(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高性能化に伴い、1つの電子機器に内蔵される発熱部品の数が増加すると共に、個々の発熱部品に投入されるエネルギー量が増大し、これらの結果、電子機器における発熱量が増大している。
【0003】
冷却ファンを用いた従来の放熱方法では、冷却ファンを駆動するために追加のエネルギーを要しており、より高い放熱能力を得るためには電子機器の電力消費量が更に増すこととなり、好ましくない。そもそも、この方法は、エネルギー損失による発熱に対して、エネルギー投入により放熱するというものであり、効率的でない。加えて、冷却ファンを設置するには比較的大きなスペースを要し、小型の電子機器には不向きである。更に、スマートフォンやタブレット型端末などでは、電子機器の筐体が密閉されており、冷却ファンで気流を起こして外部へ排気することはできない。
【0004】
また、ヒートパイプを用いた従来の放熱方法では、熱を速やかに輸送することができるものの、この熱を放熱するにはヒートシンクや放熱板が必要である。そして、ヒートシンク等を設置するには比較的大きなスペースを要し、小型の電子機器には不向きである。ヒートシンク等に代えて、電子機器の筐体等に熱を逃がすことも考えられ得るが、電子機器の小型薄型化により、筐体の表面積が減少しており、高い放熱能力を得ることはできない。更に、スマートフォンなどの高性能モバイル機器ではリチウムイオンバッテリの寿命低下が問題となっているところ、筐体に熱を逃すと、リチウムイオンバッテリの使用環境温度が高くなり、バッテリ容量の経時低下を招き得る。
【0005】
かかる状況下、個々の発熱部品の温度を測定し、温度測定値が所定の閾値を超えた場合に、発熱部品に投入するエネルギー量を制限することが行われているのが実状である。この方法は、発熱部品の発熱量自体を減少させることにより、発熱部品の温度上昇を抑制するものである。しかしながら、この方法では、発熱部品の温度上昇により、発熱部品の機能(例えばCPUのパフォーマンス)が都度妨げられることとなり、電子機器の性能を犠牲にしたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者らは、化学反応を利用して熱を蓄熱及び移動させる技術、即ち、ケミカルヒートポンプに着目した。特許文献1で示されるように、ケミカルヒートポンプは、現在、化学プラントや発電所における排熱利用の目的で用いられたり、家庭の給湯・暖房システムや冷凍車などの大型の装置に用いられている。しかしながら、ケミカルヒートポンプを電子機器に適用したものは知られていない。本発明者らは、以前の出願(特願2012−173042)において、発熱部品の温度上昇を抑制し得る新規な手段として、ケミカルヒートポンプを利用するという独自の発想に基づいた電子機器を示している。
【0008】
この電子機器は、発熱部品と、発熱部品が発する熱によって吸熱反応を示す化学蓄熱材を収容した反応室、化学蓄熱材の吸熱反応によって生じる凝縮性成分を凝縮又は蒸発させるための凝縮蒸発室、及び凝縮性成分が反応室と凝縮蒸発室との間を移動可能なように反応室と凝縮蒸発室とを連絡する連絡部を備える蓄熱デバイスと、を備えている。ここで、蓄熱デバイスは、上記ケミカルヒートポンプを含んでいる。
【0009】
この電子機器によれば、発熱部品を備える電子機器において、反応室と凝縮蒸発室とが連絡部によって連絡している蓄熱デバイスを適用し、発熱部品が発する熱によって吸熱反応を示す化学蓄熱材を使用しているので、発熱部品が発熱したときに、化学蓄熱材が反応して発熱部品から熱を奪って蓄熱し、これにより、発熱部品の温度上昇を抑制することができる。
【0010】
ここで、一般に反応室に収容される蓄熱性材料の熱伝導率は、反応室を構成する部材の熱伝導率に比べて小さいので、発熱部品が発する熱を蓄熱性材料で効率よく蓄熱するためには、発熱部品から蓄熱性材料への伝熱が効率よく行われる必要がある。
【0011】
そこで、本発明では、発熱部品から蓄熱性材料への伝熱性を向上させることができる電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の第1発明は、発熱部品と、前記発熱部品が発する熱を蓄熱する蓄熱デバイスと、を備える電子機器であって、前記蓄熱デバイスは、前記発熱部品が発する熱を吸熱する蓄熱性材料を収容した反応室を備えており、前記反応室は、前記発熱部品側の第1面と、前記第1面に対向する第2面と、前記第1面と前記第2面とを連結する複数の側面と、によって形成されており、前記反応室内において、前記反応室の内側面周辺である周辺部の熱伝導率が、前記反応室の中央部の熱伝導率と比べて小さくなっていることを特徴とする。
【0013】
前記構成によれば、蓄熱性材料から反応室への熱伝導を抑制することができ、その結果、発熱部品から蓄熱性材料への伝熱性を向上させることができる。
【0014】
ここで、発熱部品は、例えば、集積回路、発光素子、電界効果トランジスタ、モーター、コイル、コンバーター、インバーター及びコンデンサーからなる群より選択され得るが、これらに限定されるものではない。
【0015】
また、蓄熱性材料とは、化学反応によって吸熱反応を示す化学蓄熱材や、吸着又は吸収反応によって吸熱反応を示す吸着・吸収蓄熱材を含んでいる。化学蓄熱材には、例えば、硫酸カルシウムや塩化カルシウムなどの水和物や、カルシウムやマグネシウムの水酸化物等が挙げられる。また、吸着・吸収蓄熱材には、例えば、ゼオライト、シリカゲル、メソポーラスシリカ、活性炭等が挙げられる。しかしながら、蓄熱性材料は、上記の例に限定されず、発熱部品が発する熱を吸熱するものであれば良く、任意の適切な蓄熱性材料を使用することができる。
【0016】
なお、蓄熱性材料が上記水和物、水酸化物、ゼオライト等である場合、凝縮性成分は水であるが、蓄熱性材料によっては、凝縮性成分は水に限定されるものではない。
【0017】
また、凝縮性成分とは、水に限定されず、アンモニア等、気液変態が可能なものであれば良く、特に、使用環境において両方の状態に変化可能であれば良い。
【0018】
前記第1発明は、更に、次のような構成を備えるのが好ましい。
(1)前記反応室の内側面と前記蓄熱性材料との間には隙間が形成されている。
(2)前記構成(1)において、前記反応室は、前記第1面、前記第2面及び複数の前記側面によって、略直方体の形状を有しており、前記蓄熱性材料は、前記第1面側に位置する第3面から前記第2面に向かって先細となる形状を有しており、前記第3面の形状は、前記第1面の形状と略同じ又はより小さくなっている、
(3)前記構成(1)又は(2)において、前記反応室には、前記蓄熱性材料の位置決めを行う位置決め部材が設けられている。
(4)前記蓄熱性材料は、前記周辺部に位置する周辺部材の熱伝導率が、前記中央部に位置する中央部材の熱伝導率と比べて小さくなっている。
(5)前記構成(4)において、前記周辺部材は、前記蓄熱性材料の母材と樹脂ビーズとの混合材でできており、前記蓄熱性材料は、前記中央部材と前記周辺部材とがプレス成形された後、熱処理されることによって形成されている。
【0019】
前記構成(1)によれば、反応室の内側面と蓄熱性材料との間の隙間によって、蓄熱性材料から反応室への熱伝導を抑制することができ、その結果、発熱部品から化学蓄熱材への伝熱性を向上させることができる。
【0020】
前記構成(2)によれば、反応室の内側面と蓄熱性材料との間の隙間を、蓄熱性材料を反応室に収容するだけで、形成することができる。
【0021】
前記構成(3)によれば、位置決め部材によって、蓄熱性材料の位置決めができるので、反応室の内側面と蓄熱性材料との間の隙間を、蓄熱性材料を反応室に収容するだけで、形成することができる。
【0022】
前記構成(4)によれば、蓄熱性材料の周辺部材の熱伝導率が、中央部材の熱伝導率よりも小さくなっているので、蓄熱性材料から反応室への熱伝導を抑制することができ、その結果、発熱部品から蓄熱性材料への伝熱性を向上させることができる。
【0023】
前記構成(5)によれば、周辺部材の熱伝導率が中央部材の熱伝導率よりも小さい蓄熱性材料を容易に形成することができる。
【0024】
本願の第2発明は、発熱部品と、前記発熱部品が発する熱を蓄熱する蓄熱デバイスと、を備える電子機器であって、前記蓄熱デバイスは、前記発熱部品が発する熱を吸熱する蓄熱性材料を収容した反応室を備えており、前記反応室は、前記発熱部品側の第1面と、前記第1面に対向する第2面と、前記第1面と前記第2面とを連結する複数の側面と、によって形成されており、前記第1面の内面には、凹凸構造が形成されていることを特徴とする。
【0025】
前記構成によれば、反応室には、発熱部品側の第1面に凹凸構造が形成されているので、第1面と蓄熱性材料との接触面積を増加させることができ、その結果、発熱部品から蓄熱性材料への伝熱性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0026】
要するに、本発明によると、発熱部品から蓄熱性材料への伝熱性を向上させることができる電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態に係る電子機器について、以下、図面を参照しながら詳述するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
(電子機器の全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係る電子機器100の概略模式上面図である。
図1に示されるように、電子機器100は、発熱部品11と、発熱部品11が発する熱を蓄熱する蓄熱デバイス10と、を備えている。電子機器100がスマートフォンである場合、発熱部品11はパワーマネジメントICである。電子機器100は、さらに、熱伝導性部材としてリチウムイオンバッテリ13を備えている。
【0030】
蓄熱デバイス10は、発熱部品11が発する熱を吸熱する蓄熱性材料を収容した反応室1と、蓄熱性材料の吸熱によって生じる凝縮性成分を凝縮又は蒸発させるための凝縮蒸発室3と、凝縮性成分が、反応室1と凝縮蒸発室3との間を移動可能なように、反応室1と凝縮蒸発室3とを連絡する連絡部5と、を備えている。反応室1は、発熱部品11に対して熱的に結合されている。凝縮蒸発室3は、リチウムイオンバッテリ13に対して熱的に結合されている。熱的に結合する方法としては、例えば、金属フィラー等で熱伝導性を高めた接着剤を用いる方法が挙げられるがそれに限定されるものではない。
【0031】
本実施形態では、発熱部品11であるパワーマネージメントICが動作して発熱し、ある程度高い温度(使用する蓄熱性材料による)に達すると、発熱部品11から熱を奪って反応室1の蓄熱性材料の吸熱反応が進行し、この吸熱反応で発生した凝縮性成分は凝縮蒸発室3で凝縮してリチウムイオンバッテリ13に熱を与え、これにより、発熱部品11の温度上昇を低減し、好ましくは発熱部品11の温度を安定化させて、発熱部品11を耐熱温度以下(例えば85℃以下)に維持できる。その後、発熱部品11の動作がより低いレベルに変化ないし停止して、発熱部品11の温度がある程度低い温度まで低下すると、反応室1で蓄熱性材料の発熱反応が進行すると共に凝縮蒸発室3ではリチウムイオンバッテリ13から熱を奪って凝縮性成分が蒸発し、これにより、発熱部品11の温度は若干上昇し、リチウムイオンバッテリ13の温度は低下し、リチウムイオンバッテリ13の寿命低下が問題とならない温度以下(例えば40℃以下)に維持できる。すなわち、蓄熱デバイス10は、発熱部品11の高温動作時には発熱部品11から熱を奪うと共にリチウムイオンバッテリ13に熱を逃がし、低温動作時には発熱部品11に熱を与えると共にリチウムイオンバッテリ13から熱を奪う(冷却する)ようになっている。
【0032】
(蓄熱デバイスの構成)
図2は、蓄熱デバイス10部分の概略模式断面図である。蓄熱性材料95は、反応室1に収容されている。蓄熱性材料95は、例えば固相2aを成していてよく、反応室1内には、凝縮性成分を含む気相2bが存在し得る。反応室1内の圧力は、通常(発熱部品11が非発熱状態であるとき)の使用温度環境下にて、吸熱反応と発熱反応の平衡圧力に実質的に等しいことが望ましい。
【0033】
他方、凝縮蒸発室3には、凝縮性成分が気相4a及び液相4bに含まれて存在し得る。本実施形態を限定するものではないが、凝縮蒸発室に予め凝縮させた成分(例えば液体状態の水)を収容しておいてよい。凝縮蒸発室3内の圧力は、使用温度環境下にて、凝縮性成分の飽和蒸気圧(水の場合には飽和水蒸気圧)に実質的に等しいことが望ましい。また、凝縮蒸発室3には、凝縮性成分をトラップするトラップ部材96が設けられている。
【0034】
トラップ部材96は、液体を可逆的にトラップできるものであればよい。より詳細には、多孔質材料、例えばセラミックス、ゼオライト、金属等から成る多孔質材料を使用することができるが、これに限定されない。
【0035】
反応室1と凝縮蒸発室3とを連絡する連絡部5は、これらの間を凝縮性成分が移動可能なようになっていればよい。より詳細には、凝縮性成分は気体状態で移動し得、この場合、連絡部5は気体が通過し得るものであればよい。かかる連絡部は、簡便には、管状部材であってよいが、これに限定されない。また、連絡部5には、気体は通過可能であるが、固体及び液体は実質的に通過可能でないフィルタ部材97が設けられている。
【0036】
フィルタ部材97は、気体は通過可能であるが、固体および液体は実質的に通過可能でないものであればよい。「固体および液体は実質的に通過可能でない」とは、ケミカルヒートポンプの性能を損なわない程度で、固体および液体を少量通過するものであってもよいことを意味する。フィルタ部材97は、液体は少量通過させても、固体は通過可能でないことが好ましく、固体および液体の双方が通過可能でないことがより好ましい。
【0037】
より詳細には、フィルタ部材97は、透湿性(JIS L1099(B法、一般的にはB−1法)による)が1000g/m
2/24h以上、特に10000g/m
2/24h以上であることが好ましく、これによりフィルタ部材97に起因する圧力損失を十分に小さくすることができる。固体の非通過性については、化学蓄熱材が通過しないものであればよく、使用する化学蓄熱材の寸法に応じて適宜選択可能である。液体の非通過性については、防水性(JIS L1092(A法)による)が1000mm以上、特に10000mm以上であることが好ましい。
【0038】
具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレンを延伸加工したフィルム(微細孔フィルター)を使用することができ、これは、必要に応じてポリウレタンポリマーと複合化されていてもよい。かかるフィルムは、例えば、商品名「ゴアテックス」(登録商標)として市販で入手可能である。また、撥水加工した繊維生地にポリウレタンコーティングを施したものを使用することもできる。かかるポリウレタンコーティング生地は、例えば、東レ株式会社より、商品名「エントラントGII」(登録商標)XT等として市販で入手可能である。
【0039】
しかしながら、これらの例に限定されず、フィルタ部材97には、液体状態での会合した水分子クラスタよりも小さく、かつ、水蒸気状態で単独で存在する水分子よりも大きい寸法の孔を有する任意の適切な構造体を適用することができる。
【0040】
連絡部5は、バルブ(図示せず)を備えていても、いなくてもよい。連絡部5がバルブを備えない場合、デバイス構成が簡単になり、凝縮性成分の移動ひいては蓄熱デバイス10の作動は、反応室1における反応の進行及び/又は凝縮蒸発室3における相変化の進行(代表的には、反応室1及び/又は凝縮蒸発室3における温度)に依存する。連絡部5がバルブを備える場合、凝縮性成分の移動ひいては蓄熱デバイス10の作動は、バルブの開閉によって制御でき、熱の移動、発熱及び冷却のタイミングを管理できるので、より綿密な電子機器内部の熱設計ができるようになる。
【0041】
かかる蓄熱デバイス10は、物質の出入りのない閉じた系となっているが、熱の出入りは、少なくとも反応室1において、好ましくは反応室1及び凝縮蒸発室3において可能なように構成される。具体的には、反応室1及び好ましくは凝縮蒸発室3は、それぞれ少なくとも一部が熱伝導性材料から構成され得る。熱伝導性材料は、特に限定されないが、例えば金属(銅など)、酸化物(アルミナなど)、窒化物(窒化アルミニウムなど)、カーボンなどの熱の良導体であってよい。
【0042】
反応室1は、発熱部品11側の第1面1aと、第1面1aに対向する第2面1bと、第1面1aと第2面1bとを連結する4つの側面1cと、によって形成され、略直方体の形状を有している。
【0043】
図3は、反応室1部分の概略模式断面図である。
図3に示されるように、反応室1の第1面1aには、蓄熱性材料95の位置決めを行う位置決め部材6が設けられており、蓄熱性材料95は、第1面1aに当接して、第1面1a上で位置決めされるようになっている。その結果、蓄熱性材料95と側面1cとの間には、所定の隙間d1が形成されている。そして、隙間部分は空気の熱伝達率を有することから、蓄熱性材料95の熱伝達率より小さくなっている。すなわち、反応室1の側面1c周辺である周辺部の熱伝導率が、反応室1の中央部に位置する化学蓄熱材95熱伝導率と比べて小さくなっている。なお、隙間d1の寸法は、0.1mm程度である。
【0044】
(蓄熱デバイスの作製方法)
図4は、蓄熱デバイス10の作製方法を示す概略模式斜視図である。以下、
図4を用いて、蓄熱デバイス10の作製方法の一例について説明する。
【0045】
まず、
図4(a)に示されるように、2枚の金属板91a、91bを用意する。これらの金属板91a、91bは、好ましくは耐食性金属、例えばステンレス鋼でできていることが好ましいが、これに限定されるものではない。金属板91a、91bの厚さは、例えば0.01mm以上、特に、0.05〜1.0mmとすることができる。金属板91a、91bの材質及び厚さは、互いに同じであってもよく、また異なっていてもよい。
【0046】
次に、
図4(b)に示されるように、一方の金属板91aに反応室1及び凝縮蒸発室3に対応する2つの凸部93a1、93a2を形成する。凸部93a1、93a2の寸法は、反応室1及び凝縮蒸発室3に対して所望される寸法に応じて適宜決定され、凸部93a1、93a2の高さは、例えば、0.1〜10mm、特に0.3〜1.0mmとでき、互いに同じであってもよく、また異なっていてもよい。そして、他方の金属板91bには、連絡部5に対応する凹部93bを形成する。凹部93bの寸法は、反応室1と凝縮蒸発室3との間を連絡する連絡部5を形成し、その内部を凝縮性成分が移動し得るものであればよく、凹部93bの深さは、例えば0.1〜10mm、特に0.3〜1.0mmとできる。なお、これら金属板91a、91bへの凹凸形状の形成は、任意の適切な方法を適用してよく、例えば、絞り加工、プレス成形などの方法を利用できる。
【0047】
そして、凸部93a1に、蓄熱性材料95を配置する。蓄熱性材料95は、一般的に固体又は固形状であり、例えば、粒状、シート状等である。ここで、蓄熱性材料95はあらかじめ成形体となっていることが好ましい。具体的には、蓄熱性材料95は、エポキシ系、アクリル系、ポリイミド系、ポリエチレン系といった樹脂材料とコンポジットされ、型プレスなどの方法で成形される。なお、蓄熱性材料95は、あらかじめ上記のように成形又は梱包されていることが好ましいが、このことは必須ではない。
【0048】
凸部93a2に、液体をトラップ可能なトラップ部材96を配置する。トラップ部材96は、例えば多孔質材料でできている。
【0049】
他方、金属板91bの凹部93bに、気体は通過可能であるが、固体及び液体は実質的に通過可能ではないフィルタ部材97を配置する。
【0050】
その後、
図4(c)に示されるように、これらの金属板91a、91bを凸部93aと凹部93bとが一緒になって内部空間を形成するように重ね合わせる。これにより、金属板91a、91bの外周平坦面が互いに密接することになる。
【0051】
そして、
図4(d)に示されるように、重ね合わされた金属板91a、91bの外周部99を気密封止する。気密封止は、蓄熱デバイス10内部に所望される圧力、一般的には(使用する蓄熱性材料にもよるが)減圧下、例えば0.1Pa〜100kPa、特に1.0Pa〜10kPa(絶対圧)にて実施することが好ましい。気密封止には、任意の適切な方法を適用してよく、例えば、レーザー溶接、アーク溶接、抵抗溶接、ガス溶接、ろう付けなどの方法が利用できる。気密封止後、外周部のうち不要な縁部は、適宜、打ち抜き加工等によって除去してもよい。
【0052】
以上のように、蓄熱デバイス10は作製される。ただし、上記の作製方法は例示であり、本発明に係る蓄熱デバイスは、任意の適切な方法により作製してもよい。
【0053】
そして、以上のように作製された蓄熱デバイス10は、電子機器100に組み込まれる。
【0054】
前記構成の電子機器100によれば、次のような効果を発揮できる。
【0055】
(1)反応室1内において、反応室1の側面1c周辺である周辺部の熱伝導率が、反応室1の中央部の熱伝導率と比べて小さくなっているので、蓄熱性材料95から反応室1への熱伝導を抑制することができ、その結果、発熱部品11から化学蓄熱材95への伝熱性を向上させることができる。
【0056】
(2)反応室1の側面1cと蓄熱性材料95との間には隙間d1が形成されているので、隙間d1によって、蓄熱性材料95から反応室1への熱伝導を抑制することができ、その結果、発熱部品11から蓄熱性材料95への伝熱性を向上させることができる。なお、隙間d1の寸法は0.1mm以上あれば、蓄熱性材料95から反応室1への熱伝導を抑制することができる。一方、隙間d1の寸法を大きくすればするほど、反応室1に収容される蓄熱性材料95の量が少なくなる。以上より、蓄熱性材料95の総蓄熱量、すなわち、蓄熱性材料95の量をできるだけ確保することを考慮すると、反応室の1の側面1cと蓄熱性材料95との間には、0.1mm程度の隙間d1を形成することが好ましい。
【0057】
(3)反応室1には、蓄熱性材料95の位置決めを行う位置決め部材6が設けられており、位置決め部材6によって、蓄熱性材料95の位置決めができるので、反応室の側面1cと蓄熱性材料95との間の隙間d1を、蓄熱性材料95を反応室1に収容するだけで、形成することができる。
【0058】
(4)凝縮蒸発室3にトラップ部材96が配置されていることによって、電子機器100が上下及び/又は左右に回転等した場合であっても、凝縮蒸発室3において凝縮した凝縮性成分(液体)が凝縮蒸発室3から連絡部5を通じて反応室1へ移動をすること防止できる。
【0059】
(5)連絡部5にフィルタ部材97が配置されていることによって、電子機器100が上下及び/又は左右に回転等した場合であっても、反応室1内の蓄熱性材料95が反応室1から連絡部5を通じて凝縮蒸発室3へ移動することを防止でき、また、凝縮蒸発室3において凝縮された凝縮性成分(液体)が凝縮蒸発室3から連絡部5を通じて反応室1へ移動することを防止できる。
【0060】
(蓄熱性材料の変形例1)
図5は、反応室1部分の概略模式断面図であり、蓄熱性材料95が
図3とは異なる形態を備えている。
図5に示されるように、反応室1の第1面1aに当接する蓄熱性材料95の第3面95cの面積が、第3面95cに対向し、反応室1の第2面1b側である蓄熱性材料95の第4面95dの面積より大きくなっている。そして、蓄熱性材料95は、第3面95cを一方の底面とし、第4面95dを他方の底面とする、錐台の形状を有している。そして、蓄熱性材料95を反応室1に収納できるよう、蓄熱性材料95の第3面95cの形状は、反応室1の第1面1aの形状と略同じ又はより小さくなっている。その結果、蓄熱性材料95と反応室1の側面1cとの間には、所定の隙間d2が形成されることになる。そして、隙間d2部分は空気の熱伝達率を有することから、蓄熱性材料95の熱伝達率より小さくなっている。すなわち、反応室1の側面1c周辺である周辺部の熱伝導率が、反応室1の中央部に位置する化学蓄熱材95熱伝導率と比べて小さくなっている。
【0061】
上記構成によれば、蓄熱性材料95は、第3面95cから反応室1の第2面1bに向かって先細となる形状を有しており、第3面95cの形状が、第1面1aの形状と略同じ又はより小さくなっている。一方、反応室1は、第1面1a、第2面1b及び4つの側面1cによって形成され、略直方体の形状を有している。その結果、反応室1の側面1cと蓄熱性材料95との間の隙間d2を、蓄熱性材料95を反応室1に収容するだけで、形成することができる。なお、上記構成では、蓄熱性材料95は、第3面95cを一方の底面とし、第4面95dを他方の底面とする、錐台の形状を有しているが、蓄熱性材料95は、第3面95cから反応室1の第2面1bに向かって先細となる形状であれば、上記構成に示すような錐台(角錐台及び円錐台を含む)の形状を有しても良く、また、第4面を有しない円錐、角錐の形状を有しても良い。
【0062】
(蓄熱性材料の変形例2)
図6は、反応室1部分の概略模式断面図であり、蓄熱性材料95が
図3及び
図5とは異なる形態を備えている。
図6に示されるように、蓄熱性材料95は、熱伝導率の異なる2つの部材を備えており、反応室1の側面1c周辺に位置する周辺部材95eの熱伝導率が、反応室1の中央部に位置する中央部材95fの熱伝導率と比べて小さくなっている。
【0063】
(熱伝導率の異なる2つの部材を備える蓄熱性材料の作製方法)
以下、
図6に示されるような蓄熱性材料95の作製方法の一例について説明する。
【0064】
まず、蓄熱性材料の母材、例えば、硫酸カルシウム、塩化カルシウム又はゼオライトあるいはそれらの混合と、樹脂ビーズ、例えば、アクリルビーズ、ウレタンビーズ又はセルロースビーズあるいはそれらの混合と、を体積比で1:1となるように秤量し、乾式混合する。その後、混合して得られた材料と、エポキシ系、アクリル系、ポリイミド系又はポリエチレン系の樹脂材料とを混合させて、第1の蓄熱性材料を得る。
【0065】
次に、蓄熱性材料の母材、例えば、硫酸カルシウム、塩化カルシウム又はゼオライトあるいはそれらの混合と、エポキシ系、アクリル系、ポリイミド系又はポリエチレン系の樹脂材料とを混合させて第2の蓄熱性材料を得る。
【0066】
そして、第1の蓄熱性材料をドーナツ状の金型にてプレス等の方法で成形する。次に、第1の蓄熱性材料で成形されたドーナツ状の中心部分、すなわち空間部分に、第2の蓄熱性材料を加え、プレス等の方法で成形する。その結果、中央部に第2の蓄熱性材料が位置し、周辺部に第1の蓄熱性材料が位置する成形体が形成される。
【0067】
そして、このようにして得られた成形体を熱処理する。熱処理は、樹脂ビーズであるアクリルビーズ等が蒸発する任意の適当な条件で行われるが、例えば、260℃において2時間の加熱が挙げられる。上記の条件で熱処理された成形体では、第1の蓄熱性材料に含まれていたアクリルビーズ等が蒸発し、第1の蓄熱性材料が形成していた周辺部に空孔(ポア)が形成される。その結果、周辺部の熱伝導率は低下し、周辺部の熱伝導率が中央部の熱伝導率と比べて小さい蓄熱性材料が作製される。
【0068】
上記構成によれば、次のような効果を発揮できる。
(1)蓄熱性材料95の周辺部材95eの熱伝導率が、中央部材95fの熱伝導率よりも小さくなっているので、蓄熱性材料95から反応室1への熱伝導を抑制することができ、その結果、発熱部品11から化学蓄熱材95への伝熱性を向上させることができる。
【0069】
(2)周辺部材95eは、蓄熱性材料の母材と樹脂ビーズとの混合材でできており、蓄熱性材料95は、中央部材95fと周辺部材95eとがプレス成形された後、熱処理されることによって形成されているので、周辺部材95eの熱伝導率が中央部材95fの熱伝導率よりも小さい蓄熱性材料95を容易に形成することができる。
【0070】
(蓄熱デバイスの変形例)
図7は、蓄熱デバイス10の変形例を示す概略模式断面図である。
図7に示されるように、反応室1の第1面1aの内面には、凹凸構造1a1が形成されている。凹凸構造1a1は、例えば凸部及び/又は凹部が規則的に配置されていても、ランダムに配置されていても良い。凹凸構造1a1は、任意の適切な方法によって形成されることができる。凹凸構造1a1は、熱伝導性材料からできていることが好ましく、例えば、金属(銅等)、酸化物(アルミナ等)、窒化物(窒化アルミニウム等)、カーボン等の熱の良導体からできている。凹凸構造1a1は、例えば金属等の表面に対するディンプル加工や波状加工、切削加工、鋳型成形、溶接等によって形成されても良い。なお、第1面1aに凹凸構造1a1が形成される場合には、蓄熱性材料95は、凹凸構造1a1の隙間d3に容易に入り込むことができるよう、粒状となっており、その粒径は凹凸構造1a1の隙間d3以下であることが好ましい。
【0071】
上記構成によれば、反応室1には、発熱部品側の第1面1aの内面に凹凸構造1a1が形成されているので、第1面1aと蓄熱性材料95との接触面積を増加させることができ、その結果、発熱部品11から蓄熱性材料95への伝熱性を向上させることができる。
【0072】
上記実施形態によれば、蓄熱デバイス10は、反応室1、凝縮蒸発室3及び連絡部5を備えているが、蓄熱デバイスは、蓄熱性材料を収容した少なくとも1つの反応室を備えていれば良い。この場合、発熱部品が発する熱を、反応室に収容された蓄熱性材料へ伝達し、蓄熱性材料が反応により吸熱することによって、発熱部品の温度上昇を抑制することができる。
【0073】
本実施形態の電子機器100は、例えば、スマートフォン、携帯電話、タブレット型端末、ラップトップ型パソコン、携帯型ゲーム機、携帯型音楽プレーヤー、デジタルカメラ等のモバイル型電子機器として好適に利用されることができる。
【0074】
特許請求の範囲に記載された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、各種変形及び変更を行うことも可能である。