特許第6199574号(P6199574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6199574
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】電圧センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/14 20060101AFI20170911BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   G01R15/14 B
   G01R19/00 B
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-28759(P2013-28759)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2013-228367(P2013-228367A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2016年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-80207(P2012-80207)
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】桝野 雄矢
(72)【発明者】
【氏名】谷川 純也
(72)【発明者】
【氏名】石居 真
(72)【発明者】
【氏名】植松 彰一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 実
【審査官】 荒井 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−003397(JP,A)
【文献】 特開平09−211046(JP,A)
【文献】 特開2008−252854(JP,A)
【文献】 特開2007−093231(JP,A)
【文献】 特開平09−257830(JP,A)
【文献】 米国特許第06657442(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/14−15/26
G01R 19/00−19/32
G01R 29/12−29/14
G01R 29/24
G01N 13/00−13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的なサスペンションによって支持された振動子と、
前記振動子を振動させるための駆動用電極と、
この振動子にある隙間を介して対向配置された固定電極と、を具備し、
前記固定電極に測定対象である電圧を印加することで、静電引力を前記振動子に作用させ、当該静電引力が作用したことにより変化した前記振動子の共振周波数から、測定対象である電圧を算出する電圧センサであって、
前記固定電極はシリコン等の基板上において絶縁層を介して設けられ、
前記振動子は、前記基板上に形成され前記固定電極及び駆動用電極と異なる電極に一端が接続されるサスペンションの他端に接続されて、宙に浮いた構造で前記基板上に固定されており、
前記駆動用電極は、前記振動子と向かい合うように前記基板上に配置されて、前記固定電極及び前記振動子と共に前記基板に対して平行に配置されている
ことを特徴とする電圧センサ。
【請求項2】
請求項1に記載された電圧センサにおいて、
前記振動子は細長形状とされている
ことを特徴とする電圧センサ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載された電圧センサにおいて、
前記サスペンションは、それぞれがコの字状に折り返された形状となっている
ことを特徴とする電圧センサ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載された電圧センサにおいて、
前記振動子と測定対象である電圧が印加される固定電極とが短絡しないように機械的なストッパ又は絶縁体を有する
ことを特徴とする電圧センサ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載された電圧センサにおいて、
前記振動子と測定対象である電圧が印加される前記固定電極との関係が平行平板電極である
ことを特徴とする電圧センサ。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載された電圧センサにおいて、
前記振動子を励振させるために静電引力を利用する
ことを特徴とする電圧センサ。
【請求項7】
請求項6に記載された電圧センサにおいて、
前記振動子を励振するための電極が櫛歯電極である
ことを特徴とする電圧センサ。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載された電圧センサにおいて、
前記振動子と電気的に接続されて前記振動子の振幅を検出する振幅検出手段と、
前記固定電極に印加される測定対象となる電圧が前記振幅検出手段に印加されることを防止する絶縁手段と、
を備えることを特徴とする電圧センサ。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載された電圧センサにおいて、
前記振動子は、
前記振動子に対して電気的に接続されて前記振動子に対して交流電圧を印加する交流発生回路と接続される第1の電極部位と、
前記固定電極に対して電気的に接続される第2の電極部位と、
前記第1の電極部位と前記第2の電極部位とを絶縁する絶縁手段と、を有し、
前記絶縁手段により前記固定電極に印加される測定対象となる電圧が前記交流発生回路に印加されることを防止する、
ことを特徴とする電圧センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電圧を計測する方法として種々の方法がある。例えば、分圧抵抗で電圧を分圧し、電圧計で分圧を測定する方法や、電圧に比例した電流を取り出し、いわゆるホール効果を利用して電圧を測定する方法などがある。
【0003】
また、電気光電効果を利用した電圧の測定方法も存在する。この測定方法における電流センサは、例えばポッケルス素子、1/4波長板、偏光子、検光子等を備えている。この電圧センサにおいて、光源より出力された光信号は偏光子により偏光されてポッケルス素子に入射し、ポッケルス素子にて電圧の大きさに応じた光変調を受ける。光変調を受けた光信号は1/4波長板を経て検光子へ伝達される。検光子から出力された光信号は所定の光受信器により受信及び検出され、ポッケルス素子に印加された電圧を測定することができる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−146875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記3つの電圧センサでは以下の問題があった。まず、分圧を測定する電圧センサでは、各抵抗に高精度のものを用いなければ精度良く電圧を測定できなくなってしまう。特に、抵抗は温度により抵抗値が変化するため、精度良く電圧を測定する面で支障があった。加えて、抵抗故障時には測定対象の高電圧が測定側の低電圧にかかる可能性があり、安全性を確保する点で絶縁手段等を別途設けなければならず部品点数が増加してしまう。
【0006】
また、ホール効果を利用して電圧を測定する電圧センサでは、集磁のための磁気コアが必要となり、部品点数が多くなったり大型化を招いたりしてしまう。特に、このタイプのセンサでは出力のリニアリティを実現するために負帰還式が用いられることがあるが、発生した磁場を打ち消すための電流が必要となるため、消費電力が大きくなってしまう。
【0007】
さらに上記の2方式では、計測時に測定対象から電流を取り出す必要があるため、バッテリなどの常時電圧監視には不利である。
【0008】
さらに、特許文献1に記載の電圧センサは、ポッケルス素子、1/4波長板、偏光子、検光子等の部品が必要となり、部品点数の増加を招いてしまう他、光軸のアライメント等が必要となり、組み立てが煩雑化してしまう。
【0009】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、電圧測定の精度の向上を図ると共に、測定対象から電流をほとんど取り出さずに、消費電力の増加及び部品点数の増加を抑え、組み立ての煩雑化についても抑制することが可能な電圧センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電圧センサは、機械的なサスペンションによって支持された振動子と、前記振動子を振動させるための駆動用電極と、この振動子にある隙間を介して対向配置された固定電極と、を具備し、前記固定電極に測定対象である電圧を印加することで、静電引力を前記振動子に作用させ、当該静電引力が作用したことにより変化した前記振動子の共振周波数から、測定対象である電圧を算出する電圧センサであって、前記固定電極はシリコン等の基板上において絶縁層を介して設けられ、前記振動子は、前記基板上に形成され前記固定電極及び駆動用電極と異なる電極に一端が接続されるサスペンションの他端に接続されて、宙に浮いた構造で前記基板上に固定されており、前記駆動用電極は、前記振動子と向かい合うように前記基板上に配置されて、前記固定電極及び前記振動子と共に前記基板に対して平行に配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の電圧センサによれば、機械的なサスペンションによって支持された振動子にある隙間を介して対向配置された固定電極に測定対象である電圧を印加することで、静電引力を振動子に作用させ、これにより振動子の共振周波数が変化することで、測定対象である電圧を算出する。ここで、測定対象となる電圧が固定電極に印加されると、この電圧による静電引力により、実質的にサスペンションのバネ定数が変化することとなり、振動子の共振周波数が変化することとなる。この変化は、測定対象となる電圧の大きさに一定の相関があることから、変化した共振周波数から測定対象となる電圧の値を測定することができる。このように、本発明では、高精度の抵抗を用いる必要がなく、電圧測定の精度の向上を図ることができると共に絶縁手段等も必要がなく、部品点数の増加を抑えることができる。さらに、測定対象の電圧が生じる静電引力を利用して計測するため、測定対象からほとんど電流を流すことなく、電圧を計測することができる。加えて、集磁コア等や光学部品を用いる必要もなく、消費電力の増加及び部品点数の増加を抑えることができ、組み立ての煩雑化についても抑制することができる。
【0012】
また、上記に記載された電圧センサにおいて、振動子と測定対象である電圧が印加される固定電極とが短絡しないように機械的なストッパ又は絶縁体を有することが好ましい。
【0013】
この電圧センサによれば、振動子と固定電極とが短絡しないように機械的なストッパ又は絶縁体を有するため、振動子と固定電極との短絡が防止され、安全性を高めることができる。
【0014】
また、上記のいずれかに記載された電圧センサにおいて、振動子と測定対象である電圧が印加される固定電極との関係が平行平板電極であることが好ましい。
【0015】
この電圧センサによれば、振動子と固定電極との関係が平行平板電極であるため、電極間に働く力のギャップ依存性が高い。加えて、静電引力のギャップ変化に対する傾きが、静電引力分の等価的なバネ定数となる。測定対象となる電圧の印加によってサスペンション分も含めた全体の等価的なバネ定数が変化し、共振周波数が変化する、周波数は正確に測定できる量であるので、測定分解能の向上につなげることができる。
【0016】
また、上記のいずれか1つに記載された電圧センサにおいて、振動子を励振させるために静電引力を利用することが好ましい。
【0017】
この電圧センサによれば、振動子を励振させるために静電引力を利用する。振動振幅は僅かでも共振周波数が測定できるため、電子回路が動作するような低電圧が利用できる。よって、電圧センサの電子化に適している。
【0018】
また、上記に記載された電圧センサにおいて、振動子を励振するための電極が櫛歯電極であることが好ましい。
【0019】
この電圧センサによれば、振動子を励振するための電極が櫛歯電極であるため、静電引力により振動子が移動したとしても櫛歯電極であればギャップの依存性が小さく交流電圧の印加による共振周波数への影響を少なくすることができる。
【0020】
また、上記に記載された電圧センサにおいて、振動子と電気的に接続されて振動子の振幅を検出する振幅検出手段と、固定電極に印加される測定対象となる電圧が振幅検出手段に印加されることを防止する絶縁手段と、を備えることが好ましい。
【0021】
この電圧センサによれば、測定対象となる電圧が振幅検出手段に印加されることを防止する絶縁手段を備えるため、振幅検出手段を測定対象となる高電圧系統の直流成分とを電気的に絶縁してさらに安全性を高めることができる。
【0022】
また、上記に記載された電圧センサにおいて、前記振動子は、前記振動子に対して電気的に接続されて前記振動子に対して交流電圧を印加する交流発生回路と接続される第1の電極部位と、前記固定電極に対して電気的に接続される第2の電極部位と、前記第1の電極部位と前記第2の電極部位とを絶縁する絶縁手段と、を有し、前記絶縁手段により前記固定電極に印加される測定対象となる電圧が前記交流発生回路に印加されることを防止することが好ましい。
【0023】
この電圧センサによれば、測定対象となる電圧が交流発生回路に印加されることを防止する絶縁手段を備えるため、交流発生回路を測定対象となる高電圧系統の直流成分とを電気的に絶縁してさらに安全性を高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電圧測定の精度の向上を図ると共に、測定対象から電流をほとんど取り出さずに、消費電力の増加及び部品点数の増加を抑え、組み立ての煩雑化についても抑制することが可能な電圧センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態に係る電圧センサの原理を示す基本構成図である。
図2】本実施形態に係る電圧センサを示す斜視図である。
図3図2に示したA部の拡大図である。
図4図2に示した電圧センサの上面拡大図である。
図5】変化前の共振周波数及び変化後の共振周波数を示す図である。
図6】測定対象となる電圧と共振周波数との相関の一例を示すグラフである。
図7】測定対象となる電圧と共振周波数との相関の一例を示すグラフであって、実測値を示している。
図8】櫛歯電極の詳細を示す斜視図であって、解析モデルを示している。
図9図2に示したストッパの接触部及びその周辺を示す拡大図であり、(a)は測定対象となる電圧が0Vである場合を示し、(b)は測定対象となる電圧が100Vである場合を示し、(c)は測定対象となる電圧が147Vである場合を示し、(d)は測定対象となる電圧が150Vである場合を示している。
図10】測定対象となる電圧と、振動子及び固定電極のギャップとの相関を示すグラフである。
図11】本実施形態に係る電圧センサの第1変形例を示す断面図である。
図12】本実施形態に係る電圧センサの第2変形例を示す断面図である。
図13】本実施形態に係る電圧センサの第3変形例を示す断面図である。
図14】本実施形態に係る電圧センサの第4変形例を示す断面図である。
図15】本実施形態に係る電圧センサの第5変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る電圧センサの原理を示す基本構成図である。図1に示すように、本実施形態に係る電圧センサ1は、機械的なサスペンション10と、振動子20と、固定電極30と、演算部40とから構成されている。
【0027】
サスペンション10は、振動子20を支持するものである。このサスペンション10のバネ定数をkとする。振動子20は、サスペンション10により支持された平板電極であり、サスペンション10の弾性力により振動可能となっている。この振動子20の質量をmとする。
【0028】
固定電極30は、振動子20にある隙間を介して対向配置された平板電極であり、振動子20とは平行平板電極の関係を有している。なお、振動子20と固定電極30との向かい合った面積をSとする。また、両者間の初期ギャップをgとする。
【0029】
このような電圧センサ1において振動子20に交流電圧が印加されると、振動子20はサスペンション10の弾性力により固定電極30との距離が増減する方向(図中左右方向)に振動する。このとき、振動子20は、
【数1】
なる関係式(1)に基づく共振周波数fで振動することとなる。
【0030】
さらに、固定電極30に測定対象となる電圧が印加されたとする。このとき、固定電極30から振動子20に対して静電引力が付与されて距離xだけ変位する。静電引力は、式(2)に示す等価バネ定数kとして表わすことができる。
【数2】
なお、式(2)においてεはギャップg間の誘電率であり、Vは測定対象となる電圧である。
【0031】
これにより、振動子20は式(3)に示す共振周波数f’で振動することとなる。
【数3】
【0032】
ここで、式(2)の等価バネ定数kは、固定電極30に印加される電圧Vの大きさに応じて変化することから、式(3)に示す共振周波数f’についても電圧Vの大きさを反映したものとなる。
【0033】
よって、演算部40は、振動子20の共振周波数f’から測定対象となる電圧を算出することができる。
【0034】
図2は、本実施形態に係る電圧センサ1を示す斜視図である。図2に示すように、電圧センサ1は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)加工技術を利用して作成されるマイクロ電圧センサである。
【0035】
図2に示すように、この電圧センサ1において振動子20は共振周波数を高めるために、質量が小さくなる細長形状とされている。また、サスペンション10は、細長形状となる振動子20の両端部それぞれに設けられており、両端側から振動子20を支持する構成となっている。さらに、サスペンション10は、それぞれがコの字状に折り返された形状となっている。
【0036】
また、この電圧センサ1は、図1に示す構成に加えて、駆動用電極50と、各サスペンション10の振動子20の接続側と反対側の端部につながる第1及び第2電極61,62と、ストッパ70とを備えている。
【0037】
駆動用電極50は、交流電圧の印加により振動子20を励起振動させるものである。図3は、図2に示したA部の拡大図である。図3に示すように、駆動用電極50は、振動子20の方向に伸びる櫛歯電極51を備えている。同様に図2に示す振動子20は、駆動用電極50の方向に伸びる櫛歯電極21を備えている。互いの櫛歯電極21,51は接触することなく噛み合うように配置されている。
【0038】
このような電圧センサ1は、例えばSOIウェハを加工することにより作成することができる。具体的には、シングルマスクでパターニングを行い、Deep−RIEにてエッチングを行う。可動部である振動子20のリリースは、気相HFを用いて犠牲層エッチングを行う。
【0039】
上記したように振動子20は、振動のためサスペンション10に支持された状態で宙に浮いた構造となっている。なお、実際の製品(デバイス層x:1125μm、y:1585μm、z:25μm)において振動子20は、他の電極30,50に対して最大66nm沈むが、犠牲層は2μmであるため、沈み量は犠牲層の1/30と僅かであり、ハンドル層とは接触しない。また、図示の関係上、櫛歯電極51及び固定電極30についても宙に浮いた構造に見えるかもしれないが、これは犠牲層エッチングが一部進行したためであり、実際にはハンドル層に固定されている。
【0040】
図4は、図2に示した電圧センサ2の上面拡大図である。図2及び図4に示すように、ストッパ70は、振動子20に対して固定電極30側に4つ配置されている(図4では2つのみを図示)。このストッパ70は、電気的にどこにも接続されていない構造となっている。このようなストッパ70は、本体部71と、バネ部72と、接触部73とを備えている。
【0041】
本体部71は、上面視した場合に略正方形状となっており、この正方形の1つの頂点部から細長のバネ部72が形成されている。バネ部72の先端は、固定電極30よりも振動子20側にやや突き出ている。また、バネ部72は、頂点部から振動子20側に伸びると共に90度に折り返されて正方形の辺に沿って伸び、且つ、再度振動子20側に90度折り返されている。すなわち、バネ部72は、途中で2回90度に折られた形状となっており、この90度の折り返しにより弾性力を有する構成となっている。このようなストッパ70が存在することで、振動子20が静電引力により固定電極30側に過剰に引っ張られたとしても振動子20は接触部73に接触することとなり、振動子20と固定電極30との短絡が防止されることとなる。また、振動子20がストッパ70に接触した場合においても、バネ部72の弾性力が接触時の力を緩和する働きを有するため、接触部73の折れ曲がりや折れ自体が防止されることとなる。
【0042】
次に、本実施形態に係る電圧センサ1の動作を説明する。まず、本実施形態の電圧センサ1において駆動用電極50は交流電圧を発生させる。これにより、駆動用電極50の電圧により静電引力が発生し、電圧が交流であることから振動子20は所定の共振周波数fを持ち振動することとなる。
【0043】
このとき、固定電極30に測定対象となる電圧Vが印加されたとする。これにより、式(2)に示した静電引力が発生し、式(3)に示すように振動子20は共振周波数f’を持ち振動することとなる。
【0044】
図5は、変化前の共振周波数f及び変化後の共振周波数f’を示す図である。図5に示すように、測定対象となる電圧Vが印加された場合、共振周波数は減少してfからf’に変化する。
【0045】
演算器40は、この共振周波数f’から測定対象となる電圧Vの大きさを演算することとなる。なお、演算器40は、共振周波数f’を測定するために振動子20の変位量を測定する必要がある。この際、電圧センサ1は振動子20にレーザ光を照射し、反射光の振れ幅から振動子20の変位量を求めることとなる。また、電圧センサ1は、電極ギャップgが変化することによる静電容量の変化から振動子20の変位量を計測するようにしてもよい。なお、静電容量から変位量を求める場合、固定電極30をそのまま利用してもよいし、別途変位量を測定するための平行平板電極を設置してもよい。
【0046】
図6は、測定対象となる電圧Vと共振周波数との相関の一例を示すグラフである。測定対象となる電圧を0V、50V、100V、120V、145V、及び147Vとして各共振周波数を測定した場合、図6に示すように、共振周波数は、それぞれ5810Hz、5750Hz、5380Hz、4980Hz、3440Hz、3090Hzとなった。このように、測定対象となる電圧Vによって共振周波数が変化することが明らかとなった。なお、共振周波数は、振動子20の変位量(振動振幅)が3μm弱となるときの周波数とした。
【0047】
図7は、測定対象となる電圧Vと共振周波数との相関の一例を示すグラフであって、実測値を示している。図7において、実測値は図6を参照して説明したものと同じである。
【0048】
上記した演算器40は、図7に示すような相関データを記憶している。このため、共振周波数f’を測定すると、図7に示すような相関データに基づいて測定対象となる電圧Vを算出することとなる。なお、記憶する相関データは、実測値であることが望ましい。
【0049】
以上、本実施形態では、従来のように高精度の抵抗を用いる必要がなく、電圧測定の精度の向上を図ることができると共に絶縁手段等も必要がなく、部品点数の増加を抑えることができる。さらに、測定対象の電圧が生じる静電引力を利用して計測するため、測定対象からほとんど電流を流すことなく、電圧を計測することができる。加えて、集磁コア等や光学部品を用いる必要もなく、消費電力の増加及び部品点数の増加を抑えることができ、組み立ての煩雑化についても抑制することができる。
【0050】
なお、本実施形態では櫛歯電極21,51により振動子20を励起振動させていため、以下のような利点もある。図8は、櫛歯電極21,51の詳細を示す斜視図であって、解析モデルを示している。図8において、櫛歯長さをl,幅をw,櫛歯先端と対向電極までの距離をsとする。初期の櫛歯の重なりはl・sとなる。櫛歯の側壁間距離をg,櫛歯の厚みをhとする。櫛歯対からなる単位ユニットには、2個の先端容量C//と側壁容量Cが含まれる。これらの合計である
【数4】
が単位ユニットあたりの静電容量である。櫛歯対の数をNとすると、全体の発生力は以下のように表せる。
【数5】
【0051】
そして、電圧一定の場合、x方向の力は以下のように表せる。
【数6】
【0052】
櫛歯は通常、細長く側壁間ギャップは狭くデザインするので
【数7】
を満たし、以下の近似が得られる。
【数8】
【0053】
以上のように、式(8)から、櫛歯に働く力は可動電極の位置xに依存しない。すなわち、微小変位Δxに対する等価的なバネ定数kは、式(8)をxで微分した値から、0となることが分かる。すなわち、振動子20を励振するために加える交流電圧は共振周波数を変化することはほとんど無い。このため、測定対象である電圧の測定に支障を与えない。
【0054】
次に、ストッパ70について、より詳細に説明する。図9は、図2に示したストッパ70の接触部73及びその周辺を示す拡大図であり、(a)は測定対象となる電圧Vが0Vである場合を示し、(b)は測定対象となる電圧Vが100Vである場合を示し、(c)は測定対象となる電圧Vが147Vである場合を示し、(d)は測定対象となる電圧Vが150Vである場合を示している。
【0055】
図9(a)に示すように、測定対象となる電圧が0Vである場合、接触部73と振動子20との距離はL1だけ離れている。これに対して、図9(b)及び(c)に示すように、測定対象となる電圧が高くなると、振動子20が静電引力により固定電極30側に引っ張られるため、接触部73と振動子20と距離は、L2、L3と次第に短くなる。そして、図9(d)に示すように、測定対象となる電圧が150Vに達すると、接触部73は振動子20に当接する。なお、上記したようにストッパ70は、電気的にどこにも接続されておらず、且つ、接触部73が固定電極30よりも振動子20側に突き出ているため、振動子20と固定電極30との接触を防ぎ、短絡が防止されることとなる。
【0056】
図10は、測定対象となる電圧Vと、振動子20及び固定電極30のギャップgとの相関を示すグラフである。図10に示すように、ギャップgは、測定対象となる電圧Vが高くなるほど小さくなる。そして、測定対象となる電圧Vが150Vに達すると、ギャップgは10μm強となり、振動子20はストッパ70の接触部73に接触する。故に、本例における電圧センサ1では測定対象となる電圧Vが147V以下のときに測定可能となる。なお、本例では測定対象となる電圧Vが150V以上となると、測定不可能となるが、ギャップgを予め大きくするなど種々の方法により150V以上の電圧についても測定可能である。
【0057】
次に、本実施形態に係る電圧センサ1の変形例を説明する。図11は、本実施形態に係る電圧センサ1の第1変形例を示す断面図である。なお、図11においては電気的接続関係を模式的に示すものとする。
【0058】
図11に示すように、第1変形例に係る電圧センサ1の固定電極30と駆動用電極50とは、シリコン基板上において絶縁層31,52に包まれた構成となっている。
【0059】
さらに、第1変形例に係る電圧センサ1の振動子20についても、その周囲が絶縁層22により覆われた構造となっている。このため、ストッパ70に代えて上記構成を採用することにより、仮にこれら電極20,30,50が接触したとしてもショートを防ぎ安全性を高めることができる。
【0060】
図12は、本実施形態に係る電圧センサ1の第2変形例を示す断面図である。なお、図12においても電気的接続関係を模式的に示すものとする。
【0061】
図12に示すように、第2変形例に係る電圧センサ1は、図11に示すものと同様であるが、振動子20の内部に絶縁層20aを有する点で異なる。すなわち、第2変形例に係る振動子20は、絶縁層20aにより隔てられた2つの電極部位20b、20cを有しており、第1の電極部位20bは駆動用電極50側に配置され、第2の電極部位20cは固定電極30側に配置されている。
【0062】
このため、交流電圧側の第1の電極部位20bと測定対象となる直流電圧側の第2の電極部位20cとを絶縁することとなり、測定対象となる高電圧系統を駆動側と電気的に絶縁して安全性を高めることができる。
【0063】
図13は、本実施形態に係る電圧センサ1の第3変形例を示す断面図である。なお、図13においても電気的接続関係を模式的に示すものとする。
【0064】
図13に示すように、第3変形例に係る電圧センサ1は、図12に示すものと同様に振動子20の内部に絶縁層20aを有するが、シリコン基板の表裏に第一と第二の電極部位を形成し、絶縁層20aで上下に隔てた構造としても良い。すなわち、第3変形例に係る振動子20は、絶縁層20aにより上下に隔てられた2つの電極部位20b、20cを有しており、第1の電極部位20bは駆動用電極50側に配置され、第2の電極部位20cは固定電極30側に配置されている。
【0065】
このため、交流電圧側の第1の電極部位20bと測定対象となる直流電圧側の第2の電極部位20cとを絶縁することとなり、測定対象となる高電圧系統を駆動側と電気的に絶縁して安全性を高めることができる。
【0066】
図14は、本実施形態に係る電圧センサ1の第4変形例を示す断面図である。なお、図14においては電気的接続関係を模式的に示すものとする。振動子20の振幅を測定するため、振動子20から電気信号を取り出す場合も考えられる。このため、図14に示すように、第4変形例に係る電圧センサ1は、振動子20と電気的に接続されて振動子20の振幅を検出する振幅検出手段80を備えている。
【0067】
ここで、一般に振動子20に印加される交流電圧は低電圧側に分類されており、振幅検出手段80についても低電圧側に分類されることとなる。一方、測定対象となる電圧は高電圧側に分類される。このため、上記低電圧側と高電圧側とは電気的に分離されることが好ましい。
【0068】
そこで、第4変形例に係る電圧センサ1は、振幅検出手段80の前段に絶縁手段81を備えている。すなわち、図14に示す振動電極20と振幅検出手段80との間に絶縁手段81を介在させ、測定対象となる直流電圧が印加される固定電極30に例え振動電極20が接触しても振幅検出手段80に高電圧が印加されることを防止するようにしている。これにより、振幅を検出するための交流信号のみを通過させつつ、直流成分を遮断することができ、振幅検出手段80を測定対象となる高電圧系統の直流成分と絶縁してさらに安全性を高めることができる。なお、絶縁手段81は静電結合によるコンデンサ、誘導結合によるコイル、光結合によるLED(Light Emitting Diode)などが用いられ、外付けであっても良いし、センサ内部に組み込まれていても良い。
【0069】
図15は、本実施形態に係る電圧センサ1の第5変形例を示す断面図である。なお、図15においては電気的接続関係を模式的に示すものとする。図14を参照して説明したように、一般に駆動用電極50に印加される交流電圧は低電圧側に分類されており、測定対象となる電圧は高電圧側とは電気的に分離されることが好ましい。
【0070】
そこで、第5変形例に係る電圧センサ1は、第4変形例と同様に絶縁手段81を備えている。絶縁手段81は、図15に示す駆動用電極50と交流発生回路との間に介在されており、測定対象となる直流電圧が印加される固定電極30に例え振動電極20が接触しても交流発生回路に高電圧が印加されることを防止するようにしている。これにより、振動子20を励起するための交流信号のみを通過させつつ、直流成分を遮断することができ、交流発生回路を測定対象となる高電圧系統の直流成分と絶縁してさらに安全性を高めることができる。なお、絶縁手段81は静電結合によるコンデンサ、誘導結合によるコイル、光結合によるLED(Light Emitting Diode)などが用いられ、外付けであっても良いし、センサ内部に組み込まれていても良い。
【0071】
このようにして、本実施形態に係る電圧センサ1によれば、機械的なサスペンション10によって支持された振動子20にある隙間を介して対向配置された固定電極30に測定対象である電圧を印加することで、静電引力を振動子20に作用させ、これにより振動子20の共振周波数が変化することで、測定対象である電圧を算出する。ここで、測定対象となる電圧が固定電極30に印加されると、この電圧による静電引力により、実質的にサスペンション10のバネ定数が変化することとなり、振動子20の共振周波数が変化することとなる。この変化は、測定対象となる電圧の大きさに一定の相関があることから、変化した共振周波数から測定対象となる電圧の値を測定することができる。このように、本発明では、高精度の抵抗を用いる必要がなく、電圧測定の精度の向上を図ることができると共に絶縁手段等も必要がなく、部品点数の増加を抑えることができる。さらに、測定対象の電圧が生じる静電引力を利用して計測するため、測定対象からほとんど電流を流すことなく、電圧を計測することができる。加えて、集磁コア等や光学部品を用いる必要もなく、消費電力の増加及び部品点数の増加を抑えることができ、組み立ての煩雑化についても抑制することができる。
【0072】
また、振動子20と固定電極30とが短絡しないように機械的なストッパ70又は絶縁体22,31を有するため、振動子20と固定電極30との短絡が防止され、安全性を高めることができる。
【0073】
また、振動子20と固定電極30との関係が平行平板電極であるため、電極間に働く力のギャップ依存性が高い。加えて、静電引力のギャップ変化に対する傾きが、静電引力分の等価的なバネ定数となる。測定対象となる電圧の印加によってサスペンション分も含めた全体の等価的なバネ定数が変化し、共振周波数が変化する、周波数は正確に測定できる量であるので、測定分解能の向上につなげることができる。
【0074】
また、振動子20を励振させるために静電引力を利用する。振動振幅は僅かでも共振周波数が測定できるため、電子回路が動作するような低電圧が利用できる。よって、電圧センサの電子化に適している。
【0075】
また、振動子20を励振するための電極が櫛歯電極21,51であるため、静電引力により振動子20が移動したとしても櫛歯電極21,51であればギャップの依存性が小さく交流電圧の印加による共振周波数への影響を少なくすることができる。
【0076】
また、測定対象となる直流電圧が振幅検出手段80に印加されることを防止する絶縁手段81を備えるため、振幅検出手段80を測定対象となる高電圧系統の直流成分とを電気的に絶縁してさらに安全性を高めることができる。
【0077】
また、測定対象となる直流電圧が交流発生回路に印加されることを防止する絶縁手段81を備えるため、交流発生回路を測定対象となる高電圧系統の直流成分とを電気的に絶縁してさらに安全性を高めることができる。
【0078】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0079】
例えば、本実施形態において駆動用電極50と振動子20は、櫛歯電極21,51を備えているが、これに限らず、充分に静電引力を発生させて振動子20を振動させることができれば、特に櫛歯電極21,51を備えていなくともよい。
【0080】
また、本実施形態においてサスペンション10は、コの字状に折り返された形状となっているが、特にこれに限らず、直線状など他の形状に構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1…電圧センサ
10…サスペンション
11…第1のサスペンション
11a…第1サスペンション部
11b…第2サスペンション部
11c…平板
12…第2サスペンション
12a…第1サスペンション部
12b…第2サスペンション部
12c…平板
20…振動電極
20a…絶縁層
20b…第1の電極部位
20c…第2の電極部位
21…櫛歯電極
22…絶縁層
30…固定電極
31…絶縁層
40…演算部
50…駆動用電極
51…櫛歯電極
52…絶縁層
61…第1電極
62…第2電極
70…ストッパ
71…本体部
72…バネ部
73…接触部
80…振幅検出手段
81…絶縁手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15