【実施例】
【0060】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない
[実験例1]
(実施例1−1〜1−13、比較例1−1〜1−2)
本実験例では、実施例1−1〜1−13、比較例1−1、1−2の試料を作製し、その評価を行った。
【0061】
図3に本実験例で作製した磁気記録媒体の層構成の断面模式図を示す。以下にその製造工程について説明する。
【0062】
本実験例では、2.5インチガラス基板301上に、シ−ド層302として膜厚25nmのNi−35at%Ta層を形成し、300℃の基板加熱を行った。
【0063】
配向制御下地層303として膜厚20nmのRu−50at%Alを形成した。
【0064】
次いでWを含有する結晶質下地層304を膜厚が15nmになるように形成した。
【0065】
さらに、バリア層305として膜厚2nmのMgO層を形成した。
【0066】
その後、580℃の基板加熱を行い、8nmの(Fe−46at%Pt)−15mol%SiO
2磁性層306を形成し、さらに膜厚3nmのDLC保護膜307を形成した。
【0067】
Wを含有する結晶質下地層304は表1に示したように、各実施例により組成の異なる層を形成している。実施例1−1ではW−8mol%B層を、実施例1−2ではW−8mol%Si層を、実施例1−3ではW−8mol%C層を、実施例1−4ではW−8mol%B
2O
3層を、実施例1−5ではW−8mol%SiO
2層を、実施例1−6ではW−10mol%CeO
2層を、実施例1−7ではW−16mol%TiO層を、実施例1−8ではW−10mol%ZrO
2層を、実施例1−9ではW−10mol%Al
2O
3層を、実施例1−10ではW−5mol%Y
2O
3層を、実施例1−11ではW−18mol%NiO層を、実施例1−12では(W−20at%Ta)−5mol%Ta
2O
5層を、実施例1−13では(W−20at%Cr)−8mol%Cr
2O
3層をそれぞれ形成した。
【0068】
また、比較例1−1、1−2では、B、Si、C、または、酸化物を添加していない、W層、W−20at%Ta層をそれぞれ形成した媒体を作製した。
【0069】
本実験例で作製した試料(媒体)のX線回折測定を行ったところ、配向制御下地層303のRu−50at%Alからは、(100)面の回折ピ−クと弱い(200)面の回折ピ−クが観察された。
【0070】
Wを含有する結晶質下地層304からは(200)面の回折ピ−クのみが観察された。
【0071】
磁性層306からは、L1
0−FePtの(001)面の回折ピ−ク、及び、L1
0−FePtの(002)面の回折ピ−クとFCC−FePtの(200)面の回折ピ−クの混合ピ−クが観察された。
【0072】
バリア層305は2nmと薄いため、明瞭な回折ピ−クはみられなかったが、磁性層306が上記配向をとっていることから、(100)配向をとっていると考えられる。
【0073】
また、シ−ド層302からは明瞭な回折ピ−クはみられなかったことから、該シ−ド層は非晶質構造であることがわかる。
【0074】
表1に、L1
0−FePtの(002)面の回折ピ−クとFCC−FePtの(200)面の回折ピ−クの混合ピ−ク強度(I
002+I
200)に対する、L1
0−FePtの(001)面の回折ピ−ク強度I
001の比率I
001/(I
002+I
200)を表わす。また、保磁力Hcと規格化した保磁力分散ΔHc/Hcを示す。
【0075】
ここで、HcはSUQID(超伝導量子干渉素子)により、7Tの磁界を印加して室温で測定した磁化曲線から求めた。また、ΔHc/Hcは、「IEEE Trans. Magn., vol.27, pp4975−4977, 1991」に記載の方法で測定した。具体的には、7Tの最大磁界を印加して室温で測定したメジャーループ、及びマイナーループにおいて、磁化の値が飽和値の50%となるときの磁界を測定し、両者の差分から、Hc分布がガウス分布であると仮定してΔHc/Hcを算出した。ΔHc/Hcは、反転磁界分散に相当するパラメ−タ−であり、この値が低いほど、磁気記憶装置とした際に高い媒体SN比が得られることを示しており好ましい。
【0076】
【表1】
表1の結果によると、本実験例のうち実施例1−1〜1−13の試料においてはいずれもHcが38kOe以上を示しており、比較例1−1、1−2の試料(媒体)より、6kOe以上高くなっていることが確認できた。
【0077】
また、ΔHc/Hcについては、実施例1−1〜1−13の試料についてはいずれも0.3以下を示し、比較例1−1、1−2の媒体より低くなっていることが確認できた。
【0078】
また、本実施例1−1〜1−13の試料と比較例1−1、1−2の試料のI
001/(I
002+I
200)はいずれも2.1以上の高い値を示していたことから、磁性層中のL1
0−FePt合金の規則度が良好であることが分かる。
【0079】
以上の結果から、Wを含有する結晶質下地層にB、Si、C、または酸化物を添加することにより、磁性層中のL1
0構造を有する合金結晶粒の規則度を維持できることが確認できた。また、磁性層のL1
0−FePt合金の分散度を大幅に改善し、反転磁界分散を低減できることも確認できた。
[実験例2]
(実施例2−1〜2−12、比較例2−1)
図4に本実験例で作製した磁気記録媒体の断面模式図を示す。
【0080】
2.5インチガラス基板401上に、シード層402として、膜厚25nmのCr−50at%Ti層を形成し、300℃の基板加熱を行った。
【0081】
配向制御下地層403として膜厚20nmのCr−5at%Mnを形成した。
【0082】
Wを含有する結晶質下地層404として、膜厚20nmのW−8mol%SiO
2層を形成した。
【0083】
さらに、バリア層405として膜厚2nmの層を形成した。バリア層405は、各実施例により組成の異なる層を形成している。具体的には表2に示したように、実施例2−1はMgO層を、実施例2−2はTiO層を、実施例2−3はNiO層を、実施例2−4はTiN層を、実施例2−5はTiC、実施例2−6はTaN層を、実施例2−7はHfN層を、実施例2−8はNbN層を、実施例2−9はZrC層を、実施例2−10はHfC層を、実施例2−11はNbCを、実施例2−12はTaC層を形成した。また、比較例2−1としてバリア層を設けない試料も作製した。
【0084】
その後、600℃の基板加熱を行い、磁性層406として膜厚10nmの(Fe−45at%Pt)−12mol%SiO
2−6mol%BN層を形成した。さらに、DLC保護膜407として、膜厚3nmの層を形成した。
【0085】
【表2】
実験例1の場合と同様に保磁力Hcと保磁力分散ΔHc/Hcを測定した結果を表2に示す。
【0086】
表2の結果によると、本実験例のうち実施例2−1〜2−12の試料においては、いずれもHcが38kOe以上の高いHcと、0.3以下の低いΔHc/Hcを示した。
【0087】
また、実施例の試料の中でも特にバリア層405としてMgO層、TiN層、TaC層を形成した実施例2−1、実施例2−4、実施例2−12の試料においては、Hcが40kOe以上と特に高くなっていることが確認された。
【0088】
一方、バリア層405を形成しなかった比較例2−1の試料において、Hcは20kOe以下と低く、ΔHc/Hcは0.38と高くなっていることが確認された。これは、L1
0構造を有する磁性層の規則化の促進を目的として、磁性層を形成する際に基板を600℃に加熱しているが、この際に下地層と磁性層との間で界面拡散が生じ、磁性層が十分な性能を発揮できなかったためと考えられる、
以上の結果から、規則度が良好なL1
0型構造を有する合金を主成分とする磁性層を形成するため基板加熱を行う際に、下地層と磁性層との間での界面拡散を抑制するため、下地層と磁性層の間に、NaCl型構造を有する材料により構成されたバリア層を設けることが好ましいことが確認できた。
[実験例3]
(実施例3−1〜3−6、比較例3−1)
表3に示すように、Wを含有する結晶質下地層404として、0.5〜26.5mol%のSiO
2を添加した(W−20at%Ta)−SiO
2層を形成した点以外は実施例2−12と同一膜構造の磁気記録媒体を作製した。
【0089】
また、比較例3−1は、Wを含有する結晶質下地層404として、SiO
2を添加しないW−20at%Ta層を形成した試料(媒体)を作製した。
【0090】
なお、実施例、比較例において、Wを含有する結晶質下地層の組成以外の層構成、成膜プロセスは、実験例2と同様にして行った。
【0091】
表3に実施例3−1〜3−6および比較例3−1において得られた試料についての、保磁力Hcの測定結果を示す。
【0092】
【表3】
表3の結果によると、実施例3−1〜3−6においては、いずれもHcが35kOe以上になっていることが確認され、SiO
2を添加していない比較例3−1の試料と比較して性能が向上していることが確認できた。この結果から、Wを含有する結晶質下地層において、Wに上述したSiO
2を添加する場合、その添加量は0.5mol%以上26.5mol%以下とすることが好ましいことが分かる。
【0093】
また特に、Wを含有する結晶質下地層において、SiO
2の添加量が5〜20mol%の試料(実施例3−2〜実施例3−6)のHcは39kOe以上と高くなっていることが確認された。
【0094】
そして、SiO
2の添加量が1mol%である実施例3−1の試料と、SiO
2の添加量が26.5mol%である実施例3−6の試料においては、上述のように、比較例3−1の試料と比較してその添加効果を確認することができた。しかし、Hcが35kOe程度であり、他の実施例の試料よりも性能が若干劣ることが確認された。これは、SiO
2の添加量が0.5mol%の場合、Wを含有する結晶質下地層の粒径の微細化が十分ではなく、磁性層のL1
0−FePt合金粒子間の分離に対して十分な効果が得られていないためと考えられる。また、SiO
2を26.5mol%と過剰に添加した場合、Wを含有する結晶質下地層の(100)面への配向性が低下したためと考えられる。
【0095】
以上の結果より、Wを含有する結晶質下地層へSiO
2を添加する場合、その添加量は0.5mol%以上26.5mol%以下とすることが好ましく、0.5mol%より多く26.5mol%未満とすることがより好ましいことが分かる。また、表3に示す添加酸化物vol%の場合、SiO
2の添加量は1vol%以上50vol%以下とすることが好ましく、1vol%%より多く50vol%未満とすることがより好ましいことが分かる。
【0096】
また、本実験例ではSiO
2を例に検討したが、SiO
2以外の酸化物についても同様の働きを有すると考えられることから、これらの化合物を添加する場合でも同様の添加量1vol%以上50vol%以下とすることが好ましい。
[実験例4]
(
参考例4−1、実施例4−
2〜4−
4、参考例4−5、比較例4−1)
表4に示すように、Wを含有する結晶質下地層404として、1〜20mol%のBを添加したW−B層を形成した点以外は実施例2−1と同一膜構造の磁気記録媒体を作製した。
【0097】
また、比較例4−1として、Wを含有する結晶質下地層404として、Bを添加しないW層を形成した試料(媒体)を作製した。
【0098】
なお、実施例、
参考例、比較例において、Wを含有する結晶質下地層の組成以外の層構成、成膜プロセスは、実験例2と同様にして行った。
【0099】
表4に
参考例4−1、実施例4−
2〜4−
4、参考例4−5および比較例4−1において得られた試料についての、保磁力Hcの測定結果を示す。
【0100】
【表4】
表4の結果によると、
参考例4−1、実施例4−
2〜4−
4、参考例4−5においては、いずれもHcが35kOe以上になっていることが確認され、Bを添加していない比較例4−1の試料と比較して性能が向上していることが確認できた。この結果から、Wを含有する結晶質下地層において、WにBを添加する場合、その添加量は1mol%以上20mol%以下とすることが好ましいことが分かる。
【0101】
特に、Wを含有する結晶質下地層において、Bの添加量が5〜15mol%の試料(実施例4−2〜4−4)のHcは39kOe以上と高くなっていることが確認された
Bの添加量が1mol%である
参考例4−1の試料と、Bの添加量が20mol%である
参考例4−
5の試料においては、上述のように、比較例4−1の試料と比較してその添加効果を確認することができた。しかし、他の実施例の試料よりも性能が若干劣ることが確認された。これは、Bの添加量が1mol%の場合、Wを含有する結晶質下地層の粒径の微細化が十分ではなく、磁性層のL1
0−FePt合金粒子間の分離に対して十分な効果が得られていないためと考えられる。また、Bを20mol%と過剰に添加した場合、Wを含有する結晶質下地層の(100)面への配向性が低下したためと考えられる。
【0102】
以上の結果より、Wを含有する結晶質下地層へBを添加する場合、その添加量は1mol%以上20mol%以下とすることが好ましく、その添加量は1mol%より多く20mol%未満とすることがより好ましいことが分かる。
【0103】
なお、ここでは、Bを例に検討したが、B以外の上記元素(Si、C)についても同様の働きを有すると考えられる。このため、B、Si、Cから選択される1種以上の元素を添加する場合でも同様の添加量、すなわち、1mol%以上20mol%以下とすることが好ましく、1mol%より多く20mol%未満とすることがより好ましい。
[実験例5]
(実施例5−1〜5−11、比較例5−1〜5−2)
図5に本実験例で作製した磁気記録媒体の層構成の断面模式図を示す。
【0104】
2.5インチガラス基板501上に、接着層502として膜厚が10nmのCr−50at%Ti層を形成し、さらに、ヒートシンク層503として、膜厚50nmのCu−0.5at%Zr層を形成した。そして、シード層504として、膜厚10nmのCr−50at%Ti層を形成し、300℃の基板加熱を行った。
【0105】
その後、配向制御下地層505として膜厚10nmのCr−10at%Ruを形成した。
【0106】
Wを含有する結晶質下地層506として、膜厚15nmの層を形成し、バリア層507として膜厚2nmのMgO層を形成した。
【0107】
その後、600℃の基板加熱を行い、磁性層508として膜厚8nmの(Fe−46at%Pt)−30mol%C層を形成した。さらに、DLC保護膜509として、膜厚3nmの層を形成した。
【0108】
Wを含有する結晶質下地層506は、各実施例により組成の異なる層を形成している。具体的には表5に示したように、実施例5−1はW−8mol%B層を、実施例5−2はW−8mol%Si層を、実施例5−3は(W−15at%Ti)−11mol%TiO
2層を、実施例5−4はW−8mol%SiO
2層を、実施例5−5は(W−10at%Ta)−10mol%ZrO
2層を、実施例5−6はW−4mol%Nb
2O
5、実施例5−7はW−4.5mol%La
2O
3、実施例5−8はW−17mol%CoO、実施例5−9はW−16mol%FeO、実施例5−10は(W−15at%Cr)−16mol%MnO、実施例5−11はW−14mol%ZnO層をそれぞれ形成した試料をそれぞれ作製した。また、比較例5−1ではWを含有する結晶質下地層としてWのみでB、Si、C、または、酸化物添加していない層を、比較例5−2として、W−20at%Ta層を形成した試料をそれぞれ作製した。
【0109】
そして、得られた実施例、比較例の磁気記録媒体の表面にパーフルオルエーテル系の潤滑剤を塗布し、
図1に示した磁気記憶装置に組み込んだ。
【0110】
本磁気記憶装置は、既述のように磁気記録媒体100と、磁気記録媒体を回転させるための磁気記録媒体駆動部101と、磁気ヘッド102と、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部103と、記録再生信号処理系104から構成される。
【0111】
そして、磁気ヘッド102として、
図2に示した記録用磁気ヘッドを用いてオーバーライト特性(OW特性)を評価した。本実験例で使用した磁気ヘッドは、記録ヘッド208、再生ヘッド211を備えている。記録ヘッド208は、主磁極201、補助磁極202、磁界を発生させるためのコイル203、レーザーダイオード(LD)204、LDから発生したレーザー光205を近接場光発生素子206まで伝達するための導波路207を有する。再生ヘッド211はシールド209で挟まれた再生素子210を有する。
【0112】
近接場光発生素子から発生した近接場光により磁気記録媒体212を加熱し、媒体の保磁力をヘッド磁界以下まで低下させて記録できる。
【0113】
表5に、上記ヘッドを用いて線記録密度1500kFCIのオールワンパターン信号を記録して測定した媒体SN比と、オーバーライト特性(表5中では「OW」と記載)を示す。ここで、レーザーダイオードに投入するパワーは、トラックプロファイルの半値幅と定義したトラック幅MWWが60nmとなるよう調整した。
【0114】
【表5】
本実施例5−1〜5−11はいずれも15dB以上の高い媒体SN比と、30dB以上の高いオーバーライト特性を示した。特に、Wを含有する結晶質下地層にW−8mol%Siを使用した実施例5−2、W−8mol%SiO
2を使用した実施例5−4、及びW−17mol%CoOを試料した実施例5−8は16dB以上と、特に高い媒体SN比を示した。
【0115】
これに対し、Wを含有する結晶質下地層として、W層を形成した比較例5−1、W−20at%Ta層を形成した比較例5−2における媒体SN比とオーバーライト特性は、実施例と比較して著しく低くなった。
【0116】
以上より、Wを含有する結晶質下地層として、Wを含有し、かつ、B、Si、C、または、酸化物を含有した層を形成した磁気記録媒体を用いることにより、媒体SN比が高く、かつ、オーバーライト特性が良好な磁気記憶装置が得られることがわかった。