(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記線状部材は、疎水性のセルロース系高分子から形成されており、前記芯材の表面に巻回されて熱融着された後に、前記線状部材の露出面に対してカルボキシメチル化処理を施すことにより、前記カルボキシル基を分子中に有するセルロース構造を有する前記露出面が形成される請求項2に記載のワイヤ部材。
前記親水化処理ステップは、モノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸のアルカリ金属塩を含有する処理液を、熱融着された前記表面配置部材の露出面に接触させる工程を備える請求項4に記載のワイヤ部材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フッ素樹脂等から形成される線材を芯材の表面に螺旋状に巻回して形成されるワイヤ部材は、水分よって濡れていない環境(ドライ環境)では良好な摺動性を発揮するが、水分によって濡れた環境(ウェット環境)では、良好な摺動性を発揮しにくいという問題があった。そこで、ウェット環境化での良好な摺動性を確保するために、親水性の線材を芯材の表面に巻回することも考えられるが、製造段階において、芯材の表面に親水性の線材を熱融着して固定させることが比較的難しく、また、ワイヤ部材の使用中に、芯材の表面から剥がれてしまうおそれがあった。
【0004】
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであって、比較的簡便に製造することができ、優れた耐久性及び摺動性を有するワイヤ部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記目的は、長尺な芯材と、前記芯材の表面に対向する対向面を溶融させて熱融着されるセルロース系高分子からなる表面配置部材とを備え、前記表面配置部材の露出面は、カルボキシル基を分子中に有するセルロース構造を備えており、熱融着される前記表面配置部材の熱融着部の少なくとも一部は、疎水性のセルロース系高分子であるワイヤ部材により達成される。
【0006】
このワイヤ部材において、前記表面配置部材は、前記芯材の長手方向に沿って前記芯材の表面に螺旋状に巻回される線状部材であることが好ましい。
【0007】
また、前記線状部材は、疎水性のセルロース系高分子から形成されており、
前記芯材の表面に巻回されて熱融着された後に、前記線状部材の露出面に対してカルボキシメチル化処理を施すことにより、前記カルボキシル基を分子中に有するセルロース構造を有する前記露出面が形成されることが好ましい。
【0008】
また、本発明の上記目的は、疎水性のセルロース系高分子から形成される表面配置部材を長尺な芯材の表面に配設する配設ステップと、前記表面配置部材を加熱して前記芯材の表面に前記表面配置部材を熱融着する加熱ステップと、熱融着された前記表面配置部材の露出面に対してカルボキシメチル化処理を行い、前記表面配置部材の露出面におけるセルロース系高分子にカルボキシル基を導入する親水化処理ステップを備えるワイヤ部材の製造方法により達成される。
【0009】
このワイヤ部材の製造方法において、前記親水化処理ステップは、モノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸のアルカリ金属塩を含有する処理液を、熱融着された前記表面配置部材の露出面に接触させる工程を備えることが好ましい。
【0010】
また、前記表面配置部材は、疎水性のセルロース系高分子から形成される線状部材であり、前記配設ステップは、前記線状部材を前記芯材の長手方向に沿って前記芯材の表面に螺旋状に巻回して配置する工程であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、比較的簡便に製造することができ、優れた耐久性及び摺動性を有するワイヤ部材及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態にかかるワイヤ部材1について添付図面を参照して説明する。なお、各図は、構成の理解を容易ならしめるために部分的に拡大・縮小している。
図1は、本発明の一実施形態に係るワイヤ部材1における概略構成要部拡大側面図であり、
図2は、軸線方向(ワイヤ部材1の長手方向)に沿った概略構成要部拡大断面図である。このワイヤ部材1は、種々の装置や機器、器具の操作系や動力伝達系等において用いられるワイヤ部材1である。特に、水分で濡れた環境(ウェット環境)において好適に使用できるワイヤ部材である。このようなワイヤ部材1としては、例えば、医療用ガイドワイヤを挙げることができる。このワイヤ部材1は、
図1及び
図2に示すように、芯材2と、当該芯材2の表面に配置される表面配置部材3とを備えている。
【0014】
芯材2は、可撓性を有する長尺な線材状部材である。この芯材2としては、従来からあるワイヤ部材の芯材2として使用される種々の材料を用いて形成することができる。芯線としては、例えば、ステンレス鋼、ピアノ線、コバルト系合金線材、擬弾性を示す合金線材(超弾性合金を含む)、スチール線、真鍮線、導線、アルミニウム線などの各種金属線材を使用することができる。
【0015】
コバルト系合金を用いて芯材2を構成した場合、その弾性率が高く、かつ適度な弾性限度を有している。このため、コバルト系合金で構成された芯材2は、トルク伝達性に優れ、座屈等の問題が極めて生じ難い。コバルト系合金としては、構成元素としてCoを含むものであれば、いかなるものを用いてもよいが、Coを主成分として含むもの(Co基合金:合金を構成する元素中で、Coの含有率が重量比で最も多い合金)が好ましく、Co−Ni−Cr系合金を用いるのがより好ましい。このような組成の合金を用いることにより、前述した効果がさらに顕著なものとなる。また、このような組成の合金は、弾性係数が高く、かつ高弾性限度としても冷間成形可能で、高弾性限度であることにより、座屈の発生を十分に防止しつつ、小径化することができ、所定部位に挿入するのに十分な柔軟性と剛性を備えるものとすることができる。
【0016】
また、超弾性合金は、比較的柔軟であるとともに、復元性があり、曲がり癖が付き難いので、芯材2を超弾性合金で構成することにより、ワイヤ部材1は、高い柔軟性と曲げに対する復元性が得られ、複雑に湾曲・屈曲する血管等に対する追従性が向上し、より優れた操作性が得られる。また、ワイヤ部材1が、湾曲・屈曲変形を繰り返しても、芯材2の復元性により曲がり癖が付かないので、ワイヤ部材1の使用中に曲がり癖が付くことによる操作性の低下を防止することができる。
【0017】
また、芯材2の形態としては種々の形態を採用することができる。例えば、金属線材により芯材2を構成する場合、一本の金属線によって芯材2を形成してもよく、或いは、一本の金属線を折り合わせた後撚り合わせて芯材2を形成してもよい。また、複数の金属線を撚り合わせて芯材2を形成してもよく、金属線及び高分子製線状部材を撚り合わせて形成してもよい。更には、中心部分と表面部分とが異なる材料から形成されているもの等、種々の構成を採用することができる。また、芯材2の表面全体に予め高分子材料のコーティングを施してもよい。
【0018】
また、芯材2は、その外径がほぼ一定となるように構成してもよく、或いは、部分的に拡径或いは縮径するように構成してもよい。例えば、芯材2の先端部分が、先端方向に向かってその外径が減少するテーパ状となるように構成した場合、芯材2の剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、その結果、ワイヤ部材1の先端部に良好な柔軟性を付与することができ、折れ曲がり等を防止することができる。
【0019】
また、先端部分を構成する第1芯材部と、中間部分及び手元部分を構成する第2芯材部とを溶接等により連結することにより芯材2を構成してもよい。第1芯材部と第2芯材部とにより芯材2を構成する場合、第1芯材部の径が、第2芯材部の径よりも小さくなるように設定することが好ましい。また、連結部分は、第1芯材部と第2芯材部とが滑らかに連結するようにテーパ状となるように構成することが好ましい。このように芯材2を構成した場合も、芯材2の剛性(曲げ剛性、ねじり剛性)を先端方向に向かって徐々に減少させることができ、その結果、ワイヤ部材1は、先端部に良好な狭窄部の通過性および柔軟性を得て、折れ曲がり等を防止することができる。
【0020】
表面配置部材3は、芯材2表面に配置される部材であり、芯材2の表面に対向する対向面を溶融させて、芯材2の表面に熱融着されている。この表面配置部材3は、セルロース系高分子から形成されている。また、
図3の要部拡大断面模式図に示すように、表面配置部材3の露出面部31は、カルボキシル基を分子中に有するセルロース構造を備えており、熱融着される熱融着部32の少なくとも一部は、疎水性のセルロース系高分子となるように構成されている。
【0021】
次に、このようなワイヤ部材1の製造方法について、
図4のブロック図を用いて説明する。ワイヤ部材1の製造方法は、
図4のブロック図に示すように、配設ステップS1と、加熱ステップS2と、親水化処理ステップS3とを備えている。配設ステップS1は、熱可塑性であり、かつ、疎水性のセルロース系高分子から形成される表面配置部材3を長尺な芯材2の表面に配設する工程である。本実施形態においては、疎水性のセルロース系高分子から形成される線状部材を表面配置部材3として用い、この線状部材を芯材2の長手方向に沿って当該芯材2の表面に螺旋状に巻回して配置するように配設ステップS1を構成している。芯材2に線状部材(表面配置部材3)を巻き付ける方法は特に限定されず、例えば、カバリング糸を製造するために使用されるカバリング装置を用いて巻き付ける方法等が挙げられる。
【0022】
また、線状部材(表面配置部材3)を形成する熱可塑性であり、かつ、疎水性のセルロース系高分子としては、例えば、セルロースアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等を挙げることができる。なお、上述のセルロース系高分子材料から線状部材(表面配置部材3)を製造する方法は特に限定されず、例えば、原料を押出成形により紡糸する方法等の従来公知の方法を用いることができる。
【0023】
また、
図1においては、芯材2の表面に螺旋状に巻回される線状部材(表面配置部材3)は、ワイヤ部材1(芯材2)の長手方向に沿う方向において、隣接する線状部材(表面配置部材3)同士が互いに略等間隔となるように所定の間隔を空けて配置されるように構成されているが、このような構成に限定されず、芯材2の長手方向に沿う方向に隣り合う線状部材(表面配置部材3)同士の間隔は、任意に設定することができる。例えば、隣り合う線状部材(表面配置部材3)同士の間隔を一部分において広く設定し、その他の部分において狭く設定するようにして構成してもよく、或いは、隣り合う線状部材(表面配置部材3)同士が互いに接触するように構成してもよい。
【0024】
加熱ステップS2は、線状部材(表面配置部材3)を加熱して、芯材2の表面に対向する線状部材(表面配置部材3)の対向面を溶融させて、芯材2の表面に線状部材(表面配置部材3)を熱融着する工程である。この工程を経ることにより、芯材2との熱融着部32が表面配置部材3に形成される。なお、熱融着部32は、線状部材(表面配置部材3)の一部が溶融して形成されるものであることから、
図2や
図3に示すように、線状部材(表面配置部材3)は変形し、芯材2との対向面における所定領域が芯材2の表面に密着する形態となる。
【0025】
ここで、加熱ステップS2における加熱処理の方法としては、例えば、チャンバー型熱処理装置を用い、芯材2に巻回された線状部材(表面配置部材3)の外側から熱を付与する方法を挙げることができる。また、芯材2の両端に電圧を印加して通電加熱することによっても行うことができる。
【0026】
また、芯材2上に配置された線状部材(表面配置部材3)の外側から芯材2を電磁誘導加熱装置により電磁誘導加熱し、加熱された芯材2の熱によって線状部材(表面配置部材3)における芯材2の表面に対向する面を溶融させて、線状部材(表面配置部材3)を芯材2に融着させるようにして、線状部材(表面配置部材3)を芯材2の表面に合着させてもよい。なお、電磁誘導加熱とは、電磁調理器(IHクッキングヒーター)や高周波溶接等にも利用されている加熱方式の一種であり、コイルに交流電流を流すことにより磁界(磁束密度)の変化を生じさせ、その磁界内に置いた導電性物質に誘導電流(渦電流)を発生させて、その抵抗により導電性物質自体を発熱させる原理を利用した加熱方式である。
【0027】
電磁誘導加熱された芯材2に生じる誘導電流の密度は、芯材2の中心からその表面に近いほど高くなることから、芯材2の内部に比べてその表面の方が早く加熱(集中して加熱)されることとなり、線状部材(表面配置部材3)における芯材2の表面に対向する面を効率よく加熱溶融させることができる。なお、電磁誘導加熱装置に流れる電流(コイルに流れる交流電流)の周波数を高く設定することにより、芯材2において発熱する部位をその表面に集めることができるため、電磁誘導加熱装置に流れる電流の周波数を適宜変更できるように構成することが好ましい。
【0028】
このように電磁誘導加熱を行うことにより、線状部材(表面配置部材3)の芯材2表面に対向する面(芯材2との接触面)を速やかに溶融させることができるため、線状部材(表面配置部材3)の物性に寄与する分子配向を維持しやすくなる。また、外部からの伝熱又は輻射、エネルギー線照射等による加熱と異なり、線状部材(表面配置部材3)と芯材2との接触界面及びその近傍のみで溶融するため、線状部材(表面配置部材3)の表面凹凸形状を維持しやすくなる。
【0029】
なお、加熱ステップS2における加熱処理の方法としては、上述のチャンバー型熱処理や、通電加熱、電磁誘導加熱の他、遠赤外線ヒータによる加熱や熱風を付与する等、種々の公知の加熱手段を用いることができる。
【0030】
親水化処理ステップS3は、熱融着された線状部材(表面配置部材3)の露出面に対してカルボキシメチル化処理を行い、線状部材(表面配置部材3)の露出面におけるセルロース系高分子にカルボキシル基を導入して親水性を付与する工程である。この親水化処理ステップS3における親水化処理方法として、モノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸のアルカリ金属塩を含有する処理液を、熱融着された線状部材(表面配置部材3)の露出面に接触させた後、所定の時間、所定の温度で反応させる方法等が挙げられる。なお、線状部材(表面配置部材3)の露出面におけるセルロース系高分子にカルボキシル基を導入する方法としては、上記処理液を線状部材(表面配置部材3)の露出面に接触させる方法以外の種々の方法を用いてもよい。また、必要に応じて、親水化処理ステップS3を行う前段階において、熱融着された線状部材(表面配置部材3)に対して強アルカリで鹸化処理を施してもよい。
【0031】
上記モノクロロ酢酸のアルカリ金属塩におけるアルカリ金属塩としては特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。この処理液中における、モノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸のアルカリ金属塩の濃度としては、線状部材(表面配置部材3)の露出面部におけるセルロース系高分子に導入されるカルボキシル基の含有率が目的の値となるよう処理液の条件を適宜定めればよいが、好ましい下限が5%owf、好ましい上限が50%owfであり、より好ましい下限が7%owf、より好ましい上限が40%owfであり、更に好ましい下限が9%owf、更に好ましい上限が37%owfである。
【0032】
上記処理液には、アルカリ金属の水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムを配合することが好ましい。水酸化ナトリウムを配合することにより、後述するカルボキシメチル基の含有率を高めることができる。上記処理液中における水酸化ナトリウムの濃度を上げるほど、カルボキシメチル化の反応度が上がる傾向があり、通常は0.5%owf以上とすることが好ましい。また、アルカリ金属の水酸化物を処理液に配合することにより、親水化処理ステップS3において、セルロース系高分子の鹸化処理と親水化処理の両方を同時進行させることが可能となり、予め、熱融着された線状部材(表面配置部材3)に対して強アルカリで鹸化処理する必要がなく、迅速に親水化処理を行うことが可能となる。
【0033】
上記処理液には、更に、加工助剤を配合することが好ましい。加工助剤を配合することにより、より短時間で、セルロース系高分子からなる線状部材(表面配置部材3)の面方向と厚み方向との両方にわたってカルボキシメチル化反応がムラなく進み、線状部材(表面配置部材3)の露出面31における部分的な親水化未処理部分の発生を抑制することができる。
【0034】
加工助剤としては特に限定されず、例えば、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、高級アルコールリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボキシレート塩、ポリカルボン酸塩、ロート油、石油スルホネート、アルキルジフェニルエーテルスルホネート塩等が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、加工助剤の市販品としては、例えば、カラーファイン、シルケロール(以上、第一工業製薬社製)、ネオレート、テキスポート(以上、日華化学社製)、フロラニット(ヘンケルジャパン社製)、マーセリン(明成化学社製)、スコアロール(北広ケミカル社製)等が挙げられる。
【0035】
処理液中における加工助剤の濃度としては特に限定されないが、好ましい下限が0.1%owf、好ましい上限が20%owfである。上記加工助剤の濃度が0.1%owf未満であると、得られる表面配置部材3の親水性が部分的に悪化することがあり、特に表面配置部材3の露出面31の面方向において親水性にバラツキを生じてしまうことがある。上記加工助剤の濃度が20%owfを超えると、得られる表面配置部材3の親水性が低下することがある。上記処理液中における加工助剤の濃度のより好ましい下限が0.2%owf、より好ましい上限が10%owfである。
【0036】
熱融着された表面配置部材3の露出面31に対してカルボキシメチル化処理を行う方法としては、上記処理液を表面配置部材3に対して噴霧する方法や、上記処理液が貯留されている貯留槽中に、線状部材(表面配置部材3)が表面に配置された芯材2を浸漬することにより行う方法を挙げることができる。
【0037】
熱融着された表面配置部材3の露出面31に上記処理液を接触させた後の反応温度としては特に限定されないが、好ましい下限が60℃、好ましい上限が160℃であり、より好ましい下限が70℃である。また、熱融着された表面配置部材3の露出面31に上記処理液に接触させた後の反応時間としては特に限定されないが、好ましい下限が10秒、好ましい上限が60分であり、より好ましい下限が15秒、より好ましい上限が45分であり、特に好ましい上限が30分である。このように反応時間の範囲とすることにより、線状部材(表面配置部材3)に与えるダメージを抑制することができる。
【0038】
このような親水化ステップを経ることにより、線状部材(表面配置部材3)の露出面31が、カルボキシル基を分子中に有するセルロース構造を備え、親水性を有するように構成することができる。
【0039】
上述のように、本実施形態に係るワイヤ部材1は、長尺な芯材2の表面に疎水性のセルロース系高分子からなる表面配置部材3を配置し、加熱処理を行って芯材2表面に表面配置部材3を熱融着させた後、親水化処理を行うことにより製造されている。加熱処理の段階においては、熱融着させやすい熱可塑性を有し疎水性のセルロース系高分子からなる表面配置部材3を熱融着対象としているため、表面配置部材3を芯材2の表面に固定することが容易となり、親水性の表面配置部材3を有するワイヤ部材1を製造することが容易となる。
【0040】
また、疎水性のセルロース系高分子からなる表面配置部材3を加熱処理により芯材2の表面に熱融着させた後に、親水化処理を行い、
図3の要部拡大断面模式図に示すように、表面配置部材3の露出面31がカルボキシル基を分子中に有するセルロース構造を備えるように構成しているため、水分で濡れた環境(ウェット環境)において優れた摺動性を発揮することができる。
【0041】
また、本実施形態に係るワイヤ部材1は、長尺な芯材2の表面に疎水性のセルロース系高分子からなる表面配置部材3を配置し、加熱処理を行った後、表面配置部材3の露出面31に対して親水化処理を施して製造されるため、
図3に示される芯材2と表面配置部材3とが熱融着している部分(熱融着部32)の一部を、親水化処理に供される処理液に接触しない部分として残存させることができる。つまり、熱融着部32の一部を疎水性のセルロース系高分子のままの状態に維持させることができ、芯材2の表面に対する表面配置部材3の固着性を強固な状態に保つことが可能となり、親水化処理後に表面配置部材3が芯材2の表面から剥離等してしまうことを効果的に防止し、ワイヤ部材1の耐久性を向上させることができる。
【0042】
また、本実施形態に係るワイヤ部材1を、例えば、導管の内部に挿通して使用する場合、ワイヤ部材1は、芯材2の表面に配設される表面配置部材3を備えているため、当該表面配置部材3は、芯材2の表面から突出する凸部を形成し、当該凸部が導管の内面と接触することになるため、ワイヤ部材1と導管内面との接触面積を大幅に減少させることができる。これにより導管に対するワイヤ部材1の摺動性が向上し、導管内のスムーズな進退移動が可能となる。
【0043】
以上、本発明に係るワイヤ部材1について説明したが、具体的構成は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態においては、配設ステップS1にて用いられる線状部材(表面配置部材3)を単一の線状部材とし、これを芯材2の表面に螺旋状に巻回してワイヤ部材1が構成されているが、このような構成に特に限定されず、芯材2の表面に複数の線状部材(表面配置部材3)を螺旋状に巻回することによりワイヤ部材1を構成してもよい。複数の線状部材(表面配置部材3)を芯材2に巻回する場合、巻回される各線状部材(表面配置部材3)は、同一のセルロース系高分子材料から形成されてもよく、或いは、種類の異なるセルロース系高分子材料から形成されてもよい。また、複数の線状部材(表面配置部材3)を芯材2に螺旋状に巻回する場合、各線状部材(表面配置部材3)の巻回方向を同一方向としてもよく、或いは、それぞれの線状部材(表面配置部材3)の巻回方向が逆となるように巻回してもよい。また、
図5の概略構成要部拡大側面図に示すように、網目状構造を形成するようにして表面配置部材3を構成し、この表面配置部材3を芯材2の外表面に配置してもよい。このような網目状構造は、如何ように形成してもよく、例えば、組紐製法により形成してもよく、或いは、編物を形成する要領で線状部材(表面配置部材3)を編み込んで形成してもよい。このように網目状構造を形成するようにして表面配置部材3を構成する場合、線状部材同士の結節部分6が多数形成されるため、仮に大きな外力が作用して線状部材の一部が断線しワイヤ部材1の表面から剥離したとしても、結節部分6で剥離の進行を止めることが可能となる。
【0044】
また、配設ステップS1にて用いられる線状部材(表面配置部材3)としては、上述の疎水性セルロース系高分子材料から形成される線材を複数撚り合わせて形成した撚り線部材であってもよい。撚り合わされる各線材は、同一種類の疎水性セルロース系高分子材料により形成されてもよく、或いは、種類の異なる疎水性セルロース高分子材料から形成されたものであってもよい。また、撚糸に供される各線材の本数は特に限定されず、種々の本数を組み合わせて形成することができる。
【0045】
また、配設ステップS1にて用いられる線状部材(表面配置部材3)として撚り線部材を用いる場合には、撚り合わされる線材の一部が、親水化処理ステップS3により親水化されないような材料から形成されるものを使用してもよい。例えば、親水化処理されず疎水性を維持するような材料から、撚り合わされる線材の一部を形成してもよい。このような材料としては、例えば、易滑性を有するフッ素系高分子材料を挙げることができる。フッ素系高分子材料としては、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPE)等、及び、これらのポリマーを含むコポリマー等のフッ素系高分子から形成した疎水性高分子材料を挙げることができる。
【0046】
また、撚り合わされる線材の一部を、例えば、ポリエステル系高分子やポリアミド系高分子等から形成した線材としてもよい。ポリエステル系高分子やポリアミド系高分子から形成される線材は、比較的低い温度で溶融するため、撚り合わされる線材同士を熱融着させることが容易であり、撚り合わされる線材を容易に一体化することが可能となる。ここで、ポリエステル系高分子としては、融着温度が低温である点で脂肪族ポリエステル系高分子がより好ましい。脂肪族ポリエステル系高分子としては 例えば、グリコールと脂肪族ジカルボン酸との重縮合などにより得られるポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンオキザレート、ポリブチレンオキザレート、ポリネオペンチルオキザレート、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケートなどが挙げられる。また、脂肪族ポリエステル系高分子としては、例えば、ポリグリコール酸やポリ乳酸などのようなポリ(α−ヒドロキシ酸)またはこれらの共重合体、ポリ(ε−カプロラクトン)やポリ(β−プロピオラクトン)のようなポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシバリレート)、ポリ(3−ヒドロキシカプロレート)、ポリ(3−ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3−ヒドロキシオクタノエート)のようなポリ(β−ヒドロキシアルカノエート)及びポリ(4−ヒドロキシブチレート)などの脂肪族ポリエステルを挙げることができる。また、上述のポリアミド系高分子としては、融着温度が低温である点で脂肪族ポリアミド系高分子がより好ましい。脂肪族ポリアミド系高分子としては、ポリアミド12、ポリアミド11、ポリアミド6、ポリアミド66等を例示できる。なお、撚り合わされる線材の一部を金属材料から形成される線材としてもよい。
【0047】
上述のように、撚り合わされる線材の一部を、親水化処理ステップS3を経ても親水化処理されず疎水性を維持するような材料から形成した線状部材(表面配置部材3)を用いてワイヤ部材1を製造する場合、親水化処理された線材及び親水化されずに疎水性を維持する線材の双方が線状部材(表面配置部材3)の露出面に現れることとなるため、水分で濡れた環境(ウェット環境)においては、親水化処理された線材が良好な摺動性を発揮する一方、水分で濡れていない環境(ドライ環境)においては、親水化処理されず疎水性のまま維持されるフッ素系高分子材料等からなる線材が良好な摺動性を発揮するワイヤ部材1を得ることができる。
【0048】
また、上記実施形態において、芯材2の外表面に巻回される線状部材の断面形状は特に限定されず、断面形状が円形或いは非円形であってもよい。非円形の断面形状としては、例えば、楕円形状や多角形の断面形状、扇型の断面形状等を例示できる。
【0049】
また、上記実施形態においては、配設ステップS1にて、表面配置部材3として線状部材を用い、これを芯材2の表面に螺旋状に巻回するようにしているが、このような構成に限定されず、例えば、芯材2の表面の略全域に疎水性のセルロース系高分子材料からなるコーティング層を形成し、当該コーティング層を表面配置部材3としてもよい。このようなコーティング層(表面配置部材3)を形成した後、上記加熱ステップS2、及び、親水化処理ステップS3を経ることにより、上記と同様に、表面配置部材3(コーティング層)の露出面がカルボキシル基を分子中に有するセルロース構造を備え、熱融着される表面配置部材3(コーティング層)の熱融着部の少なくとも一部が疎水性のセルロース系高分子となるワイヤ部材1を得ることができる。なお、熱融着部は、コーティング層と芯材2との界面に形成される。ここで、芯材2の表面に疎水性のセルロース系高分子材料からなるコーティング層を形成する方法は、特に限定されず、種々の方法を採用することできる。例えば、疎水性のセルロース系高分子材料を液状化したものを芯材2の表面に噴霧する方法や、疎水性のセルロース系高分子材料を液状化したものが貯留されている貯留槽中に、芯材2を浸漬することにより行う方法を挙げることができる。
【0050】
また、上述のようにコーティングによって表面配置部材3を形成する場合、コーティング層の形状が、芯材2の長手方向に沿って芯材2の表面を螺旋状に巻回するような形状とすることもできる。例えば、芯材2の表面において、螺旋状のコーティング層(表面配置部材3)が配置される部分以外の領域をマスキングした後、所定のコーティング用材料(上述の疎水性のセルロース系高分子材料を液状化したもの)を塗布し、その後、マスキングを除去することにより行うことができる。なお、マスキングは、例えばマスキングテープを用い、このマスキングテープを芯材2の表面に螺旋状に、かつ、所定幅の隙間を空けて巻回することにより行うことができる。