特許第6199532号(P6199532)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6199532排ガス浄化フィルタの製造方法、排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6199532
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】排ガス浄化フィルタの製造方法、排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/46 20060101AFI20170911BHJP
   B01J 29/40 20060101ALI20170911BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20170911BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20170911BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   B01J29/46 AZAB
   B01J29/40 A
   B01D53/94 222
   F01N3/022 B
   F01N3/035 A
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-527149(P2017-527149)
(86)(22)【出願日】2016年6月14日
(86)【国際出願番号】JP2016067672
(87)【国際公開番号】WO2017006720
(87)【国際公開日】20170112
【審査請求日】2017年6月2日
(31)【優先権主張番号】特願2015-137042(P2015-137042)
(32)【優先日】2015年7月8日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上谷 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】三島 隆寛
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−33273(JP,A)
【文献】 特開2011−201115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/86,94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライトと担体の原料粒子とを含む混合物を押出成形して成形体を作製する工程と、 前記成形体を900〜1100℃で焼成して焼結体を作製する工程と、
前記焼結体をpH9.5以上の条件下でアルカリ処理する工程と、
前記アルカリ処理後に焼結体に含まれるゼオライトのイオン交換サイトの元素を遷移金属に交換する工程とを備えることを特徴とする、排ガス浄化フィルタの製造方法。
【請求項2】
前記ゼオライトを、窒素酸化物を窒素に還元する触媒として含むことを特徴とする、請求項1に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法。
【請求項3】
前記ゼオライトが、モルデナイト型ゼオライト、フォージャサイト型ゼオライト、A型ゼオライト、L型ゼオライト、βゼオライト、及びZSM−5型ゼオライトから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法。
【請求項4】
前記担体の原料粒子がチタン酸アルミニウムであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法。
【請求項5】
前記成形体が、ハニカムフィルタの成形体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法で排ガス浄化フィルタを製造する工程と、
製造された前記排ガス浄化フィルタを備える排ガス浄化装置を製造する工程とを、
備える、排ガス浄化装置の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化フィルタの製造方法、排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどの内燃機関から排出される排ガスには、粒子状物質(PM:particulate matter)や窒素酸化物(NOx)、炭化水素、一酸化炭素等の有害成分が含まれており、これらの有害物質を除去するために様々な手法が行われている。特にトラック、バス等のディーゼル車から排出されるNOxやPMが都市部の大気汚染の一因となっていることから、ますますこれらの有害物質に対する規制が強化されている。
【0003】
PMは、排ガスの流路中に配置したフィルタにPMを捕集し、PMが所定量堆積したところで、フィルタを加熱してPMを燃焼分解する方法等で除去されている。しかし、PMの燃焼温度は550〜650℃と高いことから、装置が大がかりになり、また加熱するためのエネルギーコストが高くなるという問題がある。より低温でPMを燃焼させるために、触媒を担持したハニカムフィルタが用いられている。このような触媒として、特許文献1においてSiとZrとを含む複合酸化物粒子が提案されている。
【0004】
NOxは、排ガスの流路中に配置したフィルタにNOx還元触媒を担持して除去されている。例えばフィルタにゼオライト系触媒を担持し、そこへ尿素等のアンモニア前駆物質から得られる還元剤又はアンモニア自体を注入することでNOxを窒素へ還元する選択的接触還元(SCR:Selective catalytic reduction)がある。
【0005】
PMとNOxを除去するためには、PMがNOx還元触媒に付着するとNOx還元効率が低下することから、PMを除去する装置の下流にNOxを除去する装置を配置する必要がある。しかし、市場のダウンサイジングの要請から、PMを除去する装置とNOxを除去する装置を一体化させた装置が望まれている。
【0006】
そこで、特許文献2では、ウォールフロー型のフィルタ壁面にNOx還元触媒からなるNOx還元触媒層を被覆し、さらに酸化触媒からなる酸化触媒層を被覆することが提案されている。
【0007】
一方で、担体の原料粒子であるチタン酸アルミニウム等とPMを燃焼させるための触媒粒子とを混合後、フィルタ形状に成形し焼結することで得た排ガス浄化フィルタは、PM堆積による圧力損失の上昇が抑制され、又PMの除去効率が高くなることが知られている。例えば、特許文献3では、表面に触媒原料を付着させたチタン酸アルミニウム粒子を成形し焼結した排ガスフィルタが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2013/136991号公報
【特許文献2】特開2000−282852号公報
【特許文献3】国際公開2012/046577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2では、形成された触媒層によりフィルタ壁面の細孔が閉塞することにより、連結していた細孔同士が独立して排ガス流路が減少し、結果としてPM堆積による圧力損失の上昇、PMとNOxの除去効率が低下するという問題がある。NOx還元触媒であるゼオライト系触媒は耐熱性が低く、特許文献3と同様の方法を適用するとゼオライト系触媒が熱劣化するという問題がある。
【0010】
本発明の目的は、排ガス浄化フィルタの作製後に触媒粒子を含む溶液に含浸又は触媒粒子を含む溶液を必ずしも塗布せずとも簡便な方法で触媒を担持し、NOx還元効率が高い排ガス浄化フィルタを得ることを可能とする排ガス浄化フィルタの製造方法、該排ガス浄化フィルタの製造方法により得られた排ガス浄化フィルタ及び該フィルタを備えた排ガス浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の排ガス浄化フィルタの製造方法、排ガス浄化フィルタ及び排ガス浄化装置を提供する。
【0012】
項1 ゼオライトと担体の原料粒子とを含む混合物を押出成形して成形体を作製する工程と、前記成形体を焼成して焼結体を作製する工程と、前記焼結体をpH9.5以上の条件下でアルカリ処理する工程と、前記アルカリ処理後に焼結体に含まれるゼオライトのイオン交換サイトの元素を遷移金属に交換する工程とを備えることを特徴とする、排ガス浄化フィルタの製造方法。
【0013】
項2 前記ゼオライトを、窒素酸化物を窒素に還元する触媒として含むことを特徴とする、項1に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法。
【0014】
項3 前記ゼオライトが、モルデナイト型ゼオライト、フォージャサイト型ゼオライト、A型ゼオライト、L型ゼオライト、βゼオライト、及びZSM−5型ゼオライトから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする、項1又は2に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法。
【0015】
項4 前記担体の原料粒子がチタン酸アルミニウムであることを特徴とする、項1〜3のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法。
【0016】
項5 前記成形体が、ハニカムフィルタの成形体であることを特徴とする、項1〜4のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法。
【0017】
項6 項1〜5のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法で製造されたことを特徴とする、排ガス浄化フィルタ。
【0018】
項7 項6に記載の排ガス浄化フィルタを備えることを特徴とする、排ガス浄化装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、排ガス浄化フィルタの作製後に触媒粒子を含む溶液に含浸又は触媒粒子を含む溶液を必ずしも塗布せずとも簡便な方法で触媒を担持し、高効率でNOxを還元除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0021】
本発明の排ガス浄化フィルタの製造方法は、ゼオライトと担体の原料粒子とを含む混合物を押出成形して成形体を作製する工程と、前記成形体を焼成して焼結体を作製する工程と、前記焼結体をpH9.5以上の条件下でアルカリ処理する工程と、前記アルカリ処理後に焼結体に含まれるゼオライトのイオン交換サイトの元素を遷移金属に交換する工程とを備えることを特徴とする。
【0022】
排ガス浄化フィルタの担体の形状としては、濾過機能を有すれば特に限定されず、従来公知の担体を用いることができ、例えばハニカムフィルタがある。具体的にはセラミック製のウォールフロー型ハニカムフィルタが好ましく用いられる。
【0023】
材質がセラミックである担体の原料粒子としては、シリコンカーバイド、コーデュエライト、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム等が好ましく用いられ、耐熱性、安定性の観点からチタン酸アルミニウムがより好ましい。又、セラミックの原料粒子に、タルク、酸化ケイ素、ムライト、アルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物等の焼結助剤を適時加えてもよい。
【0024】
ウォールフロー型であれば、そのセル数、壁厚は特に限定されないが、セル数は200〜400セル/平方インチであることが好ましく、壁厚は200〜380μmであることが好ましい。セル壁面は多孔質であれば特に制限されないが、長径(細孔径)が8〜18μm程度の細孔を有していることが好ましく、気孔率は45〜65%であることが好ましい。
【0025】
ゼオライトとは、結晶性アルミノケイ酸塩で、ケイ素元素とアルミニウム元素のまわりに4つの酸素元素が規則正しく三次元的に結合した結晶構造を持つ多孔質体である。本発明で用いるゼオライトの結晶構造としては、モルデナイト型ゼオライト、フォージャサイト型ゼオライト、A型ゼオライト、L型ゼオライト、βゼオライト、ZSM−5型ゼオライト等がある。
【0026】
本発明で使用するゼオライトのシリカ/アルミナ比は、15以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。シリカ/アルミナ比の上限値は、100であることが好ましく、50であることがより好ましい。この構成にすることにより他の添加剤より溶出するアルカリ金属イオンの影響を受けることなく、NOxを還元除去できるものと考えられるため好ましい。
【0027】
本発明で使用するゼオライトは、天然産及び合成ゼオライトがあるが、前記構成のものであれば特に制限なく使用できる。好ましくは、より均一なシリカ/アルミナ比、結晶サイズ、結晶形態を有し、不純物が少ないことから、合成ゼオライトがよい。
【0028】
前記ゼオライトと担体の原料粒子とを含む混合物は、例えば造孔剤、バインダー、分散剤、及び水を添加して調整することができる。上記ゼオライトは、担体の原料粒子100質量部に対して1〜40質量部となるように配合することが好ましく、1〜30質量部がより好ましい。
【0029】
前記混合物には、必要に応じて、PMを燃焼させる触媒が含まれてもよく、これによりPMを除去する機能とNOxを除去する機能を両立させることでき、更に圧力損失が上昇するという問題を解決することができる排ガス浄化フィルタを得ることができる。
【0030】
用いることができるPMを燃焼させる触媒としては、担体の原料粒子の焼成温度で熱劣化しない触媒であれば特に制限なく使用することができ、例えば、アルカリ金属から選ばれる1種又は2種以上の元素と、Zr、Si、Al、及びTiから選ばれる1種又は2種以上の元素とを含む酸化物が挙げられる。前記酸化物は、アルカリ金属の溶出を抑えゼオライトの分解の誘因を防ぐと考えられることからも好ましい。
【0031】
より具体的には、A2XZrSi3X+2Y、AAlSi2X+2Y、A2XTiSi3X+2Y、A2XTiX+2Y、A2XZrX+2Y、AAlX/2+3Y/2等の一般式で表わすことができる。式中、Aはアルカリ金属を示し、Xは1≦X≦2を満たす正の実数を示し、Yは1≦Y≦6を満たす正の実数を示す。より好ましくは、Yは1≦Y≦4を満たす正の実数であることがよい。アルカリ金属としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Frがあり、このなかでも経済的に有利な点からLi、Na、K、Csが好ましい。
【0032】
2XZrSi3X+2Yとしては、例えば、LiZrSiO、NaZrSiO、NaZrSi12、NaZrSi、NaZrSi、KZrSiO、KZrSi、KZrSi、Cs4ZrSi12、CsZrSi、CsZrSi等を例示することができる。
【0033】
AlSi2X+2Yとしては、例えば、LiAlSiO、LiAlSi、LiAlSi、NaAlSiO、NaAlSi、NaAlSi、KAlSiO、KAlSi、KAlSi等を例示することができる。
【0034】
2XTiSi3X+2Yとしては、例えば、LiTiSiO、LiTiSi、LiTiSi、NaTiSiO、NaTiSi、NaTiSi、KTiSiO、KTiSi、KTiSi等を例示することができる。
【0035】
2XTiX+2Yとしては、例えば、NaTiO、NaTi、NaTi、NaTi13、NaTi17、KTiO、KTi、KTi、KTi13、KTi17等を例示することができる。
【0036】
2XZrX+2Yとしては、例えば、NaZrO、KZrO等を例示することができる。
【0037】
AlX/2+3Y/2としては、例えば、NaAlO、NaAl、KAlO、KAl等を例示することができる。
【0038】
好ましくは、本発明で使用する酸化物は、A2XZrSi3X+2Y、AAlSi2X+2Y、A2XTiSi3X+2Y、A2XTiX+2Yである。
【0039】
前記混合物を、例えば押出成形機を用いてハニカム構造体となるように成形し、セルの開口が市松模様となるように片側の目封止めを行った後に得られた成形体を焼成することで焼結体を準備することできる。焼成条件は、使用する担体の原料粒子により適宜選択されるが、担体の原料粒子としてチタン酸アルミニウムを用いる場合、焼成温度としては900〜1100℃が挙げられ、焼成時間としては2〜15時間が挙げられる。
【0040】
前記アルカリ処理は、焼結体を、アルカリと溶媒とを混合したpH9.5以上のアルカリ性溶液を用いて処理することで行うことができる。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等を用いることができ、特に、ケイ酸ナトリウムが好ましい。また、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0041】
溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;これらの混合溶媒等を用いることができ、汎用性の高さから水が好ましい。アルカリ処理の処理方法としては、含浸、噴霧、流通法等を用いることができ、含浸が好ましい。アルカリ処理の処理温度としては、25〜130℃で行うことが好ましく、50〜100℃で行うことがより好ましい。アルカリ処理の処理時間としては、0.5〜36時間であることが好ましい。アルカリの混合量は、アルカリ性溶液のpHが9.5以上、好ましくは9.5以上、13.5以下、より好ましくは10.0以上、12.0以下になる量とすればよい。
【0042】
ゼオライトは、結晶中に微細な細孔を持つことを特徴としており、その細孔がゼオライトの様々な機能の源となっている。しかし、様々な化合物と混合し成形した担体を焼成することで、脱Al化して非結晶化したものがゼオライト表面の細孔の一部を閉塞してしまい、本来のゼオライトの特性を引き出せないという問題が生じてしまう。成形体を焼成後にpH9.5以上のアルカリ性溶液にて処理を行うことでその非晶質部分を除去でき、ゼオライト本来の機能を引き出すことが出来るようになったと推測している。
【0043】
アルカリ処理後、焼結体に含まれるゼオライトのイオン交換サイトの元素を遷移金属に交換することで、本発明の排ガス浄化フィルタを製造することができる。イオン交換サイトの元素を遷移金属に交換することができれば、その交換方法は特に限定されず、例えばイオン交換法等の方法を採用することができる。又、遷移金属への交換量は、求める触媒活性により適宜選択することができ、一部又は全部を、遷移金属に交換して用いることができる。
【0044】
ゼオライトのイオン交換サイトの元素としては、H、NH、K、Na等が挙げられる。
【0045】
遷移金属として、Cu、Fe、Pt、Ag、Ti、Mn、Ni、Co、Pd、Rh、V、Cr等が挙げられ、Fe、Cuが好ましい。遷移金属への交換に用いる原料としては、遷移金属の硝酸塩、酢酸塩等が挙げられる。遷移金属の合計量はゼオライトの総重量に対して1〜15質量%とするのが好ましく、1〜8質量%とするのがより好ましい。
【0046】
また、触媒機能を高めるために、圧力損失が上がらない範囲で適時ハニカム上にPM燃焼触媒、SCR触媒を担持させることもできる。特に、SCR触媒を担持させる場合、より一層高効率でNOxを還元除去できるため好ましい。担持する量としては、ハニカム構造体に対して1〜15質量部とするのが好ましく、それ以上担持すると圧力損失が急激に上昇してしまうという問題が生じる場合がある。
【0047】
本発明において、処理の対象となる排ガスは、ディーゼルエンジン、ガソリンエンジン等の内燃機関等から排出される排ガス、各種燃焼設備等の排ガスを挙げることができる。
【0048】
本発明に係る排ガス浄化フィルタは、上記本発明の排ガス浄化フィルタの製造方法に従って製造することができる。本発明の排ガス浄化フィルタは、排ガス流路中に配置することで排ガスに接触させて用いられる。これらの排ガス中のNOxの除去は、還元剤、例えば尿素、炭酸アンモニウム、ヒドラジン、炭酸水素アンモニウム等のアンモニア前駆物質、又はアンモニア自体の存在下で行われる。還元剤は、排ガス流路中において、本発明の排ガス浄化フィルタの上流に配置し、適宜必要量を供給してもよい。
【0049】
本発明の排ガス浄化フィルタは、NOx還元効率が高く、簡便な方法で製造することができる。製造において、原料混合物にPMを燃焼させる触媒を含むこともでき、これにより本発明の排ガス浄化フィルタは、一つのフィルタで、排ガス中の有害物質であるPMを低温で燃焼でき、NOxを還元除去することもできる。その優れた機能から、ディーゼルエンジン用フィルタ(DPF)、ガソリンエンジン用フィルタ等に好適に使用することができ、市場のダウンサイジングの要請に応えることができる。
【0050】
(排ガス浄化装置)
本発明の排ガス浄化装置は、上記本発明の排ガス浄化フィルタを備えている。上記本発明の排ガス浄化フィルタの他に、例えば、排ガス浄化フィルタに還元剤等を供給する手段をさらに備えている。又は、本発明の排ガス浄化フィルタにPMを燃焼させる触媒が含まれている場合は、堆積したPMを分解するため排ガス浄化フィルタを加熱する手段等をさらに備えている。
【実施例】
【0051】
以下、本発明について、実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0052】
[ゼオライト]
(合成例1)
10質量%酢酸銅水溶液1000mlとZSM−5型ゼオライト(HSZ−840NHA、東ソー株式会社製)400gとを混合し、60℃で12時間撹拌することでスラリーを調製した。調製したスラリーの固形分を濾別し、1000mlのイオン交換水で洗浄した後、110℃にて6時間乾燥した。
【0053】
得られた粒子状固体を蛍光X線にて測定し、ゼオライトのイオン交換サイトが銅にイオン交換されていることを確認した。なお、得られたゼオライトは実施例16及び比較例3で使用した。
【0054】
[酸化物]
(合成例2)
炭酸ナトリウム32.3質量部、酸化アルミニウム31.1質量部、及び酸化ケイ素36.6質量部を混合し、1200℃で4時間焼成した。得られた粒子状固体が、X線回折によりNaAlSiOの単相であることを確認した。
【0055】
〔排ガス浄化フィルタの製造〕
(実施例1)
ZSM‐5型ゼオライト(HSZ‐840NHA:東ソー株式会社製)20質量部に対し、チタン酸アルミニウム(丸ス釉薬社製)80質量部、合成例2で製造したNaAlSiOを10質量部、黒鉛3質量部、メチルセルロース10質量部、及び脂肪酸石鹸0.5質量部を配合し、さらに水を適当量添加して混練し、押出成形可能な坏土を得た。
【0056】
得られた坏土を押出成形機にてハニカム構造体となるように押し出して成形し、成形体を得た。金型のセル密度は、300セル/平方インチ(46.5セル/cm)とし、隔壁厚みは300μmとした。
【0057】
固形分がほぼ上記の粒状チタン酸アルミニウム粒子とゼオライトとからなり、粘度調整材等の添加物を加えたスラリーを調製した。なお、スラリー中における固形分の比率は上記と同様である。ハニカム構造体である成形体において、開口したセルと封止したセルが交互に市松模様となるように、ハニカム構造体のセルに、このスラリーを注入し、目封じを行った。
【0058】
得られた成形体を、600℃で10時間保持し、その後25℃/時間で1000℃まで昇温し、1000℃で10時間保持して焼成することで、細孔径11μm、気孔率48%のハニカム構造体を得た。
【0059】
得られたハニカム構造体をpH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液に含浸させ、80℃で24時間保持した後、流水で充分に洗浄し60℃にて乾燥を行った。
【0060】
次に、10質量%酢酸銅水溶液に含浸させ、60℃で12時間保持した。その後イオン交換水で充分洗浄し、600℃で2時間加熱することで排ガス浄化フィルタを製造した。
【0061】
(実施例2)
pH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、pHを11.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化フィルタを製造した。
【0062】
(実施例3)
pH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、pHを12.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化フィルタを製造した。
【0063】
(実施例4)
pH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、pHを10.0に調整した水酸化ナトリウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0064】
(実施例5)
pH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、pHを10.0に調整した水酸化カリウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化フィルタを製造した。
【0065】
(実施例6)
合成例2で製造したNaAlSiOを、TISMO−N(大塚化学株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化フィルタを製造した。
【0066】
(実施例7)
合成例2で製造したNaAlSiOを、TISMO−N(大塚化学株式会社製)に変更し、pH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、pHを11.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化フィルタを製造した。
【0067】
(実施例8)
合成例2で製造したNaAlSiOを、TISMO−N(大塚化学株式会社製)に変更し、pH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、pHを12.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化フィルタを製造した。
【0068】
(実施例9)
合成例2で製造したNaAlSiOを、TISMO−N(大塚化学株式会社製)に変更し、pH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、pHを10.0に調整した水酸化ナトリウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化フィルタを製造した。
【0069】
(実施例10)
合成例2で製造したNaAlSiOを、TISMO−N(大塚化学株式会社製)に変更し、pH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、pHを10.0に調整した水酸化カリウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化フィルタを製造した。
【0070】
(実施例11)
合成例2で製造したNaAlSiOを、TISMO−D(大塚化学株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化フィルタを製造した。
【0071】
(実施例12)
合成例2で製造したNaAlSiOを、TISMO−D(大塚化学株式会社製)に変更し、pH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、pHを11.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化フィルタを製造した。
【0072】
(実施例13)
合成例2で製造したNaAlSiOを、TISMO−D(大塚化学株式会社製)に変更し、pH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、pHを12.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化フィルタを製造した。
【0073】
(実施例14)
合成例2で製造したNaAlSiOを、TISMO−D(大塚化学株式会社製)に変更し、pH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、pHを10.0に調整した水酸化ナトリウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化フィルタを製造した。
【0074】
(実施例15)
合成例2で製造したNaAlSiOを、TISMO−D(大塚化学株式会社製)に変更し、pH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、pHを10.0に調整した水酸化カリウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化フィルタを製造した。
【0075】
(実施例16)
ZSM‐5型ゼオライト(HSZ‐840NHA:東ソー株式会社製)20質量部に対し、チタン酸アルミニウム(丸ス釉薬社製)80質量部、合成例2で製造したNaAlSiOを10質量部、黒鉛3質量部、メチルセルロース10質量部、及び脂肪酸石鹸0.5質量部を配合し、さらに水を適当量添加して混練し、押出成形可能な坏土を得た。
【0076】
得られた坏土を押出成形機にてハニカム構造体となるように押し出して成形し、成形体を得た。金型のセル密度は、300セル/平方インチ(46.5セル/cm)とし、隔壁厚みは300μmとした。
【0077】
固形分がほぼ上記の粒状チタン酸アルミニウム粒子とゼオライトとからなり、粘度調整材等の添加物を加えたスラリーを調製した。なお、スラリー中における固形分の比率は上記と同様である。ハニカム構造体である成形体において、開口したセルと封止したセルが交互に市松模様となるように、ハニカム構造体のセルに、このスラリーを注入し、目封じを行った。
【0078】
得られた成形体を、600℃で10時間保持し、その後25℃/時間で1000℃まで昇温し、1000℃で10時間保持して焼成することで、細孔径11μm、気孔率48%のハニカム構造体を得た。
【0079】
得られたハニカム構造体をpH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液に含浸させ、80℃で24時間保持した後、流水で充分に洗浄し60℃にて乾燥を行った。
【0080】
次に、アルカリ処理後のハニカム構造体を、10質量%酢酸銅水溶液に含浸させ、60℃で12時間保持した。その後イオン交換水で充分洗浄し、600℃で2時間加熱した。
【0081】
次に、合成例1で製造したゼオライト40質量部を、シリカゾル20質量部と水40質量部とに混ぜ合わせスラリーを調製した。調製したスラリーに上記処理後のハニカム構造体の先端を含浸し反対側の端面から吸引することでゼオライトを担持した。担持後600℃〜700℃で約4時間焼成し、排ガス浄化フィルタを製造した。
【0082】
ハニカム構造体に担持されたゼオライトの量は、チタン酸アルミニウム90質量部に対して10質量部であった。
【0083】
(比較例1)
pH10.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液を、pHを9.0に調整したケイ酸ナトリウム水溶液に変更した以外は、実施例1と同様の方法で排ガス浄化フィルタを製造した。
【0084】
(比較例2)
ZSM−5型ゼオライト(HSZ−840NHA:東ソー株式会社製)20質量部に対し、チタン酸アルミニウム(丸ス釉薬社製)80質量部、合成例2で製造したNaAlSiOを10質量部、黒鉛3質量部、メチルセルロース10質量部、及び脂肪酸石鹸0.5質量部を配合し、さらに水を適当量添加して混練し、押出成形可能な坏土を得た。
【0085】
得られた坏土を押出成形機にてハニカム構造体となるように押し出して成形し、成形体を得た。金型のセル密度は、300セル/平方インチ(46.5セル/cm)とし、隔壁厚みは300μmとした。
【0086】
固形分がほぼ上記の粒状チタン酸アルミニウム粒子とゼオライトからなり、粘度調整材等の添加物を加えたスラリーを調製した。なお、スラリー中における固形分の比率は上記と同様である。ハニカム構造体である成形体において、開口したセルと封止したセルが交互に市松模様となるように、ハニカム構造体のセルに、このスラリーを注入し、目封じを行った。
【0087】
得られた成形体を、600℃で10時間保持し、その後25℃/時間で1000℃まで昇温し、1000℃で10時間保持して焼成することで、細孔径11μm、気孔率48%のハニカム構造体を得た。
【0088】
得られたハニカム構造体を、10質量%酢酸銅水溶液に含浸させ、60℃で12時間保持した。その後イオン交換水で充分洗浄し、600℃で2時間加熱することで排ガス浄化フィルタを製造した。
【0089】
(比較例3)
チタン酸アルミニウム(丸ス釉薬社製)90質量部、黒鉛10質量部、メチルセルロース10質量部、及び脂肪酸石鹸0.5質量部を配合し、さらに水を適当量添加して混練し、押出成形可能な坏土を得た。
【0090】
得られた坏土を押出成形機にてハニカム構造体となるように押し出して成形し、成形体を得た。金型のセル密度は、300セル/平方インチ(46.5セル/cm)とし、隔壁厚みは300μmとした。
【0091】
固形分がほぼ上記の粒状チタン酸アルミニウム粒子からなり、粘度調整材等の添加物を加えたスラリーを調製した。なお、スラリー中における固形分の比率は上記と同様である。ハニカム構造体である成形体において、開口したセルと封止したセルが交互に市松模様となるように、ハニカム構造体のセルに、このスラリーを注入し、目封じを行った。
【0092】
得られた成形体を、600℃で10時間保持し、その後25℃/時間で1450℃まで昇温し、1450℃で10時間保持して焼成することで、細孔径12μm、気孔率51%のハニカム構造体を得た。
【0093】
次に、合成例1で製造したゼオライト40質量部を、シリカゾル20質量部と水40質量部とに混ぜ合わせスラリーを調製した。調製したスラリーにハニカム構造体を浸漬した。浸漬後600℃〜700℃で約4時間焼成し、排ガス浄化フィルタを製造した。
【0094】
ハニカム構造体に担持されたゼオライトの量は、チタン酸アルミニウム90質量部に対して19質量部であった。
【0095】
[排ガス浄化装置の評価]
(NOx濃度評価)
予め排ガス浄化フィルタを尿素水溶液に含浸し、50℃にて乾燥しておき、排ガス浄化フィルタを模擬排ガス排気ラインに設置する。その後、模擬排ガス(O:10%、N:90%、NO:200ppm、NO:200ppm)を300℃まで上昇させ、NOx濃度を測定した。結果を表1に示した。
【0096】
(PM堆積圧力損失評価)
予め排ガス浄化フィルタの初期重量を測定しておき、ディーゼルエンジンの排気ラインに、酸化触媒(DOC)と排ガス浄化フィルタを順に設置する。次いで、ディーゼルエンジンを始動させ、低温でPMを所定量(約4g/L)堆積させた後、排ガス浄化フィルタを取り外し、堆積したPMの重量を確認した後、圧力損失を測定した。結果を表1に示した。
【0097】
(フィルタ再生率)
予め排ガス浄化フィルタの初期重量を測定しておき、ディーゼルエンジンの排気ラインに、酸化触媒(DOC)と排ガス浄化フィルタを順に設置する。次いで、ディーゼルエンジンを始動させ、低温でPMを所定量(約8g/L)堆積させた後、一度排ガス浄化フィルタを取り外し、堆積したPMの重量を測定する。
【0098】
次いで、排ガス浄化フィルタを模擬排ガス排気ラインに設置した後、模擬排ガスを540℃まで上昇させ再生試験を開始した。540℃に到達した時点から30分間540℃±10℃の温度を保持し、30分経過後、模擬ガスを全量Nに切り替えた。
【0099】
温度が室温まで低下後、再度、排ガス浄化フィルタを取り出し、重量減少分(=PM燃焼重量)を測定した。
【0100】
以下の計算式により再生率を算出した。結果を表2に示した。
【0101】
再生率(%)=100−[(PM堆積重量(g)−PM燃焼重量(g))/PM堆積重量(g)]×100
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
表1に示す結果から明らかなように、本発明に従う実施例1〜15の排ガス浄化フィルタを用いた場合、NOx濃度が低下し、かつ圧力損失も低く抑えられている。これに対し、pH9.5以上の条件下でアルカリ処理を行っていない比較例1〜2の排ガス浄化フィルタを用いた場合、NOx濃度が高くなっている。又、浸漬法でゼオライトを担持した比較例3は、NOx濃度は低いが、圧力損失が大きい。また、実施例16の排ガス浄化フィルタを使用した場合は、圧力損失のわずかな増加はあるが十分に抑制されており、しかもNOx濃度を著しく低くすることができている。