特許第6199580号(P6199580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6199580ネルボン酸を含む油脂組成物の製造方法、及びネルボン酸生産微生物をスクリーニングする方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6199580
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】ネルボン酸を含む油脂組成物の製造方法、及びネルボン酸生産微生物をスクリーニングする方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/64 20060101AFI20170911BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20170911BHJP
   C12R 1/645 20060101ALN20170911BHJP
【FI】
   C12P7/64
   C12Q1/02
   C12P7/64
   C12R1:645
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-41843(P2013-41843)
(22)【出願日】2013年3月4日
(65)【公開番号】特開2014-168418(P2014-168418A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2016年3月2日
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-1508
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-1509
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-1547
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】石黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】浜本 一洋
(72)【発明者】
【氏名】塚原 智
(72)【発明者】
【氏名】岸本 憲明
(72)【発明者】
【氏名】梅本 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】東田 悠生
(72)【発明者】
【氏名】倉田 淳志
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101153298(CN,A)
【文献】 特開平08−196288(JP,A)
【文献】 国際公開第1998/056882(WO,A1)
【文献】 特開昭63−044891(JP,A)
【文献】 特開昭61−227790(JP,A)
【文献】 JAOCS,1998年,Vol.75, No.8,p.1053-1055
【文献】 The EFSA Journal,2008年,Vol.770,p.1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
C12Q 1/00−3/00
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素源を含む培地中でモルティエレラ属糸状菌を培養し、培養後のモルティエレラ属糸状菌の菌体を回収する工程を有し、
前記菌体が含有する油脂組成物中の全脂肪酸に占めるネルボン酸の割合が5.26%以上である、ネルボン酸を含み、
前記モルティエレラ属糸状菌は、受託番号NITE P−1508、又は受託番号NITE P−1547で寄託されたモルティエレラ属糸状菌からなる群から選択される1以上を含む油脂組成物の製造方法。
【請求項2】
炭素源を含む培地中でモルティエレラ属糸状菌を培養し、培養後のモルティエレラ属糸状菌の菌体を回収する工程を有し、
前記モルティエレラ属糸状菌は、受託番号NITE P−1508、又は受託番号NITE P−1547で寄託されたモルティエレラ属糸状菌を含む、ネルボン酸を含む油脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記菌体を乾燥させる工程を更に有する請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
炭素源を含む培地中でモルティエレラ属糸状菌を培養されたモルティエレラ属糸状菌の菌体から、ネルボン酸を抽出する工程を有し、
前記菌体が含有する油脂組成物中の全脂肪酸に占めるネルボン酸の割合が5.26%以上であり、
前記モルティエレラ属糸状菌は、受託番号NITE P−1508、又は受託番号NITE P−1547で寄託されたモルティエレラ属糸状菌からなる群から選択される1以上を含むネルボン酸エステル化物の製造方法。
【請求項5】
炭素源を含む培地中でモルティエレラ属糸状菌を培養されたモルティエレラ属糸状菌の菌体から、ネルボン酸を抽出する工程を有し、
前記モルティエレラ属糸状菌は、受託番号NITE P−1508、又は受託番号NITE P−1547で寄託されたモルティエレラ属糸状菌を含む、ネルボン酸エステル化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネルボン酸を含む油脂組成物の製造方法、及びネルボン酸生産微生物をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネルボン酸は、脊髄動物の髄鞘を構成する脂肪酸の30〜45%を占めており、髄鞘にネルボン酸の濃度が不足すると脱髄疾患という神経系の疾患が誘引される。このため、脱髄疾患の治療には、ネルボン酸やその誘導体の投与が有効であることが知られている。また、ネルボン酸は、栄養価が高い。そのため、飲食品や医薬分野等で、ネルボン酸を使用することが好まれている。更に、セラミドの構成脂肪酸であることから、香粧品原料への応用も期待されている。
【0003】
ネルボン酸は、有機合成や、植物種子、微生物からの抽出により得ることができる。例えばエルカ酸から有機合成化学的に製造できること(非特許文献1)や、植物の種子に含まれているため抽出により得ることができることが知られている(特許文献1)。また、長鎖脂肪酸を生産するフランシセラ属細菌を培養し、その培養物からネルボン酸を採取する製造方法も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平10−507623
【特許文献2】特開平8−196288
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K.K.Carrol, Canadian J. Chem.,35:757−760(1957)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、有機合成化学的なネルボン酸の製造は有毒な化合物を使用するため好ましくない。また、ネルボン酸を合成する植物が多年草であるため、種子からの抽出では、ネルボン酸を得るまでに長期間を要し、また植物を栽培するために広い面積の土地が必要であったり、収穫量が季節や天候に左右されると言った問題がある。フランシセラ属細菌では、菌株が含有する油脂組成物中の全脂肪酸に占めるネルボン酸の割合は高いが、菌体あたりの油脂組成物自体の生成量が少なく、産業に利用することは難しかった。
【0007】
本発明は、以上の実情に基づきなされたものであり、ネルボン酸を含む油脂組成物の新たな製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、モルティエラ属糸状菌がネルボン酸を生成することを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、以下を提供する。
【0009】
(1)炭素源を含む培地中でモルティエレラ属糸状菌を培養し、培養後のモルティエレラ属糸状菌の菌体を回収する工程を有する、ネルボン酸を含む油脂組成物の製造方法。
【0010】
(2)前記菌体を乾燥させる工程を更に有する(1)記載の方法。
【0011】
(3)炭素源を含む培地中でモルティエレラ属糸状菌を培養されたモルティエレラ属糸状菌の菌体から、ネルボン酸を抽出する工程を有する、ネルボン酸を含む油脂組成物の製造方法。
【0012】
(4)前記モルティエレラ属糸状菌は、受領番号NITE AP−1508、NITE AP−1509、又はNITE AP−1547で寄託された菌株と同じ種に属するモルティエレラ属糸状菌を含む(1)から(3)いずれか記載の方法。
【0013】
(5)前記モルティエレラ属糸状菌は、受領番号NITE AP−1508、NITE AP−1509、又はNITE AP−1547で寄託されたモルティエレラ属糸状菌を含む(4)記載の方法。
【0014】
(6)炭素源を含む培地中でモルティエレラ属糸状菌を培養し、培養後のモルティエレラ属糸状菌の菌体を回収し、前記菌体により生成されるネルボン酸又はネルボン酸の誘導体の量を計測して、そのネルボン酸の量に基づきネルボン酸生産微生物をスクリーニングする方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、モルティエレラ属糸状菌を用いることでネルボン酸を含む油脂組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
本発明は、炭素源を含む培地中でモルティエレラ属糸状菌を培養し、培養後のモルティエレラ属糸状菌の菌体を回収する工程を有する、ネルボン酸を含む油脂組成物の製造方法である。
【0018】
モルティエレラ属糸状菌は、ネルボン酸を製造する菌であれば特に制限されないが、モルティエレラ・エロンガタ(Mortierella elongata)、モルティエレラ・エキシグア(Mortierella exigua)、モルティエレラ・ヒグロフィラ(Mortierella hygrophila)、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)等であってよい。生成されるネルボン酸の量の多さから、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)、特許微生物寄託センターに2013年1月16日に寄託手続がなされた受領番号がNITE AP−1508、NITE AP−1509の菌株(それぞれ、NITEで分譲を受けることができる保管番号RD000969、RD003315)と同じ種に属するもの、又は、2013年2月26日に寄託手続がなされた受領番号がNITE AP−1547の菌株(NITEで分譲を受けることができる保管番号RD003333)と同じ種に属するものが好ましく、受領番号NITE AP−1508、NITE AP−1509、又はNITE AP−1547で寄託されたものが特に好ましい。
【0019】
モルティエレラ属糸状菌の培養方法は、特に制限されず、例えば、菌株の胞子、菌糸、又は予め培養して得られた前培養液を、液体培地又は固体培地に接種し培養すればよい。
【0020】
培地は、炭素源を含むものであれば特に制限されないが、例えば、PD培地、PYM培地、YPD培地、YM培地等を使用することができる。
【0021】
炭素源は、特に制限されないが、例えば、グルコース、スクロース、フルクトース、キシロース、サッカロース、マンノース、可溶性デンプン、糖蜜、グリセロール、マンニトール等を使用することができる。
【0022】
培地は、窒素源を含んでいてもよい。窒素源は、特に制限されないが、例えば、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、ペプトン、カザミノ酸、コーンスティプリカー等を使用することができる。中でも、培養液あたりの菌体の濃度を高める効果が大きいため、酵母エキスが好ましい。
【0023】
培地には、基質として、脂肪酸や脂肪酸を含む油脂を使用することができる。脂肪酸は、特に制限されないが、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、アラキジン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸等が挙げられる。中でも、油脂組成物中のネルボン酸の濃度を高める効果が大きいため、エルカ酸が好ましい。油脂は、オリーブ油、パーム油、ナタネ油等が挙げられる。中でも、エルカ酸の含有量が高いためナタネ油が好ましい。
【0024】
培地成分の濃度は、それぞれ独立して、モルティエレラ属糸状菌が生育しうる濃度であればよく、特に制限されない。例えば、炭素源の濃度は、培地中に0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上であってよく、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下であってよい。モルティエレラ属糸状菌が生育しうる限り、炭素源の濃度は0.05質量%未満であってよく、また、50質量%超であってよい。培地中の炭素源の濃度を高めることによって、菌体あたりの油脂組成物の生産量を高めることができる。
【0025】
窒素源の濃度は、特に制限されないが、培地中に0.1重量%以上、0.3重量%以上、0.5重量%以上であってよく、10質量%以下、5質量%以下、1質量%以下であってよい。モルティエレラ属糸状菌が生育しうる限り、窒素源の濃度は0.1質量%未満であってよく、また、10質量%超であってよい。培地中の窒素源の濃度を高めることによって、培地中の菌体の濃度を高めることができる。
【0026】
基質の濃度は、特に制限されず、適宜選択できるが、培地中の基質の濃度を高めることによって、油脂組成物あたりのネルボン酸の量を高めることができる。
【0027】
培養温度は、モルティエレラ属糸状菌の生育しうる温度であればよく、特に制限されないが、例えば5℃以上、10℃以上、20℃以上であってよく、50℃以下、40℃以下、30℃以下であってよい。モルティエレラ属糸状菌の生育しうる限り、培養温度は5℃未満であってもよく、50℃超であってもよい。
【0028】
培地のpHは、モルティエレラ属糸状菌の生育しうるpHであればよく、特に制限されないが、例えば、3以上、4以上、5以上であってよく、12以下、11以下、10以下であってよい。モルティエレラ属糸状菌の生育しうる限り、培地のpHは3未満であってもよく、12超であってよい。
【0029】
培養方法は、モルティエレラ属糸状菌の生育しうる方法であれば、特に制限されないが、例えば、上記の培養条件下で、撹拌培養、振とう培養、静置培養である。
【0030】
モルティエレラ属糸状菌の培養時間は、ネルボン酸を含む油脂組成物の用途に応じて設定してよく、特に制限されないが、例えば、24〜240時間であり、ネルボン酸を含む油脂組成物の用途において十分なネルボン酸が生成されるときは、24時間未満であってもよく、240時間超であってよい。
【0031】
培養液あたりのネルボン酸の量は、培養液あたりの油脂組成物の量と油脂組成物あたりのネルボン酸の量との積算した量になる。培養液あたりの油脂組成物の量は、培養液あたりの菌体の濃度と、菌体あたりの油脂組成物の量との積算した量になる。以上の方法により、培地中あたりの菌体の濃度、菌体あたりの油脂組成物の量、油脂組成物あたりのネルボン酸量のいずれか1つ以上を高めることができ、ネルボン酸の生産の経済化を図ることができる。
【0032】
ネルボン酸を含む油脂組成物を含む菌体の回収は、特に制限されないが、例えば、液体培地で培養した場合、培養終了後に培養液より遠心分離又はろ過等によりネルボン酸を含む油脂組成物を含む菌体を回収してよい。また、固体培地で培養した場合、上記の方法で菌体を回収してよく、又は別途操作をせず、そのままネルボン酸を含む油脂組成物を含む菌体を回収してもよい。
【0033】
また、ネルボン酸は揮発しにくいため、ネルボン酸を含む油脂組成物を含む菌体を乾燥して、菌体の嵩を小さくしてよい。菌体の乾燥は、特に制限されないが、例えば、凍結乾燥、風乾、加熱乾燥等により行うことができ、自然乾燥であってもよい。短時間で乾燥できるため、凍結乾燥が好ましい。
【0034】
ネルボン酸を含む油脂組成物は、特に制限されないが、例えば、上記方法により得た菌体として、そのまま目的の用途に使用してもよく、又は菌体から抽出して目的の用途に使用してもよい。ネルボン酸を含む油脂組成物の抽出は、特に制限されないが、例えば、下記するネルボン酸のエステルを得やすいため、水とメタノール等の混合溶液に塩酸等を用いて行ってもよい。
【0035】
ネルボン酸を生産する微生物のスクリーニング方法は、モルティエレラ属糸状菌を培養し、培養後のモルティエレラ属糸状菌の菌体を回収し、前記菌体が含有するネルボン酸又はネルボン酸の誘導体の量を計測して行うことができる。ネルボン酸の量は、特に制限されないが、例えば、GCやGC/MSにより計測できる。また、ネルボン酸の構造は、HPLCでネルボン酸メチルエステルを精製したものを、例えば、FT−IR、H−NMR、13C−NMR、GC/MS等により確認できる。
【0036】
ネルボン酸を含む油脂組成物は、より安定に使用することができるようにするため、培養後に、例えば、乳鉢ですり潰してエステル化してよい。
【0037】
生成されるネルボン酸の量は、特に制限されないが、前記菌体が含有する油脂組成物中の全脂肪酸に占めるネルボン酸の割合が0.1%超であればよく、1.4%以上であるのが好ましい。ネルボン酸の割合が0.1%以下であると、精製しても2重結合の立体配置を決定することができなくなる虞がある。また、前記菌体の培養液5mL当たりのネルボン酸の量が0.06mg以上であるのが好ましい。
【0038】
モルティエレラ属糸状菌にネルボン酸を生成させる方法として、それらの脂肪酸鎖長延長酵素や不飽和化酵素をコードしている遺伝子を同定し、遺伝子工学的な手法により、酵母や脂質生産菌等へクローニングして行うことも可能である。
【0039】
以上のようにして製造されたネルボン酸を含む油脂組成物は、飲食品や医薬分野等で使用してよい。
【実施例】
【0040】
(実施例1−60)
表1及び表2に示す菌株を、ポテトデキストロース培地(PD培地)に植菌し、28℃、140rpmで振とう培養した。実施例1−6では120時間培養し、実施例7−60では168時間培養した。培養液を10000rpmで5分間遠心分離して菌体を回収し、24時間凍結乾燥して乾燥菌体を得た。乾燥菌体30mgを乳鉢ですり潰し、乾燥菌体に含まれる脂肪酸を、2Nの塩酸−メタノール溶液(3mL)を使用してメチルエステル化した。反応後、蒸留水(1mL)とヘキサン(3mL)を加え、3000rpmで15分間遠心分離して、ヘキサン層を回収した。ヘキサン層を減圧乾燥して、ネルボン酸メチルエステルを含む油脂組成物を得た。
【0041】
各菌株に含まれる油脂組成物中の全脂肪酸に占めるネルボン酸メチルエステルの面積比を、GC/MS分析により求め、表1及び表2に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
(比較例1)
表3に示す菌株を、PYMグルコース培地に植菌し、28℃、140rpmで72時間振とう培養した。培養液を10000rpmで5分間遠心分離して菌体を回収し、24時間凍結乾燥して乾燥菌体を得た。乾燥菌体30mgを乳鉢ですり潰し、乾燥菌体に含まれる脂肪酸を、2Nの塩酸−メタノール溶液(3mL)を使用してメチルエステル化した。反応後、蒸留水(1mL)とヘキサン(3mL)を加え、3000rpmで15分間遠心分離して、ヘキサン層を回収した。ヘキサン層を減圧乾燥して、ネルボン酸メチルエステルを含む油脂組成物を得た。
【0045】
(比較例2及び3)
表3に示す菌株を、M1培地に植菌し、28℃、140rpmで192時間振とう培養した。培養液を10000rpmで5分間遠心分離して菌体を回収し、24時間凍結乾燥して乾燥菌体を得た。乾燥菌体30mgを乳鉢ですり潰し、乾燥菌体に含まれる脂肪酸を、2Nの塩酸−メタノール溶液(3mL)を使用してメチルエステル化した。反応後、蒸留水(1mL)とヘキサン(3mL)を加え、3000rpmで15分間遠心分離して、ヘキサン層を回収した。ヘキサン層を減圧乾燥して、ネルボン酸メチルエステルを含む油脂組成物を得た。
【0046】
実施例1−60と同様に、各菌株に含まれる油脂組成物中の全脂肪酸に占めるネルボン酸メチルエステルの面積比を、GC/MS分析により求め、表3に示す。なお、表中「N.D.」は、検出できなかったことを示す。
【0047】
【表3】
【0048】
モルティエレラ属糸状菌以外の菌株ではネルボン酸は生成されていない、若しくは生成されていても全脂肪酸におけるネルボン酸の面積比は極微量であったが、全てのモルティエレラ属糸状菌においてネルボン酸が生成されており、特に実施例1、実施例42、実施例53、実施例54、実施例55、実施例60に係るモルティエレラ菌は全脂肪酸におけるネルボン酸の面積比が大きく、特に実施例42、実施例53、実施例54、実施例55に係る菌株のネルボン酸面積比が大きかった。
【0049】
全脂肪酸構成比におけるネルボン酸の面積比が大きかった上記実施例42、実施例53、実施例54、実施例55に係る菌株について、培養液5mLから菌体を回収し、凍結乾燥させ、ヘキサン抽出により、乾燥菌体中の脂肪酸を抽出した。抽出した脂肪酸を実施例1−60と同様にメチルエステル化後、全脂肪酸に占めるネルボン酸メチルエステルの面積比をGC/MSにより求め、培養液5mLあたりのネルボン酸の量を測定した。その結果を表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
実施例42、実施例53、実施例54に係る菌株では、培養液5mLあたりのネルボン酸の量が多く、ネルボン酸生産微生物として好ましく、実施例42に係る菌株がネルボン酸生産微生物として特に好ましかった。
【0052】
ネルボン酸生産量の多かった菌株、実施例42、実施例53、実施例54について、静岡県静岡市清水区長崎330番地所在の株式会社テクノスルガ・ラボに、種の同定を依託した。巨視的及び微視的形態観察、28SrDNA−D1/D2及びITS−5.8SrDNAの塩基配列の解析結果より、3株ともモルティエレラ属糸状菌の新種であると推定された。