(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
両側縁部にウィング部が形成された帯状のトレッドゴムと、アンダー材とを、上下一対のラミネーションローラーによって貼り合わせてタイヤ材料を製造するタイヤ材料の製造方法であって、
前記上下一対のラミネーションローラーによる貼り合わせに際して、上方のラミネーションローラーの両側縁部に設けられた溝付きローラーを用いて前記ウィング部を押圧することにより、前記ウィング部に搬送方向と直交する方向に溝を形成すると共に、前記トレッドゴムおよび前記ウィング部と、前記アンダー材との界面に形成された段差を潰す
ことを特徴とするタイヤ材料の製造方法。
両側縁部にウィング部が形成された帯状のトレッドゴムと、アンダー材とを、上下一対のラミネーションローラーによって貼り合わせてタイヤ材料を製造するタイヤ材料の製造装置であって、
上方のラミネーションローラーの両側縁部に、溝が形成された溝付きローラーが配置されており、
前記溝付きローラーが、前記上下一対のラミネーションローラーによる貼り合わせに際して、前記ウィング部を押圧することにより、前記ウィング部にその搬送方向と直交する方向に溝を形成すると共に、前記トレッドゴムおよび前記ウィング部と、前記アンダー材との界面に形成された段差を潰すように構成されている
ことを特徴とするタイヤ材料の製造装置。
【背景技術】
【0002】
PCRタイヤ(普通自動車用ラジアルタイヤ)等の製造に用いる生タイヤの成形方法の1つに、サイドウォールが貼り合された後にサイドウォールの半径方向の外側面が覆われるようにトレッドをサイドウォールに貼り合せるTOS(トレッド・オーバー・サイドウォール)方式がある。
【0003】
このTOS方式において、トレッドは、
図5に示すように、トレッドゴムGの両側縁部に形成されたウィング部GaとトレッドゴムGとの下にアンダー材S3が積層された帯状のトレッドゴム複合体として供給され、アンダー材S3を介して、サイドウォールが貼り合された後の生タイヤ成形体の上面に貼り合わされる。その後、貼り合されたトレッドゴム複合体のウィング部Gaをステッチャーロールを用いて押圧することによりサイドウォールとトレッドゴム複合体とが貼り合されて、生タイヤの成形が行なわれる。
【0004】
このとき、ウィング部Gaの下部には、
図5に示すように、アンダー材S3が配置されていない空間40(トレッドゴムGおよびウィング部Gaと、アンダー材S3との界面に形成された段差)があるため、ステッチャーロールによる押圧に際して、サイドウォールとトレッドゴム複合体の境界に形成されるショルダー部にエア残りが生じることがある。なお、
図5はトレッドゴム複合体の概要を示す断面図である。
【0005】
そこで、トレッドゴム複合体の貼り合せに際して、エア残りが生じないようにする技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年、製品タイヤへの要求は益々厳しくなっており、エア残りの発生をさらに低減することができる技術が強く求められている。
【0008】
そこで本発明は、TOS方式による生タイヤの成形において、従来に比べて、エア残りの発生をさらに低減することができるタイヤ材料の製造方法およびその製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、
両側縁部にウィング部が形成された帯状のトレッドゴムと、アンダー材とを、上下一対のラミネーションローラーによって貼り合わせてタイヤ材料を製造するタイヤ材料の製造方法であって、
前記上下一対のラミネーションローラーによる貼り合わせに際して、上方のラミネーションローラーの両側縁部に設けられた溝付きローラーを用いて前記ウィング部を押圧することにより、前記ウィング部に搬送方向と直交する方向に溝を形成すると共に、前記トレッドゴムおよび前記ウィング部と、前記アンダー材との界面に形成された段差を潰す
ことを特徴とするタイヤ材料の製造方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、
前記ウィング部に、4.5〜5.5mmの間隔の溝を形成することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ材料の製造方法である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、
前記ウィング部に、0.4〜0.7mmの深さの溝を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のタイヤ材料の製造方法である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、
両側縁部にウィング部が形成された帯状のトレッドゴムと、アンダー材とを、上下一対のラミネーションローラーによって貼り合わせてタイヤ材料を製造するタイヤ材料の製造装置であって、
上方のラミネーションローラーの両側縁部に、溝が形成された溝付きローラーが配置されており、
前記溝付きローラーが、前記上下一対のラミネーションローラーによる貼り合わせに際して、前記ウィング部を押圧することにより、前記ウィング部にその搬送方向と直交する方向に溝を形成すると共に、前記トレッドゴムおよび前記ウィング部と、前記アンダー材との界面に形成された段差を潰すように構成されている
ことを特徴とするタイヤ材料の製造装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、TOS方式による生タイヤの成形において、従来に比べて、エア残りの発生をさらに低減することができるタイヤ材料の製造方法およびその製造装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態に基づき、図面を参照しつつ、本発明を具体的に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態に係るタイヤ材料の製造装置が組み込まれたタイヤ材料の製造ラインの概要を示す図である。
【0018】
図1に示すように、タイヤ材料の製造ライン1は、概略、トレッドを作製するトレッド作製ライン2、アンダー材S3を作製するアンダー材作製ライン3、および、トレッドとアンダー材とをラミネートしてトレッドゴム複合体に加工するラミネーションラインとから構成されている。
【0019】
上記したタイヤ材料の製造ライン1は、基本的には、従来のタイヤ材料の製造ラインと同じ構成である。しかし、このタイヤ材料の製造ライン1には、ラミネーションラインにおいて、上下一対のラミネーションローラー6の内、上方に配置されたラミネーションローラー6の両端に溝付ローラー5(スターローラーとも称する)が配置された本実施の形態に係るタイヤ材料の製造装置が用いられている点において、従来のタイヤ材料の製造ラインとは異なっている。以下、このタイヤ材料の製造ライン1を用いたタイヤ材料の製造手順を順に説明する。
【0020】
(1)トレッド作製ライン
トレッド作製ライン2においては、まず、トレッドゴムを形成するトレッドゴム組成物S1を折り畳んで搭載している第1テーブル20から供給されたトレッドゴム組成物S1が、ロードミル22、サージミル23およびフィードミル24を用いて、順に混練りされた後、押出成型機25の第1供給口25aに送られる。
【0021】
一方、ウィング部を形成するウィングゴム組成物S2を折り畳んで搭載している第2テーブル21から供給されたウィングゴム組成物S2が、押出成型機25の第2供給口25bに送られる。
【0022】
押出成型機25に送られたトレッドゴム組成物S1およびウィングゴム組成物S2は、押出成型機25により押出口25cから多層押出されて、トレッドゴムの両側縁部にウィング部が形成された帯状のトレッドに加工され、その後、ベルトコンベア4に送られる。
【0023】
(2)アンダー材作製ライン
アンダー材作製ライン3においては、帯状のアンダー材S3を折り畳んで収容しているカセット30から取り出されたアンダー材S3が、テープ31、ローラー32を介して、ベルトコンベア4に送られる。
【0024】
(3)ラミネーションライン
ラミネーションラインにおいては、まず、ベルトコンベア4が、アンダー材供給ライン3から送り出されてきたアンダー材S3を受け入れると共に、押出成型機25から排出されたトレッドをアンダー材S3の上面に重ね合わせて、上下一対に設けられたラミネーションローラー6に向けて搬送する。
【0025】
搬送されてきたトレッドおよびアンダー材S3は、一対のラミネーションローラー6により押圧されることにより貼り合わされて(ラミネート)、トレッドゴム複合体Hに加工される。なお、
図1においては、上段側のラミネーションローラー6は、溝付きローラー5に隠れて表示されていない。
【0026】
このラミネートに際して、前記したように、一対のラミネーションローラー6の内、上方に配置されたラミネーションローラー6の両端に溝付ローラー5が配置された本実施の形態に係るタイヤ材料の製造装置が用いられる。
【0027】
(4)溝付きローラー
以下、本実施の形態における特徴部である溝付きローラーについて説明する。
【0028】
溝付きローラー5は、
図1に示す一対のラミネーションローラー6の上方に配置されたラミネーションローラー6の両側縁に配置されて、一対設けられている。
【0029】
図2に、この溝付きローラー5がトレッドゴム複合体を押圧する様子を説明する図を示す。
図2に示すように、溝付きローラー5は、押圧力fにより、溝50がトレッドゴム複合体に押圧される。
【0030】
これにより、ウィング部Gaの下部に形成されている空間40(トレッドゴムGおよびウィング部Gaと、アンダー材S3との界面に形成された段差)が押し潰されると共に、トレッドのウィング部Gaの表面にトレッドゴム複合体の搬送方向と直交する方向に溝50が形成される。なお、形成される溝50の深さは、溝付きローラー5の押圧力fによって適宜調整することができる。
【0031】
形成される溝50の間隔は、4.5〜5.5mmであることが好ましく、このように設定することにより、エア残りの発生を充分に低減させることができる。
【0032】
形成される溝50の深さは、0.4〜0.7mmであることが好ましく、このように設定することにより、エア残りの発生を充分に低減させることができる。
【0033】
このようなトレッドゴム複合体を用いて、サイドウォールが貼り合された後の生タイヤ成形体の上面に貼り合わせた場合、前記したように、空間40が押し潰されると共に、ウィング部Gaの表面に溝50が形成されているため、貼り付けられたトレッドゴム複合体のウィング部Gaをステッチャーロールを用いて押圧する際、充分にエアを排出することができ、エア残りの発生を充分に低減させることができる。
【0034】
なお、溝付きローラー5は、上段のラミネーションローラー6の回転軸の両端部に回転自在の状態で取り付けられており、さらに、種々のトレッドゴム複合体の幅に対応して回転軸方向(幅方向)に移動できるように構成されている。これにより、トレッドゴム複合体の搬送速度に合わせて、溝50を等間隔に形成することができる。
【0035】
このように、溝付きローラー5が、下段のラミネーションローラー6の端部に対向して配置されているため、押圧に際して、下段のラミネーションローラー6を土台として用いることができ、空間40を容易に押し潰すことができると共に、ウィング部Gaの表面に溝50を容易に形成させることができる。
【0036】
そして、溝付きローラー5は、
図3および
図4に示すように、外側から内側に向かって径が小さくなっている円錐台形であり、溝付きローラー5の回転軸および溝50が、それぞれ、タイヤ材料の搬送方向と直交する方向に配置されていることが好ましい。これにより、ウィング部Gaの表面に、空間40をより容易に押し潰すことができると共に、溝をより容易に形成させることができる。
【0037】
溝付きローラー5は、最外側におけるピッチ間隔pが5mmかつ歯の高さhが5mmであり、最内側におけるピッチ間隔pが4mmかつ歯の高さhが4mmであることが好ましい。
【0038】
溝50を形成する歯のピッチ間隔pが狭過ぎると製品タイヤに凹み跡ができてしまう。一方、ピッチ間隔pが広過ぎると、残留エアの排出効果が弱くなる。
【0039】
溝50を形成する歯の高さhが高過ぎるとトレッドゴム複合体Hのウィング部Gaの表面に形成される溝が深くなり過ぎて製品タイヤに凹み跡ができてしまう。一方、歯の高さhが低過ぎると、溝が浅くなり過ぎて残留エアの排出効果が弱くなる。
【0040】
また、溝50を形成する歯の先端は、断面が鋭角三角形状を示すことが好ましい。先端の角度が大きくなると、トレッドのウィング部Gaの表面に溝を形成することが難しくなる。
【0041】
さらに、溝付きローラー5は、外側から内側に向かって、傾斜角度αで傾斜している外周を有する円錐台形であることが好ましい。特に、溝付きローラー5は、外側から内側に向かって80度の傾斜角度αで傾斜している外周を有する円錐台形であることが好ましい。
【0042】
また、このようにして作製されたトレッドゴム複合体Hを用いた場合、トレッドゴム複合体Hのサイドウォールへの貼り付けに際して、従来行っていたようなホーリングなどによるエア抜きを行う必要がないため、タイヤ強度の低下を招いたりする恐れがない。
【実施例】
【0043】
1.溝のピッチ間隔とエア溜りの発生との関係
溝のピッチ間隔が異なる5種類のトレッドゴム複合体Hを、
図1に示す製造装置を使用して作製した。このとき、溝のピッチ間隔の変更は、
溝50の最外側のピッチ間隔pが3mm、4mm、5mm、6mm、7mmの5種類の溝付きローラー5を使用することによって行った。なお、このとき、溝最外側の仕上がり深さは5mmに固定した。
【0044】
作製された各トレッドゴム複合体Hを用いて、サイズ215/45R17の評価タイヤを50本ずつ製造した。
【0045】
製造された各タイヤについて、エア残りの発生を観察し、評価した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
溝付きローラー5を用いなかった場合に比べて、表1の全ての場合で、エア溜りの発生が減少していることが分かった。この内でも、溝の外側のピッチ間隔が4mm〜6mmの場合には、エア残りの発生が認められなかった。
【0048】
一方、溝の外側のピッチ間隔が7mmと広くなると、タイヤ材料相互の貼着面に入り込んだエアの抜け道の数が少なくなり、エア溜りの発生の確率が上昇することが認められた。
【0049】
また、溝の外側のピッチ間隔が3mmと狭くなると、エアの抜け道の数は多くなるけれども、溝を形成し難くなる。そのため、溝付きローラー5の押圧力fを高くしなければならず、トレッドゴム複合体Hのウィング部Gaの形状を変形させてしまったり、凹み跡が残ったりするという不具合が認められた。
【0050】
この結果より、溝の外側のピッチ間隔の最適範囲は、4.5mm〜5.5mmであることが分かった。
【0051】
2.溝の仕上がり深さとエア溜りの発生との関係
溝の仕上がり深さが異なる7種類のトレッドゴム複合体Hを、
図1に示す製造装置を使用して作製した。このとき、溝の仕上がり深さの変更は、溝付きローラー5の押圧力fを調整することによって行った。なお、このとき、溝外側のピッチ間隔は5mmに固定した。
【0052】
作製された各トレッドゴム複合体Hを用いて、上記と同様にして、評価タイヤを50本ずつ製造した。
【0053】
製造された各タイヤについて、上記と同様に、エア残りの発生を観察し、評価した。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
溝付きローラー5を用いなかった場合に比べて、表2の全ての場合で、エア溜りが減少していることが分かった。この内でも、溝の外側の仕上がり深さが0.3mm〜0.8mmの場合には、タイヤ材料相互の貼着面に入り込んだエアが完全に排出され、エア残りの発生が認められなかった。
【0056】
一方、溝の外側の仕上がり深さが0.9mmと深くなると、エア溜りの発生の確率が上昇することが認められた。溝による凹み跡が残ったりするという不具合が認められた。
【0057】
また、溝の外側の仕上がり深さが0.1mm〜0.2mmと浅くなると、エアが抜け難くなり、エア溜りの発生の確率が上昇することが認められた。
【0058】
この結果より、溝の外側の仕上がり深さの最適範囲は、0.4mm〜0.7mmであることが分かった。
【0059】
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。