特許第6199604号(P6199604)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6199604-医療用ガスケット 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6199604
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】医療用ガスケット
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20170911BHJP
【FI】
   A61M5/315 514
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-103452(P2013-103452)
(22)【出願日】2013年5月15日
(65)【公開番号】特開2014-223150(P2014-223150A)
(43)【公開日】2014年12月4日
【審査請求日】2016年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】八尾 英治
(72)【発明者】
【氏名】岩野 慎也
(72)【発明者】
【氏名】石田 直之
【審査官】 和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第00/007648(WO,A1)
【文献】 英国特許出願公開第00741604(GB,A)
【文献】 米国特許第03098482(US,A)
【文献】 米国特許第03831601(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液と接する面とは反対側にプランジャーとの嵌合用の雌ネジ部を有し、該雌ネジ部の谷部直径または山部直径が薬液と接する面側から反対側のプランジャー側にかけて漸次大きくなっている医療用ガスケットと、
医療用ガスケットの雌ネジ部との嵌合用の雄ネジ部を有し、該雄ネジ部の山部直径が、嵌合部分において実質的に一定であるプランジャーと、
で構成されたことを特徴とする医療用ガスケット・プランジャー複合体
【請求項2】
医療用ガスケットの雌ネジ部の谷部直径および山部直径が、ともに薬液と接する面側から反対側のプランジャー側にかけて漸次大きくなっていることを特徴とする請求項1記載の医療用ガスケット・プランジャー複合体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用途に用いられる注射器として、予め薬液が充填された注射器(プレフィルドシリンジ)が知られている。プレフィルドシリンジは、薬液を移し変える手間が必要ないことから簡便に使用できることや、薬液を移し変える時点での医療過誤を防止できることから近年使用が増えている。このプレフィルドシリンジにおいては、従来の注射器(使用直前にバイアル等他の容器から薬液を吸い上げて使用する注射器)と異なり、長期間薬液と接触する容器としての性能が要求される(特許文献1)。
【0003】
プレフィルドシリンジにおいては、予めガスケットとプランジャーロッドを嵌合させている場合と、使用時にガスケットとプランジャーロッドを嵌合させ、プランジャーを再利用する場合がある。後者の場合、ガスケットとプランジャーロッドの嵌合には、ガスケットに雌ねじを、プランジャーロッドに雄ねじとを設け、嵌合させることがあり、プランジャーロットを回転させて両者のねじ部を嵌合させる。
【0004】
しかしながら、ガスケットとプランジャーを強固に嵌合させる必要はあるものの、一方で、取り付けを容易にするために回転に必要な力(トルク)を小さくしたいという要求がある。また、より強固な嵌合を求めて過分にねじを回した場合、ガスケットは圧縮されるが、この圧縮によりバレルとの摩擦力が大きくなり、注射時にガスケットを押し込むことが困難になるという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−147859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、ガスケットとプランジャーロッドの強固な嵌合を維持しつつ、嵌合に必要な締め付け力を低減したガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、薬液と接する面とは反対側にプランジャーとの嵌合用の雌ネジ部を有し、該雌ネジ部の谷部直径または山部直径が薬液と接する面側から反対側のプランジャー側にかけて漸次大きくなっていることを特徴とする医療用ガスケットに関する。
【0008】
谷部直径および山部直径が、ともに薬液と接する面側から反対側のプランジャー側にかけて漸次大きくなっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医療用ガスケットでは、薬液と接する面とは反対側にプランジャーとの嵌合用の雌ネジ部を有し、該雌ネジ部の谷部直径または山部直径が薬液と接する面側から反対側のプランジャー側にかけて漸次大きくなっているため、ガスケットとプランジャーロッドの強固な嵌合を維持しつつ、嵌合に必要な締め付け力を低減したガスケットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ガスケットとプランジャーの関係を説明する概念図である。
図2】本発明のガスケットの断面図である。
図3】本発明の他の態様のガスケットの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の医療用ガスケットは、薬液と接する面とは反対側にプランジャーとの嵌合用の雌ネジ部を有し、該雌ネジ部の谷部直径または山部直径が薬液と接する面側から反対側のプランジャー側にかけて漸次大きくなっていることを特徴とする。該構造によって、図1に示すようにガスケットにプランジャーロッドを挿入すると、ガスケットとプランジャーロッドの強固な嵌合を維持しつつ、嵌合に必要な締め付け力を低減できる。本発明のガスケットの形状について、その具体例を図2および3に示す。
【0012】
ガスケットの雌ねじ部の谷径rは、プランジャーロッドの雄ねじ部の山径Rより小さいことが必要である。また、ガスケットの接液側の雌ねじ部谷径をrt、接液側と反対側の雌ねじ部谷径をrbとした場合、R<rt<rbが成り立つことが好ましい。rbは、rtの1.02倍以上が好ましく、1.05倍以上がより好ましい。1.02倍未満であれば、ロッドの引き抜き力は良好であるものの、嵌合トルクが大きくなり、所望の効果を得られにくくなる傾向がある。上限も特に限定されないが、1.3倍以下が好ましく、1.2倍以下がより好ましい。1.3倍を超えると、ねじの谷径の差が大きくなりすぎ、接液側から反対側のねじの全域にわたるねじの嵌合が困難になり、引き抜き力が低下する傾向がある。本発明において、rtからrbへと漸次増大しているが、必ずしもリニアーに増大する必要はない。また、rtは、Rの1.01倍以上が好ましく、1.03倍以上がより好ましい。1.01倍未満であれば、雌ねじ部の谷部と雄ねじ部の山部が干渉し、嵌合トルクが大きくなる恐れがある。上限もとくに限定されないが、1.3倍以下が好ましく、1.2倍以下がより好ましい。1.3倍を超えるとねじの嵌合が困難になり、引き抜き力が低下する傾向がある。
【0013】
ガスケットとプランジャーロッドのより強固な嵌合のために、雌ねじ部の山径をlとした場合、ガスケットの接液側の雌ねじ部山径をlt、説液側と反対側の雌ねじ部他に系を山径lbとした場合、lt<lb<Rであることが好ましい。lbは、ltの1.02倍以上が好ましく、1.05倍以上がより好ましい。1.02倍未満であれば、ロッドの引き抜き力は良好であるものの、嵌合トルクが大きくなり、所望の効果を得られにくくなる傾向がある。上限もとくに限定されないが、1.3倍以下が好ましく、1.2倍以下がより好ましい。1.3倍を超えると、ねじの山径の差が大きくなりすぎ、接液側から反対側のねじの全域にわたるねじの嵌合が困難になり、引き抜き力が低下する傾向がある。
ltからlbへと漸次増大しているが、必ずしもリニアーに増大する必要はない。また、lbは、Rの0.8倍以上が好ましく、0.9倍以上がより好ましい。0.8倍未満であれば、雌ねじ部の山部と雄ねじ部の谷部が干渉し、嵌合合トルクが大きくなる恐れがある。上限もとくに限定されないが、1倍未満である必要がある。
【0014】
雌ねじ部の谷部直径および山部直径が、ともに薬液と接する面側から反対側のプランジャー側にかけて漸次大きくなっていることが好ましい。
【0015】
プランジャーロッドの雄ねじ形状については、上記の関係が成り立つ限り、とくに限定されない。雄ねじ部の山径などは嵌合部分において一定であっても、ガスケットの谷径に併せて変化させても良い。
【0016】
ガスケットの雌ねじ形状については、上記の関係が成り立つ限り、その他の部分はとくに限定されない。ねじ山の山数、山の高さ、形状、丸みなどはプランジャーの雄ねじ部に併せて適宜変更することができる。また、ガスケットの外形については、雌ねじ部に関わらない部位に関してはとくに限定されない。
【0017】
なお、プランジャーロッド挿入時の嵌合トルクは、30N・cm以下が好ましく、20N・cm以下がより好ましい。
【0018】
ガスケット基材の弾性材料としては特に限定されず、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、エチレンプロピレンゴム、ニトリルゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの弾性材料は、単独でも複数の成分をブレンドして使用することもできる。なかでも、加硫により、弾性が得られる材料が好ましい。成形性の点ではエチレン−プロピレン−ジエンゴム、ブタジエンゴムなどが好ましく、耐ガス透過性の点ではブチルゴム、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムなども好ましい。また、加硫材料の場合、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤など、ゴム工業の公知の配合剤を適宜添加できる。
【0019】
ガスケットとしては、その表面にフィルムをコーティングしたいわゆるラミネートガスケットが知られているが、本発明では、ラミネートガスケット、コーティング(ラミネート)を実施していないガスケットともに好適に適用できる。
【0020】
ラミネートガスケットの場合、フィルムの種類としては摺動性の優れる、すなわちゴムより摩擦係数の小さいフィルムが好ましい。例として医療用途として実績の多い、超高分子量ポリエチレンやフッ素系樹脂が挙げられる。このうちフッ素系樹脂は摺動性に優れ、かつ表面の化学的な安定性に優れているので好ましい。フッ素系樹脂としては、フッ素を含む樹脂であれば公知のものを使用すればよく、例としてPTFE、変性PTFE(テトラフルオロエチレンと微量のパーフルオロアルコキシドモノマーとの共重合体)、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などが挙げられる。PTFEや変性PTFEは摺動性、化学的な安定性共に特に優れており好ましく、ETFEはγ線滅菌への耐性が良く好ましい。
【0021】
内部の薬液がシリコーンオイルまたは硬化型シリコーンにより悪影響を受けない場合、公知のシリコーンオイルまたは硬化型シリコーンオイルをバレル内面またはガスケット表面に塗布しても良い。塗布することによって、より高い摺動性を得ることができる。
【0022】
本発明のガスケットは、密封式混練機、オープンロール混練機などを用いて、所定配合比で配合材料を混練した混練物を、カレンダーまたはシート成型機で未加硫ゴムシートを作製し、次に、一定重量およびサイズの未加硫ゴムシートと、必要に応じて不活性フィルムを重ねて金型に置き、真空プレスで成型することにより、ガスケットの成型シートを得ることができる。
【0023】
成型条件は特に限定されず、適宜設定すればよいが、成型温度は、好ましくは155〜200℃、より好ましくは165〜180℃であり、成型時間は、好ましくは1〜20分間、より好ましくは3〜15分間、さらに好ましくは5〜10分間である。
【0024】
この後、ガスケットの成型品から不要部分を、切断・除去した後、洗浄、滅菌、乾燥および外観検査を行ってガスケットの完成品を得る。
【実施例】
【0025】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0026】
実施例で使用した各種材料の内容を以下に示す。
未加硫ゴムシート:ハロゲン化ブチルゴム
架橋剤 :2−ジ−n−ブチルアミノ−4,6−ジメルカプト−s−トリアジン(三協化成株式会社製、ジスネットDB)
【0027】
実施例1〜2および比較例1
ガスケットの雌ねじ部谷径が、ガスケットの接液側から反対側にかけて漸次大きくなる実施例のガスケットと、谷径が同じ比較例のガスケットを作製した。未加硫ゴムシートを成型金型上に置き、真空プレスで、180℃で、8分間、処理圧力20MPaで成型し加硫接着させた。
ガスケットは最大部外径20.0mmであり、得られたガスケットの雌ねじ部の谷径および山径を表1に示した。なお、ねじ部の長さ(深さ)7.0mm、ピッチ数 25.4mmに対して17ピッチとした。
【0028】
<プランジャーロッドとの嵌合トルク測定>
ガスケットとプランジャーロッド(ポリプロピレン樹脂製、雄ねじ部山径12.6mm、谷径9.6mm)のねじ部を嵌合させる場合に必要なトルクの最大値をトルクレンチ(株式会社東日製作所製 BTG60CN)で測定した。嵌合はガスケットの接液側の反対面が、プランジャーロッドの頂点と接するまでねじ部の回転を行った。5組で試験を実施し、その平均値を表1に記載した。20N・cm以下を良好と評価した。
【0029】
<プランジャーロッドの引き抜き試験>
ガスケットとプランジャーロッドを上記条件にて嵌合を実施した後、オートグラフ(株式会社島津製作所製、AUTOGRAPH AG−1000D型)にてガスケットとプランジャーロッドの引き抜き力を測定した。試験はガスケットとプランジャーロッドを各々オートグラフにチャックし、移動速度500mm/分にて引抜を実施した。両者が引き抜かれるまで試験を実施し、最大の値を引き抜き力とした。5組で試験を実施し、その平均を記載した。40N以上を良好と評価した。
【0030】
【表1】
【0031】
ガスケットの雌ねじ部の谷径が、ガスケットの接液側から反対側にかけて漸次大きくなる実施例のガスケットでは、嵌合トルクが小さく、引き抜き試験結果が良好なガスケットが得られた。一方、ガスケットの雌ねじ部の谷径が、ガスケットの接液側とその反対側で同じ比較例のガスケットでは、引き抜き試験結果は実施例と同様に良好な結果が得られたが、嵌合に必要なトルクは実施例に比べて大きく、使用に不適であった。
【符号の説明】
【0032】
1 ガスケット
2 プランジャー
3 雌ねじ部
rt ガスケットの接液側の雌ねじ部谷径
lt ガスケットの接液側の雌ねじ部山径
図1
図2
図3