特許第6200319号(P6200319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6200319
(24)【登録日】2017年9月1日
(45)【発行日】2017年9月20日
(54)【発明の名称】水硬性組成物の硬化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20170911BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20170911BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20170911BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20170911BHJP
   C08F 216/20 20060101ALI20170911BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B24/26 E
   C04B24/26 B
   C04B24/26 F
   C04B40/02
   C08F220/06
   C08F216/20
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-268535(P2013-268535)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-124104(P2015-124104A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】齊田 和哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲一
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−331489(JP,A)
【文献】 特開2012−184129(JP,A)
【文献】 特開平09−124355(JP,A)
【文献】 特開平08−012396(JP,A)
【文献】 特開2012−136389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00−28/36
C04B 40/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程(1)〜(4)を含む、水硬性組成物の硬化体の製造方法。
工程(1)共重合体(A)と水硬性粉体と骨材と水とを含む成分を混練して、水/水硬性粉体比(質量比)が0.35以上、0.45以下の水硬性組成物を調製する工程。
工程(2)水硬性組成物を型枠に入れる工程。
工程(3)積算温度が260以上、300以下[℃・時]となるように、8時間以内の養生時間で、型枠内の水硬性粉体を養生する工程。
工程(4)養生後、型枠から硬化体を脱型する工程。
<共重合体(A)>
下記一般式(A1)で表される単量体a1及び下記一般式(A2)で表される単量体a2の共重合体であり、共重合体(A)を構成する単量体a1、単量体a2の反応単位のモル比が、単量体a1/単量体a2=60/40以上、90/10以下である共重合体。
【化1】
(式中、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム、アルキルアンモニウム又は置換アルキルアンモニウムを示す)
【化2】
(式中、R1、R2及びR3は同一又は異なって水素原子又はメチル基を示し、R4は炭素数1以上、3以下のアルキル基を示し、YはCH2O、CH2CH2O又はCOOを示し、nは20以上、80以下の数を示す)
【請求項2】
共重合体(A)の重量平均分子量が5000以上、300000以下である請求項1記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【請求項3】
式(A2)中のR3が水素である請求項1又は2記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短時間に脱型可能な水硬性組成物の硬化体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製品は水硬性粉体(例えばセメント)、骨材、水及び減水剤(分散剤、混和剤)等の材料を混練し、目的に沿った種々の型枠に打設し、養生(硬化)工程を経て製品となる。初期材齢に高い強度を発現することは、生産性(型枠の回転率の向上)の観点から重要であり、そのために、下記方法などの対策が講じられている。
(1)セメントとして早強セメントを使用する。
(2)減水剤として各種ポリカルボン酸系化合物を使用してセメント組成物中の水量を減少させる。
(3)セメントの水和反応を促進させる無機系・有機系硬化促進剤(早強剤・凝結促進剤など)を添加する。
(4)養生方法として蒸気養生を行う。
【0003】
今日では、より高い生産性の要求等から、養生工程の更なる短縮化が望まれることがあり、例えば、養生時間12時間以下で脱型可能強度を発現することが必要な場合がある。一般的に、脱型可能強度は水硬性組成物の硬化体の大きさにもよるが8〜15[N/mm2]が必要であるとされている。早期に脱型可能強度を発現するコンクリートの生産方法は、生産性の向上につながるため市場で切望されている。また、通常、蒸気養生による養生時間の短縮化が図られているが、蒸気使用に伴うエネルギーコストの高騰に繋がり、エネルギーコストの削減(蒸気養生時間の短縮・養生温度の低減)の観点からも早期に脱型可能強度を発現するコンクリートの生産方法が切望されている。
【0004】
特許文献1には、ポリカルボン酸系共重合体とアルカノールアミン系化合物を含み、高い減水性能と優れた早期強度を有するセメント組成物が開示されている。ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレートとアクリル酸との共重合体が例として挙げられ、更にこの共重合体とHPEDA(N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン)を用いることで、10℃、24時間後の圧縮強度が向上していることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、超高強度コンクリートの初期硬化物性(凝結時間・σ1)を改善することができる水硬性組成物用早強剤が開示されている。
【0006】
特許文献3には、早強ポルトランドセメントを用い、無機硬化促進材(例えば仮焼みょうばん)の配合下で、コンクリートの水セメント比を30〜45重量%とし、型枠打設から脱型までの蒸気養生を70℃以下及び積算温度(マチュリティ)210〜290℃・hrの範囲で行うことを特徴とするコンクリート製品の製造方法が開示されている。
【0007】
水硬性組成物の強度を、材令と温度を加味して関連させるための指標として、積算温度が知られている。非特許文献1には、強度は積算温度の関数であることが記載されている。一方で、標準示方書(土木学会)では、積算温度と強度との関係は、使用する材料、配合、乾湿の程度などによって一様でないので、あらかじめ試験により確かめておくのがよいとしている、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−236127号公報
【特許文献2】特開2011−116587号公報
【特許文献3】特開2000−301531号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】林正道、鮎田耕一“コンクリート工学 耐久性・寒中コンクリート詳説”株式会社山海堂発行、平成15年3月18日、145〜147頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
蒸気養生を利用する方法では、同じ型枠を用いた製造は1日に1〜2サイクルが限界であった。そのため、目標製造数に達するには多くの型枠が必要であり、型枠コストを削減する為に型枠の回転効率を上げて生産性を改善することが強く求められている。また、特許文献1、2のような初期強度を高める成分を配合せずに脱型時間を短縮できれば、コストの面ではより望ましいものとなる。
【0011】
本発明は、作業性がよく、短時間で強度が得られ、短時間で脱型を可能とする水硬性組成物の硬化体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、次の工程(1)〜(4)を含む、水硬性組成物の硬化体の製造方法に関する。
工程(1)共重合体(A)と水硬性粉体と骨材と水とを含む成分を混練して、水/水硬性粉体比(質量比)が0.35以上、0.45以下の水硬性組成物を調製する工程。
工程(2)水硬性組成物を型枠に入れる工程。
工程(3)積算温度が260以上、300以下[℃・時]となるように、8時間以内の養生時間で、型枠内の水硬性粉体を養生する工程。
工程(4)養生後、型枠から硬化体を脱型する工程。
<共重合体(A)>
下記一般式(A1)で表される単量体a1及び下記一般式(A2)で表される単量体a2の共重合体であり、共重合体(A)を構成する単量体a1、単量体a2の反応単位のモル比が、単量体a1/単量体a2=60/40以上、90/10以下である共重合体。
【0013】
【化1】
【0014】
(式中、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属(1/2原子)、アンモニウム、アルキルアンモニウム又は置換アルキルアンモニウムを示す)
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、R1、R2及びR3は同一又は異なって水素原子又はメチル基を示し、R4は炭素数1以上、3以下のアルキル基を示し、YはCH2O、CH2CH2O又はCOOを示し、nは20以上、80以下の数を示す)
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法は、特定の水/水硬性粉体比を有する水硬性組成物に適度な粘性が付与されるため作業性に優れ、従来当業界で知られている早強セメントや早強剤を使用しなくとも、コンクリートの強度を短時間で高め、早期に脱型を可能とするものである。
本発明で用いる共重合体(A)は、減水剤としての性能に優れ、これを所定条件で用いる本発明の方法は、減水剤コストをそのままにエネルギーコストを削減することができる、理想的な方法の一つである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
セメント分散剤には、作業性向上の観点からコンクリート粘性の低減、生産性向上の観点から初期強度の向上が求められている。セメント分散剤にはポリカルボン酸系分散剤が最近よく用いられている。ポリカルボン酸系分散剤は吸着基である不飽和カルボン酸由来の部分と、立体反発基、例えばメトキシポリエチレングリコールメタクリル酸エステル由来の部分とを持つ。これまで、ポリカルボン酸系分散剤では、粘性と初期強度を調節する因子として、吸着基の比率を変えたり、立体反発基の長さをかえたり、することで調節してきた。
【0019】
しかし、吸着基を増やすと粘性は下がるが、初期強度が低下し、また、立体反発基を長くすると初期強度は増加するものの、粘性が上がるというトレードオフの関係になっている。従って、当業界では、水硬性組成物の粘性を適度に維持したまま初期強度を発現させることは困難であると考えられていた。
【0020】
ポリカルボン酸系分散剤としては、メタクリル酸とメトキシポリエチレングリコールメタクリル酸エステルとを成分に持つ重合体(MAA系重合体という)が多く用いられてきた。
【0021】
本発明で用いる共重合体(A)は、アクリル酸とアルコキシポリアルキレングリコール鎖を有するエステル化合物又はエーテル化合物とを構成単量体とする重合体である。共重合体(A)もMAA系重合体とほぼ同じ性質を持つと考えられてきたが、極めて限定された構造の共重合体を、水/水硬性粉体比(質量比)が0.35以上、0.45以下の水硬性組成物に用いた場合、特定の積算温度条件で養生すると、MAA系重合体の分散剤を使用した場合と比べて、粘性は上げずに初期強度が増加することを見出した。しかも、本発明では、8時間以内の養生時間において、同じマチュリティである場合、MAA系重合体よりも初期強度が高くなるという、意外な効果が得られる。つまり、本発明は、従来、トレードオフの関係にあり両立が困難であると考えられていた水硬性組成物の粘性維持と初期強度の向上という、2つの効果を両立できるものである。
【0022】
この理由は定かではないが、本発明に係る共重合体(A)はMAA系重合体にくらべて主鎖が柔軟で体積が小さくまとまることができ、セメント表面の被覆面積が小さくなるようにセメント表面に吸着すると推定される。更に、DLVO理論及びラングミュアの吸着等温式より、溶媒との親和性が高いと飽和吸着に達する時間が短く、且つ飽和吸着量が少なくなることが一般的であり、共重合体(A)はMAA系重合体に比べ、溶媒との親和性が高く、飽和吸着に達する時間が短く、飽和吸着量も少ないと推定される。セメントのごく初期の水和反応は分散剤が吸着している箇所では阻害されてしまうといわれており(文献:Rheology and reactivity of cementitious binders with plasticizers, p40, Fig.2.18, Hedda Vikan著,2006年2月16日、Norwegian University of Science and Technology, Doctoral thesis)、本発明に係る共重合体(A)は、飽和吸着に達する時間が短く、飽和吸着量が少ないために、ごく初期のセメントの水和反応が阻害されづらく、セメント強度が発現し始める限られた期間において、MAA系共重合体より早く高い強度を示すと推定される。粘性に関して、同じくDLVO理論より、分散剤が溶媒との親和性が高いと、それだけ分散に寄与できるエネルギーも高まり反発力も向上するため、分散系の粘性が低減すると推定される。そして、本発明で選定した水/水硬性粉体比が0.35以上0.45以下の領域は、分散剤構造が分散系の粘性に大きく影響するものであったため、粘性の差異が顕著に表れたと推定される。
【0023】
<共重合体(A)>
〔単量体a1〕
単量体a1はアクリル酸又はその塩である。塩を形成する場合、その対イオンがアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン又は置換アルキルアンモニウムイオンが挙げられるが、単量体a2との反応性の観点から、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、及びアクリル酸カルシウムから選ばれる化合物が好ましく、アクリル酸ナトリウムがより好ましい。
【0024】
〔単量体a2〕
一般式(A2)中、R1は水素原子が好ましい。また、一般式(A2)中、R2はメチル基が好ましい。また、一般式(A2)中、R3は水素原子が好ましい。また、一般式(A2)中、R4は、好ましくはメチル基である。また、一般式(A2)中、Yは、好ましくはCOOである。
【0025】
一般式(A2)中、nは、アルキレンオキシ基の平均付加モル数であり、24時間強度、分散性及び作業性の観点から20以上、80以下であり、23以上が好ましく、40以上がより好ましく、60以上が更に好ましい。そして、75以下が好ましく、70以下がより好ましい。
【0026】
単量体a2としては、メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリエチレンポリプロピレングリコール、エトキシポリエチレングリコール、エトキシポリエチレンポリプロピレングリコール、プロポキシポリエチレングリコール、プロポキシポリエチレンポリプロピレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリアルキレングリコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのエステル化物や、アクリル酸又はメタクリル酸へのエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドの付加物や、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、アリルアルコール、ヒドロキシブチルビニルエーテル、メタリルアルコール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のアルケニルアルコールにアルキレンオキシドを付加して得られる不飽和ポリアルキレングリコールエーテルを用いることができる。
化合物の安定性の観点から、片末端アルキル封鎖ポリエチレングリコールのメタクリル酸エステル化合物や不飽和ポリアルキレングリコールエーテルが好ましく、片末端アルキル封鎖ポリエチレングリコールのメタクリル酸エステル化合物がより好ましい。
【0027】
単量体a2が、エチレンオキシ基(一般式(A2)中のR3が水素原子)及びプロピレンオキシ基(一般式(A2)中のR3がメチル基)の両方を有する場合、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれでも用いることができる。
【0028】
〔共重合体(A)の共重合比〕
共重合体(A)は、共重合体(A)を構成する単量体a1、単量体a2の反応単位のモル比が、単量体a1/単量体a2=60/40以上、90/10以下である。単量体a1/単量体a2のモル比は、初期分散性、流動保持性の観点から、85/15以下が好ましく、80/20以下がより好ましい。そして65/35以上が好ましく、70/30以上がより好ましい。
【0029】
〔他の単量体〕
共重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲内で他の共重合可能な単量体を用いて製造してもよいが、共重合体(A)の全構成単量体中の単量体a1と単量体a2の合計は、初期流動性の向上の観点から、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上が更に好ましく、100質量%以下がより更に好ましく、100質量%であってもよい。
【0030】
他の単量体として具体的には、(i)メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸又はそれらの塩(例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、水酸基が置換されていてもよいモノ、ジ、トリアルキル(炭素数2以上、8以下)アンモニウム塩)もしくはそれらのエステルが挙げられる。更に、例えば、(ii)マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等のジカルボン酸系単量体、又はその無水物もしくは塩(例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、水酸基が置換されていてもよいモノ、ジ、トリアルキル(炭素数2以上、8以下)アンモニウム塩)もしくはエステルが挙げられる。これらの中でも好ましくはメタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、より好ましくはメタクリル酸又はこれらのアルカリ金属塩である。
【0031】
〔共重合体(A)の重量平均分子量〕
共重合体(A)の重量平均分子量は、初期流動性の観点から5,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましく、40,000以上がより好ましい。そして、共重合体(A)の重量平均分子量は、300,000以下が好ましく、200,000以下がより好ましく、150,000以下がより好ましい。共重合体(A)の重量平均分子量は実施例に記載するGPCの条件で測定する。
【0032】
〔共重合体(A)の製造方法〕
共重合体(A)の製造は、重合開始剤を用いて溶液重合法や塊状重合法等の方法で行うことができる。
溶液重合法において用いる溶剤としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。取り扱いと反応設備の簡略化の観点から、水及びメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましく、水がより好ましい。重合開始剤としては、水系の重合開始剤が好ましく、過硫酸のアンモニウム塩又はアルカリ金属塩あるいは過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジハイドレート等の水溶性アゾ化合物が使用される。水系以外の溶剤を用いる溶液重合にはベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等のパーオキシド、アゾビスイソブチロニトリル等の脂肪族アゾ化合物等が用いられる。また、重合開始剤と併用して、亜硫酸水素ナトリウム、アミン化合物等の促進剤を使用することもできる。分子量調整をする目的で、2−メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、1−メルカプトグリセリン、メルカプトコハク酸、アルキルメルカプタン等の連鎖移動剤を併用することもできる。塊状重合の重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキシド等のパーオキシド、アゾビスイソブチロニトリル等の脂肪族アゾ化合物が好ましい。重合温度は、40℃以上、160℃以下が好ましい。
【0033】
重合方法は例えば、特開昭62−119147号公報、特開昭62−78137号公報等に記載された溶液重合法が挙げられる。即ち、適切な溶媒中で、上記単量体a1及び単量体a2を上記の割合で混合して重合させることにより製造される。共重合体(A)の製造方法の一例を示す。反応容器に所定量の水を仕込み、窒素等の不活性気体で雰囲気を置換し昇温する。予め単量体a1、単量体a2、連鎖移動剤を水に混合溶解したものと、重合開始剤を水に溶解したものとを用意し、0.5時間以上、5時間以下かけて反応容器に滴下する。その際、各単量体、連鎖移動剤及び重合開始剤を別々に滴下してもよく、また、単量体の混合溶液を予め反応容器に仕込み、重合開始剤のみを滴下することも可能である。すなわち、連鎖移動剤、重合開始剤、その他の添加剤は、単量体溶液とは別に添加剤溶液として添加しても良いし、単量体溶液に配合して添加してもよいが、重合の安定性の観点からは、単量体溶液とは別に添加剤溶液として反応系に供給することが好ましい。また、好ましくは所定時間の熟成を行う。なお、重合開始剤は、全量を単量体と同時に滴下しても良いし、分割して添加しても良いが、分割して添加することが未反応単量体の低減の点では好ましい。例えば、最終的に使用する重合開始剤の全量中、1/2以上、2/3以下の重合開始剤を単量体と同時に添加し、残部を単量体滴下終了後1時間以上、2時間以下熟成した後、添加することが好ましい。必要に応じ、熟成終了後に更にアルカリ剤(水酸化ナトリウム等)で中和し、共重合体(A)を得る。
【0034】
<水硬性粉体>
水硬性粉体とは、水と反応して硬化する性質をもつ粉体、及び単一物質では硬化性を有しないが、2種以上を組み合わせると水を介して相互作用により水和物を形成し硬化する粉体のことである。水硬性粉体として、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、混合セメント、エコセメント(例えばJIS R5214等)のセメントが挙げられる。また、本発明に用いられるコンクリートには、セメント以外の水硬性粉体として、石膏、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等が含まれてよい。材料コストの観点から、普通セメント、混合セメントが好ましく、普通セメントが更に好ましい。
【0035】
<骨材>
骨材として細骨材や粗骨材等が挙げられ、細骨材は山砂、陸砂、川砂、砕砂が好ましく、粗骨材は山砂利、陸砂利、川砂利、砕石が好ましい。用途によっては、軽量骨材を使用してもよい。なお、骨材の用語は、「コンクリート総覧」(1998年6月10日、技術書院発行)による。
【0036】
<水>
本発明では、水を含有する水硬性組成物を調製する。本発明に係る水硬性組成物の水/水硬性粉体の比が、脱型強度発現及び作業性の観点から0.35以上、0.45以下である。中でも水/水硬性粉体の比は、0.40以下が好ましい。
【0037】
<その他の成分等>
本発明に係る水硬性組成物には、早強セメントや早強剤を使用することもできる。早強剤としては例えばトリエタノールアミンやBASF社のX−seed(登録商標、ケイ酸カルシウム水和物)、チオシアン酸カルシウム等が挙げられる。
【0038】
本発明に係る水硬性組成物は、コンクリート、モルタルであってよい。本発明の水硬性組成物は、セルフレベリング用、耐火物用、プラスター用、軽量又は重量コンクリート用、AE用、補修用、プレパックド用、トレーミー用、地盤改良用、グラウト用、寒中用等の何れの分野においても有用である。水硬性組成物の必要な強度に達するまでの時間を短縮でき、早期に型枠から脱型が可能になる観点から、コンクリート振動製品や遠心成形品等のコンクリート製品に用いることが好ましい。
【0039】
<製造方法>
本発明は、次の工程(1)〜(4)を含む、水硬性組成物の硬化体の製造方法である。
工程(1)水硬性粉体と水と骨材と共重合体(A)とを含む成分を混練して、水/水硬性粉体比(質量比)が0.35以上、0.45以下の水硬性組成物を調製する工程。
工程(2)水硬性組成物を型枠に入れる工程。
工程(3)積算温度(マチュリティ)が260以上、300以下[℃・時]となるように、8時間以内の養生時間で、型枠内の水硬性粉体を養生する工程。
工程(4)養生後、型枠から硬化体を脱型する工程。
【0040】
工程(1)では、予め水硬性紛体及び骨材を混練したものに、水及び共重合体(A)を含む成分を添加し、更に混練することが好ましい。共重合体(A)は、水硬性粉体、好ましくはセメント100質量部に対して、0.35質量部以上、0.45質量部以下の割合で用いることが好ましい。また、工程(1)で得られる水硬性粉体は、水/水硬性粉体比(質量比)が0.35以上、0.45以下であるが、脱型強度に達する時間短縮の観点から、水/水硬性粉体比(質量比)は0.40以下がより好ましい。
【0041】
工程(2)は、工程(1)で混練した水硬性組成物を、任意の型枠に流し込む。型枠には、例えば鋼製型枠、木製型枠などがあり、木製型枠には、合板型枠、丸太型枠、化粧型枠などがある。
【0042】
工程(3)では、積算温度(マチュリティ)が260以上、300以下[℃・時]となるように、8時間以内の養生時間で、型枠内の水硬性粉体の養生を行う。養生時間は短い方が生産効率の点で好ましく、本発明では、7時間以内、更に6時間以内、そして、4時間以上、更に5時間以上から選択できる。
【0043】
ここで、積算温度(マチュリティ)は、JASS5(日本建築学会建築工事標準仕様書、鉄筋コンクリート工事標準仕様書)に定義されるものであり、コンクリートにかかる温度履歴の総和と時間の積である。
本発明の製造方法では、初期強度発現性向上の観点から、積算温度が260[℃・時]以上、300[℃・時]以下であり、積算温度が280[℃・時]以上が好ましく、290[℃・時]以上がより好ましい。
【0044】
工程4は、硬化体を型枠から脱型する。脱型に際しては、ひび割れ、コールドジョイント、ジャンカなどの不良がないことを確認する。
【0045】
本発明では、工程1で水硬性組成物を混練しはじめてから、工程(4)で硬化体を脱型するまでの時間、いわゆる脱型時間を短縮でき、例えば、この時間を7時間以内、更に6時間以内とすることができる。
【実施例】
【0046】
<共重合体の製造例>
温度計、攪拌機、滴下漏斗、窒素導入管及び還流冷却器を備えたガラス製反応容器に水160gを仕込み、攪拌下に反応容器内を窒素置換し、窒素雰囲気下で78℃まで昇温した。次にメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシド平均付加モル数23、一般式(A2)中、R1が水素原子、R2がメチル基、R3が水素原子、R4がメチル基、YがCOO、nが23の単量体)147.22gとアクリル酸(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)25.45gを水96.9gに混合溶解した単量体水溶液と、3−メルカプトプロピオン酸(シグマアルドリッチジャパン株式会社製)1.42gを水16gに溶解した水溶液と、過硫酸アンモニウム(和光純薬工業株式会社製)1.7gを水15gに溶解した水溶液の3者の水溶液をそれぞれ1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、更に過硫酸アンモニウム0.57gを水7.5gに溶解させた水溶液を0.5時間かけて滴下した。その後、1時間78℃に温度を維持し、熟成を行うことで重合反応を完結させた。得られた反応混合物を含む水溶液を48%水酸化ナトリウム水溶液で中和することで、pH6.1、重量平均分子量57,700の共重合体1−2の水溶液を得た。表2に示す他の共重合体も同様に製造した。なお、表2では、単量体a1に属さない単量体も便宜的に単量体a1の欄に記載した(他の実施例でも同様)。
【0047】
<共重合体の重量平均分子量の測定方法>
共重合体の重量平均分子量の測定は、下記条件のサイズ排除クロマトグラフィー(GPC)にて行った。
[GPC条件]
標準物質:ポリエチレングリコール換算(重量平均分子量 875000、540000、235000、145000、107000、24000)
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL (東ソー)
溶離液:0.2Mリン酸緩衝液/アセトニトリル=9/1
流量:1.0mL/分
カラム温度:40℃
検出器:RI
【0048】
実施例1及び比較例1
(1)モルタル配合
【0049】
【表1】
【0050】
表中の成分は以下である。
C:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製/住友大阪セメント株式会社製=50質量%/50質量%)(密度3.16g/cm3
S:細骨材、城陽産山砂(密度2.57g/cm3
W:和歌山市水道水
【0051】
(2)モルタルの製造
表1の配合でセメント(C)と砂(S)とをモルタルミキサー(株式会社関西機器製作所製 記号KC−S)により低速(約60rpm)で10秒攪拌、混合し、共重合体とエステル系消泡剤(日華化学社製フォームレックス797)とを添加した水(W)を加え、低速(約60rpm)で更に1〜2分攪拌、混合してモルタルを製造した。製造は20℃の条件で行った。
なお、エステル系消泡剤は、連行空気の影響を除くために用いたものであり、モルタル1kgあたり0.04gとなるように水(W)に加えた。
共重合体はモルタルフローが250±10mmとなるようにセメント量に対して0.01質量%〜1.0質量%の間で調整した。モルタルフローは、JIS R 5201に準じて測定(但し、落下運動は加えなかった)した。
【0052】
(3)モルタル試験
JIS A 1132に基づき、モルタルを、円柱型プラモールド(底面の直径:5cm、高さ10cm)に、二層詰め方式により充填し、蒸気養生を施した。養生は、20℃で1時間前置きした後、60℃まで即時上昇させ3時間40分保持させた後、養生槽から取り出し、再び20℃で1時間後置きした。この条件でのマチュリティは260[℃・時]である。
蒸気養生後に脱型したモルタルの硬化体の初期強度をJIS A 1108に基づいて圧縮強度を測定した。
また、充填前のモルタルについて、粘性の評価として、J型ロート試験にて流下時間を測定した。J型ロート試験装置内に混練直後のモルタルを、すり切りいっぱいに満たし、モルタルが落ち切る時間を測定するものである。
結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
水/セメント比が0.35±0.05程度は大物製品に用いられる領域であり、大物製品は脱型時や脱型後にクレーン等で釣り上げる工程が必要である。そのため、この評価方法での脱型可能強度は15N/mm2以上である。実施例1−1〜1−9は全て脱型可能強度である15N/mm2以上に達している。比較例1−21は、脱型可能強度まで達しているが、流下時間が長く粘性が高いため作業性に劣る。
【0055】
実施例2及び比較例2
(1)モルタル配合
実施例1と同様にして行った。
【0056】
(2)モルタルの製造
実施例1と同様にして行った。
【0057】
(3)モルタル試験
実施例1と同様にして行った。ただし、マチュリティを表3のように変更して行った。
マチュリティが260[℃・時]は、20℃で1時間前置きした後、60℃まで即時上昇させ3時間40分保持させた後、養生槽から取り出し、再び20℃で1時間後置きした(実施例1と同じ)。
マチュリティが280[℃・時]は、20℃で1時間前置きした後、60℃まで即時上昇させ4時間保持させた後、養生槽から取り出し、再び20℃で1時間後置きした。
マチュリティが300[℃・時]は、20℃で1時間前置きした後、60℃まで即時上昇させ4時間20分保持させた後、養生槽から取り出し、再び20℃で1時間後置きした。
実施例2−1から2−3はNo.1−1の、比較例2−1から2−3はNo.1−11の、実施例2−4から2−6はNo.1−8の、比較例2−4から2−6はNo.1−14の共重合体を使用した。
結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
マチュリティが260〜300[℃・時]では、共重合体(A)に属する共重合体を用いた実施例2−1〜2−6では全て脱型可能強度である15N/mm2以上に達している。
【0060】
実施例3及び比較例3
(1)モルタル配合
【0061】
【表4】
【0062】
表中の成分は実施例1と同様である。
【0063】
(2)モルタルの製造
実施例1と同様にして行った。
【0064】
(3)モルタル試験
実施例1と同様にして行った。共重合体は、No.1−5の共重合体を使用した。
結果を表5に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
比較例3−1では圧縮強度が20N/mm2を超えており、脱型可能であるが、流下時間が長すぎて作業性に劣る。表5の結果から、共重合体(A)の効果は、特定範囲の水/セメント比の水硬性組成物に対して顕著であることがわかる。
実施例3−1は大物製品に用いられる水/セメント比が0.35で試験したものであり、この評価方法での脱型可能強度は15N/mm2以上である。
実施例3−2は小物製品に用いられる水/セメント比が0.45で試験したものであり、この評価方法での脱型可能強度は8N/mm2以上である。