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特許6199586メタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質、メタ物質の設計システム及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6199586
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】メタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質、メタ物質の設計システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20170911BHJP
【FI】
   G06F17/50 638
   G06F17/50 604A
【請求項の数】19
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-69293(P2013-69293)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-191781(P2014-191781A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 健夫
【審査官】 合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−023517(JP,A)
【文献】 特開2003−303215(JP,A)
【文献】 特開2004−158008(JP,A)
【文献】 乙守 正樹 他,レベルセット法に基づく誘電体メタマテリアルのトポロジー最適化,日本計算工学会論文集,日本,日本計算工学会,2011年,第2011巻
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索するステップと、を含む、メタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質。
【請求項2】
任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、
複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索するステップと、を含む、メタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質。
【請求項3】
任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、
新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索するステップと、を含む、メタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質。
【請求項4】
任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索するステップと、を含み、
前記複素屈折率が既知の物質から探索できなかった場合に、
複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索するステップと、をさらに含み、
前記既存物質から探索できなかった場合に、
新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索するステップと、をさらに含む、メタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質。
【請求項5】
400nm〜800nmの中に含まれる特定の電磁波の波長領域において、負の屈折率、且つ、1cm-1以下の吸収係数を有するメタ物質を設計する、請求項1〜4のいずれかに記載のメタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のメタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質を用いた構造物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のメタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質を用いた車両のピラー。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のメタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質を用いた飛行機。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載のメタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質を用いた衣類。
【請求項10】
メタ物質の設計システムであって、
任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が所定値以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化する最適化手段と、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索する探索手段と、を含む、メタ物質の設計システム。
【請求項11】
メタ物質の設計システムであって、
任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が所定値以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化する最適化手段と、
複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測する予測手段と、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索する探索手段と、を有する、メタ物質の設計システム。
【請求項12】
メタ物質の設計システムであって、
任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が所定値以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化する最適化手段と、
新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測する予測手段と、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索する探索手段と、を有する、メタ物質の設計システム。
【請求項13】
メタ物質の設計システムであって、
任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が所定値以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化する最適化手段と、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索する探索手段と、を含み、
前記複素屈折率が既知の物質から探索できなかった場合に、
複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測する予測手段と、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索する探索手段と、をさらに含み、
前記既存物質から探索できなかった場合に、
新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測する予測手段と、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索する探索手段と、をさらに含む、メタ物質の設計システム。
【請求項14】
400nm〜800nmの中に含まれる特定の電磁波の波長領域において、負の屈折率、且つ、1cm-1以下の吸収係数を有するメタ物質を設計する、請求項10〜13のいずれかに記載のメタ物質の設計システム。
【請求項15】
任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索するステップと、を含む、メタ物質の設計方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項16】
任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、
複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索するステップと、を含む、メタ物質の設計方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項17】
任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、
新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索するステップと、を含む、メタ物質の設計方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項18】
任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索するステップと、を含み、
前記複素屈折率が既知の物質から探索できなかった場合に、
複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索するステップと、をさらに含み、
前記既存物質から探索できなかった場合に、
新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索するステップと、をさらに含む、メタ物質の設計方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項19】
400nm〜800nmの中に含まれる特定の電磁波の波長領域において、負の屈折率、且つ、1cm-1以下の吸収係数を有するメタ物質を設計する、請求項15〜18のいずれかに記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタ物質の設計方法、メタ物質の構造物、メタ物質の設計システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
メタ物質(メタマテリアル)とは、人工的に設計された、自然界では存在しない特性を有した物質である。メタ物質は、光学特性として、複素屈折率の実数部が負(屈折率が負)になる特性を有している。これまで、負の屈折率が初めて実証されたマイクロ波領域(1)から、テラヘルツ波、そして赤外領域までのメタ物質が実証されており、最近では、可視光領域においてもメタ物質の開発が進められている。
【0003】
可視光領域のメタ物質は、物を遮蔽して不可視にするクローキング技術に用いることができる。このクローキング技術は、例えば自動車産業では、車両のフロントピラーに用いて、車両の死角をなくすことが期待されている。従来より、車両のフロントピラーによって生じる死角をなくす他の技術として、外部カメラで撮影された映像をピラー内部に表示させる方法や、ピラーを透明材料で作る方法が提案されている。しかし、前者は、外部装置が必要であることによるコストや電力消費の増大が問題になり、また後者は、ピラーとして必要な強度を維持できないという問題が生じる。メタ物質によるクローキング技術を用いれば、かかる問題が生じることなく、車両の死角をなくすことが可能になる。
【0004】
また、医療産業の分野では、例えば外科における活用が期待されている。医者の手が患部に重なることによって患部が見えなくなる問題を、メタ物質のクローキング技術を用いた手袋を用いることによって解決できる。
【0005】
また、軍事産業では、メタ物質のクローキング技術を用いた、レーダーによって捕捉されない戦闘機や戦車の開発に興味が集まっている。
【0006】
ところで、近年、コンピューターシミュレーションを用いてメタ物質を設計する試みがなされている。メタ物質は、適用する電磁波の波長よりも十分に小さい単位構造の3次元方向への繰り返しによって構成され、これらの単位構造は、所定の屈折率や吸収係数などの光学物性を有する物質から構成されている。メタ物質の設計シュミュレーションでは、材料として用意された特定の物質から単位構造を作成し、その単位構造から有限要素法、有限差分時間領域(FDTD)法や厳密結合波解析(RCWA)法等の電磁場解析を用いて、単位構造全体の複素屈折率を求め、その複素屈折率の実数部が負となる構造のメタ物質を求めている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D. R. Smith, S. Schultz, P. Markos, and C. M. Soukoulis, “Determination of effective permittivity and permeability of metamaterials from reflection and transmission coefficients”, Phys. Rev. B.65, 195104 (2002)
【非特許文献2】D. Schurig, J. B. Pendry, and D. R. Smith, “Calculation of material properties and ray tracing in transformation media”,Optics Express, Vol. 14, Issue 21, 9794 (2006)
【非特許文献3】I. Bergmair, B. Dastmalchi, M. Bergmair, A. Saeed, W. Hilber, G. Hesser, C. Helgert, E. Pshenay-Severin, T. Pertsch, E. B. Kley,U. Hubner, N. H. Shen, R. Penciu, M. Kafesaki, C. M. Soukoulis, K. Hingerl, M. Muehlberger and R. Schoeftner, “Single and multilayer metamaterials fabricated by nanoimprint lithography”, Nanotechnology 22, 325301 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、現在、上述のクローキング技術に用いることができるような、可視光領域において高い透過率を有するメタ物質は設計できておらず、より広い範囲の物質からメタ物質を設計する必要がある。
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、より広い範囲の物質からメタ物質を設計可能なメタ物質の設計方法、メタ物質の設計システム及びプログラムを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決するため、広い範囲の物質からメタ物質を設計可能なメタ物質の設計方法を見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明は、
(1)任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索するステップと、を含む、メタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質。
(2)任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索するステップと、を含む、メタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質。
(3)任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索するステップと、を含む、メタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質。
(4)任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索するステップと、を含み、前記複素屈折率が既知の物質から探索できなかった場合に、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索するステップと、をさらに含み、前記既存物質から探索できなかった場合に、新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索するステップと、をさらに含む、メタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質。
(5)400nm〜800nmの中に含まれる特定の電磁波の波長領域において、負の屈折率、且つ、1cm-1以下の吸収係数を有するメタ物質を設計する、(1)〜(4)のいずれかに記載のメタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載のメタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質を用いた構造物。
(7)(1)〜(5)のいずれかに記載のメタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質を用いた車両のピラー。
(8)(1)〜(5)のいずれかに記載のメタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質を用いた飛行機。
(9)(1)〜(5)のいずれかに記載のメタ物質の設計方法によって設計されたメタ物質を用いた衣類。
(10)メタ物質の設計システムであって、任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が所定値以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化する最適化手段と、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索する探索手段と、を含む、メタ物質の設計システム。
(11)メタ物質の設計システムであって、任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が所定値以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化する最適化手段と、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測する予測手段と、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索する探索手段と、を有する、メタ物質の設計システム。
(12)メタ物質の設計システムであって、任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が所定値以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化する最適化手段と、新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測する予測手段と、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索する探索手段と、を有する、メタ物質の設計システム。
(13)メタ物質の設計システムであって、任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が所定値以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化する最適化手段と、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索する探索手段と、を含み、前記複素屈折率が既知の物質から探索できなかった場合に、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測する予測手段と、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索する探索手段と、をさらに含み、前記既存物質から探索できなかった場合に、新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測する予測手段と、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索する探索手段と、をさらに含む、メタ物質の設計システム。
(14)400nm〜800nmの中に含まれる特定の電磁波の波長領域において、負の屈折率、且つ、1cm-1以下の吸収係数を有するメタ物質を設計する、(10)〜(13)のいずれかに記載のメタ物質の設計システム。
(15)任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、
最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索するステップと、を含む、メタ物質の設計方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
(16)任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索するステップと、を含む、メタ物質の設計方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
(17)任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索するステップと、を含む、メタ物質の設計方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
(18)任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が1cm-1以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索するステップと、を含み、前記複素屈折率が既知の物質から探索できなかった場合に、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索するステップと、をさらに含み、前記既存物質から探索できなかった場合に、新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索するステップと、をさらに含む、メタ物質の設計方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
(19)400nm〜800nmの中に含まれる特定の電磁波の波長領域において、負の屈折率、且つ、1cm-1以下の吸収係数を有するメタ物質を設計する、(15)〜(18)のいずれかに記載のプログラム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、広い範囲の物質からメタ物質を設計できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】メタ物質の設計システムの構成図である。
図2】メタ物質の設計方法のフロー図である。
図3】メタ物質の模式図である。
図4】メタ物質の単位構造の模式図である。
図5】複素屈折率分布を付与するため単位構造をメッシュ状に分割した状態を示す図である。
図6】FDTD法を用いて複素屈折率を計算するための計算モデルの模式図である。
図7】計算モデルのX方向及びY方向に垂直な境界面とZ方向に垂直な境界面を示す図である。
図8】計算モデルにおいて平面波をスラブの空気層中から発生させた状態を示す図である。
図9】最適化された複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索するステップを示す説明図である。
図10】複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索するステップを示す説明図である。
図11】新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索するステップを示す説明図である。
図12】メタ物質をフロントピラーに適用する際の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。本実施の形態にかかるメタ物質の設計を行う設計システムは、例えば任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が所定値以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化する最適化手段と、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索する探索手段と、を有している。
【0014】
図1は、本実施の形態におけるメタ物質の設計システム1のハードウェア構成図である。
【0015】
設計システム1は、例えばコンピュータであり、CPU10、記憶装置11、入力装置12、表示装置13、出力装置14等を有している。
【0016】
CPU10は、メタ物質の設計方法を実現するためのプログラムを実行する。これにより、本発明における上記最適化手段、探索手段を実現している。
【0017】
記憶装置11は、ハードディスクや、光ディスクなどのストレージ手段であり、例えばメタ物質の設計方法を実行するためのプログラムや、複素屈折率が既知の物質のデータベースや、メタ物質の設計を行うための各種条件や、その他各種データが記憶されている。
【0018】
入力装置12は、キーボードや、マウス等のポインティングデバイスからなり、メタ物質の設計のために必要なデータを入力できる。表示装置13は、メタ物質の設計のために必要なデータやメタ物質の設計結果等を表示し、出力装置14は、必要に応じてメタ物質の設計結果等を出力できる。
【0019】
なお、設計システム1は、インターネット等のネットワークを通じてサーバー20に接続され、ネットワークを通じてサーバー20から、複素屈折率が既知の物質のデータ等を取り込むようにしてもよい。
【0020】
次に、上記設計システム1で実行されるメタ物質の設計方法について説明する。当該メタ物質の設計方法は、任意の複素屈折率分布を与えたメタ物質の単位構造から電磁場解析によって算出されるメタ物質の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が所定値以下になるように、前記複素屈折率分布を最適化するステップと、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索するステップと、を有している。
【0021】
以下に、かかるメタ物質の設計方法を具体的に説明する。図2は、かかる設計方法の一例を示すフロー図である。
【0022】
図3に示すように設計対象のメタ物質50は、適用する電磁波の波長よりも十分に小さい多数の単位構造51を3次元方向への繰り返すことによって構成されるものであり、先ずステップ1として、複素屈折率分布を与えた、メタ物質の候補の単位構造51を構築する(図2の工程S1)。
【0023】
このとき、図4に示すようにデカルト座標(x,y,z)上に直方体の単位構造51を構築することを考えると、単位構造51を構築するために入力される入力値は、(i)単位構造の横幅a、(ii)単位構造の奥行き長さb、(iii)単位構造の高さh、そして、(iv)単位構造中における各位置(デカルト座標(x,y,z))における複素屈折率n(x,y,z)(複素屈折率分布)である。複素屈折率nは、次式(1)のように実数部n’と虚数部kに分離できる。なお、メタ物質は、実数部のn’が負の値となることを特徴としている。
【0024】
【数1】
【0025】
単位構造51中の各位置における複素屈折率(複素屈折率分布)の付与は、図5に示したように各単位構造51を、例えば、HyperMeshやCubit等の市販のメッシングソフトウエアを用いて、四面体メッシュ、六面体メッシュ等の適当なメッシュ60で分割し、メッシュ60の各節点61に複素屈折率nを割り当てて行う。もしくは、電磁場解析ソフトウエアと一体化されているGUIを用いることによっても、単位構造51をメッシュ60で分割し、各節点61に複素屈折率nを割り当てることが可能である。
【0026】
次に、ステップ2として、構築された単位構造51に対して、有限要素法、有限差分時間領域(FDTD)法や厳密結合波解析(RCWA)法等による電磁場解析を行うことによって、メタ物質50の単位構造全体の複素屈折率(屈折率、吸収係数等を含む光学物性)を求める(図2の工程S2)。
【0027】
ここで、FDTD法を用いてメタ物質50の単位構造全体の複素屈折率を求める例を説明する。FDTD法を用いた市販ソフトウエアとしては、Fullwave、Poythingが挙げられる。FDTD法では、図6に示したような、単位構造51をZ方向に数個、X方向及びY方向に1個を含む長さdのスラブ70と、スラブ70をZ+方向とZ-方向より挟む、電磁波の波長より十分厚い真空層71、72とを含む直方体の計算モデル73を考える。
【0028】
FDTD法では、次に示すMaxwell方程式(2)、(3)及び方程式(4)、(5)に基づき電場Eと磁場Hの時間発展を計算する。
【0029】
【数2】


ここで、電場E、磁場Hは、x成分、y成分、及びz成分から構成されるベクトル値である。また、μ0は真空中での透磁率4π×10-7(H/m)、μrは比透磁率、ε0は真空中での誘電率8.854 187 817 620 ×10-12 F/m、εrは比誘電率、tは時間である。
【0030】
物質中の透磁率μ及び誘電率εは、次式(6)、(7)のように表される。
【0031】
【数3】
【0032】
また、複素屈折率nは、透磁率μと誘電率εを用いて次式(8)のように表される。
【0033】
【数4】
【0034】
可視光領域では、比透磁率μrは、1.0であると考えてよいので、複素屈折率nは、比誘電率εrによって次式(9)で表される。
【0035】
【数5】
【0036】
従って、式(3)に代入する比誘電率εrは、入力条件である複素屈折率nの値から、次式(10)のように決定できる。
【0037】
【数6】
【0038】
よって、式(3)及び(4)には、次式(11)、(12)の比誘電率εrと比透磁率μrが入力される。
【数7】
【0039】
FDTD法における具体的な計算についてさらに説明する。先ず境界条件として、図7に示したように、計算モデル73のX方向及びY方向に垂直な境界面80に周期境界条件を与え、Z方向に垂直な境界面81に吸収境界条件を与える。吸収境界条件を与える方法としては、Perfectly Matched Layer(PML)が挙げられる。
【0040】
時間t=0において、図8に示したように入射波として、任意の偏光状態を有し、且つ、Z+方向の進行方向を有した平面波82をスラブ70の空気層中83から発生させて、電磁場の時間発展を計算する。
【0041】
ここで、入射波の電場E0及び磁場H0は、次式(13)〜(23)のように表せられる。
【0042】
【数8】
ここで、kは波数ベクトル、rは位置、ωは角速度、Z0は真空のインピーダンス、Ix0は電場のx成分の振幅、そして、Iy0は電場のy成分の振幅である。
【0043】
計算モデル73全体の点における電場及び磁場の振幅及び位相が一定になる状態、即ち、定常状態に到達するまで、時間発展計算をFDTD法によって実施する。その結果、定常状態における計算モデル73全体の電場及び磁場の振幅及び位相が得られる。
【0044】
定常状態における電場は、次式(24)のように表せられる。
【0045】
【数9】
ここで、nはx,y,zのいずれかを示し、Enは電場のn成分である。また、In(x,y,z)は、座標(x,y,z)における電場n成分の振幅、θn(x,y,z)は、座標(x,y,z)における電場n成分の位相を示す。磁場も式(24)と同様の式で表現できる。
【0046】
図8におけるスラブ/真空層界面90の真空側の電磁場の値から、反射係数rを次式(25)のように求めることができる。
【0047】
【数10】
【0048】
また、図8におけるスラブ/真空層界面91の真空側の電磁場の値から、透過係数を次式(26)のように求めることができる。
【0049】
【数11】
【0050】
次に、参考文献1に記載のRetrieval Algorithmを用いることによって、得られた反射係数r及び透過係数tから、複素屈折率nを次式(27)〜(29)から計算する。
【0051】
【数12】
ここで、nは、メタ物質50の有効複素屈折率、dは計算モデルの厚さ、mは整数である。参考文献1に従ってIm(n)とRe(n)の符号を決定することができる。こうして、ある複素屈折率分布を有した物質に対して、メタ物質50の単位構造全体の複素屈折率を求めることができる。
【0052】
一方、複素屈折率の虚数部kは、吸収係数αと次式(30)のような関係がある。
【0053】
【数13】
ここで、λは電磁場の波長である。可視光領域に限定する場合、λは400nm〜800nmの範囲となる。
【0054】
次に、ステップ3として、ステップ2で得られた複素屈折率の実数部が負(屈折率が負)であり、且つ、吸収係数αが1cm−1以下であるか判定する(図2の工程S3)。そして、当該条件を満たさない場合には、それを満たすまで、ステップ1における単位構造51の複素屈折率分布の入力値を変更し、ステップ1からステップ3を繰り返す。こうして、メタ物質50の単位構造全体の複素屈折率が所定の上記条件を満たすように、単位構造51の複素屈折率分布を最適化する。
【0055】
次に、ステップ4として、複素屈折率が上記所定の条件を満たしたときの複素屈折率分布を最適値として決定する(図2の工程S4)。
【0056】
次に、ステップ5として、ステップ4で得られた最適な複素屈折率分布を実現する物質を探索する(図2の工程S5)。具体的には、図9に示すように最適な複素屈折率分布の各複素屈折率値n、n、nを有するような、複素屈折率が既知の物質のデータベース100から探索する。このとき、最適な複素屈折率分布の各複素屈折率の値と一致、又は近い値の複素屈折率を有する物質が探索される。なお、データベース100は、設計システム1の記憶部11内に設けられていてもよいし、インターネットを介したサーバ20に設けられていてもよい。そして、データベース100の中から所望の物質が見つかるか、データベース100の総ての物質が探索され終えると、探索が終了する。所望の物質が見つかることによってメタ物質50が設計される。
【0057】
本実施の形態によれば、メタ物質50の単位構造全体の複素屈折率が、負の屈折率で吸収係数が所定値以下になるような、単位構造51の最適な複素屈折率分布を定め、その最適な複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索するので、従来よりも広い範囲の物質からメタ物質50を設計できる。
【0058】
また、400nm〜800nmの中に含まれる特定の電磁波の波長領域において、負の屈折率、且つ、1cm-1以下の吸収係数を有するメタ物質を設計することによって、クローキング技術に用いるメタ物質50を設計できる。
【0059】
上記実施の形態におけるステップ5の最適な複素屈折率分布を実現する物質を探索する際に、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測し、最適化された複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索するステップを備えていてもよい。この場合の設計システム1は、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測する予測手段と、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索する探索手段と、を有している。CPU10は、このメタ物質の設計方法を実現するためのプログラムを実行し、これにより当該予測手段と探索手段を実現している。
【0060】
具体的には、先ず図10に示すように物質構造データベース110から物質の分子構造を取り出し、第一原理計算を行って既存物質の複素屈折率を予測する。複素屈折率を予測できる第一原理計算用の市販プログラムとして、CASTEP、WIEN2K等が挙げられる。第一原理計算を実施するためには、先ず既存物質の分子構造を、デカルト座標、もしくはZ-Matrixによって入力する。そのために、Material StudioやMedeA等の市販モデリングソフトを用いると、簡便に各原子の座標を入力することができる。上記の第一原理計算プログラムに既存物質の分子構造を入力して実行することによって、基底状態の電子状態を密度汎関数法に基づいて求め、更に、得られた電子状態及びLinear Response Theoryに基づいて、複素屈折率を算出することができる。
【0061】
複素屈折率が予測されたら、上記ステップ1〜ステップ4により定められた単位構造51の最適な複素屈折率分布の各複素屈折率値n、n、nを実現する物質を、複素屈折率が予測された既存物質の中から探索する。このとき、最適な複素屈折率分布の各複素屈折率の値と一致、又は近い値の複素屈折率を有する既存物質が探索される。
【0062】
かかる例においても、最適な複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が未知の既存物質から探索するので、従来よりも広い範囲の物質からメタ物質50を設計できる。
【0063】
さらに、上記実施の形態におけるステップ5の最適な複素屈折率分布を実現する物質を探索する際に、新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測し、最適化された複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索するステップを備えていてもよい。この場合の設計システム1は、新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測する予測手段と、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索する探索手段と、を有している。CPU10は、このメタ物質の設計方法を実現するためのプログラムを実行し、これにより当該予測手段と探索手段を実現している。
【0064】
具体的には、図11に示すように新規物質を考案し、その新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測して、その予測値が所望する複素屈折率と一致する新規物質を探索する。新規物質としては、第一原理計算において、電子状態が収束するものであれば、特に制限することなく考案することができる。
【0065】
かかる例においても、最適な複素屈折率分布を実現する物質を、新規物質から探索するので、従来よりも広い範囲の物質からメタ物質50を設計できる。
【0066】
さらに、上記ステップ5において、初めに、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索し、前記複素屈折率が既知の物質から探索できなかった場合に、次に、複素屈折率が未知である既存物質の複素屈折率を第一原理計算から予測し、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した既存物質から探索し、前記既存物質から探索できなかった場合に、次に、新規物質の複素屈折率を第一原理計算から予測し、最適化された前記複素屈折率分布を実現する物質を、前記複素屈折率を予測した新規物質から探索するようにしてもよい。
【0067】
かかる例では、最適な複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索し、次に複素屈折率が未知の既存物質から探索し、次に新規物質から探索するので、従来よりも広い範囲の物質からメタ物質50を設計できる。また、この順番で探索することにより、より高い精度で、より効率的にメタ物質を探索できる。
【0068】
以上のステップ5における、最適な複素屈折率分布を実現する物質を、複素屈折率が既知の物質から探索するステップ、複素屈折率が未知の既存物質から探索するステップ、新規物質から探索するステップを任意の順で任意に組み合わせてもよい。
【0069】
ところで、メタ物質50をクローキング技術に用いるためには、メタ物質50中の位置に応じて変化した屈折率及び屈折率異方性が必要となる。従って、ここでは、屈折率をテンソルとして考える。複素屈折率テンソルは、非特許文献2に示したようなTransformation Opticsと呼ばれる技術を使うことによって、任意の遮蔽物の形状に対して決定できる。従って、図12に示したように、Transformation Opticsによって決定された複素屈折率テンソルを実現するようなメタ物質50の単位構造51を、前記のステップ1〜ステップ5を用いて求め、それによって、例えば遮蔽物としての車両のフロントピラーに用いるメタ物質50を設計することができる。メタ物質は、その他の遮蔽物として、飛行機、衣類などの他の構造物にも同様にして用いることができる。
【0070】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0071】
例えば以上の実施の形態において、可視光領域の400nm〜800nmの中に含まれる特定の電磁波の波長領域において、負の屈折率、且つ1cm-1以下の吸収係数を有するメタ物質を設計していたが、電磁波の他の波長領域において、負の屈折率、且つ1cm-1以下の吸収係数を有するメタ物質を設計する際に適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、産業用車両、軍事、医療等の分野で好適に利用できる。
【符号の説明】
【0073】
1 設計システム
50 メタ物質
51 単位構造
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12