(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6200114
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】緩み止めねじ
(51)【国際特許分類】
F16B 39/30 20060101AFI20170911BHJP
F16B 33/02 20060101ALN20170911BHJP
【FI】
F16B39/30 Z
!F16B33/02 Z
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-89778(P2017-89778)
(22)【出願日】2017年4月28日
【審査請求日】2017年4月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597016479
【氏名又は名称】株式会社東京鋲兼
(74)【代理人】
【識別番号】100148792
【弁理士】
【氏名又は名称】三田 大智
(74)【代理人】
【識別番号】100070323
【弁理士】
【氏名又は名称】中畑 孝
(72)【発明者】
【氏名】奈良崎 幸治
【審査官】
村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−57801(JP,A)
【文献】
実開平6−63923(JP,U)
【文献】
実開昭61−181115(JP,U)
【文献】
特開2015−10703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 39/30
F16B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め雌ねじ溝が成形された下穴にねじ込む緩み止めねじであって、以下のA乃至Gの構成を具備することを特徴とする緩み止めねじ。
A:頭部と該頭部から垂下する脚部と該脚部に等ピッチで複数形成された雄ねじ山とを備え、
B:該雄ねじ山は上記脚部の上部に形成された複数の上部雄ねじ山と該上部雄ねじ山に連続して上記脚部の下部に形成された複数の下部雄ねじ山とから成る、
C:上記上部雄ねじ山の上フランク面の谷側に上記雌ねじ溝の上フランク面と同一のフランク角を有する第一上フランク面を形成すると共に、同山頂側に該第一上フランク面よりも小さいフランク角を有する第二上フランク面を該第一上フランク面に連続して形成する、
D:上記上部雄ねじ山の山頂面を上方に張り出して上記雌ねじ溝の谷底面の幅よりも幅広に形成し、該山頂面の上端部と上記第二上フランク面の外端部から成る張り出し部を形成する、
E:上記上部雄ねじ山の下フランク面を上記雌ねじ溝の下フランク面のフランク角よりも大きいフランク角で形成する、
F:上記下部雄ねじ山の上フランク面を上記雌ねじ溝の上フランク面と同一のフランク角で形成すると共に同下部雄ねじ山の下フランク面を上記雌ねじ溝の下フランク面と同一のフランク角で形成する、
G:上記上部雄ねじ山の張り出し部を上記雌ねじ溝の上フランク面に圧接させると共に、該上部雄ねじ山の下フランク面と上記雌ねじ溝の下フランク面とを面接触させて緩み止めを図る。
【請求項2】
上記上部雄ねじ山の張り出し部の出隅角部を凸弧面形状に形成したことを特徴とする請求項1記載の緩み止めねじ。
【請求項3】
上記上部雄ねじ山の山頂面の幅は上記雄ねじ山のピッチの1/3〜1/5であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の緩み止めねじ。
【請求項4】
上記上部雄ねじ山の突出高を雌ねじ溝の深さよりも高く設定し、該突出高の2/5〜4/5の範囲に上記第二上フランク面を形成することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の緩み止めねじ。
【請求項5】
上記上部雄ねじ山の下フランク面のフランク角は雌ねじ溝の下フランク面のフランク角よりも2°〜7°大きいことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の緩み止めねじ。
【請求項6】
上記上部雄ねじ山が形成される上記脚部の上部の長さは該脚部の全長の7/10〜8/10であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載の緩み止めねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め雌ねじ溝が成形された下穴にねじ込み、ねじ込み完了後に緩みを防止する機能を発揮する緩み止めねじに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の緩み止めねじとして、雄ねじ山の外形を雌ねじ溝の内形と敢えて異ならしめる形状とすることにより、雄ねじ山と雌ねじ溝とを単に嵌合するのではなく、強固に係合させてプリベリングトルク(摩擦トルク)を生起させて緩み止めを図る緩み止めねじが種々開発されている。
【0003】
下記特許文献1は、雄ねじ山の上下フランク面の谷側に雌ねじ溝のフランク面のフランク角よりも小さいフランク角を有する谷側フランク面を備えると共に、同山頂側に雌ねじ溝のフランク面のフランク角よりも大きいフランク角を有する頂側フランク面を上記谷側フランク面に連続して備える構成を具備する緩み止めねじを開示している。
【0004】
すなわち下記特許文献1の緩み止めねじは、上フランク面と下フランク面の両面において上記谷側フランク面と上記頂側フランク面との交点付近を膨出させ、該膨出させた交点付近を雌ねじ溝の上フランク面と下フランク面にそれぞれ係合させて緩み止めを図る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5027916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既述のように、上記特許文献1の緩み止めねじは、雄ねじ山の上フランク面の一部及び下フランク面の一部を膨出させ、該各膨出部分を雌ねじ溝の上フランク面と下フランク面にそれぞれ係合させることにより、緩み止め効果を発揮することができる。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の緩み止めねじにあっては、雌ねじ溝の上下フランク面の双方に雄ねじ山の上記膨出部分との係合による変形(摩擦痕)が生ずるため、繰り返し使用すると、なじみ現象、つまり雌ねじ溝の上下フランク面と雄ねじ山の上記膨出部分との係合による摩擦抵抗が低下する現象が生じ、緩み止め効果が適正に発揮できないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は斯かる従来の緩み止めねじが抱える問題点を有効に解消し、繰り返し使用しても緩み止め効果を適正に発揮する一方、ねじ込みトルクを徒に増大しない緩み止めねじを提供する。
【0009】
要述すると、本発明に係る緩み止めねじは、予め雌ねじ溝が成形された下穴にねじ込む緩み止めねじであって、以下のA乃至Gの構成を具備することにより、緩み止め効果を適正に発揮しつつも、ねじ込みトルクが増大することを抑止することができる。
A:頭部と該頭部から垂下する脚部と該脚部に等ピッチで複数形成された雄ねじ山とを備え、
B:該雄ねじ山は上記脚部の上部に形成された複数の上部雄ねじ山と該上部雄ねじ山に連続して上記脚部の下部に形成された複数の下部雄ねじ山とから成る、
C:上記上部雄ねじ山の上フランク面の谷側に上記雌ねじ溝の上フランク面と同一のフランク角を有する第一上フランク面を形成すると共に、同山頂側に該第一上フランク面よりも小さいフランク角を有する第二上フランク面を該第一上フランク面に連続して形成する、
D:上記上部雄ねじ山の山頂面を上方に張り出して上記雌ねじ溝の谷底面の幅よりも幅広に形成し、該山頂面の上端部と上記第二上フランク面の外端部から成る張り出し部を形成する、
E:上記上部雄ねじ山の下フランク面を上記雌ねじ溝の下フランク面のフランク角よりも大きいフランク角で形成する、
F:上記下部雄ねじ山の上フランク面を上記雌ねじ溝の上フランク面と同一のフランク角で形成すると共に同下部雄ねじ山の下フランク面を上記雌ねじ溝の下フランク面と同一のフランク角で形成する、
G:上記上部雄ねじ山の張り出し部を上記雌ねじ溝の上フランク面に圧接させると共に、該上部雄ねじ山の下フランク面と上記雌ねじ溝の下フランク面とを面接触させて緩み止めを図る。
【0010】
好ましくは上記上部雄ねじ山の張り出し部の出隅角部を凸弧面形状に形成し、締結前のねじ込み時に雌ねじ溝の上フランク面を不用意に傷つけることを抑止する。
【0011】
また、上記上部雄ねじ山の山頂面の幅は上記雄ねじ山のピッチの1/3〜1/5に設定することにより、締結時に雌ねじの上フランク面と有効に係合する上記張り出し部を形成する。
【0012】
加えて上記上部雄ねじ山の突出高を雌ねじ溝の深さよりも高く設定し、該突出高の2/5〜4/5の範囲に上記第二上フランク面を形成することによっても、締結時に雌ねじの上フランク面と有効に係合する上記張り出し部を形成する。
【0013】
また、上記上部雄ねじ山の下フランク面のフランク角は雌ねじ溝の下フランク面のフランク角よりも2°〜7°大きく設定し、該上部雄ねじ山の下フランク面と雌ねじ溝の下フランク面とを確実に面接触させる。
【0014】
好ましくは、上記上部雄ねじ山が形成される上記脚部の上部の長さは該脚部の全長の7/10〜8/10に設定し、上記上部雄ねじ山による緩み止め効果の発揮と、上記下部雄ねじ山によるねじ込みトルク増大の抑止を効果的に実現する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る緩み止めねじによれば、締結時には上部雄ねじ山の張り出し部と雌ねじ溝の上フランク面との係合と、該上部雄ねじ山の下フランク面と雌ねじ溝の下フランク面との面接触により有効に緩み止めを図ることができる。
【0016】
また、ねじ込み時には下部雄ねじ山の上下フランク面が雌ねじ溝の上下フランク面とそれぞれ摺接し、スムーズに後続の上部雄ねじ山を導くと共に、上部雄ねじ山の上下フランク面の内、下フランク面のみが雌ねじ溝の下フランク面と摺接し、ねじ込みトルクが増大するのを有効に抑止する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図5】ねじ込み時の上部雄ねじ山と雌ねじ溝の係合状態を示す拡大断面図。
【
図6】締結後の上部雄ねじ山と雌ねじ溝の係合状態を示す拡大断面図。
【
図7】本発明に係る緩み止めねじのねじ込みトルク、締付トルク、瞬間戻しトルク及びプリベリングトルクを示すグラフ。
【
図8】比較例に係る緩み止めねじのねじ込みトルク、締付トルク、瞬間戻しトルク及びプリベリングトルクを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る緩み止めねじに係る最良の実施形態を
図1乃至
図8に基づき説明する。
【0019】
本発明に係る緩み止めねじは、
図1に示すように、ドライバービットの先端部と係合する駆動穴1aを有する頭部1と、該頭部1の座面中央から垂下する脚部2と、該脚部2の外周面に形成された複数の雄ねじ山3を備える基本構成を有し、後記するように、予め雌ねじ溝が成形された相手部材の下穴にねじ込み、締結後に緩み止め効果を発揮するものである。なお、本実施例において、脚部2は、
図2に示すように、横断面形状がおむすび形状(角部を凸弧状とした三角形状)となるように形成し、該脚部2の周面に沿って雄ねじ山3を形成して、ねじ込みトルクの軽減を図っているが、本発明はこれに限らず、脚部2の横断面形状を円形や多角形とすることも実施に応じ任意である。
【0020】
上記雄ねじ山3は、脚部2の上部2a、つまり脚部2の頭部直下の部分に形成された複数の上部雄ねじ山3aと、脚部2の下部2b、つまり脚部2の先端部分に形成された複数の下部雄ねじ山3bとから成り、上記上部雄ねじ山3aは、対応する雌ねじ溝の上下フランク面と異なる形状又はフランク角を有する上下フランク面4,5を有し、上記下部雄ねじ山3bは、対応する雌ねじ溝の上下フランク面に沿う上下フランク面8,9を有する。
【0021】
ここで、雌ねじ溝の上下フランク面のフランク角については、通常、JIS規格(日本工業規格)等には30°を基準とする旨規定されており、以下の説明では、この雌ねじ溝の基準フランク角に基づき説明する。
【0022】
上記上部雄ねじ山3aの上フランク面4は、
図3・
図4に示すように、該上フランク面4の谷側に雌ねじ溝11の上フランク面12のフランク角θ4(30°)と同一のフランク角θ1を有する第一上フランク面4aを形成すると共に、同山頂側に該第一上フランク面4aよりも小さいフランク角θ2を有する第二上フランク面4bを該第一上フランク面4aに連続して形成する。
【0023】
よって上記第一上フランク面4aのフランク角θ1は30°であり、上記第二上フランク面4bのフランク角θ2は、後記する山頂面6の幅L1に応じて、0°以上で30°よりも小さい範囲で設定する。
【0024】
また、上記上部雄ねじ山3aの突出高H1は雌ねじ溝11の深さH3よりも高く設定し、各上部雄ねじ山3aの突出高を等高にする。加えて上記第二上フランク面4bの高さ(第二上フランク面4bの内端から外端までの高さ)H2は上部雄ねじ山3aの突出高H1の2/5〜4/5、好ましくは3/5に設定し、適切に緩み止めに貢献する後記張り出し部7を形成する。
【0025】
また、上記上部雄ねじ山3aの山頂面6を上方に張り出して、雌ねじ溝11の谷底面14の幅L2よりも幅広の幅L1に形成し、該山頂面6の上端部と上記第二上フランク面4bの外端部とから成る張り出し部7を形成する。上記山頂面6の幅L1は雄ねじ山のピッチPの1/3〜1/5に設定し、既述の如く、雌ねじ溝11の谷底面14の幅L2よりも幅広に設定する。
【0026】
加えて上記張り出し部7の出隅角部7a(山頂面6と第二上フランク面4bとが交わる角部)は、好ましくは凸弧面形状に形成し、ねじ込み時に雌ねじ溝11の上フランク面12と接した場合でも円滑にねじ込めるようにすると共に、締結時には雌ねじ溝11の上フランク面12に喰い込まずに圧接して当該圧接による摩擦抵抗により緩み止めを図る。
【0027】
また、上記上部雄ねじ山3aの下フランク面5は、
図3・
図4に示すように、雌ねじ溝11の下フランク面13のフランク角θ5(30°)よりも大きいフランク角θ3で形成し、締結時に雌ねじ溝11の下フランク面13と確実に面接触させる。該フランク角θ3は、上記フランク角θ5よりも2°〜7°大きく設定し、すなわち32°〜37°に設定し、好ましくは35°に設定する。
【0028】
他方、上記下部雄ねじ山3bの上フランク面8は雌ねじ溝11の上フランク面12のフランク角θ4と同一のフランク角で形成すると共に、同下フランク面9は雌ねじ溝11の下フランク面13のフランク角θ5と同一のフランク角で形成する。
【0029】
また、該下部雄ねじ山3bは、上記上部雄ねじ山3aの突出高よりも突出高を低く、すなわち低背とし、脚部2の下端面に向かって突出高が漸減するように形成する。
【0030】
上記のとおり、本発明に係る緩み止めねじは、脚部2の上部2aに形成した上部雄ねじ山3aにおいては、雌ねじ溝11のフランク角θ4と同一のフランク角θ1を有する第一上フランク面4aと該第一上フランク面4aよりも小さいフランク角θ2を有する第二上フランク面4bとから成る上フランク面4を形成すると共に、山頂面6を上方に張り出すように幅広に形成し、該山頂面6と上記第二上フランク面4bとで張り出し部7を形成する。加えて下フランク面5を雌ねじ溝11のフランク角θ5よりも大きいフランク角θ3で形成する。
【0031】
他方、脚部2の下部2bに形成した下部雄ねじ山3bにおいては、上フランク面8を雌ねじ溝11の上フランク面12のフランク角θ4と同一のフランク角で形成すると共に、下フランク面9を雌ねじ溝11の下フランク面13のフランク角θ5と同一のフランク角で形成する。
【0032】
また、上記上部雄ねじ山3aが形成される脚部2の上部2aの長さは該脚部2の全長の7/10〜8/10に設定すると共に、下部2bの長さを該脚部2全長の2/10〜3/10に設定し、後記するように、上記上部雄ねじ山3aにより締結時の緩み止め効果を適切に発揮すると共に、上記下部雄ねじ山3bにより初期ねじ込み時のねじ込みトルクの増大を抑止する。例えば脚部2の全長が10mmのときに該脚部2の上部2aの長さを7mm〜8mmの範囲に、同下部2bの長さを2mm〜3mmに設定する。
【0033】
次に本発明に係る緩み止めねじの使用について説明する。
【0034】
実際の使用に際しては、取付部材の取付孔を介して相手部材10の下穴10aに緩み止めねじの脚部2の先端部をねじ込んでいくこととなるが、このねじ込み時には、脚部2の先端部、つまり脚部2の下部2bに形成された上記下部雄ねじ山3bが初めに雌ねじ溝11に螺入することになる。
【0035】
このときには、該下部雄ねじ山3bは、既述の如く、その上フランク面8が雌ねじ溝11の上フランク面12のフランク角θ4と同一のフランク角で形成されており、同下フランク面9が雌ねじ溝11の下フランク面13のフランク角θ5と同一のフランク角で形成されており、且つ突出高が低いため、該上下フランク面8,9がそれぞれ雌ねじ溝11の上下フランク面12,13に摺接又は微小間隔を置いて対面しながら、低いねじ込みトルクでねじ込まれることとなる。
【0036】
次いで、後続の上記上部雄ねじ山3aが雌ねじ溝11に螺入する。このときには、
図5に示すように、該上部雄ねじ山3aに形成された張り出し部7(山頂面6の上端部及び第二上フランク面4bの外端部)が雌ねじ溝11の上フランク面12と微小間隔を置いて対面しながらねじ込まれることとなるが、該張り出し部7の出隅角部7aが凸弧面形状を呈しているため、例え該出隅角部7aが雌ねじ溝11の上フランク面12に接する場合にも摩擦抵抗を抑えてねじ込むこととなり、ねじ込みトルク増大を抑止することができる。
【0037】
また、該上部雄ねじ山3aの下フランク面5は雌ねじ溝11の下フランク面13よりも僅かに大きいフランク角を有しているだけであるので、該雌ねじ溝11の下フランク面13と摺接しながら、ねじ込まれることとなる。
【0038】
そして、頭部1の座面(下面)が取付部材の表面に達するまでねじ込まれて締結完了となる。この締結時には、
図6に示すように、上記上部雄ねじ山3aの張り出し部7が相手部材10における雌ねじ溝11の上フランク面12に圧接して係合し、該圧接係合による摩擦抵抗により緩み止めを図る。加えて上記上部雄ねじ山3aの下フランク面5が雌ねじ溝11の下フランク面13と面接触し、該面接触による摩擦抵抗によっても緩み止めを図ることができる。
【0039】
ここで、本実施例に係る緩み止めねじの有効性について、確認試験の結果を踏まえて説明する。
【0040】
確認試験においては、同一頭部形状で且つ同一サイズ(脚部の軸長及び軸径、雄ねじ山ピッチ等)の本実施例に係る緩み止めねじ(以下、実施例の緩み止めねじ)、特許文献1に示した緩み止めねじ(以下、比較例の緩み止めねじ)を用意し、各緩み止めねじにて同一回転数で金属製薄板から成る相手部材に該相手部材と同厚の金属製薄板から成る取付部材を取り付けるように締結し、その後、逆回転して締結を解除することを10回繰り返して、それぞれの緩み止めねじの各種トルクを測定した。
【0041】
図7は実施例の緩み止めねじのねじ込みトルク、締付トルク、瞬間戻しトルク及びプリベリングトルク(摩擦トルク)を測定した結果を示すグラフであり、
図8は比較例の緩み止めねじのねじ込みトルク、締付トルク、瞬間戻しトルク及びプリベリングトルクを測定した結果を示すグラフである。なお
図7・
図8中の「TD」はねじ込みトルクを、「TS」は締付トルクを、「TL」は瞬間戻しトルクを、該「TL」の右側に続く部分は「プリベリングトルク」を指している。
【0042】
図7・
図8から明らかな如く、実施例の緩み止めねじは、ねじ込みトルクについては比較例の緩み止めねじよりやや大きく、締付トルク及び瞬間戻しトルクについては比較例の緩み止めねじと略同等であるが、特にプリベリングトルクについては比較例の緩み止めねじよりも遥かに大きいことが分かる。これは既述した上部雄ねじ山3aの張り出し部7及び下フランク面5により雌ねじ溝11との間で効果的にプリベリングトルクが生じ、適切に緩み止め効果を発揮していることを表している。また、特に繰り返し使用においても、安定して緩み止め効果を発揮できることをも証明するものである。
【符号の説明】
【0043】
1…頭部、1a…駆動穴、2…脚部、2a…脚部の上部、2b…脚部の下部、3…雄ねじ山、3a…上部雄ねじ山、3b…下部雄ねじ山、4…上部雄ねじ山の上フランク面、4a…第一上フランク面、4b…第二上フランク面、5…上部雄ねじ山の下フランク面、6…上部雄ねじ山の山頂面、7…張り出し部、7a…出隅角部、8…下部雄ねじ山の上フランク面、9…下部雄ねじ山の下フランク面、10…相手部材、10a…相手部材の下穴、11…雌ねじ溝、12…雌ねじ溝の上フランク面、13…雌ねじ溝の下フランク面、14…雌ねじ溝の谷底面、θ1…上部雄ねじ山の第一上フランク面のフランク角、θ2…上部雄ねじ山の第二上フランク面のフランク角、θ3…上部雄ねじ山の下フランク面のフランク角、θ4…雌ねじ溝の上フランク面のフランク角、θ5…雌ねじ溝の下フランク面のフランク角、L1…上部雄ねじ山の山頂面の幅、L2…雌ねじ溝の谷底面の幅、P…雄ねじ山のピッチ、H1…上部雄ねじ山の突出高、H2…第二上フランク面の高さ、H3…雌ねじ溝の深さ。
【要約】
【課題】 繰り返し使用しても緩み止め効果を適正に発揮する緩み止めねじの提供。
【解決手段】 脚部の上部に形成された上部雄ねじ山の上フランク面の谷側に雌ねじ溝の上フランク面と同一のフランク角を有する第一上フランク面を形成すると共に、同山頂側に該第一上フランク面よりも小さいフランク角を有する第二上フランク面を該第一上フランク面に連続して形成し、上記上部雄ねじ山の山頂面を上方に張り出して上記雌ねじ溝の谷底面の幅よりも幅広に形成し、該山頂面の上端部と上記第二上フランク面の外端部から成る張り出し部を形成すると共に、上記上部雄ねじ山の下フランク面を上記雌ねじ溝の下フランク面のフランク角よりも大きいフランク角で形成し、上記脚部の下部に形成された下部雄ねじ山の上下フランク面を上記雌ねじ溝の上下フランク面とそれぞれ同一のフランク角で形成する構成を有する緩み止めねじを提供する。
【選択図】
図1