(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数のシリンダボアを取り囲むウォータージャケットが設けられたシリンダブロックにおける、前記ウォータージャケット内へ挿入されるウォータージャケットスペーサであって、
各シリンダボアに対応して配設されて前記ウォータージャケット内で膨張する膨張部材と、
前記膨張部材が固定された板状のホルダと、
前記ホルダにおける前記膨張部材が固定されている面とは反対側の面から突出し、前記ウォータージャケットの内壁と当接する弾性部材と、を備え、
前記ホルダが前記ウォータージャケットの形状に合わせて湾曲しており、前記弾性部材の付勢力によって前記ウォータージャケット内での位置が保持されるものであり、
前記弾性部材は、ウォータージャケットへの挿入方向における先端側を起点として後端側に向かって次第に前記膨張部材から離間するように前記ホルダから斜めに突出し、ウォータージャケットの内壁と当接する板ばねであり、
前記板ばねは、途中で湾曲してその湾曲した部分の一部がウォータージャケットの内壁と当接する当接部にされており、
前記当接部は、前記挿入方向におけるウォータージャケットスペーサの中央よりも後端側に位置しているウォータージャケットスペーサ。
前記ホルダが、全てのシリンダボアの中心軸を通る仮想直線を境界に前記ウォータージャケットを周方向に二分してできる二つの領域のうち、一方の領域に配設される全ての前記膨張部材を連結している
請求項2に記載のウォータージャケットスペーサ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されているウォータージャケットスペーサは、シリンダブロック上面の孔からウォータージャケット内へ挿入される。そして、ウォータージャケット内へ挿入した後に膨張部材が膨張することによってウォータージャケットスペーサがウォータージャケット内に固定される。そのため、こうしたウォータージャケットスペーサは、膨張部材が膨張してウォータージャケット内に固定されるまでの間、ウォータージャケットスペーサを保持する構成が必要であり、ウォータージャケットスペーサの下部にウォータージャケット底面の突部を挟持する構成を備えていた。
【0006】
また、このようなウォータージャケットスペーサをオープンデッキ構造のシリンダブロックにおけるウォータージャケットへ適用する場合、ウォータージャケット内でのウォータージャケットスペーサの位置決めが容易ではないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、膨張部材が膨張する前にウォータージャケット内に挿入した段階で固定することのできる簡易な構成のウォータージャケットスペーサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するためのウォータージャケットスペーサは、複数のシリンダボアを取り囲むウォータージャケットが設けられたシリンダブロックにおける、前記ウォータージャケット内へ挿入されるウォータージャケットスペーサである。このウォータージャケットスペーサは、各シリンダボアに対応して配設されて前記ウォータージャケット内で膨張する膨張部材と、前記膨張部材が固定された板状のホルダと、前記ホルダにおける前記膨張部材が固定されている面とは反対側の面から突出し、前記ウォータージャケットの内壁と当接する弾性部材と、を備えている。そして、このウォータージャケットスペーサは、前記ホルダが前記ウォータージャケットの形状に合わせて湾曲しており、前記弾性部材の付勢力によって前記ウォータージャケット内での位置が保持される。
【0009】
上記構成によれば、ウォータージャケットスペーサをウォータージャケットへ挿入することに伴って、弾性部材が変形することになる。そして、弾性部材は膨張部材の背面に位置するため、変形した弾性部材から生じる付勢力によって、ウォータージャケットスペーサをウォータージャケットの内壁に押圧することができる。そして、弾性部材の付勢力によってウォータージャケット内でのウォータージャケットスペーサの位置を保持することができる。
【0010】
そのため、上記構成によれば、ウォータージャケットにウォータージャケットスペーサを支持する突起などを設けることなく、ウォータージャケットスペーサに弾性部材を設けるという簡易な構成によって、ウォータージャケットを構成する壁面間でのウォータージャケットスペーサの固定を実現することができる。
【0011】
すなわち、上記構成によれば、膨張部材が膨張する前にウォータージャケット内に挿入した段階で固定することのできる簡易な構成のウォータージャケットスペーサを実現することができる。
【0012】
上記ウォータージャケットスペーサの一例では、前記シリンダブロックは、オープンデッキ構造のシリンダブロックであり、複数の前記膨張部材を備え、前記ホルダは、複数の前記膨張部材を固定する。
【0013】
上記構成によれば、複数の膨張部材がホルダによって連結されて一体に構成される。さらに、膨張部材が固定されているホルダはウォータージャケットの形状に沿って湾曲しているため、ウォータージャケット内に挿入されたウォータージャケットスペーサはウォータージャケット周方向に移動しにくくなる。したがって、上記構成によれば、ウォータージャケットスペーサをウォータージャケットに挿入するだけで、複数の膨張部材の位置決めをすることができる。
【0014】
上記ウォータージャケットスペーサの一例では、前記ホルダが、全てのシリンダボアの中心軸を通る仮想直線を境界に前記ウォータージャケットを周方向に二分してできる二つの領域のうち、一方の領域に配設される全ての前記膨張部材を連結している。
【0015】
上記構成によれば、ウォータージャケットの半分の領域に一度に膨張部材を挿入することができる。
上記ウォータージャケットスペーサの一例は、ウォータージャケットに、対にして挿入される。
【0016】
上記構成によれば、それぞれのウォータージャケットスペーサを挿入するときに、摩擦が生じる部分の量は、全てのシリンダボアの回りを取り囲むようにひとつながりになったウォータージャケットスペーサを挿入する際よりも少なくなる。その結果、分割された各ウォータージャケットスペーサをそれぞれ挿入する際に要する挿入荷重は、全てのシリンダボアの回りを取り囲むようにひとつながりになったウォータージャケットスペーサを挿入する際に要する挿入荷重よりも小さくなる。
【0017】
したがって、ウォータージャケットにおけるシリンダブロックのスラスト側へウォータージャケットスペーサを挿入する際の挿入荷重と、ウォータージャケットにおけるシリンダブロックの反スラスト側へウォータージャケットスペーサを挿入する際の挿入荷重と、について、それぞれを小さくすることができる。
【0018】
上記ウォータージャケットスペーサの一例では、前記弾性部材は、ウォータージャケットへの挿入方向における先端側を起点として後端側に向かって次第に前記膨張部材から離間するように前記ホルダから斜めに突出し、ウォータージャケットの内壁と当接する板ばねである。
【0019】
上記構成によれば、ウォータージャケットに挿入する際に、挿入方向先端を起点として斜めに突出している板ばねとウォータージャケットの内壁とが当接するため、ウォータージャケットスペーサの挿入深度が浅いときには板ばねの変形量は小さく、変形した板ばねから生じる付勢力も弱いものとなる。そして、挿入深度が深くなることに応じて付勢力が増加し、ウォータージャケットスペーサを挿入する際の挿入荷重が増加するようになる。すなわち、上記構成によれば、挿入深度が浅いときの挿入荷重が抑えられるため、挿入時の仕事量を低減することができる。
【0020】
また、上記ウォータージャケットスペーサの一例では、前記板ばねは、途中で湾曲してその湾曲した部分の一部がウォータージャケットの内壁と当接する当接部にされており、前記当接部は、前記挿入方向におけるウォータージャケットスペーサの中央よりも後端側に位置している。
【0021】
上記構成によれば、板ばねの当接部とウォータージャケットの内壁とが当接するようになったときに板ばねが最も撓んだ状態になり、板ばねの付勢力による荷重が最大になる。そして、上記構成によれば、板ばねの当接部とウォータージャケットの内壁とは、挿入方向におけるウォータージャケットスペーサの中央よりも後端側にて当接するため、板ばねの付勢力による荷重はウォータージャケットスペーサをウォータージャケットに半分以上挿入したときに最大になる。そのため、ウォータージャケットスペーサの挿入深度が浅いときの挿入荷重をさらに低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
以下、ウォータージャケットスペーサの第1の実施形態について、
図1〜
図5を参照して説明する。
【0024】
図1に示すように、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ10は、対にして使用される。ウォータージャケットスペーサ10の金属製のホルダ11には、複数の膨張部材12が固定されている。本実施形態では、4つの膨張部材12がホルダ11によって互いに連結されて1つのウォータージャケットスペーサ10をなしている。膨張部材12は、熱を受けて膨張する感熱膨張部材である。そして、板状のホルダ11における各膨張部材12が固定されている面の反対側の面には、板ばね13がそれぞれ3つずつ設けられている。
【0025】
図2は、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ10を適用するウォータージャケット22が形成されたシリンダブロック20を示している。シリンダブロック20は、直列4気筒の内燃機関におけるシリンダブロックである。シリンダブロック20には、4つのシリンダボア21が形成されている。そして、シリンダボア21の周囲には、冷却水を循環させるウォータージャケット22が形成されている。シリンダブロック20は、いわゆるオープンデッキ構造であり、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ10はウォータージャケット22の開口から挿入される。
【0026】
なお、ウォータージャケット22において、シリンダボア21側の壁面を第1壁面22aとし、第1壁面22aと対向する壁面を第2壁面22bとする。
図3を参照して、ウォータージャケットスペーサ10についてさらに詳述する。
【0027】
ホルダ11は、
図3に示すように、シリンダブロック20に形成されているウォータージャケット22の形状に合わせて湾曲した波形状に成形されている。そして、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサは、
図1に示すように、対にしてウォータージャケット22へ挿入される。すなわち、2つのウォータージャケットスペーサ10がウォータージャケット22に挿入される。
【0028】
さらに、ホルダ11は、各ウォータージャケットスペーサ10の長手方向全長がウォータージャケット22の周方向全長の1/2よりも短くなるように成形されている。そのため、2つのウォータージャケットスペーサ10の長手方向全長の和は、ウォータージャケット22の周方向全長よりも短くなる。そのため、
図3に示すように、2つのウォータージャケットスペーサ10が挿入された状態において、これらウォータージャケットスペーサ10同士の間には隙間が生じている。これにより、シリンダブロック20のウォータージャケット22内の
図3における左右両端に位置する部分には、膨張部材12が挿入されていないことになる。
【0029】
なお、2つのウォータージャケットスペーサ10が挿入されたシリンダブロック20では、
図3に示すように、1つのシリンダボア21に対して2つの膨張部材12が配設される。
【0030】
ここで、膨張部材12は、
図3における左右方向、すなわちシリンダブロック20の長手方向に配列されている。つまり、1つのウォータージャケットスペーサ10は、ホルダ11によって、長手方向に配設された4つの膨張部材12を連結している。換言すれば、各ホルダ11は、全てのシリンダボア21の中心軸Xを通る仮想直線Yを境界にウォータージャケット22を周方向に二分してできる領域a,bのうち、一方の領域に配設される全ての膨張部材12を連結している。
【0031】
次に、
図4を参照して、ウォータージャケット22に挿入された状態のウォータージャケットスペーサ10について説明する。
図4には、ウォータージャケットスペーサ10をウォータージャケット22へ挿入する際の挿入方向を示す矢印を表示している。
【0032】
ウォータージャケットスペーサ10は、ウォータージャケット22の第1壁面22aにホルダ11が当接し、第2壁面22bに板ばね13が当接するように挿入される。なお、
図4では、ウォータージャケットスペーサ10がウォータージャケット22に挿入されてから膨張部材12が膨張した状態を示しており、膨張部材12が第1壁面22aと当接している。
【0033】
板ばね13は、挿入方向の先端側から後端側に向かってホルダ11及び膨張部材12から次第に離間するように設けられている。そして、板ばね13は、当接部13aにて屈曲してホルダ11及び膨張部材12に近づくように延伸され、先端部13bがホルダ11と当接するように形成されている。当接部13aは、
図4に示すように、挿入方向におけるウォータージャケットスペーサ10の長さをLとしたとき、先端側からL/2の位置、すなわち挿入方向におけるウォータージャケットスペーサ10の中央に位置するように設けられている。
【0034】
次に、
図5を参照して、ウォータージャケットスペーサ10をウォータージャケット22に挿入する際の板ばね13の作用について説明する。
図5(a)は、ウォータージャケットスペーサ10をウォータージャケット22に挿入する前の状態を示している。
図5(b)は、ウォータージャケットスペーサ10の挿入を開始し、板ばね13における起点と当接部13aとの間の部分が第2壁面22bの開口端に当接している状態を示している。そして
図5(c)は、ウォータージャケットスペーサ10の挿入が進行して挿入深度が深くなり、当接部13aが第2壁面22bと当接している状態を示している。いずれの状態においても、膨張部材12は膨張に至っていないため、第1壁面22aとはホルダ11が当接している。
【0035】
図5(a)に示すように、ウォータージャケットスペーサ10を挿入する前の状態では、板ばね13は変形していない。このとき、板ばね13の当接部は、挿入方向におけるウォータージャケットスペーサ10の中央よりも先端側に位置している。そして、ウォータージャケットスペーサ10をウォータージャケット22に挿入すると、板ばね13とウォータージャケット22の第2壁面22bとが当接して板ばね13が
図5(b)に示すように変形する。ここで、板ばね13は、ウォータージャケットスペーサ10の挿入方向における先端側を起点として後端側に向かって次第に膨張部材12から離間するようにホルダ11から斜めに突出している。そのため、ウォータージャケットスペーサ10の挿入深度が深くなるとともに、板ばね13の変形量は大きくなる。
【0036】
したがって、ウォータージャケットスペーサ10の挿入深度が浅いときには板ばね13の変形量は小さく、変形した板ばね13から生じる付勢力も弱いものとなる。つまり、
図5(b)に示すように、挿入深度が浅く、板ばね13における起点と当接部13aとの間が第2壁面22bの開口端に当接しているときには、板ばね13の変形量が小さいため、板ばね13の変形量に応じて生じる付勢力も弱い。
【0037】
そして、
図5(c)に示すように、ウォータージャケットスペーサ10の挿入深度が深くなり、板ばね13の当接部13aが第2壁面22bと当接するようになると、板ばね13の変形量が最大となり、付勢力も最大になる。
【0038】
すなわち、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ10によれば、挿入深度に応じて増大する挿入荷重について、挿入深度が浅いときの挿入荷重を小さく抑えることができる。
【0039】
次に、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ10の作用について説明する。
図3に示すように、ホルダ11は、ウォータージャケット22の形状に沿って湾曲しており、4つの膨張部材12がホルダ11によって連結されて一体に構成されている。そのため、ウォータージャケット22内に挿入されたウォータージャケットスペーサ10は、ウォータージャケット22の周方向への移動を制限することができる。
【0040】
図4に示すように、ウォータージャケット22に挿入されたウォータージャケットスペーサ10は、板ばね13によって第1壁面22aに向けて付勢されている。つまり、ウォータージャケットスペーサ10は、板ばね13の付勢力によって第1壁面22aに押し付けられている。したがって、板ばね13の付勢力によってウォータージャケット22内にウォータージャケットスペーサ10を固定することができる。
【0041】
そして、ウォータージャケットスペーサ10がウォータージャケット22に挿入された状態において、ウォータージャケットスペーサ10が適用される内燃機関が暖機されると、発生する熱によって膨張部材12が膨張する。つまり、ウォータージャケット22内に膨張部材12が充填されることになるため、ウォータージャケットスペーサ10が挿入されている箇所においては、ウォータージャケット22の流路容積が減少し、ウォータージャケット22を循環する冷却水の水流が最適化される。なお、膨張した膨張部材12は、ウォータージャケット22内において、その体積が維持される。
【0042】
以上説明した第1の実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)ウォータージャケットスペーサ10をウォータージャケット22へ挿入することに伴って、板ばね13が変形することになる。そして、板ばね13は膨張部材12の背面に位置するため、変形した板ばね13から生じる付勢力によって、ウォータージャケットスペーサ10をウォータージャケット22の内壁に押圧することができる。つまり、膨張部材12が膨張する前には、板ばね13の当接部13aとホルダ11とがウォータージャケット22の内壁である第1壁面22a及び第2壁面22bに当接するようになり、板ばね13の付勢力によってウォータージャケット22内でのウォータージャケットスペーサ10の位置を保持することができる。
【0043】
そのため、本実施形態によれば、ウォータージャケット22にウォータージャケットスペーサ10を支持する突起などを設けることなく、ウォータージャケットスペーサ10に板ばね13を設けるという簡易な構成によって、ウォータージャケット22を構成する壁面間でのウォータージャケットスペーサ10の固定を実現することができる。
【0044】
すなわち、本実施形態によれば、膨張部材12が膨張する前にウォータージャケット22内に挿入した段階で固定することのできる簡易な構成のウォータージャケットスペーサ10を実現することができる。
【0045】
(2)ウォータージャケットを挿入する際に、ウォータージャケットスペーサ10の挿入方向先端を起点として斜めに突出している板ばね13とウォータージャケット22の第2壁面22bとが当接する。そのため、ウォータージャケットスペーサ10の挿入深度が浅いときには板ばね13の変形量は小さく、変形した板ばね13から生じる付勢力も弱いものとなる。そして、挿入深度が深くなることに応じて付勢力が増加し、ウォータージャケットスペーサ10を挿入する際の挿入荷重が増加するようになる。すなわち、本実施形態によれば、挿入深度が浅いときの挿入荷重が抑えられるため、挿入時の仕事量を低減することができる。
【0046】
(3)複数の膨張部材12がホルダ11によって連結されて一体に構成されている。さらに、膨張部材12が固定されているホルダ11はウォータージャケット22の形状に沿って湾曲しているため、ウォータージャケット22内に挿入されたウォータージャケットスペーサ10はウォータージャケット22の周方向に移動しにくくなる。したがって、本実施形態によれば、ウォータージャケットスペーサ10をウォータージャケット22に挿入するだけで、複数の膨張部材12の位置決めをすることができる。
【0047】
(4)ホルダ11はウォータージャケット22の形状に沿って湾曲しているため、ウォータージャケットスペーサ10を挿入する際に、ウォータージャケット22の形状に合わせてホルダ11を変形させる必要がない。したがって、挿入時の作業性を確保することができる。
【0048】
(5)シリンダブロック20の長手方向に配列される4つの膨張部材12を連結して一体に構成しているため、ウォータージャケット22の半分の領域に、膨張部材12を一度に挿入することができる。すなわち、ウォータージャケットスペーサ10を挿入する際の作業性を向上させることができる。
【0049】
(6)それぞれのウォータージャケットスペーサ10を挿入するときに、摩擦が生じる部分の量が、全てのシリンダボア21の回りを取り囲むようにひとつながりになったウォータージャケットスペーサを挿入する際よりも少なくなる。その結果、分割された各ウォータージャケットスペーサ10をそれぞれ挿入する際に要する挿入荷重は、全てのシリンダボア21の回りを取り囲むようにひとつながりになったウォータージャケットスペーサを挿入する際に要する挿入荷重よりも小さくなる。
【0050】
したがって、ウォータージャケットスペーサ10を挿入する際の挿入荷重を小さくすることができる。
(7)ウォータージャケット22におけるシリンダブロック20の長手方向における両端の部分には、ウォータージャケットスペーサ10が配設されない間隙が形成される。
【0051】
ここで、ウォータージャケット内にウォータージャケットスペーサを配設する目的としては、シリンダボアによって形成される気筒の内部を摺動するピストンがシリンダボア壁面と接触するスラスト側、反スラスト側の部分について、膨張部材を配設して冷却水の流れを最適化し、当該壁面の温度が過冷却されないようにすることがあげられる。つまり、ピストンが接触しない箇所については、膨張部材の配設が必要とされていない。したがって、当該箇所に膨張部材を設けず、間隙を形成することによって最小限の膨張部材でウォータージャケットスペーサを構成することができる。
【0052】
すなわち、本実施形態によれば、ウォータージャケットスペーサ10の全長を短くできる。そのため、ウォータージャケットスペーサ10を挿入する際にかかる挿入荷重を低減することができる。
【0053】
(第2の実施形態)
次に、ウォータージャケットスペーサの第2の実施形態について、
図6〜
図8を参照して説明する。
【0054】
本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ110は、ホルダに設けられている板ばねの形状が第1の実施形態と相違している。第1の実施形態の構成と共通の構成については同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0055】
図6を参照して、ウォータージャケットスペーサ110について説明する。
図6には、ウォータージャケットスペーサ110をウォータージャケット22へ挿入する際の挿入方向を示す矢印を表示している。ここでは、ウォータージャケットスペーサ110がウォータージャケット22に挿入されてから膨張部材12が膨張した状態を示している。
【0056】
ホルダ11に設けられている板ばね113は、挿入方向の先端側から後端側に向かってホルダ11及び膨張部材12から次第に離間するように設けられている。そして、板ばね113は途中で湾曲し、湾曲した部分の一部が当接部113aをなしている。
【0057】
こうしたウォータージャケットスペーサ110がウォータージャケット22に挿入され、膨張部材12が膨張すると、ウォータージャケット22の第1壁面22aに膨張部材12が当接し、第2壁面22bに板ばね113が当接する。このとき、板ばね113の当接部113aは、
図6に示すように、挿入方向におけるウォータージャケットスペーサ110の長さをLとしたとき、先端側からL/2の位置、すなわち挿入方向におけるウォータージャケットスペーサ110の中央、よりも後端側に位置するように設けられている。
【0058】
次に、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ110の作用について説明する。
まず、
図7を参照して、ウォータージャケットスペーサ110をウォータージャケット22に挿入する際の板ばね113の作用について説明する。
【0059】
図7(a)は、ウォータージャケットスペーサ110をウォータージャケット22に挿入する前の状態を示している。
図7(b)は、ウォータージャケットスペーサ110の挿入を開始した状態を示している。そして
図7(c)は、ウォータージャケットスペーサ110の挿入が進行して挿入深度が深くなり、当接部113aが第2壁面22bと当接している状態を示している。いずれの状態においても、膨張部材12は膨張に至っていないため、第1壁面22aとはホルダ11が当接している。
【0060】
図7(a)に示すように、ウォータージャケットスペーサ110を挿入する前の状態では、板ばね113は変形していない。このとき、板ばね113の当接部113aは、挿入方向におけるウォータージャケットスペーサ110の中央よりも後端側に位置している。そして、ウォータージャケットスペーサ110をウォータージャケット22に挿入すると、板ばね113とウォータージャケット22の第2壁面22bとが当接する。板ばね113は、ウォータージャケットスペーサ110の挿入方向における先端を起点として後端側に向かって次第に膨張部材12から離間するようにホルダ11から斜めに突出している。そのため、ウォータージャケットスペーサ110の挿入深度が深くなるとともに、板ばね113の変形量は大きくなる。
【0061】
したがって、ウォータージャケットスペーサ110の挿入深度が浅いときには板ばね113の変形量は小さく、変形した板ばね113から生じる付勢力も弱いものとなる。
上述したように、板ばね113の当接部113aはウォータージャケットスペーサ110の中央よりも後端側に位置するように設けられている。そのため、
図7(b)に示すように、上記第1の実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ10の板ばね13が第2壁面22bとの当接を開始する挿入深度と同一の挿入深度においては、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ110の板ばね113は、第2壁面22bと当接しない。すなわち、より挿入深度が深くならないと板ばね113と第2壁面22bとが当接しない。つまり、
図7(b)に示すように、挿入を開始しても挿入深度が浅いときには、板ばね113と第2壁面22bとが当接しないため、板ばね113は変形せず、板ばね113の変形量に応じた付勢力も生じない。
【0062】
そして、
図7(c)に示すように、ウォータージャケットスペーサ110の挿入深度がさらに深くなると板ばね113と第2壁面22bとが当接するようになる。挿入深度が深くなるにつれて板ばね113の変形量が大きくなり、生じる付勢力が増大するようになる。したがって、ウォータージャケットスペーサ110を挿入する際に要する挿入荷重が増大する。また、板ばね113の当接部113aが第2壁面22bと当接するようになると、板ばね113の変形量は最大となり、変形量の増大に伴って板ばね113から生じる付勢力も最大になる。こうした付勢力の増大によって、要求される挿入荷重が増大するようになる。
【0063】
本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ110では、板ばね113の当接部113aは湾曲しているため、板ばね113の変形量が最大になる際の変形量の増大傾向が緩やかになる。すなわち、変形量に応じて生じる付勢力の増大も緩やかになる。そのため、挿入に要する挿入荷重の増大も緩やかにすることができる。
【0064】
すなわち、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ110によれば、挿入深度に応じて増大する挿入荷重について、挿入深度が浅いときの挿入荷重をより小さく抑えることができる。さらに、挿入荷重が最大になる際の荷重の増大傾向を緩やかにすることができる。
【0065】
続いて、
図8を参照して、上記挿入荷重の増大傾向について説明する。ここでは、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ110と、第1の実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ10とを比較しながら説明する。
図8に示す実線は、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ110をウォータージャケット22に挿入する際の挿入深度と挿入荷重との関係を示している。また、
図8に示す一点鎖線は、比較例としての第1の実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ10をウォータージャケット22に挿入する際の挿入深度と挿入荷重との関係を示している。
【0066】
挿入方向の中央よりも先端側の位置に当接部13aを有している第1の実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ10では、挿入深度がd1よりも深くなると、次第に挿入荷重が発生するようになる。これに対して、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ110では、挿入方向の中央の位置よりも後端側に当接部113aが設けられている。そのため、ウォータージャケットスペーサ10と比較して、挿入深度がより深くならないと挿入荷重が発生しないようになっている。したがって、ウォータージャケットスペーサ110では挿入深度がd1の時点においては挿入荷重が発生せず、挿入深度がd2よりも深くなってから、挿入荷重が発生するようになる。
【0067】
また、ウォータージャケットスペーサ10では、板ばね13の当接部13aと第2壁面22bとは、挿入方向におけるウォータージャケットスペーサ10の中央にて当接する。これに対して、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ110では、板ばね113の当接部113aと第2壁面22bとは、挿入方向におけるウォータージャケットスペーサ110の中央よりも後端側にて当接する。
【0068】
ところで、板ばねの当接部とウォータージャケットの内壁とが当接するようになると、板ばねの変形量が最大となり、板ばねが最も撓んだ状態になる。そして、板ばねの変形量に応じて生じる付勢力も最大となる。すなわち、板ばねの当接部が内壁に当接したときよりも深い挿入深度では、挿入に要する挿入荷重が最大になる。
【0069】
したがって、板ばね13の付勢力による挿入荷重はウォータージャケットスペーサ10をウォータージャケット22に半分挿入したときに最大になるのに対して、板ばね113の付勢力による挿入荷重はウォータージャケットスペーサ110をウォータージャケット22に半分よりも深く挿入したときに最大になる。
【0070】
すなわち、本実施形態のウォータージャケットスペーサ110によれば、挿入深度が浅いときの挿入荷重を低減することができるため、
図8における領域Aの分、仕事量を低減することができる。
【0071】
また、ウォータージャケットスペーサ10における板ばね13は、先端部13bがホルダ11に当接しているため、板ばね13が変形する際には、ホルダ11に当接している先端部13bにて摩擦が生じる。
【0072】
これに対して、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ110では、板ばね113は起点となる先端側の部分のみがホルダ11に接続しており、板ばね113の変形に際してこうしたホルダ11との摩擦は生じない。したがって、ウォータージャケットスペーサ10を挿入する際に、板ばね13が変形しやすいため、ウォータージャケットスペーサ10を挿入する際の挿入荷重増加の傾きが小さくされ、さらに
図4における領域Bの分、仕事量を低減することができる。
【0073】
さらに、本実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ110では、板ばね113における当接部113aが湾曲している。そのため、板ばね13がまっすぐに延びており、当接部13aにおいて屈曲している第1の実施形態におけるウォータージャケットスペーサ10よりも、板ばね113の変形量が最大になる際の変形量の増大傾向が緩やかになる。すなわち、変形量に応じて生じる付勢力の増大も緩やかになる。そのため、挿入に要する挿入荷重の増大も緩やかになる。すなわち、領域A,Bに加えて、
図8における領域Cの分、仕事量を低減できる。
【0074】
以上のように構成された本実施形態のウォータージャケットスペーサ110によれば、上記(1)〜(7)に記載の効果に加え、さらに以下の効果を奏することができる。
(8)板ばね113とウォータージャケット22の第2壁面22bとは、挿入方向におけるウォータージャケットスペーサ110の中央よりも後端側にて当接するため、板ばねの付勢力による荷重はウォータージャケットスペーサをウォータージャケットに半分よりも深く挿入したときに最大になる。そのため、ウォータージャケットスペーサ110の挿入深度が浅いときの挿入荷重を低減することができる。
【0075】
(9)板ばね113の当接部113aは湾曲しているため、板ばね113の変形量が最大になる際の変形量の増大傾向が緩やかになる。すなわち、変形量に応じて生じる付勢力の増大も緩やかになる。そのため、挿入深度が深くなったときに要する挿入荷重の増大が緩やかになり、仕事量を低減することができる。
【0076】
また、上記各実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・上記各実施形態にかかるウォータージャケットスペーサは、クローズドデッキ構造のシリンダブロックにも適用することができる。クローズドデッキ構造のシリンダブロックでは、ウォータージャケットの孔の開口が連続しておらず、またその大きさもオープンデッキ構造のシリンダブロックと比較して小さくなっている。こうしたクローズドデッキ構造のシリンダブロックにおけるウォータージャケットの孔に合わせて適宜ウォータージャケットスペーサの全長を調節することによって、ウォータージャケットスペーサを挿入することができる。
【0077】
・上記第1及び第2の実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ10,110は、直列4気筒の内燃機関におけるシリンダブロック20に適用した。しかし、内燃機関の態様はこれに限られるものではない。たとえばV型気筒配列のシリンダブロックであってもよいし、気筒数は4気筒でなくてもよい。オープンデッキ構造のシリンダブロックであれば、上記第1及び第2の実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ10,110を適用することができ、上記実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0078】
・上記各実施形態では、4つの膨張部材12をホルダ11に固定したが、膨張部材12の数は適宜変更可能である。膨張部材12を設ける数は、ウォータージャケットスペーサの全長や、ウォータージャケットスペーサを適用するシリンダブロックが備えるシリンダボアの数に応じて変更することが好ましく、たとえば1つでもよい。
【0079】
・上記第1及び第2の実施形態にかかるウォータージャケットスペーサ10,110では、ウォータージャケット22に挿入した際に、ウォータージャケット22におけるシリンダブロック20の長手方向における両端の部分に間隙を形成するように構成した。これに対して、ウォータージャケット22におけるシリンダブロック20の長手方向における両端の部分に膨張部材12を配設するように構成することもできる。このように構成したウォータージャケットスペーサでは、上記(1)〜(6)に記載の効果、或いは上記(1)〜(6)、(8)、(9)に記載の効果を奏することができる。
【0080】
・上記各実施形態では、膨張部材12として感熱膨張部材を採用した。膨張部材12としては、こうした構成に限らない。たとえば、冷却水を吸収して膨張する膨潤部材を採用してもよい。
【0081】
・上記各実施形態では、金属製のホルダ11を採用した。ウォータージャケットスペーサを構成するホルダ11は、金属に限らない。たとえば樹脂によってホルダ11を成形してもよい。