(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
理解を容易にするために、複数の図面に共通する同一要素を指定するのに、可能な限り同一の符号を使用している。
【0012】
本開示は、ガス混合物を吸着分離、例えば排ガスから二酸化炭素(CO
2)を吸着分離し、またクロロシランからの不純物、例えば三塩化ホウ素の吸着分離によりガスを精製する落下式マイクロビーズプロセス及びその均等物を提供する。本明細書で開示される落下式マイクロビーズプロセスは、現在利用されている技術よりも効率的にガス混合物から成分を除去する方法を提供する。
【0013】
図1に、炭素吸着剤技術を擁する発電所の一実施形態のプロセスフロー
図100を示す。一実施形態では、発電所で炭素を多く含む燃料の燃焼が利用され、これにより大量のCO
2が生じる。CO
2の大気中への放出は望ましいものではない。
【0014】
一実施形態では、石炭(例えば粉砕したイリノイ6号炭)をボイラー102に送出し、そこで石炭を空気の存在下で燃焼させる。高温排ガスが熱交換器を通過し、そこで排ガスが冷却された後、NO
x除去工程及びSO
x除去工程へと送られる。排ガスが選択的触媒還元(SCR)ユニット104を通過し、そこでNO
xがアンモニア(NH
3)によって窒素ガス(N
2)及び水(H
2O)へと還元される。次いで排ガスがバグハウス106に移動し、そこで繊維性フィルターを用いることで、フライアッシュが除去される。誘引通風機108を用いることで、排ガスを排ガス脱硫(FGD)ユニット110へと送出し、そこで二酸化硫黄(SO
2)をライムストーン及び空気と反応させることで、亜硫酸カルシウム及び硫酸カルシウム(ジプサム)を形成する。ジプサムを取り出した後、排ガスをリアクタ112に送出する。リアクタ112内において、CO
2を排ガスから取り出し(これにより大部分がN2、O2及び残りは水蒸気となる)、CO
2コンプレッサ114へと送り、化学原料として使用するか又は隔離する。CO
2リーン(lean)排ガスは排気筒へと送られ、大気中へと排出される。
【0015】
ボイラー102により生じる蒸気サイクルを利用して、タービン116を回し、それにより発電機118を作動させ、電力を生産する。蒸気はコンデンサ120及び給水予熱システム122を通じて再循環され、プロセスフロー100が完成する。
【0016】
図2に、リアクタ112のより詳細なブロック図を示す。リアクタ112は落下式マイクロビーズリアクタと称されることもある。リアクタ112には、吸着部202と、移行部204と、蒸留部206と、脱水/冷却部224とが含まれる。
【0017】
一実施形態では、リアクタ112は、落下式マイクロビーズシステムを用いた連続プロセスをもたらす。一実施形態では、排ガスが排ガス流208を通じてリアクタ112へと流入すると、排ガスは上方へと流れ、固体吸着剤はガスの流れに対向して移動するようにカラムを落下する。
【0018】
一実施形態では、固体吸着剤は、該吸着剤がリアクタを何回も循環することができるように硬質でかつ耐摩耗性を有するように設計することができる。吸着剤は流入したガスから特定の成分を除去する性能が高く、除去対象の特定の成分に対する容量が大きいものであり得る。吸着剤は、高い吸着速度及び脱着速度、低い吸着脱着熱、高い熱水安定性、低い熱容量、並びに高い熱伝導率を有するものとする。吸着剤には、固体がカラムを円滑に流れ落ちることができるように球状粒物質が選択され得る。
【0019】
除去対象の特定の成分がCO
2である一実施形態では、吸着剤は、高表面積炭素系吸着剤、例えば改良型炭素吸着剤(ACS)を含み得る。一実施形態では、ACSが吸着剤として使用されるが、任意のタイプのガス混合物を上記の特徴を満たす任意のタイプの吸着剤によって分離することができることに留意されたい。例えば、本プロセス及びリアクタシステムは、石炭工場、ガスタービン、ディーゼルエンジン及び同様の燃焼システムからの排出ガスからCO
2を除去するのにも使用することができる。
【0020】
このタイプのリアクタプロセスを、天然ガス源から、又は合成ガス若しくは改質ガスから、又はフィッシャートロプシュ法によるガス排出若しくは再循環ループからCO
2を除去するのにも使用することができる。このシステムは、半導体用途においてガスを精製又は分離するのにも使用することができる。例えば、SiF
4、クロロシラン、ブロモシラン等のSiのハロゲン化物、及びBF
3、BCl
3、PCl
5、OPCl
3等のドープガスを分離又は精製することができる。同様に、このシステムを用いて、シラン、ボラン又はホスフィン等の水素化物を精製することができる。
【0021】
このシステムを、乳牛システム又はフィードロット牛システムからNH
3を除去するのにも使用することができる。このシステムは、工業用地、病院又は畜産業務による悪臭を発生する分子を除去するのにも使用することができる。
【0022】
ACSは上述の吸着剤の所望の特徴を示す。例えば、ACSは、高いCO
2容量(1気圧(atm)のCO
2でおよそ20重量%)と、他の排ガス成分を上回る良好なCO
2選択性とを有する。CO
2の吸着は、吸着剤の細孔において極めて低い活性化エネルギー(およそ5キロジュール(kJ)/モル未満)で行われ、それにより吸着剤の迅速な循環が可能となる。比較的低い脱着熱(28kJ/モル)によって、このプロセスの再生に対する熱要件が低いことが示唆される。蒸気による直接加熱をCO
2脱着に使用することができる。適度に高い温度で再生するACSを、吸着剤上に吸着した水分の蒸発冷却によって冷却することができる。直接加熱及び冷却は、ガスの必要性を固体熱交換器に限定することにより、プロセスを単純化する。大量の排ガスを少量(small inventory)の吸着剤で分離することができる。
【0023】
吸着剤の寿命は、1年で50000回を超える吸着/脱着サイクルに耐えることができるものでもよい。ACS粒の球形性(直径およそ100ミクロン(μm)〜300μm)によって、玉軸受(ball bearing)のように傾斜面上での円滑な流れが可能となる。ACSの液体のようなこの自由流動特徴によって、気固接触デバイスとしての市販の構造
化充填
材の使用が可能となる。水と比較した吸着剤の低い熱容量(およそ1ジュール(J)/グラム(g)/ケルビン(K))によって、ACSを再生温度まで加熱するのに必要とされる熱エネルギーが最小限に抑えられる。0.8ワット(w)/メートル(m)・KというACSの熱伝導率によって、表面とマイクロビーズの内部との間で迅速な熱平衡が為される。ACSは基本的に疎水性であり、凝縮水とACSとの間で弱い相互作用を示す。凝縮水を脱着するのに要する熱エネルギーは、分子篩(ゼオライト)、アルミナ、及びシリカに見られるような酸化物表面から水を蒸発するのに要する熱エネルギーよりも著しく低い。
【0024】
吸着部202には構造
化充填剤が含まれ得る。構造
化充填
材は、排ガスから吸着剤へのCO
2のより良好な吸収を促すように設計され得る。
【0025】
充填物質はガス混合物及び固体吸着剤の両方の均一な流れを維持するのにも役立つ。このことが、最小限の圧力降下でガスと固体吸着剤との良好な接触をもたらす。
【0026】
吸着部202の設計は、比較的低い圧力降下、例えばおよそ0.1 inH
2O/ft充填
材〜1.0 inH
2O/ft充填
材をもたらす。例えば、およそ2.4フィート(ft)/秒(s)の気流速度では、測定される圧力降下はおよそ0.4 inH
2O/ft充填
材(0.014psi/ft)であった。発電所で発生する排ガスが大量であることから、圧力降下が低いことは重要である。この低い圧力降下は、ガスの流れに対して高い圧力降下を引き起こす吸着剤粒の固定床、密集移動(dense moving)床又は流動床を使用する従来のリアクタとは大きく異なるものである。高い圧力降下はCO
2捕集コストを増大させる。このため低い圧力降下は、効率の向上及びコストの低下をもたらす。
【0027】
加えて、適切な吸着剤(例えばCO
2除去ではACS)の使用によって、ACS吸着剤の迅速なCO
2吸着脱着速度及び優れた耐摩耗性から、吸着剤の迅速な循環が可能となる。このことが小型リアクタ設計を可能にし、システムの資本コストを削減し得る。
【0028】
図2を更に参照すると、排ガスが吸着部202を通って上昇し、吸着剤マイクロビーズが吸着部202を落下する。これは
図5に高度に示されている。
図5は、吸着部202において、どのように吸着剤マイクロビーズ502が落下し、排ガスが上昇するかを示すものである。
【0029】
上昇する排ガスからCO
2を除去し、排気流210を通じて低CO
2ガスを取り除く。吸着剤マイクロビーズは、排ガス流208から幾らかのN
2及びO
2を捕集することもある。このプロセスは
図6により詳細に示されている。
図6は、流222を通じて加えられる吸着剤マイクロビーズ502を示すものである。吸着剤マイクロビーズ502が流222を通じて流入し、吸着部202を落下する一方で、該吸着剤マイクロビーズ502がガス流610を通じて流入した排ガスと接触し、CO
2濃度の増大に伴い、吸着剤マイクロビーズ502により多くのCO
2が吸着される。マイクロビーズ606には、吸着剤マイクロビーズ502より多くのCO
2を含むマイクロビーズ604より多くのCO
2を含むマイクロビーズ602よりも多くの吸着CO
2が含まれている。これに対して、吸着剤マイクロビーズ502が吸着部202を下方に移動するにつれて、N
2及びO
2の濃度が低下するが、これは吸着剤マイクロビーズ502が吸着したN
2及びO
2を放出し、N
2及びO
2が排気流210とともに除去されるためである。一実施形態では、吸着は、吸着部202において周囲温度近く(例えば約20℃〜30℃)、およそ1atmの圧力で行うことができる。
【0030】
高CO
2吸着剤マイクロビーズが移行部204へと落下する。移行部204は、残留する吸着したN
2及びO
2を脱着させるのに用いられる。N
2及びO
2は、固体吸着剤が下部の蒸留部206からの上方へと流れる純粋なCO
2流と接触すると脱着する。脱着したN
2及びO
2は吸着部202へと押し戻され、低CO
2ガス流210と混合する。上方へと流れるCO
2流が吸着剤マイクロビーズによって吸着され、蒸留部206へと下方に戻される。
【0031】
吸着剤マイクロビーズが移行部204を下方へと移動するにつれて、吸着剤マイクロビーズでは、CO
2の分圧の増大及び軽質ガスの分圧の低減が起こる。これによって、吸着剤マイクロビーズはより多くのCO
2を吸着するとともに、N
2及びO
2を脱着することになる。移行部204の底では、吸着剤は純粋なCO
2で飽和状態にある。
【0032】
蒸留部206では、蒸気がガス流214を通じて導入される。一実施形態では、蒸気はおよそ1バールの圧力である。蒸気が吸着されると、吸着剤の温度が上昇し、それによりCO
2の脱着が起こる。さらにこの蒸気はCO
2分圧の低減にも作用し、CO
2の更なる除去が増進される。脱着したCO
2が蒸留部の外へと上方に流れ、そこで脱着したCO
2は純粋なCO
2としてガス流212を通じて引き抜かれる。
【0033】
脱水/冷却部224では、吸着剤マイクロビーズを回収した後、吸着剤マイクロビーズをガス流220からの低温の乾燥空気に接触させることによって冷却及び再生する。吸着剤マイクロビーズを、空気との熱的接触によって空気を高温にし、また吸着した水蒸気の蒸発によって空気を加湿させることで冷却する。高温の加湿空気をコンデンサ218において冷却及び乾燥させ、吸着部202へと還送するようにポンプ216によって送り出し、残留するCO
2を捕集する。
【0034】
次いで低温乾燥吸着剤を吸着剤還送管222に通してリアクタ112の上部の吸着部202へと還送し、再びサイクルを始動させる。一実施形態では、リアクタ112には、吸着剤を蒸留部206から吸着部202へと還送させる任意の手段が含まれ得る。一実施形態では、この手段は、例えばコンベア、エレベータ、空気圧式リフト等の機械的手段を含み得る。
【0035】
吸着工程及び脱着工程の両方の速度が迅速であることで、吸着部202及び蒸留部206の期間を非常に短くすることが可能となる。例えば、滞留時間は、ガス1kgに付きおよそ1kg〜20kgの吸着剤を添加する場合で、およそ6秒〜10秒であり得る。
【0036】
図3に、15% CO
2の供給ガス流を、CO
2を含まないリーンガス流及び純粋なCO
2生成ガス流へと分離する際の吸着剤マイクロビーズシャワー及び蒸気蒸留の有効性を示すグラフ300を示す。x軸302は実行時間(秒)を示し、y軸304は複数の菱形で構成される線で示される蒸留部206に残る生成ガス中のCO
2(%)を示し、y軸306は複数の三角形で構成される線で示される吸着部202に存在するリーンガス流210中のCO
2(%)を示す。吸着部202に関しては、308の時点で吸着剤の流れを開放する。y軸306に関するグラフに示されるように、数秒以内にリーンガス流中のCO
2の量が急減する。314の時点で、吸着剤の流れを停止すると、リーンガス流中のCO
2の量が再び急増する。
【0037】
y軸304に示されるように、蒸留部206に関しては、310の時点で蒸気を開放する。蒸気が導入されると、CO
2が吸着剤から急速に脱着され、生成ガス流212中のCO
2ガスの濃度が急増し、生成流は純粋なCO
2になる。312の時点で、蒸気を停止すると、CO
2ガスの濃度は再び急減する。
【0038】
図4に、ガス流から特定の成分を除去する方法400のフロー図を示す。一実施形態では、方法400は上記のリアクタ112によって行うことができる。
【0039】
この方法は工程402から開始する。方法400の工程404では、除去対象の成分を含むガス流を準備する。例えば、ガス流はCO
2量が高い発電所の排ガス流とすることができる。除去対象の成分は排ガス流中のCO
2とすることができる。
【0040】
方法400の工程406では、ガス流が上昇するにつれて、成分をガス流から、リアクタの吸着部を落下する吸着剤のマイクロビーズへと吸着させる。吸着剤のマイクロビーズ及びガス流は、吸着部を通過する際にガス流と吸着剤のマイクロビーズとが積極的に混合するように構造
化充填物質中を流れることができる。一実施形態では、吸着剤は上記のACS吸着剤とすることができる。
【0041】
方法400の工程408では、リアクタの蒸留部において吸着剤を加熱することで、吸着剤から成分を放出させる。例えば、高温蒸気を用いて、吸着剤を加熱することで、吸着剤から吸着したCO
2を放出することができる。次いで純粋なCO
2ガス流を通じてCO
2を除去することができる。
【0042】
方法400の工程410では、吸着剤を冷却して、吸着剤をリアクタの吸着部へと再循環させることで、吸着工程を行う。例えば、乾燥空気又は冷却した再循環CO
2リーンガスを用いて、吸着剤を冷却及び乾燥することができる。蒸気を脱着することができ、吸着剤を蒸発冷却によって冷却することができる。次いで、吸着剤を吸着部へと還送することで、上記工程406においてガス流からの成分の吸着を繰り返すことができる。方法400は工程412で終了する。
【実施例】
【0043】
上記プロセスの実施例を例示的な操作範囲とともに以下に示す。実施例は
図1と
図2とを併せて検討することができる。下記で述べる実施例は直径およそ6インチ、高さおよそ20フィートのリアクタシステムで実行した。
【0044】
一実施例では、CO
2を石炭火力発電所で生じ得る模擬排ガスから除去した。主な非濃縮性成分は、窒素(約68%)、二酸化炭素(約15%)及び酸素(約17%)である。
【0045】
このプロセスに使用される高表面積活性炭吸着剤は、約10:1というN
2及びO
2に対するCO
2選択性を有する。そのためこのプロセスでは、N
2及びO
2が上部画分を形成し、CO
2が下部画分へと分離する。
【0046】
15%という模擬排ガスCO
2濃度では、炭素吸着剤は5wt%〜6wt%(炭素吸着剤1kg当たりのCO
2のkg)を吸着する。本実施例で述べられるパラメータでは、およそ5秒〜6秒という吸着部202での滞留時間は、排ガスからCO
2を効率的に分離するのに十分であった(例えば90%を超える捕集効率)。リアクタ112の上部への炭素吸着剤の流れは、排ガスからCO
2が完全に吸着されるように排ガス1kg当たり5kgの吸着剤に設定する。
【0047】
吸着剤はリアクタ112のカラムを継続的に落下し、蒸留部206からの純粋なCO
2の上方への流れに曝される。移行部では、吸着部202で吸着された少量のN
2及びO
2が放出され、吸着部202へと還送されて、最終的に上部画分とともに排出される。吸着剤が蒸留部206の上部に到達した時点で、吸着剤は純粋なCO
2で飽和状態にある。純粋な(例えば純度90%を超える)CO
2生成物を、移行部204においてガス流212を通じてリアクタ112から除去する。
【0048】
吸着剤を蒸留部206へと下方に流し続け、吸着剤を1バールの圧力で対向する蒸気の流れと接触させる。蒸気が吸着され、それにより吸着剤が110℃超へと加熱される。この温度及び純粋な蒸気雰囲気で、吸着したCO
2が脱着され、CO
2ガスの上方への流れが生じる。
【0049】
次いで吸着剤が蒸留部206の冷却部へと流れ落ち、そこで僅かな乾燥空気の流れを用いて、吸着した水蒸気を脱着し、固体を周囲温度近くまで冷却する。この時点で、空気圧式コンベアを用いて、吸着剤をリアクタ112の上部へと還送する。
【0050】
様々な実施形態を上に示しているが、これらは例示的なものに過ぎず、限定するものではないことを理解されたい。そのため、好ましい実施形態の幅及び範囲は、上記の例示的な実施形態のいずれによっても限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲及びその均等物によってのみ規定されるものとする。