、Al、O、N、Eu)、βサイアロン(Si、Al、O、N、Eu)等を好適に用いることもできる。蛍光粒子1022の種類は、励起光の波長及び半導体発光装置に求める発光色等に応じて適宜調整できる。
【0148】
透明樹脂層1030は、半導体発光素子100及び蛍光体層1020から発せられた光を透過させる樹脂から形成されている。透明樹脂層1030は例えば透明なエポキシ系樹脂又はシリコーン系樹脂等から形成されている。この透明樹脂層1030は、蛍光体層1020の外側に設けられ、ワイヤー1050及び1060を封止することにより、半導体発光素子100とともにワイヤー1050及び1060を保護する。
【0149】
本実施の形態では、蛍光体層1020は、半導体発光素子100を取り囲むように主表面1012上に設けられており、透明樹脂層1030は、さらに蛍光体層1020を覆うように設けられている。蛍光体層1020は、主表面1012上において半導体発光素子100と透明樹脂層1030との間の空間を充填するように設けられている。蛍光体層1020及び透明樹脂層1030は、それぞれ、ドーム形状に形成されている。
【0150】
図19を参照して、蛍光体層1020及び透明樹脂層1030は、それぞれ、半径r及び半径Rを有し、原点Oを中心とする同心の半球状に形成されている。原点Oは、主表面1012に配置されている。半導体発光素子100は、原点Oに重なる位置に配置されている。
【0151】
透明樹脂層1030が屈折率n1を有している場合、蛍光体層1020は、屈折率n1より大きい屈折率n2を有しているのが好ましい。この場合、半導体発光素子100の周囲により大きい屈折率を有する蛍光体層1020が配されることになるので、半導体発光素子100からの光の取出し効率がより改善される。
【0152】
さらに、蛍光体層1020及び透明樹脂層1030が、以下の式(1)を満たすように形成されているとより好ましい。
R>r・n1 ・・・(1)
ここで、Rは透明樹脂層1030の半径、rは蛍光体層1020の半径、n1は透明樹脂層1030の屈折率である。
【0153】
このように構成することによって、半導体発光素子100及び蛍光体層1020から発せられた光が、透明樹脂層1030の外表面(透明樹脂層1030と大気との境界)で反射されるのを抑制できるので、半導体発光素子100及び蛍光体層1020から発せられた光を効率よく外部に取出すことが可能となる。加えて、半導体発光素子100及び蛍光体層1020から発せられる光の配光を容易に制御できる。本実施の形態では、上方向(基体1010と反対側の方向)に出射光の向きを制御している。
【0154】
[本実施の形態の効果]
以上の説明から明らかなように、本実施の形態に係る半導体発光装置1000は、以下に述べる効果を奏する。
【0155】
半導体発光装置1000は、光源に、第1の実施の形態で示した半導体発光素子100を搭載する。半導体発光素子100は、透明基板110の内部に光散乱部210が形成されている。光散乱部210は、透明基板110中に入射した多層構造体150からの光を散乱させて半導体発光素子100の光取出し効率を向上させる。このような半導体発光素子100を搭載することにより、外部光取出し効率の高い半導体発光装置1000が得られる。
【0156】
さらに、本半導体発光装置1000では、半導体発光素子100の透明基板110の内部に光散乱部210が形成されているため、半導体発光素子100が搭載される基体1010に反射・散乱特性の高い材料を用いることなく外部光取出し効率を向上できる。そのため、半導体発光装置の設計自由度を向上できる。
【0157】
この点について、
図20を参照してより詳細に説明する。光散乱部が形成されていない半導体発光素子1
00Rでは、光散乱部による反射・散乱効果が得られない。このような場合、透明基板中に入射した多層構造体からの光を散乱・反射させるためには、半導体発光素子100が搭載される基体1110の主表面1112の反射・散乱特性を高める必要がある。その場合、少なくとも、基体1110における半導体発光素子1
00R下部の材料に、反射・散乱特性の高い材料を用いる必要がある。したがって、光散乱部が形成されていない半導体発光素子100を搭載した半導体発光装置では、設計自由度を向上させることが困難となる。さらに、基体1110に、反射・散乱特性の高い材料を用いることによって製造コストが上昇する。
【0158】
本実施の形態に係る半導体発光装置1000では、上記のように、設計自由度を向上できるので、例えば、搭載部に反射・散乱特性の高い材料を用いないようにすることもできる。このように構成することにより、コスト低減を図ることができる。
【0159】
(第3の実施の形態)
[構成]
図21を参照して、本実施の形態に係る半導体発光装置2000は、第2の実施の形態で示した半導体発光装置1000とほぼ同様の構成を有している。ただし、本実施の形態では、放熱性の高い放熱体(以下「高放熱体」と記す。)2020を含む基体2010を用いている点において、上記第2の実施の形態とは異なる。
【0160】
基体2010の一部は、高放熱体2020により形成されている。高放熱体2020は、半導体発光素子100が搭載される搭載部に設けられている。高放熱体2020は、例えば、Al又はAl合金から形成されている。この高放熱体2020は、Al、Ag、Au、Cu、Mo、W、Sn、C、SiC、AlN及びSiからなる群から選択される少なくとも一つを含む材料により形成されているのが好ましい。
【0161】
さらに、本実施の形態では、ダイボンドペーストに半田等の低融点金属材料を用いている。そのため、半導体発光素子100は、低融点金属材料からなる結合層2040を介して、基体2010の主表面2012上(高放熱体2020上)に結合されている。半導体発光素子100の駆動により生じた熱は、低融点金属材料からなる結合層2040を介して高放熱体2020に伝達され、高放熱体2020から放熱される。
図21には、白抜き矢印によって熱の移動がイメージ的に示されている。
【0162】
[本実施の形態の効果]
以上の説明から明らかなように、本実施の形態に係る半導体発光装置2000は、以下に述べる効果を奏する。
【0163】
基体2010における半導体発光素子100が搭載される部分が、高放熱体2020により形成されているため、半導体発光装置2000の放熱特性を改善できる。放熱特性を改善することにより、駆動による半導体発光素子100の発熱によって輝度が低下するのを抑制できる。
【0164】
高放熱体2020を、Al、Ag、Au、Cu、Mo、W、Sn、C、SiC、AlN及びSiからなる群から選択される少なくとも一つを含む材料により形成することにより、放熱性を高めることができる。このような高放熱体2020により搭載部を形成することにより、半導体発光装置2000の放熱特性をより一層改善できる。
【0165】
さらに、低融点金属材料からなる結合層2040を介して、半導体発光素子100を高放熱体2020上に結合することにより、半導体発光素子100で生じた熱を効果的に高放熱体2020に伝達できる。そのため、半導体発光素子100で生じた熱を効果的に高放熱体2020から放熱できるので、半導体発光装置2000の放熱特性をさらに一層改善できる。なお、半導体発光素子100の透明基板110(
図1参照)内部に光散乱部210(
図1参照)が形成されているため、半導体発光素子100を高放熱体2020上に結合するための結合層2040に、低融点金属材料からなる結合層を用いた場合でも、外部光取出し効率を向上できる。
【0166】
なお、
図20に示すように、光散乱部が形成されていない半導体発光素子1
00Rを搭載した半導体発光装置では、放熱特性を改善するために、基体1110を金属等の熱伝導率の高い材料から形成した場合、半導体発光素子1
00Rから発せられる光の波長に対して高い反射率を有する材料を用いる必要があり、かつ、主表面に鏡面処理を施す必要がある。特に、半導体発光素子1
00Rから発せられる光の波長が青色〜紫外の領域の波長である場合、使用できる金属材料が制限される。例えば、Ag等は、このような波長の光によって黒色化及びマイグレーション等を起こしやすいため取扱いが難しい。さらに、
図20に示す半導体発光装置では、ダイボンドペースト(結合層1140)に光透過性のもの(一般的には、シリコーン系樹脂及びエポキシ系樹脂等の樹脂材料)を使用しなければならない。このような樹脂材料は熱伝導率が低いため、半導体発光素子1
00Rから基体1110へ熱が伝わりにくい。
【0167】
再び
図21を参照して、本実施の形態に係る半導体発光装置2000は、搭載される半導体発光素子100の透明基板110内部に光散乱部210が形成されているため、発光素子単体で外部光取出し効率を向上できる。したがって、基体2010(高放熱体2020)に、半導体発光素子100から発せられる光の波長に対して高い反射率を有する材料を用いる必要がなく、主表面に鏡面処理を施す必要もない。さらに、Agメッキ等の処理を施す必要もないため、黒色化及びマイグレーション等の発生を抑制するための対策を施す必要もない。加えて、低融点金属材料からなる結合層2040を用いて、半導体発光素子100を実装することにより、放熱特性を効果的に改善できる。
【0168】
(第4の実施の形態)
図22を参照して、本実施の形態に係る半導体発光装置3000は、上記第3の実施の形態に係る半導体発光装置2000において、反射部材3050をさらに備える。反射部材3050は、半導体発光素子100及び蛍光体層1020から発せられた光を反射させて配光を制御する。反射部材3050は、半導体発光素子100を囲むように、基体2010の主表面2012上に取付けられている。反射部材3050は、光を反射する反射面3052を持つ。反射部材3050が基体2010の主表面2012上に取付けられることによって、反射面3052が蛍光体層1020の外側に設けられる。反射面3052は、上方向(基体2010と反対側の方向)に出射光の向きを制御するために、傾斜面となっている。
【0169】
本実施の形態では、半導体発光装置2000の透明樹脂層1030(
図21参照)に代えて、透明樹脂層3030が、反射部材3050の内側の領域に充填されている。透明樹脂層3030は、透明樹脂層1030と同様、半導体発光素子100及び蛍光体層1020から発せられた光を透過させる樹脂(例えば透明なエポキシ系樹脂又はシリコーン系樹脂等)から形成されている。
【0170】
本実施の形態に係る半導体発光装置3000は、上記第3の実施の形態に係る半導体発光装置2000と同様の効果を有する。
【0171】
(第5の実施の形態)
[構成]
図23を参照して、本実施の形態に係る半導体発光素子400は、第1の実施の形態に係る半導体発光素子100とほぼ同様の構成を有している。ただし、本実施の形態に係る半導体発光素子400は、光散乱部210が多層構造体150側の領域に形成されている点において、多層構造体150とは反対側の領域に形成されている第1の実施の形態とは異なる。
【0172】
複数の光散乱部210は、当該透明基板110の主面110aと主面110aとは反対側の面である裏面との中間位置(破線G)より主面110a側の領域に形成されている。この場合、複数の光散乱部210は透明基板110の主面110a近傍に形成されていてもよい。
【0173】
[製造方法]
図24〜
図27を参照して、本実施の形態に係る半導体発光素子400の製造方法について説明する。
【0174】
本実施の形態に係る半導体発光素子400の製造方法は、多層構造体150を形成する前に、透明基板110に複数の光散乱部210を形成する。
【0175】
具体的には、まず、約400μm〜約1300μmの厚みを有するサファイアからなる透明基板110Sを準備する。この透明基板110Sの主面110a(窒化物半導体層が形成される側の面)を鏡面研磨することにより、その面を鏡面状態(表面粗さRaで1nm以下程度)とする。
【0176】
次に、
図24に示すように、透明基板110Sにレーザ光を照射することにより、透明基板110Sの内部に複数の光散乱部210を形成する。光散乱部210の形成方法は、第1の実施の形態で示した方法と同様の方法を用いる。
【0177】
本実施の形態では、後の工程で多層構造体150が形成される面(主面110a)の側からレーザ光を透明基板110Sの内部に照射することにより、主面110aの近傍に複数の光散乱部210を形成する。
【0178】
図25を参照して、光散乱部210を形成した透明基板110Sを用いて、透明基板110Sの主面110a上に、第1の実施の形態と同様の方法により、同様の多層構造体150を形成する。続いて、
図26に示すように、第1の実施の形態と同様の方法により、多層構造体150の一部をエッチングにより除去し、n側電極160、透明電極170、p側電極180及び透明保護膜190を形成する。そして、電極を形成した状態の基板に対して熱処理を行なうことで、電極を合金化する。
【0179】
次に、
図27に示すように、上記工程により作製したウェハーを研削、研磨し、透明基板110Sの厚みを小さくする。最後に、作成したウェハーを個々の半導体発光素子400にチップ分割する。これにより、本実施の形態に係る半導体発光素子400が得られる。なお、研削及び研磨によるウェハー(基板)の厚みを小さくする工程、並びに、ウェハー(基板)をチップ分割する工程は、上記第1の実施の形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0180】
[本実施の形態の効果]
以上の説明から明らかなように、本実施の形態に係る半導体発光素子400及びその製造方法は、以下に述べる効果を奏する。
【0181】
透明基板110Sの一表面側からレーザ光を照射することにより、透明基板110Sの内部に光散乱部210を形成する。光散乱部210が形成された透明基板110Sを用いて、その透明基板110S上に半導体多層膜を含む多層構造体150を形成する。多層構造体150を形成した後に、透明基板110Sにおける多層構造体150が形成されていない裏面を当該基板の厚みが所定の厚みになるまで除去する。この透明基板(ウェハー)を分割することによって半導体発光素子400が得られる。
【0182】
本実施の形態では、多層構造体150を形成する前に透明基板110S(110)の内部に光散乱部210を形成するため、レーザ光の照射による熱の影響が半導体多層膜(多層構造体150)に及ばない。そのため、半導体発光素子400の用途等に応じて、光散乱部210の形成位置を自由に決定できる。
【0183】
さらに、透明基板110Sにおける多層構造体150が形成される面(主面110a)の近傍に光散乱部210を形成した後に、その面上に多層構造体150を形成することにより、多層構造体150の近傍の領域に光散乱部210を形成できる。本製造方法では、光散乱部210を形成した後に多層構造体150を形成するため、多層構造体150の近傍に光散乱部210を形成する場合でも、レーザ光の照射による熱の影響が半導体多層膜(多層構造体150)に及ばない。したがって、熱に起因する素子特性の低下を抑制しながら、多層構造体150の近傍に光散乱部210を形成できる。加えて、多層構造体150の近傍に光散乱部210を形成することにより、軸上光度の高い(横方向に進む光が低減された)半導体発光素子を容易に製造できる。
【0184】
さらに、透明基板110における多層構造体150が形成される主面110a側からレーザ光を照射することにより、容易に、多層構造体150の近傍に光散乱部210を形成できる。
【0185】
図28を参照して、第1の実施の形態で示したように、多層構造体150を形成した後に、多層構造体150が形成されている主面110a側からレーザ光を透明基板110の内部に照射した場合、半導体多層膜を含む多層構造体150をレーザ光が透過することになるため、素子の諸特性に影響を及ぼす可能性がある。さらに、多層構造体150上に電極が形成されている場合は、レーザ光が電極によって遮られるため、電極形成部分の下部に光散乱部210を形成することが困難となる。一方、透明基板110の裏面側からレーザ光を透明基板110の内部に照射する場合でも、多層構造体150を形成した後にレーザ光を照射すると、レーザ光の照射による熱の影響が半導体多層膜(多層構造体150)に及ぶ。そのため、レーザ光の照射による熱によって、素子の諸特性に影響を及ぼす可能性がある。
【0186】
上述したように、本実施の形態に係る半導体発光素子400の製造方法を用いることにより、こういった不都合が生じることなく、多層構造体150の近傍に光散乱部210を形成できる。
【0187】
(第6の実施の形態)
本実施の形態に係る半導体発光素子は、第1の実施の形態に係る半導体発光素子100と同様の構成を有している。ただし、本実施の形態に係る半導体発光素子は、その製造方法が、第1の実施の形態とは異なる。
【0188】
[製造方法]
図29〜
図32を参照して、本実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法について説明する。
【0189】
本実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法は、第5の実施の形態と同様、多層構造体150を形成する前に、透明基板110に複数の光散乱部210を形成する。
【0190】
具体的には、まず、約400μm〜約1300μmの厚みを有するサファイアからなる透明基板110Sを準備する。この透明基板110Sの主面110a(窒化物半導体層が形成される側の面)を鏡面研磨することにより、その面を鏡面状態(表面粗さRaで1nm以下程度)とする。
【0191】
次に、
図29に示すように、透明基板110Sにレーザ光を照射することにより、透明基板110Sの内部に複数の光散乱部210を形成する。光散乱部210の形成方法は、第1の実施の形態で示した方法と同様の方法を用いる。
【0192】
レーザ光の照射は、後の工程で多層構造体150が形成される面(主面110a)の側から行なう。本実施の形態では、上記第5の実施の形態とは異なり、透明基板における中間位置より裏面側の領域に複数の光散乱部210が位置するように、レーザ光の焦点位置を調整する。光散乱部210の形成位置は、透明基板110Sの厚み及び後の研削・研磨の工程でどの程度基板の裏面を除去するか等を考慮して決定される。この場合、複数の光散乱部210を、半導体発光素子の製造後に、透明基板110の裏面近傍に位置するように形成するのが好ましい。
【0193】
図30を参照して、光散乱部210を形成した透明基板110Sを用いて、透明基板110Sの主面110a上に、第1の実施の形態と同様の方法により、同様の多層構造体150を形成する。続いて、
図31に示すように、第1の実施の形態と同様の方法により、多層構造体150の一部をエッチングにより除去し、n側電極160、透明電極170、p側電極180及び透明保護膜190を形成する。そして、電極を形成した状態の基板に対して熱処理を行なうことで、電極を合金化する。
【0194】
次に、
図32に示すように、上記工程により作製したウェハーを研削、研磨し、透明基板110Sの厚みを小さくする。このとき、複数の光散乱部210が、例えば透明基板110の裏面近傍に位置するようにウェハー(基板)の裏面を除去する。最後に、作成したウェハーを個々の半導体発光素子にチップ分割する。これにより、本実施の形態に係る半導体発光素子が得られる。
【0195】
[本実施の形態の効果]
以上の説明から明らかなように、本実施の形態に係る半導体発光素子の製造方法は、以下に述べる効果を奏する。
【0196】
多層構造体150を形成する前に、透明基板110S(110)の内部に複数の光散乱部210を形成する。このとき、透明基板110の厚み方向における主面110aと裏面との中間位置より裏面側の領域に光散乱部210を形成する。これにより、半導体多層膜が受ける熱の影響を効果的に低減しながら、多層構造体150から基板に向けて出射された光のうち、透明基板110の側面110b(
図1参照)から取出される光をそのまま利用することが可能な半導体発光素子を容易に製造できる。
【0197】
さらに、光散乱部210が透明基板110の裏面の近傍に設けられるように、ウェハー(基板)の裏面を除去することによって、容易に、光散乱部210を透明基板110の裏面の近傍に形成できる。光散乱部210を透明基板110の裏面の近傍に形成することにより、多層構造体150から透明基板110に向けて出射された光のうち、透明基板110の側面110bから取出される光をそのまま利用することが容易に可能となる。
【0198】
(第7の実施の形態)
本実施の形態に係る半導体発光素子は、窒化物半導体からなる透明基板を用いている点において、上記第1の実施の形態とは異なる。窒化物半導体からなる透明基板には、c面GaN基板を用いている。その他の構成は、上記第1の実施の形態と同様である。
【0199】
《実施例2》
本実施の形態に係る半導体発光素子と同様の発光素子を作製し、この発光素子を実施例2とした。また、透明基板中に光散乱構造を形成していない点以外は実施例2と同様の半導体発光素子を作製し、これを比較例2(リファレンス素子)とした。
【0200】
実施例2の発光素子と比較例2の発光素子とを同じ駆動条件で駆動させ、光出力(全光束)を測定したところ、実施例2による発光素子は比較例2による発光素子に対して光出力が5%程度向上する結果が得られた。
【0201】
透明基板としてGaN基板を用いた半導体発光素子では、基板の屈折率がサファイア基板の1.78に比べて2.5と大きいため、基板側面からの光取出し効率がサファイア基板を用いた半導体発光素子に比べて低下する。透明基板に光散乱構造を形成した実施例2では、サファイア基板を用いた場合に比べて、光取出し効率の改善効果が効果的に働いたために、光出力がより向上したものと考えられる。
【0202】
なお、透明基板にSiC基板を用いた場合も、透明基板にGaN基板を用いた場合と同様の結果が得られた。SiC基板は、GaN基板と同様に大きな屈折率を有するため、改善効果が効果的に働いたためであると考えられる。これより、SiC基板の場合においても有効であることが分かった。
【0203】
(第8の実施の形態)
本実施の形態に係る半導体発光素子は発光波長290nmの紫外光LEDである。この半導体発光素子では、透明基板は、上記第1の実施の形態で示した透明基板110と同様、サファイア基板からなる。透明基板中には、上記第1の実施の形態と同様の光散乱構造が形成されている。透明基板上には、窒化物半導体からなる半導体多層膜が形成されている。
【0204】
本実施の形態では、発光波長290nmの紫外光を発するように、MQW発光層の組成及び厚み等が調整されている。具体的には、MQW発光層は、AlGaNにInを添加したInAlGaN4元混晶の発光層としている。Al組成比が70%〜90%程度のAlGaNにInを数%添加している。発光層(バリア層、井戸層)の厚みによっても波長が変わる。そのため、波長を調整するために組成及び厚みは適宜調整している。
【0205】
《実施例3》
本実施の形態に係る半導体発光素子と同様の発光素子を作製し、この発光素子を実施例3とした。また、透明基板中に光散乱構造を形成していない点以外は実施例3と同様の半導体発光素子を作製し、これを比較例3(リファレンス素子)とした。
【0206】
実施例3の発光素子と比較例3の発光素子とを同じ駆動条件で駆動させ、光出力(全光束)を測定したところ、実施例3による発光素子は比較例3による発光素子に対して光出力が3%程度向上する結果が得られた。
【0207】
これより、基板中に光散乱構造を形成した本構造は、紫外光LEDに対しても有効であることが確認された。
【0208】
(第9の実施の形態)
本実施の形態に係る半導体発光素子は、上記第1の実施の形態に係る半導体発光素子100と同様の発光素子である。ただし、本実施の形態では、散乱構造面が1段である点において、散乱構造面が2段である上記第1の実施の形態とは異なる。
【0209】
《実施例4》
本実施の形態に係る半導体発光素子と同様の発光素子を作製し、この発光素子を実施例4とした。散乱構造面を構成する各光散乱部は、高さt=7μm、幅d=2μm、ピッチp1=6μm、ピッチp2=8μmであった。散乱構造面(光散乱部)は、透明基板の主面(上面)からその厚み方向に20μm隔てた位置に形成した。また、透明基板中に光散乱構造を形成していない点以外は実施例4と同様の半導体発光素子を作製し、これを比較例4(リファレンス素子)とした。
【0210】
実施例4の発光素子と比較例4の発光素子とを同じ駆動条件で駆動させ、光出力(全光束)を測定したところ、実施例4による発光素子は比較例4による発光素子に対して光出力が2%程度向上する結果が得られた。
【0211】
(第10の実施の形態)
図33を参照して、本実施の形態に係る半導体発光素子500は、上記第1の実施の形態に係る半導体発光素子100と同様の発光素子である。ただし、本実施の形態では、透明基板110の裏面上に反射膜510が形成されている点において、第1の実施の形態とは異なる。
【0212】
反射膜510は、例えば、Al又はAgの金属反射膜からなる。これ以外に、SiO
2/TiO
2の誘電体多層反射膜(層厚λ/4で例えば20層程度)でもよい。ここでのλは、発光素子の発光スペクトルのピーク波長を意味する。さらに、このような多層反射膜を形成した後、多層反射膜上にAl又はAgの金属反射膜を形成したハイブリッド型の反射膜構造でもよい。誘電体多層反射膜の材料は、一般に光学的に透明な材料であればよい。例えば、Al
2O
3、ZrO
2、TaO
5、Nb
2O
5等の材料であれば、誘電体多層反射膜の材料として問題なく用いることができる。反射膜510の反射率は、80%以上であるのが好ましく、90%以上であればより好ましい。
【0213】
このように、透明基板110の裏面上に反射膜510を形成することによって、透明基板110の上面から入射された光を、透明基板の裏面で有効に反射させることができるので、透明基板110の裏面に到達した光を光散乱構造200で有効に散乱させることができる。そのため、透明基板110の側面110bからより効率よく光を取出すことができる。
【0214】
(第11の実施の形態)
図34を参照して、本実施の形態に係る半導体発光素子600は、p側電極180が形成された側を下側にして実装する、いわゆるフリップチップマウント型のLED発光素子である。この半導体発光素子600は、上記第1の実施の形態に係る半導体発光素子100と同様の構成を有している。ただし、本実施の形態では、透明電極170の上面上に反射膜610が形成されている点において、そのような反射膜が形成されていない上記第1の実施の形態とは異なる。
【0215】
《実施例5》
本実施の形態に係る半導体発光素子と同様の発光素子を作製し、この発光素子を実施例5とした。実施例5では、透明電極上にAg反射膜を形成した。また、透明基板中に光散乱構造を形成していない点以外は実施例5と同様の半導体発光素子を作製し、これを比較例5(リファレンス素子)とした。
【0216】
実施例5の発光素子及び比較例5の発光素子をそれぞれフリップチップ実装した。そして、実施例5の発光素子と比較例5の発光素子とを同じ駆動条件で駆動させ、光出力(全光束)を測定したところ、実施例5による発光素子は比較例5による発光素子に対して光出力が6%程度向上する結果が得られた。
【0217】
フリップチップ実装を行なった場合、基板中に光散乱構造を形成した本構造では、透明基板の側面ばかりでなく透明基板の裏面で全反射していた光に関しても有効に取出すことができる。これより、本構造は光取出し効率の改善に有効であることが確認された。なお、さらなる光取出し効率の向上のために、サファイア基板の裏面に凹凸構造を形成してもよい。
【0218】
(第12の実施の形態)
本実施の形態に係る半導体発光素子は、上記第7の実施の形態と同様、透明基板に窒化物半導体からなる基板を用いている。ただし、本実施の形態では、透明基板に無極性基板であるm面GaN基板を用いている点において、透明基板にc面GaN基板を用いている第7の実施の形態とは異なる。その他の構成は、上記第1及び第7の実施の形態と同様である。
【0219】
《実施例6》
本実施の形態に係る半導体発光素子と同様の発光素子を作製し、この発光素子を実施例6とした。また、透明基板中に光散乱構造を形成していない点以外は実施例6と同様の半導体発光素子を作製し、これを比較例6(リファレンス素子)とした。
【0220】
実施例6の発光素子と比較例6の発光素子とを同じ駆動条件で駆動させ、光出力(全光束)を測定したところ、実施例6による発光素子は比較例6による発光素子に対して光出力が5%程度向上する結果が得られた。これより、無極性基板を用いた場合でも、基板中に光散乱構造を形成した本構造は有効であることが確認された。
【0221】
透明基板としてGaN基板を用いた半導体発光素子では、基板の屈折率がサファイア基板の1.78に比べて2.5と大きいため、基板側面からの光取出し効率がサファイア基板を用いた半導体発光素子に比べて低下する。透明基板に光散乱構造を形成した実施例6では、サファイア基板を用いた場合に比べて、光取出し効率の改善効果が効果的に働いたために、光出力がより向上したものと考えられる。
【0222】
(第13の実施の形態)
本実施の形態に係る半導体発光素子は、上記第1の実施の形態に係る半導体発光素子100と同様の発光素子である。ただし、本実施の形態に係る半導体発光素子は、透明基板中に形成された光散乱部の配列が上記第1の実施の形態とは異なる。
【0223】
図35を参照して、透明基板中の光散乱構造200Aは、複数の光散乱部210によって構成されている。本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様、これら複数の光散乱部210によって2段の散乱構造面が形成されている。
図35において、2段目の散乱構造面を構成する光散乱部210bはハッチングを付して示されている。各段の光散乱部210は直線状に形成され、このような直線状の光散乱部210が直線の延び方向と交差する方向に繰返し形成されることで、複数の光散乱部210が平面状に配列されている。
【0224】
隣接する光散乱部210を結ぶ線をそれぞれラインA1、ラインA2及びラインA3とする。本実施の形態では、ラインA1、ラインA2及びラインA3が、サファイア基板の劈開面であるM面及びM面と結晶的に等価な残りの2面(以下、M面等価面と記す。)に対して平行にならないように複数の光散乱部210が配列されている。すなわち、ラインA1、ラインA2及びラインA3が、M面及びM面等価面に対して交差するように各光散乱部210が形成されている。
【0225】
ラインA1、ラインA2及びラインA3がサファイア基板の劈開面であるM面又はM面等価面に対して平行となると、サファイア基板(透明基板)がそのラインで割れてしまう可能性がある。そのため、上記のように、光散乱構造200Aを構成する光散乱部210を、劈開面に対して平行に並ばないように形成することで、チップ分割時の分割歩留まりを高めることができる。
【0226】
なお、透明基板がサファイア基板の場合、その劈開面はM面又はM面等価面となるが、基板の材質が異なれば劈開面も異なる。そのため、サファイア基板以外の透明基板を用いる場合は、用いる基板の材質によって決まる劈開面に対して、光散乱部が平行に並ばないように構成するのが好ましい。
【0227】
(第14の実施の形態)
図36を参照して、本実施の形態に係る半導体発光素子は、上記第13の実施の形態に係る半導体発光素子において、隣接する光散乱部210を結ぶ線の少なくとも1つ(例えばラインA4)が透明基板110の劈開面に対して平行となっている。
【0228】
図36及び
図37を参照して、ラインA4に沿って配列された複数の光散乱部210において、隣接する光散乱部210は、その高さ(透明基板110の厚み方向の位置)が異なるように形成されている。
【0229】
このように、隣接する光散乱部210の高さを変えることによって、隣接する光散乱部210を結ぶ線(例えばラインA4)が劈開面と平行になっている場合でも、そのラインで割れてしまうのを抑制できる。そのため、意図しない位置で基板が割れてしまうのを抑制できるので、チップ分割時の分割歩留まりを高めることができる。
【0230】
(第15の実施の形態)
図38を参照して、本実施の形態に係る半導体発光素子700は、上記第1の実施の形態に係る半導体発光素子100と同様の発光素子である。ただし、本実施の形態では、散乱構造面Eが3段である点において、散乱構造面Eが2段である上記第1の実施の形態とは異なる。
【0231】
本実施の形態では、透明基板110A中に、散乱構造面E11、E12及びE13を含む光散乱構造200Cが形成されている。散乱構造面E11、E12及びE13において、各段の散乱構造面を構成する光散乱部210は、平面的に見た場合に、他の段の散乱構造面の光散乱部に対して重なり合わないように配置されている。
【0232】
このように構成された半導体発光素子700においても、上記第1の実施の形態と同様、外部光取出し効率を効果的に向上させることができる。
【0233】
[変形例]
上記実施の形態では、透明基板に、サファイア基板、c面GaN基板及びm面GaN基板を用いた例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。透明基板は、その透明基板を含む発光素子が発する光に対して透光性を有する基板であればよい。そのような透明基板として、上記以外に、例えば窒化物半導体基板、SiC基板及び石英基板等の基板を用いることができる。窒化物半導体基板としては、Al
xGa
yIn
zN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1)からなる基板を用いることができる。窒化物半導体基板中に、Si、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、Mg又はBeがドーピングされていてもよい。n型窒化物半導体としては、これらのドーピング材料のうちでも、Si、O及びClが特に好ましい。さらに、窒化物半導体基板には、非極性基板を用いることもできる。非極性基板は、無極性基板及び半極性基板を含む。無極性基板の主面方位には、A面{11−20}、M面{1−100}及び{1−101}面等がある。半極性基板の主面方位には、緑色領域等での発光効率が高いことで知られる{20−21}等がある。これらの主面方位を持つ窒化物半導体基板についても本発明を適用できる。
【0234】
上記実施の形態では、約120μmの厚みを有する透明基板を用いた例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。透明基板の厚みは特に限定されず、例えば20μm以上500μm以下(好ましくは80μm以上300μm以下)の厚みを有する透明基板を適宜用いることができる。
【0235】
上記実施の形態において、n型層の各層にドーピングするn型不純物は、特に限定されないが、Si、P、As又はSb等であればよく、好ましくはSiである。また、超格子層は、ワイドバンドギャップ層及びナローバンドギャップ層とは異なる1層以上の半導体層と、ワイドバンドギャップ層と、ナローバンドギャップ層とが順に積層されて超格子構造を構成していてもよい。
【0236】
上記実施の形態では、ITOからなる透明電極を用いた例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。透明電極はITO以外に例えばIZO(Indium Zinc Oxide)等の透明導電膜を用いることもできる。また、n側電極は上記以外に例えばW/Al、Ti/Al、Ti/Al/Ni/Au、W/Al/WPt/Au及びAl/Pt/Au等であってもよい。
【0237】
上記実施の形態では、SiO
2からなる透明保護膜を用いた例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。透明保護膜は、SiO
2以外に例えばZrO
2、TiO
2、Al
2O
3、又はV、Zr、Nb、Hf、Taよりなる群から選択された少なくとも一種の元素を含む酸化物、SiN、BN、SiC、AlN、AlGaN等を用いることができる。透明保護膜は絶縁性を有する膜であるのが好ましい。
【0238】
上記実施の形態では、n側電極及びp側電極を、突出部(枝電極)を含むように形成した例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。n側電極及びp側電極は、突出部(枝電極)を含まない構成であってもよい。また、p側電極の直下の領域に、p側電極の下部において電流の注入を止めるための絶縁層を設けてもよい。
【0239】
上記実施の形態では、p側電極の直下の領域に光散乱部を設けない例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。p側電極の直下の領域にも光散乱部を設ける構成であってもよい。
【0240】
上記実施の形態では、光散乱構造を構成する散乱構造面を1段、2段及び3段に形成した例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。散乱構造面は、4段以上の多段であってもよい。
【0241】
上記実施の形態では、光散乱構造を、基板を厚み方向に2等分した下側の領域(多層構造体とは反対側の領域)に形成した例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。例えば、
図39に示すように、光散乱構造200Dを、基板を厚み方向に2等分した上側の領域(多層構造体側の領域)に形成してもよい。また
図40に示すように、光散乱構造200Eを、基板中に分散させて(偏ることなく)形成してもよい。さらに
図41に示すように、断面的に見て、光散乱部210が略山型に配置された光散乱構造200Fを基板中に形成してもよい。さらに
図42に示すように、平面的に見て、光散乱部210が渦巻き状に配置された光散乱構造200Gを基板中に形成してもよい。この場合、光散乱部は螺旋状であってもよい。さらに、
図43に示すように、基板中に光散乱部210がランダムに配置された光散乱構造200Hを基板中に形成してもよい。
【0242】
上記実施の形態では、光散乱部を略長楕円体形状に形成した例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。光散乱部の形状は、略長楕円体形状以外であってもよい。なお、光散乱部の形状、寸法及び配置等は、透明基板中に入射された光を散乱させて、透明基板の側面から光を取出しやすくするように適宜制御することができる。
【0243】
上記実施の形態において、透明基板にサファイア基板を用いる場合、基板の上面は平坦であってもよいし、例えば特開2008−177528号公報に記載されているような、上面に凹凸形状が形成されたPSS(Patterned Sapphire Substrate)であってもよい。
図44を参照して、上面に凹凸形状が形成されているサファイア基板410を用いる場合、その凹凸形状は、1〜3μm程度の高さの凹凸が1〜3μm間隔で並んだ形状とすることができる。この場合、光散乱部210が形成されている位置までの距離Tは、凹凸形状の底面部をサファイア基板410の上面とし、サファイア基板410の上面からその厚み方向における光散乱部210の中心までの距離とする。
【0244】
上記実施の形態では、透明基板中に破断線(加工部)を一段で形成した例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。破断線(加工部)についても、多段で形成することができる。基板の厚みが大きくなると、基板を分割しにくくなる。そのため、例えば透明基板の厚みが50μm〜120μm程度の場合は破断線(加工部)を1段で加工し、透明基板の厚みが120μm〜200μm程度の場合は破断線(加工部)を2段で加工し、透明基板の厚みが200μm以上の場合は破断線(加工部)を3段で加工するといったように、透明基板の厚みに応じて段数を増やしてもよい。
【0245】
上記実施の形態では、散乱構造面が多段で形成されている場合に、各散乱構造面を構成する光散乱部を、平面的に見た場合に、他の散乱構造面の光散乱部に対して重なり合わないように形成した例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。各散乱構造面を構成する光散乱部の一部又は全部が、平面的に見た場合に、他の散乱構造面の光散乱部に対して重なり合うように形成されていてもよい。ただし、光散乱部が重なり合って形成されるとその部分の強度が低下するため、各散乱構造面を構成する光散乱部は、上記実施の形態で示したように、平面的に見た場合に、他の散乱構造面の光散乱部に対して重なり合わないように形成されているのが好ましい。
【0246】
上記第1の実施の形態では、半導体発光素子の製造方法において、透明基板を研磨・研削した後に、透明基板の裏面側からレーザ光を照射することにより透明基板の内部に光散乱部を形成する例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。例えば、レーザ光が入射する面が所定の位置に光散乱構造を形成可能な程度の表面粗さを有していれば、透明基板を研磨・研削する前に、透明基板の裏面側からレーザ光を照射することにより透明基板の内部に光散乱部を形成し、その後、透明基板を研磨・研削するようにしてもよい。
【0247】
上記第2〜第4の実施の形態では、蛍光体層の外側に、当該蛍光体層を覆う透明樹脂層を設けた例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。蛍光体層の外側に透明樹脂層を設けない構成としてもよい。この場合、蛍光体層は、ドーム形状以外の形状であってもよい。なお、蛍光体層に代えて、蛍光体粒子を含有しない透明樹脂で半導体発光素子を封止するようにしてもよい。
【0248】
上記第2の実施の形態において、半導体発光素子を搭載する基体は、セラミックス材料、金属材料、樹脂材料等からなる種々の基体を用いることができる。金属材料からなる基体を用いる場合、半導体発光素子からの光の波長に対して高い反射率を有する材料を使う必要はないが、そのような材料を用いることも可能である。さらに、基体の主表面に鏡面処理を施すこともできる。
【0249】
上記第3及び第4の実施の形態では、一部(半導体発光素子が搭載される部分)に高放熱体を有する基体を用いた例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。例えば、全体が高放熱体からなる基体を用いて半導体発光装置を構成することもできる。
【0250】
上記第2〜第4の実施の形態において、半導体発光装置に搭載する半導体発光素子の数は、1個であってもよいし、複数個であってもよい。
【0251】
上記第5及び第6の実施の形態では、透明基板の主面(多層構造体が形成される面)側からレーザ光を照射する例について示したが、本発明はそのような実施の形態には限定されない。例えば、レーザ光が入射する面が所定の位置に光散乱構造を形成可能な程度の表面粗さを有していれば、透明基板の裏面(多層構造体が形成される面とは反対の面)側からレーザ光を照射するようにしてもよい。
【0252】
上記で開示された技術を適宜組合せて得られる実施の形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。
【0253】
今回開示された実施の形態は単に例示であって、この発明が上記した実施の形態のみに制限されるわけではない。この発明の範囲は、発明の詳細な説明の記載を参酌した上で、特許請求の範囲の各請求項によって示され、そこに記載された文言と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含む。