(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態の連続式過熱水蒸気熱処理装置(以下、熱処理装置とも言う。)は、
図1に示すようにフィルム150の搬送部130と、搬送部130により搬送されるフィルムが通過する熱処理炉110とを備えている。
【0021】
フィルムの搬送部130は、フィルム150の送り出し部131と巻き取り部132とを有している。フィルム送り出し部131は、送り出しロール135とガイドロール136とを有し、フィルム巻き取り部132は、巻き取りロール137とガイドロール138とを有している。送り出しロール135と巻き取りロール137との間にフィルム150が掛け渡されており、フィルム150は、送り出し部131と巻き取り部132との間に設けられた熱処理炉110の中を所定の速度で移動する。
【0022】
熱処理炉110は、フィルム150の導入通路115及び導出通路116を有する筐体111と、筐体111内に設けられた過熱水蒸気の導入ノズル113とを有している。導入ノズル113は、過熱水蒸気生成部(図示せず)と接続されている。導入ノズル113から筐体111内に過熱水蒸気を導入することにより、筐体111内を過熱水蒸気で充満させることができる。導入ノズル113から導入された過剰の過熱水蒸気は導入通路115及び導出通路116並びに排気口117から筐体外へ排気される。これにより、筐体111内を所定の温度とし、熱処理炉110内を通過するフィルム150を過熱水蒸気により熱処理することができる。なお、導入通路115及び導出通路116から排出される排気量は、導入ノズル113から導入される過熱水蒸気の供給量と、排気口117の面積とにより決まる。このため、排気量を調整できるように排気口117にスリット等を設けてもよい。また、過熱水蒸気の導入量と排気量とのバランスによっては排気口117を設けなくてもよい。
【0023】
連続式過熱水蒸気熱処理装置の場合、処理対象物が熱処理炉内を通過するようにする必要がある。このため、熱処理炉は密閉構造ではなく、少なくとも導入通路と導出通路とにおいて開放された構造となる。このため、導入通路及び導出通路から外気が流入するおそれがある。熱処理炉内に酸素を含む外気が流入すると、銅ペーストを熱処理する際に銅微粉末が酸化され導電性を示さなくなる。また、導入通路入り口付近でフィルムに随伴する空気と過熱水蒸気が混合されると、銅微粉末が酸化され、熱処理炉内で熱処理されても、導電性を示さなくなる。導入通路及び導出通路から、熱処理炉内への外気の流入を防ぐ方法として、熱処理炉内をわずかに陽圧にすることが考えられる。しかし、本願発明者らは、単純に熱処理炉内を陽圧として導入通路及び導出通路から熱処理炉の外へ向かう気流を発生させても、熱処理炉内への外気の流入や、導入通路付近での銅微粉の酸化を防ぐことができないということを見出した。
【0024】
図2は、急絞り流路における気流を模式的に示している。流路の高さが変化する変曲点において、気流の剥離が生じるが流路の高さの3倍程度の位置以内において再付着が生じる。流路に剥離流の渦ができることにより、排気抵抗が高まり内圧をより高め、外気の流れによる吹込みを防ぐことができる。また、再付着が生じている流路においては、外気の巻き込みによる流入がほとんど生じないが、再付着が生じていない流路においては、外気が巻き込まれ流路内に流入してしまい、導入通路付近にフィルムに随伴する空気と過熱水蒸気が混合される領域が生じる。このため、熱処理炉内への外気の流入を防ぎ、かつ空気と水蒸気が混合される領域を生じさせないためには、導入通路及び導出通路の少なくとも一部で、剥離渦が生じ、かつ、気流の再付着が生じており、外気の巻き込みによる流入が生じない流線分布となるようにすればよい。具体的には、導入通路及び導出通路において、通路の奥行きLを通路の高さHの3倍以上、好ましくは4倍以上、より好ましくは5倍以上とすればよい。
【0025】
図3は、導入通路115を拡大して示している。導出通路116も導入通路115と同じ構成である。
図3に示すように、導入通路115は、第1の通路121と、第1の通路121よりも外側に設けられた第2の通路122とを有している。第1の通路121は、筐体111の側壁に設けられた高さがH1で、奥行きがL1のスリット状の開口部である。第2の通路122は、筐体111の外壁に第1の通路121と位置を合わせて取り付けられたブロック状の部材118により形成された、高さがH2で奥行きがL2のスリット状の開口部である。第2の通路122は、その高さH2が第1の通路121の高さH1よりも小さい。なお、スリット状の開口部の横幅は、フィルム150が通過できる幅である。
【0026】
導入通路115は、外側の第2の通路122を急絞り流路とし、さらに、第1の通路121も急絞り流路とすればよい。このようにすれば、それぞれの流路の絞り部に起因する剥離渦が生じても、剥離渦が通路内で付着する。このため、排気抵抗の高まりにより内圧が高くなり、外部から第2の通路122、及び第2の通路122から第1の通路121への空気の流入を防ぐことができる。その結果、第1の通路121から熱処理炉110内への外気の流入を低減することができる。具体的には、第1の通路121において奥行きL1の高さH1に対する比L1/H1を3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上とすればよい。これにより、第1の通路121は剥離渦の再付着が生じた流線分布となり、第1の通路121から熱処理炉110内への外気の流入を防ぐことができる。L1/H1はできるだけ大きくすることが好ましいが、フィルム150を通過しやすくする観点からは20以下とすることが好ましく、10以下とすることがより好ましい。第2の通路122の高さH2は、L2/H2>3且つH2<H1の条件を満たせば、第1の通路121と同様に剥離の再付着が生じた流線分布となる。従って、第2の通路122内への外気の流入を防ぐことができる。また導入通路115を急絞り流路とすることにより過熱水蒸気の流速が増加するため、フィルムに付着した空気の流入を防ぐ効果も得られる。また導出通路116も導入通路115と同じ構成とすれば、導出通路116から、熱処理炉110内への外気の流入を防ぐことができる。
【0027】
通路内に気流を発生させるために、導入通路115及び導出通路116からの排気量は重要である。外気の熱処理炉110内への流入を防ぐという観点からは、導入通路115及び導出通路116からの排気量は多いほどよい。具体的には、導入通路115及び導出通路116からの単位開口部面積当たりの排気量(以下、単位流量という。)は、0.45kg/h・cm
2以上とすればよく、0.5kg/h・cm
2以上とすることが好ましく、0.6kg/h・cm
2以上とすることがさらに好ましく、1kg/h・cm
2以上とすることが特に好ましい。但し、経済性の観点からは、排気の単位流量を5kg/h・cm
2以下とすることが好ましい。また、導入通路115及び導出通路116からの排気の流速を4m/s以上とすることが好ましく、5m/s以上とすることがより好ましく、6m/s以上とすることがさらに好ましく、8m/s以上とすることが特に好ましい。排気の流速は40m/s以下とすることが好ましい。排気の単位流量及び流速は、実施例において述べる方法により算出することができる。
【0028】
筐体111の板厚を厚くすれば、断熱効果も向上するため、熱効率の観点からも好ましい。筐体111の断熱性を向上させるために、筐体111の外側に断熱材を配置してもよいし、筐体111を断熱材で挟み込んだサンドイッチパネルにより形成してもよい。
【0029】
なお、導入通路115及び導出通路116が、それぞれ高さが異なる2つの通路により構成されている例を示したが、高さが異なる3つ以上の通路により構成されていてもよい。この場合、外側の通路ほど高さが小さくなるような急絞り流路にすればよい。
【0030】
さらに、第1の通路121の高さH1と第2の通路122の高さH2とを等しくし、1つの通路としてもよい。この場合には、第1の通路121及び第2の通路122を合わせたものが筐体111から急絞り流路となり、剥離渦の再付着が生じた流線分布となり、外部からの空気の流入を防ぐことになればよい。具体的には、(L1+L2)/H2を3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、また好ましくは20以下、より好ましくは10以下とすればよい。
【0031】
また、
図4に示すように筐体111の厚さが十分に厚い場合には、部材118を設けなくてもよい。この場合には、筐体111の側壁に設けたスリット状の通路の奥行きL0の高さH0に対する比L0/H0を3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上として、急絞り流路とすればよい。この場合においても、L0/H0の値は20以下とすることが好ましく、10以下とすることがより好ましい。
【0032】
なお、第1の通路121及び第2の通路122の高さが一定である例を示したが、第1の通路121及び第2の通路122が
図5に示すように通路の高さが変化していてもよい。通路の高さが変化する場合は、最も大きな値に基づいて奥行きの高さに対する比L/Hが3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上とし、好ましくは20以下、より好ましくは10以下とすればよい。
【0033】
なお、導入通路115と導出通路116とが同じ構成である例を説明したが、導入通路115と導出通路116とが共に急絞り流路となっていれば、その高さ及び長さは異なっていてもよい。
【0034】
本実施形態の熱処理装置においては、フィルム150の導入通路115及び導出通路116から過熱水蒸気が装置外へ排出される。排出された過熱水蒸気は最終的に水になるため、フィルムに水滴が付着した場合には導電性を低下させる恐れがある。従って、雰囲気湿度の上昇によるフィルムへの水滴付着を防止するためと、雰囲気温度の上昇を防ぐため、熱処理装置が設置された雰囲気を強制的に排気することが好ましい。雰囲気の強制的な排気を行うと、熱処理装置の周囲に気流が発生する。本実施形態の熱処理装置においては、フィルム150の導入通路115及び導出通路116において、通路の最も外側の部分を急絞り流路としている。このため、装置の周囲に気流が発生しても筐体111内への外気の侵入を防ぐことができ、雰囲気の強制的な排気を行っても何ら問題はない。
【0035】
また、フィルム150への結露を防ぐために、
図6に示すように導入通路115及び導出通路116の外側に排気ガイド160を設けてもよい。導入通路115側に設けられた排気ガイド160と導出通路116側に設けられた排気ガイド160とは同じ構成であり、以下においては導入通路115側に設けられた排気ガイド160について説明する。
【0036】
図6に示すように、排気ガイド160は、側面にフィルム150が通過するスリット165を有し、上面に過熱水蒸気を排出する上部開口168を有する排気ガイド本体161と、排気ガイド本体161内に設けられたガイド板162とを有している。排気ガイド本体161は、スリット165の一方が導入通路115と接続されており、導入通路115から排出された排気は、排気ガイド本体161内に導かれる。排気ガイド本体161内にはガイド板162が設けられている。ガイド板162はフィルム150が通過するスリット166を有する板であり、フィルム150と交差する方向に設けられている。排気ガイド本体161内に導かれた排気は高温であるため、ガイド板162に沿って上昇しやすく、上部開口168へと導かれる。排気の一部はスリット166を通過するが、ガイド板162は互いに平行に複数設けられており、ほとんどの過熱水蒸気は導入通路115と反対側のスリット165に到達せずに、上部開口168側へ導かれる。
【0037】
導入通路115及び導出通路116に排気ガイド160を接続することにより、導入通路115及び導出通路116から排出される排気のほとんどを上方に逃がすことが可能となるため、フィルム150の表面に水滴がほとんど付着しなくなる。なお、導入通路115及び導出通路116からの排気は、過熱水蒸気と、過熱水蒸気が冷却された飽和水蒸気及び微細な水滴とを含む。
【0038】
排気ガイド本体161の側板及びガイド板162は、少なくともスリット166よりも上側の部分において筐体111側に傾斜していることが好ましい。筐体からは上昇気流が発生しているため、排気ガイド本体161の側板及びガイド板162の少なくとも上部を筐体111側に傾斜させることにより、過熱水蒸気等の上方への排出がより生じやすくなる。フィルム150の通過に支障がなければ、排気ガイド本体161の側板及びガイド板162の全体を筐体111側に傾斜させてもよい。但し、排気ガイド本体161の側板及びガイド板162は傾斜していなくてもよい。また、どちらか一方だけが傾斜していてもよい。
図6には、排気ガイド本体161の上面全面が開口部となっている例を示したが、排気ガイド本体161の上面全面が開口部となっておらず、スリット状の開口部等が設けられている構成としてもよい。また、排気ガイド本体161の底面にも開口部を設けてよい。
排気ガイド160の大きさは、熱処理炉110の大きさ、導入通路115及び導出通路116からの排気量等に応じて決定すればよい。例えば、導入通路115及び導出通路116からの排気の単位流量が0.45kg/hr・cm
2〜5kg/h・cm
2程度の場合には、排気ガイド160の長さを30cm〜1m程度とすればよい。
図6においては、排気ガイド160の高さを筐体111よりも高くした例を示したが、筐体111よりも低くてもよい。
【0039】
ガイド板162の数は、導入通路115及び導出通路116から排出される過熱水蒸気の量に応じて決めればよい。ガイド板162を設けた方がフィルム150の表面への水滴の付着を抑える効果が高くなるが、ガイド板162を設けなくてもよい。また、導入通路115側と導出通路116側とでガイド板の数が異なっていてもよい。さらに、導入通路115側と導出通路116側との一方のみに排気ガイド160を設けてもよい。
図6において、排気ガイド160は、導入通路115に直接接続されているが、排気ガイド160の取り付け方は限定されず、排気ガイド160と導入通路115との間に他の部材が設けられていてもよい。
【0040】
導入通路115及び導出通路116の少なくとも一方の外側に、排気を冷却する機構を設けてもよい。
図7は、導出通路116の外側に冷却室171が接続された構成を示している。冷却室171は、上下が閉鎖された箱状とすればよく、側面にフィルム150が通過する導入用スリット172と導出用スリット173とを有する。また、底部に冷却室171内の気体を冷却する冷却部として、冷媒が流通する冷却管174を有している。
【0041】
導出通路116から排出された排気は冷却室171に導入される。冷却室171に導入された排気の一部は冷却管174により冷却され、凝結して水となり、冷却室171の底部に貯まる。一定以上貯まった水は、排出口175からオーバーフローして排出される。冷却管174を流通させる冷媒は、特に限定されないが水が好ましい。
【0042】
冷却管174の数及び配置等と、冷媒の流量とを調整することにより、導出用スリット173から排出される排気の温度を調整することができる。導出用スリット173からフィルム150と共に排出される排気の温度を調整することにより、導電性フィルムの外観及び電気的特性等をさらに向上させることができる。
【0043】
熱処理炉110から排出される排気の温度は、熱処理炉110における処理温度にもよるが、300℃以上となる。フィルム150と共に高温の排気が熱処理炉110から排出され、外気と混合されると、空気中の酸素による酸化によるフィルムの変色及び導電性の低下が生じやすい。冷却室171を接続することにより、熱処理炉110と外気との間に中間の温度の緩和区間を設けることができる。これにより、フィルムの変色及び導電性の低下を抑えることができる。フィルムの変色及び導電性の低下を抑える観点からは、冷却室171からの排気の温度を180℃以下にすることが好ましい。フィルムへの結露を抑える観点からは、冷却室171からの排気の温度を100℃以上にすることが好ましい。
【0044】
冷却管174が底部に貯まった水に浸かった状態となっても問題ない。排出口175は、特に限定されないが、排気の排出を抑えるために排水チューブを接続し、S字トラップ等を設けて水封することが好ましい。また、
図7においては排出口175を冷却室171の側面に設けているが、排出口175は冷却室171の底面に設けてもよい。
【0045】
図7において冷媒が流通する冷却管174により冷却室171内に導入された排気を冷却する機構を示したが、他の方法により冷却してもよい。例えば、冷却管を用いずに冷却室171内に冷却水を流してもよい。また、冷却室171の壁を冷却するようにすることもできる。凝結した水がフィルム150上に垂れ落ちることを防ぐ観点から、冷却部はフィルム150よりも下側に設けることが好ましい。
【0046】
冷却室171の大きさは、熱処理炉110の大きさ、導出通路116からの排気の量等に応じて適宜決定すればよい。
【0047】
冷却室171を導出通路116側に設ける例について説明したが、冷却室171は導入通路115側又は導入通路115側と導出通路116側の両方に設けてもよい。導入通路115側においても、高温の過熱水蒸気が排出されることにより、フィルムの変色及び導電性の低下が生じる恐れがある。導入通路115側に冷却室171を設けることにより、導出通路116側と同様に酸化によるフィルムの変色及び導電性の低下を抑え、フィルム150の外観及び導電性等をさらに向上させることができる。
【0048】
フィルムへの結露を抑えるために、導出用スリット173の外側に排気ガイド160を接続してもよい。また、導入通路115及び導出通路116の一方に冷却室171を接続し、他方に排気ガイド160を接続してもよい。
【0049】
ガイドロール136及びガイドロール138の温度が低い場合には、導入通路115及び導出通路116から排出された過熱水蒸気により結露が生じ、フィルムに水滴が付着しやすくなる。このため、ガイドロール136及びガイドロール138を加温してもよい。例えばガイドロール136及びガイドロール138内にシーズヒータ等を組み込めばよい。
【0050】
ガイドロール136及びガイドロール138を加温する場合には、ガイドロール136及びガイドロール138の表面の温度を80℃以上、150℃以下とすればよい。また、フィルムに水滴が付着する場合には、乾燥空気や、温風を吹きつけて乾燥してもよい。特に巻き取りロール137に巻き取る前には、水滴を完全に除くことが好ましい。温風を吹きつける場合には、温風の温度は80℃以上、150℃以下とすればよい。
【0051】
導入ノズル113から導入する過熱水蒸気は例えば、水を加熱して飽和水蒸気を生成し、生成した飽和水蒸気をさらに加熱することにより形成することができる。飽和水蒸気の生成には通常のボイラー等を用いることができる。飽和水蒸気の加熱には、誘導加熱及び高周波加熱等を用いることができる。また、水を直接誘導加熱又は高周波加熱して、過熱水蒸気を生成してもよい。
【0052】
図1には導入ノズル113が筐体111の上部に配置されている例を示したが、導入ノズルは筐体111内の任意の位置に配置することができる。例えば、筐体111の下部に配置されていてもよい。また、フィルム150を挟んで両側に配置されていてもよい。
【0053】
過熱水蒸気はそのほかの不活性気体と混合して導入してもよい。不活性気体を使用することにより、使用する水蒸気量を増加させることなく導入通路及び導出通路から排出される排気の流速を高めることができる。不活性気体としては窒素、アルゴン、ヘリウムなどが例示されるが、経済的観点から窒素を用いることが好ましい。
【0054】
過熱水蒸気を充満させた筐体111内部の温度は、処理する導電性ペーストの特性に合わせて設定すればよい。一般的に銅を用いた銅ペーストの場合、筐体111内部の温度は150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましい。フィルム150がポリイミドフィルムである場合には400℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましい。筐体111内部の温度は、過熱水蒸気の温度及び導入量により制御することができる。
【0055】
フィルム150は、熱処理に耐えられるものであればどのような材質であってもよいが、ポリイミドからなるフィルムが好ましい。ポリイミドは、ピロメリット酸二無水物と、4,4'-ジアミノジフェニルエーテルとの重合体に代表される、テトラカルボン酸二無水物モノマーとジアミンモノマーとの重合体である。フィルム150の幅、長さ及び厚さは、目的に応じて自由に設定することができる。例えば、導電性フィルム基板等を形成する場合であれば、厚さが10μm程度〜200μm程度のフィルムを用いることができる。
【0056】
銅ペーストは、フィルム150の全面に塗布又は印刷されていてもよく、導電性回路を形成する回路パターンが部分的に塗布又は印刷されていてもよい。また、銅ペーストはフィルム150の一方の面にのみ塗布又は印刷されていてもよく、両方の面に塗布又は印刷されていてもよい。
【0057】
フィルム150に銅ペーストが塗布又は印刷されているのではなく、フィルム150を銅ペーストが塗布又は印刷された別のフィルム又は基板等の搬送用フィルムとして用いてもよい。この場合には、銅ペーストが塗布又は印刷されたフィルム又は基板等をフィルム150の上に載せて熱処理炉110の中を通過させればよい。この場合にはフィルム150をステンレスフィルム等としてもよい。
【0058】
銅ペーストは、銅微粒子を含み、フィルム上に塗布又は印刷することにより塗膜を形成することができ、熱処理により導電性塗膜とすることができればどのようなものであってもよい。例えば、銅微粒子と、有機バインダーと、分散媒とを含む銅ペーストを用いることができる。この場合、各成分の含有量は、銅微粒子100質量部に対し、バインダーを5〜30質量部、分散媒を20〜400質量部の範囲が好ましい。
【0059】
銅微粒子は、銅を主成分としていれば合金や複合粒子となっていてもよく、銅の含有量が80質量%以上であることが好ましい。含有あるいは複合する金属の例としては金、パラジウム、銀、ニッケル、スズなどがあげられる。具体的には、湿式還元法、気相還元法、又はアトマイズ法等により形成された銅微粒子を用いることができる。銅微粒子の平均粒径は、0.01μm以上、20μm以下であることが好ましく、0.05μm以上、2μm以下であることがより好ましい。
【0060】
バインダー樹脂は、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド又はアクリル等を用いることができる。樹脂中にエステル結合、ウレタン結合、アミド結合、エーテル結合又はイミド結合等を有するものが、銅微粒子が安定して分散させることができるので好ましい。なお、銅微粒子を安定して分散させることができる場合には、バインダー樹脂を含んでいなくてもよい。
【0061】
分散媒は、分散安定化の働きをするバインダー樹脂を用いる場合には、その樹脂を溶解するものから選ばれ、有機化合物であっても水であってもよい。分散媒は、分散体中で金属微粒子を分散させる役割に加えて、分散体の粘度を調整する役割がある。分散媒として有機溶媒を用いる場合には、アルコール、エーテル、ケトン、エステル、芳香族炭化水素、又はアミド等が好ましい。
【0062】
銅ペーストは、硬化剤、分散剤及び還元剤等を含んでいてもよい。還元剤とは金属の酸化物、水酸化物、又は塩等の金属化合物を金属に還元する能力を有するものを言う。還元剤は過熱水蒸気処理により蒸発揮散するものが望ましい。また、金属微粒子分散体の塗布層を過熱水蒸気処理する際、還元剤が塗布層に残留していることが好ましい。そのため、還元剤が液状揮発性物質の場合は沸点が150℃以上であることが好ましい。例えば、アルコール類及び多価アルコール類を用いることができる。
【0063】
銅ペーストの、フィルムへの塗布又は印刷には、一般的な方法を用いることができる。例えばスクリーン印刷法、ディップコーティング法、スプレー塗布法、スピンコーティング法、ロールコート法、ダイコート法、インクジェット法、凸版印刷法、及び凹版印刷法等を用いることができる。塗布又は印刷の後、分散媒の少なくとも一部を蒸発させることにより、フィルムの表面に銅ペーストの塗膜を形成することができる。銅ペーストからなる塗膜を形成した後、塗膜が破壊されない範囲で加圧処理を行ってもよい。銅ペーストの塗膜は、用途に応じてフィルムの全面に形成してもよく、回路パターンとしてもよい。
【0064】
銅ペーストにより形成する塗膜の厚さは、目的に応じて適宜選択すればよいが、0.05μm〜80μm程度とすることができる。熱処理の時間は、銅ペーストの材質、塗膜の膜厚等により適宜選択すればよいが、10秒〜30分程度とすることができる。熱処理の時間は、熱処理炉110の長さと、搬送部130の搬送速度とにより設定すればよい。フィルム150の搬送速度は、自由に設定できるが、0.2m/min〜100m/min程度とすることができる。
【0065】
筐体111の大きさは、必要とされる処理能力等に応じて任意に設定することができる。また、筐体111の材質は処理温度に耐えるものであればよい。例えば、ステンレス鋼等を用いることができる。
図1においては、フィルム150が筐体111内を水平方向に移動する例を示したが、フィルム150が筐体111内を垂直方向に移動する構成としてもよい。
【0066】
本発明の連続式過熱水蒸気熱処理装置は、熱処理に過熱水蒸気を用いるものであるが、筐体111の加熱のためには、追加の加熱手段を設けることができる。加熱装置としては、例えば一般的な電気ヒーターや誘導加熱等があげられる。これらの加熱手段を追加することにより、スタートアップ時間を短縮し、使用する過熱水蒸気量を減らすことができる。
【実施例】
【0067】
実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。
【0068】
−測定方法−
<表面抵抗>
表面抵抗は、三菱化学アナリテック社製ロレスタGPを用いて、4端子法により測定した。
【0069】
<排気量>
導入通路及び導出通路からの排気の単位流量Fは、以下の式1を用いて算出した。また、流速vは、以下の式2を用いて算出した。式1においてFは単位流量(kg/h・cm
2)であり、Wは質量換算の蒸気供給量(kg/h)、Sは総排気面積(cm
2)である。総排気面積は、導入通路115の開口面積、導出通路116の開口面積及び排気口117の開口面積の和である。式2においてvは流速(m/s)であり、Vは総排気量(m
3/h)である。Vは温度320℃、1気圧の時、密度0.355Kg/m
3の過熱水蒸気の排気量を体積に換算した値でありV = W(Kg/h)/0.355(Kg・m
3)で表される。
F = W / S ・・・ 式1
v = V / ((S /10000)/3600) ・・・ 式2
−試料−
フィルムには幅が257mm、厚さが25μmのポリイミドフィルム(株式会社カネカ製:アピカル25NPI)を用いた。銅ペーストは以下の方法で調整した。
【0070】
湿式還元法により合成した銅微粉(粒子径0.3μm)900gを共重合ポリエステルバイロン300(東洋紡績社製)溶液(固形分量40重量%)250g、γ−ブチロラクトン350g、メチルエチルケトン500gをビーズミルで2時間混合分散して銅ペーストを調整した。得られたペーストを適宜粘度調整したのち、ポリイミドフィルムにグラビアリバース法で全面にコーティングして銅塗膜を形成したフィルムを得た。フィルム上に塗布した塗膜の膜厚は、3μmとした。熱処理前の塗膜の色は紫色であった。
【0071】
(実施例1)
図1に示す連続式過熱水蒸気熱処理装置を用いて塗膜を形成したフィルム150の熱処理を行った。導入通路115及び導出通路116は、それぞれ第1の通路121及び第2の通路122を有している構成とした。
【0072】
第1の通路121の高さH1は、フィルムの通過を妨げない高さに設定し、奥行きL1と高さH1との比L1/H1は4とした。第2の通路122の高さH2は、フィルムの通過を妨げない高さで、かつ絞り流路とするためにH1>H2に設定した。奥行きL2と高さH2との比L2/H2を5とした。以下においては特に説明がない限り、L2/H2をL/Hとする。なお、第1の通路121の横幅及び第2の通路122の横幅はフィルムの幅に対応した寸法とした。
【0073】
塗膜を形成したフィルム150を搬送部130にセットし、0.4m/minの速さで搬送し、熱処理炉110内を2分30秒で通過させた。熱処理炉110内の温度は320℃とした。導入ノズル113から過熱水蒸気を供給し、排気口117閉止状態とし、排気の単位流量を1kg/h・cm
2とし、流速を8m/sとなるようにした。熱処理装置を設置した雰囲気の強制排気は行わなかった。
【0074】
熱処理後には紫色の導電性塗膜が得られた。導電性塗膜の表面には水蒸気の凝結が認められたが、外観に問題はなかった。得られた導電性塗膜の表面抵抗は0.093Ω/□であった。
【0075】
(実施例2)
熱処理装置を設置した雰囲気の強制排気を行った以外は実施例1と同様にして、塗膜を形成したフィルムの熱処理を行った。熱処理後には紫色の導電性塗膜が得られた。導電性塗膜の表面には水蒸気の凝結が認められたが、外観に問題はなかった。得られた導電性塗膜の表面抵抗は0.091Ω/□であった。
【0076】
(実施例3)
導入通路115及び導出通路116に排気ガイド160が接続された熱処理装置を用いた以外は実施例2と同様にして、塗膜を形成したフィルムの熱処理を行った。排気ガイド160にはガイド板162を有していない構造のものを用いた。熱処理後には紫色の導電性塗膜が得られた。導電性塗膜の表面には水蒸気の凝結はほとんど認められず、外観にも問題はなかった。但し、排気ガイド160の上部には水蒸気の凝結が認められた。得られた導電性塗膜の表面抵抗は0.082Ω/□であった。
【0077】
(実施例4)
排気ガイド160にガイド板162を2枚有する構造のものを用いた以外は実施例3と同様にして、塗膜を形成したフィルムの熱処理を行った。熱処理後には紫色の導電性塗膜が得られた。導電性塗膜の表面には水蒸気の凝結はほとんど認められず、外観にも問題はなかった。排気ガイド160の上部にも水蒸気の凝結は認められなかった。得られた導電性塗膜の表面抵抗は0.073Ω/□であった。
【0078】
(実施例5)
L2/H2を10とした連続式過熱水蒸気熱処理装置を用いた以外は実施例1と同様にして、塗膜を形成したフィルムの熱処理を行った。排気の単位流量は2kg/h・cm
2であり、流速は16m/sである。熱処理後には紫色の導電性塗膜が得られた。導電性塗膜の表面には水蒸気の凝結が認められたが、外観に問題はなかった。得られた導電性塗膜の表面抵抗は0.085Ω/□であった。
【0079】
(実施例6)
排気口117を開放した以外は実施例5と同様にして、塗膜を形成したフィルムの熱処理を行った。排気の単位流量は0.7kg/h・cm
2であり、流速は6m/sである。熱処理後には紫色の導電性塗膜が得られた。導電性塗膜の表面には水蒸気の凝結が認められたが、外観に問題はなかった。得られた導電性塗膜の表面抵抗は0.069Ω/□であった。
【0080】
(実施例7)
排気口117を開放状態とし、排気の単位流量を0.5kg/h・cm
2とし、流速を4m/sとした以外は実施例1と同様にして、塗膜を形成したフィルムの熱処理を行った。熱処理後には紫色の導電性塗膜が得られた。導電性塗膜の表面には水蒸気の凝結が認められたが、外観に問題はなかった。得られた導電性塗膜の表面抵抗は0.110Ω/□であった。
【0081】
(実施例8)
部材118を設けていない構成の熱処理装置を用いて、塗膜を形成したフィルムの熱処理を行った。この場合おける、導入通路115及び導出通路の奥行きL0に対する高さH0の比L0/H0は4であり、この値をL/Hとする。排気口117を閉止状態とした。排気の単位流量を0.6kg/h・cm
2とし、流速を5m/sとした。他の条件は、実施例1と同じにした。熱処理後には紫色の導電性塗膜が得られた。導電性塗膜の表面には水蒸気の凝結が認められたが、外観に問題はなかった。得られた導電性塗膜の表面抵抗は0.131Ω/□であった。
【0082】
(実施例9)
熱処理装置を設置した雰囲気の強制排気を行った以外は実施例8と同様にして、塗膜を形成したフィルムの熱処理を行った。熱処理後には紫色の導電性塗膜が得られた。導電性塗膜の表面には水蒸気の凝結が認められたが、外観に問題はなかった。得られた導電性塗膜の表面抵抗は0.194Ω/□であった。
(実施例10)
導入通路115及び導出通路116に冷却室171が接続された熱処理装置を用いた以外は実施例5と同様にして、塗膜を形成したフィルムの熱処理を行った。排気の単位流量を2kg/h・cm
2とし、流速を16m/sとした。熱処理後には紫色の導電性塗膜が得られた。導電性塗膜の表面には水蒸気の凝結が認められたが、外観に問題はなかった。得られた導電性塗膜の表面抵抗は0.065Ω/□であった。
【0083】
(比較例1)
部材118を設けていない構成の熱処理装置を用いて、塗膜を形成したフィルムの熱処理を行った。この場合における、導入通路115及び導出通路の奥行きL0に対する高さH0の比L0/H0は2であり、この値をL/Hとする。排気口117は閉止状態とした。排気の単位流量を0.4kg/h・cm
2とし、流速を3m/sとした。他の条件は、実施例1と同じにした。熱処理後においても塗膜の色は赤茶色であり、導電性は示さなかった。熱処理後の塗膜の表面には水蒸気の凝結が認められた。
【0084】
(比較例2)
熱処理装置を設置した雰囲気の強制排気を行った以外は比較例1と同様にして、塗膜を形成したフィルムの熱処理を行った。熱処理後においても塗膜の色は赤茶色であり、導電性は示さなかった。熱処理後の塗膜の表面には水蒸気の凝結が認められた。
【0085】
(比較例3)
排気の単位流量を0.5kg/h・cm
2とし、流速を4m/sとした以外は比較例2と同様にして、塗膜を形成したフィルムの熱処理を行った。熱処理後においても塗膜の色は赤茶色であり、導電性は示さなかった。熱処理後の塗膜の表面には水蒸気の凝結が認められた。
【0086】
各実施例及び比較例の結果を表1にまとめて示す。L/Hが大きい場合は、塗膜を導電性の導電性塗膜とすることができた。
【0087】
【表1】