特許第6200198号(P6200198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱日立パワーシステムズ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6200198-回転電気の絶縁診断方法 図000002
  • 特許6200198-回転電気の絶縁診断方法 図000003
  • 特許6200198-回転電気の絶縁診断方法 図000004
  • 特許6200198-回転電気の絶縁診断方法 図000005
  • 特許6200198-回転電気の絶縁診断方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200198
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】回転電気の絶縁診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20170911BHJP
   G01N 9/00 20060101ALI20170911BHJP
   G01N 33/44 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   G01N17/00
   G01N9/00 Z
   G01N33/44
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-93187(P2013-93187)
(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2014-215190(P2014-215190A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正博
(72)【発明者】
【氏名】小島 啓明
(72)【発明者】
【氏名】田中 清輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓司
(72)【発明者】
【氏名】小野田 満
【審査官】 北川 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−338045(JP,A)
【文献】 特開昭58−118926(JP,A)
【文献】 特開2005−265492(JP,A)
【文献】 特開平04−120479(JP,A)
【文献】 特表2012−508866(JP,A)
【文献】 特開2012−013640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
G01N 9/00
G01N 5/04
G01N 25/20
G01N 33/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機器絶縁材料の熱劣化度を診断するものであって、樹脂と無機物から成る複合材料の比重変化量と加熱時間のマスターカーブを予め作成し、このマスターカーブに前記電気機器から採取した試料の比重結果を照らし合わせて絶縁材料の運転温度を推定することを特徴とした劣化診断方法。
【請求項2】
請求項1に記載の劣化診断方法おいて、樹脂と無機物から成る複合材料の最も変色の激しい部分を採取し、比重をもとに運転温度を推定することを特徴とした劣化診断方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の劣化診断方法おいて、樹脂と無機物から成る複合材料が前記電気機器の固定子コイル絶縁層又は周辺部材であることを特徴とした劣化診断方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の劣化診断方法おいて、樹脂と無機物から成る複合材料が固定子コイル絶縁層であり、得られた推定温度をもとに予め作成したモデルコイルの破壊電圧(BDV)と加熱時間のマスターカーブから、実機運転コイルのBDV残存率及び残存時間を推定することを特徴とした劣化診断方法。
【請求項5】
請求項3に記載の劣化診断方法おいて、樹脂と無機物から成る複合材料が周辺部材に用いられているウエッジ材又はライナ材であることを特徴とした劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の絶縁劣化診断方法に係り、特に絶縁劣化時における絶縁材料の劣化状況を把握する絶縁診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電機等の回転電気機器に於いては、一旦絶縁劣化による故障が発生すると、発電機等の回転電気機器の復旧にかかる時間と費用以外に社会的損出が発生するため、従来からこの故障を未然に防ぐための絶縁劣化診断の開発が進められている。
【0003】
特に発電機等の回転電気機器のうちでも、火力発電所や水力発電所等で使用されている大型発電機の固定子コイルの電気絶縁には、巻き線に樹脂含浸のガラスクロス/マイカテープが使用されている。これらの絶縁材料が使用されていても、長期運転に伴い運転負荷状態、運転時間、始動停止回数、設置環境等の要因により、色々な絶縁劣化形態を示した現象が発生する。
【0004】
劣化現象としては、例えば、巻き線部の発熱による内部絶縁層の分解が原因で空洞が発生し、振動などにより絶縁層の剥離が起こり、この剥離面、空洞部等での部分放電の発生により絶縁材料の劣化が加速的に進む。火力発電機や水力発電機等の回転電気機器が故障すると、復旧するためには巻き線等の固定子コイルの交換が必要となるため、多大な時間と修復費や人件費がかかると共に、社会的な損失が発生する場合がある。
【0005】
ところで、従来の電気特性における電気機器の寿命予測は10年単位での予測であり、寿命予測精度が悪く信頼性に欠ける等の問題を有している。実際に電気特性試験では問題が無いにもかかわらず、補強部材の機械強度の低下により絶縁層に無理な応力が加わって絶縁層が破壊する事故が発生している。
【0006】
このような電気特性試験等では電気機器の絶縁層に加わる応力により機械強度特性の低下や過熱等による絶縁材料の劣化等は電気特性試験では把握が困難である。このようなことから、絶縁材料の破壊による回転電気機器の故障が生じた場合、巻き線に使用される絶縁材料の劣化度を適切に評価、把握できれば早期の段階で劣化度を把握し故障を未然に防止することが可能となる。但し、解決するには次のような問題を有している。
(1) 巻き線のスロット部の吸湿、空隙等を劣化現象との相関関係による電気的非破壊試験により把握する方法では、直接絶縁材料の熱劣化現象を把握できない。
(2) 巻き線を機械的に固定、指示する絶縁材料の劣化度を把握できない。
(3) IEC.pub.216による耐熱性評価方法は存在するが、この方法では破壊試験、重量減少の試験項目となるため実機の巻き線には直接適用できない。このため、回転機の巻線交換等を大幅な修復をせずに、そのまま再使用が可能な試験方法の開発が望まれている。
【0007】
これらを解決する方法として、特許文献1には、TG-DTA装置を用いて重量減少率との相関からマスターカーブを作成し、電気機器絶縁材料から採取した試料の評価結果を照合し劣化診断が記載されている。また、特許文献2には、電気機器に使用されるコイル絶縁材などの材料の熱劣化試料および未劣化試料の熱分解曲線を熱重量測定装置で求め、該両曲線上の両試料の重量減少率から熱劣化試料の樹脂減量率を求め、次いで得た点を通し、前記未劣化試料の熱分解曲線から求めた劣化の活性化エネルギーを用いて得た傾斜をもつ温度一時間の関係を示す直線から、運転時間に対応する温度を求めることを特徴とする電気機器の運転直履歴推定方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-064698号公報
【特許文献2】特開昭58−118926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
火力発電機や水力発電機の固定子コイルのように、コイルエンド部付近と中央部付近では、コイルの発熱量が異なり運転時に温度差が生じる。また、コイルの巻き線に巻かれている絶縁材料としては、樹脂が含浸されたガラスクロス/マイカテープが使用され、製品によってはその表面にワニスが塗布されているものもある。このため、絶縁診断評価時の試料採取場所の影響が大きく、絶縁劣化診断の精度が十分得られないという問題があった。
【0010】
また、一般的な劣化手法では試料採取領域が限られることから、測定に際しては装置上試料量も少量となる。このような観点から、回転電気機器に用いられている絶縁材料の採取場所によって劣化度合いが異なり、信頼性に欠けるものも見られる。更に、評価方法や装置が複雑なことから定期点検等の比較的短時間の作業時に、固定子コイル絶縁層の劣化度を精度良く診断することは困難であるという問題があった。
【0011】
本発明の目的は、回転電気等の固定子コイル絶縁層の劣化状況を簡素な方法で、短時間に精度良く劣化度を判断できる絶縁診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、比重測定装置から得られる樹脂と無機物からなる複合材料の劣化前後の比重の変化量と加熱時間の相関関係を取り、マスターカーブを作成する。更に、このマスターカーブを前記回転機器より採取した試料の比重装置による比重測定結果と、前記回転機器の運転時間とを照合することにより運転温度、交換までの残存時間等を推定する熱劣化診断を提供する。
【0013】
また、樹脂と無機物からなる複合材料において、前記回転機器より採取する試料は目視により、最も変色の激しい部分を採取した試料の比重測定結果と、前記回転機器の運転時間と比重の変化量と加熱時間より得たマスターカーブを照合し、運転温度を推定する熱劣化診断を提供する。
また、樹脂と無機物から成る複合材料が前記回転機器より採取する試料が、回転電気機器の固定子コイル絶縁層又は周辺部材から採取した試料の比重装置による比重測定結果と、前記回転機器の運転時間とを照合することにより運転温度を推定する熱劣化診断を提供する。
【0014】
また、樹脂と無機物から成る複合材料が固定子コイル絶縁層であり、得られた推定温度をもとに予め作成したモデルコイルの破壊電圧(BDV)残存率と運転時間のマスターカーブから、実機運転コイルのBDVまでの残存時間を推定する熱劣化診断を提供する。
【0015】
更に、樹脂と無機物から成る複合材料が前記回転機器より採取する試料が、回転電気機器の固定子コイルの周辺部材でウエッジ材又はライナ材から運転温度を推定する熱劣化診断を提供する。
【発明の効果】
【0016】
以上のとおり、本発明によれば、回転機器から採取した樹脂と無機物から成る複合材の
の変色の激しい部分を目視等の観察により、試料を採取し比重により劣化度を評価診断
することが可能となる。更に、比重測定は評価方法が簡単で、装置は小型であることから
持ち運びが可能となり、発電所等の現地での定期点検時に短時間でコイル絶縁層の運転温
度、交換までの残存時間やコイルの絶縁破壊電圧(BDV)残存率等を推定でき、回転電気の
絶縁劣化診断が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例を示す回転電気の絶縁診断方法のフローチャート。
図2】本発明の実施例を示す回転電気機器のステータウエッジ内コイル絶縁層の運転時間と温度の関係を示す特性図。
図3】本発明の実施例を示す回転電気機器のステータウエッジ内構成図。
図4】本発明の実施例を示す回転電気機器のステータウエッジ内ライナの運転時間と温度の関係を示す特性図。
図5】本発明の実施例を示す回転電気機器のステータウエッジ内コイル絶縁層の破壊電圧(BDV)残存率と温度の関係を示す特性図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0019】
本実施例では、実機運転している回転電気機器のステータウエッジ内コイル絶縁層A(運転時間:16,000時間程度)から約60mm×60mm×3mmの大きさのものを2個採取した試料を用いた。先ず、アルファ−ミラ−ジュ(株)製 電子比重計 SD-200L型を用いて、コイル絶縁層Aから約60mm×60mm×3mm採取した試料を用いて、各々の試料の空気中の重量を測定後した。更に、水中で重量を測定し比重を算出した。比重算出法は下式1(アルキメデスの式)を用いた。上記試料の比重は、1.89と1.91の値を示した。得られた比重の値を図2に示す比重と運転時間の検量線に照らし合わせた結果、運転時にコイル絶縁層に加わった温度は、145℃程度と推定することができる。尚、事前の評価結果から曲げ強度の初期強度に対する半減値は、比重で1.81程度であることが分かっており、固定子コイル絶縁層の比重が1.81程度で交換時期と判断すれば良いものと考える。上記の結果から、実機で運転している回転電気機器を、現状と同様の条件で運転すれば、固定子コイル絶縁層の交換時期は約40,000時間後と推定することができる。
式1 ρ=Wa/(Wa-Ww)×(ρ0-d)+d
比重=ρ/ρw

ρ0:水(23℃)の密度
d:空気の密度
ρw:水(4℃)の密度
【実施例2】
【0020】
本実施例では、実機運転している実機回転電気機器のステータウエッジ内コイル絶縁層B(運転時間:110,000時間程度)から約60mm×60mm×3mmの大きさのものを2個採取した試料を用いた。比重評価方法及び算出方法は、尚、既に説明した実施例1と同一であるため、説明を省略する。上記コイル絶縁層Bの比重は1.84と1.88の値を示した。得られた比重の値を図2に示す比重と運転時間の検量線に照らし合わせた結果、運転時にコイル絶縁層に加わった温度は120℃程度と推定することができる。尚、事前の評価結果から曲げ強度の初期強度の半減値は、比重で1.81程度であることが分かっており、固定子コイル絶縁層の比重が1.81程度で交換時期と判断すれば良いものと考える。また、上記の結果から実機で運転している回転電気機器を、現状と同様の条件で運転すれば、固定子コイル絶縁層の交換時期は約25,000時間後と推定することができる。
【実施例3】
【0021】
本実施例では、実機運転している実機回転電気機器のステータウエッジ内コイル絶縁層C(運転時間:56,000時間程度)から約60mm×60mm×3mmの大きさのものを2個採取した試料を用いた。尚、比重評価方法及び算出方法は、既に説明した実施例1と同一であるため、説明を省略する。上記コイル絶縁層Cの比重は1.82と1.83の値を示した。得られた比重の値を図2に示す比重と運転時間の検量線に照らし合わせた結果、運転時にコイル絶縁層に加わった温度は140℃程度と推定することができる。尚、事前の評価結果から曲げ強度の初期強度の半減値は、比重で1.81程度であることが分かっており、固定子コイル絶縁層の比重が1.81程度で交換時期と判断すれば良いものと考える。また、上記の結果から実機で運転している回転電気機器を、現状と同様の条件で運転すれば、ステータウエッジ内固定子コイル絶縁層の交換時期は約34,000時間後と推定できる。
【実施例4】
【0022】
本実施例では、実機運転している実機回転電気機器のステータウエッジ内ライナ材A(運転時間:16,000時間程度)から、目視で変色が最も激しい部分を選定し、約60mm×60mm×3mmの大きさのものを2個採取した試料を用いた。尚、比重評価方法及び算出方法は、既に説明した実施例1と同一であるため、説明を省略する。上記ライナ材の比重は1.778と1.794の値を示した。得られた比重の値を図4に示す比重と運転時間の検量線に照らし合わせた結果、運転時にライナ材に加わった温度は、120℃程度と推定することができる。尚、事前の評価結果から曲げ強度の初期強度の半減値は、比重で1.86程度であることが分かっており、ライナ材の比重が1.86程度で交換時期と判断すれば良いものと考える。また、上記の結果から実機運転している回転電気機器を今までと同様の条件で運転すれば、ステータウエッジ内ライナ材の交換時期は、約84,000時間後と推定できる。
【実施例5】
【0023】
本実施例では、実機運転している回転電気機器のステータウエッジ内ライナ材B(運転時間:110,000時間程度)から、目視で変色が最も激しい部分を選定し、約60mm×60mm×3mmの大きさのものを2個採取した試料を用いた。尚、比重評価方法及び算出方法は、既に説明した実施例1と同一であるため、説明を省略する。上記ライナ材の比重は1.802と1.815の値を示した。得られた比重の値を図4に示す比重と運転時間の検量線に照らし合わせた結果、運転時にライナ材に加わった温度は、100℃以下と推定することができる。尚、事前の評価結果から曲げ強度の初期強度の半減値は、比重で1.86程度であることが分かっており、ライナ材の比重が1.86程度で交換時期と判断すれば良いものと考える。また、上記の結果から実機運転している回転電気機器を今までと同様の条件で運転すれば、ステータウエッジ内ライナ材交換時期は、約900,000時間後と推定できる。
【実施例6】
【0024】
本実施例では、実施例1で得られたコイル絶縁層に加わった推定温度145℃程度を、予め作成したコイルの運転時間と破壊電圧(BDV)の検量線に照らし合わせた結果、回転電気機器のステータウエッジ内コイルA(運転時間:16,000時間程度)の破壊電圧(BDV)残存率は、70%程度と推定することができる。尚、事前の評価結果から固定子コイルの破壊電圧(BDV)残存率は、初期100%に対して40%まで低下すると固定子コイルの交換時期であることが既に分かっている。また、上記の破壊電圧(BDV)残存率の結果から実機運転している回転電気機器を今までと同様の条件で運転すれば、固定子コイルの交換時期は約55,000時間後と推定することができる。
【実施例7】
【0025】
本実施例では、実施例2で得られたコイル絶縁層に加わった推定温度120℃程度を、予め作成したコイルの運転時間と破壊電圧(BDV)の検量線に照らし合わせた結果、回転電気機器のステータウエッジ内コイルB(運転時間:110,000時間程度)の破壊電圧(BDV)残存率は、63%程度と推定することができる。尚、事前の評価結果から固定子コイルの破壊電圧(BDV)残存率は、初期100%に対して40%まで低下すると交換時期であることが分かっている。また、上記の破壊電圧(BDV)残存率の結果から実機運転している回転電気機器を今までと同様の条件で運転すれば、固定子コイルの交換時期は約25,000時間後と推定することができる。
【実施例8】
【0026】
本実施例では、実施例3で得られたコイル絶縁層に加わった推定温度140℃程度を、予め作成したコイルの運転時間と破壊電圧(BDV)の検量線に照らし合わせた結果、回転電気機器のステータウエッジ内コイルC(運転時間:65,000時間程度)の破壊電圧(BDV)残存率は、63%程度と推定することができる。尚、事前の評価結果から固定子コイルの破壊電圧(BDV)残存率は、初期100%に対して40%まで低下すると固定子コイルの交換時期であることが既に分かっている。また、上記の破壊電圧(BDV)残存率の結果から実機運転している回転電気機器を今までと同様の条件で運転すれば、固定子コイルの交換時期は約20,000時間後と推定することができる。
図1
図2
図3
図4
図5