(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アニオン変性セルロースが、アニオン変性セルロースの絶乾質量に対して、1.0mmol/g〜2.0mmol/gのカルボキシル基を有するアニオン変性セルロースである、請求項1に記載の方法。
(A’)N−オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化して、セルロースにカルボキシル基を導入して、アニオン変性セルロースを調製し、当該アニオン変性セルロースを、アルカリ性条件下で酸化剤または還元剤を用いてアルカリ加水分解し、得られたアルカリ加水分解後の反応液を固液分離して、液体を回収する工程、および、
(B’)前記アルカリ加水分解したアニオン変性セルロースをナノファイバー化してアニオン変性セルロースナノファイバー分散液を調製する工程、
を含むアニオン変性セルロースナノファイバー分散液の調製方法であって、
さらに、工程(B’)の後、または工程(A’)と工程(B’)との間に、前記回収した液体を添加する工程
を含む、アニオン変性セルロースナノファイバー分散液製造方法。
N−オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で、酸化剤を用いてセルロース系原料を酸化して、セルロースにカルボキシル基を導入して、アニオン変性セルロースを調製する工程、
アニオン変性セルロースを、アルカリ性条件下で酸化剤または還元剤を用いてアルカリ加水分解する工程、および、
得られたアルカリ加水分解後の反応液に含まれるアニオン変性セルロースを、洗浄することなく、前記反応液中で解繊してナノファイバー化する工程
を含む、アニオン変性セルロースナノファイバー分散液の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書において「〜」は両端の値を含む。
【0012】
1.アニオン変性セルロースナノファイバー
本発明において、アニオン変性セルロースナノファイバーとは、アニオン性の基(カルボキシル基またはカルボキシメチル基など)を導入したセルロース系原料(「アニオン変性セルロース」)を解繊して得られる平均繊維長50nm〜5000nm、好ましくは0.1〜5μm、平均繊維幅1nm〜1000nm、又は2〜300nm、好ましくは2〜150nmであるセルロースのミクロフィブリルをいう。アニオン変性セルロースがカルボキシル基を導入したセルロースである場合には、得られるセルロースナノファイバーは、好ましくは、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリル、あるいは幅2〜300nm、長さ100〜500nm程度のセルロースナノファイバーとなる。
【0013】
<セルロース系原料>
セルロース系原料は、木材由来のクラフトパルプまたはサルファイトパルプ、それらを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース、あるいはそれらを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末等を含む。この他に、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物由来のセルロース系原料も使用できる。量産化やコストの観点からは、粉末セルロース、微結晶セルロース粉末、あるいはクラフトパルプまたはサルファイトパルプのような化学パルプを用いることが好ましい。粉末セルロースまたは微結晶セルロース粉末は、高濃度でも低い粘度を有する分散液を与えるセルロースナノファイバーを提供する。化学パルプを用いる場合は、公知の漂白処理を施してリグニンを除去することが好ましい。漂白済みパルプとしては、例えば、白色度(ISO 2470)が80%以上の漂白済みクラフトパルプまたは漂白済みサルファイトパルプを用いることができる。
【0014】
粉末セルロースとは、木材パルプの非結晶部分を酸加水分解により除去した後、粉砕及び篩い分けすることで得られる微結晶性又は結晶性セルロースからなる棒軸状粒子である。粉末セルロースにおけるセルロースの重合度は100〜500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は70〜90%であり、レーザー解説式粒度分布装置による体積平均粒子径は好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。体積平均粒子径が100μm以下であると、流動性に優れるセルロースナノファイバー分散液を得ることができる。そのような粉末セルロースは、精選パルプを酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製及び乾燥し、粉砕及び篩い分けすることにより調製してもよいし、KCフロック(登録商標)(日本製紙ケミカル株式会社製)、セオラス(登録商標)(旭化成ケミカルズ株式会社製)、アビセル(登録商標)(FMC社製)などの市販品を用いてもよい。
【0015】
また、上記したセルロース系原料を高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの分散装置、湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーなどで微細化したものをセルロース系原料として使用することもできる。
【0016】
<アニオン変性セルロース>
上記のセルロース原料に、下記に例示する公知の方法を用いてアニオン性の基を導入(アニオン変性)することで、アニオン変性セルロースを得ることができる。
【0017】
(1−1)カルボキシメチル化
上記のセルロース系原料を発底原料にし、3〜20質量倍の低級アルコール、具体的にはメタノール、エタノール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合物と水の混合媒体を溶媒として使用する。混合媒体における低級アルコールの混合割合は、60〜95質量%である。発底原料のグルコース残基当たり0.5〜20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムをマーセル化剤として使用し、発底原料、溶媒、及びマーセル化剤を混合し、反応温度を0〜70℃、好ましくは10〜60℃、かつ反応時間を15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間としてマーセル化処理を行う。その後、モノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウム(カルボキシメチル化剤)をグルコース残基当たり0.05〜10.0倍モル添加し、反応温度30〜90℃、好ましくは40〜80℃、かつ反応時間30分〜10時間、好ましくは1時間〜4時間としてエーテル化反応を行うことにより、カルボキシメチル基を導入したセルロースを得ることができる。
【0018】
アニオン変性セルロースとして、カルボキシメチル基を導入したセルロースを用いる場合、セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01〜0.50であることが好ましい。セルロースにカルボキシメチル基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カルボキシメチル基を導入したセルロースは容易にナノオーダーへと解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.01より小さいと、十分に解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.50より大きいと、解繊時にセルロースが膨潤あるいは溶解し、ナノファイバーが得られない場合がある。
【0019】
カルボキシメチル置換度は、以下の方法により測定できる:
試料約2.0gを精秤して、300ml共栓三角フラスコに入れる。硝酸メタノール(無水メタノール1Lに特級濃硝酸100mlを加えた液)100mlを加え、3時間振盪して、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na−CMC)をカルボキシメチルセルロース(H−CMC)にする。その絶乾H−CMC1.5〜2.0gを精秤し、300ml共栓三角フラスコに入れる。80%メタノール15mlでH−CMCを湿潤し、0.1NのNaOH100mlを加えて室温で3時間振盪する。指示薬としてフェノールフタレインを用いて、0.1NのH
2SO
4で過剰のNaOHを逆滴定する。次式:
[{100 × F’−(0.1NのH
2SO
4(ml))×F}/(H−CMCの絶乾質量(g))]×0.1=A
カルボキシルメチル置換度=0.162A/(1−0.058A)
A:1gのH−CMCを中和するのに必要な1NのNaOHの量(ml)
F’:0.1NのH
2SO
4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター
を用いてカルボキシルメチル置換度を算出する。
【0020】
(1−2)カルボキシル化
上記のセルロース原料を、N−オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化することにより、カルボキシル基を導入したセルロース(以下、「酸化セルロース」とも呼ぶ。)を得ることができる。
【0021】
N−オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N−オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。例えば、下記一般式(式1)で示される化合物が挙げられる。
【0022】
【化1】
(式1中、R
1〜R
4は同一又は異なる炭素数1〜4程度のアルキル基を示す。)
【0023】
式1で表される物質のうち、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−オキシラジカル(以下、TEMPOと称する)は好ましい。また、下記式2〜5のいずれかで表されるN−オキシル化合物、すなわち、4−ヒドロキシTEMPOの水酸基をアルコールでエーテル化、またはカルボン酸若しくはスルホン酸でエステル化し、適度な疎水性を付与した4−ヒドロキシTEMPO誘導体、あるいは4−アミノTEMPOのアミノ基をアセチル化し、適度な疎水性を付与した4−アセトアミドTEMPOは、安価であり、かつ均一な酸化セルロースを得ることができるため、好ましい。
【0024】
【化2】
(式2〜4中、Rは炭素数4以下の直鎖又は分岐状炭素鎖である。)
【0025】
さらに、下記式6で表されるN−オキシル化合物、すなわち、アザアダマンタン型ニトロキシラジカルは、短時間で効率よくセルロース系原料を酸化でき、また、セルロース鎖の切断も起こりにくいため、好ましい。
【0026】
【化3】
(式6中、R
5及びR
6は、同一又は異なる水素又はC
1〜C
6の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基を示す。)
【0027】
N−オキシル化合物の使用量は、セルロースをナノファイバー化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.01〜10mmolが好ましく、0.01〜1mmolがより好ましく、0.05〜0.5mmolがさらに好ましい。
【0028】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.1〜100mmolが好ましく、0.1〜10mmolがより好ましく、0.5〜5mmolがさらに好ましい。
【0029】
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムは好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロース系原料に対して、0.5〜500mmolが好ましく、0.5〜50mmolがより好ましく、1〜25mmolがさらに好ましく、3〜10mmolが最も好ましい。
【0030】
セルロースの酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は15〜30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを9〜12、好ましくは10〜11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。
【0031】
酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5〜6時間、例えば、0.5〜4時間程度である。
【0032】
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、セルロース系原料に効率よくカルボキシル基を導入できる。
【0033】
酸化セルロースのカルボキシル基量が、セルロースの絶乾質量に対して、0.2〜2.0mmol/g以上となるように条件を設定することが好ましい。より好ましくは1.0mmol/g〜2.0mmol/gである。カルボキシル基量は、酸化反応時間の調整、酸化反応温度の調整、酸化反応時のpHの調整、N−オキシル化合物や臭化物、ヨウ化物、酸化剤の添加量の調整などを行なうことにより調製できる。
【0034】
得られた酸化セルロースは、洗浄することが好ましい。
【0035】
カルボキシル基量は、酸化セルロース又はセルロースナノファイバーの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる:
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース又はセルロースナノファイバー〕=a〔ml〕×0.05/酸化セルロース又はセルロースナノファイバー質量〔g〕。
【0036】
<アニオン変性セルロースのナノファイバー化>
前記で得たアニオン変性セルロースを含む分散液を調製し、分散液中でアニオン変性セルロースを解繊してナノファイバー化する。「ナノファイバー化する」とは、セルロースを、平均繊維幅1〜1000nm、又は2〜300nm、好ましくは2〜150nm、平均繊維長50〜5000nm、好ましくは0.1〜5μmのセルロースファイバーへと加工することを意味する。アニオン変性セルロースがカルボキシル基を導入したセルロースである場合には、得られるセルロースファイバーは、好ましくは、幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度、あるいは幅2〜300nm、長さ100〜500nm程度である。分散液とは前記アニオン変性セルロースが分散媒に分散している液である。取扱い容易性から、分散媒は水であることが好ましい。
【0037】
アニオン変性セルロースを解繊して分散媒中に分散させるには、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いて分散液に強力なせん断力を印加することが好ましい。特に、アニオン変性セルロースナノファイバーを効率よく得るには、前記分散液に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。この処理により、アニオン変性セルロースが解繊してアニオン変性セルロースナノファイバーが形成され、かつアニオン変性セルロースナノファイバーが分散媒中に分散する。
【0038】
前記処理に供する分散液中のアニオン変性セルロース濃度は、0.1%(w/v)以上であり、1〜50%(w/v)が好ましく、1〜10%(w/v)がより好ましい。2〜10%(w/v)、または3〜10%(w/v)でもよい。
【0039】
2.1価または2価の金属イオンを有する化合物
本発明は、アニオン変性セルロースナノファイバー分散液に1価又は2価の金属イオンを含有させることにより、セルロースナノファイバー分散液の流動性を向上させるものである。1価又は2価の金属イオンは、セルロースナノファイバー分散液の製造工程のいずれの段階で添加してもよい。例えば、アニオン変性セルロースの製造後に添加してもよいし、アニオン変性セルロースをナノファイバー化してアニオン変性セルロースナノファイバー分散液を調製した後に添加してもよい。流動性向上の観点から、最終的なアニオン変性セルロースナノファイバー分散液における添加された1価又は2価の金属イオンの量が、アニオン変性セルロース(アニオン変性セルロースナノファイバーを含む)の量に対して、0.3〜10%(w/w)となることが好ましい。より好ましくは0.4〜10%(w/w)、さらに好ましくは0.5〜8%(w/w)である。添加された金属イオンの割合が、10%(w/w)を超えても減粘効果の更なる向上は見られず、一方、0.3%(w/w)未満であると十分な効果を得ることができない。なお、ここで、「添加された金属イオンの割合」とは、アニオン変性セルロース自体に付随する金属イオン(例えば、カルボキシル基を導入したセルロースにおいてカルボキシル基に付随して持ちこまれるNaイオン(−COONa))は計算に含めないことを意図している。また、「最終的なアニオン変性セルロースナノファイバー分散液における添加された金属イオンの割合」とは、アニオン変性セルロースナノファイバー分散液の製造工程において所定量の金属イオンを添加した場合であっても、その後に洗浄を行うなどにより、添加された金属イオンがセルロースナノファイバー分散液から除去された場合には(すなわち、最終的な分散液中に、添加された金属イオンが含まれなくなった場合には)、計算に含めないことを意図している。
【0040】
アニオン変性セルロースナノファイバー分散液中の添加された金属イオンの量は、製造工程において既知の濃度の金属イオンを添加した場合には、計算により求めることができる。また、製造の各段階における金属イオン濃度を公知の方法で測定することにより、最終的な分散液中の添加された金属イオンの量を求めることもできる。金属イオン濃度の測定には、例えば、市販のイオン濃度測定器(例えば、東亜ディーケーケー株式会社製、ポータブルイオン計IM−32Pなど)を用いることができる。
【0041】
1価又は2価の金属イオンとしては、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム等のイオンが挙げられる。ナトリウムイオンまたはカリウムイオンが好ましい。1価又は2価の金属イオンは任意の無機塩又は有機塩の形態で添加することができる。そのような1価又は2価の金属イオンを有する化合物としては、上記金属イオンの塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、水酸化物塩、硝酸塩、亜硝酸塩、リン酸二水素塩、硫酸塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩、ピロリン酸塩、ポリリン酸塩、トリポリリン酸塩、テトラポリリン酸塩、メタリン酸塩、トリメタリン酸塩、テトラメタリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、ポリイタコン酸塩、オルトケイ酸塩、メタケイ酸塩、ホスホン酸塩、ポリマレイン酸共重合体塩、フミン酸塩、タンニン酸塩、ドデシル硫酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、スルホン酸基結合ポリエステル及び/またはその塩などが挙げられる。有機塩である場合、有機酸は単独重合体に限定されず、共重合体でもよい。例えば、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸へ、他の単量体を共重合させたものでもよい。その場合の共重合させる単量体としては、例えば、α−ヒドロキシアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸などが挙げられる。1価又は2価の金属イオンを有する化合物は、これらの混合物であってもよい。
【0042】
また、1価又は2価の金属イオンを有する化合物として、後述するアニオン変性セルロースのアルカリ加水分解反応後の反応液からの排液を使用してもよい。
【0043】
特定の理論に縛られるものではないが、本発明者らは、本発明において優れた効果が発現する理由を次のように推測している:
アニオン変性セルロースナノファイバーの表面に局在するアニオン性基によりセルロースナノファイバーの周囲には水和層が形成され、セルロースナノファイバー同士は近接して存在しネットワークを形成している。このアニオン変性セルロースナノファイバーに、1価または2価の金属イオンを有する化合物が一定量含まれていると、セルロースナノファイバー同士が部分的に結合する。この結果、分散液中の粒子数が減少し、分散液が低粘度化すると推測される。
【0044】
3.アルカリ加水分解
アニオン変性セルロースとしてカルボキシル基を導入したセルロースを用いる場合には、ナノファイバー化を行う前に、任意にアルカリ性条件下で加水分解(「アルカリ加水分解」)してもよい。アルカリ加水分解は、水を反応媒体として行なうことができる。また、助剤として酸化剤または還元剤を用いる。酸化剤または還元剤としては、アルカリ性領域で活性を有するものを使用できる。酸化剤の例には、酸素、オゾン、過酸化水素、次亜塩素酸塩が含まれ、これらの2種以上を併用して使用してもよい。また、還元剤の例には、水素化ホウ素ナトリウム、ハイドロサルファイト、亜硫酸塩が含まれ、これらの2種以上を併用して使用してもよい。反応効率の観点から、助剤の添加量は絶乾したアニオン変性セルロースに対して0.1〜10質量%が好ましく、0.3〜5質量%がより好ましく、0.5〜2質量%がさらに好ましい。
【0045】
アルカリ加水分解反応における系のpHは、8〜14が好ましく、9〜13がより好ましく、10〜12がさらに好ましい。用いるアルカリは水溶性であればよいが、製造コストの観点から、水酸化ナトリウムが最適である。また、温度は40〜120℃が好ましくは、50〜100℃がより好ましく、60〜90℃がさらに好ましい。反応時間は0.5〜24時間が好ましく、1〜10時間がより好ましく、2〜6時間がさらに好ましい。系中のアニオン変性セルロースの濃度は、1〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましく、5〜10質量%がさらに好ましい。
【0046】
アルカリ加水分解により、アニオン変性セルロースをナノファイバー化する際に要するエネルギーを低減させることができる。この理由は、明らかではないが、次のように推測している:
N−オキシル化合物を用いて酸化されたセルロースの非晶質領域にはカルボキシル基が散在しており、カルボキシル基が存在しているC6位の水素はカルボキシル基により電子が吸引されているので電荷が欠乏している状態にある。そのため、アルカリ性条件下では当該水素は水酸化物イオンで容易に引き抜かれる。するとβ脱離によるグルコシド結合の開裂反応が進行して、酸化セルロースは短繊維化される。このように酸化セルロースの繊維長を短くすることで、この原料を含む分散液の粘度を低下させることができる。その結果、次工程のナノファイバー化に要するエネルギーが低減される。ただし、単にアルカリ性条件下で加水分解すると、セルロースは黄色に着色しやすい。この原因は、β脱離の際に二重結合が生成するためと考えられる。そこで、アルカリ性条件下での加水分解において、酸化剤や還元剤を用いると、この二重結合が酸化または還元されて除去されるので、着色が抑制される。
【0047】
<アルカリ加水分解反応からの排液の利用>
(3−1)アルカリ加水分解反応からの排液の添加
本発明は、分散液に1価または2価の金属イオンを有する化合物を含有させることにより、分散液の流動性を向上させるものであるが、この1価又は2価の金属イオン有する化合物として、上記のアルカリ加水分解反応から得られる排液を使用することもできる。排液を使用する際には、アルカリ加水分解反応終了後の反応液を、固液分離し、得られた液体を「排液」として使用する。固液分離装置は特に限定されないが、デカンタ等の縦型又は横型遠心式固液分離脱水機、真空フィルター、加圧フィルター、ドラムディスプレーサ等のフィルター式固液分離脱水機、フィルタープレス、ベルトプレス、スクリュープレス、ツインロールプレス、ウォッシュプレス等のプレス式固液分離脱水機などが挙げられる。
【0048】
アルカリ加水分解反応からの排液は、アルカリ加水分解処理を行ったアニオン変性セルロースを解繊して得たセルロースナノファイバー分散液に添加してもよいし、また、アルカリ加水分解処理を施していないアニオン変性セルロースを解繊して得たセルロースナノファイバー分散液に添加してもよい。排液の添加量は、排液中に含まれる1価又は2価の金属イオンの濃度に応じて決定すればよい。
【0049】
(3−2)アルカリ加水分解反応後、未洗浄のまま解繊
また、アルカリ加水分解からの排液の利用方法の1つとして、上記のアルカリ加水分解反応終了後に、洗浄を行わずに、解繊を行うことにより、セルロースナノファイバー分散液中に、アルカリ加水分解反応液からの1価又は2価の金属イオンを含有させることもできる。このように、アニオン変性セルロース(カルボキシル基を導入したセルロース)をアルカリ加水分解した後、未洗浄のまま解繊してセルロースナノファイバー分散液とすることにより、分散液中にアルカリ加水分解反応後の反応液に残留する1価又は2価の金属イオンが含有されることとなる。
【0050】
カルボキシル基を導入したセルロースを、アルカリ加水分解反応し、未洗浄のまま解繊して得られるセルロースナノファイバーは、幅2〜300nmm、長さ100〜500nm程度のセルロース、又は幅2〜5nm、長さ1〜5μm程度のセルロースのシングルミクロフィブリルである。このセルロースナノファイバーは、濃度5.0%(w/v)の水分散液におけるB型粘度(60rpm、20℃)が3000mPa・s以下、好ましくは2000mPa・s以下、さらに好ましくは1000mPa・s以下である。濃度5%(w/v)の水分散液におけるB型粘度が3000mPa・s以下であると種々の顔料やバインダー樹脂などと優れた混和性を有する。さらに当該粘度が1000Pa・s以下であると一定以上の膜厚および優れた表面性を有する塗工層を効率よく得ることができる。B型粘度の下限値は特に限定されないが、通常、1mPa・s以上、または5mPa・s以上程度である。B型粘度は、通常のB型粘度計を用いて測定することができ、例えば、東機産業株式会社製のTV−10型粘度計を用いて、20℃、60rpmの条件で測定できる。このセルロースナノファイバーは、流動性に優れ、さらにバリヤー性および耐熱性にも優れるので、包装材料等の様々な用途に使用することが可能である。
【0051】
4.低粘度化処理
アニオン変性セルロースとしてカルボキシル基を導入したセルロースを用いる場合には、ナノファイバー化の前に、アニオン変性セルロースを上記のアルカリ加水分解とは別の方法で任意に低粘度化処理してもよい。これにより、ナノファイバー化に要するエネルギーを低減させることができる。低粘度化処理とは、アニオン変性セルロースのセルロース鎖を適度に切断(セルロース鎖を短繊維化)することである。このように処理された原料は分散液としたときの粘度が低くなるので、低粘度化処理とは、低粘度の分散液を与えるアニオン変性セルロースを得る処理ともいえる。低粘度化処理は、アニオン変性セルロースの粘度が低下するような処理であればよく、例えば、アニオン変性セルロースに紫外線を照射する処理、過酸化水素およびオゾンで酸化分解する処理、酸で加水分解する処理、ならびにこれらの組み合わせなどが挙げられる。これらの低粘度化処理を行う場合には、アルカリ加水分解の前に行ってもよいし、アルカリ加水分解とナノファイバー化との間に行ってもよい。また、アルカリ加水分解を行わずに、これらの低粘度化処理のみを行ってからナノファイバー化してもよい。
【0052】
(4−1)紫外線照射
アニオン変性セルロースに紫外線を照射して低粘度化処理を行なう場合、紫外線の波長は、好ましくは100〜400nmであり、より好ましくは100〜300nmである。このうち、波長135〜260nmの紫外線は、直接セルロースやヘミセルロースに作用して低分子化を引き起こし、アニオン変性セルロースを短繊維化することができるので好ましい。
【0053】
紫外線を照射する光源としては、100〜400nmの波長領域の光を照射できるものを使用すればよい。その具体例には、キセノンショートアークランプ、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ等が含まれ、これらの1種あるいは2種以上を任意に組合せて使用できる。特に波長特性の異なる複数の光源を組合せて使用すると、異なる波長の紫外線を同時に照射してセルロース鎖やヘミセルロース鎖の切断箇所を増加させられるので短繊維化を促進できる。
【0054】
アニオン変性セルロースを収容する容器としては、例えば、300nmより長波長の紫外線を用いる場合は、硬質ガラス製容器を用いることができるが、それより短波長の紫外線を用いる場合は、紫外線をより透過させる石英ガラス製容器を用いることが好ましい。容器における紫外線による反応に関与しない部分の材質は、紫外線の波長に対して劣化の少ない材質を適宜選択してよい。
【0055】
反応を効率よく行なうために、アニオン変性セルロースは分散媒に分散させて分散液とし、当該分散液に紫外線を照射することが好ましい。分散媒は、副反応を抑制する観点等から水が好ましい。エネルギー効率を高める観点から、分散液中のアニオン変性セルロース濃度は0.1質量%以上が好ましい。また紫外線照射装置内でのアニオン変性セルロースの流動性を良好に保って反応効率を高めるために、当該濃度は12質量%以下が好ましい。従って、分散液中のアニオン変性セルロース濃度は0.1〜12質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましく、1〜3質量%がさらに好ましい。
【0056】
反応効率の観点から、反応温度は20℃以上が好ましい。一方、温度が高すぎるとアニオン変性セルロースの劣化や、反応装置内の圧力が大気圧を超えるおそれが生じるので、反応温度は95℃以下が好ましい。従って、反応温度は20〜95℃が好ましく、20〜80℃がより好ましく、20〜50℃がさらに好ましい。反応温度がこの範囲であると、耐圧性を考慮した装置設計を行なう必要性がないという利点もある。当該反応における系のpHは限定されないが、プロセスの簡素化を考えると中性領域、例えばpH6.0〜8.0程度が好ましい。
【0057】
紫外線照射の程度は、照射反応装置内でのアニオン変性セルロースの滞留時間や照射光源のエネルギー量を調節すること等により、任意に設定できる。例えば、照射装置内のアニオン変性セルロースの分散液を水等によって希釈する、あるいは空気や窒素等の不活性気体を吹き込んで希釈することにより、アニオン変性セルロースが受ける紫外線の照射量を調整できる。これらの条件は、処理後の原料の品質(繊維長やセルロース重合度等)を所望の値とするために適宜選択される。
【0058】
紫外線の照射は、酸素、オゾン、または、過酸化物(過酸化水素、過酢酸、過炭酸Na、過ホウ酸Na等)などの助剤の存在下で行なうと、光酸化反応の効率をより高めることができるので好ましい。特に135〜242nmの波長領域の紫外線を照射する場合、光源周辺の気相部には通常存在する空気によってオゾンが生成するが、このオゾンを助剤として用いることが好ましい。例えば、光源周辺部に連続的に空気を供給して生成するオゾンを連続的に抜き出し、この抜き出したオゾンをアニオン変性セルロースへと注入することにより、系外からオゾンを供給すること無しに、光酸化反応の助剤としてオゾンを利用することができる。さらに、光源周辺の気相部に酸素を供給することにより、より大量のオゾンを系内に発生させることもできる。このように、紫外線照射反応装置で副次的に発生するオゾンを利用することができる。
【0059】
紫外線の照射は、複数回繰り返すことができる。繰り返しの回数は、処理後の原料の品質や、漂白などの後処理などとの関係に応じて適宜設定できる。例えば、100〜400nm、好ましくは135〜260nmの紫外線を、1〜10回、好ましくは2〜5回程度照射することができる。この際、1回あたりの照射時間は0.5〜10時間が好ましく、0.5〜3時間が好ましい。
【0060】
(4−2)過酸化水素およびオゾンによる酸化分解
オゾンは、空気あるいは酸素を原料としてオゾン発生装置にて公知の方法で発生させることができる。前述のとおり、酸化反応を効率よく行なうためにアニオン変性セルロースを水等の分散媒に分散させて分散液として用いることが好ましい。オゾンの使用量(質量)は、アニオン変性セルロースの絶乾質量の0.1〜3倍が好ましい。オゾンの使用量がアニオン変性セルロースの絶乾質量の0.1倍以上であればセルロースの非晶部を十分に分解することができ、次工程のナノファイバー化に要するエネルギーを削減できる。一方、オゾンの使用量が過度に多くなるとセルロースの過度の分解が起こりうるが、使用量がアニオン変性セルロースの絶乾質量の3倍以下であると、過度の分解を抑制することができる。オゾン使用量は、より好ましくは、アニオン変性セルロースの絶乾質量の0.3〜2.5倍であり、さらに好ましくは0.5〜1.5倍である。
【0061】
過酸化水素の使用量(質量)は、アニオン変性セルロースの絶乾質量の0.001〜1.5倍が好ましい。アニオン変性セルロースの0.001倍以上の量で過酸化水素を使用すると、オゾンと過酸化水素との相乗作用が生じ、効率のよい反応が可能となる。一方、アニオン変性セルロースの分解には、アニオン変性セルロースの1.5倍以下程度の量の過酸化水素を使用すれば十分であり、それより多い使用量はコストアップにつながる。過酸化水素の使用量は、より好ましくは、アニオン変性セルロースの絶乾質量の0.1〜1.0倍である。
【0062】
反応効率の観点から、オゾンおよび過酸化水素による酸化分解処理における系のpHは2〜12が好ましく、pH4〜10がより好ましく、pH6〜8がさらに好ましい。温度は10〜90℃が好ましく、20〜70℃がより好ましく、30〜50℃がさらに好ましい。処理時間は、1〜20時間が好ましく、2〜10時間がより好ましく、3〜6時間がさらに好ましい。
【0063】
オゾンおよび過酸化水素による処理を行なうための装置は、通常使用される装置を用いることができる。その例には、反応室、撹拌機、薬品注入装置、加熱器、およびpH電極を備えた通常の反応器が含まれる。
【0064】
オゾンおよび過酸化水素による処理後、水溶液中に残留するオゾンや過酸化水素はナノファイバー化工程でも有効に作用するので、より低粘度の分散液を与えるセルロースナノファイバーを製造できる。
【0065】
過酸化水素およびオゾンによりアニオン変性セルロースの低粘度化処理を実施できる理由は以下のように推察される:
アニオン変性セルロース同士の間にはアニオン性基同士の電荷反発力の作用で通常のパルプでは見られない微視的隙間が存在している。アニオン変性セルロースをオゾンおよび過酸化水素で処理すると、オゾンおよび過酸化水素から酸化力に優れるヒドロキシラジカルが発生し、微視的隙間に浸透してアニオン変性セルロース中のセルロース鎖を効率よく酸化分解して短繊維化する。
【0066】
(4−3)酸による加水分解
アニオン変性セルロースに酸を添加してセルロース鎖の加水分解(「酸加水分解」)を行なう。酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、またはリン酸のような鉱酸を使用することが好ましい。前述のとおり、反応を効率よく行なうために、アニオン変性セルロースを水等の分散媒に分散させた分散液を用いることが好ましい。酸加水分解の条件としては、酸がセルロースの非晶部に作用するような条件であればよい。例えば、酸の添加量としては、アニオン変性セルロースの絶乾質量に対して0.01〜0.5質量%が好ましく、0.1〜0.5質量%がさらに好ましい。酸の添加量が0.01質量%以上であると、セルロースの加水分解が進行し、ナノファイバー化の効率が向上するので好ましい。また、当該添加量が0.5質量%以下であるとセルロースの過度の加水分解を防ぐことができ、セルロースナノファイバーの収率の低下を防止することができる。酸加水分解時の系のpHは、2.0〜4.0が好ましく、2.0以上3.0未満がより好ましい。ただし、アニオン変性セルロースの分散媒中にアルカリ加水分解反応等からのアルカリが残存している場合は、酸の添加量を適宜増やして系のpHを前記範囲に調整することが好ましい。反応効率の観点から、反応は温度70〜120℃で、1〜10時間行なうことが好ましい。
【0067】
ナノファイバー化を効率よく行なうためには、酸加水分解処理後は水酸化ナトリウム等のアルカリを添加して中和することが好ましい。
【0068】
酸加水分解によりアニオン変性セルロースの低粘度化処理を実施できる理由は以下のように推察される:
前述のとおり、アニオン変性セルロースの表面に局剤するアニオン性基によりアニオン変性セルロースの周囲には水和層が形成され、アニオン変性セルロース同士は近接して存在しネットワークを形成している。酸を添加して加水分解を行なうと、ネットワーク中の電荷のバランスが崩れてセルロース分子の強固なネットワークが崩れ、アニオン変性セルロースの比表面積が増大し、短繊維化が促進され、低粘度化する。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
工程A:針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%)500g(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社)780mgと臭化ナトリウム75.5gを溶解した水溶液500mlに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を6.5mmol/gになるように添加し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応後の混合物をガラスフィルターで濾過してパルプ分離し、パルプを十分に水洗することで酸化されたパルプ(カルボキシル基を導入したパルプ)を得た。この時のパルプ収率は86%であり、酸化反応に要した時間は115分であった。
【0071】
工程B:前記酸化パルプを1.053%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、140Mpa)で3回処理して、アニオン変性セルロースナノファイバー分散液を得た。金属イオンを有する化合物(グルクロン酸ナトリウム)の3%(w/v)水溶液を調製し、セルロースナノファイバー分散液95mlに対し、5ml添加し、ホモジナイザーによって、3000rpm、1分間攪拌することで均一な分散液を得た。
【0072】
得られた分散液の20℃、60rpmにおけるB型粘度を、東機産業株式会社製のTV−10型粘度計を用いて測定した。
【0073】
B型粘度の測定結果と、分散液中のアニオン変性セルロースに対する1価又は2価の金属イオンの濃度(w/w%)を表1に示す。
【0074】
[実施例2]
上記工程Bにおいて、金属イオンを有する化合物をセロウロン酸ナトリウムとした以外は実施例1と同様にして分散液を得た。
【0075】
[実施例3]
上記工程Bにおいて、金属イオンを有する化合物をカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(日本製紙ケミカル製;A02SH)とした以外は実施例1と同様にして分散液を得た。
【0076】
[実施例4]
上記工程Bにおいて、金属イオンを含有する化合物をエチレンジアミン四酢酸ナトリウムとした以外は実施例1と同様にして分散液を得た。
【0077】
[実施例5]
上記工程Bにおいて、金属イオンを含有する化合物をフィチン酸ナトリウムとした以外は実施例1と同様にして分散液を得た。
【0078】
[実施例6]
上記工程Bにおいて、金属イオンを含有する化合物をポリアクリル酸ナトリウム(サンノプコ製;SNディスパーサント L−400)とした以外は実施例1と同様にして分散液を得た。
【0079】
[実施例7]
上記工程Bにおいて、金属イオンを含有する化合物をポリスルホン酸ナトリウム(花王製;A−6012)とした以外は実施例1と同様にして分散液を得た。
【0080】
[実施例8]
上記工程Bにおいて、金属イオンを含有する化合物をポリスチレンスルホン酸ナトリウムとした以外は実施例1と同様にして分散液を得た。
【0081】
[実施例9]
上記工程Bにおいて、金属イオンを含有する化合物をβ−硫酸化シクロデキストリンのナトリウム塩とした以外は実施例1と同様にして分散液を得た。
【0082】
[
参考例10]
上記工程Bにおいて、金属イオンを含有する化合物を塩化ナトリウムとした以外は実施例1と同様にして分散液を得た。
【0083】
[実施例11]
上記工程Bにおいて、金属イオンを含有する化合物をポリアクリル酸ナトリウムとポリアクリル酸マグネシウムの混合物(花王製;ポイズ(登録商標))とした以外は実施例1と同様にして分散液を得た。
【0084】
[
参考例12]
上記工程Bにおいて、金属イオンを含有する化合物を塩化マグネシウムとした以外は実施例1と同様にして分散液を得た。
【0085】
[
参考例13]
上記工程Bにおいて、金属イオンを含有する化合物を塩化カリウムとした以外は実施例1と同様にして分散液を得た。
【0086】
[
参考例14]
パルプを混ぜることができる撹拌機に、パルプ(LBKP、日本製紙(株)製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で88g加え、パルプ固形濃度が15%になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後に70℃まで昇温し、モノクロロ酢酸ナトリウムを117g(有効成分換算)添加した。1時間反応した後に、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.05のアニオン変性セルロース(カルボキシメチル基を導入したセルロース)を得た。その後、アニオン変性セルロースを、実施例1に記載の工程Bに従ってナノファイバー化して、アニオン変性セルロースナノファイバー分散液を得た。金属イオンを有する化合物(塩化ナトリウム)の3%(w/v)水溶液を調製し、セルロースナノファイバー分散液95mlに対し、5ml添加し、ホモジナイザーによって、3000rpm、1分間撹拌することで均一な分散液を得た。調製した分散液の20℃、60rpmにおけるB型粘度を測定した結果を表1に示す。
【0087】
[比較例1]
実施例1の工程Aで調製した酸化パルプから、実施例1の工程Bに従って1.053%(w/v)セルロースナノファイバー分散液を調製した。実施例1の工程Bに記載の金属イオンを含有する化合物の代わりに、金属イオンを含まない化合物(ポリビニルアルコール;PVA)の水溶液を添加し、ホモジナイザーによって、3000rpm、1分間攪拌することで均一な分散液を得た。調製した分散液の20℃、60rpmにおけるB型粘度を測定した結果を表1に示す。
【0088】
[比較例2]
比較例1で用いたPVA水溶液の代わりに超純水を用いた以外は、比較例1と同様にして分散液を調製した。
【0089】
[比較例3]
金属イオンを有する化合物の代わりに超純水を添加した以外は、実施例14と同様にして分散液を調製した。
【0090】
【表1】
【0091】
[実施例15]
(漂白済みLDKPの調製)
2.4L容の回転型オートクレーブに広葉樹チップ絶乾量300gを入れ、水を加えて液比を2L/kgとした。170℃で30分間保持して加水分解処理した後、中和液を加えて155℃で15分間中和処理した。中和液は活性アルカリ11%(対チップ質量)、硫化度25%、液比2.5L/kgとなるように水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを混合して調整した。中和処理後にオートクレーブより液を抜き取り、蒸解液(活性アルカリ9%(対チップ質量)、硫化度25%、液比2.5L/kgとなるように水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを混合して調製した)を添加して160℃でHファクターが830になるまで蒸解した。
【0092】
蒸解後の未晒しパルプを酸素脱リグニンした後、ECF漂白としてD0−E/P−D1のシーケンスで漂白処理した。酸素脱リグニンはQuantum high intensity mini mixerを用いて行い、反応後、パルプを十分に洗浄した。漂白はすべてプラスチックバッグにパルプスラリー(パルプ濃度10%)を入れてウォーターバス内で行った。漂白後、パルプ濃度1.5%まで清水で希釈し、搾水を用いて数回洗浄した。続く漂白段では前段の搾水を用いてパルプ濃度を15%とした後、パルプ濃度が10%となるように漂白薬品を所定量添加して漂白した。ただしD0段に限り、前段の酸素脱リグニンの排水は持ち込んでいない。酸素脱リグニン:パルプ濃度10%、水酸化ナトリウム添加量4.0%、酸素初期圧6.0kg/cm2、反応温度98℃、反応時間60分。D0:パルプ濃度10%、二酸化塩素添加量10kg/ADTP、反応温度55℃、反応時間40分。E/P:パルプ濃度10%、水酸化ナトリウム添加量7.0kg/ADTP、過酸化水素添加量2.7g/ADTP、反応温度65℃、反応時間90分。D1:パルプ濃度10%、二酸化塩素添加量1.5kg/ADTP、反応温度65℃、反応時間180分。以上の漂白処理により、漂白済み未叩解パルプ(漂白済みLDKP、白色度86%)を得た。
【0093】
(LDKPのアニオン変性)
以上の手順を繰り返し、得られたLDKP100g(絶乾)をTEMPO(SigmaAldrich社)1.56gと臭化ナトリウム15.1gを溶解した水溶液10Lに加え、パルプが均一に分散するまで攪拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)360mlを添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応した後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで、酸化パルプを得た。
【0094】
(アニオン変性セルロースのアルカリ加水分解)
酸化パルプ30g(絶乾)に1mol/L NaOH11.25mlと30%過酸化水素水4mlを添加し、超純水を加えて、5%(w/v)に調整した後、オートクレーブで80℃2時間加熱した。
【0095】
(アルカリ加水分解反応からの排液の回収)
得られた、酸化パルプのアルカリ加水分解処理物を遠心分離により固液分離した。
【0096】
(アニオン変性セルロースの解繊)
上記固液分離からの固形分を洗浄、脱水した後、硫酸を用いてpH2にし、さらに遠心脱水し、水酸化ナトリウムで中和して、濃度10%(w/v)、pH7として、濃縮した酸化パルプを調製した。濃縮した酸化パルプを超高圧ホモジナイザーで10回処理したところ、透明なゲル状分散液(10%(w/v))が得られた。
【0097】
(アルカリ加水分解反応からの排液の添加)
このゲル状分散液に、アルカリ加水分解物を固液分離して得られた溶液を濃度6.7%(w/v)となるように添加し、均質になるまで攪拌した。
【0098】
得られた6.7%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)を、TV−10型粘度計(東機産業社)を用いて測定した。
【0099】
[実施例16]
(アニオン変性)
針葉樹由来の漂白済み未叩解パルプ(日本製紙株式会社製、白色度86%)パルプ100g(絶乾)をTEMPO(SigmaAldrich社)1.56gと臭化ナトリウム15.1gを溶解した水溶液10Lに加え、パルプが均一に分散するまで攪拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素5%)360mlを添加した後、0.5N塩酸水溶液でpHを10.3に調整し、酸化反応を開始した。反応中は系内のpHは低下するが、0.5N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。2時間反応した後、ガラスフィルターで濾過し、十分に水洗することで、酸化パルプを得た。
【0100】
(アルカリ加水分解と排液の回収)
酸化パルプ30g(絶乾)に1mol/L NaOH11.25mlと30%過酸化水素水4mlを添加し、超純水を加えて、5%(w/v)に調整した後、オートクレーブで80℃2時間加熱した。
【0101】
得られた、酸化さパルプのアルカリ加水分解処理物を遠心分離により固液分離した。
【0102】
(解繊とアルカリ加水分解からの排液の添加)
上記の固液分離からの固形分を洗浄、脱水した後、超純水を加えて、3%(w/v)に調整し、超高圧ホモジナイザーで10回処理したところ、透明なゲル状分散液(3%(w/v))が得られた。
【0103】
このゲル状分散液に、アルカリ加水分解物を固液分離して得られた溶液を濃度2%(w/v)となるように添加し、均質になるまで攪拌した。得られた2%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)を、TV−10型粘度計(東機産業社)を用いて測定した。
【0104】
[実施例17]
実施例15と同様にして得られた酸化パルプに超純水を加えて、4%(w/v)に調整した後超高圧ホモジナイザーで10回処理したところ、透明なゲル状分散液(4%(w/v))が得られた。
【0105】
このゲル状分散液に、実施例15でアルカリ加水分解物を固液分離して得られた溶液を濃度3%(w/v)となるように添加し、均質になるまで攪拌した。得られた3%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)を、TV−10型粘度計(東機産業社)を用いて測定した。
【0106】
[比較例3]
実施例15と同様にして得られた透明なゲル状分散液(10%(w/v))に超純水を濃度6.7%(w/v)となるように添加し、均質になるまで攪拌した。得られた6.7%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)を、TV−10型粘度計(東機産業社)を用いて測定した。
【0107】
[比較例4]
実施例16と同様にして得られた透明なゲル状分散液(3%(w/v))に超純水を濃度2%(w/v)となるように添加し、均質になるまで攪拌した。得られた2%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)を、TV−10型粘度計(東機産業社)を用いて測定した。
【0108】
[比較例5]
実施例17と同様にして得られた透明なゲル状分散液(4%(w/v))に超純水を濃度3%(w/v)となるように添加し、均質になるまで攪拌した。得られた3%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)を、TV−10型粘度計(東機産業社)を用いて測定した。
【0109】
【表2】
【0110】
[実施例18]
実施例15と同様にして、漂白済みLDKP(白色度86%)を調製し、LDKPをアニオン変性(カルボキシル基の導入)して酸化パルプを調製し、酸化パルプにアルカリ加水分解を行った。
【0111】
未洗浄のアルカリ加水分解処理後の酸化パルプを超高圧ホモジナイザー(処理圧140MPa)で3回処理したところ、透明なゲル状分散液が得られた。
【0112】
得られた5%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)を、TV−10型粘度計(東機産業社)を用いて測定した。
【0113】
[比較例6]
実施例18と同様にして得られた、酸化パルプのアルカリ加水分解処理物を遠心分離して固液分離した。固形分を洗浄、脱水した後、超純水を加えて濃度5%(w/v)にし、超高圧ホモジナイザー(処理圧140MPa)で3回処理したところ、透明なゲル状分散液が得られた。
【0114】
得られた5%(w/v)のセルロースナノファイバー分散液のB型粘度(60rpm、20℃)を、TV−10型粘度計(東機産業社)を用いて測定した。
【0115】
【表3】