(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、流動性の高いインクジェットインクを微細なヘッドノズルからインク粒子として噴射し、上記ノズルに対向して置かれた記録媒体に画像を記録するものであり、低騒音で高速印字が可能であることから、近年急速に普及している。このようなインクジェット記録方式に用いられるインクとして、非水溶性溶剤に色材を微分散させたいわゆる非水系インクが知られている。
【0003】
近年、資源環境や省エネルギーの観点からプリンタ等の機器の消費電力を、可能な限り低減することが望まれており、インクジェット印刷においても節電のために省電力化の要求が益々高まっている。
【0004】
インクジェット記録装置では、インクジェットヘッドに設けられたインク室に圧力を付与して、インク室内のインクをノズルから吐出するが、低温環境下ではインクの粘度が高くなるため、所望量のインクを吐出するためにインクジェットヘッドの駆動電圧を大きくする必要があり、そのため消費電力が大きくなってしまう。また、駆動電圧が大きい状態で吐出をすると、サテライトが発生しやすくなる。サテライトは、記録媒体上に付着して印刷品質を低下させる。そのため、従来、サテライトが発生しやすい低温環境下では、印刷品質を確保するためにインクジェットヘッドを加温するいわゆるウォームアップ動作を行った後に記録を開始するように設計されている。このウォームアップ動作も消費電力の増大の原因となる。
以上のことから、消費電力を抑えるには、低温環境でのインクを低粘度化することが考えられるが、そのための手段として、インクの低粘度化を図ることは極めて有効である。インク中の色材量、粉体量を減らせばインクの低粘度化を図ることが可能であるが、そうすると印字濃度が下がり画像品質が低下してしまうという問題がある。
【0005】
以上の問題を解決するため、例えば特許文献1には、顔料と、分散剤と、この分散剤の反応性官能基と反応して分散剤に化学結合した1分子中に1級および/または2級アミノ基を2個以上含む水溶性樹脂とが複合体となった着色剤を使用したインクが提案されている。このインクは、高い保存安定性と顔料分散性、ならびにノズル部での目詰まりが起きない吐出安定性を備えたものである。しかし、特許文献1に記載されている着色剤では、低温環境下においてインクを安定化させるためには分散剤の量を増やす必要があり、サテライトを抑制する程度にまで粘度を低下させることはできない。
【0006】
ところで、炭化水素系の高沸点で低粘度の非極性溶剤(以下、単に炭化水素系非極性溶剤という)を用いることでインクの低粘度化が可能である。炭化水素系非極性溶剤をインク溶剤に用いることでインク溶剤の極性が変わることになり、顔料分散安定性が悪くなることがあるが、これは分散剤の構成を変えることで解決できると考えられる。特許文献2には、顔料分散能を有する非水溶性樹脂分散微粒子を含む非水系顔料インクが提案されている。
しかし、特許文献2に記載されている非水溶性樹脂分散微粒子は、炭化水素系非極性溶剤中において、顔料に吸着する官能基(ウレタン基)が内側に、炭化水素系非極性溶剤と親和性の高いアルキル基が外側に向く形態で分散するため、非水溶性樹脂分散微粒子は顔料に吸着しにくく、少量では充分な顔料分散性が確保できない。このため、顔料に対しての非水溶性樹脂分散微粒子を予め多く処方する必要があり、そうするとインク粘度が高くなってしまうという問題がある。一方で、顔料分散性は炭化水素系非極性溶剤と顔料との親和性がよいことが必要であるが、親和性が高すぎると、炭化水素系非極性溶剤が記録媒体に浸透する際に顔料も記録媒体内部に引き込まれやすい傾向がある。その結果、印刷濃度が低くなり、裏抜けが発生しやすくなる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<非水系インク>
本発明の非水系インクは、顔料と、顔料分散剤と、非水系溶剤とを少なくとも含む非水系インクであって、前記顔料分散剤が、β−ジカルボニル基を有するモノマー(A)(以下、単に「モノマー(A)」と呼ぶ場合がある。)と、アミノ基を有する水溶性樹脂(B)とを構成成分として少なくとも含む共重合体からなることを特徴としている。
本発明の非水系インクは、本出願人が提案した非水系顔料インク(特願2012−151614)の効果(省電力化、サテライト抑制及び印刷濃度の向上、低温適性と顔料分散安定性を確保、裏抜けを抑制)を維持しつつ、アミン臭の低減を図ったものである。
以下に本発明の非水系インクの各成分について詳述する。
【0017】
[顔料]
本発明の非水系インクは何色であってもよく、したがって顔料としては、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料、及び、無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料が挙げられる。フタロシアニン顔料としては、金属フタロシアニン顔料及び無金属フタロシアニン顔料が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキシサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。無機顔料としては、代表的にはカーボンブラック及び酸化チタン等が挙げられる。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0018】
本発明の非水系インク中の顔料の含有量は、通常0.01〜20質量%であり、印刷濃度とインク粘度の観点から1〜15質量%であることが好ましく、5〜10質量%であることが一層好ましい。
【0019】
インク中の顔料の平均粒子径は、500nm以下程度であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることが一層好ましい。一方、印刷物の裏抜けを抑制するため、この平均粒子径は50nm以上程度であることが好ましい。ここで、顔料の平均粒子径は、(株)堀場製作所製の動的光散乱式粒径分布測定装置LB−500により測定される体積基準の値である。
【0020】
[非水系溶剤]
非水系溶剤としては、非極性有機溶剤及び極性有機溶剤の何れも使用できる。これらは、単独で使用してもよく、単一の相を形成する限り、2種以上を組み合わせて使用することもできる。低粘度化の観点で言えば、非極性有機溶剤を使用することが好ましい。
非極性有機溶剤の含有量は、インク溶剤全質量に対して20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、さらには50質量%以上が好ましい。炭化水素系非極性溶剤の含有量が溶剤全量に対して20質量%以上であると、十分に低粘度化を図ることができる。
【0021】
非極性有機溶剤の含有量がインク溶剤全質量に対して50質量%以上の場合、インク粘度のさらなる低粘度化と、貯蔵安定性のさらなる改善の効果を得ることができる。非極性有機溶剤の含有量がインク溶剤全質量に対して50質量%以上となると、水溶性樹脂はインク溶剤中にはほとんど遊離することなく、顔料の近傍に集まり、顔料の表面に強固に吸着するようになる。このため、溶剤自体の低粘度化だけでなく、溶剤中の遊離樹脂量を低減できることでの低粘度化の効果を得ることが可能となるとともに、顔料の分散安定性をより向上させることが可能となるものと推測される。
【0022】
非極性有機溶剤としては、脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤、芳香族炭化水素溶剤等の石油系炭化水素溶剤を好ましく挙げることができる。脂肪族炭化水素溶剤、脂環式炭化水素溶剤としては、パラフィン系、イソパラフィン系、ナフテン系の溶剤が挙げられる。例えば、以下の商品名で販売されているものが挙げられる。テクリーンN−16、テクリーンN−20、テクリーンN−22、ナフテゾールL、ナフテゾールM、ナフテゾールH、0号ソルベントL、0号ソルベントM、0号ソルベントH、アイソゾール300、アイソゾール400、AFソルベント4号、AFソルベント5号、AFソルベント6号、及びAFソルベント7号(いずれもJX日鉱日石エネルギー株式会社製);アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD40、エクソールD80、エクソールD100、エクソールD130、及びエクソールD140(いずれも東燃ゼネラル石油株式会社製)。芳香族炭化水素溶剤としては、グレードアルケンL、グレードアルケン200P(いずれもJX日鉱日石エネルギー株式会社製)、ソルベッソ200(東燃ゼネラル石油株式会社製)等が挙げられる。
【0023】
極性有機溶剤としては、エステル系溶剤、高級アルコール系溶剤、高級脂肪酸系溶剤等を好ましく挙げることができる。例えば、ラウリル酸メチル、ラウリル酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソステアリル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸イソプロピル、オレイン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸イソブチル、リノール酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、大豆油メチル、大豆油イソブチル、トール油メチル、トール油イソブチル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジイソプロピル、セバシン酸ジエチル、モノカプリン酸プロピレングリコール、トリ2−エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル等の、1分子中の炭素数が14以上のエステル系溶剤;イソミリスチルアルコール、イソパルミチルアルコール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール等の、1分子中の炭素数が8以上の高級アルコール系溶剤;イソノナン酸、イソミリスチン酸、ヘキサデカン酸、イソパルミチン酸、オレイン酸、イソステアリン酸等の、1分子中の炭素数が9以上の高級脂肪酸系溶剤、等が挙げられる。
【0024】
[顔料分散剤]
本発明において、顔料分散剤は、β−ジカルボニル基を有するモノマー(A)と、アミノ基を有する水溶性樹脂(B)とを構成成分として少なくとも含む共重合体からなる。β−ジカルボニル基と、アミノ基とを反応させて共重合体として用いることで、アミノ基を有する水溶性樹脂としての残存が抑えられ、アミン臭の抑制を図ることができる。その理由については後述する。
以下に、前記共重合体を構成する各構成成分について説明する。
【0025】
(β−ジカルボニル基を有するモノマー(A))
β−ジカルボニル基を有するモノマー(A)は、β−ジケトン基又はβ−ケト酸エステル基、β−ケトアミド類、シアノアセテート類を含むモノマーが挙げられる。本発明においては、当該モノマー(A)と、アミノ基を有する水溶性樹脂(B)とを少なくとも用いて共重合体を得るのであるが、両者は、モノマー(A)のカルボニル基と、アミノ基を有する水溶性樹脂のアミノ基とが反応することで結合を形成すると考えられる。
このモノマー(A)を含んだ顔料分散剤は顔料への吸着性が高く、これによって顔料分散性が向上してインクの粘度が低くなり、低温適性を向上させることができる。さらに、低粘度で低温適性に優れるため、記録媒体に着弾する際のインクの静電的な凝集、定着にも寄与し、結果的に印刷濃度を向上させ、裏抜けの抑制を実現することができる。また、水溶性樹脂(B)は本来、非極性有機溶剤になじみがたいが、モノマー(A)と反応させることにより非極性有機溶剤になじみやすくなり、顔料との濡れ性(分散性)が向上する。
【0026】
モノマー(A)としては、たとえば、エステル鎖にβ−ジケトン基またはβ−ケト酸エステル基を含む(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドが好ましい例として挙げられる。より詳細には、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリレート、ヘキサジオン(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のアセトアセトキシアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらは単独で、または2種以上を併用することができる。
【0027】
(アミノ基を有する水溶性樹脂(B))
アミノ基を有する水溶性樹脂(B)は、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン、ポリビニルピリジン等の塩基性高分子電解質またはそれらの誘導体を挙げることができ、特に、重量平均分子量が200〜2000のポリエチレンイミンを好適に使用することができる。
【0028】
ポリエチレンイミンの重量平均分子量が200未満であると普通紙に対する高濃度化の効果が低くなることがあり、2000以上になるとノズルプレート撥インク性が悪くなることがある。ポリエチレンイミンの重量平均分子量は、高濃度化の効果が大きく、かつ、ノズルプレート撥インク性が良い300〜1800であることがより好ましい。
【0029】
ポリエチレンイミンは、市販のものを用いることが可能であり、たとえば、(株)日本触媒製エポミンSP−006、エポミンSP−012、エポミンSP−018、エポミンSP−200;BASF社製Lupasol FG、Lupasol G20 Waterfree、Lupasol PR8515等を好ましく挙げることができる。
【0030】
(アルキル(メタ)アクリレート(C))
本発明に係る顔料分散剤たる共重合体は、構成成分として、さらに炭素数8〜18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(C)を含むことが好ましい。アルキル(メタ)アクリレート(C)は、炭素数8〜18のアルキル基を含むことで前記非水系溶剤の炭化水素系非極性溶剤と相溶性が高く、これによって非水系溶剤に溶解した状態となり、その一方で、共重合体としたときにモノマー(A)のβ−ジカルボニル基によりインクの粘度を下げることができ、低温適性をより向上させることができる。また、粘度上昇が抑制されることで、インクが記録媒体に着弾する際のインクの静電的な凝集、定着にも寄与し、結果的に印刷濃度を向上させ、裏抜けの抑制を実現することができる。
【0031】
上記アルキル(メタ)アクリレート(C)においてアルキル基の炭素数が19以上になると低温で非水溶性樹脂が固化しやすくなり低温適性が悪くなることがある。一方で、炭素数が7以下の場合には、炭化水素系非極性溶剤との相溶性が下がって、顔料を安定的に分散することができないので貯蔵安定性が悪くなり、インクの粘度も高くなってしまうことがある。また、低温環境ではインク粘度がさらに高くなってしまうこととなり低温適性が悪くなる。上記アルキル基の炭素数は12〜18であることがより好ましい。
【0032】
上記炭素数8〜18のアルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。具体的には、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられ、これらは複数種が含まれていてもよい。
【0033】
官能基を構成するβ−ジケトン基としては、たとえば好ましい例としてアセトアセチル基、プロピオンアセチル基等が挙げられ、β−ケト酸エステル基としては、たとえば好ましい例としてアセトアセトキシ基、プロピオンアセトキシ基等が挙げられる。
【0034】
アルキル(メタ)アクリレート(C)の分子量(重量平均分子量)は、特に限定されないが、インクジェット用インクとして用いる場合には、インクの吐出性の観点から5000〜50000程度であることが好ましく、10000〜30000程度であることがより好ましい。
アルキル(メタ)アクリレート(C)のガラス転移温度(Tg)は、常温以下であることが好ましく、さらには0℃以下であることがより好ましい。これにより、インクが記録媒体上で定着する際に、常温で成膜を促進させることができる。
【0035】
β−ジカルボニル基を有するモノマー(A)及びアミノ基を有する水溶性樹脂(B)の質量比率((A):(B))は、1:2〜20:1であることが好ましく、1:1〜15:1であることがより好ましく、2:1〜10:1であることが一層好ましい。
また、アルキル(メタ)アクリレート(C)を用いる場合、モノマー(A)100質量部に対して、アルキル(メタ)アクリレート(C)を10〜400質量部であることが好ましく、50〜350質量部であることがより好ましく、90〜300質量部であることが一層好ましい
【0036】
上記の各成分は、公知のラジカル共重合により、容易に重合させることができる。反応系としては、溶液重合または分散重合で行うことが好ましい。この場合、重合後のアクリル系樹脂の分子量を上記の好ましい範囲とするために、重合時に連鎖移動剤を併用することが有効である。連鎖移動剤としては、たとえば、n−ブチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタンなどのチオール類が用いられる。
【0037】
重合開始剤としては、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)等のアゾ化合物、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(パーブチルO、日油(株)製)等の過酸化物など、公知の熱重合開始剤を使用することができる。その他にも、活性エネルギー線照射によりラジカルを発生する光重合型開始剤を用いることができる。溶液重合に用いる重合溶媒には、たとえば石油系溶剤(アロマフリー(AF)系)などを使用できる。この重合溶媒は、そのままインクの非水系溶剤として使用できる溶剤(後述)のなかから1種以上を選択することが好ましい。重合反応に際し、その他、通常使用される重合禁止剤、重合促進剤、分散剤等を反応系に添加することもできる。
【0038】
(各成分の含有量)
顔料分散剤のインク全量に対する含有量は、顔料の分散性を確保する観点から0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。一方、顔料分散剤の含有量が高すぎると、インクの粘度が高くなるばかりでなく、高温環境下での貯蔵安定性が悪くなる恐れがあるため、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。すなわち、インク全量に対する顔料分散剤の含有量は、1〜10質量%であることがより好ましく、2〜8質量%であることがさらに好ましい。
【0039】
顔料分散剤の顔料に対する含有量は、貯蔵安定性を確保する観点から顔料に対する質量比で0.1から1.0であることが好ましい。顔料分散剤の顔料に対する含有量が、顔料に対する質量比で0.1未満と少なすぎる場合も、1.0超と多すぎる場合も、貯蔵安定性が確保されにくくなることがある。
【0040】
本発明の非水系インクには、上記各成分に加えて、慣用の添加剤が含まれていてよい。添加剤としては、界面活性剤、例えばアニオン性、カチオン性、両性、もしくはノニオン性の界面活性剤、酸化防止剤、例えばジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、トコフェロール、ブチルヒドロキシアニソール、及びノルジヒドログアヤレチック酸等、が挙げられる。
【0041】
本発明の非水系インクの粘度は、インクジェット記録システム用の場合、吐出ヘッドのノズル径や吐出環境等によってその適性範囲は異なるが、一般に、23℃において5〜30mPa・sであることが好ましく、5〜15mPa・sであることがより好ましく、約10mPa・s程度であることが、インクジェット記録装置用として適している。ここで粘度は、23℃において0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける値を表す。
【0042】
<非水系インクの製造方法>
以上の本発明の非水系インクは、本発明の非水系インクの製造方法により製造することができる。すなわち、本発明の非水系インクの製造方法は、顔料と、顔料分散剤と、非水系溶剤とを少なくとも含む非水系インクの製造方法であって、β−ジカルボニル基を有するモノマー(A)を構成成分として少なくとも含む重合体を合成し、次いで前記重合体とアミノ基を有する水溶性樹脂(B)とを構成成分として少なくとも含む共重合体を合成し、顔料分散剤を調製する工程と、前記顔料分散剤と、顔料と、非水系溶剤とを少なくとも混合分散する工程と、を含むことを特徴としている。
【0043】
本発明の非水系インクの製造方法においては、顔料分散剤を事前に調製し、その後に非水系インクの他の成分と混合分散するのであるが、そのように製造することでアミン臭の低減を図ることができる。その理由は以下のように推察される。
例えば、分散時に、顔料と、β−ジカルボニル基を有するモノマー(A)と、水溶性樹脂(B)とを配合すると、顔料に対する吸着能は水溶性樹脂(B)よりもモノマー(A)の方が大きいため、当該モノマー(A)が優先的に顔料に吸着し、未反応の水溶性樹脂(B)が多く残存すると考えられる。アミン臭の原因は当該未反応の水溶性樹脂と推察される。
一方、前記モノマー(A)と、水溶性樹脂(B)とを事前に反応(共重合)させると、前記モノマー(A)は水溶性樹脂(B)と効率良く反応するため、未反応の水溶性樹脂(B)の残存量は少ない。従って、この状態で顔料と混合分散してインクとした場合でも未反応の水溶性樹脂(B)の残存量は少なく、上記の場合と比較してアミン臭は低減されると推察される。なお、本発明においては、モノマー(A)ではなく、前記モノマー(A)を構成成分として少なくとも含む重合体として用いるのであるが、当該重合体の構成成分として前記モノマー(A)を含む以上は上記議論は成り立つ。
【0044】
本発明の製造方法において、顔料分散剤を調製する工程は、β−ジカルボニル基を有するモノマー(A)を少なくとも含む重合体を合成し、次いで前記重合体とアミノ基を有する水溶性樹脂(B)とを少なくとも共重合して共重合体を合成する工程である。
既述の通り、前記共重合体には、炭素数8〜18のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート(C)を構成成分としてさらに含むことが好ましい。なお、本工程において、使用する各成分の量は既述の本発明の非水系インクにおいて説明した通りである。
また、共重合の条件については、既述の本発明の非水系インクにおいて説明した通りであるので、ここでは具体的な反応条件について説明する。なお、好適な反応フローは以下の通りである。
(1)所定の容器内の非水系溶剤を50〜150℃に加温する。
(2)原料モノマー(モノマー(A)及び必要に応じてアルキル(メタ)アクリレート(C)等のモノマー)を1〜5時間かけて前記非水系溶剤に添加する。
(3)さらに、1〜5時間後、非水系溶剤で希釈する。
(4)さらに、1〜5時間後、水溶性樹脂(B)を添加し、1〜3時間撹拌する。
以上のようにすることで無色透明の共重合体が得られる。
なお、温度や時間等の条件は、モノマーや水溶性樹脂の種類、配合比等にあわせて適宜設定することができる。
【0045】
次いで、上記のようにして得た顔料分散剤を用い、当該顔料分散剤と、顔料と、非水系溶剤とを少なくとも混合分散する工程を経て非水系インクを得る。具体的には、既述の本発明の非水系インクの説明において示した「各成分の含有量」の範囲となるように各成分を混合し、次いで分散して非水系インクを得る。
【0046】
<顔料分散剤>
本発明の顔料分散剤は、β−ジカルボニル基を有するモノマー(A)と、アミノ基を有する水溶性樹脂(B)を構成成分として少なくとも含む共重合体からなることを特徴としている。
本発明の顔料分散剤は、既述の本発明の非水系インクの顔料分散剤に相当する。従って、各成分や製法の説明や好ましい例は本発明の顔料分散剤の説明としてそのまま妥当するため詳細な説明は省略する。
本発明の顔料分散剤は、非水系溶剤中において、顔料に対して優れた分散性を発揮することができる。また、アミン臭が抑えられる。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
[実施例1〜6、比較例1〜5]
(樹脂1〜7の合成)
四つ口フラスコに、アイソパーG(ナフテン系溶剤;東燃ゼネラル石油(株)製)を仕込み、窒素ガスを通気し攪拌しながら、110℃まで昇温した。次いで、温度を110℃に保ちながら表1に示す組成の各単量体混合物(水溶性樹脂(B)を除く)を3時間かけて滴下した。その後、110℃に保ちながら1時間後および2時間後に、アイソパーGで希釈し重合体を得た。次いで、表1に示す部数の水溶性樹脂(B)を混合し、3時間撹拌し、不揮発分50%の無色透明の樹脂(共重合体)1〜7を得た。得られた樹脂溶液の重量平均分子量(GPC法、標準ポリスチレン換算)は8200〜12500であった。
【0049】
【表1】
【0050】
(非水系インクの調製)
表2に示す割合で、顔料(カーボンブラック、三菱化学(株)製MA8)、顔料分散剤として上記のようにして得られた樹脂1〜7 、ポリエチレンイミン((株)日本触媒製エポミンSP−012)、分散時溶剤としてアイソパーG(ナフテン系溶剤;東燃ゼネラル石油(株)製)を混合し、得られた調合液をビーズミルで充分に分散して顔料分散体を調製した。その後、粘度調整用溶剤としてアイソパーGを加えて希釈してから、希釈液を遠心機にかけた後、3μmのメンブレンフィルターで濾過してゴミおよび粗大粒子を取り除いて非水系インク(以下、単に「インク」と呼ぶ。)を得た。
【0051】
【表2】
【0052】
(評価)
得られた各非水系インクを用い、以下の評価を行った。
(1)臭気
50mlのガラス瓶に約20mlのインクを入れキャップで密封した。これを23℃1週間保存した後、キャップを開け、以下の評価基準に従い、臭気を官能評価した。
〜評価基準〜
○:不快な臭気が弱い
×:不快な臭気が強い
(2)印刷濃度
得られたインクをインクジェットプリンタ(オルフィスX9050、(理想科学工業(株)製)に装填し、印刷設定の用紙種類を普通紙、画像品質を標準(300x300dpi)として、普通紙(理想用紙薄口、理想科学工業(株)製)に印刷したベタ画像の表面と裏面の画像濃度(OD値)を光学濃度計(RD920、マクベス社製)を用いて測定した。また、印刷物の非印刷部分のOD値を同様に測定した。そして、ベタ画像部分の印刷濃度を以下の評価基準に従い評価した。さらに、ベタ画像部分の裏面の画像濃度(OD値)から印刷物の非印刷部分のOD値を差し引いた値ΔODを求め、以下の基準で評価した。裏抜けの評価では、裏面の画像濃度が低いほど、つまりΔODが小さいほど改善されたことを示す。
〜評価基準〜
印刷濃度(表OD)
○:1.05以上
△:1.04〜1.00
×:0.99以下
印刷濃度(裏ΔOD)
○:0.15以下
△:0.16〜0.20
×:0.21以上
【0053】
表2より、実施例1〜5の非水系インクは、いずれも臭気が弱く、かつ表面及び裏面の印刷濃度の評価が良好であった。また、実施例6においては、アルキル基の炭素数が8〜18の範囲を外れたアルキル(メタ)アクリレートを用いていることから、表面の印刷濃度が若干劣っていたものの実用上は十分である。
これに対して、比較例1〜5においては、臭気及び印刷濃度のいずれかについて良好な評価結果が得られなかった。ポリエチレンイミンとモノマー(A)とを反応させず、それぞれ個別に添加した比較例1は臭気の評価において劣り、ポリエチレンイミンを添加しなかった比較例2は凝集し、インクとして使用できない状態であった。実施例1の非水系インクに対して、顔料分散剤としてさらにポリエチレンイミンを添加した比較例3は臭気の評価において劣っていた。また、顔料分散剤としてソルスパース28000のみを用いた比較例4は印刷濃度の評価において劣り、比較例4の非水系インクに対してさらにポリエチレンイミンを添加した比較例5は臭気の評価に劣っていた。