(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の第1ドグ歯が軸線方向に向けて突出しかつ円周方向に一定の間隔を空けて形成された第1部材と、前記第1ドグ歯の間に差し込まれる複数の第2ドグ歯が軸線方向に向けて突出しかつ円周方向に一定の間隔を空けて形成された第2部材と、流体が供給されることによる操作力で前記第2部材を前記第1部材側に移動させて前記第1ドグ歯と前記第2ドグ歯とを噛み合わせる流体室と、前記流体室に流体を供給する連通状態と、前記流体室への流体の供給を停止するとともに前記流体室内に流体を封入する遮断状態とを切り替える切替手段とを備えた噛み合い式係合機構の制御装置において、
前記第1ドグ歯と前記第2ドグ歯とにおける互いに接触してトルクを伝達する歯面は、前記トルクに応じて前記第1部材と前記第2部材とを軸線方向に離隔させる方向の解放力を発生させる傾斜面とされ、
前記流体室と流体を吐出するポンプとに連通した流路を備え、
前記切替手段は、前記流路を開閉する位置に設けられるとともに、通電されることにより前記流路を開きかつ通電が止められることにより前記流路を閉じるノーマルクローズ型の電磁弁によって構成され、
前記切替手段による前記流体室への流体の供給および停止を制御するコントローラを更に備え、
前記コントローラは、
前記流体室の流体圧に応じて前記第2部材が予め定められた所定位置まで移動して前記各ドグ歯が噛み合った後に、前記電磁弁への通電を止めて前記流路を閉じて前記流体室に流体を封入することにより、前記第1ドグ歯のうち前記第2ドグ歯に接触する第1歯面と前記第2ドグ歯のうち前記第1ドグ歯に接触する第2歯面との間で伝達されるトルクに応じた前記解放力によって前記第2部材が前記第1部材から離隔する方向に押圧されて前記流体室の流体圧を増大させ、その増大した流体圧によって前記第1部材と前記第2部材との係合状態を維持し、前記各ドグ歯の噛み合いを外す場合には前記電磁弁に通電して前記流路を開くことにより前記流体室から前記流体を流出させるように構成されている
ことを特徴とする噛み合い式係合機構の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された噛み合い式係合機構は、ドグ歯にトルクが作用している際には、ドグ歯同士が接触する歯面に摩擦力が生じる。その摩擦力は、ドグ歯が離隔する方向とは反対方向に作用する。したがって、噛み合い式係合機構を解放することが困難になる。そのため、通常、ドグ歯に作用するトルクを低下させてから、各ドグ歯の噛み合いを解消するように操作力を作用させる。このように噛み合い式係合機構を解放させる際には、ドグ歯に作用させるトルクの制御と、操作力を発生させる制御とを協調させることになる。そのため、噛み合い式係合機構を解放させる制御が複雑になり、また解放の遅れが生じる可能性がある。
【0005】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、噛み合い式係合機構を解放する際の制御を簡素化することができる噛み合い式係合機構の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明は、複数の第1ドグ歯が軸線方向に向けて突出しかつ円周方向に一定の間隔を空けて形成された第1部材と、前記第1ドグ歯の間に差し込まれる複数の第2ドグ歯が軸線方向に向けて突出しかつ円周方向に一定の間隔を空けて形成された第2部材と、流体が供給されることによる操作力で前記第2部材を前記第1部材側に移動させて前記第1ドグ歯と前記第2ドグ歯とを噛み合わせる流体室と、前記流体室に流体を供給する連通状態と、前記流体室への流体の供給を停止するとともに前記流体室内に流体を封入する遮断状態とを切り替える切替手段とを備えた噛み合い式係合機構の制御装置において、前記第1ドグ歯と前記第2ドグ歯とにおける互いに接触してトルクを伝達する歯面は、前記トルクに応じて前記第1部材と前記第2部材とを軸線方向に離隔させる方向の解放力を発生させる傾斜面とされ、
前記流体室と流体を吐出するポンプとに連通した流路を備え、前記切替手段は、前記流路を開閉する位置に設けられるとともに、通電されることにより前記流路を開きかつ通電が止められることにより前記流路を閉じるノーマルクローズ型の電磁弁によって構成され、前記切替手段による前記流体室への流体の供給および停止を制御するコントローラを更に備え、前記コントローラは、前記流体室の流体圧に応じて前記第2部材が予め定められた所定位置まで移動して前記各ドグ歯が噛み合った後に、前
記電磁弁への通電を止めて前記流路を閉じて前記流体室に流体を封入することにより、前
記第1ドグ歯のうち前記第2ドグ歯に接触する第1歯面と前
記第2ドグ歯のうち前記第1ドグ歯に接触する第2歯面との間で伝達されるトルクに応じた前記解放力によって前記第2部材が前記第1部材から離隔する方向に押圧されて前記流体室の流体圧を増大させ、その増大した流体圧によって前記第1部材と前記第2部材との係合状態を維
持し、前記各ドグ歯の噛み合いを外す場合には前記電磁弁に通電して前記流路を開くことにより前記流体室から前記流体を流出させるように構成されていることを特徴とするものである。
【0007】
この発明では、
前記コントローラは、前記電磁弁により前記流路を遮断した後に、前記ポンプの吐出圧を低下させてもよい。
【0008】
この発明では、前記第2部材の軸線方向での位置を検出する検出手段を更に備えてもよい。
【0009】
この発明では、前記流体は、非圧縮性の流体であってもよい。
【0010】
この発明では、前記第1部材と前記第2部材とは相対回転可能に設けられており、前記各ドグ歯が噛み合うことにより前記第1部材と前記第2部材とが一体に回転するように構成してもよい。
【0011】
この発明では、前記第1部材と前記第2部材とのいずれか一方の部材が固定部に連結され、前記各ドグ歯が噛み合うことにより前記第1部材と前記第2部材との他方の部材の回転を停止させるように構成してもよい。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、各ドグ歯には、互いに対向した傾斜面が形成されており、その傾斜面同士を接触させる方向のトルクに応じて第1部材と第2部材とを軸線方向に離隔させる方向の解放力が発生する。したがって、各ドグ歯における傾斜面が接触するようにトルクを伝達し、第2部材を押圧する操作力を低下させた状態とすることにより、噛み合い式係合機構を解放させることができる。その場合、噛み合い式係合機構に入力するトルクの制御と、操作力を低下させる制御とを協調させる必要がないので、噛み合い式係合機構を解放させる制御を簡素化することができる。
【0013】
また、第1部材と第2部材とを係合させる場合に、各ドグ歯が噛み合った後に、流体室に流体を封入するように構成されている。その状態でトルクを伝達することにより、第2部材が第1部材から離隔する方向に押圧されて流体室の流体に圧縮力が作用し、その流体圧が増大する。すなわち、解放力に抗する反力が生じて、噛み合い式係合機構が係合した状態を維持するように構成されている。したがって、噛み合い式係合機構を係合状態とするために流体室に供給する流体圧を低くすることができる。したがって、ポンプなどの流体の供給源から出力する流体圧が低くてよいので、動力損失を低減させることができる。また、上記のように流体室の流体圧がトルクに応じて増大するので、流体圧を受ける受圧面積を小さくしても係合状態の維持に要する圧力を得ることができる。したがって、流体室での受圧面積を小さくできることにより、流体室の容積が小さくなるので、流体室に流体を供給させ始めてから各ドグ歯が噛み合うまでの時間を短くすることができる。または、各ドグ歯を噛み合わせるために供給する流体の量を低減することができる。
【0014】
さらに、流体室とポンプとに連通した流路を遮断して流体室に流体を封入するように構成されている場合には、各ドグ歯が噛み合って流路を遮断した後に、ポンプの吐出圧を低下させる。そのため、噛み合い式係合機構が係合している際におけるポンプによる動力損失を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明における噛み合い式係合機構は、第1ドグ歯が形成された第1部材と、第2ドグ歯が形成された第2部材とを備えており、その第2部材を押圧して第1部材側に移動させることにより、第1ドグ歯と第2ドグ歯とを噛み合わせるように構成されている。その噛み合い式係合機構の一例を
図5に示している。
図5に示す噛み合い式係合機構1は、車両に搭載されたものであって、図示しないエンジンなどの動力源からトルクが伝達される入力部材2と、図示しない駆動輪などに連結された出力部材3とを備えている。入力部材2および出力部材3は、図示しないケースにベアリングなどにより回転自在に保持されている。また、入力部材2と出力部材3とは、軸線方向に所定の間隔を空けて互いに対向して配置されている。なお、以下の説明では、入力部材2が、図に矢印で示す方向にトルクTを入力するものとする。
【0017】
その入力部材2は、この発明の実施例における「第1部材」に相当するものであって、軸線方向における出力部材3側に突出した複数の第1ドグ歯4が形成されている。この複数の第1ドグ歯4は、入力部材2の回転方向に所定の間隔を空けて形成されている。また、第1ドグ歯4における入力部材2の回転方向を向いた側面4aは、第1ドグ歯4の先端面4bに対して傾斜しており、その傾斜角度が鈍角になっている。この噛み合い式係合機構1は、後述するようにトルクが入力されることにより解放力を発生させるように構成されている。したがって、上記の傾斜角度は、噛み合い式係合機構1の解放時に入力されるトルクの大きさに基づいて定めることができる。
【0018】
一方、出力部材3には、入力部材2側に開口した凹部5が形成されており、出力部材3と一体に回転するとともに、出力部材3の軸線方向に移動するピストン6が、凹部5に収容されている。具体的には、凹部5の内面とピストン6の外面とがスプライン係合している。このピストン6は、この発明の実施例における「第2部材」に相当するものであって、第1ドグ歯4の間に差し込まれる複数の第2ドグ歯7が形成されている。また、この複数の第2ドグ歯7は、出力部材3の回転方向に所定の間隔を空けて形成されている。さらに、第1ドグ歯4と第2ドグ歯7とが噛み合った際に、上記第1ドグ歯4の側面4aに対向する第2ドグ歯7の側面7aが傾斜して形成されている。具体的には、第2ドグ歯7の先端面7bに対する第2ドグ歯7の側面7aの傾斜角度が鈍角になっている。したがって、第1ドグ歯4と第2ドグ歯7との噛み合い時に面接触する。すなわち、第1ドグ歯4の先端面7bに対する第1ドグ歯4の側面4aの傾斜角度と、第2ドグ歯7の先端面7bに対する第2ドグ歯7の側面7aの傾斜角度とが同一に形成されている。
図5に示す例では、更に、各ドグ歯4,7の他方側の側面4c、7cが、上記各側面4a,7aと同様に傾斜して形成されている。これは、噛み合い式係合機構1に入力されるトルクの向きが反転した場合であっても、そのトルクに応じて噛み合い式係合機構1を解放させることができるようにするためである。なお、第1ドグ歯4における一方の側面4aが、この発明を実施した場合における「第1歯面」に相当し、その側面4aに対向する第2ドグ歯7の側面7aが、この発明を実施した場合における「第2歯面」に相当する。
【0019】
また、ピストン6を凹部5の底面側に押圧するリターンスプリング8が設けられている。このリターンスプリング8は、図示しないケースに固定された座金9とピストン6との間に設けられた圧縮バネであって、
図5に矢印で示すように、ピストン6が入力部材2から離隔する方向に、常時、バネ力Sを作用させるように構成されている。
【0020】
上記ピストン6の背面と凹部5の内面とに囲われた空間(以下、油圧室と記す)10に、非圧縮性流体のオイルが供給されるように構成されている。
図5に示す例では、出力部材3の回転軸中心に沿って第1油路11が形成されており、その第1油路11を介して油圧室10と後述する油圧源とが連通するように構成されている。したがって、油圧室10にオイルを供給すれば、その油圧室10の油圧に基づく操作力Aがピストン6に作用する。その操作力Aが上記リターンスプリング8のバネ力Sよりも大きくなると、ピストン6が入力部材2側に移動する。そのピストン6の位置を検出するストロークセンサ12が設けられている。
図5に示す例では、ピストン6が後述する第1所定位置まで凹部5の底面から移動したことを検出する第1ストロークセンサ12aと、ピストン6が後述する第2所定値まで入力部材2から離隔したことを検出する第2ストロークセンサ12bとが設けられている。なお、油圧室10からのオイルの漏洩を抑制するために、ピストン6の外面と凹部5の内面との間にシール部材13が設けられている。
【0021】
ここで、
図5に示す噛み合い式係合機構1がトルクを伝達している際に、ピストン6に作用する荷重について説明する。なお、噛み合い式係合機構1がトルクを伝達している際に、第2ドグ歯7の側面7aに作用する荷重の方向を
図6に示している。まず、噛み合い式係合機構1がトルクを伝達している場合には、第2ドグ歯7に出力部材3の回転方向の荷重Fが作用する。この荷重Fは、回転中心軸から接触部までの距離と、噛み合い式係合機構1への入力トルクTとから求めることができる。上述したように第2ドグ歯7の側面7aは傾斜して形成されているので、その側面7aに垂直な方向の荷重(以下、垂直荷重と記す)Bが作用する。この垂直荷重Bは、上記荷重Fと傾斜角度とに基づいて求めることができる。同様に、その側面7aには、出力部材3の軸線方向の荷重(以下、解放力と記す)Cが作用する。この解放力Cの向きは、ピストン6を入力部材2から離隔させる方向となる。この垂直荷重Bおよび解放力Cは、以下に示す式により求めることができる。なお、以下の式における「θ」は、出力部材3の回転軸線に対する第2ドグ歯7の側面7aにおける傾斜角度である。
B=F/cosθ …(1)
C=B×sinθ=F/tanθ …(2)
【0022】
また、第2ドグ歯7を介してピストン6にトルクが入力されるので、ピストン6と凹部5との接触部にも同様に摩擦力Dが作用する。さらに、第2ドグ歯7にトルクが作用すると、第1ドグ歯4と第2ドグ歯7との接触面に摩擦力が生じ、その摩擦力の分力Eが、上記解放力に抗して作用する。上記摩擦力D、および接触面に生じる摩擦力の分力Eは、以下に示す式により求めることができる。なお、以下の式における「μ
1」は、ピストン6と凹部5との接触部での摩擦係数、「μ
2」は、第1ドグ歯4と第2ドグ歯7との接触面での摩擦係数である。
D=μ
1×F …(3)
E=μ
2×B×cosθ …(4)
【0023】
さらに、上述したようにリターンスプリング8のバネ力Sがピストン6に作用している。また、油圧室10の油圧に応じた操作力Aがピストン6に作用している。なお、操作力Aは、ピストン6の受圧面積と、油圧室10の油圧との積により求めることができる。したがって、解放力Cとバネ力Sとの合力が、摩擦力Dおよび接触面に生じる摩擦力の分力Eと操作力Aとの合力よりも大きくなると、ピストン6が凹部5側に移動する。すなわち、以下の式を満たす場合には、噛み合い式係合機構1が解放される。
C+S−(D+E+A)>0 …(5)
【0024】
上式(2)に示すように解放力Cは、荷重Fに比例して変化し、その荷重Fは、噛み合い式係合機構1に入力されるトルクTに応じて変化する。したがって、噛み合い式係合機構1に入力するトルクTを大きくすることにより解放力Cが大きくなる。そのため、噛み合い式係合機構1に入力するトルクTを大きくし、かつ油圧室10の油圧を低くすることにより、噛み合い式係合機構1を解放させることができる。
【0025】
噛み合い式係合機構1に入力するトルクTは、図示しない動力源の出力トルクや、トルク伝達経路における動力源と噛み合い式係合機構1との間に設けられた他の装置の伝達トルクなどを制御することにより変化させることができる。また、油圧室10の油圧は、後述する油圧源の吐出圧や、油圧制御弁を制御することにより変化させることができる。この噛み合い式係合機構1に入力するトルクTの制御と、油圧室10の油圧の制御とは、特に協調させる必要がなく、それぞれを個別に制御することができる。そのように噛み合い式係合機構1に入力するトルクTを変化させ、かつ油圧室10の油圧を変化させている過程で、上式(5)の条件が成立したときに噛み合い式係合機構1が解放される。そのため、噛み合い式係合機構1を解放させる制御を簡素化することができる。
【0026】
一方、上述したように構成された噛み合い式係合機構1は、トルク伝達時にも同様に解放力Cが作用するので、係合状態を維持するためには、油圧室10の油圧を高く維持する必要がある。他方、油圧室10に比較的高い油圧を供給するとすれば、油圧源の動力損失が増大し、または装置が大型化する可能性がある。そのため、この発明に係る噛み合い式係合機構の制御装置は、油圧室10に比較的低い油圧を供給し、噛み合い式係合機構1がトルクを伝達することによりその油圧を増大させて、係合状態を維持するように構成されている。
【0027】
ここで、油圧室10にオイルを供給するための油圧回路について説明する。その油圧回路を
図7に模式的に示している。
図7に示す油圧回路では、まず、通電される電力に応じた油圧を発生させる電気式オイルポンプ(以下、EOPと記す)14が設けられている。このEOP14から出力されたオイルは、第2油路15を流動してオン・オフバルブ16に供給される。このオン・オフバルブ16は、通電されることにより開弁するように構成されたノーマルクローズ型の電磁弁である。また、オン・オフバルブ16は、閉弁状態では、入力ポート16aまたは出力ポート16bを密封することができるように構成されている。その一例としては、入力ポート16aまたは出力ポート16bに弁体が当接して、そのポート16a(16b)を閉じるように構成されたポペット型のバルブが挙げられる。このオン・オフバルブ16の出力ポート16bに油圧室10が連通している。したがって、オン・オフバルブ16を開弁状態とすることにより、EOP14から油圧室10にオイルが供給される。また、油圧室10にオイルが供給された状態で、オン・オフバルブ16を閉弁状態とすることにより、油圧室10内にオイルが封入される。このオン・オフバルブ16が、この発明の実施例における「切替手段」に相当する。
【0028】
さらに、第2油路15の油圧が所定値以上になった場合に開弁して第2油路15の油圧を低減するように、減圧弁17が設けられている。この減圧弁17は、第2油路15の油圧が必要油圧以上に増大した場合に開弁して、第2油路15からオイルを排出するものであって、従来知られた種々の制御弁で構成することができる。なお、
図7に示すようにEOP14を油圧源としている場合には、そのEOP14に通電する電流値を制御して、油圧室10に供給する油圧を制御する。一方、エンジンなど他の動力源からトルクが伝達されて駆動する機械式オイルポンプを油圧源としていてもよく、その場合には、油圧源とオン・オフバルブ16との間に、油圧制御弁を設け、その油圧制御弁により油圧室10に供給する油圧を制御してもよい。
【0029】
上述したEOP14やオン・オフバルブ16を制御するための電子制御装置(以下、ECUと記す)18が設けられており、そのECU18は、以下に示すフローチャートを実行する際のコントローラとして機能するように構成されている。このECU18は、従来知られたものと同様にマイクロコンピュータを主体として構成されたものであって、各ストロークセンサ12a,12bや他の図示しないセンサから信号が入力され、その入力された信号と予め記憶されたマップや演算式などとによりEOP14やオン・オフバルブ16あるいは図示しない他の装置に信号を出力するように構成されている。
【0030】
つぎに、噛み合い式係合機構1を解放状態から係合状態に切り替える制御の一例について説明する。その制御を
図1に示している。
図1に示す制御は、噛み合い式係合機構1が解放されているときに繰り返し実行される。なお、上述したようにオン・オフバルブ16が、ノーマルクローズ型の電磁弁である場合には、噛み合い式係合機構1が解放状態のときには、オン・オフバルブ16を開弁させる必要がないので、オン・オフバルブ16を開弁させることによる電力損失を低減するために、オン・オフバルブ16を閉弁状態にしている。また、EOP14の動力損失などを低減するために、噛み合い式係合機構1が解放状態のときには、EOP14の吐出圧を低く設定している。
【0031】
図1に示す例では、まず、噛み合い式係合機構1を係合させる指示があるか否かを判断する(ステップS1)。このステップS1は、変速制御装置などの他の制御装置からの信号を受けて判断することができる。その一例としては、この噛み合い式係合機構1を係合させることにより所定の変速段が成立するように構成された変速制御機構を備えている場合に、その変速制御機構を制御する装置により上記所定の変速段を設定するか否かを判断し、その判断結果に基づいてステップS1を判断することができる。噛み合い式係合機構1を係合させる指示がなく、ステップS1で否定的に判断された場合は、そのままこのルーチンを一旦終了する。
【0032】
それとは反対に、噛み合い式係合機構1を係合させる指示があり、ステップS1で肯定的に判断された場合は、オン・オフバルブ16を開弁させる(ステップS2)。この場合、従来知られた噛み合い式係合機構と同様に入力部材2と出力部材3との回転数をほぼ同じ回転数とすることが好ましい。その回転数を同期させる制御は、例えば動力源の回転数や、噛み合い式係合機構1に連結された図示しない摩擦係合機構の伝達トルク容量を制御するなど従来知られた制御と同様に行えばよい。
【0033】
また、EOP14の吐出圧を所定値まで増大させる(ステップS3)。この所定値は、EOP14の吐出圧に基づいてピストン6に作用する操作力Aが、リターンスプリング8のバネ力Sよりも大きくなるように定められている。すなわち、ピストン6が入力部材2側に移動することができる程度の吐出圧に定められている。なお、ステップS2とステップS3とを実行する順序は特に限定されない。
【0034】
そのようにオン・オフバルブ16を開弁させるとともにEOP14の吐出圧を増大させることにより、油圧室10の油圧が増大する。その結果、ピストン6が入力部材2側に移動する。その後、ピストン6が第1所定位置まで移動したか否かを判断する(ステップS4)。このステップS4は、第1ストロークセンサ12aによりピストン6の位置を検出して判断することができる。また、この噛み合い式係合機構1は、後述するように油圧室10にオイルを封入した状態でトルクを伝達することにより油圧室10の油圧を高めるように構成されており、その場合には、ピストン6が僅かに凹部5側に押し戻される場合がある。そのようにピストン6が押し戻された場合であっても、各ドグ歯4,7の噛み合い量が、設計上定められる噛み合い量以上となるように、ステップS4における所定量が定められている。
【0035】
ピストン6が未だ第1所定位置まで移動しておらずステップS4で否定的に判断された場合は、ピストン6が第1所定位置に移動するまでステップS4を繰り返し実行する。それとは反対に、ピストン6が第1所定位置まで移動することによりステップS4で肯定的に判断された場合には、オン・オフバルブ16を閉じて(ステップS5)、このルーチンを一旦終了する。
【0036】
図1に示すように制御した場合におけるピストン6の位置および油圧室10の油圧ならびに後述する供給油圧の変化を
図2に示している。
図2に示すように噛み合い式係合機構1が解放されている時点(t0時点)では、油圧室10にオイルが供給されていないので、ピストン6がリターンスプリング8に押圧されて入力部材2から最も離隔した位置になる。なお、
図2におけるピストン6の位置は、凹部5の底面からの距離に相当し、ピストン6が入力部材2に接近するほど値が大きくなるように示している。
図1におけるステップS1で肯定的に判断されると(t1時点)、噛み合い式係合機構1を係合させるためのフラグがONされる。上記のように噛み合い式係合機構1を係合させる指示があると、オン・オフバルブ16が開弁される(t2時点)。それとほぼ同時に、EOP14の吐出圧が増大させられて第2油路15および油圧室10の油圧が増大し始める。以下の説明では、第2油路15の油圧を供給油圧と記し、
図2では、その供給油圧を実線で示し、油圧室10の油圧を破線で示している。
【0037】
上述したように油圧室10の油圧が増大している過程で、またはその油圧がステップS3における所定値まで増大した時点で、ピストン6に作用する操作力Aが、バネ力Sよりも大きくなってピストン6が入力部材2側に移動し始める(t3時点)。そして、ピストン6が所定位置まで移動すると(t4時点)、
図1におけるステップS4で肯定的に判断されるので、ついで、オン・オフバルブ16が閉じられる(t5時点)。上述したようにオン・オフバルブ16を閉じることにより、油圧室10内にオイルが封入されるように構成されている。そのため、オン・オフバルブ16を閉じた後に、噛み合い式係合機構1にトルクが入力されると、解放力Cによりピストン6が押圧されて油圧室10のオイルに圧縮力が作用する。その圧縮力は、入力トルクに応じて増大する。その結果、油圧室10の油圧が入力トルクに応じて増大する(t6時点)。すなわち、解放力Cに抗する反力が生じる。上述したようにオイルは、非圧縮性流体であるため、油圧室10の容積はほとんど変化せずに、油圧室10の油圧が急激に増大する。すなわち、
図2に示すように油圧室10の油圧がステップ的に増大する。なお、上記のようにピストン6がほとんど移動しないため、
図2にはピストン6の位置の変化が示されていない。このように油圧室10の油圧が増大して反力が生じることにより、噛み合い式係合機構1にトルクが入力された場合であっても、係合状態が維持される。
【0038】
また、
図2に示す例では、オン・オフバルブ16を閉じた後に、油圧源の動力損失などを低減するために、供給油圧を低下させている。なお、
図2に示すように油圧室10の油圧が増大させられた後に、供給油圧を低下してもよく、それ以前に供給油圧を低減してもよい。すなわち、供給油圧を低下させるタイミングは、オン・オフバルブ16を閉じた後であればよい。
【0039】
上述したように構成された噛み合い式係合機構1は、トルクを伝達することにより、油圧室10に供給された油圧が増大して、解放力Cに抗する反力が生じる。したがって、供給油圧は、ピストン6を移動させる程度の比較的低い油圧にすることができるので、EOP14の動力損失を低減することができる。また、上記のように油圧室10の油圧がトルクに応じて増大するので、油圧を受ける受圧面積を小さくしても係合状態の維持に要する圧力を得ることができる。したがって、油圧室10での受圧面積を小さくすることができることにより、油圧室10の容積が小さくなる。そのため、噛み合い式係合機構1を噛み合わせる際に要するオイル量を低減することができることにより、EOP14による動力損失を低減することができる。また、油圧室10の容積を小さくすることができるので、油圧室10にオイルを供給し始めてから各ドグ歯4,7の噛み合いが完了するまでの時間を短くすることができる。
【0040】
なお、上述したようにこの噛み合い式係合機構1を解放させる場合には、油圧室10の油圧を低減させるとともに、噛み合い式係合機構1にトルクを伝達すればよい。噛み合い式係合機構1を解放させる際におけるオン・オフバルブ16の制御の一例を
図3に示してある。
図3に示す例では、噛み合い式係合機構1を係合させている場合に、繰り返し実行される。まず、噛み合い式係合機構1を解放させる指示があるか否かを判断する(ステップS11)。このステップS11は、上記ステップS1と同様に変速制御装置などの他の制御装置からの信号を受けて判断することができる。噛み合い式係合機構1を解放させる指示がなく、ステップS11で否定的に判断された場合には、そのままこのルーチンを一旦終了する。
【0041】
それとは反対に、噛み合い式係合機構1を解放させる指示があり、ステップS11で肯定的に判断された場合には、オン・オフバルブ16を開弁させる(ステップS12)。オン・オフバルブ16が開弁することにより、油圧室10と第2油路15とが連通すると、油圧室10のオイルが第2油路15に向けて抜け出る。これは、上述したように油圧室10の油圧は、ピストン6が押圧されることにより増圧された比較的高い油圧であり、かつ第2油路15の油圧は、EOP14の動力損失を低減するために、比較的低い油圧に設定されているからである。そのように第2油路15にオイルが流動する際には、減圧弁17を開弁して第2油路15の油圧を一定に保つことが好ましい。これは、油圧室10から第2油路15に向けてオイルが抜け出ることにより、第2油路15の油圧が高まると、油圧室10からオイルが抜け出にくくなり、噛み合い式係合機構1の解放速度が遅くなる可能性があるためである。
【0042】
上記のようにオン・オフバルブ16を開弁させて油圧室10の油圧を低減させることにより、第2ドグ歯7に作用する解放力Cとリターンスプリング8のバネ力Sとにより、ピストン6が凹部5側に移動し始める。このようにピストン6が移動して、各ドグ歯4,7が噛み合わなくなることにより、噛み合い式係合機構1が解放される。したがって、ステップS12についでピストン6が入力部材2側から第2所定位置まで移動したか否かが判断される(ステップS13)。このステップS13におけるピストン6の位置は、第2ストロークセンサ12bにより検出することができる。また、ステップS13における第2所定位置とは、各ドグ歯4,7が噛み合わなくなる位置であって、それぞれのドグ歯4,7の構造から定められた値である。ピストン6が所定の位置まで移動しておらず、ステップS13で否定的に判断された場合には、ピストン6が第2所定位置に移動するまで、ステップS13を繰り返し実行する。それとは反対に、ピストン6が第2所定位置まで移動したことにより、ステップS13で肯定的に判断された場合には、このルーチンを一旦終了する。なお、噛み合い式係合機構1が解放された場合には、オン・オフバルブ16は開弁状態であっても、閉弁状態であってもよい。したがって、上述したようにノーマルクローズ型の電磁弁の場合には、その電力損失を低減するために閉弁状態にすることが好ましい。また、EOP14により油圧を発生させる必要もないので、供給油圧は、減圧弁17で低減された比較的低い油圧に維持される。
【0043】
図3に示す制御を実施した場合におけるピストン6の位置および油圧室10の油圧ならびに供給油圧の変化を
図4に示してある。なお、供給油圧を実線で示し、油圧室10の油圧を破線で示している。
図4に示す例では、まず、油圧室10の油圧が、比較的高い油圧に維持されている(t10時点)。これは、上述したように油圧室10にオイルが封入された状態で、噛み合い式係合機構1にトルクが入力されているためである。一方、供給油圧は、
図2におけるt6時点で低減させられた油圧に維持されている。この油圧は、ピストン6を入力部材2側に移動させる際に設定される油圧よりも小さい油圧である。噛み合い式係合機構1を解放させる指示があると(t11時点)、ついで、オン・オフバルブ16を開弁する(t12時点)。オン・オフバルブ16が開弁することにより油圧室10の油圧が低下する。この場合、供給油圧が変化しないように減圧弁17を制御することにより、油圧室10の油圧を迅速に低減することができる。ついで、油圧室10の油圧が低下することにより、ピストン6が移動し始める(t13時点)。ピストン6が第2所定位置まで移動すると(t14時点)、噛み合い式係合機構1が解放される。なお、
図4に示す例では、ピストン6が第2所定位置まで移動した後に、オン・オフバルブ16を閉弁状態に切り替えている(15時点)。
【0044】
上述したように噛み合い式係合機構1を解放させる場合には、噛み合い式係合機構1にトルクを入力し続けた状態で、オン・オフバルブ16を開弁させればよい。したがって、上述したように噛み合い式係合機構1を解放させる制御を簡素化することができる。
【0045】
なお、この発明に係る噛み合い式係合機構1は、ピストン6に直接油圧を作用させて操作力Aを発生させる構成に限定されず、例えば、ピストン6に油圧アクチュエータを連結し、その油圧アクチュエータの操作力Aによりピストン6を入力部材2側に押圧するように構成されていてもよい。そのように構成した場合には、油圧アクチュエータの油圧室にオイルを封入することができるように油圧回路を構成すればよい。
【0046】
さらに、油圧室10に供給される流体は、非圧縮性の流体に限らず、圧縮性の流体であってもよい。油圧室10に圧縮性の流体を供給する場合には、油圧室10に流体を封入した状態で、噛み合い式係合機構1にトルクを入力すると、油圧室10内の流体が圧縮されて、ピストン6が凹部5側に大きく移動する。したがって、各ドグ歯4,7を係合させるために油圧室10に供給する流体圧と、噛み合い式係合機構1に入力されるトルクTとから、ピストン6が凹部5側に押し戻される量を求め、設計上定められる噛み合い量に、上記のように求められた移動量分を加算した位置を、上述した第1所定位置とすればよい。そのように制御することにより、噛み合い式係合機構1にトルクが入力された場合であっても、係合状態を維持することができる。また、オン・オフバルブ16に限らず、例えば、開弁状態では、第2油路15と油圧室10とを連通させ、閉弁状態では、油圧室10を密封するように出力ポート16bを閉じるとともに、第2油路15と図示しないドレーンポートとを連通させて、第2油路15のオイルを排出するように構成された切替弁であってもよい。