(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
インナーライナーは、前記のタイヤ空気圧を一定に保つ目的で配置されるが、前記のような厚みが均一なインナーライナーを使用した場合、ゴムボリュームが不足することにより、ビードリングと生タイヤとの間に隙間が生じて、エア残りが発生する可能性があった。この点について
図8を用いて具体的に説明する。
【0006】
図8は、従来のインナーライナーを用いたタイヤの加硫前後の状態を示す図であって、(A)はタイヤ加硫前の状態を示す断面図、(B)はタイヤ加硫後の状態を示す断面図である。
【0007】
加硫成形工程において、生タイヤTが金型内にセットされたとき、
図8(A)に示すように、生タイヤTのビード部を保持するビードリング100と生タイヤTのビード部との間に隙間S1が生じることがある。
【0008】
そして、そのような生タイヤTのタイヤ加硫時には、生タイヤTがブラダー102で金型の内面に押し付けられながら加熱されるため、生タイヤTのインナーライナー50のゴムが矢印F方向に向かって流動する。
【0009】
しかし、このような事例では、ゴムボリュームが不足して隙間S1を埋めきることができない場合があり、
図8(B)に示すように、トウ端点101の近傍にエア残り58が発生することがある。なお、
図8において、52はチェーファー、54はカーカスプライ、56はビードコアである。
【0010】
本発明は、上記に鑑み、タイヤ加硫時にインナーライナーのゴムの流れ不良によるエア残りの発生を防止することができ
るインナーライナーの製造方
法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載の発明は、
幅方向全長にわたって均一な厚みの未加硫ゴムシートの幅方向の両端部を、所定の幅で折り重ねることにより、
厚みが中央部の厚みより大きい肉厚部を形成することを特徴とするインナーライナーの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、タイヤ加硫時にインナーライナーのゴムの流れ不良によるエア残りの発生を防止することができ
るインナーライナーの製造方
法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るインナーライナーを示す断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係るインナーライナーの製造に用いられる製造装置を模式的に示す図である。
【
図3】
図2の製造装置のスリッター装置を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の第2の実施の形態に係るインナーライナーを示す断面図である。
【
図5】本発明の第2の実施の形態に係るインナーライナーの製造に用いられる製造装置を模式的に示す図である。
【
図6】本発明の第3の実施の形態に係るインナーライナーを示す断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係るタイヤの加硫前後の状態を示す図である。
【
図8】従来のインナーライナーを用いたタイヤの加硫前後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施の形態に基づいて本発明を説明する。
【0021】
A.インナーライナーおよびその製造方法
(第1の実施の形態)
1.インナーライナー
図1は、第1の実施の形態に係るインナーライナーを示す断面図、
図2は、第1の実施の形態に係るインナーライナーの製造に用いられる製造装置を模式的に示す図である。
【0022】
図1、
図2に示すように、本実施の形態のインナーライナー10Aは、幅方向全長にわたって均一な厚みの未加硫ゴムシート12の両端部をスリッター装置34により裁断し、裁断された端部を、裁断された未加硫ゴムシート12の両端部に重ねて貼り付けることにより製造され、幅方向の両側辺部に厚みが中央部の厚みより大きい肉厚部14、16が形成されている。
【0023】
この結果、インナーライナー10Aの両端に形成された肉厚部14、16の厚みH2は、中央部の厚みH1の2倍に設定される。肉厚部14、16と中央部の段差については、段差が1.0mmを超えると段差によるエア残りが発生し易くなるため、0.5〜1.0mmに設定されることが好ましい。このため、中央部の厚みH1は0.5〜1.0mmが好ましく、肉厚部14、16の厚みH2は1.0〜2.0mmが好ましい。
【0024】
また、肉厚部14、16の幅D1、D2は、10mm未満では厚み不足が発生し、一方、30mmを超えるとコストアップが大きくなるため、10〜30mmに設定されることが好ましい。
【0025】
2.インナーライナーの製造方法
図2に示すように、インナーライナー10Aの製造方法に用いられる製造装置は、一対のカレンダーロール30a、30bを有するカレンダー装置30と、複数の搬送ローラ32a、32aを有する搬送ローラ連32と、搬送ローラ連32の上方に配設されているスリッター装置34と、一対の押えスポンジローラー36a、36bとを備えている。
【0026】
スリッター装置34は、一対のアーム(図示省略)の先端にそれぞれスリッター刃34a、34bが装着されている。それぞれのスリッター刃34a、34bは、搬送ローラ32aのローラ幅方向に相互に所定の間隔を設けて配置されており、搬送ローラ連32の幅方向に水平移動して位置調整が可能になっている。
【0027】
カレンダー装置30は、インナーライナー用ゴムGを一対のカレンダーロール30a、30aの間から送り出し、所定の幅寸法および厚さ寸法の未加硫ゴムシート12を形成する。
【0028】
カレンダー装置30から送出された未加硫ゴムシート12は、搬送ローラ連32で搬送されながら、
図3に示すように、未加硫ゴムシート12の両側辺部がスリッター装置34のスリッター刃34a、34bにより所定幅(10〜30mm)に裁断される。裁断により形成された端部片は、裁断後の未加硫ゴムシート12の端部に重ねられ、一対の押えスポンジローラー36a、36bの間を通過させることにより、端部片が、裁断後の未加硫ゴムシート12に貼り付けられてインナーライナー10Aが製造される。
【0029】
以上のように、本実施の形態によれば、肉厚部により、ビード周りのゴムボリュームを十分に確保することができ、タイヤ加硫時にインナーライナーのゴムの流れ不良によるエア残りの発生を防止することができる。また、両側辺部を裁断して、未加硫ゴムシートと貼り付けるだけで、容易に、肉厚部を形成してインナーライナーを製造することができる。
【0030】
(第2の実施の形態)
1.インナーライナー
図4は、第2の実施の形態に係るインナーライナー10Bを示す断面図である。
図5は、第2の実施の形態に係るインナーライナー10Bの製造に用いられる製造装置を模式的に示す図である。
【0031】
図4、
図5に示すように、本実施の形態のインナーライナー10Bは、幅方向全長にわたって均一な厚みの未加硫ゴムシート12を、上記のように裁断することなく、未加硫ゴムシート12の両端部を折り重ねることにより形成され、両側辺部に厚みが中央部の厚みより大きい肉厚部14、16が形成されている。
【0032】
インナーライナー10Bの肉厚部14、16の厚みH2、中央部の厚みH1、肉厚部14、16の幅D1、D2は、第1の実施の形態のインナーライナー10Aと同様に設定されている。
【0034】
図5に示すように、インナーライナー10Bの製造方法に用いられる製造装置は、一対のカレンダーロール40a、40bを有するカレンダー装置40と、複数の搬送ローラ42aを有する搬送ローラ連42と、搬送ローラ連42の上方に配設される折り曲げ装置44と、一対の押えスポンジローラー46a、46bとを備えており、第1の実施の形態のインナーライナー10Aの製造装置とは、スリッター装置34に代えて折り曲げ装置44を備えている点で相違する。
【0035】
折り曲げ装置44は、一対の折り曲げ機構付きアーム44a、44bを備えており、それぞれのアーム44a、44bは、搬送ローラ42aのローラ幅方向に相互に所定の間隔を設けて配置されており、搬送ローラ連42の幅方向に水平移動して位置調整が可能になっている。
【0036】
カレンダー装置40から送出された未加硫ゴムシート12は、搬送ローラ連42で搬送されながら、未加硫ゴムシート12の両端部が所定の幅寸法(10〜30mm)で、幅方向内側に曲げられて折り重ねられ、一対の押えスポンジローラー46a、46bの間を通過させることにより、インナーライナー10Bが製造される。
【0037】
以上のように、本実施の形態によれば、両側辺部を折り曲げて、未加硫ゴムシートと折り重ねるだけで、容易に、エア残りの発生を充分に抑制することができるインナーライナーを製造することができる。
【0038】
(第3の実施の形態)
図6は、本発明の第3の実施の形態に係るインナーライナー10Cを示す断面図である。
【0039】
図6に示すように、インナーライナー10Cは、第2の実施の形態のインナーライナー10Bの両端部14、16に補強材のチェーファー(キャンバスチェーファー)22、23がそれぞれ貼り付けられて形成されている。
【0040】
このため、タイヤリムと激しく擦れる部分を保護することが可能となり好ましい。
【0041】
B.タイヤおよびタイヤの製造方法
図7は本発明の実施の形態に係るタイヤの加硫前後の状態を示す図であって、(A)はインナーライナー10Cを用いて製造された生タイヤの加硫前の状態を示す断面図であり、(B)は加硫後の状態を示す断面図である。
【0042】
図7(A)に示すように、加硫成形工程においては、従来のインナーライナーを使用した場合と同様に、生タイヤTが金型内にセットされたとき、生タイヤTのビード部1bを保持するビードリング100と生タイヤTのビード部1bとの間に隙間S2が生じる。
【0043】
そして、タイヤ加硫時には、生タイヤTがブラダー102で金型の内面に押し付けられながら加熱されるが、本実施の形態においては、
図7(B)に示すように、充分のゴムボリュームを有するインナーライナー10Cのゴムが矢印F方向に向かって流動して隙間S2を確実に埋めることができる。
【0044】
すなわち、インナーライナー10Cは、上記のように両側片部に肉厚部16が設けられ肉厚部16の一部分16aがタイヤTのビード部1bのトウ端点6bを臨むように配置されている。このため、ビード部1bの周りのゴムボリュームが確保できる。この結果、隙間S2に十分なゴムが流れるため、
図7(B)に示すように、隙間S2を埋めることができる。この結果、ビード部1bのトウ端点6bの近傍において、インナーライナーのゴムボリューム不足によるエア残りの発生が抑制され、エア残りの発生が少ないタイヤTを製造することができる。
【0045】
なお、
図7において、2はカーカスプライ、3bはビードコア、4bはビードフィラー、12は加硫ゴムシート、16は肉厚部、16aは肉厚部の一部、23はチェーファーである。
【実施例】
【0046】
1.実施例および比較例
表1に示す厚みの未加硫ゴムシートを用い、表1に示す折り曲げ量で両端を折り曲げて折り重ねたインナーライナー(実施例1〜6)、および均一な厚さのインナーライナー(比較例1、2)を用いて、タイヤサイズ195/65 R15のタイヤを作製した。
【0047】
2.実施例および比較例の評価
作製された各タイヤについて、エア残り発生率を評価すると共に、タイヤコスト指数を評価した。エア残り発生率は、作製したタイヤのビード部の断面観察により評価した。タイヤコスト指数は、比較例1のタイヤの製造コストを100として評価した。評価結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1より、厚さ2.0mmの均一なインナーライナーを使用したタイヤ(比較例2)は、ゴム量が十分あるため、比較例1に比べて、エア残り発生が低減されたが、コストが大幅にアップすることが分かる。
【0050】
これに対して、厚さ1.0mmの未加硫ゴムシートを用いて、10mmおよび30mmの折り曲げ量で作製されたインナーライナーを使用したタイヤ(実施例5、6)は、ゴム量を十分確保でき、エア残り発生率が0.02%、0.00%と小さいながらも、タイヤコスト指数が101、102と比較例とほぼ同じであることが分かる。
【0051】
また、実施例1(厚さ1.5mmの未加硫ゴムシートを用い、折り曲げ量が30mmのインナーライナーを使用したタイヤ)では、ゴム量を十分確保できたが、インナーライナーの段差が1.5mmと大きいため、段差を原因とするエア残りが発生し易くなり、エア残り発生率は1.20%と悪化した。
【0052】
実施例2(厚さ1.0mmの未加硫ゴムシートを用い、折り曲げ量が50mmのインナーライナーを使用したタイヤ)では、ゴム量が十分あり、インナーライナーのゴム流れ不良を原因とするエア残り発生率が、0.00%となった。しかしながら、左右の肉厚部の折り曲げ量が大きいため、コストアップも大きくなった。
【0053】
実施例3(厚さ0.5mmの未加硫ゴムシートを用い、折り曲げ量が30mmのインナーライナーを使用したタイヤ)では、左右の肉厚部の厚みが小さいため、ゴム量が不十分で、エア残り発生率が1.10%と悪化した。
【0054】
実施例4(厚さ1.0mmの未加硫ゴムシートを用い、折り曲げ量が5mmのインナーライナーを使用したタイヤ)では、左右の肉厚部の折り曲げ量が小さいためゴム量が不十分で、比較例1に近いエア残り発生率となった。
【0055】
以上、本実施の形態によれば、タイヤ加硫時にインナーライナーのゴムボリューム不足によるエア残りの発生を防止することができ、さらに、インナーライナーの肉厚部および中央部の厚み、肉厚部の幅を適切に設定することにより、タイヤ重量や材料コストの増加をも抑制することができる。
【0056】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。