特許第6200169号(P6200169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一般財団法人ファインセラミックスセンターの特許一覧

<>
  • 特許6200169-リチウムイオン伝導性酸化物の製造方法 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200169
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20170911BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20170911BHJP
【FI】
   C01G25/02
   !H01M10/0562
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-49617(P2013-49617)
(22)【出願日】2013年3月12日
(65)【公開番号】特開2014-172812(P2014-172812A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年2月4日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成24年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】木村 禎一
(72)【発明者】
【氏名】松田 哲志
(72)【発明者】
【氏名】野村 浩
(72)【発明者】
【氏名】平山 司
【審査官】 大城 公孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−102929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/02
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(X)ランタン及びジルコニウムを含むパイロクロア型構造を有する複合酸化物と、(Y)リチウム化合物と、(Z)ランタン化合物(但し、前記成分(X)を除く)と、リチウムとランタンとジルコニウムとの含有割合[Li:La:Zr(モル比)]を、7:3:2で含む混合原料を730〜900℃で焼成する焼成工程を備え、リチウムとランタンとジルコニウムとの含有割合[Li:La:Zr(モル比)]が、7:3:2であるリチウムイオン伝導性酸化物を製造することを特徴とするリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記リチウムイオン伝導性酸化物がガーネット型構造を有する請求項1に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記成分(X)がLaZrである請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記成分(Y)が、LiCO、LiOH及びLiOから選ばれた少なくとも1種であり、前記成分(Z)が、La、La(OH)、La(COOH)、La(NO)、La(SO及びLa(Cから選ばれた少なくとも1種である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性酸化物の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、従来よりも簡便に、リチウムイオン伝導性酸化物を製造することができるリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、全固体Li二次電池における固体電解質として、LiLaZr12等の、リチウム、ランタン及びジルコニウムを含むガーネット型構造系のリチウムイオン伝導性酸化物を用いることが検討されている(特許文献1〜3等を参照)。
そして、上記LiLaZr12は、通常、LiCO等のリチウム原料と、La等のランタン原料と、ZrO等のジルコニウム原料との混合物を、900〜1250℃の高温で12〜24時間ほど焼成する焼成工程を、複数回、繰り返して行うことにより製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−18792号公報
【特許文献2】特開2012−174659号公報
【特許文献3】特開2010−143785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、LiLaZr12を製造する場合には、高温且つ長時間の焼成工程が複数回必要である。更に、各焼成工程の間には、高温において蒸散し易いリチウム原料を補充する必要があり、その補充には、各段階における焼成物を破砕し、リチウム原料と混合する工程も必要となっている。
そのため、このようなリチウムイオン伝導性酸化物をより簡便に製造する方法が求められているのが現状であり、特に、焼成工程における焼成温度の低温化と、焼成時間の短時間化が求められている。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、従来よりも簡便に、リチウムイオン伝導性酸化物を製造することができるリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
[1](X)ランタン及びジルコニウムを含むパイロクロア型構造を有する複合酸化物と、(Y)リチウム化合物と、(Z)ランタン化合物(但し、上記成分(X)を除く)と、リチウムとランタンとジルコニウムとの含有割合[Li:La:Zr(モル比)]を、7:3:2で含む混合原料を730〜900℃で焼成する焼成工程を備え、リチウムとランタンとジルコニウムとの含有割合[Li:La:Zr(モル比)]が、7:3:2であるリチウムイオン伝導性酸化物を製造することを特徴とするリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
[2]上記リチウムイオン伝導性酸化物がガーネット型構造を有する上記項1に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
[3]上記成分(X)がLaZrである上記項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
[4]上記成分(Y)が、LiCO、LiOH及びLiOから選ばれた少なくとも1種であり、上記成分(Z)が、La、La(OH)、La(COOH)、La(NO)、La(SO及びLa(Cから選ばれた少なくとも1種である上記項1乃至3のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法によれば、特定の混合原料を用いているため、高温且つ長時間の焼成工程を何度も繰り返して行う必要がなく、従来よりも簡便にリチウムイオン伝導性酸化物を製造することができる。
また、特定の温度範囲での焼成が行われる場合には、リチウム原料の蒸散を抑制することができ、生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】原料混合粉(混合原料)、及び混合原料を各加熱温度で焼成した際におけるX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法は、(X)ランタン及びジルコニウムを含むパイロクロア型構造を有する複合酸化物(以下、単に「複合酸化物(X)」ともいう)と、(Y)リチウム化合物と、(Z)ランタン化合物(但し、上記成分(X)を除く)と、リチウムとランタンとジルコニウムとの含有割合[Li:La:Zr(モル比)]を、7:3:2で含む混合原料を焼成する焼成工程を備え、リチウムとランタンとジルコニウムとの含有割合[Li:La:Zr(モル比)]が、7:3:2であるリチウムイオン伝導性酸化物を製造することを特徴とする。
【0010】
上記混合原料は、複合酸化物(X)と、リチウム化合物(Y)と、ランタン化合物(Z)とを含むものである。
この混合原料における上記複合酸化物(X)は、具体的には、[A2−x2+x7−δ(但し、x及びδは、−1.667≦x≦1.667、−0.335≦δ≦0.335を満たす。)]で表すことができる。
このパイロクロア型構造を有する複合酸化物(X)におけるAサイトは、ランタン(La)、又は、一部が他の元素によって置換されたLaで構成される。AサイトにおけるLaを置換する他の元素としては、例えば、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
一方、この複合酸化物(X)におけるBサイトは、ジルコニウム(Zr)、又は、一部が他の元素によって置換されたZrで構成される。BサイトにおけるZrを置換する他の元素としては、例えば、Hf、Ti等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0011】
上記式[A2−x2+x7−δ]におけるxは、−1.667≦x≦1.667を満たし、好ましくは−1.333≦x≦1.333、より好ましくは−1.1≦x≦1.1の範囲を満たす。
また、δは、−0.335≦δ≦0.335を満たし、好ましくは−0.2≦δ≦0.2、より好ましくは−0.1≦δ≦0.1の範囲を満たす。尚、このδは、パイロクロア型構造における酸素欠陥分を示すための値である。
【0012】
上記リチウム化合物(Y)としては、例えば、LiCO、LiOH、LiO等が挙げられる。尚、これらのリチウム化合物(Y)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
上記ランタン化合物(Z)としては、例えば、La、La(OH)、La(COOH)、La(NO)、La(SO、La(C等が挙げられる。尚、これらのランタン化合物(Z)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、上記混合原料には、目的のリチウムイオン伝導性酸化物の組成に合わせて、上記複合酸化物(X)、リチウム化合物(Y)及びランタン化合物(Z)以外の他の化合物を配合することができる。
上記他の化合物としては、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、ケイ素化合物、ニオブ化合物等を挙げることができる。尚、これらの他の化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記ジルコニア化合物としては、ZrO、Zr(OH)、Zr(NO)、Zr(SO、Zr(C等が挙げられる。
上記アルミニウム化合物としては、Al、Al(OH)、AlCl、Al(COOH)、Al(NO)、Al(SO、Al(C等が挙げられる。
上記ケイ素化合物としては、SiO、Si(OH)、Si(CO)等が挙げられる。
上記ニオブ化合物としては、Nb、NbCl、Nb(C等が挙げられる。
【0014】
また、上記混合原料における、リチウムとランタンとジルコニウムとの含有割合[Li:La:Zr(モル比)]は、目的のリチウムイオン伝導性酸化物の組成に合わせて調整される。例えば、リチウムとランタンとジルコニウムとの含有割合[Li:La:Zr(モル比)]は、(6〜8):(4〜2):(3〜1)[特に(6.5〜7.5):(2.5〜3.5):(1.5〜2.5)、更には(6.8〜7.2):(2.8〜3.2):(1.8〜2.2)]とすることができるが、本発明では、7:3:2とする
【0015】
上記混合原料を製造する方法は特に限定されない。具体的には、例えば、ランタン及びジルコニウムを含むパイロクロア型構造を有する複合酸化物(X)からなる粉末と、リチウム化合物(Y)からなる粉末と、ランタン化合物(Z)からなる粉末と、必要に応じて上記他の化合物からなる粉末と、を湿式混合等により混合することにより得ることができる。尚、これらの化合物を製造する方法は特に限定されず、市販品を用いることもできる。
【0016】
また、上記混合原料には、本発明の効果を損なわない範囲において、各種の添加剤が含まれていてもよい。具体的な添加剤としては、例えば、焼結助剤、組織制御剤、成型助剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
上記焼成工程では、上記混合原料が焼成される。
この焼成工程における焼成温度は、730〜900℃である。焼成温度がこの範囲である場合には、原料同士を十分に反応させることができるとともに、リチウム原料の蒸散を十分に抑制することができる。
また、焼成時間は、1〜20時間であることが好ましく、より好ましくは2〜12時間、更に好ましくは3〜8時間、特に好ましくは4〜6時間である。焼成時間がこの範囲である場合には、原料同士を十分に反応させることができるとともに、リチウム原料の蒸散を十分に抑制することができる。
更に、焼成雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気や、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気等とすることができる。
【0018】
また、本発明においては、上記焼成工程の前に、上記混合原料を仮焼する仮焼工程を備えていてもよい。仮焼工程を備える場合、仮焼工程後に再粉砕または再混合工程を備えることが原料粉同士の反応の観点から好ましい。
この仮焼工程における仮焼温度は、90℃以上であることが好ましく、より好ましくは100〜700℃、更に好ましくは300〜600℃である。
また、仮焼時間は、1〜10時間であることが好ましく、より好ましくは2〜8時間、更に好ましくは3〜6時間である。
更に、仮焼雰囲気は特に限定されず、大気雰囲気や、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気等とすることができる。
【0019】
また、本発明により製造される上記リチウムイオン伝導性酸化物は、ランタン、ジルコニウム及びリチウムを含んでいる限り特に限定されない。具体的には、例えば、ガーネット型構造を有するリチウムイオン伝導性酸化物とすることができる。更には、リチウムとランタンとジルコニウムとの含有割合[Li:La:Zr(モル比)]が、7:3:2であるリチウムイオン伝導性酸化物とすることができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0021】
実施例1、実施例2及び比較例1
(1)原料混合粉の調製
ランタン−ジルコニウム複合酸化物[ジルコン酸ランタン(LaZr)]と、リチウム含有化合物[炭酸リチウム(LiCO)]と、ランタン化合物[水酸化ランタン(La(OH))]とを準備し、LaZr:LiCO:La(OH)のモル比が1:3.5:1となるように混合した。即ち、リチウム元素、ランタン元素及びジルコニウム元素のモル比が、Li:La:Zr=7:3:2になるように混合した。
次いで、得られた混合物を、湿式ボールミル(溶媒;アルコール)にて24時間混合したのち、100℃で5時間乾燥することによって、原料混合粉(混合原料)を調製した。
【0022】
(2)焼成工程
得られた原料混合粉をるつぼに入れ、電気炉で12時間加熱した後、自然冷却して生成物を得た。尚、加熱温度は、700℃(比較例1)、750℃(実施例1)、800℃(実施例2)とした。
【0023】
(3)X線回折及びその結果
得られた各生成物から、その一部を取り出し、X線回折を行った。その結果を、原料混合粉のX線回折結果とともに、図1に示した。尚、図1において、●で示した回折ピークは、ガーネット型化合物のピークを示す。
その結果、図1によれば、実施例1及び2で加熱して得られた生成物は、ガーネット型化合物(LiLaZr12)であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明のリチウムイオン伝導性酸化物の製造方法は、リチウム二次電池等の電気化学デバイス分野等において好適に利用することができる。
図1