【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 World Congress of the International Society for Biophysics and Imaging of Skin(ISBS)Final Programme & Abstracts 掲載日 平成24年11月28日 World Congress of the International Society for Biophysics and Imaging of Skin(ISBS) 開催日 平成24年11月28日〜30日
【文献】
水越興治 他4名,「加齢が顔面頬部位の真皮乳頭構造と線維束構造に及ぼす影響」,日本美容皮膚科学会雑誌,日本,日本美容皮膚科学会,2010年 8月 7日,Vol.20,No.2,p199
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、皮膚内部構造情報を指標として肌年齢を推定することを特徴とする。
【0010】
本発明において「肌年齢」とは、肌の老化状態の推定値をいい、肌の状態により推定される仮想年齢を示す指標である。肌年齢は、予め取得した相関に照らして、推定することができる。例えば、実年齢と皮膚内部構造情報の平均値との相関に照らす場合には、実年齢における平均的な肌状態に対する肌の老化状態の指標として捉えることができる。また、実年齢と理想的な肌状態(例えば、平均値よりやや良好な肌状態を示す皮膚内部構造情報の値)との相関に照らす場合には、実年齢における理想的な肌状態に対する肌の老化状態の指標として捉えることができる。
【0011】
本発明の一態様において、前記皮膚内部構造情報は乳頭構造情報である。
皮膚を構成する表皮と真皮とが接する部分には、表皮側には基底層が、真皮側には乳頭層が存在し、両者の界面として乳頭構造が形成されている。乳頭構造とは、基底層側からは真皮へ表皮突起が突き出し、乳頭層側からは表皮突起間に食い込むように乳頭突起(真皮突起)が並び、乳頭突起と表皮突起が互いに組み合わさることにより形成される、波型の凹凸の状態の構造である。乳頭突起には細かな結合線維、毛細血管、知覚神経末端が存在し、真皮・表皮への酸素や栄養の補給を行い、真皮・表皮からの二酸化炭素の回収や情報の受容を行う役割を担っている。また、真皮は自在に伸縮するが、真皮と接している表皮は、細胞が密に接しているシート状構造であるため伸縮性に乏しく、このような真皮と表皮の伸縮性の違いを緩衝するのが乳頭構造であるといわれている。
乳頭構造は、加齢や紫外線曝露によってその凹凸の扁平化や消失が起こり、肌のタルミに至りやすいことが知られている。また、乳頭構造における毛細血管はその凹凸に沿うように配置しているが、表皮直下にあるこの毛細血管は肌の色みに影響を与えることも知られている。
【0012】
前述のように加齢等によって乳頭構造の凹凸は扁平化したり消失したりすることは知られているものの、本発明者らは、単に年齢が増えるにつれて乳頭構造の凹凸が消失方向へ画一的に向かうわけではないことを見出した。すなわち、後述する実施例で示されるように、乳頭構造を特徴づける乳頭構造パラメータは、単純に若年層から高齢層で同じ幅に分布するのではなく、予想外に若年層(20〜30歳代)では分布の幅が広く、高齢層に向けて分布の幅が収束する傾向にあることが初めてわかった。そのため、本発明により従来の知見や実年齢からだけでは分からない肌年齢を推定することができるため、肌の老化状態を的確に把握することができ、化粧品の選択等のアドバイス等のカウンセリングの質を高くできる意義がある。
また、本発明者らは、乳頭構造の凹凸の良し悪しが、肌さらには顔全体の見た目の印象に大きく影響を与えることに着目した。特に年齢が高いほどその傾向が強く、50〜60歳代においては、乳頭構造の凹凸がはっきりして整っている場合に比べて、乳頭構造の凹凸が不均一な場合やなだらかな場合は、見た目において肌のハリ・弾力が衰えている、キメが粗い、シワが目立つなどの老化状態が見てとれ、顔全体で老けた印象となりやすいことを見出した。そのため、本発明で推定される肌年齢は、肌の老化状態(エイジング)の予兆の指標となり得る。
【0013】
本明細書において、乳頭構造情報とは、乳頭構造の形状や配置等を特徴づける乳頭突起の高さ、乳頭突起の高さの標準偏差、単位観察視野面積当たりの乳頭突起の個数、単位観察視野面積当たりの乳頭構造の表面積、乳頭突起の等高断面積の平均、乳頭突起の等高断面積の標準偏差、乳頭突起の等高断面の円形度の平均、乳頭突起間の距離、乳頭突起間の距離の標準偏差などの乳頭構造パラメータである。本発明の方法においては、通常には、上記乳頭構造パラメータの一種又は二種以上を指標として用いる。
【0014】
本発明において乳頭構造パラメータの取得方法は、特に限定されるものではなく、侵襲的又は非侵襲的に乳頭構造を実際に観察して乳頭構造パラメータを測定してもよいし、あるいは乳頭構造パラメータを推定式によって推定された値を本発明に用いてもよい。
乳頭構造を実際に観察する方法としては、例えば共焦点レーザー顕微鏡を用いてパラメータを計測する方法が挙げられる。共焦点レーザー顕微鏡は、対象物に対して同じ深さの箇所の像を観察できるため、得られた乳頭構造の等高イメージ(水平断面画像)から乳頭構造パラメータを算出することができる。また、生体材料に対してもin vivoで非侵襲的に観察を行えるため有用である。共焦点レーザー顕微鏡は、オリンパス社やLucid社等から市販されているものを特に制限なく使用できる。
【0015】
乳頭構造パラメータを推定する方法は、例えば皮膚表面情報に基づいて推定する方法が
挙げられる。皮膚表面情報としては、例えばキメや肌色等が挙げられ、これらを特徴づけるキメパラメータや肌色パラメータ等を用いて表される推定式により乳頭構造パラメータを推定することができる(特開2011−101738号公報参照)。キメパラメータは、例えば表皮組織定量化法(特開2008−061892号公報参照)を用いて得られる、皮溝面積、皮溝平均太さ、皮溝太さのバラツキ、皮溝の平均間隔、皮溝の平行度、歪度(90〜180°)、皮溝太さ最頻数、及び連結数合計等が挙げられる。また、肌色パラメータは、RGB、マンセル(明度、色相、彩度)、L*a*b、XYZ、L*C*h、及びハンターLab等の表色系が挙げられる。
【0016】
以下に、上記乳頭構造パラメータについて図を参照しながら説明する。
乳頭突起の高さとは、乳頭突起の先端から根元までの長さを指し、
図2を参照して説明すると、角層細胞層を深さ0としたときの乳頭突起の開始部の深さAと終了部の深さBの差(B−A)である。この高さ(μm)が大きいことは乳頭構造の凹凸がはっきりしていることを示し、例えば3μm以上、さらには9μm以上、特に15μm以上であることが好ましい状態であり、通常50μm以下である。
また、この高さのばらつきは標準偏差で表され、これが小さいことは乳頭突起の高さがそろっていることを示し、例えば10.0以下、さらには7.0以下、特に4.0以下であることが若々しい肌状態である。また、単位観察視野面積(例えば4mm
2)当たりの乳頭突起の高さの最大値と最小値の差が40μm以下、さらには22μm以下、特に7μm以下であることが若々しい肌状態である。
図1を参照して説明すると、肌の状態が良い場合は乳頭突起の高さが大きくかつそろっていて、はっきりした凹凸が整っている乳頭構造のパターンだが(
図1a)、加齢や諸々のダメージにより乳頭突起が変形すると乳頭突起の高さにばらつきが生じて不均一な凹凸パターンとなったり(
図1b)、乳頭構造が全体的に低くなりなだらかな凹凸のパターンとなったりして(
図1c)、最終的には乳頭突起が消失して乳頭構造が平坦なパターンとなり肌の状態の悪化を表す(
図1d)。
【0017】
単位観察視野面積当たりの乳頭突起の個数とは、共焦点レーザー顕微鏡などで観察した場合の視野範囲内にある乳頭突起の個数を指し、例えば、乳頭突起の断面が最も見やすく乳頭突起断面(輝度の高い基底細胞に囲まれた円形断面)が観察される深さの画像で該断面を数えることにより測定できる。
測定例として
図3を参照すると、1mm×1mmの観察範囲において乳頭突起の断面(▲印で示す)が多く見られる場合は、観察部位には乳頭突起が多く存在し、乳頭構造に凹凸が存在して若々しい肌状態であることを示す(
図3a)。具体的には、単位観察視野面積(例えば1mm
2)当たりの乳頭突起の個数が3個以上、さらには5個以上、特に10個以上であることが若々しい肌状態である。一方、同じく1mm×1mmの観察範囲において乳頭突起の断面が少ない場合は、観察部位には乳頭突起がほとんど存在せず、乳頭構造が平坦で肌状態が良くないことを示し老化傾向にあるといえる(
図3b)。具体的には、単位観察視野面積(例えば1mm
2)当たりの乳頭突起の個数が2個以下、さらには1個以下、特に0個であることが老化状態である。
図1を参照して説明すると、肌の状態が良く若々しい場合は乳頭突起が多く、乳頭構造の凹凸ははっきりしているパターンだが(
図1a)、肌が加齢や諸々のダメージを受けると乳頭突起は変形して個数が減少し(
図1b)、最終的には乳頭突起が消失して乳頭構造が平坦なパターンとなり肌の状態の老化(悪化)を表す(
図1d)。
【0018】
単位観察視野面積当たりの乳頭構造の表面積とは、共焦点レーザー顕微鏡などで観察した場合の視野範囲内の乳頭構造(真皮と表皮の接する界面構造)の総表面積を指す。乳頭突起が高かったり乳頭突起の数が多かったりして乳頭構造の凹凸がはっきりしていると、該表面積が大きくなる。該表面積が大きいことは、肌状態が若々しいことを示す。
図1を参照して説明すると、肌の状態が良く若々しい場合は乳頭構造の凹凸がはっきり
していて表面積が大きいが(
図1a)、加齢や諸々のダメージにより乳頭突起が変形すると乳頭構造の表面積が減少し(
図1b、c)、最終的には乳頭突起が消失して乳頭構造が平坦なパターンとなり表面積は小さくなり、肌の状態の老化(悪化)を表す(
図1d)。
【0019】
乳頭突起の等高断面積の平均とは、乳頭突起の任意の高さ、例えば乳頭突起の開始部と終了部の深さの1/2の位置で水平面画像を観察した場合の、観察視野に存在する乳頭突起1個ずつの断面積の平均を指す(
図2d)。乳頭突起が高かったり細かったりすると乳頭構造の凹凸がはっきりするため、この断面積は小さくなり、肌状態が若々しいことを示す。具体的には、例えば乳頭突起の開始部と終了部の深さの1/2の位置で水平面画像を、単位面積(例えば1mm
2)で観察した場合の、乳頭突起の断面積の平均が1500μm
2以下、さらには1250μm
2以下、特に750μm
2以下であることが若々しい肌状態である。
また、観察視野に存在する乳頭突起1個の断面積の各乳頭突起間のばらつきは標準偏差で表され、これが小さいことは乳頭の大きさがそろった整った凹凸状態の乳頭構造であることを示し、例えば750以下、さらには500以下、特に250以下であることが若々しい肌状態である。
図1を参照して説明すると、肌状態が若々しい場合は乳頭突起が高く、多く、そろって存在する乳頭構造パターンで、乳頭突起の断面積は小さいが(
図1a)、加齢や諸々のダメージにより乳頭突起が変形すると乳頭突起の高さにばらつきが生じたり、乳頭構造が全体的に低くなりなだらかな凹凸のパターンとなったりして、断面積が大きくなり(
図1b、c)、最終的には乳頭構造が平坦なパターンとなり当然乳頭突起は消失し、肌の状態の老化(悪化)を表す(
図1d)。
【0020】
乳頭突起の等高断面の円形度の平均とは、乳頭突起の任意の高さ、例えば乳頭突起の開始部と終了部の深さの1/2の位置で水平面画像を観察した場合の、乳頭突起の断面形状(
図2d)の円に近い度合いを表す円形度の、観察視野に存在する各乳頭突起の平均を指す。円形度は4π(断面積)/(周囲長)
2により算出できる。この値が1に近いほど該断面形状が真円に近いことを示し、例えば単位面積(例えば4mm
2)で観察した場合の、乳頭突起の等高断面の円形度の平均が0.8以上、さらには0.85以上、特に0.875以上であることが若々しい肌状態であることを示す。また、円形度が0.9以上の乳頭突起が存在することがより若々しい肌状態であることを示す。該断面形状が歪な楕円であったり、複数の円が繋がった形だったりする場合は、乳頭突起が歪んだ形状であったり、乳頭構造の凹凸が不規則であることを示す。
図1を参照して説明すると、肌状態が若々しい場合は乳頭突起の高さが大きくかつそろっており、乳頭突起の断面は円形に近く、はっきりした凹凸が整っている乳頭構造のパターンだが(
図1a)、加齢や諸々のダメージにより乳頭突起が変形すると乳頭突起の高さにばらつきが生じて、隣接する乳頭突起と繋がってその断面が歪な形となり、不均一な凹凸パターンを呈し(
図1b)、最終的には乳頭突起が消失して乳頭構造が平坦なパターンとなり肌の状態の老化(悪化)を表す(
図1d)。なお、乳頭構造が全体的に低くなった場合は、乳頭突起の断面は円形に近い状態となることもあるが、この場合は他のパラメータ(例えば乳頭突起の断面積)で肌年齢の推定の正確性を担保できる(
図1c)。
【0021】
乳頭突起間の距離とは、乳頭突起とそれと別の乳頭突起との間の距離を測定した値を指し、乳頭突起間距離の標準偏差とは、前記乳頭突起間の距離を観察視野に存在する各乳頭突起間について測定した値のばらつきを指す。これらの値は、例えば、乳頭突起の任意の高さ、例えば乳頭突起の開始部と終了部の深さの1/2の位置で水平面画像を観察した場合の、各乳頭突起の断面の中心どうしの距離の測定値から得られる。乳頭突起間の距離が小さいことは観察視野に乳頭突起が密に存在していることを示す。また、この標準偏差が小さいことは、乳頭突起が観察視野において均等に配置していることを示し、一方この標準偏差が大きいことは、乳頭突起の配置が不均一であることを示す。
図1を参照して説明すると、肌状態が若々しい場合は各乳頭突起間の距離が近かったり、そろっていて乳頭突起が均一に配置したりしており、凹凸が整って並んでいる乳頭構造のパターンだが(
図1a)、加齢や諸々のダメージにより乳頭突起が変形すると、隣接する乳頭突起と繋がって乳頭突起間距離が大きくなったりばらつきが生じたりして、不均一な凹凸パターンを呈する(
図1b)。なお、乳頭構造が全体的に低くなった場合は、乳頭突起の配置は均一なままではあるが、その乳頭突起間の距離が大きくなる(
図1c)。また、肌状態の老化(悪化)が進むと最終的には乳頭突起が消失して、乳頭突起間距離の測定は困難になるが、この場合も他のパラメータ(例えば乳頭突起の高さ)で肌年齢の推定の正確性を担保できる(
図1d)。
【0022】
本発明の他の一態様において、前記皮膚内部構造情報は線維状構造情報である。
皮膚構造の支持体として機能し、また力学的役割を担っている真皮は、その90%以上がコラーゲン線維、数%がエラスチン線維からなる組織である。真皮において、これらの線維タンパク質は、束化した線維会合体として存在し、真皮のほぼ全層に絡み合って網目のような線維状構造を形成している。一般に加齢とともに真皮層は薄くなったり緩んだりするが、これは上記線維タンパク質の減少によるものであると考えられている。また、コラーゲン線維やエラスチン線維は紫外線などの光によってもダメージを受け(光老化)、存在量が減少するほか、断裂したり会合体が崩壊するなど質的にも変化したりする。
これらの線維状タンパク質は、肌の弾力性やシワ形成に大きな影響を与え得ると考えられている。
【0023】
本明細書において線維状構造とは、真皮においてコラーゲン、エラスチン等の線維状タンパク質が束化した線維会合体が形成する網目構造のことをいう。
本明細書において、線維状構造情報とは、線維状構造の状態や配置等を特徴づける鮮明度や方向性、太さなどの線維状構造特徴量で表される。本発明の推定法においては、通常には、上記線維状構造特徴量の一種又は二種以上を指標として用いる。
なお、肌年齢を含む肌状態の把握において、コラーゲン線維だけでなく、エラスチン線維等をも含めた線維状タンパク質に着目して、かつ、その存在の有無や単なる量ではなく、線維状タンパク質の「構造」を推定の指標とするのは例がなく、本願発明者らが初めてである。また、線維状構造特徴量のうち特に鮮明度及び方向性が肌年齢を的確に反映することを見出し、これらを推定の指標に適用したことにも注目されたい。さらに、従来定性的な現象として知られていたに過ぎない線維状タンパク質の加齢による減少を統計的に観察し、実年齢との相関関係を明らかにした点で、本発明には意義がある。
【0024】
本発明において線維状構造特徴量の取得方法は、特に限定されるものではなく、侵襲的又は非侵襲的に線維状構造を実際に観察して線維状構造特徴量を測定してもよいし、あるいは線維状構造特徴量を推定式によって推定された値を本発明に用いてもよい。
線維状構造を実際に観察する方法としては、例えば共焦点レーザー顕微鏡を用いてパラメータを計測する方法が挙げられる。共焦点レーザー顕微鏡は、対象物に対して同じ深さの箇所の像を観察できるため、得られた線維状構造の等高イメージ(水平断面画像)から線維状構造特徴量を算出することができる。また、生体材料に対してもin vivoで非侵襲的に観察を行えるため有用である。共焦点レーザー顕微鏡は、オリンパス社やLucid社等から市販されているものを特に制限なく使用できる。
【0025】
線維状構造特徴量を推定する方法は、例えば皮膚表面情報に基づいて推定する方法が挙げられる。皮膚表面情報としては、例えば皮膚の凹凸や肌色等が挙げられ、これらを特徴づける皮膚凹凸パラメータや肌色パラメータ等を用いて表される推定式により線維状構造特徴量を推定することができる(特開2011−101738号参照)。皮膚凹凸パラメータは、例えば表皮組織定量化法(特開2008−061892号公報参照)を用いて得られる、皮溝面積、皮溝平均太さ、皮溝太さのバラツキ、皮溝の平均間隔、皮溝の平行度、歪度(90〜180°)、皮溝太さ最頻数、及び連結数合計等が挙げられる。また、肌色パラメータは、RGB、マンセル(明度、色相、彩度)、L*a*b、XYZ、L*C*h、及びハンターLab等の表色系が挙げられる。
【0026】
以下に、上記線維状構造特徴量について説明する。
線維状構造の鮮明度とは、真皮の線維状構造を同一条件で撮像した場合の線維状構造が検出されない部分とのコントラストの大きさの程度であり、これを後述する測定方法等で数値化したものを本発明に適用できる。この値の違いは線維状タンパク質の状態、すなわち線維状構造の量や線維束の成熟度等に起因し、前記コントラストの大きさの程度が大きいことは線維状構造が明瞭に存在していることを示す。
図4を参照して説明すると、肌状態が若々しい場合は線維状構造の鮮明度が高く、網目構造が明瞭に認められるパターンだが(
図4a)、加齢や諸々のダメージによりコラーゲン線維が崩壊したりソーラーエラストーシスが生じたりして線維状構造が変化すると、次第に
図4b→c→dと推移して、いずれぼんやりした不明瞭なパターンとなり肌の状態の老化(悪化)を表す(
図4e)。例えば
図4abc、特に
図4abであることが若々しい肌状態であることを示す。
【0027】
鮮明度の測定方法について一例を説明する。
測定対象者の測定部位について一定基準で選定した「特定の深さ平面」を、共焦点レーザー顕微鏡で撮像し、得られた画像について目視でスコア化したものを鮮明度としてもよいし、あるいは得られた画像における画像の濃淡に対して高速フーリエ変換(FFT)解析を行い、任意のサイクルの平均強度を鮮明度とすることができる。また、全測定対象者間で前記平均値を並び替えたときの順位を、鮮明度の相対スコアとして本発明に用いる指標とすることもできる。
これらのスコア値が良いことや、FFT解析値が大きいことは、前述のコントラストの大きさの程度が大きいことを表し、すなわち線維状構造が明瞭に存在していることを示す。例えば、
図4の各画像でFFT解析を行った場合の20〜50サイクルにおける解析強度の平均値は、若々しい肌の状態を表す
図4abcでは3.0、より若々しい状態を表す
図4abではより大きな値の3.1である。
【0028】
線維状構造の方向性とは、線維状構造を形成する線維束の向きがそろっている程度である。
以下、
図5を参照して説明するが、図中の赤矢印は線維束の向きを表す。肌の状態が若々しい場合は線維束が種々の方向に配向しており異方性が高いパターンだが(
図5a)、加齢や諸々のダメージにより線維状構造が変化すると、次第に
図5b→cのように線維束が同じ方向へそろうようになり、いずれ線維束が等方性を示すようになって肌の状態の老化(悪化)を表す(
図5e)。
【0029】
方向性の測定方法について一例を説明する。
例えば、特開2008−061892号公報や国際公開公報2009/142069に記載された十字二値化処理及び短直線マッチング処理を含む画像処理により、方向性のスコアを取得することができる。具体的には、まず、撮像した画像(
図6a)において二値化処理により背景と対象(線維状構造)とを分離し、対象を形として抽出する。これにより、太くて明瞭な線維状構造から微細な線維状構造まで、画面全体からムラなく高精度の二値化画像を得られる(
図6b)。次いで、該二値化画像中の対象物形状の物理量を、短直線マッチング方法で算出する。具体的には、複数画素から構成される単位短直線(幅:1画素、長さ数〜数十画素)を対象形状に当てはめて短直線の始点と終点との連結を繰り返すことで対象領域を短直線で覆うこれにより、種々の方向性を有する線維状構造の短直線マッチング画像が得られる(
図6c)。当てはめた全短直線の本数や角度等を計測し、線維状構造の物理量、例えば平行度を取得し、方向性のスコアを算出する。例えば、角度
毎の短直線の本数をカウントして本数についての角度間の標準偏差は平行度を表すので、これを方向性の指標とすることができる。また、全測定対象者で前記標準偏差を並び替えたときの順位を、方向性の相対スコアとして本発明に用いる指標とすることもできる。線維状構造の方向性が存在しその程度が高い場合は一定の角度に短直線が集中するので標準偏差が小さくなり、平行度が低い場合は種々の方向に短直線が分散するので標準偏差が大きくなる。
線維状構造の方向性が存在しその程度が高い場合の肌は若々しい状態にあり、例えば
図5ab、特に
図5aを若々しい肌状態の例に挙げられる。また、例えば、算出した測定対象者の方向性スコアを、20〜60代女性50名以上の標準パネラーにおいて取得した共焦点画像の線維状構造の方向性スコアの順位付けに照らし合わせたときに、上位30%以上、より好ましくは20%以上に相当する場合、肌状態が若々しいことを表すといえる。
【0030】
線維状構造の太さとは、線維状構造を形成する線維束の太さ(線維方向に対して垂直方向の幅)であり、通常には真皮の線維状構造を同一条件で撮像した場合の撮像範囲における平均値で表すことができる。
肌の状態が若々しい場合の線維束は全体的に細いが、加齢や諸々のダメージにより線維状構造が変化すると、次第に細かさを失い、一方向に太くなり肌の状態の老化(悪化)を表す。
【0031】
線維状構造の太さの測定方法について一例を説明する。
測定対象者の測定部位について一定基準で選定した「特定の深さ平面」を、共焦点レーザー顕微鏡で撮像し、撮像範囲内の任意数サンプリングし、それらの線維方向に対して垂直方向の幅の平均値を線維束の太さとすることができる。また、全測定対象者で前記平均値を並び替えたときの順位を、太さの相対スコアとして本発明に用いる指標とすることもできる。これら平均値が小さいことやスコア値が良いことは、肌が若々しい状態であることを示す。
【0032】
本発明の推定法では、測定又は推定により得た乳頭構造パラメータ及び/又は線維状構造特徴量を多変量解析によって得られた推定式に当てはめることにより、肌年齢を導くことによって解析を行うことが好ましい。乳頭構造パラメータ及び/又は線維状構造特徴量の測定は、共焦点レーザー顕微鏡を用いて行えば、従来の顕微鏡観察よりも効率的に測定が行えるため、推定式を作成するためのパネラー数を多くすることができ、好ましい。前記推定式は、多変量解析のソフトウェアを利用して、実測又は推定した乳頭構造パラメータ及び/又は線維状構造特徴量と被験者の実年齢との相関分析及び回帰分析を行って作成できる。そのようなソフトウェアとして、装置に付属したソフトウェア、SPSS社やSAS社等の市販されているソフトウェアあるいはフリーソフトなどを用いることができ、特に制限されない。
また、推定式を作成するに際して測定標準となるパネラーは、特に限定されないが、好ましくは30名以上、より好ましくは50名以上、さらに好ましくは100名以上であることが、解析の正確性を確保するため好ましい。また、年齢は20〜70代というように広範囲に偏りなく分布させることが好ましい。また、性別や人種もそろえて、例えば黄色人種の女性とすることが好ましい。
【0033】
前述のように、線維状構造の鮮明度が高い場合、異方性が高い場合、又は線維束が細い場合は、肌年齢は低く判定される。また、線維状構造の鮮明度が低い場合、異方性が低い場合、又は線維束が太い場合は肌年齢は高く判定される。
線維状構造特徴量を指標とする場合、とりわけ鮮明度を指標に含めることが好ましく、さらには40歳代以降の測定対象者においては鮮明度及び方向性を指標に含めることが好ましい。これは、鮮明度はすべての年齢層で顕著に肌状態を反映し、それに加えて高齢層になると方向性が肌状態を顕著に反映する、という本発明者らが見出した知見に基づくも
のである。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0035】
<実施例1>乳頭個数に基づく肌年齢の推定
(1)乳頭突起の個数の測定
20〜60代の90名の日本人女性被験者の頬部について、2mm×2mmの観察範囲における乳頭突起の個数を測定した。測定は共焦点レーザー生体顕微鏡(VivaScope 1500Plus;米国Lucid社製)を用いて行い、頬部にプローブを置き、3μm深さ毎に180μmの深さまで、合計60平面の2mm×2mmの範囲を計測した。撮像した中で最も見やすく乳頭突起断面(輝度の高い基底細胞に囲まれた円形断面)が観察される平面画像において乳頭突起の個数をカウントした。典型的な撮像を
図3に示す(ただし、
図3は前記計測領域から1mm×1mmの範囲を切り出したものである)。
【0036】
(2)解析
上記測定した乳頭突起の個数と被験者の実年齢とを用いて、JMP ver.6.0(SAS)を使用して、相関分析及び回帰分析を行った(
図7)。その結果、乳頭突起の個数と実年齢との間に有意な相関関係の存在が認められ、乳頭突起の個数を指標として肌年齢を推定できることがわかる。
また、乳頭突起の個数は、若年層(20〜30歳代)では分布の幅が広く、高齢層(50〜60歳代)に向けて分布の幅が収束する傾向にあった。これより、単に年齢が増えるにつれて乳頭構造の凹凸が消失方向へ画一的に向かうわけではないことがわかった。
【0037】
<実施例2>線維状構造の鮮明度に基づく肌年齢の推定
(1)線維状構造の鮮明度の測定
20〜60代の90名の日本人女性被験者の頬部について、1mm×1mmの観察範囲における鮮明度を測定した。測定は共焦点レーザー生体顕微鏡(VivaScope 1500Plus;米国Lucid社製)を用いて、頬部にプローブを置き、3μm深さステップで180μm深さまでの計測を行い全対象者に対して「前後の深さと比較し、線維状構造が最も鮮明に観察される深さ平面」という基準で「特定の深さ平面」を選定して計測した。取得した画像に対して、高速フーリエ変換解析を1〜512サイクル行い、20〜50サイクルの積算値で並び替えて順位付けした値を鮮明度の相対スコアとした。
【0038】
(2)解析
上記測定した線維状構造の鮮明度(相対スコア)と被験者の実年齢とを用いて、JMP
ver.6.0(SAS)を使用して、相関分析及び回帰分析を行った(
図8)。これより、線維状構造の鮮明度と実年齢との間に有意な相関関係の存在が認められ、線維状構造の鮮明度を指標として肌年齢を推定できることがわかる。
【0039】
<実施例3>線維状構造の方向性に基づく肌年齢の推定
(1)線維状構造の鮮明度の測定
20〜60代の90名の日本人女性被験者の頬部について、1mm×1mmの観察範囲における方向性を測定した。測定は共焦点レーザー生体顕微鏡(VivaScope 1500Plus;米国Lucid社製)を用いて、頬部にプローブを置き、3μm深さステップで180μm深さまでの計測を行い全対象者に対して「前後の深さと比較し、線維状構造が最も鮮明に観察される深さ平面」という基準で「特定の深さ平面」を選定して計測した。取得した画像に対して、十字二値化処理及び短直線マッチング処理を含む画像処理を行い、方向性のスコアとした。
【0040】
(2)解析
上記測定した線維状構造の鮮明度(相対スコア)と被験者の実年齢とを用いて、JMP
ver.6.0(SAS)を使用して、相関分析及び回帰分析を行った(
図9)。これより、線維状構造の方向性と実年齢との間に有意な相関関係の存在が認められ、線維状構造の方向性を指標として肌年齢を推定できることがわかる。