【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る補修溶接方法は、
母材に形成された凹部の底面にプラグの底面が当接し、且つ、前記凹部の側壁と前記プラグの外周壁との間に隙間が形成されるように、前記凹部に前記プラグを嵌め込むプラグ設置ステップと、
前記凹部に嵌め込まれた前記プラグと前記母材とをレーザ溶接により接合する溶接ステップと、を備える補修溶接方法であって、
前記プラグが前記凹部に嵌め込まれた状態において、前記プラグの外周縁が前記凹部の外側に位置することを特徴とする。
【0008】
上記(1)の方法によれば、母材に形成された凹部にプラグが嵌め込まれた状態において、プラグの外周縁が凹部の外側に位置するので、プラグと凹部との隙間がプラグの外周縁で覆われた状態となる。そのため、プラグと母材とをレーザ溶接により接合する際に、凹部とプラグとの隙間をビームが通り抜けてしまうことに起因した溶接ビードの途切れの発生を防止できる。こうして、凹部とプラグとの間の隙間の影響を受けず、健全な補修溶接を行うことが可能となる。
なお、上記(1)の方法において、母材の凹部底面にプラグの底面が当接するようにしているのは、補修溶接後に、プラグに対して圧力が加わったときに、プラグから母材に荷重を適切に伝えるためである。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の方法において、
前記凹部の前記側壁は、前記凹部の深さとともに前記凹部の中央に近づくように前記母材の表面の法線に対して傾斜しており、
前記プラグの前記外周壁は、前記プラグが前記凹部に嵌め込まれた状態において前記凹部の前記側壁に沿って前記法線に対して傾斜しており、
前記プラグの厚さは、前記凹部の深さよりも大きい。
上記(2)の方法においては、凹部の側壁が上記したような傾斜を有しており、且つプラグの外周壁も凹部の側壁に沿って傾斜しているため、凹部の深さよりもプラグが厚く形成されることにより、プラグの外周縁が凹部の外側に突出し、凹部とプラグとの隙間がプラグの外周縁によって覆われる。この方法によれば、プラグにフランジ等を設けなくても、プラグの外周縁が凹部の外側に位置する状態をプラグの厚さ管理によって実現できる。
【0010】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の方法において、
前記プラグは、前記プラグが前記凹部に嵌め込まれたときに前記凹部の周囲の前記母材を覆うフランジを含み、
前記プラグが前記凹部に嵌め込まれた状態で、前記フランジの前記母材に対向する面と、前記母材との間には隙間が形成される。
上記(3)の方法においては、凹部の周囲の母材を覆うフランジをプラグに設けたので、プラグの外周縁(フランジ)が凹部の外側に突出し、凹部とプラグとの隙間がプラグの外周縁(フランジ)によって覆われる。この方法によれば、プラグの外周縁が凹部の外側に位置する状態をプラグのフランジの突出量管理によって実現できる。
【0011】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかの方法において、
前記溶接ステップでは、前記母材の表面の法線方向に沿った断面内における前記隙間の延在方向に対してレーザ照射方向を傾斜させて前記レーザ溶接の少なくとも一部を行う。
上記(4)の方法によれば、凹部とプラグとの隙間の延在方向に対してレーザ照射方向が傾斜しているので、凹部とプラグとの境界部分へのレーザ照射時において、ビームが凹部とプラグとの隙間を通り抜けることなく、プラグの外周縁又は凹部の側壁にビームを照射することができる。よって、健全な補修溶接を容易に実施することができる。
【0012】
(5)一実施形態では、上記(4)の方法において、
前記凹部の前記側壁は、前記凹部の深さとともに前記凹部の中央に近づくように前記母材の表面の法線に対して傾斜しており、
前記プラグの前記外周壁は、前記プラグが前記凹部に嵌め込まれた状態において前記凹部の前記側壁に沿って前記法線に対して傾斜しており、
前記溶接ステップでは、前記凹部の前記側壁および前記プラグの前記外周壁の前記法線に対する傾斜方向とは反対側に前記レーザ照射方向を前記法線に対して傾斜させて前記レーザ溶接の少なくとも一部を行う。
上記(5)の方法によれば、凹部とプラグとの境界部分へのレーザ照射時において、母材表面の法線に対して僅かにレーザ照射方向を傾斜させるだけで、前記隙間の延在方向に対してレーザ照射方向がなす適切な角度を確保できる。これにより、ビームが凹部とプラグとの隙間を通り抜けることなく、健全な補修溶接を容易に実施することができる。
【0013】
(6)一実施形態では、上記(5)の方法において、
前記溶接ステップでは、
レーザ進行方向にレーザヘッドを繰り返し移動させて前記レーザ進行方向に沿った複数本の溶接ビードを形成するとともに、
前記レーザ進行方向に直交する方向における前記レーザ照射方向の前記法線に対する傾斜角を、前記凹部の中心を通り、且つ、前記レーザ進行方向に平行な中央線を挟んで両側に位置する前記凹部の第1領域と第2領域との間で異ならせる。
凹部とプラグとの隙間の延在方向は一定ではなく、凹部の周方向における位置に応じて変化する。このため、凹部の中心を通り、レーザ進行方向に平行な中央線を挟んで両側に位置する凹部の第1領域と第2領域とでは、凹部とプラグとの隙間の延在方向は逆向きとなる。
この点、上記(6)の方法によれば、凹部の第1領域と第2領域との間で、母材表面の法線に対するレーザ照射方向の傾斜角に差を持たせたので、前記隙間の延在方向が逆向きである第1領域と第2領域とについて、それぞれ、前記隙間の延在方向に対してレーザ照射方向がなす適切な角度を確保できる。これにより、ビームが凹部とプラグとの隙間を通り抜けることなく、健全な補修溶接を容易に実施することができる。
【0014】
(7)一実施形態では、上記(6)の方法において、
前記凹部は、上面視において、前記凹部の前記中心を通る第1軸と、前記中心を通り且つ前記第1軸に直交して前記第1軸よりも長い第2軸を有し、
前記溶接ステップでは、前記第2軸に平行な前記レーザ進行方向に沿って前記溶接ビードを形成する。
上記(7)の方法によれば、凹部とプラグとの境界部分の溶接時の大部分において、前記隙間の延在方向に対するレーザ照射方向の大きな傾斜角を得ることができる。よって、ビームが凹部とプラグとの隙間を通り抜けることに起因した溶接ビードの途切れをより一層効果的に防止でき、健全な補修溶接を容易に実施することができる。
【0015】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れかの方法において、
前記溶接ステップでは、
前記プラグの前記外周縁のうち複数箇所を前記母材に対して溶接する仮付け溶接を行った後、
前記プラグの全周に亘って、前記母材に対して封止溶接を行う。
上記(8)の方法によれば、溶接ワイヤを用いずに仮付け溶接する場合であっても、上述したように凹部とプラグとの隙間をビームが通り抜けてしまうことを回避できることから、仮付け溶接によるプラグの安定した固定が可能となる。
【0016】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れかの方法において、
欠陥を含む前記母材の一部分を除去して前記凹部を形成する凹部形成ステップと、をさらに備える。
【0017】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(9)の何れかの方法において、
前記母材は、母材本体と、前記母材本体を覆うクラッド層と、を含み、
前記母材本体は低合金鋼により構成され、
前記クラッド層はオーステナイト系ステンレス鋼によって構成される。
上記(10)の方法によれば、低合金鋼により構成される母材本体がオーステナイト系ステンレス鋼により構成されるクラッド層によって覆われているため、母材の耐食性を向上できる。
【0018】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(10)の何れかの方法において、
前記母材が、原子炉容器の壁材である。
一般的に、原子炉容器の壁材は低合金鋼から構成されることが多く、低合金鋼からなる母材が中性子の照射を受けると、母材中にヘリウムが発生する可能性がある。ヘリウムを含む母材に溶接を行うと、ヘリウムが溶接熱影響部の結晶粒界に集積して溶接割れが発生することがある。この溶接割れを抑制するためには、溶接入熱量を低減することが求められる。溶接入熱量を抑えたレーザ溶接はビードが小さいため凹部とプラグとの隙間の影響を受けやすいが、上述の実施形態を適用することにより凹部とプラグとの隙間に関わらず健全な補修溶接が可能であるため、原子炉容器の壁材に対して溶接入熱量を抑えたレーザ溶接を用いた補修溶接を適切に実施することができる。
【0019】
(12)本発明の少なくとも一実施形態に係る補修溶接用プラグは、
母材の補修溶接用のプラグであって、
前記母材に形成された凹部に嵌め込まれたときに、
前記凹部の底面に前記プラグの底面が当接し、
前記凹部の側壁と前記プラグの外周壁との間に隙間が形成され、
前記プラグの外周縁が前記凹部の外側に位置する
ことを特徴とする。
上記(12)の補修溶接用プラグは、母材に形成された凹部に嵌め込まれたときに、プラグの外周縁が凹部の外側に位置するので、プラグと凹部との隙間がプラグの外周縁で覆われた状態となる。そのため、プラグと母材とをレーザ溶接により接合する際に、凹部とプラグとの隙間をビームが通り抜けてしまうことに起因した溶接ビードの途切れの発生を防止できる。こうして、凹部とプラグとの間の隙間の影響を受けず、健全な補修溶接を行うことが可能となる。
【0020】
(13)幾つかの実施形態では、上記(12)の構成において、
前記凹部の前記側壁は、前記凹部の深さとともに前記凹部の中央に近づくように前記母材の表面の法線に対して傾斜しており、
前記プラグの前記外周壁は、前記プラグが前記凹部に嵌め込まれた状態において前記凹部の前記側壁に沿って前記法線に対して傾斜しており、
前記プラグの厚さは、前記凹部の深さよりも大きい。
上記(13)の構成においては、凹部の側壁が上記したような傾斜を有しており、且つプラグの外周壁も凹部の側壁に沿って傾斜しているため、凹部の深さよりもプラグが厚く形成されることにより、プラグの外周縁が凹部の外側に突出し、凹部とプラグとの隙間がプラグの外周縁によって覆われる。この構成によれば、プラグにフランジ等を設けなくても、プラグの外周縁が凹部の外側に位置する状態をプラグの厚さ管理によって実現できる。
【0021】
(14)本発明の少なくとも一実施形態に係る原子炉容器は、
燃料集合体を収容する原子炉容器であって、
前記原子炉容器の壁材は、
凹部が形成された母材と、
前記母材の前記凹部に嵌め込まれた状態で前記母材に対して接合された上記(12)又は(13)の補修溶接用プラグと、
を含むことを特徴とする。
上記(14)の原子炉容器によれば、原子炉容器の壁材の補修時に、上述の理由により健全な補修溶接が可能である。
【0022】
【0023】