【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、セラミックグリーンシートの製造に用いられるセラミックグリーンシート形成用バインダーであって、ポリビニルアセタール樹脂からなる微粒子が、水を含有する水性媒体中に分散されて
おり、前記ポリビニルアセタール樹脂からなる微粒子は、体積平均粒子径が300nm以下であり、前記ポリビニルアセタール樹脂は、重合度が800〜5000であるセラミックグリーンシート形成用水性分散液である。
以下、本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、ポリビニルアセタール樹脂からなる微粒子が水を含有する水性媒体中に分散された水性分散液を、セラミックグリーンシートの原料として使用した場合に、セラミックグリーンシートの製造工程において防爆設備を必要とせず、乾燥時や排気時の環境汚染を抑制し、作業者の安全衛生を確保しながら、充分な機械的強度、及び、柔軟性を有するセラミックグリーンシートを作製することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明のセラミックグリーンシート形成用水性分散液は、ポリビニルアセタール樹脂からなる微粒子(以下、ポリビニルアセタール微粒子ともいう)を含有する。上記ポリビニルアセタール樹脂からなる微粒子とすることで、セラミックグリーンシート用のバインダーとして使用した場合に、高いシート強度を有するグリーンシートを得ることができる。また、セラミックグリーンシート中では、ポリビニルブチラール樹脂が均質に存在することができるため、柔軟性や熱分解性といった性能も充分に発揮することができる。
更に、従来のバインダー樹脂が溶媒に溶解している状態とは異なり、微粒子が分散した状態であることで、スラリーとした際の粘度上昇が小さいために過剰の媒体を用いることが必要なく、調製作業性が良好であり、且つ、塗工性に優れたセラミックグリーンシート用スラリーが得られるという利点がある。
加えて、本発明のセラミックグリーンシート形成用水性分散液は、水を含有する分散媒に対する分散安定性に優れるとともに、仮に沈殿が生じた場合でも、容易に再分散できるという利点がある。
【0010】
上記ポリビニルアセタール樹脂としては、重合度200〜5000、ケン化度が80モル%以上のポリビニルアルコールをアセタール化することで得られるものが好ましい。上記重合度およびケン化度のポリビニルアセタール樹脂は、水性分散液の調製、得られるセラミックグリーンシート形成用スラリーの塗工性、乾燥時の製膜性に優れ、製造されるセラミックグリーンシートの強度や柔軟性も優れたものとなる。
【0011】
上記重合度が200未満であると、セラミックグリーンシートとした際に機械的強度が低くなり、重合度が5000を超えると、アセタール化反応の際に溶液粘度が異常に高くなってアセタール化反応が困難になる。重合度は800〜4500であることがより好ましい。
また、上記ケン化度が80モル%より小さいと、水への溶解性が悪くなるためアセタール化反応が困難になり、また、水酸基量が少ないためアセタール化反応自体が困難となる。特に、ケン化度85モル%以上とすることがより好ましい。
【0012】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、単独アルデヒド、混合アルデヒドのいずれを用いる場合でも、全アセタール化度で40〜80モル%の範囲が好ましい。全アセタール化度が40モル%未満では得られるポリアセタール樹脂が水溶性となり、水性分散液を形成することができない。全アセタール化度が80モル%を超えると、疎水性が強くなりすぎて安定した分散液を得ることが困難となる。より好ましくは55〜75モル%である。
【0013】
上記アセタール化の方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、塩酸等の酸触媒の存在下で上記ポリビニルアルコールの水溶液に各種アルデヒドを添加する方法等が挙げられる。
【0014】
上記アセタール化に用いるアルデヒドとしては特に限定されず、例えばホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。なかでも、アセトアルデヒド又はブチルアルデヒドが、生産性と特性バランス等の点で好適である。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、イオン性官能基を有することが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂がイオン性官能基を有することによって微粒子の分散安定性が高まり、得られるセラミックグリーンシート形成用スラリーが、塗工性、乾燥時の製膜性に優れるものとなる。その結果、作製されるセラミックグリーンシートが、優れた強度や柔軟性を有するものとなる。
【0016】
上記イオン性官能基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、及び、それらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の官能基が好ましい。なかでも、カルボキシル基、スルホン酸基、それらの塩がより好ましく、スルホン酸基、その塩であることが特に好ましい。
【0017】
上記ポリビニルアセタール樹脂中のイオン性官能基の含有量は0.001〜1mmol/gであることが好ましい。上記イオン性官能基の含有量が0.001mmol/g未満であると、微粒子の分散性が低下し、塗工性や乾燥時の製膜性が低くなることで、形成されたセラミックグリーンシートの強度や柔軟性が低くなることがある。1mmol/gを超えると、セラミックグリーンシートとした際に強度が低下したり、熱分解性が低下し脱脂性が低下したりすることがある。より好ましくは0.005〜0.5mmol/gである。
【0018】
上記イオン性官能基の存在形態については、ポリビニルアセタール樹脂構造中に直接存在していてもよく、グラフト鎖を含むポリビニルアセタール樹脂(以下、単にグラフト共重合体ともいう)のグラフト鎖に存在していてもよい。
なかでも、上記イオン性官能基がポリビニルアセタール樹脂構造中に直接存在する場合は、水性分散液中のポリビニルアセタール樹脂微粒子のサイズを小さくすることができることからセラミックグリーンシートとした際に高い機械的性質を発現させることができる。
更に、上記イオン性官能基がポリビニルアセタール樹脂構造中に直接存在している場合は、イオン性官能基は特定の構造を介してポリマー主鎖骨格に結合していることで、分散安定性を改善できるほか、得られるセラミックスラリーの塗工性、乾燥時の製膜性に優れ、セラミックグリーンシートの強度や柔軟性を優れたものとすることができる。上記特定の構造としては、炭化水素からなる基が好ましく、特に、炭素数1以上のアルキレン基、炭素数5以上の環状アルキレン基、炭素数6以上のアリール基等が好ましい。
【0019】
上記ポリビニルアセタール樹脂が、ポリマーの主鎖を構成する炭素にイオン性官能基が結合した鎖状分子構造である場合、下記一般式(1)に示す構造単位を有することが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂が下記一般式(1)に示す構造単位を有することで、ポリビニルアセタール微粒子を、水を含有する水性分散媒中に添加した場合に優れた分散安定性を発揮させることができる。また、高い機械的強度と柔軟性を有するセラミックグリーンシートを製造することができる。
【0020】
【化1】
【0021】
式(1)中、Cはポリマー主鎖の炭素原子を表し、R
1は水素原子又はメチル基を表し、R
2は炭素数1以上のアルキレン基を表し、R
3はイオン性官能基を表す。
【0022】
イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂が、上記一般式(1)に示す構造単位を有することで、ポリビニルアセタール微粒子は、水を含有する水性分散媒中において非常に優れた分散安定性を発揮することができるとともに、仮に沈殿が生じた場合でも、容易に再分散することが可能となる。
これは、上記ポリビニルアセタール樹脂に含まれるイオン性官能基が、上記一般式(1)中のR
2を介してポリマー主鎖に結合しているために、該イオン性官能基の運動性が高まり、水を含有する分散媒に分散させた場合に、微粒子表面に存在するイオン性官能基が分散媒の方向に向くように再配置する。これにより、ポリビニルアセタール微粒子と水性媒体との親和性が向上するためであると考えられる。
また、上記イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂が、上記一般式(1)で表される構造単位を有することによって、得られるセラミックグリーンシートは、高い機械的強度、及び、柔軟性を有するものとなる。これは、分散媒が乾燥した後に、イオン性官能基が微粒子表面から微粒子内部へと移動することで、微粒子同士の接合及びセラミックとの接合が強固に行われるためであると考えられる。
【0023】
上記R
1としては特に水素原子が好ましい。
上記R
2としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基等が挙げられる。なかでも、上記R
2はメチレン基であることが好ましい。
上記R
2は、ヘテロ原子を有する置換基によって置換された構造であってもよい。上記置換基としては、エステル基、エーテル基、スルフィド基、アミド基、アミン基、スルホキシド基、ケトン基、水酸基等が挙げられる。
【0024】
上記ポリビニルアセタール樹脂構造中にイオン性官能基が直接存在するポリビニルアセタール樹脂を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記イオン性官能基を有する変性ポリビニルアルコール原料にアルデヒドを反応させアセタール化する方法、ポリビニルアセタール樹脂を作製した後、該ポリビニルアセタール樹脂の官能基に対して反応性を有する別の官能基を持った化合物と反応させる方法等が挙げられる。
【0025】
上記イオン性官能基を有する変性ポリビニルアルコールを作製する方法としては、例えば、酢酸ビニル等のビニルエステルモノマーと、下記一般式(2)に示す構造を有するモノマーとを共重合化させた後、得られた共重合樹脂のエステル部位をアルカリ又は酸によりケン化する方法が挙げられる。
【0026】
【化2】
【0027】
式(2)中、R
4は水素原子又はメチル基を表し、R
5は炭素数1以上のアルキレン基を表し、R
6はイオン性官能基を表す。
【0028】
上記一般式(2)に示す構造を有するモノマーとしては特に限定されず、例えば、3−ブテン酸、4−ペンテン酸、5−ヘキセン酸、9−デセン酸等のカルボキシル基と重合性官能基を有するもの、アリルスルホン酸、2−メチル−2−プロペン−1−スルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−(メタクリロイルオキシ)プロパンスルホン酸等のスルホン酸基と重合性官能基を有するもの、N,N−ジエチルアリルアミン等のアミノ基と重合性官能基を有するもの、およびこれらの塩等が挙げられる。
なかでも、アリルスルホン酸及びその塩を用いた場合、水性分散媒中における優れた分散安定性と、セラミックグリーンシートの高い機械的強度、及び、柔軟性を実現することができるため好適である。特に、アリルスルホン酸ナトリウムを用いることが好ましい。
これらのモノマーは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
上記R
4としては特に水素原子が好ましい。
上記R
5としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基等が挙げられる。なかでも、上記R
5はメチレン基であることが好ましい。
上記R
5は、ヘテロ原子を有する置換基によって置換された構造であってもよい。上記置換基としては、エステル基、エーテル基、スルフィド基、アミド基、アミン基、スルホキシド基、ケトン基、水酸基等が挙げられる。
【0030】
上記ポリビニルアセタール樹脂中の上記一般式(1)に示す構造単位の含有量は、上記ポリビニルアセタール樹脂中のイオン性官能基の含有量が上記適性範囲となるように調整することが好ましい。
ポリビニルアセタール樹脂中のイオン性官能基の含有量を上記範囲内とすることで、水性分散液中でのポリビニルアセタール微粒子の分散安定性が向上するとともに、得られるセラミックグリーンシートの強度、及び、柔軟性を両立させることができる。
【0031】
上記イオン性官能基がグラフト鎖に存在するグラフト共重合体を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記イオン性官能基を含む重合性単量体を、ポリビニルアセタールが存在する環境下において水素引き抜き性重合開始剤の存在下にてラジカル重合させる方法等が挙げられる。
上記重合方法は特に限定されず、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の従来公知の重合方法が挙げられる。
上記溶液重合に用いる溶媒は特に限定されず、例えば、酢酸エチル、トルエン、ジメチルスルホキシド、エタノール、アセトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、及び、これらの混合溶媒等が挙げられる。
【0032】
上記水素引き抜き性開始剤としては特に限定されないが、t−ブチルパーオキシ系の過酸化物が好ましく、例えば、ジ−t−ブチルパーオキシ、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーヘキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5ー−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルノモカルボネート、t−ブチルパーオキシネオペンタノエート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカルボネート、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート等を用いることができる。
【0033】
上記グラフト共重合体のグラフト鎖は、(メタ)アクリル系モノマーの重合体からなることが好ましい。これにより、上記イオン性官能基を効率よくポリビニルアセタール樹脂に導入することができる。そのため、ポリビニルアセタール微粒子は高い分散安定性を発揮することができる。また、得られるセラミックスラリーは、塗工性、乾燥時の製膜性に優れものとなり、セラミックグリーンシートの強度や柔軟性を優れたものとすることができる。
具体的には、イオン性官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーを用いてグラフト鎖を形成することが好ましい。
【0034】
上記イオン性官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、フェニル(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホン酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、2−ソジウムスルホエチル(メタ)アクリレート、2−ポタシウムスルホエチル(メタ)アクリレート、3−ソジウムスルホプロピル(メタ)アクリレート、3−ポタシウムスルホプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0035】
上記イオン性官能基を含む重合性単量体がグラフトしたポリビニルアセタール樹脂中のグラフト率(グラフト共重合体中のポリビニルアセタールからなるユニットに対するイオン性官能基を含む重合性単量体からなるユニットの比率)は、上記ポリビニルアセタール樹脂中のイオン性官能基の含有量が上記適性範囲となれば特に限定されないが、0.001〜100重量%が好ましい。上記範囲内とすることで、得られるセラミックグリーンシートの強度、及び、柔軟性を両立することができる。
なお、本発明において、「グラフト率」とは、グラフト共重合体中のポリビニルアセタールからなるユニットに対するイオン性官能基を含む重合性単量体からなるユニットの比率を表し、例えば、以下の方法により評価することができる。得られた樹脂溶液を110℃で1時間乾燥させた後、メタノールに溶解させ、該メタノール溶液を水に滴下添加した後に、遠心分離操作によって不溶分と可溶分とに分離する。この際得られた不溶分をグラフト共重合体とする。得られたグラフト共重合体について、NMRによりポリビニルアセタールからなるユニットとイオン性官能基を含む重合性単量体からなるユニットの重量を換算し、下記式(3)を用いて算出することができる。
【0036】
【数1】
【0037】
また、上記のイオン性官能基をグラフト鎖に存在させるポリビニルアセタール樹脂とする場合には、上記イオン性官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーに加えて、他の(メタ)アクリル系モノマーを同時に用いてもよい。
上記他の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステル、単官能(メタ)アクリル酸環状アルキルエステル、単官能(メタ)アクリル酸アリールエステル等を用いることができる。
【0038】
上記単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソテトラデシル(メタ)アクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリレート等が挙げられる。
上記単官能(メタ)アクリル酸環状アルキルエステルとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記単官能(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、上記(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸を総称するものであり、上記(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートを総称するものとする。
【0039】
上記グラフト共重合体中の他の(メタ)アクリル系モノマーのグラフト率(グラフト共重合体中のポリビニルアセタールからなるユニットに対する他の(メタ)アクリル系ポリマーからなるユニットの比率)は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、100重量%以下であることが好ましい。上記範囲内とすることで、得られるセラミックグリーンシートの強度、及び、柔軟性を両立することができる。
なお、本発明において、「他の(メタ)アクリル系モノマーのグラフト率」とは、グラフト共重合体中のポリビニルアセタールからなるユニットに対する他の(メタ)アクリル系ポリマーからなるユニットの比率を表し、例えば、以下の方法により評価することができる。得られた樹脂溶液を110℃で1時間乾燥させた後、キシレンに溶解させ、不溶分と可溶分とに分離し、不溶分をグラフト共重合体とする。得られたグラフト共重合体について、NMRによりポリビニルアセタールからなるユニットと他の(メタ)アクリル系ポリマーからなるユニットの重量を換算し、下記式(4)を用いて算出することができる。
【0040】
【数2】
【0041】
上記イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂の分子量としては特に制限は無いが、数平均分子量(Mn)が10,000〜400,000で、重量平均分子量(Mw)が20,000〜800,000で、これらの比(Mw/Mn)が2.0〜40であることが好ましい。Mn、Mw、Mw/Mnがこのような範囲であると、得られるセラミックグリーンシートの強度、及び、柔軟性を両立することができる。
【0042】
上記ポリビニルアセタール微粒子は、体積平均粒子径の好ましい上限が300nmである。上記ポリビニルアセタール微粒子の体積平均粒子径が小さいほど、乾燥時の微粒子の接合が強固に行われることから、同じ重量のポリビニルアセタール微粒子を含有してなるセラミックグリーンシートの引張り強度、伸びは高くなるが、ポリビニルアセタール微粒子の平均粒径が300nm以下である場合、同じ含有量あたりの引張り強度並びに伸びの改善効果が飛躍的に高くなる。より好ましくは200nm以下であり、更に好ましくは100nm以下である。
なお、上記ポリビニルアセタール微粒子の体積平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0043】
上記ポリビニルアセタール微粒子の体積平均粒子径は、CV値の好ましい上限が40%である。CV値が40%を超えると、大きな粒子径を持った微粒子が存在することとなり、該大粒径粒子が沈降することによって安定な分散液を得ることができなくなることがある。
上記CV値のより好ましい上限は35%、更に好ましい上限は32%、特に好ましい上限は30%である。なお、CV値は、標準偏差を平均粒子径で割った値の百分率(%)で示される数値である。
【0044】
上記ポリビニルアセタール微粒子を製造する方法としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアセタール樹脂を公知の方法で得た後、上記ポリビニルアセタール樹脂を粒子化することで製造することができる。
【0045】
特に、イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂を得る方法としては、例えば、上記イオン性官能基を有する変性ポリビニルアルコール原料にアルデヒドを反応させアセタール化する方法、ポリビニルアセタール樹脂を作製した後、該ポリビニルアセタール樹脂の官能基に対して反応性を有する別の官能基を持った化合物と反応させる方法、水素引き抜き性開始剤を用いてポリビニルアセタール樹脂に上記イオン性官能基を含む重合性単量体をグラフトさせる方法等が挙げられる。
なかでも、ポリビニルアセタール樹脂本来の優れた機械的性質を低下させることが無く、被膜とした際に高い機械的性質を発現させることができ、また、導入した官能基の変質等が発生しないためにグラフトさせる方法が特に好ましい。
また、イオン性官能基がポリビニルアセタール樹脂構造中に直接存在している場合には、イオン性官能基を上記特定の構造を介してポリマー主鎖骨格に結合させることで、優れた分散安定性と、セラミックグリーンシートの高い機械的強度及び柔軟性を実現することができる。
【0046】
本発明のセラミックグリーンシート形成用水性分散液を製造方法としては、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂を有機溶剤に溶解させた後、析出させることによって製造することが好ましい。このような方法を用いることで、ポリビニルアセタール樹脂の微粒子化と、水を含有する水性媒体中への分散を同時に達成することができるため、効率的にセラミックグリーンシート形成用水性分散液を製造することができる。
具体的には、上記ポリビニルアセタール樹脂を有機溶剤に溶解した後、水を少量ずつ添加し、必要に応じて加熱及び/又は減圧して有機溶剤を除去し、ポリビニルアセタール微粒子が水を含有する水性媒体中に分散したセラミックグリーンシート形成用水性分散液を調製する方法や、大量の水に上記ポリビニルアセタール樹脂が溶解した溶液を添加した後に必要に応じて加熱及び/又は減圧して有機溶剤を除去し、ポリビニルアセタール微粒子が水を含有する水性媒体中に分散したセラミックグリーンシート形成用水性分散液を調製する方法等が挙げられる。
なかでも、ポリビニルアセタール微粒子の体積平均粒子径を制御しやすく、高固形分の水性分散液を容易に作成できることから、上記ポリビニルアセタール樹脂を有機溶剤に溶解した後、水を少量ずつ添加し、加熱及び/又は減圧して有機溶剤を除去する方法が好適である。
【0047】
上記有機溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。なかでも、有機溶剤を除去しやすいことからテトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好適である。
【0048】
本発明のセラミックグリーンシート形成用水性分散液は、分散媒として、水を含有する水性媒体を用いる。上記水性媒体は水単独であることが好ましいが、本発明の利点を損なわない範囲において、水以外の媒体を含んでいても良い。上記水以外の媒体としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールを用いることが好ましい。上記水性媒体が上記水以外の媒体を含むことで、スラリーとした際の粘度上昇を抑えることができることから、調製作業性が良好であり、且つ、塗工性に優れたセラミックグリーンシート用スラリーが得られるという利点がある。
なお、上記水以外の媒体を含む場合は、水性分散液の引火点が40℃以上となるように添加量の調整を行う。引火点を40℃以上とすることで、セラミックグリーンシートを製造する工程において防爆設備を必要とせず、乾燥時や排気時の環境汚染を抑制し、なおかつ作業者の安全衛生を確保することができる。
【0049】
本発明のセラミックグリーンシート形成用水性分散液には、必要に応じて添加剤を添加しても良い。このような添加剤としては、可塑剤、消泡剤、防腐剤等が挙げられる。特に、可塑剤を添加することで、形成したセラミックグリーンシートの機械的強度、及び、柔軟性を大幅に向上させることができる。
【0050】
上記可塑剤としては特に限定されないが、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)等のフタル酸ジエステル、ジオクチルアジペート等のアジピン酸ジエステル、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、テトラエチレングリコール−ジ−ヘプタノエート、トリエチレングリコール−ジ−ヘプタノエート等のアルキレングリコールジエステル等が挙げられる。なかでも、揮発性が低く、シートの柔軟性を保ちやすいことから、DOP、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルヘキサノエートが好適である。
【0051】
上記添加剤をセラミックグリーンシート形成用水性分散液に添加する場合は、添加剤がセラミックグリーンシート形成用水性分散液の水性媒体中に溶解した状態でもよく、ポリビニルアセタール微粒子に含侵した状態であってもよい。なかでも、可塑剤を用いて、該可塑剤がポリビニルアセタール微粒子に含侵した状態であった場合、PET等の疎水性を有するフィルム基材上に塗布した際の溶液の弾きが低減され、均一なフィルムが得られることから、セラミックグリーンシート用のバインダーとして使用した場合に、高いシート強度を有するセラミックグリーンシートを得ることができる。
【0052】
本発明のセラミックグリーンシート形成用水性分散液に、セラミック微粒子を添加することで、セラミックグリーンシート形成用スラリーが得られる。このようなセラミックグリーンシート形成用スラリーもまた本発明の1つである。
【0053】
本発明のセラミックグリーンシート形成用スラリーを用いることで、セラミックグリーンシートを作製することができる。
上記セラミックグリーンシートを作製する方法としては、特に限定されず、公知の成形方法によって成形される。例えば、本発明のセラミックグリーンシート形成用水性分散液に、必要に応じて分散剤、消泡剤等の添加物を配合し、セラミック微粒子と共にボールミル等の混合装置で均一に混合してセラミックグリーンシート形成用スラリーを調製し、該セラミックグリーンシート形成用スラリーをPETフィルム等の支持体上にドクターブレード法等の公知の方法により湿式塗布し、揮発成分を乾燥除去する方法が挙げられる。その他に、上記セラミックグリーンシート形成用スラリーをスプレードライヤー法等により顆粒状に造粒した後、該顆粒を乾式プレス法により成形する方法等も挙げられる。
【0054】
このようにして得られたセラミックグリーンシートは、必要に応じて打ち抜き加工等の各種加工が施され、各種セラミック製品の製造に用いられる。例えば、積層セラミックコンデンサを製造する場合には、支持体には離型処理を施したPETフィルムが用いられ、セラミックグリーンシート上に内部電極となる導電ペーストをスクリーン印刷等によって塗布した後に支持体であるPETフィルムから剥離し、これを所定のサイズに打ち抜き、複数枚積層して加熱プレスすることで積層体を作製し、次いで、過熱焼成することによってバインダー樹脂を熱分解して除去することで製造される。