(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックス製ハニカム構造体は自動車排ガス浄化用触媒担体、ディーゼル微粒子除去フィルタ、あるいは燃焼装置用蓄熱体等の広範な用途に使用されている。セラミックス製ハニカム構造体(以下、単に「ハニカム構造体」と称す。)は、成形材料(坏土)を調製し、押出成形機を用いて所望のハニカム形状に押出成形し、生切断、乾燥、仕上げ切断した後、高温で焼成する焼成工程を経て製造されている。
【0003】
上記焼成工程において、ハニカム成形体は、一方の端面を下方に向けた状態で棚板の上に載置され、当該棚板とともに焼成炉内に投入される。このとき、ハニカム成形体が棚板に付着することを防止するために、棚板とハニカム成形体との間には、“トチ(栃)”と呼ばれる焼成用の敷板が介設されている。このトチは、ハニカム成形体を焼成したハニカム構造体を切断したものがハニカム成形体焼成用トチとして用いられてきたが、繰返し使用すると割れを生じるため、セラミックス原料をプレス成形して焼成した“プレストチ”と呼ばれるものが使用されるようになり、繰り返しの使用が可能となった(例えば、特許文献1参照)。これらのトチを総称して“焼トチ”と呼ぶ。本明細書において、押出成形から焼成前までをハニカム成形体と呼び、焼成後をハニカム構造体と呼ぶものとする。
【0004】
押出成形されたハニカム成形体は、焼成工程において、セルの長手方向及びセルの長手方向に直交する方向に沿って焼成収縮する。そのため、ハニカム成形体を上記焼トチの上に載置して焼成炉内に投入した場合、ハニカム成形体の焼成収縮により焼トチ上面とハニカム成形体の下端面との間でズレを生じ、焼トチと接したハニカム構造体の下端面にセル隔壁の変形や切れ等の不良が発生することがあった。また、ハニカム成形体の下端面と焼トチ上面の間の引っ掛かりが生じ、ズレが均等に起こらず、ハニカム構造体の下端面の形状に歪みを生じることがあった。同歪みが発生した場合、円柱形状のハニカム構造体では端面の真円度不良となる。特に、複数のセルを区画するセル隔壁の隔壁厚さが薄いハニカム成形体を焼成する際に、上記不良の発生が顕著であった。
【0005】
そこで、セル隔壁が薄いハニカム成形体を焼成する場合は、ハニカム成形体と同一素材で形成された未焼成のハニカム成形体を切断した焼成用生トチ(以下、単に「生トチ」と称す。)が焼成工程において用いられている。生トチは、焼成対象のハニカム成形体と焼成時において焼成収縮差が生じることがなく、ハニカム成形体と同一のタイミング及び同一の比率でセルの長手方向及びセルの長手方向に直交する断面方向に沿って焼成収縮することが可能である。これにより、焼成工程においてハニカム成形体と生トチの間で抵抗や拘束が生じることがなく、端面セル隔壁の欠陥や真円度不良等の形状不良の問題を解消することができる。更に、ハニカム成形体の下端面と接する生トチ上面の形状や表面粗さを調整することにより、僅かなズレが生じた場合でもハニカム成形体下端面への影響を軽減できることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生トチを用いてハニカム成形体を焼成する場合であっても、生トチが棚板に拘束されて、生トチが等方的に焼成収縮しない現象が起こる。生トチが等方的に収縮しなければ、前述の焼トチの場合と同様に、ハニカム成形体下端面のセル隔壁の変形や切れやハニカム構造体の下端面の形状に歪みを生じる。近年、セル隔壁厚さがより薄いハニカム構造体が求められるようになり、上記の問題が顕在化した。そこで、生トチとハニカム成形体との接触面積を可能な限り小さくすると、ハニカム成形体が焼成収縮する際の生トチからの影響を小さくし、等方的な焼成収縮を行うことが可能となる。しかしながら、ハニカム成形体と接する生トチの接触面積が小さいと、未焼成のハニカム成形体の重量が小さな接触面積の部分に集中し、ハニカム成形体の自重によって端面が押し潰され、凹状に変形することがあった。そのため、ハニカム成形体と接する生トチの接触面積は、ある程度の大きさが必要であった。
【0008】
加えて、生トチが載置される棚板に局所的に引っかかり、生トチの等方的な焼成収縮が妨げられる現象を軽減する必要があるが、棚板の生トチ載置面は不可避的にある程度の荒れを有しているために、生トチの棚板側表面にも拘束軽減策が必要になってきた。生トチの棚板側表面の平面度を改善することにより、生トチと棚板の接触が均一化され、生トチの焼成収縮に対する棚板からの拘束が軽減されることが期待できる。また、生トチのハニカム成形体に接する表面の平面度を改善することにより、生トチとハニカム成形体の接触が均一化され、ハニカム成形体の焼成収縮に対する生トチからの拘束が軽減されることが期待できる。そこで、生トチの接触面の平面度についても所定範囲に制限することで、ハニカム成形体を等方的に焼成収縮させることが期待される。
【0009】
そこで、本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであり、ハニカム成形体を等方的に焼成収縮させることが可能な生トチ、及び当該生トチを使用したハニカム成形体の焼成方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、上記課題を解決した生トチ、及び生トチを使用したハニカム成形体の焼成方法が提供される。
【0011】
[1] ハニカム成形体を焼成するために用いられ
、格子状のセル隔壁によって区画された複数のセルを備えるハニカム成形体焼成用生トチであって、板状を呈し、前記ハニカム成形体と同一素材で形成され、一方の端面
及び他の端面の外周部が
それぞれ斜め方向に面取りされ、外径に対して前記端面が縮径した断面テーパー形状を呈する面取部を有し、前記端面から前記面取部を除いた平坦部の前記生トチの断面に対する面積比率Rが、10〜85%であり、前記平坦部及び前記面取部の間のなす角度θが、3〜50°であり、
前記他の端面が上記平坦部と平行な平坦部を有し、前記一方の端面の平坦部及び前記他の端面の平坦部のそれぞれの平面度が、0.3mm以下であり、前記セル隔壁の隔壁厚さが、0.1mm以下であり、前記生トチの外周部が載置される前記ハニカム成形体の外周部と同一の形状を有するハニカム成形体焼成用生トチ。
【0013】
[2] 前記平坦部及び前記面取部の間のなす角度θが、3〜45°であり、前記一方の端面の前記平坦部の前記生トチの断面に対する面積比率Rが、10〜70%である前記[1
]に記載の生トチ。
【0014】
[
3] 前記一方の端面の前記平坦部の前記生トチの断面に対する面積比率Rが、15〜50%である前記[1]
または[2]に記載の生トチ。
【0015】
[
4] 前記平坦部及び前記面取部の間のなす角度θが、3〜15°である前記[1]〜[
3]のいずれかに記載の生トチ。
【0016】
[
5] 前記[1]〜[
4]のいずれかに記載のハニカム成形体焼成用生トチを用いて焼成するハニカム成形体の焼成方法であって、棚板に載置された前記生トチの上に、前記ハニカム成形体を直立させた状態で載置し、焼成を行うハニカム成形体の焼成方法。
【0017】
[
6] 前記生トチは、前記ハニカム成形体と同一
の格子状のセル隔壁によって区画された複数のセルを備えている、前記[
5]に記載の焼成方法。
【0018】
[
7] 前記生トチの前記セル隔壁の格子方向に対し、前記ハニカム成形体の成形体セル隔壁の格子方向が一致しないように前記生トチの上に前記ハニカム成形体を載置する前記[6
]に記載の焼成方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明の生トチ、及びハニカム成形体の焼成方法によれば、棚板や生トチによる拘束の影響を受けずにハニカム成形体を焼成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明の生トチ、及びハニカム成形体の焼成方法の実施の形態について詳述する。なお、本発明の生トチ、及びハニカム成形体の焼成方法は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、種々の設計の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。
【0022】
本発明の一実施形態の生トチ1は、
図1〜
図10に示すように、略板状を呈し、一方の端面12の外周側面11(外周部)近傍が斜め方向に面取りされ、外径に対して平坦部12aが縮径してなる断面テーパー形状を呈する面取部10を一方の端面12に有している。
【0023】
本実施形態の生トチ1は、一方の端面12の平坦部12aに載置されるハニカム成形体100と同一の成形材料(図示しない)から形成され、当該成形材料を押出成形機内に導入し、成形用口金を介して押出成形し、生切断、乾燥、仕上げ切断したハニカム成形体から構成されている。焼成前であるので、生トチ1は簡易に加工することができる。
【0024】
断面形状が円形の場合は、生トチ用ハニカム成形体の端面を、ろくろ等の回転台の上に載置し、円板面方向を回転軸方向と一致させて回転台を回転させる。係る状態で、成形材料の一部を削り取り可能なナイフ様の削り具をハニカム成形体の一方の端面12の外周側面11近傍に近接させる。このとき、削り具の切削角度を一方の端面12の面取部10の斜壁面13の角度に合致した状態にする。これにより、ハニカム成形体の一部が削り具によって削り取られ、外周側面11及び平坦部12aに対してそれぞれ斜め方向に面取りされた斜壁面13を有する面取部10が一方の端面12に形成された生トチ1が完成する。
【0025】
本実施形態の生トチ1は、四角形格子状のセル隔壁14によって区画された複数のセル15を備えている。すなわち、生トチ1の一方の端面12の平坦部12a及び面取部10と、当該平坦部12aと平行に対向する他の端面16との間が成形体セル102で連通するように形成されている(
図3参照)。なお、生トチ1に載置されるハニカム成形体100にも四角形状の成形体セル隔壁101によって区画された複数の成形体セル102が形成され、ハニカム成形体100の成形体上面103及び成形体底面104の間が成形体セル102で連通している(
図9または
図10参照)。生トチの外周側面11は載置されるハニカム成形体100の外周部と同一の形状を有する。ここで、生トチ1の高さは、載置するハニカム成形体100の高さよりも低く設定されている。また、
図1,2、及び、
図4〜
図7において、上記セル隔壁14及びセル15の構成について、簡略化のために図示を省略している。なお、セルの形状は四角形以外に、三角形や六角形等もある。
【0026】
上記構成を有する生トチ1により、一方の端面12の平坦部12aの上に、略柱状のハニカム成形体100を、成形体底面104を下方に向けて直立した状態で載置することができる(
図4参照)。このとき、生トチ1の成形体セル102の長手方向に垂直な方向の断面積Aに対する平坦部12aの面積Bの面積比率R(=B/A×100/%)が、10〜85%の範囲、更に好ましくは、10〜70%の範囲、特に好ましくは、15〜50%の範囲となるように設定されている(
図7参照)。
【0027】
更に、平坦部12aと面取部10の斜壁面13との間のなす角度θが、3〜50°の範囲、更に好ましくは3〜45°の範囲、特に好ましくは、3〜15°の範囲となるように設定されている(
図6参照)。
【0028】
本実施形態の生トチ1の他の端面16は平坦部16aを有し、一方の端面の平坦部12a及び他の端面16の平坦部16aは平行であり、それぞれの平面度は、いずれも0.3mm以下に設定されている。すなわち、生トチ1が成形体底面104及び棚板面106と当接する面には、凹凸がほとんどなく、それぞれの凹凸の最大差が0.3mm以下になっている。これにより、ハニカム成形体100と生トチ1と棚板105との間の摩擦抵抗が小さくなっている。
【0029】
更に、生トチ1の複数のセル15を区画する四角形格子状のセル隔壁14の隔壁厚さTが、0.1mm以下となるように設定されている。これにより、本実施形態の生トチ1は、隔壁厚さTが非常に薄い複数のセル15を備える、平坦部12a及び面取部10におけるセル15の開口率が高いものである。また、生トチ1に載置されるハニカム成形体100の成形体セル隔壁101の隔壁厚さTも同様に設定されている。
【0030】
上記構成の生トチ1を使用して、ハニカム成形体100の焼成工程が実施される。具体的に説明すると、予め用意した矩形平板状の棚板105の棚板面106上に、本実施形態の生トチ1を載置する。棚板105は、高耐熱性セラミックス質のものから構成され、高温の焼成温度においても収縮を生じることはない。また、生トチ1が載置される棚板105の棚板面106は、生トチ1の他の端面16よりも大きな面積のものである。そのため、棚板105に載置された生トチ1は、当該棚板105の棚板面106からはみ出すことなく、換言すれば、生トチ1の他の端面16の平坦部16aが全て棚板面106と当接した状態で載置されている。
【0031】
その後、棚板105上の生トチ1の平坦部12aに、押出成形された未焼成の柱状のハニカム成形体100を、成形体底面104を下方に向け、かつ、成形体底面104の中心と生トチ1の平坦部12aの中心位置とが一致するように、ハニカム成形体100を直立させて載置する。これにより、生トチ1の平坦部12aがハニカム成形体100の成形体底面104で覆われ、棚板105及びハニカム成形体100の間に生トチ1が介設された状態となる(
図4,
図5参照)。
【0032】
このとき、生トチ1の断面積Aに対する平坦部12aの平坦部面積Bの面積比率Rが、10〜85%の範囲内であり、かつ、平坦部12a及び面取部10の斜壁面13の間のなす角度θが、3〜50°の範囲となる条件を満たして、ハニカム成形体100の載置が行われている。ここで、平坦部12aの平坦部面積Bの面積比率Rが、上記範囲内にあることによって、ハニカム成形体100の自重を、成形体底面104の小さな一点等で支える必要がなく、ハニカム成形体100の重量を平坦部12aの全体で分散して支持することができる。これにより、焼成中にハニカム成形体100の自重によって成形体底面104が凹状に凹むことがない。
【0033】
図5に示すように、ハニカム成形体100は、生トチ1が面取部10を有することにより、成形体底面104の外周近傍の一部が生トチ1と当接することがなく、生トチ1及び棚板105から浮いた状態で生トチ1に載置されている。この状態で焼成炉内に投入され、焼成工程が行われる。これにより、ハニカム成形体100の焼成が完了し、ハニカム構造体(図示しない)が形成される。焼成工程において、生トチ1の平坦部12aがハニカム成形体100の成形体底面104よりも小さく、かつ平坦部12aの近傍に断面テーパー形状の面取部10が形成されていることにより、焼成工程中のガス流の影響やトンネル窯焼成の場合は焼成台車の移動による振動によっても、生トチ1に対してハニカム成形体100が僅かに揺動する。係る揺動によって、ハニカム成形体100及び生トチ1の間の拘束を緩和することが可能となる。
【0034】
ハニカム成形体100は、上記焼成工程において、セラミックス原料の焼結により、成形体セル102の長手方向及び当該成形体セル102の長手方向に直交する断面方向に沿ってそれぞれ焼成収縮が発生する。本実施形態の生トチ1は、ハニカム成形体100と同一素材で形成されたものであるため、ハニカム成形体100の焼成収縮とほぼ同じタイミングで、かつ、ほぼ同じ比率で、セル15の長手方向(
図2における紙面上下方向に相当)及びセル15の長手方向に直交する断面方向(
図2における紙面左右方向に相当)に沿って等方的に焼成収縮する。その結果、生トチ1及びハニカム成形体100の間に焼成収縮による拘束が発生する可能性が低くなる。これにより、ハニカム成形体100の成形体底面104において、セル隔壁14の変形や切れによる不良や、真円度不良等を生じることがない。その結果、焼成工程における不良等の問題を解消し、製品形状等の品質の整ったハニカム構造体を安定的に製造することができる。
【0035】
特に、本実施形態の生トチ1は、面取部10を備えることにより、ハニカム成形体100の成形体底面104と接する平坦部12aの面積Bが小さくなっている。更に、ハニカム成形体100の成形体底面104の外周近傍部分は、生トチ1と直に接することがなく、棚板面106から浮いた状態となっている。その結果、ハニカム成形体100は、生トチ1との接触等の外部からの影響をほとんど受けることなく、等方的に焼成収縮することができる。したがって、焼成工程において焼成収縮に影響を及ぼす生トチ1との接触が可能な限り排除された生トチ1とすることができる。
【0036】
生トチ1は、更に一方の端面12の平坦部12a及び
他の端面16の平坦部16aの各面における平面度が0.3mm以下に設定されている。したがって、ハニカム成形体100の成形体底面104が生トチ1と接していても、平面度が0.3mm以下の滑らかな平面で形成された平坦部12aによって、成形体底面104及び平坦部12aの間の抵抗を可能な限り小さくすることができる。したがって、焼成収縮の際の成形体底面104の一部が平坦部12aに引っ掛かる等の不具合を解消し、焼成収縮を阻害(拘束)することがない。
【0037】
他の端面16の平坦部16aの平面度を一方の端面12の平坦部12aと同様に0.3mm以下とすることにより、棚板105の棚板面106と平坦部16aとの間の抵抗を小さくすることができる。ここで、前述したように、棚板105は、焼成工程において焼成収縮することがない。一方、生トチ1はハニカム成形体100と同様に焼成収縮する。そのため、焼成工程において、生トチ1及び棚板105の間で収縮差が生じる。このとき、平坦部16aの平面度が0.3mmよりも大きい場合、すなわち、平坦部16aの凹凸が大きい場合、生トチ1が焼成収縮する際に、平坦部16a及び棚板105の間に局所的な引っ掛かりが生じ、自由収縮が拘束される可能性が高くなる。これにより、生トチ1が等方的に焼成収縮することが妨げられ、生トチ1が変形することがある。その結果、焼成対象のハニカム成形体100と生トチ1の焼成収縮に差異を生じる可能性がある。そこで、該平坦部16aの平面度を0.3mm以下とすることにより、上記不具合を未然に防止することができる。
【0038】
なお、上記で言う一方の端面12の平坦部12aの平面度とは、生トチ1を
他の端面16の平坦部16aを下面として平板上に置き、平板に対して垂直方向に平板に対する平坦部12aの高さを測定した、最大値と最小値の差を言う。他の端面16の平坦部16aの平面度とは、生トチ1を一方の端面12の平坦部12aを下面として平板上に置き、平板に対して垂直方向に平板に対する平坦部16aの高さを測定した、最大値と最小値の差を言う。他の端面16には平坦部16aの高さの最大値よりも大きい高さを有する点はないものとし、生トチ1の製作時に平坦部16aの最大値高さを上回る部位(バリ等)が生じた場合は加工除去する。
【0039】
本発明の別例構成として、
図8に示す構成を有する生トチ1’を例示することができる。ここで、説明を簡略化するため、
図8において、本実施形態の生トチ1’と同一構成のものについては同一符号を付し、詳細な説明は省略するものとする。
【0040】
別例構成の生トチ1’は、
図8に示すように、他の端面16の外周側面11近傍を斜め方向に面取りした面取部20を更に有している。面取部20の形成は、前述した面取部10と同様の手法を用いることができる。上記構成の生トチ1’をハニカム成形体100の焼成に使用することにより、棚板105と接する生トチ1’の他の端面16の平坦部16aの面積を小さくすることができる。その結果、棚板105及び生トチ1’の間に生じる抵抗を低減することができる。ここで、平坦部16aと面取部20の斜壁面21との間のなす角度θ’は、前述した平坦部12a及び面取部10の斜壁面13との間のなす角度θと同様に、3〜50°の範囲で設定することができる。前述したように、焼成工程において、ハニカム成形体100は生トチ1’に載置された状態で焼成される。したがって、ハニカム成形体100は別例構成の生トチ1’によって焼成時における揺動が生じやすくなり、係る揺動による焼成収縮の拘束を緩和する効果が高くなる。
【0041】
更に、本発明の生トチ1,1’の上にハニカム成形体100を載置する場合、
図9及び
図10に示すように、生トチ1,1’のセル隔壁14の格子方向Xに対し、ハニカム成形体100の成形体セル隔壁101の格子方向Yを一致しないようにすることができる。ここで、セル隔壁14の格子方向Xに対する成形体セル隔壁101の格子方向Yは、45±15°の範囲で偏位するようにずらして載置することが好ましい。セル隔壁14及び成形体セル隔壁101の格子方向が一致する場合、生トチ1,1’に対しハニカム成形体100が焼成収縮して引っ掛かる箇所が増える。そこで、上記のように、格子方向X,Yを互いに一致することがないように、偏位させることにより、焼成収縮の拘束が生じる可能性を低く抑えることができる。
【0042】
生トチ1,1’において一方の端面12と他の端面16を入れ替えても同様の効果が期待できる。すなわち、一方の端面12の平坦部12aを棚板面106と当接させ、他の端面16の平坦部16aをハニカム成形体100の成形体底面104と当接させても、上記に述べた一方の端面12の平坦部12aをハニカム成形体100の成形体底面104と当接させ、他の端面16の平坦部を棚板面106と当接した場合と同様な効果を期待することができる。
【0043】
以下、本発明の生トチ、及び生トチを使用した焼成方法について、下記の実施例に基づいて説明するが、本発明の生トチ及び焼成方法は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
(1)生トチの作製
成形体底面積に対する生トチの上面の平坦部の面積比率R%、成形体底面及び面取部の斜壁面の間のなす角度θが、それぞれ上記範囲に合致する複数の生トチを作製した(実施例1)。更に、上記パラメータのうち少なくとも一つが上記条件から逸脱する生トチ(比較例1〜7)、従来から使用されているプレストチ(比較例8)、及び
参考例1〜9を、比較対象のために併せて作製した。なお、生トチの作製は、前述のように、ハニカム成形体と同一の成形材料を用い、これを押出成形機から水平方向に押出し、所定の長さにカットした後、上側面取部を所定角度に削り取ることによって形成した。生トチの寸法は直径140mm、厚さ20mmとした。プレストチは直径115mm、厚さ8mmとした。なお、上記パラメータ以外の条件については、各実施例及び比較例において同一の条件とした。また、比較例1〜7、及び
参考例1〜9において、下側近傍に下側面取部は設けていない。実施例
1は下面と上面とに同じテーパー形状を設けた。また、生トチの上面の平坦部及び下面の平坦部の平面度は比較例7を除いて0.2mmに設定され、比較例7の平面度は0.4mmに設定されている。セル隔壁の隔壁厚さは0.064mm(2.5mil)に、セル密度は93セル/cm2(600cpsi)に設定されている。
【0045】
(2)ハニカム成形体の載置
上記(1)によって作製された生トチの上に、ハニカム成形体を載置する際の成形体セル隔壁の格子方向を、生トチのセル隔壁の格子方向と一致(表1における“0°”)させた場合(実施例1
、参考例1〜8)、及び、互いの格子方向を45°偏位(表1における“45°”)させた場合(
参考例9)の違いについて評価した。ハニカム成形体の直径は140mm、高さは120mm、隔壁厚さは0.064mm(2.5mil)、セル密度は93セル/cm2(600cpsi)に設定されている。焼成後のハニカム構造体の寸法は直径132mm、高さ114mmである。なお、上記生トチおよびハニカム成形体の隔壁厚さおよびセル密度は焼成後の値である。
【0046】
(3)焼成工程
作製した生トチをセラミックス質の棚板の棚板面に載置し、更に生トチの上面平坦部にハニカム成形体の成形体底面が当接するように、ハニカム成形体を載置した。ここで、ハニカム成形体の成形体底面の中心位置と生トチの上面平坦部の中心位置が略一致するように載置した。上記状態のハニカム成形体を棚板及び生トチととも焼成炉に投入した。なお、焼成時間及び焼成温度等の焼成条件については各実施例1〜10及び比較例1〜8において同一の条件とした。係る焼成工程によって得られたハニカム構造体、及び、焼成済トチについて下記の項目について評価した。
【0047】
(4)評価項目(セル隔壁変形)
焼成後のハニカム構造体の底面(端面)の形状を目視によって確認し、焼成収縮の際によってハニカム構造体のセル隔壁変形の有無を目視で判定した。なお、セル隔壁変形の判定基準は、隔壁の変位量が認められない場合は良好な状態として“A”とし、変形量が僅かなものは許容可能として “B”とし、大きな変形が認められ許容範囲外であるものを“C”として三段階の評価を行った。係る評価項目により、本発明の生トチとセル隔壁変形との相関関係を把握することができる。
【0048】
(5)評価項目(ハニカム構造体底面の真円度)
ハニカム構造体底面における真円度を評価した。真円度とは、円形形体の幾何学的円からの差(狂い)の大きさを表すものであり、最大の直径と最小の直径の差で示している。ここでは、ノギスでハニカム構造体底面における最大径と最小径の測定を行い、真円度の値を算出している。真円度の評価基準は、真円度の値が0.58以下のものを“A”、0.59〜0.60の範囲のものを“B”、0.61以上のものを“C”として三段階評価を行った。これにより、ハニカム成形体の一部が焼成収縮の際に拘束され、等方的な収縮が行われなかったかの有無を確認することができる。
【0049】
(6)評価項目(真円度の焼成前後の変化量)
焼成前のハニカム成形体底面と、焼成後のハニカム構造体底面とのそれぞれの真円度を算出し、焼成前後におけるハニカム構造体底面真円度の差を評価した。なお、真円度の差の値が、0.04以下のものを“A”、0.05〜0.06のものを“B”、0.07以上のものを“C”として三段階の評価を行った。これにより、焼成の前後における真円度の差に基づいて、ハニカム成形体の一部が焼成収縮の際に拘束され、等方的な収縮が行われなかったかの有無の確認することができる。
【0050】
(7)評価項目(セル隔壁の切れ、底面の凹み)
焼成後のハニカム構造体の底面を目視によって確認し、焼成工程においてセル隔壁の“切れ”や“凹み”等の不良の有無を判定した。なお、これらの判定基準は、切れや凹みが認められないものを“A”、僅かな切れや凹みがあるものの許容範囲内であるものを“B”、大きなまたは多くの切れや深い凹みが認められ許容範囲外であるものを“C”として三段階の評価を行った。これにより、実際に焼成工程を経て得られるハニカム構造体の品質・形状と本発明の生トチとの相関関係を把握することができる。
【0051】
実施例
1、比較例1〜
8、及び参考例1〜9の生トチ及びプレストチを用いてハニカム成形体を焼成し、焼成後の焼成済トチ及びハニカム構造体に対する評価項目をまとめたものを下記表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
(考察:実施例1、
参考例1〜9)
表1に示されるように、面積比率R、及び、角度θの各パラメータがいずれも本発明の生トチにおいて規定した範囲内の場合、セル隔壁の変形、ハニカム構造体底面の真円度、焼成前後のハニカム構造体底面の真円度の差、セル隔壁の切れ、及び、凹みのいずれの評価項目においても良好な評価を得た(実施例
1)。これにより、本発明の生トチに載置されたハニカム成形体が、焼成工程において等方的な焼成収縮を行うことができ、ハニカム成形体の成形体底面と生トチとの間、及び、生トチと棚板との間において焼成収縮による拘束を生じることがないことが確認された。特に、接触面積の比率を15〜70%、角度θを3〜45°の範囲とすることにより、いずれの評価項目において高い評価を得ることができた(実施例
1)。
【0054】
一方、面積比率Rが規定範囲の上限値(=85%)となるように設定した生トチを用いてハニカム成形体を焼成した場合(
参考例4,5)、ハニカム構造体底面の真円度及び焼成前後のハニカム構造体底面の真円度の差において僅かに低い評価となった。面積比率Rが大きくなることにより、ハニカム成形体の成形体底面が焼成収縮する際に拘束されやすくなり、上記ハニカム構造体底面の真円度の値に影響を与えたものと推察される。更に、角度θが規定範囲の上限値(=50°)の場合(
参考例6)及び規定範囲の下限値(=3°)の場合(
参考例7)、いずれもハニカム構造体底面の真円度及び焼成前後のハニカム構造体底面の真円度の差において僅かに低い評価となった。焼成工程における移動の際の揺動が大きくなり過ぎ、あるいは、揺動がほとんど得られなかったことにより、このような結果が得られたものと考えられる。更に、面積比率Rが規定範囲の下限値(=10%)の場合、ハニカム構造体底面の真円度及び焼成前後のハニカム構造体底面の真円度の差とともに、底面に凹みが確認された。面積比率Rが小さくなることにより、ハニカム成形体を小さな平坦部で支持する必要があり、支持部分にハニカム成形体の荷重が集中するものと考えられ、凹みが発生したと思われる。なお、
参考例4〜
参考例8は、僅かに評価が下がるものの、いずれも許容範囲内である。
【0055】
一方、生トチのセル隔壁の格子方向に対し、ハニカム成形体の成形体セル隔壁の格子方向を45°偏位させたものは(
参考例9)、面積比率Rが上限値(=85%)であるにも関わらず、いずれの評価項目においても良好な結果が得られた。すなわち、格子方向を変化させることにより、ハニカム成形体と生トチとの間の引っ掛かりが少なくなり、焼成収縮における拘束が生じにくくなる。したがって、格子方向を偏位させてハニカム成形体を載置することの有効性が示された。
【0056】
実施例
1は棚板に対向する生トチの面にもテーパーを設けたものであり、テーパー形状は生トチ両面で
参考例3のテーパー面と同様である。
参考例3と比較してハニカム構造体底面の真円度が良化しており、棚板面及び生トチの間の干渉を軽減した効果が見られる。
【0057】
(考察:比較例1〜8)
一方、面積比率Rが100%の生トチ(比較例1)の場合、換言すれば、本発明の生トチにおいて面取部の構成を有さない、従来の生トチの場合、凹み以外の評価項目において“C”または“B”の評価が示された。更に、面積比率Rが85%、かつ、面取部を有さない断面階段状の生トチ(比較例2)の場合、セル隔壁の切れ及び凹み以外の評価項目において“C”または“B”の評価が示された。
【0058】
また、面積比率Rが規定範囲の上限値(=85%)であり、かつ角度θも規定範囲の上限値(=50
°)または上限値の近傍(=45
°)である場合(比較例3,4)及び面積比率Rが規定範囲の下限値(=10%)の場合(比較例5)には、ハニカム構造体底面の真円度及び焼成前後のハニカム構造体底面の真円度の差において“C”の評価が示された。特に、比較例5においては、支持面積が小さいため、凹みの評価が僅かに低下した。更に、面積比率Rが規定範囲の下限値を下回る場合(比較例6)、特に凹みが大きくなることが示された。一方、従来のプレストチの場合(比較例8)、特にセル隔壁の変形が顕著に確認された。
【0059】
比較例7は平坦部の平面度を0.4mmとしたもので、その他の生トチ形状は実施例4と同じである。実施例4と比較して、ハニカム構造体底面の真円度および焼成前後の真円度変化が悪化している。平面度が0.3mmを超えると、ハニカム成形体底面が生トチの平坦部から受ける拘束が増すことが確認された。
【0060】
上記実施例1、比較例1〜
8、及び参考例1〜9において示されたように、面積比率Rが10〜85%、更に好ましくは10〜70%であり、特に好ましくは15〜50%であり、角度θが3〜50°であり、更に好ましくは3〜45°であり、特に好ましくは3〜15°のパラメータを満たす条件で作製され
、かつ、上面及び下面の両面に面取部を有する生トチを用いてハニカム成形体を焼成することにより、セル隔壁の変形がなく真円度の高く、セル隔壁の切れや端面の凹みのないハニカム構造体を製造することができる。