特許第6200002号(P6200002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200002
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】多層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20170911BHJP
【FI】
   B32B27/36 102
【請求項の数】5
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-560950(P2015-560950)
(86)(22)【出願日】2015年1月29日
(86)【国際出願番号】JP2015052436
(87)【国際公開番号】WO2015119026
(87)【国際公開日】20150813
【審査請求日】2016年8月3日
(31)【優先権主張番号】特願2014-23376(P2014-23376)
(32)【優先日】2014年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】今里 健太
(72)【発明者】
【氏名】山中 克浩
【審査官】 久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/108594(WO,A1)
【文献】 特開2012−166503(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/020636(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/096089(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/133114(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
C08G63/00−64/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し単位が下記式
【化1】
で表される単位(a−1)と下記式
【化2】
(式中、R、R、RおよびRは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基である。)
で表される単位(a−2)を含み、単位(a−1)と単位(a−2)とのモル比(a−1/a−2)が32/68〜70/30であるポリカーボネート樹脂(A)からなる層と芳香族ポリカーボネート樹脂(B)からなる層とをそれぞれ少なくとも1層以上有する多層体。
【請求項2】
芳香族ポリカーボネート樹脂(B)がビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂である請求項1記載の多層体。
【請求項3】
ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度が110℃〜145℃である請求項1記載の多層体。
【請求項4】
ポリカーボネート樹脂(A)の飽和吸水率が2.0%以下である請求項1記載の多層体。
【請求項5】
ポリカーボネート樹脂(A)からなる層の表面硬度がF以上である請求項1記載の多層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、低吸水性、耐衝撃性、表面硬度、密着性に優れた多層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂は、耐熱性、耐衝撃性、難燃性、透明性に優れることから車両用途や建築用資材など広く用いられている。これらの用途の中で特に屋外で使用するものについては高い耐候性が求められるが、一般にポリカーボネート樹脂の耐候性はアクリル樹脂等の他の透明材料と比較して優れておらず、屋外暴露によって黄変や失透が発生する。このため、ポリカーボネートの耐候性を改善する方策として、これまで種々の検討がなされてきているが、そのひとつの方法としてポリカーボネート基材に耐候剤を含んだアクリル樹脂を被覆する手法が用いられている(特許文献1)。しかしながらこれらの方法では耐候性については改善が見られるものの、アクリル樹脂の本質的な課題として、耐衝撃性や耐熱性、吸水性の観点からポリカーボネートの特性を十分活かせているとは言い難く改善の余地があった。
【0003】
また、近年、石油資源の枯渇の懸念や、地球温暖化を引き起こす空気中の二酸化炭素の増加の問題から、原料を石油に依存せず、また燃焼させても二酸化炭素を増加させないカーボンニュートラルが成り立つバイオマス資源が大きく注目を集めるようになり、ポリマーの分野においても、バイオマス資源から生産されるバイオマスプラスチックが盛んに開発されている。特に、モノマーとしてイソソルビドを中心に用いたポリカーボネートは耐熱性や耐候性、表面硬度、耐薬品性といった点で優れており、一般のビスフェノールAからなるポリカーボネートとは異なる特徴を有することから注目され、種々の検討がなされている(特許文献2、3)。これらのイソソルビド系ポリカーボネートは耐熱性や衝撃性、耐候性に優れる一方で、一般のビスフェノールA型ポリカーボネートとの密着性は考慮されておらず、実際、ビスフェノールA型ポリカーボネートとの密着性は著しく悪く、多層体を形成することは困難であった。
【0004】
特許文献4、5では、特定構成においてはビスフェノールA型ポリカーボネートとの積層体が開示されているが、密着層のイソソルビド系ポリカーボネートの耐熱性、表面硬度は低く、更にもう一層の被覆層を必要とするといった課題や密着性が著しく悪いといった課題があった。
【0005】
特許文献6、7ではイソソルビドとスピロ環骨格を有する共重合組成が示されているが、光学フィルム用途への使用を目的としており、ビスフェノールA型ポリカーボネートとの積層体としての観点は記載されていない。
【0006】
その為、耐熱性、低吸水性、耐衝撃性、表面硬度、密着性に優れた多層体は未だ提供されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−270652号公報
【特許文献2】特開2006−36954号公報
【特許文献3】特開2009−46519号公報
【特許文献4】特開2011−156719号公報
【特許文献5】特開2011−201304号公報
【特許文献6】国際公開2008/020636号パンフレット
【特許文献7】特開2006−232987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐熱性、低吸水性、耐衝撃性、表面硬度、密着性に優れた多層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、イソソルビドと共重合モノマーとして特定のスピロ環構造を有するモノマーを一定比率含有することで、耐熱性、低吸水性、耐衝撃性及び表面硬度に優れ、大幅に芳香族ポリカーボネートとの密着性を改善できることを究明し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明によれば、発明の課題は、下記により達成される。
【0011】
1.主たる繰り返し単位が下記式
【0012】
【化1】
【0013】
で表される単位(a−1)と下記式
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、R、R、RおよびRは水素原子または炭素数1〜5のアルキル基である。)
で表される単位(a−2)を含み、単位(a−1)と単位(a−2)とのモル比(a−1/a−2)が32/68〜70/30であるポリカーボネート樹脂(A)からなる層と芳香族ポリカーボネート樹脂(B)からなる層とをそれぞれ少なくとも1層以上有する多層体。
【0016】
2.芳香族ポリカーボネート樹脂(B)がビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂である前項1記載の多層体。
【0017】
3.ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度が110℃〜145℃である前項1記載の多層体。
【0018】
4.ポリカーボネート樹脂(A)の飽和吸水率が2.0%以下である前項1記載の多層体。
【0019】
5.ポリカーボネート樹脂(A)からなる層の表面硬度がF以上である前項1記載の多層体。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、イソソルビドとスピロ環構造を有するジオールとを一定比率で構成単位として含むポリカーボネート樹脂からなる層と芳香族ポリカーボネート樹脂からなる層を積層させることで、耐熱性、低吸水性、耐衝撃性及び表面硬度に優れた特性を有し、密着性に優れた多層体を提供することが可能となった。そのため、その奏する工業的効果は格別である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
<ポリカーボネート樹脂>
(ポリカーボネート樹脂(A))
本発明のポリカーボネート樹脂(A)は、主たる繰り返し単位が、単位(a−1)と単位(a−2)とから構成される。主たる繰り返し単位とは、単位(a−1)と単位(a−2)との合計が全繰り返し単位を基準として50モル%以上であり、好ましくは60モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上であることである。
【0022】

(単位(a−1))
本発明における単位(a−1)は前記式(a−1)に示したように、エーテル基を有する脂肪族ジオールから誘導されるものである。
【0023】
前記式(a−1)は、バイオマス資源の中でエーテル結合を有するジオールは、耐熱性及び鉛筆硬度が高い材料である。
【0024】
前記式(a−1)は、立体異性体の関係にある下記式で表される繰り返し単位(a−1−1)、(a−1−2)および(a−1−3)が例示される。
【0025】
【化3】
【0026】
【化4】
【0027】
【化5】
【0028】
これらは、糖質由来のエーテルジオールであり、自然界のバイオマスからも得られる物質で、再生可能資源と呼ばれるものの1つである。繰り返し単位(a−1−1)、(a−1−2)および(a−1−3)は、それぞれイソソルビド、イソマンニド、イソイディッドと呼ばれる。イソソルビドは、でんぷんから得られるDーグルコースに水添した後、脱水を受けさせることにより得られる。その他のエーテルジオールについても、出発物質を除いて同様の反応により得られる。
【0029】
イソソルビド、イソマンニド、イソイディッドのなかでも特に、イソソルビド(1,4;3,6ージアンヒドローDーソルビトール)から誘導される繰り返し単位は、製造の容易さ、耐熱性に優れることから好ましい。
【0030】

(単位(a−2))
本発明における単位(a−2)は、スピロ環構造を有するジオールから誘導されるものである。スピロ環構造を有するジオール化合物として、3,9−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジエチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジプロピルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカンなどの脂環式ジオール化合物があげられる。
【0031】
好ましくは、3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカンが用いられる。
【0032】

(その他の単位)
単位(a−1)および単位(a−2)以外のその他の単位を誘導するジオール化合物としては、他の脂肪族ジオール化合物、脂環式ジオール化合物、芳香族ジヒドロキシ化合物のいずれでも良く、国際公開第2004/111106号パンフレット、国際公開第2011/021720号パンフレットに記載のジオール化合物やジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール類が挙げられる。
【0033】
脂肪族ジオール化合物としては、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1.9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサングリコール、1,2−オクチルグリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,3−ジイソブチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジイソアミル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられる。
【0034】
脂環式ジオール化合物としては、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオールなどが挙げられる。
【0035】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン(ビスフェノールM)、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド、ビスフェノールA、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)、および1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカンなどが挙げられる。
【0036】

(組成)
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂(A)は、主たる繰り返し単位が単位(a−1)と単位(a−2)とを含み、それらのモル比(a−1/a−2)は32/68〜70/30である。モル比(a−1/a−2)が32/68〜70/30では、耐熱性、表面硬度が高くなり、ビスフェノールA型ポリカーボネートとの密着性も得られ好ましい。単位(a−1)と単位(a−2)とのモル比(a−1/a−2)は、40/60〜70/30が好ましく、45/55〜70/30がより好ましく、50/50〜70/30がさらに好ましい。この組成の範囲では、特にビスフェノールA型ポリカーボネートとの密着性と耐熱性のバランスに優れ、より好ましい。なお、モル比(a−1/a−2)が32/68より小さい場合は、耐熱性が低くなり、他方モル比(a−1/a−2)が70/30より大きい場合は、吸水率が高く、ビスフェノールA型ポリカーボネートとの密着性が悪化する。モル比(a−1/a−2)は、日本電子社製JNM−AL400のプロトンNMRにて測定し算出することができる。
【0037】

(ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法)
ポリカーボネート樹脂(A)は、通常のポリカーボネート樹脂を製造するそれ自体公知の反応手段、例えばジオール成分に炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質を反応させる方法により製造される。次にこれらの製造方法について基本的な手段を簡単に説明する。
【0038】
カーボネート前駆物質として炭酸ジエステルを用いるエステル交換反応は、不活性ガス雰囲気下所定割合のジオール成分を炭酸ジエステルと加熱しながら撹拌して、生成するアルコールまたはフェノール類を留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノール類の沸点などにより異なるが、通常120〜300℃の範囲である。反応はその初期から減圧にして生成するアルコールまたはフェノール類を留出させながら反応を完結させる。また、必要に応じて末端停止剤、酸化防止剤等を加えてもよい。
【0039】
前記エステル交換反応に使用される炭酸ジエステルとしては、置換されてもよい炭素数6〜12のアリール基、アラルキル基等のエステルが挙げられる。具体的には、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネートおよびm−クレジルカーボネート等が例示される。なかでもジフェニルカーボネートが特に好ましい。ジフェニルカーボネートの使用量は、ジヒドロキシ化合物の合計1モルに対して、好ましくは0.97〜1.10モル、より好ましくは1.00〜1.06モルである。
【0040】
また溶融重合法においては重合速度を速めるために、重合触媒を用いることができ、かかる重合触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、含窒素化合物、金属化合物等が挙げられる。
【0041】
このような化合物としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の、有機酸塩、無機塩、酸化物、水酸化物、水素化物、アルコキシド、4級アンモニウムヒドロキシド等が好ましく用いられ、これらの化合物は単独もしくは組み合わせて用いることができる。
【0042】
アルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム、酢酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸セシウム、ステアリン酸リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸セシウム、安息香酸リチウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、フェニルリン酸2ナトリウム、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2セシウム塩、2リチウム塩、フェノールのナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、リチウム塩等が例示される。
【0043】
アルカリ土類金属化合物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、二酢酸マグネシウム、二酢酸カルシウム、二酢酸ストロンチウム、二酢酸バリウム、ステアリン酸バリウム等が例示される。
【0044】
含窒素化合物としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド等のアルキル、アリール基等を有する4級アンモニウムヒドロキシド類が挙げられる。また、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリフェニルアミン等の3級アミン類、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール類が挙げられる。また、アンモニア、テトラメチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムボロハイドライド、テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルアンモニウムテトラフェニルボレート等の塩基あるいは塩基性塩等が例示される。
【0045】
金属化合物としては亜鉛アルミニウム化合物、ゲルマニウム化合物、有機スズ化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物等が例示される。これらの化合物は1種または2種以上併用してもよい。
【0046】
これらの重合触媒の使用量は、ジオール成分1モルに対し好ましくは1×10−9〜1×10−2当量、好ましくは1×10−8〜1×10−5当量、より好ましくは1×10−7〜1×10−3当量の範囲で選ばれる。
【0047】
また、反応後期に触媒失活剤を添加することもできる。使用する触媒失活剤としては、公知の触媒失活剤が有効に使用されるが、この中でもスルホン酸のアンモニウム塩、ホスホニウム塩が好ましい。更にドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等のドデシルベンゼンスルホン酸の塩類、パラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等のパラトルエンスルホン酸の塩類が好ましい。
【0048】
またスルホン酸のエステルとして、ベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、ベンゼンスルホン酸オクチル、ベンゼンスルホン酸フェニル、パラトルエンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸エチル、パラトルエンスルホン酸ブチル、パラトルエンスルホン酸オクチル、パラトルエンスルホン酸フェニル等が好ましく用いられる。なかでも、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩が最も好ましく使用される。
【0049】
これらの触媒失活剤の使用量はアルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物より選ばれた少なくとも1種の重合触媒を用いた場合、その触媒1モル当たり好ましくは0.5〜50モルの割合で、より好ましくは0.5〜10モルの割合で、更に好ましくは0.8〜5モルの割合で使用することができる。
【0050】

(比粘度:ηSP
ポリカーボネート樹脂(A)の比粘度(ηSP)は、0.2〜1.5が好ましい。比粘度が0.2〜1.5の範囲では成形品の強度及び成形加工性が良好となる。より好ましくは0.25〜1.2であり、さらに好ましくは0.3〜1.0であり、特に好ましくは0.3〜0.5である。
【0051】
本発明でいう比粘度は、20℃で塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求めた。
【0052】
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
なお、具体的な比粘度の測定としては、例えば次の要領で行うことができる。まず、ポリカーボネート樹脂をその20〜30倍重量の塩化メチレンに溶解し、可溶分をセライト濾過により採取した後、溶液を除去して十分に乾燥し、塩化メチレン可溶分の固体を得る。かかる固体0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液から20℃における比粘度を、オストワルド粘度計を用いて求める。
【0053】

(ガラス転移温度:Tg)
ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは110〜145℃、より好ましくは115〜140℃である。Tgが110〜145℃であると、光学成形体として使用した際に、耐熱安定性及び成形性が良好であり好ましい。
【0054】
ガラス転移温度(Tg)はティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製2910型DSCを使用し、昇温速度20℃/minにて測定する。
【0055】

(飽和吸水率)
ポリカーボネート樹脂(A)の飽和吸水率は、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.8%以下、さらに好ましくは1.5%以下である。吸水率が2.0%以下であると成形品において吸水による寸法変化や反りが低減でき好ましい。
【0056】

(鉛筆硬度)
ポリカーボネート樹脂(A)からなる層は、鉛筆硬度がF以上であることが好ましい。耐傷性に優れるという点で、H以上であることが好ましい。なお、鉛筆硬度は4H以下で充分な機能を有する。鉛筆硬度は全繰り返し単位を基準として繰り返し単位(B)の組成を増加させることで硬くすることができる。本発明において、鉛筆硬度とは、本発明の樹脂を特定の鉛筆硬度を有する鉛筆で樹脂を擦過した場合に擦過しても擦過痕が残らない硬さのことであり、JIS K−5600に従って測定できる塗膜の表面硬度試験に用いる鉛筆硬度を指標とすることが好ましい。鉛筆硬度は、9H、8H、7H、6H、5H、4H、3H、2H、H、F、HB、B、2B、3B、4B、5B、6Bの順で柔らかくなり、最も硬いものが9H、最も軟らかいものが6Bである。
【0057】

(芳香族ポリカーボネート樹脂(B))
芳香族ポリカーボネート樹脂(B)は、ホモポリマー及びコポリマーのいずれであってもよい。また、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)は、分岐構造であっても、直鎖構造であってもよいし、さらに分岐構造と直鎖構造との混合物であってもよい。
【0058】
2価フェノールを原料として用いる芳香族ポリカーボネート樹脂(B)の製造方法としては、ホスゲン法、エステル交換法、ピリジン法等、公知のいずれの方法を用いてもかまわない。
【0059】
2価フェノールの代表例としては、ビスフェノール類が挙げられ、特に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAが好ましく用いられる。また、ビスフェノールAの一部又は全部を他の2価フェノールで置き換えてもよい。他の2価フェノールとしては、ハイドロキノン、4,4−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンや1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテルなどの化合物、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどのアルキル化ビスフェノール類、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどのハロゲン化ビスフェノール類を挙げることができる。
【0060】
本発明に用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂(B)の粘度平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、好ましくは15,000以上30,000以下、より好ましくは20,000以上27,000以下の範囲である。ここで、ポリカーボネート樹脂(B)の粘度平均分子量(M)は、オストワルド粘度計を用いて塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
【0061】
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10−40.83
c=0.7

また、芳香族ポリカーボネート樹脂(B)の還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.60g/dlに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃で測定され、好ましくは0.23dl/g以上0.72dl/g以下で、より好ましくは0.27dl/g以上0.61dl/g以下の範囲内である。
【0062】

(添加剤)
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、用途や必要に応じて熱安定剤、可塑剤、光安定剤、重合金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、離型剤等の添加剤を配合することができる。
【0063】

(熱安定剤)
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、押出・成形時の分子量低下や色相の悪化を抑制するために、とくに熱安定剤を含有することが好ましい。熱安定剤としてはリン系熱安定剤、フェノール系熱安定剤、イオウ系熱安定剤が挙げられ、これらの1種を単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。特に、単位(a−1)のエーテルジオール残基が熱と酸素により劣化し、着色しやすいため、熱安定剤としてはリン系熱安定剤を含有することが好ましい。リン系安定剤としてはホスファイト化合物を配合することが好ましい。ホスファイト化合物としては、ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物、二価フェノール類と反応し環状構造を有するホスファイト化合物、その他の構造を有するホスファイト化合物が挙げられる。
【0064】
上記のペンタエリスリトール型ホスファイト化合物としては、具体的には、例えば、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられ、中でも好適には、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、およびビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられる。
【0065】
上記の二価フェノール類と反応し環状構造を有するホスファイト化合物としては、例えば、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェニル)(2−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2’−メチレン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、6−tert−ブチル−4−[3−[(2,4,8,10)−テトラ−tert−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン−6−イル)オキシ]プロピル]−2−メチルフェノールなどを挙げることができる。
【0066】
上記のその他の構造を有するホスファイト系化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−iso−プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ−n−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、およびトリス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。
【0067】
各種ホスファイト化合物以外には、例えば、ホスフェート化合物、ホスホナイト化合物、ホスホネイト化合物が挙げられる。
【0068】
ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0069】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4,3’−ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3,3’−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−n−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−フェニルホスホナイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−3−フェニル−フェニルホスホナイト等があげられ、テトラキス(ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)−フェニル−フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0070】
ホスホネイト化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
【0071】
上記のリン系熱安定剤の中でも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく使用される。
【0072】
上記のリン系熱安定剤は、単独でまたは2種以上を併用して使用することができる。リン系熱安定剤はポリカーボネート樹脂100重量部当たり、好ましくは0.001〜1重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部、さらに好ましくは0.01〜0.3重量部配合される。
【0073】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、押出・成形時の分子量低下や色相の悪化を抑制することを目的に、熱安定剤として、ヒンダードフェノール系熱安定剤またはイオウ系熱安定剤を、リン系熱安定剤と組み合わせて添加することもできる。
【0074】
ヒンダードフェノール系熱安定剤としては、例えば、酸化防止機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、テトラキス{メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}メタン、ジステアリル(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−t−ブチルベンジル)マロネート、トリエチレグリコール−ビス{3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、1,6−ヘキサンジオール−ビス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、2,2−チオジエチレンビス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、2,2−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、2,4−ビス{(オクチルチオ)メチル}−o−クレゾール、イソオクチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,5,7,8−テトラメチル−2(4’,8’,12’−トリメチルトリデシル)クロマン−6−オール、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール等が挙げられる。
【0075】
これらの中で、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−t−ブチル−a,a’,a’−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、2,2−チオジエチレンビス{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}等が好ましい。
【0076】
これらのヒンダードフェノール系熱安定剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても用いても良い。
【0077】
ヒンダードフェノール系熱安定剤はポリカーボネート樹脂100重量部当たり、好ましくは0.001〜1重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部、さらに好ましくは0.01〜0.3重量部配合される。
【0078】
イオウ系熱安定剤としては、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)などを挙げることができる。上記のうち、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
【0079】
これらのイオウ系熱安定剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても用いても良い。
【0080】
イオウ系熱安定剤はポリカーボネート樹脂100重量部当たり、好ましくは0.001〜1重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部、さらに好ましくは0.01〜0.3重量部配合される。
【0081】
ホスファイト系熱安定剤、フェノール系熱安定剤、イオウ系熱安定剤を併用する場合、これらの合計でポリカーボネート樹脂100重量部に対し、好ましくは0.001〜1重量部、より好ましくは0.01〜0.3重量部配合される。
【0082】

(離型剤)
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、溶融成形時の金型からの離型性をより向上させるために、本発明の目的を損なわない範囲で離型剤を配合することも可能である。
【0083】
かかる離型剤としては、一価または多価アルコールの高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸、パラフィンワックス、蜜蝋、オレフィン系ワックス、カルボキシ基および/またはカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス、シリコーンオイル、オルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0084】
高級脂肪酸エステルとしては、炭素原子数1〜20の一価または多価アルコールと炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルが好ましい。かかる一価または多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステルまたは全エステルとしては、例えば、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸モノグリセリド、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート、ビフェニルビフェネ−ト、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート等が挙げられる。
【0085】
なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ベヘニン酸ベヘニルが好ましく用いられる。
【0086】
高級脂肪酸としては、炭素原子数10〜30の飽和脂肪酸が好ましい。かかる脂肪酸としては、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸などが挙げられる。
【0087】
これらの離型剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。かかる離型剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.01〜5重量部が好ましい。
【0088】

(紫外線吸収剤)
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、紫外線吸収剤を含むことができる。紫外線吸収剤としてはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、環状イミノエステル系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等が挙げられ、なかでもベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。
【0089】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−ドデシル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニルベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−(3”,4”,5”,6”−テトラフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,2’メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物に代表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0090】
かかる紫外線吸収剤の割合は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して好ましくは0.01〜2重量部、より好ましくは0.1〜1重量部、さらに好ましくは0.2〜0.5重量部である。
【0091】

(光安定剤)
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、光安定剤を含むことができる。光安定剤を含むと、耐候性の面で良好であり、成形品にクラックが入り難くなるという利点がある。
【0092】
光安定剤としては、例えば1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルメタクリレート、ジデカン酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−オクチルオキシ−4−ピペリジニル)エステル、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)−[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−2−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジン、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)カーボネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)サクシネ−ト、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−オクタノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ジフェニルメタン−p,p′−ジカ−バメート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ベンゼン−1,3−ジスルホネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)フェニルホスファイト等のヒンダードアミン類、ニッケルビス(オクチルフェニルサルファイド、ニッケルコンプレクス−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルリン酸モノエチラート、ニッケルジブチルジチオカ−バメート等のニッケル錯体が挙げられる。これらの光安定剤は単独もしくは2種以上を併用してもよい。光安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して好ましくは0.001〜1重量部、より好ましくは0.01〜0.5重量部である。
【0093】

(エポキシ系安定剤)
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂には、加水分解性を改善するため、本願発明の目的を損なわない範囲で、エポキシ化合物を配合することが出来る。
【0094】
エポキシ系安定剤としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、2,3−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4−(3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシル)ブチル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチレンオキシド、シクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル−6’−メチルシロヘキシルカルボキシレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノールAグリシジルエーテル、フタル酸のジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸のジグリシジルエステル、ビス−エポキシジシクロペンタジエニルエーテル、ビス−エポキシエチレングリコール、ビス−エポキシシクロヘキシルアジペート、ブタジエンジエポキシド、テトラフェニルエチレンエポキシド、オクチルエポキシタレート、エポキシ化ポリブタジエン、3,4−ジメチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、3,5−ジメチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、3−メチル−5−t−ブチル−1,2−エポキシシクロヘキサン、オクタデシル−2,2−ジメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N−ブチル−2,2−ジメチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、シクロヘキシル−2−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N−ブチル−2−イソプロピル−3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、オクタデシル−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2−エチルヘキシル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,6−ジメチル−2,3−エポキシシクロヘキシル−3’,4’−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,5−エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、3−t−ブチル−4,5−エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、ジエチル−4,5−エポキシ−シス−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート、ジ−n−ブチル−3−t−ブチル−4,5−エポキシ−シス−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレートなどが挙げられる。ビスフェノールAジグリシジルエーテルが相溶性などの点から好ましい。
【0095】
このようなエポキシ系安定剤は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、0.0001〜5重量部、好ましくは0.001〜1重量部、さらに好ましくは0.005〜0.5重量部の範囲で配合されることが望ましい。
【0096】

(ブルーイング剤)
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、重合体や紫外線吸収剤に基づくレンズの黄色味を打ち消すためにブルーイング剤を配合することができる。ブルーイング剤としては、ポリカーボネートに使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。一般的にはアンスラキノン系染料が入手容易であり好ましい。
【0097】
具体的なブルーイング剤としては、例えば、一般名Solvent Violet13[CA.No(カラーインデックスNo)60725]、一般名Solvent Violet31[CA.No 68210、一般名Solvent Violet33[CA.No 60725]、一般名Solvent Blue94[CA.No 61500]、一般名Solvent Violet36[CA.No 68210]、一般名Solvent Blue97[バイエル社製「マクロレックスバイオレットRR」]および一般名Solvent Blue45[CA.No61110]が代表例として挙げられる。
【0098】
これらのブルーイング剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。これらブルーイング剤は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して好ましくは0.1×10−4〜2×10−4重量部の割合で配合される。
【0099】

(難燃剤)
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂には、難燃剤を配合することもできる。難燃剤としては、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリアクリレート、および塩素化ポリエチレンなどのハロゲン系難燃剤、モノホスフェート化合物およびホスフェートオリゴマー化合物などのリン酸エステル系難燃剤、ホスフィネート化合物、ホスホネート化合物、ホスホニトリルオリゴマー化合物、ホスホン酸アミド化合物などのリン酸エステル系難燃剤以外の有機リン系難燃剤、有機スルホン酸アルカリ(土類)金属塩、ホウ酸金属塩系難燃剤、および錫酸金属塩系難燃剤などの有機金属塩系難燃剤、並びにシリコーン系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム系難燃剤、トリアジン系難燃剤等が挙げられる。また別途、難燃助剤(例えば、アンチモン酸ナトリウム、三酸化アンチモン等)や滴下防止剤(フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン等)等を配合し、難燃剤と併用してもよい。
【0100】
上述の難燃剤の中でも、塩素原子および臭素原子を含有しない化合物は、焼却廃棄やサーマルリサイクルを行う際に好ましくないとされる要因が低減されることから、環境負荷の低減をも1つの特徴とする本発明の成形品における難燃剤としてより好適である。
【0101】
難燃剤を配合する場合には、ポリカーボネート樹脂100重量部当たり0.05〜50重量部の範囲が好ましい。0.05重量部未満では十分な難燃性が発現せず、50重量部を超えると成形品の強度や耐熱性などを損なう。
【0102】

(弾性重合体)
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂には、衝撃改良剤として弾性重合体を使用することができ、弾性重合体の例としては、天然ゴムまたは、ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分に、芳香族ビニル、シアン化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、およびこれらと共重合可能なビニル化合物から選択されたモノマーの1種または2種以上が共重合されたグラフト共重合体を挙げることができる。より好適な弾性重合体は、ゴム成分のコアに前記モノマーの1種または2種以上のシェルがグラフト共重合されたコア−シェル型のグラフト共重合体である。
【0103】
またかかるゴム成分と上記モノマーのブロック共重合体も挙げられる。かかるブロック共重合体としては具体的にはスチレン・エチレンプロピレン・スチレンエラストマー(水添スチレン・イソプレン・スチレンエラストマー)、および水添スチレン・ブタジエン・スチレンエラストマーなどの熱可塑性エラストマーを挙げることができる。さらに他の熱可塑性エラストマーして知られている各種の弾性重合体、例えばポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー等を使用することも可能である。
【0104】
衝撃改良剤としてより好適なのはコア−シェル型のグラフト共重合体である。コア−シェル型のグラフト共重合体において、そのコアの粒径は重量平均粒子径において0.05〜0.8μmが好ましく、0.1〜0.6μmがより好ましく、0.1〜0.5μmがさらに好ましい。0.05〜0.8μmの範囲であればより良好な耐衝撃性が達成される。弾性重合体は、ゴム成分を40%以上含有するものが好ましく、60%以上含有するものがさらに好ましい。
【0105】
ゴム成分としては、ブタジエンゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、アクリルゴム、アクリル−シリコーン複合ゴム、イソブチレン−シリコーン複合ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−アクリルゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴムおよびこれらの不飽和結合部分に水素が添加されたものを挙げることができるが、燃焼時の有害物質の発生懸念という点から、ハロゲン原子を含まないゴム成分が環境負荷の面において好ましい。
【0106】
ゴム成分のガラス転移温度は好ましくは−10℃以下、より好ましくは−30℃以下であり、ゴム成分としては特にブタジエンゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、アクリルゴム、アクリル−シリコーン複合ゴムが好ましい。複合ゴムとは、2種のゴム成分を共重合したゴムまたは分離できないよう相互に絡み合ったIPN構造をとるように重合したゴムをいう。
【0107】
ゴム成分に共重合するビニル化合物における芳香族ビニルとしては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、アルコキシスチレン、ハロゲン化スチレン等を挙げることができ、特にスチレンが好ましい。またアクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル等を挙げることができ、メタアクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸オクチル等を挙げることができ、メタクリル酸メチルが特に好ましい。これらの中でも特にメタクリル酸メチルなどのメタアクリル酸エステルを必須成分として含有することが好ましい。より具体的には、メタアクリル酸エステルはグラフト成分100重量%中(コア−シェル型重合体の場合にはシェル100重量%中)、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上含有される。
【0108】
ガラス転移温度が10℃以下のゴム成分を含有する弾性重合体は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの重合法で製造したものであってもよく、共重合の方式は一段グラフトであっても多段グラフトであっても差し支えない。また製造の際に副生するグラフト成分のみのコポリマーとの混合物であってもよい。さらに重合法としては一般的な乳化重合法の他、過硫酸カリウム等の開始剤を使用するソープフリー重合法、シード重合法、二段階膨潤重合法等を挙げることができる。また懸濁重合法において、水相とモノマー相とを個別に保持して両者を正確に連続式の分散機に供給し、粒子径を分散機の回転数で制御する方法、および連続式の製造方法において分散能を有する水性液体中にモノマー相を数〜数十μm径の細径オリフィスまたは多孔質フィルターを通すことにより供給し粒径を制御する方法などを行ってもよい。コア−シェル型のグラフト重合体の場合、その反応はコアおよびシェル共に、1段であっても多段であってもよい。
【0109】
かかる弾性重合体は市販されており容易に入手することが可能である。例えばゴム成分として、ブタジエンゴム、アクリルゴムまたはブタジエン−アクリル複合ゴムを主体とするものとしては、鐘淵化学工業(株)のカネエースBシリーズ(例えばB−56など)、三菱レイヨン(株)のメタブレンCシリーズ(例えばC−223Aなど)、Wシリーズ(例えばW−450Aなど)、呉羽化学工業(株)のパラロイドEXLシリーズ(例えばEXL−2602など)、HIAシリーズ(例えばHIA−15など)、BTAシリーズ(例えばBTA−IIIなど)、KCAシリーズ、ローム・アンド・ハース社のパラロイドEXLシリーズ、KMシリーズ(例えばKM−336P、KM−357Pなど)、並びに宇部サイコン(株)のUCLモディファイヤーレジンシリーズ(ユーエムジー・エービーエス(株)のUMG AXSレジンシリーズ)などが挙げられ、ゴム成分としてアクリル−シリコーン複合ゴムを主体とするものとしては三菱レイヨン(株)よりメタブレンS−2001あるいはSRK−200という商品名で市販されているものが挙げられる。
【0110】
衝撃改良剤の組成割合は、ポリカーボネート樹脂100重量部あたり0.2〜50重量部が好ましく、1〜30重量部が好ましく、1.5〜20重量部がより好ましい。かかる組成範囲は、剛性の低下を抑制しつつ組成物に良好な耐衝撃性を与えることができる。
【0111】

<多層体>
本発明の多層体は、フィルム、シート、プレート等の成形品として広く使用することができる。多層体の成形方法としては公知の方法、例えば、共押出、押出ラミネート、熱ラミネート、ドライラミネート等の方法を用いることができる。この中でも特に共押出法を用いることが好ましい。
【0112】
共押出の場合、多層体の各層を構成する樹脂、及び、添加剤を複数台の押出機を用いてフィードブロック、あるいは、マルチマニホールドダイを通じ樹脂を合流させ、多層体を成形する。多層体の強度や耐衝撃性をさらに向上するには、前記工程で得られた多層体をロール法、テンター法、チューブラー法等で一軸、あるいは、二軸に延伸することもできる。
【0113】
本発明の多層体において、総厚みが0.03〜300mmが好ましく、0.05〜100mmがより好ましく、0.1〜10mmがさらに好ましく、0.5〜3mmが特に好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)からなる層の、多層体の全層の総厚みに占める割合は5%以上60%以下であることが好ましく、10%以上55%以下であることがより好ましく、20%以上50%以下であることがさらに好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)からなる層の厚みがかかる範囲内であれば、優れた表面硬度、耐熱性を有しながら、さらに、優れた耐衝撃性をも有する多層体を提供することができる。
【0114】
フィルム、シート、または、プレートとして成形された本発明の多層体は、透明性、耐衝撃性、耐熱性に優れ、かつ、優れた耐UV変色性、表面硬度を有する。そのため、本発明の多層体の用途は特に制限されるものではないが、例えば、建材、内装部品、ディスプレイカバー等の透明シート、樹脂被覆金属板用シート、成形(真空・圧空成形、熱プレス成形など)用シート、着色プレート、透明プレート、シュリンクフィルム、シュリンクラベル、シュリンクチューブ、自動車内装材、樹脂グレージング、家電製品部材、OA機器部材等に使用できる。
【0115】

(表面処理)
本発明の多層体には、各種の表面処理を行うことが可能である。ここでいう表面処理とは、蒸着(物理蒸着、化学蒸着など)、メッキ(電気メッキ、無電解メッキ、溶融メッキなど)、塗装、コーティング、印刷などの樹脂成形品の表層上に新たな層を形成させるものであり、通常のポリカーボネート樹脂に用いられる方法が適用できる。表面処理としては、具体的には、ハードコート、撥水・撥油コート、紫外線吸収コート、赤外線吸収コート、並びにメタライジング(蒸着など)などの各種の表面処理が例示される。ハードコートは特に好ましくかつ必要とされる表面処理である。
【実施例】
【0116】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例中「部」とは「重量部」を意味する。実施例において使用した使用樹脂および評価方法は以下のとおりである。
【0117】
1.ポリマー組成比(NMR)
日本電子社製JNM−AL400のプロトンNMRにて各繰り返し単位を測定し、ポリマー組成比(モル比)を算出した。
【0118】
2.比粘度
20℃で塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求めた。
【0119】
比粘度(ηSP)=(t−t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
3.ガラス転移温度(Tg)
ポリカーボネート樹脂8mgを用いてティー・エイ・インスツルメント(株)製の熱分析システム DSC−2910を使用して、JIS K7121に準拠して窒素雰囲気下(窒素流量:40ml/min)、昇温速度:20℃/minの条件下で測定した。
【0120】
4.鉛筆硬度
JIS K5400に基づき、雰囲気温度23℃の恒温室内で80mm×60mmに切
り出した多層体サンプルの第1層の表面に対して、鉛筆を45度の角度を保ちつつ1kg
の荷重をかけた状態で線を引き、表面状態を目視にて評価した。
【0121】
5.吸水率
吸水率は、ポリカーボネート樹脂ペレットを塩化メチレンに溶解後、塩化メチレンを蒸発させて得られた厚み200μmのキャストフィルムを用い、100℃12時間乾燥後、25℃48時間水中に浸漬した後の重量増加を測定し、次式によって吸水率を求めた。
【0122】
吸水率(%)={(吸水後の樹脂重量−吸水前の樹脂重量)/吸水前の樹脂重量}×100
6.密着性
多層体サンプルの第1層の表面にカッターで1mm間隔に縦横に各11本の切れ目を入れて100個のマス目を作り、この目にセロテープ(登録商標)(ニチバン(株)製粘着テープ)を貼り付けた後、90°の方向に一気に剥した。第1層が剥離せず、残ったマス目の数を数えた。
【0123】
7.耐衝撃性
多層体サンプルを高速衝撃試験機 島津HYDROSHOTHITS−P10(島津製作所)を使用して、試験温度23℃、試験速度7m/sec、ストライカー径1/2インチ、受け径1インチにて10回試験を実施し、そのときの最大衝撃エネルギー(平均値)を評価した。
[ポリカーボネート樹脂(A)]
PC1(実施例):
イソソルビド(以下ISS)に由来する構造単位/3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン(以下SPG)に由来する構造単位=32/68(モル%)、比粘度0.344
PC2(実施例):
ISSに由来する構造単位/SPGに由来する構造単位=70/30(モル%)、比粘度0.399
PC3(実施例):
ISSに由来する構造単位/SPGに由来する構造単位/1,9−ノナンジオール(以下ND)=65/30/5(モル%)、比粘度0.362
PC4(実施例):
ISSに由来する構造単位/SPGに由来する構造単位/1,4−シクロヘキサンジメタノール(以下CHDM)に由来する構造単位=50/30/20(モル%)、比粘度0.341
PC5(比較例):
ISSに由来する構造単位/SPGに由来する構造単位=80/20(モル%)、比粘度0.365
PC6(比較例):
ISSに由来する構造単位/SPGに由来する構造単位=30/70(モル%)、比粘度0.341
PC7(比較例):
ISSに由来する構造単位/NDに由来する構造単位=88/12(モル%)、比粘度0.321
PC8(比較例):
ISSに由来する構造単位/CHDMに由来する構造単位=50/50(モル%)、比粘度0.367
PC9(比較例):
ISSに由来する構造単位/CHDMに由来する構造単位=70/30(モル%)、比粘度0.361
[ポリカーボネート樹脂(B)]
PC10(実施例):
帝人化成株式会社製、商品名:パンライト 粘度平均分子量=25,000、還元粘度0.383
[PMMA]
三菱レイヨン社製アクリペットMF
[実施例1]
<ポリカーボネート樹脂Aの製造>
イソソルビド(以下ISSと略す)164部、3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン(以下SPGと略す)724部、ジフェニルカーボネート(以下DPCと略す)750部、および触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド0.8×10−2部とステアリン酸バリウム0.6×10−4部を窒素雰囲気下200℃に加熱し溶融させた。その後、30分かけて220℃へ昇温および減圧度を20.0kPaに調整した。その後、さらに30分かけて240℃へ昇温および減圧度を10kPaに調整した。10分間その温度で保持した後、1時間かけて減圧度を133Pa以下とした。反応終了後、反応槽の底より窒素加圧下吐出し、水槽で冷却しながら、ペレタイザーでカットしてペレットを得た(PC1)。得られたペレットについて各種評価を行った。評価結果を表1に記載した。
<ポリカーボネート樹脂積層体の製造>
ポリカーボネート樹脂(B)(帝人化成株式会社製、商品名:パンライト)はスクリュー径40mmの単軸押出機で、また、上記製造方法で作成したポリカーボネート樹脂(A)層を形成するポリカーボネート樹脂はスクリュー径30mmの単軸押出機でそれぞれ溶融させ、フィードブロック法にて2層に積層させ、ポリカーボネート樹脂(B)については設定温度280℃、ポリカーボネート樹脂(A)については設定温度230℃のT型ダイスを介して押出し、得られるシートを鏡面仕上げされたロールにて冷却し、ポリカーボネート樹脂(B)の片面にポリカーボネート樹脂(A)を積層した積層体を得た。また、この時それぞれの層の厚みは、第1層(ポリカーボネート樹脂(A)層)/第2層(ポリカーボネート樹脂(B)層)=0.1/1.0(mm)となるよう溶融樹脂の吐出量を調整した。得られた積層体の各種評価結果を表1に記載した。
[実施例2]
<ポリカーボネート樹脂の製造>
ISS358部、SPG319部、DPC750部を原料として用いた他は、実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った(PC2)。その結果を表1に記載した。
<ポリカーボネート樹脂積層体の製造>
ポリカーボネート樹脂(A)について、設定温度250℃のT型ダイスを介して押出した他は、実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った。その結果を表1に記載した。
[実施例3]
ISS332部、SPG319部、ND28部、DPC750部を原料として用いた他は、実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った(PC3)。その結果を表1に記載した。
<ポリカーボネート樹脂積層体の製造>
ポリカーボネート樹脂(A)について、設定温度240℃のT型ダイスを介して押出した他は、実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った。その結果を表1に記載した。
[実施例4]
ISS256部、SPG319部、CHDM101部、DPC750部を原料として用いた他は、実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った(PC4)。その結果を表1に記載した。
<ポリカーボネート樹脂積層体の製造>
実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った。その結果を表1に記載した。
[比較例1]
<ポリカーボネート樹脂の製造>
ISS409部、SPG213部、DPC750部を原料として用いた他は、実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った(PC5)。その結果を表1に記載した。
<ポリカーボネート樹脂積層体の製造>
ポリカーボネート樹脂(A)について、設定温度250℃のT型ダイスを介して押出した他は、実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った。溶融粘度が高く、成型加工性が悪化したが、積層体は得られた。得られた積層体は樹脂同士の密着性が低く、当初の目的を達成できるものではなかった。
[比較例2]
<ポリカーボネート樹脂の製造>
ISS153部、SPG745部、DPC750部を原料として用いた他は、実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った(PC6)。その結果を表1に記載した。
<ポリカーボネート樹脂積層体の製造>
実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った。得られた積層体は耐熱性が十分ではなく、当初の目的を達成できるものではなかった。
[比較例3]
<ポリカーボネート樹脂の製造>
ISS450部、ND67部、DPC750部を原料として用いた他は、実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った(PC7)。その結果を表1に記載した。
<ポリカーボネート樹脂積層体の製造>
ポリカーボネート樹脂(A)について、設定温度240℃のT型ダイスを介して押出した他は、実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った。得られた積層体は樹脂同士の密着性が低く、当初の目的を達成できるものではなかった。
[比較例4]
<ポリカーボネート樹脂の製造>
ISS256部、CHDM252部、DPC750部を原料として用いた他は、実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った(PC8)。その結果を表1に記載した。
<ポリカーボネート樹脂積層体の製造>
実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った。得られた積層体は耐熱性が十分ではなく、また表面硬度も劣っていたため、当初の目的を達成できるものではなかった。
[比較例5]
<ポリカーボネート樹脂の製造>
ISS358部、CHDM151部、DPC750部を原料として用いた他は、実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った(PC9)。その結果を表1に記載した。
<ポリカーボネート樹脂積層体の製造>
実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った。得られた積層体は樹脂同士の密着性が低く、当初の目的を達成できるものではなかった。
[比較例6]
<積層体の製造>
ポリカーボネート樹脂(A)の代わりにPMMA(三菱レイヨン社製アクリペットMF)を用いた他は実施例1と全く同様の操作を行い、同様の評価を行った。得られた積層体は耐熱性、吸水性が満足できる水準になく、また衝撃性についても当初の目的を達成できるものではなかった。
【0124】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の多層体は、建材、内装部品、ディスプレイカバー等の透明シート、樹脂被覆金属板用シート、成形(真空・圧空成形、熱プレス成形など)用シート、着色プレート、透明プレート、シュリンクフィルム、シュリンクラベル、シュリンクチューブ、自動車内装材、樹脂グレージング、家電製品部材、OA機器部材として有用である。