特許第6199618号(P6199618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6199618
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体、磁気記憶装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/738 20060101AFI20170911BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20170911BHJP
   G11B 5/64 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   G11B5/738
   G11B5/65
   G11B5/64
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-124791(P2013-124791)
(22)【出願日】2013年6月13日
(65)【公開番号】特開2014-220029(P2014-220029A)
(43)【公開日】2014年11月20日
【審査請求日】2016年3月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-84285(P2013-84285)
(32)【優先日】2013年4月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】張 磊
(72)【発明者】
【氏名】神邊 哲也
(72)【発明者】
【氏名】村上 雄二
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 和也
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−048792(JP,A)
【文献】 特開2004−326889(JP,A)
【文献】 特開2009−245484(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0235479(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/738
G11B 5/64
G11B 5/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板上に形成された複数の下地層と、
L1構造を有する合金を主成分とする磁性層と、を有し、
前記複数の下地層のうち少なくとも1層はWを含有する結晶質下地層であり、
前記Wを含有する結晶質下地層は、Wを主成分とし、かつ、Bを5mol%以上15mol%以下、または、Si、Cから選択される1種以上の元素を1mol%以上20mol%以下、または、酸化物を1vol%以上50vol%以下含有しており、
前記Wを含有する結晶質下地層と前記磁性層との間には、NaCl型構造を有する材料により構成されたバリア層が形成されていることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記酸化物は、B、SiO、Cr、Al、Ta、Nb、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、TiO、ZnO、La、NiO、FeO、CoOから選択される1種類以上であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体
【請求項3】
前記Wを含有する結晶質下地層が、Cr、Crを主成分としたBCC構造の合金、B2構造を有する合金から選択される1種以上の金属からなる配向制御下地層の上に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記NaCl型構造を有する材料が、MgO、TiO、NiO、TiN、TiC、TaN、HfN、NbN、ZrC、HfC、TaC、NbCから選択された1種類以上の化合物を含むことを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記磁性層は、L1構造を有するFePt合金、もしくはCoPt合金を主成分とし、かつ、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO、B、C、B、BNから選択される1種類以上の物質を含有していることを特徴とする請求項1乃至4いずれか一項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか一項に記載の磁気記録媒体を有する磁気記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体、磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスクドライブHDDに対する大容量化の要求が益々強まっている。この要求を満たす手段として、レーザー光源を搭載した磁気ヘッドで磁気記録媒体を加熱して記録を行う熱アシスト磁気記録方式が提案されている。
【0003】
熱アシスト磁気記録方式では、磁気記録媒体を加熱することによって保磁力を大幅に低減できるため、磁気記録媒体の磁性層に結晶磁気異方定数Kuの高い材料を用いることができる。このため、熱安定性を維持したまま磁性粒径の微細化が可能となり、1Tbit/inch級の面密度を達成できる。高Ku磁性材料としては、L1型FePt合金、L1型CoPt合金、L1型CoPt合金等の規則合金等が提案されている。
【0004】
また、磁性層には、上記規則合金からなる結晶粒を分断するため、粒界相材料としてSiO、TiO等の酸化物、もしくはC、BN等が添加されている。磁性結晶粒が粒界相で分離されたグラニュラー構造とすることにより、磁性粒子間の交換結合を低減でき、高い媒体SN比を実現できる。
【0005】
非特許文献1には、FePtに38%のSiOを添加することにより、磁性粒径を5nmまで低減できることが記載されている。さらに、同文献には、SiOの添加量を更に50%にまで増やすことにより、粒径を2.9nmまで低減できることが記載されている。
【0006】
また、高い垂直磁気異方性を有する熱アシスト磁気記録媒体を得るには、磁性層中のL1型規則合金に良好な(001)配向をとらせることが好ましい。磁性層の配向は、下地層によって制御できるため、これを実現するためには適切な下地層を用いる必要がある。
【0007】
下地層に関して、例えば、特許文献1にはMgO下地層を用いることによって、L1型FePt磁性層が良好な(001)配向を示すことが示されている。
【0008】
また、特許文献2には、Cr−Ti−B合金等のBCC構造を有する結晶粒径制御層上に、結晶配向性制御兼低熱伝導中間層であるMgO層を形成することによって、L1型FePt磁性層が更に良好な(001)配向を示すことが記載されている。
【0009】
特許文献3の実施例2.3には下地層としてW−5at%Mo/Crを用いた例が開示されている。
【0010】
また、次世代の記録方式として注目されている他の技術として、マイクロ波アシスト磁気記録方式がある。マイクロ波アシスト磁気記録方式は、磁気記録媒体の磁性層にマイクロ波を照射して磁化方向を磁化容易軸から傾けて、磁性層の磁化を局所的に反転させて磁気情報を記録する方式である。
【0011】
マイクロ波アシスト磁気記録方式においても、熱アシスト磁気記録方式と同様に、磁性層の材料として、L1型結晶構造を有する合金からなる高Ku材料を用いることができる。このため、熱安定性を維持したまま磁性粒径の微細化が可能である。
【0012】
ところで、上記熱アシスト磁気記録方式や、マイクロ波アシスト磁気記録方式の磁気記録媒体を用いた磁気記憶装置において、さらに、高い媒体SN比を実現するため、磁気記録媒体において磁性結晶粒を微細化すると同時に、磁性結晶粒間の交換結合を十分に低減することが求められている。これを実現する方法としては、上述のように磁性層にSiOやC等の粒界相材料を添加することが有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−353648号公報
【特許文献2】特開2009−158054号公報
【特許文献3】特開2012−48792号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】J.Appl.Phys.104,023904(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、磁気記憶装置とした際に十分な媒体SN比とするために粒界相材料を多量に添加すると、磁性層に含まれるL1構造を有する合金の結晶粒(以下、「磁性層結晶粒」ともいう)、例えば、FePt合金結晶粒の規則度が劣化し、Kuが低下するという問題があった。
【0016】
本発明は、上記従来技術が有する問題に鑑み、磁性層に含まれるL1構造を有する合金結晶粒の規則度を低下させることなく、磁気記憶装置とした場合に媒体SN比を高めることができる磁気記録媒体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、基板と、
該基板上に形成された複数の下地層と、
L1構造を有する合金を主成分とする磁性層と、を有し、
前記複数の下地層のうち少なくとも1層はWを含有する結晶質下地層であり、
前記Wを含有する結晶質下地層は、Wを主成分とし、かつ、Bを5mol%以上15mol%以下、または、Si、Cから選択される1種以上の元素を1mol%以上20mol%以下、または、酸化物を1vol%以上50vol%以下含有しており、
前記Wを含有する結晶質下地層と前記磁性層との間には、NaCl型構造を有する材料により構成されたバリア層が形成されていることを特徴とする磁気記録媒体を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、磁性層に含まれるL1構造を有する合金結晶粒の規則度を低下させることなく、磁気記憶装置とした場合に媒体SN比を高めることができる磁気記録媒体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第2の実施形態における磁気記録装置の構成図。
図2】本発明の第2の実施形態における磁気ヘッドの構成図。
図3】実験例1で作製した磁気記録媒体の層構成の断面模式図。
図4】実験例2で作製した磁気記録媒体の層構成の断面模式図。
図5】実験例5で作製した磁気記録媒体の層構成の断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[第1の実施態様]
本実施形態においては、本発明の磁気記録媒体の構成例について説明する。
【0021】
本実施形態の磁気記録媒体は、基板と、該基板上に形成された複数の下地層と、L1構造を有する合金を主成分とする磁性層と、を有する。そして、複数の下地層のうち少なくとも1層はWを含有する結晶質下地層である。
【0022】
また、Wを含有する結晶質下地層は、Wを主成分としており、さらに、B、Si、Cから選択される1種以上の元素を1mol%以上20mol%以下、または、酸化物を1vol%以上50vol%以下含有している。
【0023】
そしてさらに、Wを含有する結晶質下地層と前記磁性層との間には、NaCl型構造を有する材料により構成されたバリア層が形成されている。
【0024】
まず、上述のように本実施形態の磁気記録媒体は、基板と、基板上に形成された複数の下地層と、磁性層と、を有している。
【0025】
ここで、基板については特に限定されるものではなく、磁気記録媒体用途で用いられている各種基板を用いることができる。
【0026】
そして、該基板上には複数の下地層が形成されており、複数の下地層のうち少なくとも1層はW(タングステン)を含有する結晶質下地層となっている。
【0027】
Wを含有する結晶質下地層は、Wを主成分としている。そしてさらに、上述のB、Si、Cから選択される1種以上の元素、または、酸化物を含有している。ここでの酸化物とは、特に限定されるものではないが、B、SiO、Cr、Al、Ta、Nb、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、TiO、ZnO、La、NiO、FeO、CoOから選択された1種以上であることが好ましい。
【0028】
Wを含有する結晶質下地層が、B、Si、Cから選択される1種類以上の元素を含有している場合、B、Si、Cから選択される1種類以上の元素の含有量(添加量)は1mol%以上20mol%以下であることが好ましい。これは、20mol%を超えると下地層の(100)面への配向性が低下する場合があり、好ましくないためである。また、B、Si、Cから選択される1種類以上の元素の含有量が1mol%未満では、十分に効果を発揮できない場合があるため、含有量が上記範囲内にあることが好ましい。特にB、Si、Cから選択される1種類以上の元素の含有量(添加量)は5mol%以上15mol%以下であることがより好ましい。
【0029】
また、Wを含有する結晶質下地層が酸化物を含有している場合、酸化物の含有量は1vol%以上50vol%以下であることが好ましく、10vol%以上50vol%以下であることがより好ましい。
【0030】
これは、上記酸化物または酸化物の含有量が50vol%を超えると下地層の(100)面への配向性が低下する場合があり、好ましくないためである。また、上記酸化物の含有量が1vol%未満の場合、十分に効果を発揮できない場合があるため、含有量が上記範囲内にあることが好ましい。
【0031】
Wを含有する結晶質下地層が酸化物を含有する場合、酸化物の体積含有量(vol%)は、Wを含有する結晶質下地層に含まれる物質それぞれのモル濃度(mol%)、密度r(g/cc)、分子量M(g/mol)から計算することができる。物質の密度、分子量は例えば“CRC Handbook of Chemistry and Physics”に記載されているデータを使用することにより求めることができる。W(タングステン)に酸化物Aを添加する場合、酸化物Aの体積含有量(vol%)の計算式は以下の式1で表わされる。式中、Wのモル濃度、密度、分子量をそれぞれ、C、ρ、Mとして示している。また、酸化物Aのモル濃度、密度、分子量をそれぞれ、C、ρ、Mとして示している。
【0032】
(酸化物Aの体積含有量)=ρ・C・M/(Cρ+Cρ)・・・式(1)
W(タングステン)に10mol%のCrを添加する場合を例に、上記式(1)によりCrのvol%を計算すると、25.4vol%である。EDS(エネルギー分散型X線分析)で確認された10mol%のCrを含有する、Wを含有する結晶質下地層について平面TEM観察を行ったところ、約24vol%のCrを含有することが確認され、理論的計算値がほぼ同じであることが確認できた。
【0033】
L1構造のFePt合金等の結晶粒を含有する磁性層は、下地層上に形成されるが、下地層の結晶粒径が大きい場合、一つの結晶粒の上に複数のL1構造を有する合金の結晶粒が成長することになる。このため、従来は磁性層に含まれるL1構造を有する合金の個々の結晶粒の粒径が不均一となり、粒径分散が大きくなるという問題があった。これに対して、本実施形態の磁気記録媒体においては、Wを含有する結晶質下地層を設けることにより、下地層の粒径を微細化できる。下地層の粒径を微細化することによって、一つの下地層結晶粒の上に一つの磁性層結晶粒が成長する“One to one成長”が促進される。これにより、磁性層に含まれるL1構造を有する合金の結晶粒の粒径の均一化を図ることを可能とした。すなわち、磁性層に含まれるL1構造を有する合金結晶粒の粒径分散の低減を可能とした。そして、同時に、磁気記憶装置とした場合に媒体SN比を向上させることが可能になる。本実施形態の磁気記録媒体においては係る下地層を設けることにより、さらに、保磁力分散も低減でき、磁性層結晶粒間の分離が促進され、交換結合を低減できる。また、反転磁界分散(SFD:Switching Field Distribution)を低減できる。
ここで、Wを含有する結晶質下地層におけるWの含有量としては特に限定されるものではないがWが主成分となるように添加されていることが好ましく、具体的には、B、Si、C元素、または、酸化物を除いた、W化合物、または、Wに他の元素がドープされた物質において最も含有量の多い元素をWとすることが好ましい。特に、B、Si、C、または、酸化物を除いたW化合物においてWの含有量は30at%以上であることが好ましく、90at%以上であることがより好ましい。なお、Wは単体の状態で含まれている必要はなく、前述のように他の元素がドープされた状態であってもよく、化合物の状態であっても良い。
【0034】
また、磁気記録媒体の性能を安定させるため、複数の下地層の間における格子ミスフィットは10%以下であることが好ましい。格子ミスフィット調整のため、Wを含有する結晶質下地層は、さらに、Cr、Ti、Ta、Nb、Vから選択される1種類以上の元素を含有することができる。Cr、Ti、Ta、Nb、Vから選択される1種類以上の元素を含有する場合、含有量については特に限定されるものではなく、上記格子ミスフィットを制御できるようにその添加量を選択することができる。
【0035】
上記Wを含有する結晶質下地層の配向をより確実に(100)配向とするため、Wを含有する結晶質下地層の下に配向制御下地層を形成することが好ましい。配向制御下地層の材料としては特に限定されるものではないが、例えばCr(Cr金属)、Crを主成分としたBCC構造の合金、及び、B2構造を有する合金から選択された1種以上の金属を用いることができる。そして、この場合、Wを含有する結晶質下地層は、Cr、Crを主成分としたBCC構造の合金、及び、B2構造を有する合金から選択された1種以上の金属からなる配向制御下地層の上に形成することが好ましい。
【0036】
Crを主成分としたBCC構造の合金としては、CrMn、CrMo、CrW、CrV、CrTi、CrRu等が挙げられる。また、配向制御下地層としてCr、もしくはCrを主成分としたBCC構造の合金に、更にB、Si、C等を添加すれば、Wを含有する結晶質下地層の結晶粒子サイズ、分散度等をより改善することができる。但し、添加する場合、配向制御下地層自体の(100)配向性が劣化しない範囲で添加することが望ましい。
【0037】
また、B2構造を有する合金としては例えば、RuAl、NiAl等が挙げられる。
【0038】
次に磁性層について説明する。
【0039】
磁性層の材料としては特に限定されるものではないが、高い結晶磁気異方定数Kuを有することから、L1構造を有する合金を主成分とするものを好ましく用いることができる。このようなL1構造を有する合金としては、例えば、FePt合金やCoPt合金等が挙げられる。
【0040】
上述のように磁性層形成時に磁性層の規則化を促進するため加熱処理を行うことが好ましいが、この際の加熱温度(規則化温度)を低減するため、L1構造を有する合金に、Ag、Au、Cu、Ni等を添加してもよい。これらの成分を添加することにより、磁性層形成時の加熱温度(基板温度)を400〜500℃程度まで低減することができる。
【0041】
また、磁性層中において、L1構造を有する合金の結晶粒は磁気的に孤立していることが好ましい。このため、磁性層は、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO、B、C、B、BNから選択される1種類以上の物質を含有していることが好ましい。これにより、結晶粒間の交換結合をより確実に分断し、媒体SN比をより高めることができる。
【0042】
そして、L1構造を有する磁性層の規則化を促進するため、本実施形態の磁気記録媒体の製造する際の磁性層形成時に600℃程度の加熱を行うことが好ましい。この際に、下地層と磁性層との間の界面拡散を抑制するため、Wを含有する結晶質下地層と磁性層との間に、NaCl型構造を有する材料により構成されたバリア層が形成されていることが好ましい。
【0043】
この際、NaCl型構造を有する材料は特に限定されるものではないが、MgO、TiO、NiO、TiN、TiC、TaN、HfN、NbN、ZrC、HfC、TaC、NbCから選択された1種類以上の化合物を含むことが好ましい。
【0044】
以上に本実施形態の磁気記録媒体の構成例について説明したが、本実施形態の磁気記録媒体は更に任意の各種部材を設けることができ、例えば、以下の部材を備えた構成とすることもできる。
【0045】
例えば、磁性層上には、DLC保護膜を形成することが望ましい。
【0046】
DLC保護膜の製造方法は特に限定されるものではない。例えば炭化水素からなる原料ガスを高周波プラズマで分解して膜を形成するRF−CVD法、フィラメントから放出された電子で原料ガスをイオン化して膜を形成するIBD法、原料ガスを用いずに固体Cタ−ゲットを用いて膜を形成するFCVA法等により形成できる。
【0047】
DLC保護膜の膜厚についても特に限定されるものではないが、例えば、1nm以上6nm以下とすることが好ましい。これは、1nmを下回ると磁気ヘッドの浮上特性が劣化する場合があり好ましくないためである。また、6nmを上回ると磁気スペ−シングが大きくなり、媒体SN比が低下する場合があり好ましくないためである。
【0048】
DLC保護膜上には、さらにパーフルオロポリエーテル系のフッ素樹脂からなる潤滑剤を塗布することもできる。
【0049】
また、磁性層の速やかな冷却を行うため、ヒ−トシンク層を形成することが好ましい。ヒ−トシンク層には、Ag、Cu、Al、Au等の熱伝導率の高い金属や、Ag、Cu、Al、Au等の熱伝導率の高い金属を主成分とした合金を用いることができる。例えば熱アシスト磁気記録方式では、磁気記録媒体の磁性層は、レーザーによる加熱後、速やかに冷却され、加熱スポットの拡がりを抑制することが好ましい。このためヒートシンク層を設けることにより、磁化遷移領域の幅が低減され、媒体ノイズを低減でき、好ましい。ヒートシンク層を設ける場所については特に限定されるものではないが、例えば配向制御下地層の下に、もしくは配向制御下地層とバリア層の間に形成することが好ましい。
【0050】
また、書込み特性を改善するため、軟磁性下地層を形成してもよい。軟磁性下地層の材料としては特に限定されるものではないが、例えばCoTaZr、CoFeTaB、CoFeTaSi、CoFeTaZr等の非晶質合金、FeTaC、FeTaN等の微結晶合金、NiFe等の多結晶合金を用いることができる。軟磁性下地層は、上記合金からなる単層膜でもよいし、適切な膜厚のRu層を挟んで反強磁性結合した積層膜でもよい。
【0051】
また、上述した層以外にも、シード層や、接着層等を必要に応じて任意に設けることができる。
【0052】
以上、説明してきた本実施形態の磁気記録媒体は、熱アシスト磁気記録方式や、マイクロ波アシスト磁気記録方式の磁気記録媒体として好ましく用いることができる。
【0053】
以上、本実施形態の磁気記録媒体によれば、所定の下地層上に磁性層を形成することにより、磁性層に含まれるL1構造を有する合金結晶粒の規則度を低下させることなく、磁気記憶装置とした場合に媒体SN比を高めることができる。
[第2の実施形態]
本実施形態では、本発明の磁気記憶装置の構成例について説明する。なお、本実施形態では熱アシスト磁気記録方式による磁気記憶装置の構成例について説明するが、係る形態に限定されるものではなく、第1の実施形態で説明した磁気記録媒体を有する、マイクロ波アシスト磁気記録方式による磁気記憶装置とすることもできる。
【0054】
本実施形態の磁気記憶装置は、第1の実施形態で説明した磁気記録媒体を有する磁気記憶装置とすることができる。
【0055】
磁気記憶装置においては例えば、さらに、磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部と、先端部に近接場光発生素子を備えた磁気ヘッドとを有する構成とすることができる。また、磁気記録媒体を加熱するためのレーザー発生部と、レーザー発生部から発生したレーザー光を近接場光発生素子まで導く導波路と、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部と、記録再生信号処理系と、を有することができる。
【0056】
磁気記憶装置の具体的な構成例を図1に示す。
【0057】
例えば本実施形態の磁気記憶装置は図1に示す構成とすることができる。具体的には、磁気記録媒体100と、磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部101と、磁気ヘッド102と、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部103と、記録再生信号処理系104等から構成できる。
【0058】
そして、磁気ヘッド102として、例えば図2に示した記録用磁気ヘッドを用いることができる。係る磁気ヘッドは、記録ヘッド208、再生ヘッド211を備えている。記録ヘッド208は、主磁極201、補助磁極202、磁界を発生させるためのコイル203、レーザー発生部となるレーザーダイオード(LD)204、LDから発生したレーザー光205を近接場光発生素子206まで伝達するための導波路207を有する。再生ヘッド211はシールド209で挟まれた再生素子210を有する。
【0059】
そして、磁気記録媒体100として、上述のように第1の実施形態で説明した磁気記録媒体を用いている。このため、所定の下地層上に磁性層を形成することにより、磁性層に含まれるL1構造を有する合金結晶粒の規則度を低下させることなく、磁気記憶装置とした場合に媒体SN比を高めることができる。また、オーバーライト特性(重ね書き特性)が良好な磁気記録装置とすることができる。
【実施例】
【0060】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない
[実験例1]
(実施例1−1〜1−13、比較例1−1〜1−2)
本実験例では、実施例1−1〜1−13、比較例1−1、1−2の試料を作製し、その評価を行った。
【0061】
図3に本実験例で作製した磁気記録媒体の層構成の断面模式図を示す。以下にその製造工程について説明する。
【0062】
本実験例では、2.5インチガラス基板301上に、シ−ド層302として膜厚25nmのNi−35at%Ta層を形成し、300℃の基板加熱を行った。
【0063】
配向制御下地層303として膜厚20nmのRu−50at%Alを形成した。
【0064】
次いでWを含有する結晶質下地層304を膜厚が15nmになるように形成した。
【0065】
さらに、バリア層305として膜厚2nmのMgO層を形成した。
【0066】
その後、580℃の基板加熱を行い、8nmの(Fe−46at%Pt)−15mol%SiO磁性層306を形成し、さらに膜厚3nmのDLC保護膜307を形成した。
【0067】
Wを含有する結晶質下地層304は表1に示したように、各実施例により組成の異なる層を形成している。実施例1−1ではW−8mol%B層を、実施例1−2ではW−8mol%Si層を、実施例1−3ではW−8mol%C層を、実施例1−4ではW−8mol%B層を、実施例1−5ではW−8mol%SiO層を、実施例1−6ではW−10mol%CeO層を、実施例1−7ではW−16mol%TiO層を、実施例1−8ではW−10mol%ZrO層を、実施例1−9ではW−10mol%Al層を、実施例1−10ではW−5mol%Y層を、実施例1−11ではW−18mol%NiO層を、実施例1−12では(W−20at%Ta)−5mol%Ta層を、実施例1−13では(W−20at%Cr)−8mol%Cr層をそれぞれ形成した。
【0068】
また、比較例1−1、1−2では、B、Si、C、または、酸化物を添加していない、W層、W−20at%Ta層をそれぞれ形成した媒体を作製した。
【0069】
本実験例で作製した試料(媒体)のX線回折測定を行ったところ、配向制御下地層303のRu−50at%Alからは、(100)面の回折ピ−クと弱い(200)面の回折ピ−クが観察された。
【0070】
Wを含有する結晶質下地層304からは(200)面の回折ピ−クのみが観察された。
【0071】
磁性層306からは、L1−FePtの(001)面の回折ピ−ク、及び、L1−FePtの(002)面の回折ピ−クとFCC−FePtの(200)面の回折ピ−クの混合ピ−クが観察された。
【0072】
バリア層305は2nmと薄いため、明瞭な回折ピ−クはみられなかったが、磁性層306が上記配向をとっていることから、(100)配向をとっていると考えられる。
【0073】
また、シ−ド層302からは明瞭な回折ピ−クはみられなかったことから、該シ−ド層は非晶質構造であることがわかる。
【0074】
表1に、L1−FePtの(002)面の回折ピ−クとFCC−FePtの(200)面の回折ピ−クの混合ピ−ク強度(I002+I200)に対する、L1−FePtの(001)面の回折ピ−ク強度I001の比率I001/(I002+I200)を表わす。また、保磁力Hcと規格化した保磁力分散ΔHc/Hcを示す。
【0075】
ここで、HcはSUQID(超伝導量子干渉素子)により、7Tの磁界を印加して室温で測定した磁化曲線から求めた。また、ΔHc/Hcは、「IEEE Trans. Magn., vol.27, pp4975−4977, 1991」に記載の方法で測定した。具体的には、7Tの最大磁界を印加して室温で測定したメジャーループ、及びマイナーループにおいて、磁化の値が飽和値の50%となるときの磁界を測定し、両者の差分から、Hc分布がガウス分布であると仮定してΔHc/Hcを算出した。ΔHc/Hcは、反転磁界分散に相当するパラメ−タ−であり、この値が低いほど、磁気記憶装置とした際に高い媒体SN比が得られることを示しており好ましい。
【0076】
【表1】
表1の結果によると、本実験例のうち実施例1−1〜1−13の試料においてはいずれもHcが38kOe以上を示しており、比較例1−1、1−2の試料(媒体)より、6kOe以上高くなっていることが確認できた。
【0077】
また、ΔHc/Hcについては、実施例1−1〜1−13の試料についてはいずれも0.3以下を示し、比較例1−1、1−2の媒体より低くなっていることが確認できた。
【0078】
また、本実施例1−1〜1−13の試料と比較例1−1、1−2の試料のI001/(I002+I200)はいずれも2.1以上の高い値を示していたことから、磁性層中のL1−FePt合金の規則度が良好であることが分かる。
【0079】
以上の結果から、Wを含有する結晶質下地層にB、Si、C、または酸化物を添加することにより、磁性層中のL1構造を有する合金結晶粒の規則度を維持できることが確認できた。また、磁性層のL1−FePt合金の分散度を大幅に改善し、反転磁界分散を低減できることも確認できた。
[実験例2]
(実施例2−1〜2−12、比較例2−1)
図4に本実験例で作製した磁気記録媒体の断面模式図を示す。
【0080】
2.5インチガラス基板401上に、シード層402として、膜厚25nmのCr−50at%Ti層を形成し、300℃の基板加熱を行った。
【0081】
配向制御下地層403として膜厚20nmのCr−5at%Mnを形成した。
【0082】
Wを含有する結晶質下地層404として、膜厚20nmのW−8mol%SiO層を形成した。
【0083】
さらに、バリア層405として膜厚2nmの層を形成した。バリア層405は、各実施例により組成の異なる層を形成している。具体的には表2に示したように、実施例2−1はMgO層を、実施例2−2はTiO層を、実施例2−3はNiO層を、実施例2−4はTiN層を、実施例2−5はTiC、実施例2−6はTaN層を、実施例2−7はHfN層を、実施例2−8はNbN層を、実施例2−9はZrC層を、実施例2−10はHfC層を、実施例2−11はNbCを、実施例2−12はTaC層を形成した。また、比較例2−1としてバリア層を設けない試料も作製した。
【0084】
その後、600℃の基板加熱を行い、磁性層406として膜厚10nmの(Fe−45at%Pt)−12mol%SiO−6mol%BN層を形成した。さらに、DLC保護膜407として、膜厚3nmの層を形成した。
【0085】
【表2】
実験例1の場合と同様に保磁力Hcと保磁力分散ΔHc/Hcを測定した結果を表2に示す。
【0086】
表2の結果によると、本実験例のうち実施例2−1〜2−12の試料においては、いずれもHcが38kOe以上の高いHcと、0.3以下の低いΔHc/Hcを示した。
【0087】
また、実施例の試料の中でも特にバリア層405としてMgO層、TiN層、TaC層を形成した実施例2−1、実施例2−4、実施例2−12の試料においては、Hcが40kOe以上と特に高くなっていることが確認された。
【0088】
一方、バリア層405を形成しなかった比較例2−1の試料において、Hcは20kOe以下と低く、ΔHc/Hcは0.38と高くなっていることが確認された。これは、L1構造を有する磁性層の規則化の促進を目的として、磁性層を形成する際に基板を600℃に加熱しているが、この際に下地層と磁性層との間で界面拡散が生じ、磁性層が十分な性能を発揮できなかったためと考えられる、
以上の結果から、規則度が良好なL1型構造を有する合金を主成分とする磁性層を形成するため基板加熱を行う際に、下地層と磁性層との間での界面拡散を抑制するため、下地層と磁性層の間に、NaCl型構造を有する材料により構成されたバリア層を設けることが好ましいことが確認できた。
[実験例3]
(実施例3−1〜3−6、比較例3−1)
表3に示すように、Wを含有する結晶質下地層404として、0.5〜26.5mol%のSiOを添加した(W−20at%Ta)−SiO層を形成した点以外は実施例2−12と同一膜構造の磁気記録媒体を作製した。
【0089】
また、比較例3−1は、Wを含有する結晶質下地層404として、SiOを添加しないW−20at%Ta層を形成した試料(媒体)を作製した。
【0090】
なお、実施例、比較例において、Wを含有する結晶質下地層の組成以外の層構成、成膜プロセスは、実験例2と同様にして行った。
【0091】
表3に実施例3−1〜3−6および比較例3−1において得られた試料についての、保磁力Hcの測定結果を示す。
【0092】
【表3】
表3の結果によると、実施例3−1〜3−6においては、いずれもHcが35kOe以上になっていることが確認され、SiOを添加していない比較例3−1の試料と比較して性能が向上していることが確認できた。この結果から、Wを含有する結晶質下地層において、Wに上述したSiOを添加する場合、その添加量は0.5mol%以上26.5mol%以下とすることが好ましいことが分かる。
【0093】
また特に、Wを含有する結晶質下地層において、SiOの添加量が5〜20mol%の試料(実施例3−2〜実施例3−6)のHcは39kOe以上と高くなっていることが確認された。
【0094】
そして、SiOの添加量が1mol%である実施例3−1の試料と、SiOの添加量が26.5mol%である実施例3−6の試料においては、上述のように、比較例3−1の試料と比較してその添加効果を確認することができた。しかし、Hcが35kOe程度であり、他の実施例の試料よりも性能が若干劣ることが確認された。これは、SiOの添加量が0.5mol%の場合、Wを含有する結晶質下地層の粒径の微細化が十分ではなく、磁性層のL1−FePt合金粒子間の分離に対して十分な効果が得られていないためと考えられる。また、SiOを26.5mol%と過剰に添加した場合、Wを含有する結晶質下地層の(100)面への配向性が低下したためと考えられる。
【0095】
以上の結果より、Wを含有する結晶質下地層へSiOを添加する場合、その添加量は0.5mol%以上26.5mol%以下とすることが好ましく、0.5mol%より多く26.5mol%未満とすることがより好ましいことが分かる。また、表3に示す添加酸化物vol%の場合、SiOの添加量は1vol%以上50vol%以下とすることが好ましく、1vol%%より多く50vol%未満とすることがより好ましいことが分かる。
【0096】
また、本実験例ではSiOを例に検討したが、SiO以外の酸化物についても同様の働きを有すると考えられることから、これらの化合物を添加する場合でも同様の添加量1vol%以上50vol%以下とすることが好ましい。
[実験例4]
参考例4−1、実施例4−〜4−4、参考例4−5、比較例4−1)
表4に示すように、Wを含有する結晶質下地層404として、1〜20mol%のBを添加したW−B層を形成した点以外は実施例2−1と同一膜構造の磁気記録媒体を作製した。
【0097】
また、比較例4−1として、Wを含有する結晶質下地層404として、Bを添加しないW層を形成した試料(媒体)を作製した。
【0098】
なお、実施例、参考例、比較例において、Wを含有する結晶質下地層の組成以外の層構成、成膜プロセスは、実験例2と同様にして行った。
【0099】
表4に参考例4−1、実施例4−〜4−4、参考例4−5および比較例4−1において得られた試料についての、保磁力Hcの測定結果を示す。
【0100】
【表4】
表4の結果によると、参考例4−1、実施例4−〜4−4、参考例4−5においては、いずれもHcが35kOe以上になっていることが確認され、Bを添加していない比較例4−1の試料と比較して性能が向上していることが確認できた。この結果から、Wを含有する結晶質下地層において、WにBを添加する場合、その添加量は1mol%以上20mol%以下とすることが好ましいことが分かる。
【0101】
特に、Wを含有する結晶質下地層において、Bの添加量が5〜15mol%の試料(実施例4−2〜4−4)のHcは39kOe以上と高くなっていることが確認された
Bの添加量が1mol%である参考例4−1の試料と、Bの添加量が20mol%である参考例4−の試料においては、上述のように、比較例4−1の試料と比較してその添加効果を確認することができた。しかし、他の実施例の試料よりも性能が若干劣ることが確認された。これは、Bの添加量が1mol%の場合、Wを含有する結晶質下地層の粒径の微細化が十分ではなく、磁性層のL1−FePt合金粒子間の分離に対して十分な効果が得られていないためと考えられる。また、Bを20mol%と過剰に添加した場合、Wを含有する結晶質下地層の(100)面への配向性が低下したためと考えられる。
【0102】
以上の結果より、Wを含有する結晶質下地層へBを添加する場合、その添加量は1mol%以上20mol%以下とすることが好ましく、その添加量は1mol%より多く20mol%未満とすることがより好ましいことが分かる。
【0103】
なお、ここでは、Bを例に検討したが、B以外の上記元素(Si、C)についても同様の働きを有すると考えられる。このため、B、Si、Cから選択される1種以上の元素を添加する場合でも同様の添加量、すなわち、1mol%以上20mol%以下とすることが好ましく、1mol%より多く20mol%未満とすることがより好ましい。
[実験例5]
(実施例5−1〜5−11、比較例5−1〜5−2)
図5に本実験例で作製した磁気記録媒体の層構成の断面模式図を示す。
【0104】
2.5インチガラス基板501上に、接着層502として膜厚が10nmのCr−50at%Ti層を形成し、さらに、ヒートシンク層503として、膜厚50nmのCu−0.5at%Zr層を形成した。そして、シード層504として、膜厚10nmのCr−50at%Ti層を形成し、300℃の基板加熱を行った。
【0105】
その後、配向制御下地層505として膜厚10nmのCr−10at%Ruを形成した。
【0106】
Wを含有する結晶質下地層506として、膜厚15nmの層を形成し、バリア層507として膜厚2nmのMgO層を形成した。
【0107】
その後、600℃の基板加熱を行い、磁性層508として膜厚8nmの(Fe−46at%Pt)−30mol%C層を形成した。さらに、DLC保護膜509として、膜厚3nmの層を形成した。
【0108】
Wを含有する結晶質下地層506は、各実施例により組成の異なる層を形成している。具体的には表5に示したように、実施例5−1はW−8mol%B層を、実施例5−2はW−8mol%Si層を、実施例5−3は(W−15at%Ti)−11mol%TiO層を、実施例5−4はW−8mol%SiO層を、実施例5−5は(W−10at%Ta)−10mol%ZrO層を、実施例5−6はW−4mol%Nb、実施例5−7はW−4.5mol%La、実施例5−8はW−17mol%CoO、実施例5−9はW−16mol%FeO、実施例5−10は(W−15at%Cr)−16mol%MnO、実施例5−11はW−14mol%ZnO層をそれぞれ形成した試料をそれぞれ作製した。また、比較例5−1ではWを含有する結晶質下地層としてWのみでB、Si、C、または、酸化物添加していない層を、比較例5−2として、W−20at%Ta層を形成した試料をそれぞれ作製した。
【0109】
そして、得られた実施例、比較例の磁気記録媒体の表面にパーフルオルエーテル系の潤滑剤を塗布し、図1に示した磁気記憶装置に組み込んだ。
【0110】
本磁気記憶装置は、既述のように磁気記録媒体100と、磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部101と、磁気ヘッド102と、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部103と、記録再生信号処理系104から構成される。
【0111】
そして、磁気ヘッド102として、図2に示した記録用磁気ヘッドを用いてオーバーライト特性(OW特性)を評価した。本実験例で使用した磁気ヘッドは、記録ヘッド208、再生ヘッド211を備えている。記録ヘッド208は、主磁極201、補助磁極202、磁界を発生させるためのコイル203、レーザーダイオード(LD)204、LDから発生したレーザー光205を近接場光発生素子206まで伝達するための導波路207を有する。再生ヘッド211はシールド209で挟まれた再生素子210を有する。
【0112】
近接場光発生素子から発生した近接場光により磁気記録媒体212を加熱し、媒体の保磁力をヘッド磁界以下まで低下させて記録できる。
【0113】
表5に、上記ヘッドを用いて線記録密度1500kFCIのオールワンパターン信号を記録して測定した媒体SN比と、オーバーライト特性(表5中では「OW」と記載)を示す。ここで、レーザーダイオードに投入するパワーは、トラックプロファイルの半値幅と定義したトラック幅MWWが60nmとなるよう調整した。
【0114】
【表5】
本実施例5−1〜5−11はいずれも15dB以上の高い媒体SN比と、30dB以上の高いオーバーライト特性を示した。特に、Wを含有する結晶質下地層にW−8mol%Siを使用した実施例5−2、W−8mol%SiOを使用した実施例5−4、及びW−17mol%CoOを試料した実施例5−8は16dB以上と、特に高い媒体SN比を示した。
【0115】
これに対し、Wを含有する結晶質下地層として、W層を形成した比較例5−1、W−20at%Ta層を形成した比較例5−2における媒体SN比とオーバーライト特性は、実施例と比較して著しく低くなった。
【0116】
以上より、Wを含有する結晶質下地層として、Wを含有し、かつ、B、Si、C、または、酸化物を含有した層を形成した磁気記録媒体を用いることにより、媒体SN比が高く、かつ、オーバーライト特性が良好な磁気記憶装置が得られることがわかった。
【符号の説明】
【0117】
100、212 磁気記録媒体
101 磁気記録媒体駆動部
102 磁気ヘッド
103 磁気ヘッド駆動部
104 記録再生信号処理系
301、401、501 基板(ガラス基板)
304、404、506 Wを含有する結晶質下地層
305、405、507 バリア層
306、406、508 磁性層
図1
図2
図3
図4
図5